福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2025年3月号 月報

『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

月報記事

子どもの権利委員会 委員長 池田 耕一郎(50期)

1 2025年(令和7年)1月24日(金)16時より、福岡県弁護士会館において、NPO法人「SOS子どもの村JAPAN」の横野陽子さんを講師にお迎えして『ヤングケアラー研修会』を開催しましたので、報告します。

近時、「ヤングケアラー」という言葉を見聞し関心を抱いているものの、弁護士としてどのように向き合うべきなのか、どのような関わりができるのかについて明確な方向性を見いだしがたいと思われている会員も多いのではないかと思います。

子どもの権利委員会では、ヤングケアラー支援の分野で弁護士ないし弁護士会が果たせる役割を見いだす第一歩として、ヤングケアラーの実態、支援の現状、関係機関の連携状況などを知ることから始めるため今回の研修会を企画しました。研修会には、会場、Webをあわせ、多数の会員に参加していただき、関心の高さをあらためて感じました。

2 国は、2022年度(令和4年度)から、「ヤングケアラー支援体制強化事業」に基づく地方自治体における実態調査や関係機関研修、支援体制構築等の取組みを開始しましたが、ヤングケアラー支援に関する法律上の位置づけが明確ではありませんでした。そこで、「子ども・若者育成支援推進法」の改正により、ヤングケアラーについて「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」という定義が置かれ(同法第2条7号)、国・地方自治体等が各種支援に努めるべき対象として明確化されました。

横野さんは、精神科でソーシャルワーカーとして勤務している中で、精神疾患、依存症アルコール性認知症の方のご自宅を訪問した折りに、義務教育過程にいるお子さんが、家族の療養のため、日中にもかかわらず自宅で過ごしている様子や転居を余儀なくされるなどといった現場を幾度となく見てきて、医療制度でも介護制度でもなかなか解決できないテーマに歯がゆい思いをしてこられたそうです。そのような経験を実践に活かすために、ヤングケアラーの支援を担う現在の職場に転職したとのことでした。

3 横野さんが所属する「SOS子どもの村JAPAN」は、福岡市の委託でヤングケアラー相談窓口を開設しています。その活動目標は、継続した相談支援体制を構築することによって、関係機関や支援団体等とのパイプ役となること、ヤングケアラーとその家族を社会資源につなぐこと、ヤングケアラーの社会的認知を向上させることにあります。その観点から、相談業務(電話相談・面談・訪問支援・ヤングケアラー支援ヘルパー派遣)、啓発活動(関係機関研修・地域の勉強会・広報物発行)、子どもの居場所活動(オンラインサロン・イベント・居場所支援)を展開しています。

福岡市ヤングケアラー相談窓口では、ヤングケアラー・コーディネーターとして、電話・面談などで対象者の状況を把握し、本人への情報提供、支援機関との連携などを行います。

福岡市ヤングケアラー相談窓口の2021年(令和3年)11月から2024年(令和6年)12月末までの統計によれば、相談者は、ヤングケアラー本人が10.4%であるのに対し、スクールソーシャルワーカーや養護教諭などの学校関係者が33%、病院や介護事業所などの関係機関が34%、その他、近隣住民や地域包括支援センターなどが14%となっています(ヤングケアラーの家族からの相談も9.6%あります。)。

福岡県弁護士会 『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

講師の横野陽子さん

4 ヤングケアラー支援ヘルパー派遣制度は、利用は無料で、基本的に6か月、最長で1年となっています。まずはヤングケアラーの負担を軽減して、その間に生活環境をいかに改善するかが重要になります。制度の情報が行き渡っていない実情があること、ヤングケアラーないしその親族において公のサービスを受けるのに拒否感があるなどといった課題があるほか、大きな問題として、ヘルパーを派遣する事業所の人員不足の現実があり、解決されるべき課題の一つとなっています。このような課題はあるものの、まずは、制度の周知と利用拡大が目指されるべきところです。

ヤングケアラーにとっては、社会に家族を助けてくれる人がいるとわかれば、それで社会への信頼感が生まれ、安心感につながるといえます。

5 ヤングケアラーの支援を進めていくうえで、一部の支援者のみが活動するのではなく、周囲の大人が理解を深め、家庭において子どもが担っている家事や家族のケアの負担に気づいてあげることが重要です。そのために、民生委員児童委員、医療や介護の現場のスタッフ、学校関係者等々、ヤングケアラーの存在にいち早く気づくことができる立場にある人たちへの研修があります。そのほか、広く市民に周知するために、各地域の公民館などの小規模なコミュニティの中で研修会や講座を開くなど地道な活動をされています。

社会の耳目を集めることにも目配りする必要がありそのための大きなイベントとして、2024年(令和6年)11月10日、福岡市中央区天神のレソラホールで「福岡市ヤングケアラー市民フォーラム」が開催されました。私たち子どもの権利委員会のメンバーも参加しましたが、会場を埋め尽くす聴衆を目の当たりにして社会の関心が高まっていることを再認識しました。

6 以上のようなヘルパー派遣などの直接的支援や周知活動だけでなく、子ども自身が子どもらしく過ごせる時間を提供することもヤングケアラー支援の重要な活動の一つです。

現在、「こども食堂」など、子どもの居場所づくりの輪が広がっています。それは、ヤングケアラーの家事負担を減らすだけでなく、出会いの機会を豊かにする意義があります。

しかし、ヤングケアラーは、日常的に家族の世話をしているので、なかなかそのような場所に出向いていくことが難しいという面があります。また、ヤングケアラー自身が積極的にそのような場所に足を向けないという実態もあります。福岡市ヤングケアラー相談窓口では、オンラインサロンを開催するほかに、徐々にリアルでの集まりが可能になってきた状況をふまえて、クリスマス会を開いて子どもだけで参加できる企画を立てたり、公民館で子どものたちとその友達のための行事をしたりするなど工夫しているそうです。積極的に顔を出してくれないときには、「クリスマスの飾り付けをしたいけど手伝ってくれる人がいないから、来てくれないかな」「お弁当やお菓子があるから来ない?」など、個々の子どもが置かれた状況やその子の感性に合うような誘いかけをしているとのことです。

2024年(令和6年)10月にある校区の自治協議会主催のイベントブースでくじ引きやアンケート「ヤングケアラーについて知ってる?」を行ったところ、約400名の子どもや大人がアンケートやくじに参加したそうです。

7 ヤングケアラーについては、その背景に虐待があるのではないかという視点で見てしまうかもしれません。実際に虐待と疑われる案件もあり、本来は専門機関の対応が求められますが、即時に対応されないこともあるため、ヤングケアラー支援として虐待問題への対応を行っているような場合もあるとのことでした。

もっとも、ヤングケアラーの問題を直ちに虐待と結びつけて一概に子どもを「被害者」として位置づけるべきではなく、慎重にみていく必要があります。どんな境遇でも、親が好きで、自分自身が虐待を受けていると認めたくない気持ちを持つ子どもは多く、そのような子どもの自尊感情を損なわないよう配慮することも必要と思われます。子どもが成長に伴い少しずつ力をつけてくると、あるとき親と子の力関係が逆転する時期が訪れる、そうなる前に、子どもが、信頼でき安心できる大人を見つけること、相談する術(すべ)を知ること、子どもに、誰かが力になってくれると学習してもらうこと、それによって社会への信頼感が醸成されることが大事である、との指摘もありました。

8 ヤングケアラーの子どもたちは、家族のケアに自分自身の存在意義を見いだしていることや、自分の家庭しか知らずに育つことが多く自分を客観的に見ることが難しいこと、大人に助けられた経験が少ないため人に頼ろう相談しようという思いに至らないことなどの事情から、SOSを発信するのが難しい状況にあります。

まずは、ヤングケアラーとその家族を孤立させないことが大切であり、子どもが子どもらしく、暮らし、育ち、学べる環境づくりを促進することが目指されるべきです。そのためにできることとしては、ヤングケアラーについて知ること、社会全体の問題と認識すること、子どもが信頼できる大人がそばにいて話を聞いてあげる機会を増やすことが重要です。横野さんは、支援すべき子どもに気づいたときは、子どもに声をかけてほしい、子どもたちが信用できる大人となってあげてほしいと訴えておられました。

私たち弁護士は、日常の弁護士業務の中で、子ども本人の事案でなくても、ヤングケアラーの存在を認識し得る立場にあると思います。そのような場面になったときにどのような支援が考えられるか、どのような関係機関につなぐべきか(つなぐことができるのか)といった基本的な情報を備えておくことに意味があると思います。当面、支援が必要と思われる子どもがいれば、相談窓口(今回ご講演いただいた横野さんの所属する「SOS子どもの村JAPAN」など)と連携することが考えられます。

また、将来的には、関係機関につなぐだけでなく、たとえば、ヤングケアラーとして支援すべき子どもの親が法律問題を抱えている場合などに弁護士がその解決に向けて積極的に関わることも検討されるべきかもしれません。関係機関から弁護士がそのような支援者の立場に立ち得ることを認識理解していただけることを目指して、今後、ヤングケアラーの支援の現場、各機関・団体の支援活動の状況を知る活動を続け、弁護士ないし弁護士会としてのあるべき実践活動を探求していきたいと思います。

福岡県弁護士会 『ヤングケアラー研修会』(1月24日)開催報告

会場の模様

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あさかぜ基金だより

月報記事

あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 石井 智裕(72期)

事務所の移転から1年がたちました

令和6年2月5日に事務所が移転してから、1年たちました。執務室・会議室ともに以前よりも狭くなりましたが、支障はありません。

以前は南天神でしたので、赤坂に事務所のある弁護士と共同受任したときは、移動するのが大変でしたが、今は移動するのが楽になりました。

パソコンが新しくなりました

令和元年にリースをしたパソコンのリース期間が満了したため、令和6年12月にパソコンが新しくなりました。

いままでのパソコンはハードディスクを使用していたため、起動するのに時間がかかり、Windows Updateがある日にはフリーズが起こっていて、非常に使いにくかったです。今回新しくリースしたパソコンはSSDにかわったので、起動するのが速く、Windows Updateがあってもフリーズせずに使えるようになりました。

また、本体の大きさもコンパクトになり、モニターの下にパソコンの本体を置くことができるようになり、机を広々と使えるようになりました。

パソコンが新しくなったことに伴い、Microsoft officeも新しくなりました。ExcelではXLOOKUP関数やIFS関数など、いままで使えなかった新しい関数が使えるようになり、わくわくしています。業務で使える場面はないか模索をしています。

本棚がいっぱいになりつつあります

約2年前から、あさかぜ基金法律事務所では、事務所で図書を購入できるようになりました。当時は、本棚に僅かしか書籍がありませんでしたが、今は本棚がいっぱいになりつつあります。版の古い書籍も新しい版になり、高くてなかなか手が出なかったコンメンタールなども買いそろえることができ、これまで以上に業務の質を向上させたいと考えています。

長崎でじっくり勉強

1月10日に、あさかぜ研修として、長崎の山下・川添総合法律事務所を訪問しました。

山下俊夫弁護士からは、九弁連における司法過疎対策の歴史的経緯をじっくり話していただきました。「私の田舎では山でイノシシは見たことがあるけど、生の弁護士を見るのは初めてです」と言われたという話から、法律相談センターを離島に設置し、公設事務所を各地に新設して、九州のゼロワン地域の解消につとめてきた経過を聴いて改めて勉強になりました。

今後の課題として、壱岐・対馬のような定着困難地域があること、一度定着した地域であっても再びゼロワン地域になってしまう心配があることも教えていただきました。

池内愛弁護士からは、事務所を開設するときの物件や内装、備品調達、事務員の採用について体験にもとづき具体的な話を聴くことができました。また、業務をするうえで、事務員との連携することが大切なこと、そしてその難しさについても、教えていただきました。

中田昌夫弁護士からは、あさかぜ研修の工夫についてお話をいただきました。弁護士から話を聴くだけではなく、オフィス用品メーカーを訪問して、オフィスの省コスト化のための工夫について、研修を実施したそうです。

依頼者に対してまめに連絡をすることを心がけているそうです。まめに連絡することは自分の身を守ることにもつながるとのことで大変参考になりました。

司法過疎地赴任に向けて

私は令和2年1月にあさかぜに入所し、司法過疎・偏在地域への赴任に向けて、あさかぜで養成を受けてきました。まだ赴任先は決まっていませんが、司法過疎地に赴任するにあたっては諸先輩の体験も生かしながら、日々の業務に精進していきたいと考えています。皆様どうぞあさかぜへの応援をよろしくお願いします。

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