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「全面的な取調べの録音・録画」及び「弁護人の取調べへの立会い」の法制化とともに早期実施を求める決議

カテゴリー:決議

日本の刑事司法は、長らく「密室での長時間取調べ」と「長期の身体拘束」による自白に依存してきた。この構造は「人質司法」と呼ばれ、黙秘権の行使を困難にする負の歴史を築いてきた。密室では威圧的・高圧的な取調べが横行した結果、個人の尊厳が踏みにじられ、多くの冤罪事件が生み出された。袴田巖氏の再審無罪や志布志事件などは、暴力や精神的拷問による虚偽自白の強要及び人権蹂躙を象徴する事例である。その後も氷見事件や足利事件などの再審無罪が相次ぎ、密室取調べが供述ねつ造の温床となっている実態が示されてきた。

2010年(平成22年)の郵政不正事件を契機として2016年(平成28年)に刑事訴訟法が改正され、取調べの録音・録画が一部導入された。しかし、録音・録画の義務化の対象は全事件の3パーセント未満に留まり、改正後も録音・録画がない事件を中心に違法な取調べが継続している。2016年(平成28年)に義務化された極めて限定的な録音・録画では、その対象とされていない多くの事件において、捜査機関による違法・不当な取調べを防止することができない以上、一刻も早く、全事件・全過程の取調べの録音・録画を義務化する必要がある。

 また、取調べの録音・録画が実施されている事案においてもなお、捜査機関による違法・不当な取調べがなされていることが全国各地から報告されており、取調べの録音・録画だけでは違法取調べを根絶できないことを露呈している。これを解決するには、もはや、弁護人が取調べに立ち会うほかない。弁護人の取調べへの立会いは、不当な取調べの牽制、即座の助言による虚偽自白の防止、および被疑者、特に障がい者、高齢者、若年者等のいわゆる「供述弱者」への心理的安心感を提供するという極めて重要な役割を果たす。 国際的には、ヨーロッパ諸国、韓国、台湾など多くの国・地域で弁護人の立会権が確立されており、国連拷問禁止委員会も日本に改善を求めているところである。

 このように、捜査機関の自浄作用に期待できない以上、刑事訴訟法を改正し、「全事件・全過程の取調べの録音・録画」と「弁護人の立会権」を違法・不当な取調べを根絶するための両輪として明記すべきである。

そして、捜査機関は、その法改正を待たず、直ちにこれらを実践すべきである。

当会は、繰り返される捜査機関による違法・不当な取調べを抜本的に防止するために、国に対し、下記1及び2の内容の刑事訴訟法の改正を一刻も早く行うよう求める。

1 捜査機関は、被疑者・被告人の取調べを実施する際、全事件・全過程を録音・録画しなければならず、それを欠く場合、公判における同供述証拠の証拠能力を否定する旨

2 捜査機関は、被疑者、被告人またはその弁護人から、取調べへの弁護人の立会いを希望する旨の申出を受けたときは、弁護人を取調べに立ち会わせなければならない旨

また、検事総長及び警察庁長官に対し、上記の法制化を待たずに直ちに下記3及び4の対応を指示するよう求める。

3 被疑者・被告人の取調べを実施する際、全事件・全過程の録音・録画を実施すること

4 被疑者、被告人またはその弁護人から取調べへの弁護人の立会いを希望する旨の申出を受けたときは、弁護人を取調べに立ち会わせること

当会は、過去の冤罪の悲劇を教訓に、法治国家としての責務を果たすべく、真に人権を守る刑事司法制度の確立を目指し、活動を継続していく所存である。

2026年(令和8年)5月27日

福岡県弁護士会 

提 案 理 由

1 日本の刑事司法の歴史と問題点

日本の刑事司法は、長らく、被疑者に対する「密室での長時間の取調べ」と「長期にわたる身体拘束」によって獲得される自白に依存してきた。その構造は「人質司法」と呼ばれ、被疑者が、憲法上保障されている黙秘権を行使することを極めて困難にしてきたという負の歴史がある。

密室での取調べにおいて、捜査機関は、市民の誰からも監視されていないことに乗じて、ときに威圧的、侮辱的、高圧的な言動に及んできた。そうした苛烈な取調べを受けた被疑者は、取調べにより個人の尊厳を踏みにじられていった。被疑者の中には、違法・不当な取調べによって虚偽の自白を強いられる者が少なからず存在し、その結果、累々たる冤罪の山が築かれていった。

例えば、袴田巖氏の再審無罪は、長期勾留と自白強要という日本の刑事司法の構造的欠陥を象徴するものである。袴田氏は、逮捕当時、捜査機関によって、長時間にわたる取調べを受け、ときには暴力を振るわれるなどの精神的・肉体的拷問が繰り返され、その結果、虚偽の自白を強いられ、半世紀以上もの間、死刑執行の恐怖に苛まれることとなった。また、志布志事件では、取調べを実施した警察官が、被疑者に対して被疑者の親族の名前を記載した書面を踏ませることを強制する(いわゆる「踏み字」)などの違法・不当な取調べによって、虚偽の自白を強いられるだけでなく、被疑者やその家族の人権が著しく蹂躙された。

志布志事件判決と同時期には、2007年(平成19年)の氷見事件、2010年(平成22年)の足利事件、2011年(平成23年)の布川事件といった再審無罪判決が立て続けに出されたが、これらの事件も、密室での長時間にわたる違法・不当な取調べが依然として供述ねつ造の温床となっていることを示した。

2 全事件・全過程の取調べの録音・録画の必要性

2010年(平成22年)、検察官による証拠のねつ造が明らかとなったいわゆる「郵政不正事件」を契機として2016年(平成28年)に刑事訴訟法が改正され、取調べの録音・録画が一部導入されることとなった。

しかしながら、2016年(平成28年)改正刑事訴訟法において録音・録画が義務化されたのは、全事件の僅か3パーセント未満にすぎず、当初から不十分であることが指摘されていた。

実際、2016年(平成28年)改正刑事訴訟法施行後も、録音・録画が実施されていない事件を中心に違法・不当な取調べが依然として横行しており、その効果が極めて限定的であることが明らかとなった。

例えば、2021年(令和3年)に発生した佐賀県警による「違法調書事件」では、被疑者が黙秘しているにもかかわらず、警察官が事前に自白調書を作成していたことが明らかとなり、2025年(令和7年)12月、福岡高等裁判所は、これを違法と断じ、佐賀県に対して損害賠償を命じた。

また、2017年(平成29年)に発生した「三重県鳥羽警察署事件」では、警察官が、窃盗を否認する被疑者に対して、黙秘権の告知を一切しなかったばかりか、「顔見とったらわかるわな、泥棒みたいなもん。泥棒!!!」「泥棒に黙秘権あるか!」「新聞載っとけ!伊勢新聞やら中日やら、全部のしたるわ。報道発表して。」などと、黙秘権を否定する趣旨の発言を繰り返すとともに被疑者の人格を否定し、相当な恐怖感や疲弊感を与える取調べを7時間21分もの長時間にわたり実施した。2022年(令和4年)3月、津地方裁判所は、担当警察官の行為の違法性を認め、三重県に対して損害賠償を命じた。

これらはほんの一例にすぎず、2016年(平成28年)に義務化された限定的な録音・録画では、捜査機関による違法・不当な取調べを根絶することができないことが明らかとなった以上、一刻も早く、全事件・全過程の取調べの録音・録画を義務化する必要がある。

そして、この実効性を確保するためには、これを欠いて作成された供述証拠の証拠能力を否定する必要がある。

3 取調べの立会いの必要性

取調べの録音・録画の導入により、取調べの可視化がなされても、なお、捜査機関による違法・不当な取調べがなされていることが明らかとなっている。すなわち、取調べの可視化だけでは、被疑者の権利擁護としては不十分であることが皮肉にも「可視化」された。

たとえば、「プレサンス事件」では、検察官による必要性・相当性を欠いた威圧的・侮辱的・脅迫的な言動に基づく取調べがなされたことが、録音録画映像により明らかになった。同事件においては、違法・不当な取調べ状況が明らかになっただけでなく、録音・録画による違法取調べへの抑止効果が限定的であることもまた明らかとなった。

また、同事件では捜査機関の取調べのあり方が旧態依然としていることも浮き彫りになった。「検察なめんなよ。」と恫喝する担当検事の様子を見るに、日本の捜査機関の人権意識はいまだ前近代的であるといわざるを得ない。

同事件の取調べ担当検事に対する特別公務員暴行陵虐事件に関する付審判請求事件・高裁決定において、裁判所は、「今回の事案が、上記のような経緯を経て導入された録音録画下で起きたものであることを考えると、本件は個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えるべきではない。あらためて今、検察における捜査・取調べの運用のあり方について、組織として真剣に検討されるべきである。」と指摘した。この裁判所の判示は、一事件の判断にとどまらず、現在の取調べのあり方を痛烈に批判するものであり、検察は重く受け止めるべきである。

同事件の他にも、録音・録画下での違法・不当な取調べは全国各地から報告されており、取調べの録音・録画のみでは、違法・不当な取調べを根絶することができないことが明らかとなった。

捜査機関による違法・不当な取調べの歴史、取調べが録音・録画されてもそれが改善されない現状に鑑みれば、もはや捜査機関による自浄機能に期待することができないことはいうまでもなく、捜査機関による違法・不当な取調べを根絶するためには、前記可視化に加え、弁護人が、実際の取調べに立ち会うほかない。

弁護人が取調べに立ち会うことにより、捜査機関による違法・不当な取調べを牽制することができるし、仮に、違法・不当な取調べがなされても、その時点で弁護人が異議を述べて制止することができる。

加えて、弁護人による取調べの立会いは、弁護人が、被疑者に対して、即座に必要な助言を行うことを可能とし、被疑者が虚偽自白に陥ったり、事実と異なる虚偽の調書が作成されたりすることも防止できる。

さらには、弁護人が立ち会うことで、被疑者に心理的安心を与えることができるという効果も生じる。刑事手続に不慣れな一般市民にとって、捜査機関による取調べは、極度の精神的負担を伴うところ、弁護人が傍にいることで被疑者は安心して、冷静に対応することが可能となる。

特に、障がい者、高齢者、若年者等のいわゆる「供述弱者」は、捜査機関の言動等の影響によって供述が歪められる可能性が高く、弁護人による取調べ立会いが極めて重要となる。実際、知的障がい等のある被疑者に対して、弁護人立会いを「合理的配慮」として求め、立会いが認められた事例もある。当会は、これまで、障がい者、高齢者、若年者等に対する権利擁護のための活動に取り組んできたが、そうした観点からも、本制度を推進すべき理由がある。

今日、取調べへの弁護人の立会いは、アメリカ、ヨーロッパ諸国、韓国、台湾など多くの国・地域で認められている。

ヨーロッパでは、2008年(平成20年)、欧州人権裁判所が、原則として弁護人に対するアクセスは警察による最初の被疑者取調べから提供されることが求められると判断し、その後、取調べに弁護人の立会いを求める権利を含む弁護人に対するアクセスの権利に関する判例法が形成された。その後、欧州議会とEU理事会は、2013年(平成25年)、取調べに弁護人の立会いを求める権利を保障するEU指令を採択した。具体的には、被疑者及び被告人は、捜査機関による取調べに弁護人の立会いを求め、積極的に参加してもらう権利を有し、弁護人は取調べに際して質問し、意見を述べることができるものとされ、ほとんどのEU加盟国において、国内法が見直され、同指令に整合するよう立法措置が講じられた。

日本と刑事手続が類似する韓国においても、弁護人を取調べに立ち会わせる権利が確立されている。2003年(平成15年)、大法院が、弁護人の援助を受ける権利を実質的に保障するため、憲法及び法律が接見交通権を保障していることを指摘し、被疑者は取調べ中に弁護人の立会いを求める権利を有すると判断し、2007年(平成19年)、刑事訴訟法が改正され、被疑者又はその弁護人、被疑者の配偶者等一定の親族の請求があった場合に、捜査機関は弁護人を取調べに立ち会わせなければならない旨が明文で規定された。また、被疑者が弁護人を取調べに立ち会わせる権利を行使したにもかかわらず捜査機関が取調べを続けた場合の効果について、大法院は、2003年(平成15年)、被疑者が弁護人を取調べに立ち会わせる権利を行使する旨を表明した場合に、取調べを継続することは違法であると判断し、その取調べで作成された供述調書の証拠能力を否定した。

台湾においては、1982年(昭和57年)の刑事訴訟法の改正により、弁護人が取調べに立ち会うことができる旨が規定され、2000年(平成12年)には、弁護人が取調べ中に発言することができる旨が規定されている。さらに、2013年(平成25年)には、被疑者又は被告人が弁護人の選任を表明した場合には、取調べを直ちに止めなければならない旨が規定されている。

以上のように多くの国で弁護人の取調べへの立会いが法制化されている中、日本では、依然として弁護人の立会いが法的に認められていない。2013年(平成25年)5月の国連拷問禁止委員会の総括所見でも「すべての取調べの間、弁護人を立ち会わせることが義務的とされていないこと」について「深刻な懸念」が表明されているが、この総括所見と諸外国の動向を見るに、日本がいかに前近代的かを思い知らされるところであり、一刻も早い法制化が求められることはいうまでもない。

4 全面的な取調べの録音・録画、取調べへの弁護人立会いの法制化の必要性

以上のとおり、捜査機関による違法・不当な取調べを抑止するためには、全面的な取調べの録音・録画と弁護人の立会いの両輪を整備する必要がある。

そして、その重要性に鑑みれば、録音・録画を義務づける対象事件を全事件・全過程に拡大し、弁護人の立会いを権利とし、被疑者または弁護人が求めた場合にはこれを認めなければならないとする規定を刑事訴訟法に明記するべきである。

まず、取調べの録音・録画については、捜査機関による恣意的な運用を規制し、被疑者の供述の過程を事後的に検証しうることを法的に義務づける必要があるといえる。

  次に、取調べの立会いについては、現状の法制度においても、取調べへの弁護人の立会いが禁止されているわけではなく、捜査機関において、弁護人の立会いを認めることは可能である。しかし、現在、実務において、弁護人が被疑者の取調べに際し、弁護人の立会いを申し入れたにもかかわらず、取調べの立会いを認める例は全くと言っていいほどない。だからこそ、弁護人の取調室への立会いを権利として法律に明記することにより、捜査機関による密室における糾問的な取調べの在り方、前近代的な実務の運用を抜本的に変える必要がある。

5 捜査機関は法改正を待たずに直ちに全面的な取調べの録音・録画、取調べへの弁護人立会いを実践すべきであること

今、現在においても、違法・不当な取調べを生んでいる日本の取調室の密室性については直ちに是正されなければならない。そのため、捜査機関は、全事件・全過程の取調べの録音・録画、弁護人の立会いが法制化されることを待つまでもなく、直ちに全事件について取調べの全過程の録音・録画を実施し、かつ、被疑者、被告人またはその弁護人が、弁護人の取調べへの立会いを求めるときには、弁護人を取調べに立ち会わせるべきである。

6 最後に

当会は、これまで、2003年(平成15年)5月27日に「取調の全過程の録音・録画による取調の可視化を求める決議」、2005年(平成17年)10月4日、「取調べの録音・録画実現とその試験的な導入を求める声明」、2008年(平成20年)5月27日、「より良い刑事裁判の実現を目指して」と題する宣言、2011年(平成23年)3月9日に「今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議」、2015年(平成27年)4月22日、「「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対する会長声明」において、取調べの可視化(全面的な録音・録画)の必要性を訴えかけてきた。

また、当会は、2026年(令和8年)2月7日に、シンポジウム「密室の扉をこじあけろ!~取調べの可視化・弁護人立会いの意義~」を開催した。今後もシンポジウム等を通じて取調べの可視化・弁護人立会いの法制度の改革を行なっていく必要があることを広く市民と共有していく。

当会は、今後も引き続き、個別の弁護活動において、取調べの可視化申し入れを続けることで、取調べの録音・録画の対象事件の拡大を目指すとともに、取調べへの弁護人の立会いの申入れ、立会いの実践等の活動を積極的に行うことを通じて、法改正を目指していく。

今こそ日本は、過去の冤罪事件等の悲劇を教訓とし、全事件・全過程の取調べの可視化と弁護人の取調べへの立会いを制度として確立し、真に人権を守る刑事司法を築くべきである。それこそ、法治国家としての最低限の責務である。

以 上

消費者庁が設置した「多数の消費者に深刻な財産被害を及ぼす詐欺的な悪質商法対策プロジェクトチーム」を早期に開催し、行政による被害回復制度の導入を求める会長声明

カテゴリー:未分類

消費者庁は、詐欺的な悪質商法への対応に関する検証等を進めていくことを目的として、2025年11月19日付で「多数の消費者に深刻な財産被害を及ぼす詐欺的な悪質商法対策プロジェクトチーム」(以下「PT」という。)を設置した。ところが、その後、PTは開催されず、何も具体的に進められていない。

投資の裏付けに乏しく、出資金をそのまま出資者への配当に回すような破綻必至の詐欺的商法により消費者に巨額の被害を生じさせる事案が後を絶たない。このような事案の問題点は、表面上の配当で被害が顕在化しないまま急速に拡大し、かつ、被害が顕在化した時には個々の被害額も多額で総額としても巨額になることが多いことである。被害者には深刻な被害を生じさせながら、被害が顕在化したときには集められた資産が散逸してしまっていることが多いため、被害回復のためには早期に業務を停止させ、資産を確保する必要がある。

2009年に制定された消費者庁及び消費者委員会設置法(附則第6項)では、政府に対し、加害者の財産の隠匿又は散逸の防止に関する制度を含め多数の消費者に被害を生じさせた者の不当な収益をはく奪し、被害者を救済するための制度について検討し、必要な措置を講じることが求められていた。これを受け、消費者庁は、消費者の財産被害に係る行政手法研究会を設置し、2013年6月に報告書「行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策について」を取りまとめるなどしたが、その後、消費者庁において、具体的な方策の検討が十分行われてきたとは言えない。

2013年の報告書以降、2018年には磁気ネックレスなどを購入させ、これを預かってレンタル料を支払うと称していたジャパンライフ事件や干し柿などのオーナーになることで高配当をうたったケフィア事業振興会事件が相次いで発覚し、巨額の消費者被害が生じているが、その責任の一端は、具体的な方策の検討を怠ってきた消費者庁にもあるものといわざるをえない。

このような事態を受けて、内閣府消費者委員会では、2023年8月、消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループにおいて、いわゆる破綻必至商法に関する報告書を取りまとめ、行政庁による破産申立権限を検討すべきとの意見をのべた。2025年7月に出された内閣府消費者委員会の消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会報告書でも、消費者法制度を抜本的に再編・拡充すべきとした上で、深刻な被害を発生させる悪質事業者・悪質商法について、既存の枠組みに捉われることなく、官民総力を挙げて消費者取引の市場から排除することが求められた。

その後、今年に入っても、福岡県内で、野菜の販売に仮託して出資を募った事案での代表者らが逮捕されるなど、破綻必至商法による被害が継続して発生している。

そこで、当会は、詐欺的な悪質商法による消費者被害の発生を防止し、その被害を一刻も早く救済できるようにするために、消費者庁に対し、今回設置されたPTを早期に開催し、具体的制度の検討を進め、行政庁による破産申立制度等、悪質商法に対する行政による被害回復制度の導入を進めていくよう、求めるものである。

2026(令和8)年5月7日

福岡県弁護士会

会長 池田耕一郎

「日野町事件」第2次再審請求事件についての特別抗告棄却決定を高く評価すると共に、速やかな再審公判の審理を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 最高裁判所第二小法廷(岡村和美裁判長)は、2026年(令和8年)2月24日付けで、いわゆる「日野町事件」第2次再審請求事件について、検察官の特別抗告を棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。これにより、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月にした再審開始決定が確定することとなる。

「日野町事件」の概要は、当会が2023年(令和5年)2月27日付けで会長声明を発しているとおりであり、無期懲役の有罪判決が確定した元受刑者である故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)について、阪原氏の死後に再審開始が認められたものである。無期懲役以上の刑が確定した事件について、元被告人の死後に再審開始が決定されたのは戦後初である。

本決定は、えん罪救済と刑事司法への信頼回復の観点から、極めて重要な意義を有するものであり、再審制度を通じて誤判を是正するという司法の責務を改めて確認したものである。当会は、本決定を高く評価すると共に、速やかな再審公判の審理を求めるものである。

2 「日野町事件」については、阪原氏が生前にした第1次再審請求が棄却され、その即時抗告の審理中に阪原氏が亡くなってしまっており、阪原氏が生前に無罪判決を受けることができなかったことが悔やまれてならない。第2次再審請求については、2018年(平成30年)7月に再審開始の決定があったが、その後検察官が不服申立てを繰り返したことにより、再審開始が確定するまでに7年半の歳月を要している。大阪高等裁判所が2023年(令和5年)2月に検察官の即時抗告を棄却しており、検察官が特別抗告を申し立てることがなければ、既に阪原氏の無罪が確定していた可能性があったといえる。本決定は、これまでの多くの再審事件についての最高裁決定と異なり、特別抗告の理由に具体的に踏み込むことなく、再審請求を認容すべきものとした大津地方裁判所の決定が結論において正当であるとした大阪高等裁判所の判断に誤りがあるとは認められない旨説示したものである。検察官の特別抗告の理由が、大阪高等裁判所の抗告審としての判断をいささかも動揺させるものでなかったことを物語っており、特別抗告の申立て自体に無理があったといえる。

このように、えん罪被害者の名誉回復が検察官の不服申立てによりいたずらに長期にわたって遅延することは、重大な人権侵害であって誠に遺憾である。

3 また、上記の大津地方裁判所による再審開始決定の大きな根拠となった新証拠は、第2次再審請求において証拠開示が行われた「警察が検察官に送致していなかった引当捜査の状況を撮影した写真のネガ」であった。確定判決が最も重視した間接事実は、引当捜査の際に阪原氏が金庫発見場所や死体発見場所を案内することができたという事実であったが、ネガが証拠開示されたことによって、その捜査報告書の写真の順番が入れ替えられていたことが判明したのである。

このような事実は、捜査機関が裁判所に提出することなく保管している証拠を再審請求後早期の段階で全面的に開示させることが、えん罪被害者を救済するために必要不可欠であることの立法事実を示している。

4 ところで、法制審議会は、法務大臣に対して、いわゆる再審法改正についての諮問に対する答申をしたが、その内容は検察官による不服申立てを禁止していない。証拠開示の点についても、再審請求の審判を開始するか否かの調査を先行しなければならない制度設計であり、職権による証拠開示を認めず、開示の範囲も限定的であるなど大きな問題を積み残した内容のものである。今回、「日野町事件」について検察官がしたように、再審開始決定に対して検察官が不服申立てをすることができる制度を変えない限り、えん罪被害者の名誉回復が遅延する事案が今後も起こり得る。

当会においても、2026年(令和8年)1月14日付けで会長声明を発しているが、えん罪被害者の速やかな救済の実現という再審法改正の原点に立ち返る必要のあることはいうまでもない。えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(超党派議連)が、先般行われた衆議院議員総選挙後初の会合を開催した旨報じられており、改めて超党派議連の再審法改正案を議員立法によって法制化するという再審法改正の実現のため、全力を尽くす決意である。

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会

会長 上田 英友

法制審議会が法務大臣に対して答申した刑事再審手続に関する法整備の案(諮問第129号に対する答申)に強く反対すると共に、かつて超党派議連が提出した改正案の法制化を実現することを求める会長声明

カテゴリー:声明

1 法制審議会は、2026年(令和8年)2月12日、刑事再審手続に関する法整備の案(諮問第129号に対する答申案)を審議し、全会一致の慣例にもかかわらず多数決をもって原案どおり採択し、法務大臣へ答申した(以下「本答申」という)。採択は反対が4、棄権が1と異例な結果であった。

本答申は、えん罪被害者の救済を本来的目的とする刑事再審制度につき、再審請求手続の全面的見直しを図るものと称して法務省の事務当局により取りまとめられたものであるが、その内容には、えん罪被害者の救済という再審制度の趣旨・目的に反し、再審請求人に過度の負担と不利益を課し、かえって再審開始を困難にする重大な問題点が含まれており、断じて容認できない。

2 まず、本答申は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止していない。いわゆる袴田事件など累次の再審事件において、検察官の度重なる抗告・特別抗告により、再審開始・再審無罪の言渡しまでに著しく長期に及んでいることが指摘されているが、検察官の不服申立てを無制限に認めている。本答申は附帯事項として、「検察官において、もとより結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる」旨記載してはいるものの、実際の事件においてそのような適切な対応がなされるかはいわば担当検察官を中心とした検察庁の裁量に委ねられており、不服申立ての歯止めとはなっていない。絵に描いた餅である。

そもそも、検察官は、再審請求手続の当事者ではなく、公益の代表者として裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎず、再審開始を認める決定に対して当然に不服申立てを行うべき立場にはない。しかも、いわゆる「福井事件」の第1次再審請求において、検察官が、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対する不服申立てを行った結果、再審開始決定が誤って取り消されるという事態も生じている。今後、このような事態が生じるのを防ぐためにも、検察官に「公益の代表者」として不服申立てを行う資格を認めるべきではない。そして、再審開始決定は、再審を開始する旨決定するだけであり、有罪・無罪の実体判断は再審公判において改めて行われることが予定されている。検察官は、再審公判において確定判決に誤りがないことを主張することが可能であり、再審開始決定に対する不服申立てを認めなくても何ら不都合は生じない。

再審は、既に有罪判決が確定した者について、後に無実を明らかにし得る新証拠が提出された場合等に、当該判決の誤りを是正するための例外的救済手続であるところ、開始決定に対する検察官の不服申立てを広く許容することは、えん罪被害者の救済をいたずらに遅延させ、重大な人権侵害を継続させる結果を招くこととなる。本答申は、その点において、えん罪被害者の早期救済の必要性という立法事実に何ら向き合っていないとの非難を免れない。

3 また、本答申は、検察官の保管する裁判所不提出記録につき、再審請求審及びその準備段階における閲覧・謄写の制度化を図る一方で、その運用に関し、裁判所が「必要と認める」場合に限って閲覧・謄写を認めるとするなど、検察官の裁量と裁判所の判断に広範な余地を残し、弁護人の活動を過度に制約するおそれを残したものといえる。証拠開示についても、裁判所に対して一定の要件の下で証拠開示命令を発する余地を認めているが、関連性、必要性、相当性を弁護人が具体的に主張、疎明しなければならず、そうした疎明は必ずしも容易ではないことからして、証拠開示が認められない結果となるのである。

えん罪事件においては、従前、検察官が保管する未提出証拠の開示が再審開始及び無罪判決の決定的契機となってきたところであり、真に必要とされるのは、検察官手持ち証拠の包括的な開示義務の明確化と、その履行を実効的に担保する制度であって、検察官や裁判所の裁量の余地を残すべきものではない。

本答申は、証拠開示の範囲及び方法について検察官・裁判所の統制権限を温存しており、えん罪救済の観点から不十分な内容にとどまっている。

4 さらに、本答申は、再審請求審における裁判官の除斥・忌避、再審開始事由の在り方等、多岐にわたる重要論点について、えん罪救済の実効性確保という観点から極めて不十分な内容にとどまっている。

本答申は、「再審の請求についての調査手続」を新たに設け、「審判開始決定」がなされない限り、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求が棄却されることになる上、再審の請求を受けた裁判所に対して、速やかに調査手続きを行い、審判を開始するか否かを決定することを義務づけたのである。この規定により、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が門前払いされる余地を残している点で、不十分というほかはない。

加えて、本答申は、確定審において刑の言渡し・刑の免除・無罪の言渡しに関する判決、控訴棄却の判決に関与した裁判官の除斥規定を設け、上告棄却の決定に関与した裁判官の除斥規定を設けなかった一方で、再審開始決定に関与した裁判官の除斥規定を設けている。再審請求審と再審公判は一連の手続であり、同一の裁判官が担当することは当然のことである。このような規定は、検察官に対して、再審開始が確定した事案について、再審公判において一から有罪立証を行うことを可能とするものであり、いたずらに審理を長期化させる結果につながる点で、不十分というほかはない。

5 一方で、国会においては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(超党派議連)が中心となり、えん罪被害者の迅速な救済を目的とする再審法改正案(刑事訴訟法の一部を改正する法律案)が議員立法として提出され、審議が継続されていたが、先般の衆議院解散によって廃案となった。

同改正案は、本答申と比して、再審請求手続における証拠開示の制度を大きく拡充し、再審開始決定に対する検察官による不服申立てを明文で禁止するなどの内容を含むものであり、えん罪被害者の早期救済の必要性という立法事実と真に向き合った内容である。まさに、えん罪被害者の人権救済に資する方向性を明確に示したものとして当会は高く評価する。

他方、本答申は、超党派議連による再審法改正案が示してきたえん罪救済の方向性を十分に踏まえることなく、検察官の不服申立てを維持し、証拠開示についても限定的な枠組みにとどめるなど、超党派議連の案に比して、明らかに「後退的」内容となっている。

6 当会は、えん罪の防止とその救済が刑事司法に対する国民の信頼の基盤となるべき課題であるとの観点から、本答申に対し、強く反対する。そして、検察官の不服申立てを禁止し、証拠開示についても大きく拡充した内容の超党派議連の再審法改正案が一刻も早く再度国会に提出され、その法制化を実現することを求める。

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会 会長 上 田 英 友

国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

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当会は、日本で初めて待機制の当番弁護士制度を導入し、いつでも、誰でも、弁護人にアクセスできる社会を目指し、被疑者・被告人の権利を守るため、刑事弁護の最前線を切り拓いてきた。その精神は、今日に至るまで当会の根幹を成し、全国でも高い国選弁護登録率として結実している。

しかし今、国選弁護制度はその持続可能性が揺らぐ重大な局面に直面している。

国選弁護制度は、被疑者・被告人の権利擁護のために必要不可欠な憲法上の制度である。現在、刑事事件の約9割は国選弁護人が担っており、日本の刑事弁護は国選弁護制度により支えられているといっても過言ではない。それにもかかわらず、国選弁護人の活動を支えるべき報酬体系は、その重要な責務と実態を反映しているとは到底いえない。

このような状況を踏まえ、日本弁護士連合会では、当番弁護士制度のほか、取調べ立会いの援助制度、障害者等に対する刑事弁護費用援助制度などを独自予算で創設し、さらに当会でも独自に、身体拘束解放後の被疑者弁護援助制度を創設するなど、被疑者・被告人が費用負担の心配なく高度化する刑事弁護活動を享受できる体制の拡充に注力してきた。しかしながら、無罪推定の原則が憲法上保障される日本において、これらの諸制度は、本来、国費で賄われるべきものである。

現在の国選弁護報酬は、昨今の急激な物価高、社会全体における賃上げの要請等を反映していないだけではなく、スマートフォンの普及等に伴うデジタル証拠の激増により、メッセージアプリを用いた事件関係者間の膨大なやり取りの精査が必要になるなど、弁護活動に必要な労力が飛躍的に増大しているにもかかわらず、その実態が基礎報酬に全く反映されていない。

国選弁護にかかる各種弁護費用に関しても、謄写費用、交通費などの実費が一部しか支給されず、弁護活動に要した費用が全額補償される仕組みになっていない。

また、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定、神奈川県警による証拠の捏造等、捜査機関による不正行為は未だになくなっておらず、捜査機関側の作成した証拠の信用性を争うべき事案は少なくない。過去の多くの冤罪事件においても、弁護側が提出した科学的鑑定等が無罪主張の柱となってきた。しかしながら、日本弁護士連合会及び当会において、私的鑑定等の費用援助制度を設け、弁護活動に一定の援助費用が支払われているとはいえ、現行の国選弁護制度では、鑑定費用をはじめ、本来行われるべき多くの弁護活動に対する費用が賄われず、適切な弁護活動を行う上で重大な支障を来している。冤罪防止の観点からも、国選弁護制度における費用の整備は喫緊の課題である。

国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少であり、100兆円規模の国家予算に占める割合は年々低下している。人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れていると言わざるを得ない。

よって、当会は、被疑者・被告人の権利擁護と公正な刑事司法制度の実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を強く求めるものである。

以上

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会 会長 上 田 英 友

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