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刑事再審手続に関する改正刑事訴訟法の成立にあたっての会長声明

カテゴリー:声明

2026年(令和8年)7月17日、刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)が参議院本会議で可決され、成立するに至った。

えん罪被害者とそのご家族、支援団体、市民の方々とともに、長年にわたり求め続けてきた再審制度の改革がようやくその一歩を踏み出したという点において本改正法の成立は大きな意義がある。その一方、「えん罪被害者の適正かつ迅速な救済」という再審法改正の目的の根幹を成す部分について、検察官の裁量に委ねる部分を多く残しているなど不十分な点も多い。

まず、証拠開示制度に関する定めが未だ不十分である。本改正法では、捜査機関が保管する証拠について、再審請求理由に関連し、裁判所が再審請求の判断のために必要かつ相当と判断した証拠の提出を命じる証拠提出命令制度が設けられたものの、我々が強く求めていた再審請求人や弁護人が主張立証を準備するために必要な証拠(以下「主張立証関連証拠」という。)の提出や開示を要請する権限が明記されることはなかった。主張立証関連証拠については、従来から、裁判所が職権で検察官に対して提出や開示を要請・勧告することがあったが、あくまで、「要請」、「勧告」にすぎないため検察官がこれに応じる法的義務はないとされ、問題とされてきた。

当事者である再審請求人や弁護人が主張立証のために必要と考える証拠にこそえん罪を晴らすための新証拠が含まれている可能性が高いことはいうまでもなく、主張立証関連証拠の開示こそ本改正法にて明記される必要があった。

しかし、本改正法で、主張立証関連証拠の提出命令が明記されなかったことにより、検察官が、本改正法に基づく証拠提出命令でないことを理由に、無罪につながる証拠の提出や開示の要請に応じないという対応をとることが強く懸念される。

次に、検察官の手持ち証拠を明らかにするための一覧表(以下「証拠一覧表」という。)の作成・提出を検察官に命じる制度が設けられなかった点にも大きな問題がある。証拠一覧表は、再審請求人や弁護人にとっては証拠開示を請求するための足がかりとなるものであり、検察官にとっても、証拠の保管状況を適切に把握できるという意味において極めて重要である。

過去のえん罪事件においては、検察官が「不見当」、「不存在」と回答し、開示されなかった証拠が、後になって開示された例も複数ある。

福岡における再審請求事件においても、2022年(令和4年)、検察官が、裁判所からの証拠開示勧告に対して「不存在」と回答して開示されなかった証拠が、1年半以上経過した後に開示され、大きく報道されたこともあった。

そのような検察官による杜撰な証拠の保管・管理を改善し、適切な証拠開示を実施させるためにも、証拠一覧表は必要不可欠である。それにもかかわらず、本改正法に証拠一覧表の作成・提出制度が明記されなかったことにより、従前と変わらず、検察官による証拠の提出・開示に向けた手続が円滑に進まなかったり、漏れが生じたりすることが強く懸念される。

さらに、本改正法では、検察官から裁判所に提出された証拠の複製を再審請求及びそのための準備以外の目的で使用することを一律に禁止し、その違反に対して罰則が設けられることとなった。目的外使用の禁止については、その弊害等を考慮し、必要に応じて個別に対応すれば足りるにもかかわらず、全ての証拠について一律に目的外使用を禁ずるのは過度の制約というほかない。この制約は、再審請求人や弁護人が、証拠の内容を必要な関係者に提供することを躊躇させ、さらなる新証拠の獲得に向けて行う活動に対しても萎縮効果を生じさせるものである。

また、本改正法において、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが原則として禁止されることとなった。これまで、えん罪被害者の迅速な救済の最大の足枷となっていた検察官の不服申立てが原則として禁止されることとなった点は評価できる。しかし、一方で、本改正法は、再審開始決定が「取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠」がある場合には、例外的に不服申立てを行うことを許容することとなった。しかも、本改正法には、検察官が「十分な根拠」なく不服申立てを行った場合の対応が明記されていないため、検察官が同規定に基づいて十分な根拠がないにもかかわらず不服申立てを行う可能性も否定できず、これまで同様、えん罪被害者の救済に長期間を要してしまうことが強く懸念される。

以上のとおり、本改正法の成立には大きな意義がある一方、その内容については、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済を阻害する多くの問題が残されたままとなっている。そのため、再審制度の最大の目的であるえん罪被害者の適正かつ迅速な救済という観点から、本改正法が適切に運用されることこそが何よりも重要である。

本改正法の附則では、政府は5年ごとに本改正法の施行状況等を勘案し、証拠の目的外使用の禁止に関する制度や検察官が保管する証拠の一覧表に関する制度を含む再審制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずることが定められている。

本改正法の成立は、5年後見直しの始まりでもある。当会としても、本改正法の施行状況を徹底的に検証し、適切な再審手続、ひいては、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済が実現されるよう引き続き尽力していく所存である。

2026年(令和8年)7月22日

                   福岡県弁護士会

                   会長  池  田  耕 一 郎


「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」に反対する会長声明

カテゴリー:声明

1 事実経過
  2026年6月16日、自由民主党、日本維新の会、国民民主党、参政党は、「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」(以下同法を「国旗損壊罪」、同法案を「本法案」という。)を共同で衆議院に提出し、本年6月30日に衆議院本会議にて可決された。今後、本法案の審議の場は参議院に移ることになる。

2 思想及び良心の自由、表現の自由の侵害
 国旗損壊罪の保護法益は、国旗を大切に思う国民感情であると説明されている。
 しかし、国旗に対する評価や感情は国民の間で一様ではなく、国旗を尊重する国民の感情の保護を理由として国旗損壊罪を創設することは、そのような価値観を有しない国民にとっては、憲法第19条が保障する思想及び良心の自由を侵害するとの批判を免れない。
 また、国の現状や政策に対して異論を述べるための象徴的表現として国旗の損壊を伴う表現行為が、政治的少数派の国民によって用いられることがある。しかし、本法案は、政治的少数派が多数派に対して異議を唱え、現状の変革を訴えるための政治的表現を委縮させてしまうもので、憲法第21条第1項が保障する表現の自由を侵害し、民主主義の健全な機能を歪めるおそれがある。
 なお、本法案には、3年を目途に、国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ十分なものとなっているかなどを検討するという附則が規定されているが、これは国家による監視の宣言であるとも受け取れるものであり、自由な意見表明が妨げられる社会に繋がるおそれがある。

3 罪刑法定主義違反
 憲法第31条は、市民にとって自らの行為が処罰の対象となるかどうかを予測できるよう、犯罪とされる行為の要件が明確に規定されていることを要求しており、これにより、処罰対象となる行為以外の行為が自由であることが保障される。
 しかしながら、国旗損壊罪は、客体や行為態様が不明確であり、憲法第31条が定める罪刑法定主義に違反するおそれがある。
 損壊等の客体となる「国旗」は、国旗及び国歌に関する法律(以下「国旗国歌法」という。)が定める国旗として社会通念上用いられていると認められる有体物と定義されている。しかし、この「国旗として用いられている」という要件は、判断基準が「社会通念」という抽象的概念に委ねられており、適用範囲が不明確である。例えば、国旗国歌法が規定する日章旗をどの程度デフォルメした場合に国旗性が失われるのか判然としない。結果として、「国旗」として扱われる範囲に実質的な限定がなく、定義としての機能を果たしていない。
 また、本法案は「損壊」、「除去」、「汚損」という行為態様を規制しているが、その外延が不明確であり、これらの行為に風刺やパロディ等が該当するかの判断は非常に困難である。規制対象となる「損壊」等の行為は、「人を著しく不快又は嫌悪の情を催させる」ものとされているが、「不快である」、「嫌悪感を覚える」といった抽象的かつ感情的な要件の該当性判断は、一義的には定めがたく、難解な評価を伴う。処罰の対象とするかどうかも、「行為の外形、周囲の状況やその他の客観的事情を総合的に勘案」して判断されることから、予測可能性を欠く。
 このように、国旗損壊罪は、その客体や行為態様が不明確であり、処罰の対象となるか否かが一義的に定まらないことから、憲法第31条が定める罪刑法定主義に違反するおそれがある。

4 結語
 以上のとおり、本法案は、憲法第19条が保障する思想及び良心の自由、憲法第21条第1項が保障する表現の自由を侵害するおそれがあり、憲法第31条が定める罪刑法定主義に違反するおそれがあるので、当会は、国旗損壊罪の制定に強く反対する。

2026年(令和8年)7月3日
福岡県弁護士会        
会  長   池田 耕一郎

刑事法廷内の入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める会長声明

カテゴリー:声明

日本の刑事法廷では、勾留された被疑者・被告人(以下「被告人等」という。)は、手錠・腰縄をされた状態で刑事法廷内を入退廷させられることが法廷慣行であり、それにより、裁判官や傍聴人などに手錠腰縄姿が晒されてきた。

 しかし、このような状況は、被告人等の個人の尊厳・人格権、無罪推定の権利、防御権等を保障する憲法及び国際人権法等に違反するとして、当会は、2025年5月29日、「刑事法廷内の入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議」を採択し、刑事法廷内で手錠・腰縄を使用しないように裁判所に求め、各会員においても、個別事件で、裁判官に対し、被告人等の入退廷時に手錠腰縄を使用しないことを求める申入れ活動をしていた。

 その後、2026年1月26日、最高裁判所事務総局刑事局は、「刑事裁判の法廷における被告人の戒護について(事務連絡)」を下級裁判所に発出し、同日、法務省矯正局も「刑事裁判の法廷における被告人の戒護及び手錠等の使用について(通達)」(法務省矯成第126号)を刑事施設等に発出し、これにより、各裁判所は刑事法廷内に被告人出入口付近に衝立を設置し、当該衝立内で被告人の手錠及び腰縄を解錠・施錠することを原則的な取扱いにすることとなった。これを受けて、福岡高裁・地裁管内でも、同年4月以降、刑事法廷の出入口付近に衝立を設置して、当該衝立内で手錠腰縄を解錠・施錠する運用が開始されている。

 これにより、被告人等が手錠腰縄姿を傍聴人には晒されなくなったことから、被告人等の人権侵害状況が一定程度改善した点は評価できる。

 しかし、裁判官には被告人等の手錠腰縄姿が見える位置に衝立が設置されることが予定されているため、裁判官はじめ訴訟関係人にも手錠腰縄姿を晒される状態は依然として残っており、被告人等が対等な当事者として扱われているとはいえず、いまだ被告人等の人権侵害状態が続いている。 

よって、当会は、被告人等の個人の尊厳・人格権、無罪推定の権利、防御権等の基本的人権を十分に保障するために、裁判官、裁判所及び国に対し、改めて、以下の措置を早急に講じることを求める。

1 裁判官は、刑事訴訟法287条1項但書が規定する事由があり、必要やむを得ない場合以外は、刑事法廷内で手錠・腰縄を使用しないこと。

2 国は、刑事訴訟法287条1項本文が規定する刑事法廷内における身体不拘束原則を入退廷時の被告人等に対しても確実に保障するため、同法に287条の2を新たに設ける等して、入退廷時の被告人等に対しても身体不拘束原則が及ぶことを明記すること。

3 国及び裁判所は、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室あるいはスペース等の設置)を講じること。また、たとえ上記最高裁事務連絡・法務省通達を前提にする場合であっても、裁判官はじめ訴訟関係人が被告人等の手錠腰縄姿を見えないような位置に衝立を設置すること。

を求める。

2026年(令和8年)7月1日

 福岡県弁護士会        

                 会 長  池田 耕一郎

最低賃金額の大幅な引上げ及び地域間格差の解消を求める会長声明

カテゴリー:声明

福岡県においては、2025年11月、福岡県最低賃金を前年比65円増額の1時間1,057円とする改定が行われた。しかし、時給1,057円は、正社員を含むフルタイムの労働者(一般労働者)の1か月の所定内労働時間である147.3時間(「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報」)で計算すると月額15万5696円程度と、未だいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。

総務省の消費者物価指数は、2020年を100とすると、2025年12月には113.0と13.0%も上昇しており、この数年のインフレ基調は収まる気配がないのに対し、厚生労働省の「毎月勤労統計調査令和7年分結果確報」によると、現金給与総額(事業所規模5人以上)での実質賃金指数は前年比1.3%減となり、4年連続での前年比マイナスとなった。このように、この数年のインフレ基調に労働者の賃金上昇が追いついていない状況を踏まえるならば、更なる大幅な最低賃金額の引上げは必要不可欠である。

また、2025年の最低賃金額は、最も高い東京都で1,226円であるのに対し、最も低い高知県、宮崎県、沖縄県では1,023円と、依然として203円という大きな格差が生じている。地域の最低賃金の高低と人口の増減には相関関係があるとされており、地方と都市部との間で最低賃金額の大幅な地域間格差が生じていることは、地方から都市部へ若者が流出する要因の一つでもあり、最低賃金が低い地域の人口減を生じさせる地方の地域経済のマイナス要因となっている。そのため、最低賃金額を大幅に引き上げると同時に、最低賃金法第9条以下の地域別最低賃金制度を抜本的に見直し、地域間格差の解消に向けて全国一律最低賃金制度の導入についても検討されるべきである。

一方で、最低賃金額の大幅な引上げは、特に経営基盤が決して盤石とはいえない地方における中小企業の経営に影響を与える可能性が大きいことから、抜本的な中小企業支援策を併せて実行することが必要である。今後、中小企業も含めた更なる最低賃金額の引き上げを実現するに当たっては、独占禁止法や中小受託取引適正化法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との取引の公正が確保されることにより、人件費等の経費の増加が適正に取引価格に転嫁されるようにすべきであるとともに、従来の業務改善助成金に加え、社会保険料の事業主負担分の減免などの支援策も実施すべきである。

政府は、2025年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)において「2020年代に全国平均1,500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続ける」という目標を掲げたが、新たに発足した内閣では、この目標を継承することに慎重な姿勢を示している。しかしながら、上述のとおり大幅な最低賃金額の引上げは不可欠であり、抜本的な中小企業支援策を実行すれば実現可能であるのだから、政府はこの目標を堅持すべきである。

なお、2025年度改定最低賃金の発効日には、都道府県によって差異があり、最も遅い秋田県では、約半年間も最低賃金の引上げが先延ばしにされている。このような事態は望ましいものではなく、発効日に関する一定の規制を施すべきである。

当会は、引き続き、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、また、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し福岡県最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求めるとともに、国に対し、中小企業への十分な支援策を求める。

2026年(令和8年) 6月10日

福岡県弁護士会        

会長 池田 耕一郎       

子どもの最善の利益を確保し子どもの権利保障を推進する宣言

カテゴリー:宣言

すべての子どもは、かけがえのない個人として尊重され、健やかに成長する権利を有している。子どもは保護の対象にとどまらず、固有の権利主体であり、その最善の利益はあらゆる場面において最優先に考慮されなければならない。

 当会は、子ども一人ひとりの尊厳が守られ、その最善の利益が具体的に実現され、すべての子どもが安心して健やかに成長できる社会の構築を目指し、次のとおり宣言する。

1 弁護士による相談業務や代理人活動を通じ、子どもにかかわるあらゆる場面において子どもの意見を聴取し、これを尊重するとともに、子ども一人ひとりの最善の利益を確保する。

2 家庭や地域において、すべての子どもが孤立することなく、安全な環境の下で安心して過ごすことができるように、保護者及び地域の支援者に子どもの権利を基盤とした法的サービスを提供する。

3 学校現場における子どもの権利保障を推進するため、いじめ、不登校、体罰、不適切な指導その他の問題に対応する法的支援体制の維持・拡充を行うとともに、調査委員会への参画等を通じた子どもの権利侵害の防止及び侵害された権利の回復に取り組む。

4 相談業務、代理人活動、研修・講演活動その他あらゆる活動を通じて、子どもの権利の社会的理解を強力に促進するとともに、子どもの権利条約の趣旨を各地域で実現するため、子どもの権利を総合的に保障する条例の制定及び条例に基づく権利救済機関の設置を促進するための活動を行う。

2026年(令和8年)5月27日

福岡県弁護士会

提 案 理 由

第1 子どもの権利擁護についての日本の現状

1 子どもの権利条約の批准及び法整備

 日本は、1994年(平成6年)4月22日に子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child)を批准した。同条約は、子どもを権利の主体として位置づけ、差別の禁止、最善の利益の確保、生命、生存及び発達に対する権利、意見を聴かれる権利をはじめとした子どもの基本的権利を定めるとともに、締約国とすべての人が遵守すべき義務と責任を定めている。

 2022年(令和4年)6月には、「子どもの権利条約」の精神にのっとって、すべての子どもが、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども施策を総合的に推進することを目的として、「こども基本法」が成立し、同法は、2023年(令和5年)4月に施行された。同法では、年齢や発達の程度に応じた子どもの意見表明機会の確保・子どもの意見の尊重が基本理念として掲げられるとともに(同法第3条第3号、同条第4号)、こども施策の策定等にあたって子どもの意見の反映に係る措置を講じることを国や地方公共団体に対し義務づける規定が設けられている(同法第11条)。同年12月には、同法に基づき「こども大綱」が策定され、子ども支援のための方向性が明確化された。そして、具体的なこども施策を示すものとして毎年「こどもまんなか実行計画」が策定されている。

 しかしながら、様々な施策が行われているにもかかわらず、現実の社会においては、子どもの自殺、いじめ、虐待、貧困問題など、子どもの尊厳と権利が脅かされる深刻な状況が続いている。また、このような深刻な状況に限らず、家庭や学校等における日常的な場面において、子どもの声が聴かれず、一人の権利主体としての意思が十分に尊重されていない状況も広く見受けられる。

 こども基本法附則第2条は、同法施行後5年を目途として、こども施策が基本理念にのっとって実施されているかどうか等の観点からその実態を把握し、公正かつ適切に評価する仕組みの整備その他の基本理念にのっとったこども施策の一層の推進のために必要な方策について検討を加え、その結果に基づき、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとされている。今年度は、上記のような子どもたちを取り巻く状況を踏まえて、こども施策の見直しに向けた検討を始めなければならない時期である。

2 子どもをめぐる現実

⑴ 児童相談所における児童虐待相談対応件数の高止まり

 全国236か所の児童相談所における2024年度(令和6年度)の児童虐待相談対応件数(児童相談所が相談を受け、援助方針会議等の結果、児童虐待と判断して指導や措置等を行った件数)は22万3691件であり、2020年度(令和2年度)以降毎年20万件を超える件数で高止まりしている。

 本来、最も安心して過ごせる場所であるはずの家庭において、安全が脅かされ、心身の成長、発達、ひいては生命までも脅かされかねない子どもたちが多数いる。

⑵ 若年の自殺者数の増加

 厚生労働省自殺対策推進室及び警視庁生活安全局生活安全企画課が公表した「令和7年中における自殺の状況」によれば、全体の自殺者数は減少し、統計開始以降初めて2万人を下回り最少となった。その一方で、10代以下の自殺者数は上昇しており年間829人が自ら命を絶っている。そして、そのうち小中高生の自殺者数は538人と、統計のある1980年(昭和55年)以降、最多の数値となっている。

 家庭、学校、地域などにおいて居場所を失い、生きることに希望を持てない多くの子どもたちがいる深刻な状況にある。

⑶ ヤングケアラーとして支援が必要な子どもたち

 家族のケアなどに時間を割かれ、子どもにとって必要な、休息、遊び、学習などの時間が十分に取れず、支援の手が届かないまま、その権利が十分に保障されていない子どもたちがいる。家族の介護、その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者をヤングケアラーという(子ども・若者育成支援推進法第2条第7号)。

 「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」(令和2年度子ども・子育て支援推進研究事業)によれば、ヤングケアラーに該当する子どもがいると回答した中学校は46.6%、全日制高校は49.8%、定時制高校は70.4%、通信制高校は60.0%であった。また、世話をしている家族がいると回答した中学生が5.7%、全日制高校2年生が4.1%、定時制高校2年生相当が8.5%、通信制高校生が11.0%であった。

 ヤングケアラーは、家庭内のプライベートな問題であることや、本人や家族に自覚がないといった理由から表面化しにくいため、正確な実態把握は困難であると言われている。そうした中でも、上記調査では、ヤングケアラーに該当し、支援が必要と思われる子どもが一定数いることが明らかとなった。

⑷ 不登校児童生徒等の増加

 文部科学省の2024年度(令和6年度)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、小・中学校の不登校児童生徒数は約35万4000人と過去最多となり12年連続で増加した。また、高等学校における不登校児童数も6万7782人、中途退学者数は4万4571人と増加傾向にある。

 不登校の要因は様々であり、当事者である子どもの声に耳を傾け、改善すべき問題は何かを知り細やかな対応をしていくことが求められている。2024年(令和6年)3月に公表された「文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究報告書」によれば、不登校として報告された児童生徒が回答した「きっかけ要因」には、いじめ被害(26.2%)、教職員への反抗・反発(35.9%)、教職員とのトラブル、叱責等(16.7%)、学業の不振(47.0%)、宿題ができていない(50.0%)等があり、学校の環境や教育の在り方に課題があると思われるケースも認められる。学校が子どもたちにとって行きたい場所ではなくなっていることが懸念され、学校での様々な経験を通して学び、成長する機会が失われている子どもたちが多くいる。学校現場における取り組みとともに、学校外の支援を広げる必要性が高い。

⑸ いじめ認知件数・いじめ重大事態件数の増加

 2024年度(令和6年度)における小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は76万9022件であり過去最多となった。また、いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する「重大事態」の発生件数も、いじめによって児童生徒の生命、心身又は財産への重大な被害が生じた疑いのある事案(1号重大事態)が768件、いじめによって児童生徒が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある事案(2号重大事態)が896件、合計1404件[1]と過去最多となった。

 いじめ認知件数等の増加の背景として、いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義やいじめの積極的な認知に対する理解が広がったこと等も考えられるが、多くの子どもたちが、学校内を中心とする人間関係の中で傷つきを抱え、中には重大な被害を受けて苦しんでいる子どもたちもいるという憂慮すべき状況にある。

⑹ 日常生活において子どもの権利に関する理解が浸透していないこと

 2024年(令和6年)3月に作成された「児童の権利に関する条約の認知度等調査及び同条約の普及啓発方法の検討のための調査研究報告書」によれば、子どもの権利条約の内容をよく知っていると答えた大人はわずか4.3%しかおらず、聞いたことがないと答えた大人は46.8%もいた。

 子どもたちがおかれた深刻な状況の背景には、子どもの権利条約の趣旨が社会に浸透しておらず、子どもの権利を保障し、義務の担い手である大人の多くが子どもの権利について理解をしていないという現状がある。

第2 当会におけるこれまでの活動と今後の課題

1 子どもの声を聴く相談業務

 当会では、弁護士が子どもや保護者等から悩みや心配ごとを聞いて解決策をともに考える電話相談窓口「子どもの人権110番」を開設している(毎週土曜日12時30分~15時30分)。この電話相談窓口は、1994年(平成6年)に愛知県西尾市で起きた中学生いじめ自殺事件を契機に学校現場での「いじめ」に対する関心が高まる中でスタートしたものであるが、いじめだけではなく、家庭のこと、教職員との関係、非行等子どもに関係するあらゆる相談に対応している。電話で相談を受けた上で、必要に応じて面談での相談も実施している。相談担当弁護士名簿に登載される弁護士は、相談に適切に対応するため、研修や対応した事案の経験交流等を通じて研鑽し、必要な知識やスキルを高めている。

 2023年(令和5年)5月からは、子どもたちがSNSに親和性があることから、より相談しやすいツールとして「べんごしLINE相談」を開始した(毎月第2月曜日16時~19時)。より広く子どもたちに認知してもらうため、親しみやすいキャラクターをデザインしたカードを制作するなど工夫を重ねている。周知活動が実を結び多くの相談を受けている。

 今後も、効果的な広報を行い、子どもたちが気軽に相談できる窓口として活用してもらうように努め、子どもをめぐる実情の変化やニーズに応じて相談体制の充実を図るよう検討を進めていく。

2 子どもの福祉に関する諸活動

⑴ 児童相談所等への法的支援

 当会は、子どもの福祉を図るための中心的な機関である児童相談所(福岡県6か所、福岡市、北九州市に各1か所)と連携し、特に児童虐待の通告件数の増加に伴って生じる法的問題について、専門的な立場から法的なアドバイスを行ったり、司法手続の際の代理人として関与したりしている。

 2011年(平成23年)4月に、全国で初めて、福岡市の児童相談所に当会所属の弁護士が常勤職員として配置された。現在は常勤弁護士に加え、複数の弁護士が法的手続の代理人として活動している。

 2017年(平成29年)には、福岡県の児童相談所にも常勤弁護士1名が配置され、2021年(令和3年)には、さらに常勤弁護士1名が配置された。これに加え、福岡県の児童相談所では、常勤弁護士をフォローする形で複数の弁護士が、各児童相談所で週1回行われる受理会議に出席し、個別ケースに対する助言等を行っている。

 北九州市の児童相談所でも、2017年(平成29年)から非常勤弁護士が配置されている。

 また、虐待を受けた子どもや支援が必要な家庭の早期発見・支援を目的として市町村に設置されたネットワーク機関である要保護児童対策地域協議会の委員として会員が参画し、児童虐待の防止や対応の助言等を行っている。

 今後も、児童福祉の最新の動向、児童福祉法の改正などに対応するための研鑽を積み、市町村や児童相談所への法的支援をより一層充実させていく必要がある。

⑵ 子どもの代理人活動

 児童虐待、いじめ、体罰などの権利侵害を受けている子どもが親の協力を得られない場合に、日弁連が実施する「子どもに対する法律援助事業」を利用して、弁護士が子ども本人から相談を受け、裁判手続や関係者との交渉を行う代理人活動が活発に展開されている。子どもの法律相談については、福岡市児童相談所からの要請に応じ、弁護士が同所に赴き、一時保護中の子どもからの相談にも対応している。

 虐待が刑事事件化された場合に被害者である子どもの代理人として刑事手続に関与し、児童相談所とともに子どもを支える役割も果たしている。示談対応、証人尋問対応、意見陳述、加害親弁護人や捜査機関とのやり取りなど、子どもの手続参加と被害回復にとって不可欠の活動となっている。

 また、父母が裁判所で子どもの親権や監護の方法に関して争っている際に、子どもの意見を手続に反映させるために、裁判手続に参加する子どもの手続代理人として、子どもの意見形成と表明を支援する活動も行っている。共同親権の導入等の民法改正に伴い、子どもの利益を確保するための手段として子どもの手続代理人の役割がますます重要となっている。児童福祉法第28条に基づく審判や親権停止の審判において、子どもの意向によって手続代理人として関わる事例もあり、この分野での拡充も検討されるべきである。

 今後も、社会や法の変化に対応し、子どもの最善の利益を実現する代理人活動を実践していく必要がある。

⑶ ヤングケアラーの支援

 ヤングケアラーを支援する視点として、ヤングケアラーとその家族を孤立させないことが大切であり、子どもの最善の利益が守られるよう子どもが子どもらしく暮らし、育ち、学べる環境づくりを促進することが目指されるべきである。そのためには、広く市民がヤングケアラーについて知ること、社会全体の問題と認識すること、子どもが信頼できる大人がそばにいて話を聴く機会を増やすことが重要である。

 弁護士は、子どもからの相談や少年事件、民事事件や家事事件等に関わる中で、ヤングケアラーの存在を認識し得る立場にあり、そのような場面に遭遇したときにどのような支援が考えられるか、どのような関係機関につなぐべきかといった基本的な情報を備える必要がある。

 そこで、当会では、支援機関の方を講師に招いて研修会を開催し、ヤングケアラーの支援の現場、各機関・団体の支援活動の状況を知る取り組みを進めている。また、若者支援のための協議会に当会子どもの権利委員会の委員が出席し、各機関・団体との意見交換を通じて、情報を得るとともに、ヤングケアラー支援における弁護士の役割を認識理解していただけるよう活動している。

 今後は、こうした活動を踏まえて、ヤングケアラーに対する具体的な支援ができるよう体制を整えていかなければならない。

⑷ 他団体・弁護士会との連携を通じた知見の共有・研鑽

 当会では、児童虐待問題に関して市町村や児童相談所と連携する他、福岡市医師会とのパートナーシップ協議会を設置し、児童虐待に関する研究や講演会を継続して開催している。

 また、子どもの福祉に関する活動を充実させるために、他地域における実践例の共有とそれをふまえた運用改善を行うことを目的として、毎年、神奈川県弁護士会、大阪弁護士会など他の地域の弁護士と共同で合同福祉勉強会を開催し、児童虐待等に関する現状や実務面での問題について認識を共有するとともに、各テーマについて意見交換し、そこで得た知見・情報を日常の活動に還元している。

 今後も、知見・情報の共有を目指して、他機関・他団体や他の弁護士会との交流や連携を拡充し、継続する所存である。

3 学校現場における子どもの権利の実現に向けた諸活動

⑴ 学校現場の実態に対応する活動

 2020年度(令和2年度)、当会は、中学校の校則の実態について調査・検討を行い、これに基づいて、シンポジウム「これからの校則」を実施し、校則の見直しに向けて意見書を発表した。その結果、2021年(令和3年)7月の福岡市立中学校校長会の「よりよい校則(生活のきまり)を目指して」の策定につながった。2023年(令和5年)5月にも、「いらんっちゃない?校則」と題するシンポジウムを開催し、学校現場における校則改訂の動きや議論状況を確認した。今後も、校則問題についての取り組みを引き続き行っていく予定である。

 2010年(平成22年)に実施したシンポジウム「体罰について考える」を契機に福岡市教育委員会との勉強会を開始し、現在も継続している。勉強会では、学校現場において解決に困難を伴う事例の検討、いじめ重大事態の第三者委員会の調査報告書の分析、いじめや体罰に関する判例をもとにした意見交換等を行っている。子どもの最善の利益の確保という共通項のもと、弁護士にとっては、学校問題に関して説得力のある助言をする上で、学校現場の実情を知る重要な機会となっており、教育委員会側にとっても学校が対応する上での法的視点を理解する機会となっている。

 2023年(令和5年)11月1日より福岡県が学校外の立場からいじめ等に悩む子どもや保護者を支援する相談窓口として設置した「福岡県いじめレスキュー」に弁護士を専門員として派遣し、法的視点からの助言を行っている。

 また、学校の要請に応じてゲストティーチャーとして弁護士を派遣して「いじめ予防授業」を実施し、いじめを未然に防止し、いじめが起こった時に重大化しないよう子どもたちに考えてもらう取り組みもしている。

 さらに、学校現場における法的問題に弁護士が対応する実例として、2023年(令和5年)7月からは、福岡市教育委員会に当会所属の弁護士が常勤職員として配置されている。また、北九州市では、2019年度(平成31年度)より、当会北九州部会の弁護士がスクールロイヤー業務委託契約を締結し活動している。その他、福岡県内での複数の自治体で弁護士が法的問題に対する助言等をしている。

 学校問題については、日頃から子ども保護者等の相談を受け当事者がどのような意識を持っているのかを理解していること、学校現場でどのような問題が発生しそれについて現場の教職員あるいは教育委員会がどのような点に苦慮しどのように対応しているかを理解していることなど、学校現場のことを熟知している必要があり、そのような前提があるからこそ信頼性ある助言ができると考える。今後も、学校問題に関して弁護士の派遣を求められた場合に備えて、子どもや保護者等を対象とした相談体制の維持・充実、教育委員会との勉強会その他意見交換を通じて理解を深めていく。

⑵ いじめの重大事態調査における活動

 2013年(平成25年)6月、いじめ防止対策推進法が公布された。同法は、いじめ防止に関する措置及び重大事態への対処を柱としている。同法公布後、各自治体の調査委員会や専門委員会の委員に弁護士を推薦し活動してきた。

 同法施行から10年が経過し、2024年(令和6年)8月に「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が改訂された。同ガイドラインでは、調査にあたって公平性・中立性を確保するため、調査組織に第三者を加えることが推奨され、その第三者として弁護士の役割が期待されている。

 当会では、学校現場の実情に精通した適切な人材をより多く確保するために、いじめ防止対策推進法及びガイドラインに関する研修、調査委員経験者の報告を中心とした研修などを実施している。その上で、研修を受けた者や経験者を登載した調査委員候補者名簿を導入し、学校設置者等からの推薦依頼に迅速かつ的確に対応する体制を整えている。もっとも、調査委員の業務負担やそれに見合う報酬が確保されていないなどの課題もある。

 今後も、重大事態への対処及び同種事態の再発防止に関し専門的知識に基づく対応が可能となるよう役割を果たしていくとともに、調査委員が十分にその役割を果たしていけるように条件や環境の整備に努める。

4 子どもの権利条約の内容を具体化するための活動

⑴ 子どもの権利条約に関する周知活動

 日本が子どもの権利条約を批准してすでに30年が経過した。

 しかし、子どもを「権利の主体」と位置付ける条約の趣旨は、日本ではいまだ普遍的に実現されたということはできない。子どもの最善の利益を確保し、子どもの権利保障を当たり前とする社会体制の構築は道半ばである。

 当会は、2024年(令和6年)7月28日に、子どもの権利条約批准30周年記念イベントを開催した。また、権利の享有主体である子どもたちに、広く子どもの権利について知ってもらうため、2024年(令和6年)9月2日付けで子どもたちに宛てた会長談話「子どもの権利条約に参加して30年」を発出し、福岡県内の学校等に送付して子どもたちに届けた。同会長談話は、子どもたちに向けた平易な表現で「子どもの最善の利益」「子どもの意見表明権」といった条約の趣旨を説明するとともに、弁護士会として、国、自治体、地域に対して、子どもの権利条約が遵守される社会の実現を求めていくことを約束する内容であった。

⑵ 自治体における条例の制定及び救済機関創設の重要性

 福岡県内で10の自治体[2]が、子どもの権利条約に基づき子どもの権利保障をはかる総合的な条例を制定している(2026年(令和8年)4月現在)。さらに、このうち8つの自治体が、子どもの権利を救済する機関を設置し、子どもからの相談を受け、意見を聴きながら一緒に解決策を考えたり、子どもからの申立てを受けて調査を行い、調整を図ったりするなどの救済活動をしている。これらの条例の制定過程には、条例案を検討する委員会の委員として弁護士が関与し、また条例制定後も、救済機関の委員などの立場で、多くの弁護士が活動している。

 子どもの権利を保障するために、条例を制定し、子どもの権利の普及・啓発を行い、子どもの権利に基づく施策を実施することは重要であるが、それだけでは十分ではない。子どもの権利保障を実効的に行うためには、子どもの権利が侵害された時に、子どもの声を聴き、侵害された権利を回復し、救済する仕組みが必要である。国連子どもの権利委員会も、「人権の促進及び擁護のための国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」に則った、国から独立した子どものための人権機関の創設の必要性を指摘している。条約が求める国の機関設置に加えて、子どもの生活圏にあり、具体的なこども施策を実施している自治体においても、条例が制定され、個別救済ができる独立した救済機関の設置が重要である。

 子どもの権利の保障の必要性が一層高まっている現状をふまえ、条例が制定されていない各自治体に対し、条例の制定と権利救済機関の設置を求める活動を展開する。

第3 本年度中の運動加速が極めて重要であること

 前述のとおり、2028年(令和10年)には「こども基本法」及びこれに基づく「こども大綱」の5年見直しが行われる見込みである。また、このような定期点検の作業は、改定の前年度に大きく動き出す。したがって、改定を2年後に控える本年こそ、「こども大綱」に基づく各種施策について実施状況を把握して検証し、存在する課題をあぶりだすとともに、その対策の第一歩を踏み出すことが非常に重要である。

 当会が子どもの権利保障のための様々な取組みを進めてきたのは、子どもが、子ども時代を自分らしく幸せに過ごせるようにするとともに、子どもの権利を保障することが社会の持続的な発展成長のために必要不可欠であり、子どもの権利が保障されている社会こそ真にすべての人が生きやすい社会だと信じて疑わないからである。

 もっとも、これらの活動は一定の成果を上げてきたものの、子どもを取り巻く問題の複雑化・深刻化に鑑みれば、なお十分とは言えない。

 弁護士は、具体的な事件を通して、子どもたちの声を聴き、子どもたちの権利を救済できる立場にある。そして、具体的活動から見出した課題を社会に発信し、制度改善を行うことで、さらなる権利侵害を防止することができる立場にある。弁護士及び弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする存在として、子どもの権利の実現に向け、より積極的かつ組織的な役割を果たさなければならないと自覚する。

 こども施策の5年後見直しに向けて、今こそ、その役割を果たすために、子どもを取り巻く状況を踏まえた活動をさらに発展させていかなければならない。

第4 結語

 すべての子どもは、かけがえのない個人として尊重され、健やかに成長する権利を有している。子どもは保護の対象にとどまらず、固有の権利主体であり、その最善の利益はあらゆる場面において最優先に考慮されなければならない。

 当会は、子ども一人ひとりの尊厳が守られ、その最善の利益が具体的に実現され、すべての子どもが安心して健やかに成長できる社会の構築を目指し、本宣言を採択する。


[1] 1号重大事態と2号重大事態の両方に該当する場合はそれぞれの項目に計上されている。

[2] 志免町(2006年)、筑前町(2008年)、筑紫野市(2010年)、宗像市(2012年)、川崎町(2017年)、那珂川市(2021年)、田川市(2022年)、糸島市(2024年)、北九州市(2024年)、小郡市(2026年)の10自治体(括弧内は公布年)。

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