法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 決議

再審法の改正を求める決議

カテゴリー:決議

 当会は、国に対し、えん罪被害者の迅速な救済のため、再審に関する諸規定(刑事訴訟法第4編)の改正を速やかに行うよう求めるとともに、改正にあたっては少なくとも以下の事項を盛り込むよう強く求める。
1 再審請求手続における手続規定の整備
2 再審請求手続における証拠開示の制度化
3 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止

2023年(令和5年)9月13日

福岡県弁護士会 

決議の理由
第1 はじめに
 えん罪、すなわち誤った有罪判決によって人を処罰することが、国家による最大の人権侵害の一つであることは論を俟たない。刑事裁判も人が行う営みの一つである以上、誤判の危険性は常にある。このような誤判によって有罪の確定判決を受けた者(えん罪被害者)を救済する最終、そして唯一の手段が再審制度なのである。
 それにもかかわらず、日本においては、再審請求審が長期にわたることが多いことに加え、そもそも、再審開始決定が出されること自体が極めて稀なこととなっている。
 その原因は複数考えられるが、大きな原因となっているのが、再審請求手続における手続規定の不備、証拠開示制度の未整備、そして、再審開始決定に対する検察官不服申立てが認められている点である。
第2 再審請求手続における手続規定について
 現行刑事訴訟法上、再審に関する規定(第4編再審)は僅かしか存在しない。
 特に、再審請求審に関しては、刑事訴訟法445条及び刑事訴訟規則286条しか存在しないため、証拠開示、三者協議の実施及び新規証拠の明白性を判断するための事実の取調べ等の具体的な審理のあり方については、裁判所の広範な裁量に委ねられており、手続のあらゆる面で統一的な運用がなされていない。
 そのことが、裁判所によって、手続自体そのものの進め方や、証拠開示に対する対応に甚だしい相違が生じるなど、いわゆる「再審格差」といわれる事態を招いている。
 再審請求手続における再審請求人の手続保障を図るとともに、裁判所の公正かつ適正な判断を担保するためには、後述する証拠開示の制度化に加え、進行協議期日(再審請求手続期日)開催の義務化、事実取調べ請求権の保障等をはじめとする、明確で充実した手続規定を早急に整備することが必要不可欠である。
第3 再審請求手続における証拠開示の制度化について
 通常審においては、2004年改正刑事訴訟法において公判前整理手続及び期日間整理手続に付された事件での類型証拠開示や主張関連証拠開示の制度が新設され、2016年改正刑事訴訟法において証拠の一覧表の交付制度が新設されるなどしており、決して十分とは言えないものの、証拠開示制度は着実に前進している状況がみられる。
 これに対し、現行の刑事訴訟法第4編の再審に関する規定には、証拠開示に関する規定は何ら設けられていない。そのため、再審請求手続において、弁護人の証拠開示請求に応じた証拠開示がなされるか否かは、裁判所の裁量に基づく個別の訴訟指揮及び検察官の対応に委ねられている。しかし、えん罪被害者が救済される唯一の制度である再審請求手続において、裁判所の証拠開示の判断、あるいは検察官の対応によって結論が変わるなどということは、絶対にあってはならないことである。
 この点、布川事件、袴田事件及び大崎事件等多くの再審請求審において、捜査機関の手元にある重要な証拠が開示され、それらが突破口となって再審の扉を開いたものも少なくない。
 また、証拠開示が実現した事件であっても、開示までに不当に長い年月を要したもの、捜査機関が長きにわたり証拠を隠蔽していたと疑われるものなど、迅速かつ適切に証拠開示が行われていたわけではない。
 当会においても、現在、再審請求手続が行われているいわゆる「マルヨ無線事件」において、裁判所からの証拠開示勧告に対し、検察官が「不存在」と回答した証拠が、後になって開示されるといったことがあり、全国的にも大きく報道された。また、いわゆる「飯塚事件」においては、裁判所が、検察官に対し、証拠品のリストを開示するよう勧告したにもかかわらず、検察官が勧告に応じないという事態が生じているとの報告もある。この両事件での問題は、再審請求手続における証拠開示制度の不備に起因する点で共通している。
 このように、適時適切な証拠開示がなされないことが再審請求手続の長期化の一因となっており、ひいては、えん罪被害者の迅速な救済を阻害しているのであるから、充実した証拠開示制度の創設は急務である。
 さらに、2016年改正刑事訴訟法においては法制化には至らなかったものの、附則9条3項では、政府は改正法公布後、必要に応じて速やかに再審請求手続における証拠の開示について検討するものと規定された。しかし、未だに再審請求手続における証拠開示の制度化は実現していないばかりか、新たな証拠が発見された例なども生じ、証拠開示の重要性、必要性が強く認識されたにもかかわらず、検討の緒にすらついていない。
第4 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止について
 これまで多くの再審事件において、検察官が、再審開始決定に対して不服申立てを行い、再審開始決定の確定まで長期間を要する事態がみられ、再審請求審が長期化し、えん罪救済が遅れる大きな原因となっている。
 そもそも、再審制度が利益再審のみしか認めていないことに鑑みれば、再審請求手続における検察官の役割は「公益の代表者」として裁判所が行う審理に協力する立場に過ぎず、一度、再審開始の判断が出されたにもかかわらず、検察官に再審開始決定に対する不服申立権を認める理由はないはずである。
 また、再審開始の判断が出された以上、有罪か無罪かの判断は再審公判において行われるべきであり、検察官が改めて有罪の主張を行うのであれば、再審公判においてその旨主張すれば足りる。すなわち、検察官の再審開始決定に対する不服申立てを禁止したとしても、何らの不都合は生じない。
 したがって、えん罪被害者の迅速な救済のためには、法改正によって、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが禁止されなければならない。
第5 結語
 以上のとおりであるから、当会は、えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、国に対し、①再審請求手続における手続規定の整備、②再審請求手続における証拠開示の制度化、③再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を中心とする再審法の改正を速やかに行うよう求める。

以上

精神保健国選代理人制度の速やかな導入と暫定措置を求める決議

カテゴリー:決議

決議の趣旨
 当会は、国に対し、精神保健福祉法の退院請求等手続に国選代理人制度ないし国費による無償の弁護士選任制度の速やかな導入を改めて求めるとともに、これらの制度が導入されるまでの間においても、暫定措置として、国、精神医療審査会及び精神科病院に対し、全国各地の弁護士会が実施している精神保健当番弁護士ないし精神保健出張相談等の制度を精神科病院の入院者に周知する運用を強く求める。
決議の理由
1 精神科病院入院者の不服申立手続である精神医療審査会に対する退院請求及び処遇改善請求手続(以下「退院請求等手続」という。)は、1984年(昭和59年)に発覚した宇都宮病院事件をはじめとする精神科病院における入院者への虐待等深刻な人権侵害状況に対し、国内外からの厳しい批判を受け、1987年(昭和62年)の精神衛生法から精神保健法への改正において導入されたものである。
2⑴ 国際人権B規約9条4項は「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所(Court)がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する。」と定める。わが国政府見解では、Courtとは専門的なトライビューナル(裁決機関)であってもよいとの国際的解釈の下、精神医療審査会は同規約上のCourtであるとされている。
したがって精神医療審査会にはCourtとしての実体を担保する手続保障の必要があるが、退院請求等手続が、精神科病院入院者の人身の自由や処遇に関する基本的人権の制約に対する不服申立手続であることにかんがみれば、退院請求等手続における弁護士人選任権の保障は最も重要な手続保障である。
⑵ 1991年(平成3年)12月に国連総会において決議された「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(以下「国連原則」という。)の原則18の1においても「患者は不服申立て又は訴えにおける代理を含む事項について、患者を代理する弁護人を選任し、指名する権利を有する。もし患者がこのようなサービスを得られない場合には、患者がそれを支弁する能力がない範囲において、無償で弁護人を利用することができる。」と定められている。
⑶ ところが現行の精神保健福祉法及び関連法制の下では、入院者の弁護士選任権の保障は前提としているものの(弁護士との面会は絶対に制限できない権利とされている)、弁護士選任権を明文で保障する規定はなく、ましてや、これを入院者に告知する制度的運用もない(強制的入院者に入院の際に交付すべき権利告知書の内容に含まれていない)。もちろん、国選代理人制度ないし国費による無償の弁護士選任制度もない。
  そのため、厚生労働省の衛生行政報告例によれば、退院請求等手続を利用する者は、精神科病院入院者全体のわずか1.5%程度に過ぎず、そのうちさらに代理人が申立てを行っているのは6%台という、極めて由々しき状況が続いている。
3 当会は、こうした現行制度のなか、国際人権規約及び国連原則の理念を体現すべく、全国にさきがけ、1993年(平成5年)に、精神科病院入院者等からの依頼により病院に赴き無料で法律相談を行い、退院請求等手続の代理人となる「精神保健当番弁護士制度」を当会自らの費用負担により発足させ、現在まで活発な活動を展開してきた(2023年(令和5年)4月1日現在の精神保健当番弁護士名簿の登録弁護士数は408名、コロナ禍の影響をさほど受けていなかった2021年(令和3年)度における出動申込み件数は404件にのぼっていた。なお当会の活動は、費用負担の点では2002年(平成14年)10月開始の日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の法テラス委託援助事業に引き継がれている。)。
  また、精神保健当番弁護士制度の全国普及に向けた活動にも積極的に取り組んできた。
4 こうした活動を踏まえ、当会は、2020年(令和2年)10月の総会において、精神保健福祉法の退院請求等手続に国選代理人制度を導入することを求める決議を行った。
  その後、日弁連も、2021年(令和3年)10月15日、人権擁護大会において「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を行い、その中で、無償で弁護士を選任し、援助を受けることができる制度を速やかに創設することを求めるとともに、精神科病院入院者がいつでも迅速に利用できる弁護士選任制度を速やかに全ての弁護士会に創設することに全力を尽くす決意を示した。
  2023年4月現在、全52弁護士会中、実施済み弁護士会は32、実施に向け準備中の弁護士会は7に上り、今後、さらなる整備拡充が期待される。   
5 ところが、2022年(令和4年)12月、精神保健福祉法が一部改正されたが、同改正において国選代理人制度の導入は盛り込まれなかった。当会はこれに対し、遺憾の意を表明し、国選代理人制度(退院等請求をした精神科入院者のために国あるいは精神医療審査会が弁護士代理人を選任する制度)ないし国費による無償の弁護士選任制度(退院等請求をした精神科入院者が弁護士代理人を選任するかどうかはあくまでも本人の意思に委ね、その弁護士費用を国が負担する制度。国選代理人制度と併せて本決議において「精神保健国選代理人制度」という。)の速やかな導入を改めて求めるものである。
  加えて、これらの制度が導入されるまでの間においても、現に今いる精神科病院入院者の弁護士選任権を実効あらしめるためには、暫定措置として、①国が、強制入院者に入院の際に交付する権利告知書の内容に全国各地の弁護士会が実施している精神保健当番弁護士ないし精神保健出張相談等の制度の説明(とりわけ、その利用には費用援助制度が整備されていること)及び連絡先を盛り込むこと、②精神科病院管理者が、その後も入院者が入院中継続的にこれを認識し得るよう掲示等で周知すること、③精神医療審査会が、退院請求等の申立時に代理人が付いていない入院者に対し、弁護士選任権についての認識や理解を確認し、当該権利や費用援助制度について分かりやすく説明することが極めて重要である。
6 厚生労働省の令和4年度の精神保健福祉資料(いわゆる630調査)によれば、わが国の精神科病院には現在もなお約26万人もの入院者がおり、その半数約13万人が精神保健福祉法により強制的に入院させられた人たちである。これは、わが国の令和3年末時点の受刑者数が3万8366人であり減少傾向にあること(令和4年版犯罪白書)と比較すると、その3倍以上であり、しかも強制入院については期間も決まっていない、いわば不定期刑ともいうべき身体の自由に対する制約である。まさしく精神科病院入院者に対する権利擁護は、弁護士・弁護士会が取り組むべき最後に残された大きな人権課題というべきである。
  入院者の基本的人権を確保するためには、精神保健国選代理人制度が不可欠であり、当会は国に対し、その速やかな導入を改めて求めるとともに、これらの制度が導入されるまでの間においても、暫定措置として、国、精神医療審査会及び精神科病院に対し、精神保健当番弁護士ないし精神保健出張相談等の制度を入院者に周知するための上記運用を強く求めるものである。

以上

2023年(令和5年)5月26日

福岡県弁護士会

いわゆる谷間世代に対する不平等是正のため、国による一律給付を早期に実現することを求める決議

カテゴリー:決議

【決議の趣旨】
当会は、政府及び国会に対して、いわゆる谷間世代(2011年11月から2017年10月までの6年間に採用され、修習期間中に給費ないし修習給付金の支給を受けることのできなかった司法修習生)の者が、その経済的負担や不平等感によって法曹としての活動等に支障が生ずることのないよう、是正措置として、国による、少なくとも修習給付金相当額の、又はこれを上回る額の一律給付を早期に実現するよう求める。
【決議の理由】
第1 谷間世代の問題が生じた経緯
(1)司法修習と給費制
 司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を守るための重要な社会インフラであり、弁護士、裁判官、検察官ら法曹はこの司法の担い手としての公共的使命を負う。
そこで国は、高度な技術と倫理感が備わった法曹を国の責任で養成するために、現行の司法修習制度を、1947年(昭和22年)、日本国憲法施行と同時に発足させ運営してきた。この制度の中で、司法修習生は、修習専念義務(兼職の原則禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負いながら、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、将来の進路如何にかかわらず、全ての分野の法曹実務を現場で実習し、法曹三者全ての倫理と技術を習得してきた。そして、修習に専念できるに足る生活保障の一環として、制度発足時から64年間にわたって、司法修習生には給費が支給されてきた(給費制)。
司法修習制度が修習専念義務等を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度である以上、修習に専念できる環境整備を行うのは当然であり、その意味で司法修習制度と給費制は一体のものとして、我が国の法曹養成制度の根幹を担ってきたものである。
(2)給費制の廃止と無給・貸与制導入
しかしながら、2004年12月及び2011年11月の裁判所法改正を経て、司法修習生に対する給費の支給はなくなった(給費制の廃止)。ただ、修習専念義務、守秘義務等の職務上の義務は維持され、兼業も原則禁止であるため、司法修習中の生活費を必要とする者に対する制度として、国が生活等資金を貸し付ける制度(貸与制)が導入された。
こうして司法修習中は無給となり、かつ学部や法科大学院時代の奨学金の返済等の負担を負う者も多かったことから、谷間世代のうち貸与制を利用した者は約7割、一人当たりの平均貸与金額は約300万円にのぼった(日本弁護士連合会調査)。貸与金を借りなかった者も決して経済的に余裕があったわけではなく、親族から借り入れをした者、預貯金を切り崩した者なども多数存在した。
(3)修習給付金制度の創設と谷間世代の出現
給費制廃止は、修習専念義務を維持する一方で、司法修習中の生活の糧を奪うものであり、奨学金等に加えての貸与金の負担等により、谷間世代は大きな経済的負担を負うこととなった。
そのため、当会は、2010年以降、日本弁護士連合会(日弁連)、全国の弁護士会、ビギナーズ・ネット(若手法曹、学生らが主体となって給費制の維持ないし復活を目指し活動していた組織)等とともに給費制維持ないし復活のための活動を行い、全国会議員の6割を超える数の議員からの賛同や、日本医師会、日本歯科医師会、JA全中・全農、日本青年会議所など多くの団体や市民から応援をいただくことができた。この間、このような経済的負担の増加なども一因となり法科大学院入学者、司法試験受験者などの法曹志願者が年々減少するという事態となった。
これらの結果、政府は、2016年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2016」(いわゆる骨太の方針)の中で、司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化を明示し、遂に2017年4月、裁判所法の改正により、第71期以降の司法修習生に対し修習給付金制度が創設された。
修習給付金は、上記の通りの運動の結果、いったん廃止された給費制が事実上復活したという点では画期的であったものの、給付額は、基本給付金が額面で月額13.5万円、移転給付金3.5万円、住居給付金月額3.5万円に留まるという点で、従前の給費額には遠く及ばず、日弁連が毎年、修習生に対して行ってきている修習実態調査アンケートでも修習に専念するには到底不足であるとする声が少なくなく、結局、修習専念資金という貸付制度を利用して借金を作らざるを得ない者が多数である等の窮状が伺える。法曹の卵である司法修習生が真に修習に専念できる環境を実現するためには、その検証によって早急に給付額の改善が図られることが不可欠というべきである。
 しかしながら、さしあたり喫緊かつ重大な問題としては、給費制が廃止された2011年11月から修習給付金制度が創設されるまでの6年間に司法修習を行った司法修習生である谷間世代に対しては、修習給付金制度は適用されず、国から何らの経済的支援もなされないままとなっていることがある。このように、谷間世代の経済的負担が、給付金制度の適用も受けることができず、給費を受けた従前の司法修習生のみならず、第71期以降の司法修習生に比しても重くなるという問題性は、裁判所法改正の国会審議の過程でも指摘されたものの、未だに解決されない重大問題として残存している。
第2 谷間世代救済の必要性
 谷間世代の人数は約1万1000人であり、全法曹人口の4分の1近くを占める。また、すでに司法修習修了から5〜10年のキャリアを積んでおり、まさにこれからの司法を中核となって担っていく世代である。給費制世代の法曹も、谷間世代の法曹も、給付金制度世代の法曹も皆同じく法の支配の実現に寄与する司法権の担い手であることに変わりはない。それにもかかわらず、谷間世代は、修習専念義務等のもとで生活保障なく司法修習を余儀なくされるという不条理を、また、その前後の時代の法曹に比して重い経済的負担を負わされるという不平等を強いられて、何ら是正、救済されていない。司法修習は、国民の権利擁護の担い手たる法曹を国の責任で育成するための制度である。そうであるにも関わらず、国が谷間世代の救済を何ら行わず、このような不条理かつ不平等な事態を放置したままにしていることは、その責任の放棄であり、断じて容認できない。
2019年(令和元年)5月30日に名古屋高等裁判所が言い渡した給費制廃止違憲訴訟判決は、「従前の司法修習制度の下で給費制が実現した役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならないものであって、いわゆる谷間世代の多くが、貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済も余儀なくされているなどの実情にあり、他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と付言した。修習専念義務を課しながらも、修習期間中の生活費や諸経費を借金である貸与金等でまかなわせるという制度の不合理は、修習給付金制度の創設をもって十分とは言えないながらも一部解消が図られ、今後の検証と改善が期待される。残る喫緊かつ重大な問題である谷間世代の不平等も、立法政策をもって早急に是正されるべきである。
 全法曹の約4分の1を占める谷間世代には、今後も司法の担い手の中核として、社会の不公正や権利侵害に立ち向って法の支配を実現していくことが強く期待されている。谷間世代が抱える経済的負担を是正し、谷間世代の経済的不安感や自分達だけが取り残されたという疎外感を払拭することは、谷間世代の活躍分野の拡大、司法機能の強化につながり、ひいては国民の権利擁護の実現と充実に資するのであるから、国は速やかに谷間世代に対する一律給付を実施すべきであり、その給付額としては、少なくとも給付金相当額であるべきであり、また、その修習給付金の給付額の検証と改善が不可欠である実情に鑑みると、それを上回る額であるべきである。
第3 谷間世代への一律給付実現を求める声が広がっていること
 修習給付金制度創設後、当会及び日弁連は、谷間世代の活躍分野の拡大と司法機能の強化の重要性を、院内集会や当会を始めとする全国各地での市民集会の開催など様々な方法で訴え、谷間世代への一律給付実現を求める活動を継続してきた。
 その結果、2023年2月、国による一律給付を含めた谷間世代問題の解決に向けての国会議員からの応援メッセージ数が全国会議員の過半数を超え、なお増加を続けている。また、日本医師会はじめ諸団体からも賛同のメッセージが寄せられるなど、谷間世代への一律給付実現を求める声が大きく広がっている。
 修習給付金制度創設の原動力となったビギナーズ・ネットも、谷間世代問題解決のため活動を再開し、議員会館前での挨拶運動などを行っている。
第4 結語
 以上の理由により、当会は、政府及び国会に対して、谷間世代の者に対する是正措置として、国による、少なくとも修習給付金相当額の、又はこれを上回る額の一律給付を早期に実現することを求める次第である。

以上

2023年(令和5年)5月26日
福岡県弁護士会

精神保健福祉法の退院請求等手続への国選代理人制度の導入と、日本の精神科医療の脱施設化と地域移行の早期実現を求める決議

カテゴリー:決議

精神保健福祉法の退院請求等手続への国選代理人制度の導入と、日本の精神科医療の脱施設化と地域移行の早期実現を求める決議
【決議の趣旨】
1 精神保健福祉法の退院請求等手続に国選代理人制度を導入することを求める。 
2 日本の精神科医療における脱施設化と地域移行が世界の動向から完全に取り残されている状況を確認し、脱施設化と地域移行を早期に実現する具体的政策の立案・実施を求める。
【決議の理由】
第1 決議の趣旨1について
 1 精神医療審査会制度とこれに対する退院請求及び処遇改善請求手続(以下「退院請求等手続」と言う。)は、1984年に発覚した宇都宮病院事件をはじめとする精神科病院における入院者への虐待等深刻な人権侵害状況に対し、国内外からの厳しい批判を受け、1987年の精神衛生法から精神保健法への改正において導入されたものである。
 2 国際人権B規約9条4項は「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所(Court)がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する。」と定める。わが国政府見解では、Courtとは専門的なトライビューナル(裁決機関)であってもよいとの国際的解釈の下、精神医療審査会は同規約上のCourtであるとされている。
したがって精神医療審査会にはCourtとしての実体を担保する手続保障の必要があるが、退院請求等手続が、精神科病院入院者の人身の自由や処遇に関する基本的人権の制約に対する不服申立手続であることにかんがみれば、退院請求等手続における代理人選任権の保障は最も重要な手続保障というべきである。1991年12月に国連総会において決議された「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」の原則18の1においても「患者は不服申立て又は訴えにおける代理を含む事項について、患者を代理する弁護人を選任し、指名する権利を有する。もし患者がこのようなサービスを得られない場合には、患者がそれを支弁する能力がない範囲において、無償で弁護人を利用することができる。」と定められている。先進諸国においては、こうした権利が当然のこととして付与されているだけでなく、その実効性を担保するために、例えば病院に患者の権利擁護情報コーナーが設置され人権団体の職員等が常駐して相談に応じたり、弁護士を紹介して手厚い権利擁護が実践されているところである。
 3 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士自らが、前記国際人権規約及び国連原則の理念を体現すべく、全国にさきがけ、1993年に、精神科病院入院者等からの依頼により病院に赴き無料で法律相談を行い、退院請求等手続の代理人となる「精神保健当番弁護士制度」を発足させ、現在まで活発な活動を展開しているところである(2019年3月時点における登録弁護士数は405名、2018年度における出動件数は375件にのぼる。)。
   当会の活動は、費用支援の点では2002年10月開始の日弁連の法テラス委託援助事業に引き継がれて、全国的な制度に発展した。また九弁連においても2012年度に「精神保健に関する連絡協議会」が発足し、現在では8単位会すべてにおいて精神保健当番弁護士制度が立ち上がり、各単位会において活発な活動が展開されている(2019年3月時点における登録弁護士数は当会を含め653名、2018年度における出動件数は当会を含め633件にのぼる。)。
4 全国的にみると、法テラス委託援助事業の利用件数は2018年度で1098件に留まっているものの(ただし大阪、愛知県、岡山県等では、法テラスの本来事業である民事法律扶助の出張相談制度を利用したり、単位会独自の制度設計を行っており、実際の出動件数はさらに多い。)、本年11月鹿児島市開催を目指して準備が進められてきた第63回日弁連人権擁護大会第1分科会において「精神障害のある人の尊厳の確立をめざして~地域生活の実現と弁護士の役割」がテーマとなるなど、今後急速に精神保健当番弁護士制度の全国展開が期待できる(なお、同大会は2021年10月岡山市開催に変更されている)。
5 さきがけたる当会は、その全国展開への後押しを全力で行うとともに、本来あるべき国選代理人制度の導入を強く求めるものである。 
第2 決議の趣旨2について
1 精神保健当番弁護士活動の限界と我が国の精神科医療の問題
上記のとおり、当会は、精神保健当番弁護士制度の活動を展開し、その実践を通じて、多くの精神障害者の退院や処遇改善を実現し、その人権保障に寄与してきた。
しかし他方において、精神障害があるといっても私たちと普通に意思疎通できる入院者がどうして退院を認められないのだろうか、妄想があっても通常の社会生活は送れるのではないだろうかと感じられるケースも少なくなかった。また、病状のためでなく、地域に退院する受け皿がないためにやむなく入院を継続する、いわゆる社会的入院のケースもあった。こうしたケースを通して私たちは、我が国の精神科医療そのものの問題にも直面した。
こうした問題意識から、当会では過去に以下のような、精神保健当番弁護士活動に限らず精神科医療の問題を広くテーマに取り上げて公開シンポジウムを開催してきた。
2001年1月 医療保護入院の要件を考える
2003年3月 心神喪失者等観察法案と精神障害者の人権
2007年3月 精神障害者の社会復帰の現状と展望
2009年2月 精神障害者の社会復帰の課題と展望
2010年10月 精神科医療を動かすもの・・社会的入院の解消に何が必要か
2015年2月 改正法における早期退院と弁護士の役割
2018年2月 オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの
こうして、精神保健当番弁護士制度は、たとえこれを国選代理人制度に高めたとしても、あくまでも個別の入院者の人権保障制度にとどまり、我が国の精神科医療における人権保障上の諸問題の根本的な解決にはならないという限界も意識せざるを得なかった。精神科医療の人権上の諸問題の解決には、国が必要な政策を立案し、これを実行していくことが必要不可欠である。精神疾患は、近年、その増加が顕著であり、2007年の総患者数は419万人に及び、生活習慣病と同じく、誰もがかかりうる疾患である。精神科医療の人権上の諸問題は、精神障害者への偏見と差別も加わって国民の精神科医療への受診を躊躇させる要因ともなっており、国民の健康増進の観点からも早急な問題の改善・解消が必要である。
2 我が国の精神科医療の問題点
  そこで、我が国の精神科医療の現状を、様々なデータによって先進諸国と比較し、その問題点を明らかにする。
まず、精神病床数が突出して多く、世界の精神病床の約4分の1が日本にあると言われ、2016年の人口10万人当たりの精神病床は263床であり、OECD加盟国の平均である69床の4倍以上である。また精神病床の平均在院日数も突出して長く、2017年の267.7日という数字はOECD加盟国の平均36.7日の約7倍である。加えて、日本では在院患者数に占める強制入院の割合が2018年で約46.8%と、EU諸国の10%台に比べ著しく高い。任意入院であるにもかかわらず閉鎖処遇が多用されている。さらに、精神病床院での隔離、身体拘束が多用され、かつ長期にわたっており、しかもその件数が増加している点が報道等により社会問題化している。
日本の精神科医療の最も大きな問題は、精神障害者に対する隔離政策ともいえる病院収容主義・入院医療中心の精神科医療からの脱却と地域生活中心への移行(以下、「脱施設化と地域移行」と言う。)が遅々として進んでいないことにある。
3 先進諸国の精神保健の歴史と動向(特にリカバリーモデル)
  欧米の先進諸国においても、かつては精神障害者を病院に隔離する入院医療中心の精神科医療の時代があった。しかし、劣悪な施設環境の中で個人の尊厳が無視された知的障害者や精神障害者の悲惨な状況に対する批判や反省が高まった。
こうして1960年代ころから、向精神薬の発達とも相俟って、精神疾患だけを理由とする入院隔離に対し、精神障害者の自由権をできるだけ保障する立場から脱施設化と精神科医療改革が推進されていった。その結果、一部の国では、地域の受け皿や支援体制が十分整備されていなかったため、入退院の回転ドア現象を生むとともに、医療保護の必要な多くの精神障害者がその機会を奪われ、ホームレス化したり、刑務所に収容される弊害を生じたこともあった。
しかし、1980年代以降、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉らの多職種チームが重症の精神障害者の地域生活を包括的に支援するプログラム(ACT:包括的地域生活支援サービス)や、入院・隔離し投薬によって症状を抑え込むという方法ではなく、精神障害者との対話ないし対話の場を徹底して継続していき、薬も最小限にとどめる治療技法(オープンダイアローグ:開かれた対話)等が開発・研究され、実践され、欧米における精神科医療福祉の標準となっていった。これにより、上記弊害を克服しつつ、脱施設化と地域移行がさらに進み、コミュニティ中心の精神保健サービスが発展していった。
特に指摘すべきは、こうした先進諸国においては、精神科医療のあり方についても、薬物医療・入院治療・診断名中心で精神症状の寛解・治癒を主目的とする医療(医学モデル・リハビリテーションモデル)から、当事者が障害を抱えながら生活する地域において本人の価値実現を支援することに重点を置くリカバリーの考え方(リカバリーモデル)へのパラダイム・シフトが進展していったことである。そこでは、治療の場は病院ではなく地域であり、地域における本人(及びその家族)のニーズを中心にして多職種のスタッフがその実現に向けて支援することが重視されている。医師の病気に対する専門的治療の優先順位は必ずしも高くない。
2010年代以降、このようなリカバリー運動が精神障害者支援の世界的潮流となっている。私たちは、このような精神障害者支援の在り方こそが、障害者権利条約の理念にも適った精神科医療のあるべき姿であると確信する。
4 世界に逆行した我が国の精神保健政策
  ところが、我が国においては、世界で精神病床の削減が重要な政策課題として取り組まれ始めた1960年代から、これに逆行する政策が進められた。即ち、戦後間もない時期の民間精神科病院に対する国庫補助制度、及び患者当たりの医師や看護師の人員配置を少なくてよいとする精神科特例の結果、民間精神科病院の設立が促進され、過度の入院中心主義がもたらされた。人口1万人当たりの精神病床数は実に1994年まで増加し、そのピークは28床に達し、その後も病床数は高止まりの状態にあった。
2004年、ようやく厚労省が「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下「改革ビジョン」と言う。)を公表し、国として初めて「入院医療中心から地域生活中心へ」という政策の転換を提言した。そして、そのために国民意識の変革や立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を10年で進めるとした。特に「受入条件が整えば退院可能な者(約7万人)」については、精神病床の機能分化・地域生活支援体制の強化などにより、10年後の解消を図ることを目標として掲げた。
しかし、改革ビジョンの公表から10年間に、精神病床は、2004年の35万4937床から2014年の33万0694床に減少したにとどまる。また、「受入条件が整えば退院可能な者」は、なお5.3万人いるとされ、達成率は約24%にとどまった。改革ビジョンが掲げた目標は失敗したと言わざるを得ない。
そして、2017年のデータにおいても、精神病床は33万1700床あり、「受入条件が整えば退院可能な者」は5.0万人と報告されている。
5 2004年の「改革ビジョン」後の政策の迷走
  その後、我が国は、精神保健福祉法の2013年改正に基づき、翌14年に厚労大臣による「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」(以下「大臣指針」と言う。)を定めた。そこでは、社会的入院や長期入院者のための退院支援や地域生活における医療、生活面の支援体制の整備など、法改正に先立って設置された障がい者制度改革推進会議でも提言された精神保健福祉改革の改善メニューが網羅されている。
しかし、大臣指針には、絶対的に不足している社会内居住環境の整備など、改善メニューを実現するための具体的な作業工程やその裏付けとなる予算措置を伴っていないという致命的な問題があった。また、病床削減については、「機能分化は段階的に行い、・・・人材及び財源を効率的に分配するとともに、・・・地域移行を更に進める。その結果として、精神病床は減少する。」と記載するのみで、具体的な削減計画を立案することなく、地域移行の進展による結果任せとするに等しい内容であった。
のみならず、大臣指針に先行して2012年の機能分化に関する検討会の報告書以降、「重度かつ慢性」という概念を導入し、長期入院がやむを得ない患者がいることを容認するようになった。先進諸国がACTやオープンダイアローグ等の開発・研究と実践によって脱施設化を図り病床削減を実現してきたことと比べると、一部の長期入院を温存する聖域作りと批判されて然るべきである。
このように、大臣指針やその前後の施策は、改革ビジョンが10年で解消するとした目標を実現できなかった原因を検証することなく、病床削減について地域移行の進展による自然減少という結果任せにするものであり、改革ビジョンにおいて示された精神病床の削減と地域移行に向けた積極的な姿勢が後退したと評しても過言ではなかった。
6 近年の精神保健福祉行政の問題点
  その後、我が国は、2018年からスタートした第7次医療計画と第5期障害福祉計画において、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」という掛け声の下に、全国の自治体を巻き込んだ取り組みを進めようとしている。そこでは、入院需要を3か月未満の入院を要する急性期、1年未満の入院を要する回復期、1年以上の入院を要する慢性期(長期)に分けた上で、それぞれの入院需要を予想し、これを計画目標に設定している。
しかし、以下述べるとおり、この計画は、精神病床の削減と地域移行の観点から重大な問題を内包している。
まず第一に、目標とする入院需要が、計画最終年度である2025年度末に20.5~22.4万床と予測されている。その人口当たり病床数はなおOECD諸国の平均の優に2倍以上の水準であり、政策目標として低すぎる。その要因の一つは、長期入院者の需要予測において、「重度かつ慢性」とされる入院者については、統合失調症の新治療薬の普及や認知症施策の推進で若干の入院需要の減少を目指すだけで、基本的に退院促進の対象から外されていることにある。「重度かつ慢性」の概念が、一部の長期入院を温存する聖域作りと批判されるべき点については上記のとおりである。また、認知症を重度かつ慢性とされる入院者に含め、その長期入院者が多数在院する認知症治療病棟という名称の精神病床を温存している点も、いわゆる治療反応性がない認知症という疾患を強制入院の対象としてよいのかという根本的な問題が看過されている。超高齢化社会を迎え、すべての人の身近な問題となった認知症を精神病床で処遇する国は日本以外に例を聞かない。
また、急性期と回復期の入院需要について、現状を是認し、逆に若干の増加が予測されていることがもう一つの要因である。これは、日本の年間の新規強制入院件数が欧米諸国に比べて異常に多いという問題を看過するものである。OECD諸国の平均入院期間が10日から1か月程度であること等に照らせば、そもそも入院3か月や1年という長い入院期間を基準としていることも問題である。急性期だからという理由でとりあえず入院させ、一度入院させると2、3か月は入院を継続する現状の運用を是正するためには、入院治療をできる限り回避すべく先進諸国が取り組んできた成果に倣った政策を立案・遂行する必要があるのに、計画にはそのような観点が完全に欠落している。
第二に、目標達成に必要な地域移行を促す基盤整備としての「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」の取組み自体にも、大きな問題がある。地域移行の責任は自治体と支援事業者にあるとされている。しかし、国の提言である改革ビジョンによっても病床削減がほとんど進まなかったのに、自治体と支援事業者の努力で実現を期待するのは困難である。過剰な精神病床を擁する精神科病院からの個々の入院者の退院は、本来、行政が、リカバリーモデルへのパラダイム・シフトに基づいて、入院医療に配分されてきた予算と人的資源を地域医療福祉に移行させる総合的な政策を計画・立案し、その一環として策定した病床削減計画に基づいて実施されるべきである。そのような計画を策定せず、また、計画に対する病院の協力義務がなければ、民間病院は病院経営のために、病床稼働率を念頭に置いて入退院をコントロールする範囲でしか退院支援に協力しないであろう。また、一定数の入院者を退院させたとしても、病院は、空いた病床に別の新規患者を入院させるであろうから、病床削減に結びつかないのである。
7 結語
  以上のとおり、我が国の精神科医療は、脱施設化と地域移行の世界的動向から完全に取り残されている。それにもかかわらず、我が国の近年の精神保健福祉行政は、改革ビジョン以降、その精神が後退したと思われるほどに迷走し、脱施設化と地域移行を実現するにはあまりに実効性の乏しい内容にとどまっている。
上記の第63回日弁連人権擁護大会第1分科会においては、「精神障害のある人の尊厳の確立をめざして~地域生活の実現と弁護士の役割」というテーマの下、精神障害者の人権保障上の諸問題について、より広汎かつ根本的に論じ、その改善・解消に向けた方策を提言するべく、来年岡山市開催を目指し引き続き準備を進めている。
そこで、当会としても、我が国の精神科医療における最大の問題点として、脱施設化と地域移行が世界の動向から完全に取り残されている状況を確認するとともに、脱施設化と地域移行を早急に実現する具体的政策の立案・実施を求めるものである。

2020年(令和2年)9月18日
福岡県弁護士会

刑事身体拘束手続に関する法改正と運用改善を求める決議

カテゴリー:決議

決議の趣旨
当会は,「人質司法」という言葉に代表される日本の刑事身体拘束を巡る問題を抜本的に改革するために,以下のような法改正と裁判官の運用改善を求める。
1 求める法改正
(1)勾留質問時の弁護人立会権を保障する形で刑事訴訟法を改正すること。
(2)勾留の判断において比例原則が適用されることを明記する形で刑事訴訟法を改正すること。
2 求める裁判官の運用改善
(1)勾留質問において勾留理由に関する具体的な質問をするなどして実質的な勾留質問を行う運用とすること。
(2)勾留質問への弁護人の立会いを認める運用とすること。
(3)勾留理由開示手続において具体的・実質的な勾留理由を説明・回答する運用とすること。
(4)勾留の判断にあたって身体不拘束の原則や比例原則を踏まえて勾留理由を厳格に判断する運用とすること。

2020年(令和2年)9月18日
福岡県弁護士会
決議の理由
1 日本における刑事身体拘束手続の問題
(1)憲法34条は「何人も,正当な理由がなければ,拘禁されず,要求があれば,その理由は,直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と規定している。
これを受けて刑事訴訟法では,逮捕や勾留について裁判所による令状審査を要求した上で,勾留理由開示制度や勾留に対する不服申立制度(準抗告)を採用している。
また,日本も批准する国際人権(自由権)規約9条3項は,逮捕・抑留された者は,司法機関の面前に速やかに引致され,引致後「妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される」権利を有することを保障し,「裁判に付される者を抑留することが原則であってはなら」ないと定め,身体不拘束の原則を明らかにしている。
(2)ところが,このような憲法や刑事訴訟法,そして国際人権(自由権)規約の定めがあるにも関わらず,実際には刑事訴訟法が歪曲された形で運用され,憲法が「正当な理由」を求め,刑事訴訟法が「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を求める被疑者の勾留の要件について,単に「証拠隠滅のおそれ(=可能性)」として解釈し,安易に勾留が認められてきた。
そして,いったん勾留されれば,起訴前保釈制度がない中で最長23日間の長期にわたって身体拘束を余儀なくされ,起訴後も保釈が認められなければ判決まで身体拘束が続くことになる。
特に,被疑者が否認するなど事実関係を争ったり,あるいは黙秘権を行使したりしている場合には,安易に「罪証隠滅のおそれ」を認めて勾留し,判決まで,あるいは証人の証拠調べ等が終わるまでは保釈も認められないことから,被疑者自身の身体の自由を人質として自白を強要する「人質司法」と呼ばれてきた。
しかも,このような傾向は刑事訴訟法制定から時間を経るにしたがってより進み,1977年(昭和52年)には68.1%だった地方裁判所における起訴時身体拘束率が,1987年(昭和62年)には72.7%,1997年(平成9年)には79.2%,2005年(平成17年)には82.3%にまで増加している。また,1977年(昭和52年)には37.7%だった判決時身体拘束率に至っては,1987年(昭和62年)には54.3%,1997年(平成9年)には66.1%,2005年(平成17年)には71.3%と2倍近くまで増加している。
このような勾留に関する運用が,上記のような憲法上の保障や,国際人権(自由権)規約の定める身体不拘束の原則に大きく反していることは明らかである。
(3)また,勾留理由の開示についても,刑事訴訟法が定める勾留理由開示の手続をとっても,捜査上の秘密を理由に実質的な勾留理由が説明されることはなく,形骸化してしまっており,憲法上の保障がないがしろにされているとしかいいようのない状態となっている。
本来であれば,本人及び弁護人の出席する公開の法廷で勾留の理由が具体的に明らかにされることによって,「正当な理由」なく勾留されていないかどうかがチェックされ,違法・不当な勾留を防ぐことができるのであり,これが形骸化されていることによって,上述したような身体不拘束の原則に反した「人質司法」と呼ばれる状況を生み出しているともいえる。
2 当会や日弁連の取り組み
(1)かかる日本の刑事身体拘束手続の問題に関しては,以前から当会も日本弁護士連合会も問題を指摘するともに,様々な宣言や決議をしたり,意見書をまとめたりしてきた。
(2)約20年前の1999年(平成11年)10月には,日本弁護士連合会は刑事訴訟法施行50年にあたり「新しい世紀の刑事手続を求める宣言-刑事訴訟法施行50年をふまえて-」と題する宣言をした。
この宣言では,わが国の刑事手続を真の憲法の理念にかない,国際人権法の水準に見合ったものに改革していくため,①国費による被疑者弁護制度の実現,②代用監獄の早期廃止,③捜査の可視化,④人質司法の打破,⑤証拠の事前全面開示,⑥公判審理の活性化,⑦法曹一元や陪・参審制度の導入など,刑事訴訟法の全面的な改正をも視野に入れた広範な改革に取り組むことを宣言した。
このうち,①や⑤,⑥,⑦に関しては,その後の刑事司法改革の中で勾留段階における被疑者国選弁護制度の導入や拡大,裁判員裁判制度及び公判前整理手続による証拠開示制度の法制化や公判中心主義の強調といった形で刑事訴訟法が改正され,一定の成果を上げてきたということはできる。
また,③に関しても,司法制度改革の中では導入されなかったものの,その後も日本弁護士連合会や当会において取り組みを続け,2016年(平成28年)の刑事訴訟法改正によって一部事件について取調べの録画録音が義務付けられるに至った。
しかし,刑事身体拘束に関する②代用監獄の早期廃止及び④人質司法の打破に関しては,特に刑事訴訟法の改正はなされてきていない。
(3)このように刑事身体拘束手続の改革が進まない状況の中,2007年(平成19年)9月に日本弁護士連合会は「勾留・保釈制度改革に関する意見書」をまとめ,逮捕や勾留,保釈に関する制度改革の提言をまとめた。
その中で,勾留に関しては,①比例原則の明記,②刑事訴訟法60条1項2号(勾留要件のうち証拠隠滅に関する規定)の改正,③勾留質問に対しての弁護人の立会権の保障,④刑事訴訟法420条3項,429条2項(準抗告理由を制限する規定)の削除,⑤勾留・保釈に関する当事者の手続保障の整備を提言した。
この意見書は,裁判員裁判制度を前にした裁判官協議会での意見や大阪地方裁判所令状部部長の論文等で保釈運用の見直しに言及される中でまとめられたものであったが,起訴後勾留率も判決時身体拘束率も2005年(平成17年)をピークに徐々に減少に転じ,2018年(平成30年)には起訴時身体拘束率は74.2%に,判決時身体拘束率は51.4%にまで下がってきている。
この点,判決時身体拘束率は20%も減少しているが,これについては2013年(平成25年)から全国弁護士協同組合が始めた保釈保証書発行事業も寄与しているものと考えられる。
但し,2013年(平成25年)の時点ですでに判決時身体拘束率が63.0%にまで下がっているし,保釈と無関係な起訴時身体拘束率も下がっていることからすれば,保釈保証書発行事業のみで各身体拘束率の減少を説明することはできず,刑事身体拘束に関する裁判官の意識の変化が表れているといえる。
しかし,この間に勾留や保釈等の身体拘束に関する刑事訴訟法の改正はなく,いつまた逆戻りしてもおかしくはない。
(4)そして,当会においても,2008年(平成20年)5月に,約1年後に裁判員裁判が開始され,被疑者国選制度が大幅拡大されるという大きな変わり目を控え,「より良い刑事裁判の実現を目指して」と題して,①刑事裁判の基本的なルールの普及に努めること,②「人質司法」を解消するため勾留および保釈について運用や制度の改革を求めていくこと,③取調べの全面的な可視化(取調べの全過程の録画)を求める運動を実行すること,④裁判員裁判の課題を検討し,その適切な制度運用を求める活動に努めること,⑤制度改革に対応する弁護態勢を確立することの5つの決意を宣言していた。
その後,当会では法教育の普及の中で刑事裁判の基本的なルールの普及に努めたり,裁判員裁判検証運営協議会やその他の協議会を通じて裁判員裁判の適切な制度運用を求め続けたり,弁護態勢確立のために様々な研修を繰り返し実施したりしてきたし,取調べの可視化に関してはシンポジウムを実施するなどして一部事件についての取調べの録画録音の義務化される刑事訴訟法改正に繋がった。
一方で,②刑事身体拘束に関しては,全国弁護士協同組合による保釈保証書発行事業の立ち上げによる保釈運用の一定の改善や,様々な研修の実施とそれによる日々の弁護活動の実践によって個々の事件での実績は上げてきてはいるものの,運用や制度の改革にまでは至れていない。
3 最近の動きや変化
以上述べてきたとおり,刑事身体拘束の問題に関しては,古くから日本の刑事司法の重要な問題の一つと捉えられ,様々な運動や取り組みはなされてきたものの,刑事訴訟法の改正や運用の大幅変更という抜本的な解決には至らず,ずっと積み残されてきた問題であるといえる。
そのような問題意識の中で,埼玉弁護士会が全国に先駆けて2010年(平成22年)から「被疑者の不必要な身体拘束に対する全件不服申立運動」を実施し,これが全国に広がっていった。この運動は,単に全件について勾留に対する不服申立をするのではなく,弁護人の目から見て勾留の必要がないのではないか,勾留要件を満たさないのではないかと考える事件については,全件不服申立を行っていくという運動であり,不服申立が認められる件数が増えていくことにより,勾留請求段階での裁判官による勾留却下自体が増えるという効果を生んだ。
九州弁護士会連合会においても各地でこの運動を開始し,当会では2017年(平成29年)に北九州部会で先行して運動を始め,全県的にも当会の刑事弁護等委員会が呼びかける形で2018年(平成30年),2019年(令和元年),そして本年と運動を展開し,勾留請求や勾留決定そのものを阻止したり,不服申立によって勾留決定が取り消されたりするなど,個々の弁護実践の中でも一定の成果を上げてきた。
このような各弁護士会の取り組みの影響もあってか,2009年(平成21年)までは1%を切っていた勾留請求却下率が急激に増加し,2014年(平成26年)には2%を超え,2018年(平成30年)には5.89%と10年足らずで約6倍にまで勾留請求却下率が増えており,勾留についての裁判官の意識や姿勢にも変化が見られる。
4 法制度や運用の改革の必要
(1)以上のような最近の勾留に関する動きや変化は歓迎すべきものであるが,これらの動きや変化は弁護士会の取り組みや裁判官の意識や姿勢の変化に伴うものに過ぎず,具体的な法制度や運用の変更に伴うものではない。
また,起訴時身体拘束率や判決時身体拘束率が徐々に改善してきているとはいっても,元東京大学総長の故平野龍一博士が「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」と結んだ論文が発表された1985年(昭和60年)当時と同程度の率に戻ったというだけで,問題の本質が改善されたとは言い難い状況にある。
とはいえ,ずっと悪化し続けてきた刑事身体拘束を巡る問題について改善の兆しが見られていることはたしかであり,今こそ「人質司法」という言葉に代表される日本の刑事身体拘束を巡る問題を抜本的に改革する時機に来ているというべきである。
そのような中で,当会は,2019年(令和元年)7月に刑事身体拘束に関する韓国視察を実施し,その視察結果も踏まえて同年9月には第62回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「人質司法からの脱却~その勾留,本当に必要ですか?」を開催し,改めて日本における人質司法の問題を見直すとともに,かかる状況を変えるために何が必要であるのかを市民とともに議論した。
そのような議論も踏まえ,当会としては,以下のような法制度の改正や運用の改善が早急に必要であると考える。
(2)必要な法制度の改正
ア 勾留質問時の弁護人立会権の保障
刑事訴訟法61条は,勾留の判断にあたって勾留質問することを裁判官に義務付けている。
そして,勾留判断の前提としてなされる以上,勾留質問においては,単に犯罪事実に関する意見,陳述を聞くだけではなく勾留理由(勾留要件)に関する意見,陳述も聞くことが当然の前提となっている(最高裁判所判例解説刑事篇昭和41年度193頁(最高裁判所昭和41年10月19日第三小法廷決定),注解刑事訴訟法上巻[全訂新版]214頁以下)。
したがって,本来勾留質問においては,勾留理由に関する陳述を聞くために,逃亡を疑うに足りる相当な理由の判断要素(家族,仕事,住居関係や任意聴取の求めが事前にあったか否か)や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由の判断要素(被害者,目撃者,共犯者との関係性や逮捕までの接触の有無)などについての具体的質問が必要なはずである。
ところが,現在の勾留質問では,もっぱら被疑事実そのものに関する弁解について質問されているだけで,逃亡や罪証隠滅のおそれに関する具体的な質問はほとんどなされておらず,勾留の判断のための手続として刑事訴訟法が予定している勾留質問手続が単なる形式的な手続となり,形骸化してしまっている。
かかる勾留質問手続の形骸化は,憲法において保障されている勾留理由開示手続が形骸化していることとも繋がっている。結局のところ,勾留要件に関して抽象的な理由でしか判断せず,具体的な事情に踏み込んで判断しようとしていないため,勾留質問において具体的な事情を質問せず,勾留理由開示手続において具体的な勾留理由が開示されないのである。
一方で,憲法34条が被疑者の勾留に関して,「要求があれば,その理由は,直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」としていることからすれば,非公開の場とはいえ,勾留質問の段階で勾留の理由を説明することは憲法34条の趣旨に適う制度・運用であると言えるし,これに対する被疑者や弁護人側の意見をその場で聴取することができれば,より慎重に勾留の判断をすることができ,無用な被疑者の身体拘束を避けることができる。
この点,当番弁護士制度や被疑者国選弁護制度が普及するまでは,被疑者段階で弁護人が選任されること自体が少なく,まして勾留質問段階で弁護人が選任されていることは期待できない面があったが,被疑者国選弁護の対象が勾留された全事件に拡大され,当番弁護士を含めて逮捕段階から弁護人が関与するケースが大幅に増加した現在,勾留質問に弁護人が立ち会えるケースは大幅に増えている。
このような弁護人を巡る状況の変化に加え,勾留質問手続の形骸化を防ぎ,憲法34条の趣旨に沿って無用な被疑者の身体拘束を避けるためにも,勾留質問時の弁護人の立会権を保障するよう刑事訴訟法を改正すべきである。
イ 勾留に関する比例原則の明記
また,上述したように憲法上の保障や身体不拘束の原則に大きく反する形で異常に身体拘束率が高くなっている現状を改めるには,上記のような勾留質問等における手続面での法制度の改正に留まらず,勾留要件や勾留基準そのものについての法制度の改正が必要である。
そして,上述したとおり,本来刑事訴訟法は厳格な勾留要件を定めていたにも関わらず,これが解釈や運用の中で安易に勾留が認められてきたことからすれば,勾留要件そのものを見直すよりも勾留基準を明確にすることが実効的であると考えられる。
この点,1990年(平成2年)の「第8回犯罪防止及び犯罪者処遇に関する国際連合会議」での「未決拘禁に関する決議」では,「未決拘禁は,自由の剥奪が,容疑犯罪及び予想される刑罰に比して不均衡となる場合には,命じられないものとする。」として,未決拘禁において比例原則が適用されることを明らかにしている。
比例原則自体は,日本の行政法や刑事訴訟法でも認められている基準であり,憲法において勾留に「正当な理由」が要求されていることからしても,日本における勾留の判断においても比例原則が適用されるはずである。
しかし,比例原則の観点からすれば原則として勾留が許されないはずである罰金刑や執行猶予刑が見込まれるような被疑者や被告人について勾留が認められるケースが多いのが実情であり,現在の裁判実務では勾留判断において比例原則を極めて軽視した判断がなされていると言わざるを得ない。
そこで,勾留の判断において比例原則が適用されることを明記する形で刑事訴訟法を改正すべきである。
(3)必要な運用の改善
刑事身体拘束に関して抜本的に改革するには,上記2点についての法制度の改革が必要であると考えるが,法制度の改革を待たずとも,現行の法制度においても以下のような運用改善は可能であり,速やかに運用を変更すべきである。
ア 勾留質問の実質化
上述したとおり,本来勾留質問においては,勾留理由に関する陳述を聞くために,逃亡を疑うに足りる相当な理由の判断要素(家族,仕事,住居関係や任意聴取の求めが事前にあったか否か)や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由の判断要素(被害者,目撃者,共犯者との関係性や逮捕までの接触の有無)などについての具体的質問が必要なはずである。
ところが,現在の勾留質問では,もっぱら被疑事実そのものに関する弁解について質問されているだけで,逃亡や罪証隠滅のおそれに関する質問はほとんどなされておらず,勾留質問の手続が形骸化している。
勾留理由に関する具体的な質問なしに,勾留理由について適切な判断をすることができるはずがないのであり,本来の憲法及び刑事訴訟法の趣旨に則って,勾留質問において勾留理由に関する具体的質問をするなどして実質的な勾留質問をするよう裁判官における運用が改善されるべきである。
イ 勾留質問への弁護人立会いの許可
勾留質問への弁護人立会権の保障については,上述したとおり刑訴法の改正によってなされるべきであるが,現行の刑訴法においても弁護人の勾留質問への立会いを禁止する規定はなく,裁判官において弁護人の勾留質問への立会いを認めても何ら法に反するものではない。
実際に,過去には勾留質問への弁護人の立ち会いを認めた例もある。
一方で,弁護人は,勾留質問の時点ですでに被疑者のみならず家族や関係者から一定の事情を聞いており,勾留要件に関する事情も把握しており,勾留質問への弁護人の立会いが認められれば,裁判官による勾留質問に付随して勾留要件に関する事情を補足したり,勾留理由開示や準抗告を待たずに勾留理由に関する弁護人の意見を述べたりすることができ,裁判官はそれらの補足事情や弁護人意見も踏まえて,より適正に勾留の判断を行うことが可能となる。
したがって,法制度の改革を待たずに,勾留質問への弁護人立会いを許可するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
ウ 勾留理由開示の実質化
上述したとおり,勾留理由の開示についても,刑訴法が定める勾留理由開示の手続をとっても,捜査上の秘密を理由に実質的な勾留理由が説明されることはなく,形骸化してしまっており,憲法上の保障がないがしろにされているとしかいいようのない状態となっている。
かかる運用が刑訴法に則ったものとは言い難いし,勾留質問が実質化されれば勾留要件に関する具体的事情が明らかとなった上で勾留理由を具体的・実質的に判断することになるはずであり,そうすれば勾留理由開示手続においても具体的・実質的な勾留理由を開示することも可能なはずである。
したがって,勾留質問の実質化とあわせて,勾留理由開示についても具体的な勾留理由を説明・回答することにより勾留理由開示手続を実質化するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
エ 身体不拘束の原則・比例原則を踏まえた勾留に関する厳格な判断
上述したように,現在の刑事身体拘束を巡る状況としては,身体不拘束の原則,比例原則に反する形で身体拘束率が高くなってしまっているが,現行の刑事訴訟法においても身体不拘束の原則や比例原則を適用して勾留の判断をすることは可能であるし,むしろそれが求められている。
また,本来刑事訴訟法が勾留要件として要求している,「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」について,これを単に「証拠隠滅のおそれ(=可能性)」と緩めて解釈するのではなく,これを厳格に判断することで,身体不拘束の原則や比例原則に適う形での勾留判断は可能なはずである。
したがって,比例原則等が刑訴法に明記されることを待たずして,身体不拘束の原則や比例原則を踏まえて,勾留理由について厳格に判断するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
5 結語
そこで,当会としては,上述したような法制度の改正を政府及び国会に求めるとともに,法制度の改正を待たずに上述したような運用改善を裁判所に求める。
また,当会としては,シンポジウム等を通じて法制度の改革や運用改善の必要性を広く市民と共有していくとともに,個別の弁護活動における勾留質問の実質化や勾留質問への弁護人の立会い,準抗告等の勾留に対する不服申立を積極的に行っていく運動や取り組みを通じて,法改正や運用改善を目指していく所存である。

以上

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.