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すべての子どもがともに学び育つインクルーシブ教育の実現を求める決議

インクルーシブ教育は、すべての子どもが互いの差異と個性を尊重されながらともに学び育つ教育である。

しかしながら、日本では、障害のある子どもの教育について、特別支援学校、特別支援学級及び通常学級による指導が「多様な学びの場」として、障害の程度や支援の必要性に応じて学ぶ場を分ける制度運用(分離教育)が続いている。その運用の結果、地域の通常学校・通常学級において必要な支援と合理的配慮を受けながらともに学ぶ体制は十分に整備されておらず、本人や保護者が通常学級での就学を希望しても、支援員、看護師、施設設備、通学支援等の不足を理由に、特別支援学校又は特別支援学級を選択せざるを得ない状況が生じている。

障害者権利条約第24条及び2022年(令和4年)の国連障害者権利委員会による日本の締約国報告に関する総括所見は、このような分離教育構造に対し、障害のある子どもが通常の教育制度から排除されないこと、地域の通常学校でインクルーシブ教育を受ける権利を保障すること、合理的配慮を確保することを勧告している。

本決議は、上記勧告を踏まえ、障害のある子どもの教育保障を中心に取り上げるものである。

福岡県でも、特別支援学校や特別支援学級に通う生徒数は増加の一途を辿っている。医療的ケア児が地域の通常学級に通うための支援も十分に整備されておらず、人員不足や設備面での制約等によって、通常学級を希望しながらも特別支援学級や特別支援学校を選択せざるを得ない実情がある。

そこで、当会は、国、福岡県及び県内各市町村(教育委員会を含む)に対し、国連障害者権利委員会及び国連子どもの権利委員会の勧告等を踏まえ、すべての子どもが、必要な支援と合理的配慮のもとで、地域の同じ場でともに学ぶ「インクルーシブ教育」を実現するため、以下の措置を講じることを求める。

1 国は、すべての子どもが、必要な支援及び合理的配慮を受けつつ、障害その他の差異の有無にかかわらず地域でともに学ぶ権利が保障されるよう、学校教育法等の関連法令を改正し、通常学校への就学拒否を禁止する「ノー・リジェクション(拒否禁止)」条項を創設するとともに、本人の意見表明権と最善の利益を保障しつつ、分離教育からインクルーシブ教育への段階的転換を進めること。

2 国は、特別支援学校及び特別支援学級への就学を前提として構築されてきた現在の教育制度及び予算・人員配置構造を抜本的に見直し、特別支援教育に関する財源、専門的知見及び人材を地域の通常学校へ段階的に移行・拡充することにより、通常学級の少人数化やインクルーシブ教育を担う教員・専門職の標準配置等を実現し、通常学級における教育体制そのものを、多様な子どもを包摂できる構造へと転換すること。福岡県及び県内各市町村は、国に対して制度設計や財政措置を求めつつ、現行制度下で可能な通常学級の支援体制構築を進めること。

3 国は、医療的ケア児をはじめとする支援の必要性が高い子どもが地域の通常学級で学ぶために必要な看護師その他の支援人員、通学支援、施設整備、校外・宿泊行事への参加保障について、地方自治体の財政力に左右されない安定的な財政措置及び人的確保策を講じること。福岡県及び県内各市町村は、国の財政措置を見据え、直ちに実現可能な個々のニーズに応じた合理的配慮を可及的速やかに提供するとともに、保護者の付き添いを前提とせずに適切な支援を受けて本人がすべての教育活動に参加できるような体制を段階的かつ計画的に構築すること。

4 国は、各学校において、建設的対話を通じた「合理的配慮」の提供が確実に行われるよう、障害者差別解消法第7条及び第8条が定める「過重な負担」の要件を厳格に制限する指針を策定するとともに、独立した第三者機関による迅速な紛争解決手続を整備すること。福岡県及び県内各市町村は、財政的・人的要因を理由とする安易な「過重な負担」要件の援用を厳に慎むとともに、各自治体の実情に即した紛争解決手続を速やかに整備すること。

5 国、福岡県及び県内各市町村は、障害のある子どもの教育及び学校運営全般について、障害の克服を目指す医学モデルではなく、環境の側の障壁を取り除く社会モデル及び障害を人間の多様性の一部として尊重する人権モデルに基づき、就学相談、就学先決定、個別の教育支援計画及び学校における教育実践の見直しを進めること。

2026年(令和8年)5月27日

 福岡県弁護士会

提 案 理 由

第1 はじめに:インクルーシブ教育の権利としての確立と本決議の背景

インクルーシブ教育は、障害の有無のほか、人種や国籍、性的指向や経済力などのあらゆる差異にかかわらず、すべての子どもがともに学ぶ教育である。

本決議は、障害者権利条約第24条に基づく国連障害者権利委員会の日本の締約国報告に関する総括所見において、日本の分離教育構造が特に厳しく指摘されていること、また、全国はもとより福岡県内においても、条約等が指摘する分離教育構造が進んでいる現状に鑑み、障害のある子どもに対する教育保障を中心とした、すべての子どものインクルーシブ教育を受ける権利の保障を日本における人権課題として取り上げるものである。

すべての子どもがともに学ぶ権利は、基本的人権の核心に触れる問題である。2006年(平成18年)に国連で採択され、日本が2014年(平成26年)に批准した「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」という。)第24条は、あらゆる段階におけるインクルーシブ教育についての障害者の権利を明確に保障している。

同条約の実施状況を監視する国連障害者権利委員会が2016年(平成28年)に採択した一般的意見第4号は、インクルーシブ教育について、「すべての生徒に配慮し、効果的にインクルージョンするために、通常学校の文化、方針及び実践を変革すること」を伴うものであり、障害のある生徒を通常の教育環境から切り離す「分離教育(セグリゲーション)」や、既存の体制に変更を加えることなく障害者を通常の教育環境に配置するだけの「統合教育(インテグレーション)」とは明確に区別されるべき概念であると定義している。

すなわち、インクルーシブ教育とは、「多様な子どもが既存の学校制度に適応できるか」を問うものではなく、「多様な子どもたちを受け入れるために、学校の制度や環境がいかに柔軟に変化できるか」を問うものである。

この点は、障害を個人の機能障害として把握し、その克服や適応を主として本人に求める医学モデルとは異なる。インクルーシブ教育は、環境の側の障壁を除去することを重視する社会モデル、及び障害のある人を権利の主体として捉え、障害を人間の多様性の一部として尊重する人権モデルに立脚するものである。したがって、学校教育において問われるべきは、子どもが既存の学校に適応できるかではなく、学校の側がすべての子どもの尊厳、平等及び参加を保障するよう変わることができるかである。

第2 国際人権法に基づく日本の義務と国連勧告による厳しい指摘

日本政府は障害者権利条約の批准以降、国内法の整備を進めてきたと主張しているが、その実態は国際基準から大きく乖離している。

2022年(令和4年)9月、国連障害者権利委員会は、日本政府に対する初の総括所見を公表した。同委員会は、日本の教育制度において「障害のある子どもの分離教育が継続していること」に対し懸念を表明し、事実上の撤廃勧告を突きつけた。具体的には、日本に対し、①すべての障害のある子どもが、個別の支援を伴うインクルーシブ教育を利用できるようにすること、②分離された特別な教育を終わらせることを目的とした、明確な目標、期間、十分な予算を伴う「国家行動計画」を採択すること、③通常学校が障害のある生徒の入学を拒否できないようにする「ノー・リジェクション」条項を確立すること、④障害のある子どもの要請に応じて合理的配慮が提供されることを保障すること等を強く求めた。

また、2019年(令和元年)の国連子どもの権利委員会による日本の締約国報告に関する総括所見では、日本における障害児の分離教育に対して懸念が示されており、子ども自身が自分に影響を与える事柄について意見を表明する権利(子どもの権利条約第12条)が十分に保障されていないことが指摘されている。これら国際社会からの度重なる勧告は、現在の日本の特別支援教育制度が、障害のある子どもの基本的人権を侵害する構造的な差別を内包していることを厳しく告発するものである。

第3 日本の教育制度における構造的差別と「分離教育」の固定化

国連からの厳しい勧告にもかかわらず、日本の教育現場では依然として「障害の程度に応じた特別な場での教育」という分離教育が推し進められている。学校教育法第72条が、特別支援学校の目的を「障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けること」としていることは、日本の特別支援教育が、障害を本人側の克服すべき問題として捉える医学モデルの考え方に根差していることを示すものといえる。

そして、文部科学省の統計によれば、特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童生徒の数は年々増加の一途をたどっており、通常学級から障害のある子どもが排除される傾向がむしろ強まっている。

それは現行の就学先決定制度には、障害の状態や必要な支援内容を行政が判定し、選別する構造が依然として残っていることが背景にあると考えられる。学校教育法施行令第22条の3は、特別支援学校の就学対象に関する基準を定めており、就学先決定の実務においても、本人及び保護者の意向より、医学的所見や行政側の判断が優位に扱われやすい運用につながっているとの指摘がある。その結果、本人や保護者が地域の通常学級での就学を希望しても、必要な支援体制が十分に整わないことなどを理由に、特別支援学校や特別支援学級を選択せざるを得ない状況が各地で生じている。

日弁連第67回人権擁護大会第1分科会のアンケート報告書(以下、「アンケート報告書」とのみ記す。)では、回答総数1094通のうち、就学先決定について「本人・保護者の希望が通ったもの」は598通・55%にとどまり、「当初の希望通りではないが最終的にやむを得ず希望したもの」は135通・12%、「選択肢がなかった」ものは40通・4%と整理されている。すなわち、少なくとも175通、全体の16%については、本人・保護者の当初の希望がそのまま実現しなかった、又は選択肢自体がなかったものといえる。

さらに、2022年(令和4年)4月には文部科学省が、特別支援学級に在籍する児童生徒について「週の半分以上を特別支援学級で学ぶべき」とする内容の通知(4.27通知)を発出した。これにより、これまで通常学級で多くの時間を共に学んできた児童生徒が、強制的に通常学級から引き離される事態が生じており、インクルーシブ教育の理念及び、分離教育からの段階的転換を求める国際人権法上の要請に反する事態が生じている。

このような分離的な運用は必ずしも小学校就学時に初めて生じるものではなく、幼稚園・保育園や3歳児健診の段階から医学モデルに基づく分離が始まっている実態がある。特別支援学校には幼稚部が設置されているほか、学校教育法第74条では、障害のある幼児その他教育上特別の支援を必要とする幼児の教育に関し必要な助言又は援助を行うことが特別支援学校の努力義務とされている。

アンケート報告書でも、年中のときに地域の普通保育園から児童発達支援センターの園に転園した重度知的障害のある子どもの保護者から、障害の程度というものさしで子どもを分けることへの違和感が語られている。これは、就学前の相談や療育の段階から、本人が地域でともに育つための環境調整よりも障害の程度に応じた分離が検討されている実態を示すものといえる。

このような実態を克服するためには、早期発見が早期分離へと繋がり得る制度を変革し、就学前の段階から社会モデル及び人権モデルに基づく支援体制を構築することが重要である。

第4 福岡県における固有の現状と課題

1 通常学級における支援体制の不足と分離的運用の固定化

福岡県においては、特別支援学校や特別支援学級で学ぶ児童生徒数がここ10年間だけでも倍増している。これらは、障害のある子どもの教育的ニーズへの対応が求められていることを示す一方で、地域の通常学校・通常学級において必要な支援を受けながらともに学ぶための体制整備がなお十分ではないことをうかがわせる。

とりわけ、教員の多忙化、支援員その他の人的配置の不足、施設設備面の制約等が重なる中で、通常学級で学び続けるための支援が十分に尽くされる前に、特別支援学級や特別支援学校が現実的な選択肢として提示されやすい状況がある。このような状況は、本人及び保護者の自由な選択を実質的に狭め、分離的な教育運用を固定化するおそれがある。

福岡県内の当事者・保護者の声からも、こうした問題は具体的に示されている。アンケート報告書には、福岡県内の保護者の回答として、環境調整を求めた際に校長から「通常の学級にいながら支援を受けることはできない」と言われ、担任から「少数派は多数派に合わせるべき」と言われた結果、不登校を選択したとの声もある。このような声は、通常学級における支援体制の不足や、通常学級では支援を受けられないという運用が、本人及び保護者の選択を実質的に狭めていることを示している。

2 医療的ケアを必要とする子どもの地域就学保障が不十分であること

日常的にたんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子ども、いわゆる医療的ケア児の支援のために、2021年(令和3年)に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行された。同法律では、国、地方自治体、学校設置者等は、医療的ケア児に対し、適切な支援を行うことが責務とされ、同法律に基づき各自治体等においても施策が実施されている。しかしながら、法律施行後も医療的ケア児の就学保障には、多くの課題がある。

現在、福岡県教育委員会は「県立学校医療的ケア体制整備事業」として、県立の学校に看護職員を配置し、安全な教育環境を整備する取り組みを進めている。しかし、義務教育段階における公教育の中心を担う市町村立小中学校は対象とならないほか、医療的ケア児が通常の県立高校に通うことには高校受験を含め、なお高い障壁があることから、実質的には主として特別支援学校に通う医療的ケア児への支援を中心とする制度にとどまっている。

また、県教育委員会が発出した「学校における医療的ケアガイドライン」においては、県内市町村立の通常学校も含めた医療的ケアの実施体制構築が求められているものの、実際に対応するための予算措置や運用は各市町村の判断と財政力に委ねられているため、看護師配置等の医療的ケア児のための体制構築が、全県的に十分進んでいるとは言い難い。実際、アンケート報告書では、「医療的ケア児は当然特別支援学校に行く」ものとして扱われ、「普通学校に行くには、かなりの闘いが必要だった」という県内における実体験が紹介されている。

通常学級における支援体制構築が不十分な結果、地域の通常学級で学ぶことを希望しても、安全確保や人員不足を理由に受け入れが困難とされたり、保護者の常時付き添いを事実上求められたりするケースが見られ、自宅から遠く離れた特別支援学校への進学を選択せざるを得ない場合がある。

この点、福岡市においては、2026年度(令和8年度)一般会計当初予算案において、医療的ケア児を支援するための小・中学校及び特別支援学校への看護師配置が72人から78人に増員されたほか、医療的ケアが必要な児童生徒が修学旅行などの宿泊行事に参加する際の訪問看護師同行費用の全額負担(448万円)が新規に盛り込まれており、医療的ケア児のための取り組みに積極的な姿勢が見られる。実際、福岡市の公表資料によると、2019年度(令和元年度)では地域の小・中学校に通う医療的ケア児数が各7人・0人であったのが、2024年度(令和6年度)には各17人・5人に増えており、医療的ケア児が地域の学校に通うための体制構築が進んでいることが窺える。このような一部市町村における取り組みは、現行制度下において地域の通常学校で学ぶ権利を具体化するものとして評価できる。もっとも、こうした取組みが自治体の財政力や努力に依存する限り、県内全域で十分な保障を実現することは困難である。

現行制度内で直ちに実現可能な運用改善と並行し、国における制度化や財源確保等の抜本的な改革を進めていくことが重要である。

3 子どもの権利保障の不十分さと分離的環境の問題

学校において子どもの権利が十分に保障されていないという問題は、障害の有無を問わず存在する。しかし、障害のある子どもが分離された教育環境に置かれる場合、その声や権利侵害が見えにくくなり、教育内容、参加機会及び人間関係の面で不利益を受けても、外部から検証されにくいという問題がある。

福岡県内においても、福岡市内の公立中学校の特別支援学級に在籍していた発達障害のある生徒に対し、教員が英語の授業をほとんど行わなかったことが「学習権の侵害(裁量権の逸脱)」にあたるとして、2019年(令和元年)に福岡高等裁判所が福岡市に損害賠償を命じる判決を下した例もあり、これらは、障害のある子どもの権利保障がなお脆弱であることを示している。

 もっとも、インクルーシブ教育の核心は、分離された環境の弊害を防止することのみにあるのではなく、障害のある子どもが、地域社会の中で障害のない子どもとともに学ぶことそれ自体が権利であるという点にあることから、地域の通常学校でともに学ぶことを制度の中心に据える必要がある。

第5 当会(福岡県弁護士会)のこれまでの取り組みと法律家の使命

当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家団体として、これまでも障害者権利条約の理念の普及と権利保障の実現に向けて活動してきた。

具体的には、「子どもの人権110番(べんごしLINE相談含む)」や「ふくおか人権ホットライン」といった常設の相談窓口を運営し、学校生活での悩みや、障害を理由とする差別的取扱いに関する県民からの相談を日常的に受け付けられる体制を構築している。

また、2024年(令和6年)以降、当会子どもの権利委員会がインクルーシブ教育に関するシンポジウムや会内勉強会を企画するなど、インクルーシブ教育の重要性を広めるための活動や弁護士自身の研鑽を重ねてきた。

もっとも、インクルーシブ教育が子どもにとっての権利であり、現在の日本の教育においてその権利が十分に保障されていないという現実が、当会全体において改善すべき課題として意識的に取り上げられてきたとは言い難く、そのためもあってか、福岡県内の児童生徒及び保護者において、通常学級で学習する権利の保障が弁護士に相談することによって解決され得る問題であるという認識は十分に広がってはいない。

また、特別支援学校や特別支援学級に在籍する生徒数が急増する中にあって、各自治体や教育委員会に対して、通常学級で学習することを希望する児童生徒及び保護者の権利が侵害されないための十分な働きかけができていたとは言い難い。

法律家たる弁護士は、制度の狭間で声を上げられない子どもたちの代理人として、教育行政の不作為や権力的な分離政策に対し、法的な観点から毅然と立ち向かう責務を負っている。

当会は、個別事案における学校側との粘り強い交渉や、必要に応じた当会の人権救済申立制度の積極的活用のみならず、インクルーシブ教育が子どもにとって重要な権利であるという認識を広く社会に普及していく活動を通じて、教育現場における差別的取扱いの是正と権利回復に全力を尽くす決意である。

第6 インクルーシブ教育実現に向けた国の制度改革と自治体における運用改善

1 国に求める法制度改革及び国家行動計画

国は、学校教育法等を改正し、すべての子どもが、必要な支援及び合理的配慮を受けつつ、障害その他の差異の有無にかかわらず地域でともに学ぶ権利を有することを明記し、教育委員会が、障害の程度、医療的ケアの必要性、あるいは学校側の設備不足・人員不足を理由として、通常学級への受け入れを拒否することを法的に禁止すべきである。

そして、就学先決定においては子どもの権利を主軸に置き、意見を表明する支援を含めて本人の意向を最大限尊重するとともに、本人の意に反する特別支援学校・学級への強制的な振り分け手続を直ちに廃止する必要がある。

2 国の財政措置を前提とする通常学級の人的・物的基盤整備及び変革

真に求められているのは、障害の有無にかかわらず、すべての子どもの権利を主軸に置いた学校教育への転換である。そのためには、従来のように、支援を必要とする子どもを特別支援学校又は特別支援学級に振り分けることによって対応するのではなく、地域の通常学級に多様な子どもが通うことができる基盤を整備しなければならない。

したがって、国は、特別支援教育に重点的に配分されてきた予算、人員及び専門的資源のあり方を見直すことにより、通常学級における1クラスあたりの少人数化、教員・支援員・看護師・専門職の配置拡充、施設設備のバリアフリー化、教材・情報保障及び校内支援体制の整備を目差し、計画的に資源を移行・拡充すべきである。

あわせて、通常学級に多様な子どもが通うことを前提に、一方向的な一斉授業を原則とする教育方法を改めるなど、子どもたちの主体的な学び合いを大切にする多様で柔軟な授業形態を目指すべきである。

3 医療的ケア児等の地域就学及び在学を可能にする個別的権利保障と合理的配慮

前項の制度的な構造転換と並行して、現に地域の学校への就学及び在学において困難に直面している医療的ケア児等の権利保障は喫緊の課題である。

国は、手厚い医療的ケアや身体的支援を必要とする子どもが地域の通常学校で学ぶ権利を実質化するため、各自治体の財政力に左右されない安定的な財政措置及び人的確保策を講じることが急務であり、福岡県及び県内各市町村は、国の財政措置も活用しながら、個別のニーズに応じた合理的配慮を確実かつ速やかに提供できる体制を構築していかなければならない。

具体的には、人員不足等を理由に保護者の付き添いを前提とする運用がなお残る場合にはこれを速やかに見直し、就学・通学支援並びに遠足や修学旅行等の校外・宿泊行事への参加に必要な看護・支援体制について、保護者負担に依存しない公的支援を全県域で整備する必要がある。

また、こうした個別的権利保障を実効的なものとするため、校舎のエレベーター設置や多目的トイレ、クールダウンルームの整備など、すべての学校施設のバリアフリー化を急務として進める必要がある。

医療的ケア児等の地域就学保障は、個々の保護者の交渉力や学校長の判断に左右されるべきではなく、国の財政措置と自治体の実施体制によって制度的に保障されなければならない。

4 合理的配慮に関する指針及び紛争解決手続の構築

現行の障害者差別解消法第7条及び第8条は、行政機関等及び事業者に対し、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮を行うことを求めており、その実施に「過重な負担」が伴わない限り合理的配慮を提供しなければならない。しかし、教育現場において「予算がない」「前例がない」「他の児童生徒への影響がある」といった理由で安易に「過重な負担」が主張され、配慮が拒まれるケースが後を絶たない。しかしながら、国連障害者権利委員会は、一般的意見4号の中で、インクルーシブ教育の実施においては、合理的配慮の提供の義務から逃れるために、均衡を失した「過重な負担」の主張することは禁止されるべきであると明言している。「過重な負担」の判断は、国・自治体による財政的支援等を踏まえた実現可能性や代替措置の有無、事務・事業への影響などを厳格に考慮し、建設的対話を尽くした上で個別具体的に判断されなければならない。

国及び福岡県は、合理的配慮の提供が安易に否定されることのないよう、「過重な負担」の判断を厳格に行うための指針を策定するとともに、これを実効化するための財政的・人的支援体制を整備すべきである。

また、就学先決定や合理的配慮の提供をめぐっては、学校・教育委員会と本人・保護者との間に情報量や交渉力の格差が存在し、現行制度の下では、当事者が迅速かつ実効的な救済を受けにくい。このため、学校・教育委員会から独立した第三者的な紛争解決メカニズムが不可欠である。

5 社会モデル及び人権モデルに基づく学校運営への転換

真のインクルーシブ教育を実現するためには、就学先決定や合理的配慮の場面に個別に対応するだけでは足りず、学校運営及び教育実践そのものを見直す必要がある。

従来の教育実務には、障害を個人の側の問題として把握し、子どもが学校の既存の仕組みに適応することを求める医学モデルの発想がなお根強く残っている。しかし、障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育は、そのような発想を前提とするものではない。必要なのは、環境の側の障壁の除去を重視する社会モデル及び障害を人間の多様性の一部として尊重する人権モデルに基づき、学校の制度、施設設備、教育方法、評価、校内支援体制及び意思決定のあり方を見直すことである。

したがって、個別の教育支援計画、個別の指導計画、就学相談、進級・進学支援、生徒指導、校外学習及び学校行事を含む学校運営全般について、障害のある子どもを保護や管理の対象としてではなく、権利の主体として位置付ける観点から再構築しなければならない。また、そのためには、教職員に対する継続的な研修を通じて、社会モデル及び人権モデルに基づく理解を学校現場に定着させることが不可欠である。

第7 結語

本決議は、現在の制度下において、特別支援学校又は特別支援学級で現に積み重ねられてきた実践や知見、その中で養われた子どもの学びを否定するものではない。むしろ、その経験や支援の蓄積を、地域の通常学級へと広げることにより、すべての子どもたちがともに学べるよう活かしていくべきである。

ともに学ぶ経験の欠如は、社会に出た後の障害者に対する無理解、偏見、そして差別の根本的な原因となる。子どもの頃から障害の有無にかかわらず多様な他者と日常的に関わり、ともに困難を乗り越え、ともに育ち合う経験こそが、将来の共生社会を形成するための不可欠な土台である。アンケート報告書における福岡県の当事者・保護者の声にも、保育園も普通の保育園に通っていたため、同級生とそのまま小学校に行くことに抵抗はなく、子どもたちの方が先生より本人の側に寄ってくれたとの声や、朝の通学を兄や兄の友人が一緒にしてくれ、自然と皆の中に一緒にいる感覚だったとの声などが紹介されている。これらは、ともに学ぶことが、単に同じ教室にいることではなく、同じ人間として、ともに生きる経験を育むものであることを示している。

現在の分離教育システムは、障害のある人を社会から不可視化し、マイノリティに対する差別構造を次世代に再生産する構造となっている。インクルーシブ教育の実現は、決して障害のある子どもだけの問題ではなく、すべての人にとって生きやすい多様性のある社会を構築するための国家的な急務である。

当会は、国、福岡県、及び県内各市町村に対し、国連の勧告を真摯に受け止め、国際人権基準に合致したインクルーシブ教育の実現に向けた具体的かつ速やかな行動を強く求める。当会は、今後も弁護士の総力を結集し、障害のある子どもたちの等しく学ぶ権利が侵害されることのないよう、教育現場における法的なアドボカシー活動や人権救済に不退転の決意で取り組み続ける所存である。

以上

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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