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消費者庁が設置した「多数の消費者に深刻な財産被害を及ぼす詐欺的な悪質商法対策プロジェクトチーム」を早期に開催し、行政による被害回復制度の導入を求める会長声明

カテゴリー:未分類

消費者庁は、詐欺的な悪質商法への対応に関する検証等を進めていくことを目的として、2025年11月19日付で「多数の消費者に深刻な財産被害を及ぼす詐欺的な悪質商法対策プロジェクトチーム」(以下「PT」という。)を設置した。ところが、その後、PTは開催されず、何も具体的に進められていない。

投資の裏付けに乏しく、出資金をそのまま出資者への配当に回すような破綻必至の詐欺的商法により消費者に巨額の被害を生じさせる事案が後を絶たない。このような事案の問題点は、表面上の配当で被害が顕在化しないまま急速に拡大し、かつ、被害が顕在化した時には個々の被害額も多額で総額としても巨額になることが多いことである。被害者には深刻な被害を生じさせながら、被害が顕在化したときには集められた資産が散逸してしまっていることが多いため、被害回復のためには早期に業務を停止させ、資産を確保する必要がある。

2009年に制定された消費者庁及び消費者委員会設置法(附則第6項)では、政府に対し、加害者の財産の隠匿又は散逸の防止に関する制度を含め多数の消費者に被害を生じさせた者の不当な収益をはく奪し、被害者を救済するための制度について検討し、必要な措置を講じることが求められていた。これを受け、消費者庁は、消費者の財産被害に係る行政手法研究会を設置し、2013年6月に報告書「行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策について」を取りまとめるなどしたが、その後、消費者庁において、具体的な方策の検討が十分行われてきたとは言えない。

2013年の報告書以降、2018年には磁気ネックレスなどを購入させ、これを預かってレンタル料を支払うと称していたジャパンライフ事件や干し柿などのオーナーになることで高配当をうたったケフィア事業振興会事件が相次いで発覚し、巨額の消費者被害が生じているが、その責任の一端は、具体的な方策の検討を怠ってきた消費者庁にもあるものといわざるをえない。

このような事態を受けて、内閣府消費者委員会では、2023年8月、消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループにおいて、いわゆる破綻必至商法に関する報告書を取りまとめ、行政庁による破産申立権限を検討すべきとの意見をのべた。2025年7月に出された内閣府消費者委員会の消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会報告書でも、消費者法制度を抜本的に再編・拡充すべきとした上で、深刻な被害を発生させる悪質事業者・悪質商法について、既存の枠組みに捉われることなく、官民総力を挙げて消費者取引の市場から排除することが求められた。

その後、今年に入っても、福岡県内で、野菜の販売に仮託して出資を募った事案での代表者らが逮捕されるなど、破綻必至商法による被害が継続して発生している。

そこで、当会は、詐欺的な悪質商法による消費者被害の発生を防止し、その被害を一刻も早く救済できるようにするために、消費者庁に対し、今回設置されたPTを早期に開催し、具体的制度の検討を進め、行政庁による破産申立制度等、悪質商法に対する行政による被害回復制度の導入を進めていくよう、求めるものである。

2026(令和8)年5月7日

福岡県弁護士会

会長 池田耕一郎

「日野町事件」第2次再審請求事件についての特別抗告棄却決定を高く評価すると共に、速やかな再審公判の審理を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 最高裁判所第二小法廷(岡村和美裁判長)は、2026年(令和8年)2月24日付けで、いわゆる「日野町事件」第2次再審請求事件について、検察官の特別抗告を棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。これにより、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月にした再審開始決定が確定することとなる。

「日野町事件」の概要は、当会が2023年(令和5年)2月27日付けで会長声明を発しているとおりであり、無期懲役の有罪判決が確定した元受刑者である故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)について、阪原氏の死後に再審開始が認められたものである。無期懲役以上の刑が確定した事件について、元被告人の死後に再審開始が決定されたのは戦後初である。

本決定は、えん罪救済と刑事司法への信頼回復の観点から、極めて重要な意義を有するものであり、再審制度を通じて誤判を是正するという司法の責務を改めて確認したものである。当会は、本決定を高く評価すると共に、速やかな再審公判の審理を求めるものである。

2 「日野町事件」については、阪原氏が生前にした第1次再審請求が棄却され、その即時抗告の審理中に阪原氏が亡くなってしまっており、阪原氏が生前に無罪判決を受けることができなかったことが悔やまれてならない。第2次再審請求については、2018年(平成30年)7月に再審開始の決定があったが、その後検察官が不服申立てを繰り返したことにより、再審開始が確定するまでに7年半の歳月を要している。大阪高等裁判所が2023年(令和5年)2月に検察官の即時抗告を棄却しており、検察官が特別抗告を申し立てることがなければ、既に阪原氏の無罪が確定していた可能性があったといえる。本決定は、これまでの多くの再審事件についての最高裁決定と異なり、特別抗告の理由に具体的に踏み込むことなく、再審請求を認容すべきものとした大津地方裁判所の決定が結論において正当であるとした大阪高等裁判所の判断に誤りがあるとは認められない旨説示したものである。検察官の特別抗告の理由が、大阪高等裁判所の抗告審としての判断をいささかも動揺させるものでなかったことを物語っており、特別抗告の申立て自体に無理があったといえる。

このように、えん罪被害者の名誉回復が検察官の不服申立てによりいたずらに長期にわたって遅延することは、重大な人権侵害であって誠に遺憾である。

3 また、上記の大津地方裁判所による再審開始決定の大きな根拠となった新証拠は、第2次再審請求において証拠開示が行われた「警察が検察官に送致していなかった引当捜査の状況を撮影した写真のネガ」であった。確定判決が最も重視した間接事実は、引当捜査の際に阪原氏が金庫発見場所や死体発見場所を案内することができたという事実であったが、ネガが証拠開示されたことによって、その捜査報告書の写真の順番が入れ替えられていたことが判明したのである。

このような事実は、捜査機関が裁判所に提出することなく保管している証拠を再審請求後早期の段階で全面的に開示させることが、えん罪被害者を救済するために必要不可欠であることの立法事実を示している。

4 ところで、法制審議会は、法務大臣に対して、いわゆる再審法改正についての諮問に対する答申をしたが、その内容は検察官による不服申立てを禁止していない。証拠開示の点についても、再審請求の審判を開始するか否かの調査を先行しなければならない制度設計であり、職権による証拠開示を認めず、開示の範囲も限定的であるなど大きな問題を積み残した内容のものである。今回、「日野町事件」について検察官がしたように、再審開始決定に対して検察官が不服申立てをすることができる制度を変えない限り、えん罪被害者の名誉回復が遅延する事案が今後も起こり得る。

当会においても、2026年(令和8年)1月14日付けで会長声明を発しているが、えん罪被害者の速やかな救済の実現という再審法改正の原点に立ち返る必要のあることはいうまでもない。えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(超党派議連)が、先般行われた衆議院議員総選挙後初の会合を開催した旨報じられており、改めて超党派議連の再審法改正案を議員立法によって法制化するという再審法改正の実現のため、全力を尽くす決意である。

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会

会長 上田 英友

法制審議会が法務大臣に対して答申した刑事再審手続に関する法整備の案(諮問第129号に対する答申)に強く反対すると共に、かつて超党派議連が提出した改正案の法制化を実現することを求める会長声明

カテゴリー:声明

1 法制審議会は、2026年(令和8年)2月12日、刑事再審手続に関する法整備の案(諮問第129号に対する答申案)を審議し、全会一致の慣例にもかかわらず多数決をもって原案どおり採択し、法務大臣へ答申した(以下「本答申」という)。採択は反対が4、棄権が1と異例な結果であった。

本答申は、えん罪被害者の救済を本来的目的とする刑事再審制度につき、再審請求手続の全面的見直しを図るものと称して法務省の事務当局により取りまとめられたものであるが、その内容には、えん罪被害者の救済という再審制度の趣旨・目的に反し、再審請求人に過度の負担と不利益を課し、かえって再審開始を困難にする重大な問題点が含まれており、断じて容認できない。

2 まず、本答申は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止していない。いわゆる袴田事件など累次の再審事件において、検察官の度重なる抗告・特別抗告により、再審開始・再審無罪の言渡しまでに著しく長期に及んでいることが指摘されているが、検察官の不服申立てを無制限に認めている。本答申は附帯事項として、「検察官において、もとより結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる」旨記載してはいるものの、実際の事件においてそのような適切な対応がなされるかはいわば担当検察官を中心とした検察庁の裁量に委ねられており、不服申立ての歯止めとはなっていない。絵に描いた餅である。

そもそも、検察官は、再審請求手続の当事者ではなく、公益の代表者として裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎず、再審開始を認める決定に対して当然に不服申立てを行うべき立場にはない。しかも、いわゆる「福井事件」の第1次再審請求において、検察官が、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対する不服申立てを行った結果、再審開始決定が誤って取り消されるという事態も生じている。今後、このような事態が生じるのを防ぐためにも、検察官に「公益の代表者」として不服申立てを行う資格を認めるべきではない。そして、再審開始決定は、再審を開始する旨決定するだけであり、有罪・無罪の実体判断は再審公判において改めて行われることが予定されている。検察官は、再審公判において確定判決に誤りがないことを主張することが可能であり、再審開始決定に対する不服申立てを認めなくても何ら不都合は生じない。

再審は、既に有罪判決が確定した者について、後に無実を明らかにし得る新証拠が提出された場合等に、当該判決の誤りを是正するための例外的救済手続であるところ、開始決定に対する検察官の不服申立てを広く許容することは、えん罪被害者の救済をいたずらに遅延させ、重大な人権侵害を継続させる結果を招くこととなる。本答申は、その点において、えん罪被害者の早期救済の必要性という立法事実に何ら向き合っていないとの非難を免れない。

3 また、本答申は、検察官の保管する裁判所不提出記録につき、再審請求審及びその準備段階における閲覧・謄写の制度化を図る一方で、その運用に関し、裁判所が「必要と認める」場合に限って閲覧・謄写を認めるとするなど、検察官の裁量と裁判所の判断に広範な余地を残し、弁護人の活動を過度に制約するおそれを残したものといえる。証拠開示についても、裁判所に対して一定の要件の下で証拠開示命令を発する余地を認めているが、関連性、必要性、相当性を弁護人が具体的に主張、疎明しなければならず、そうした疎明は必ずしも容易ではないことからして、証拠開示が認められない結果となるのである。

えん罪事件においては、従前、検察官が保管する未提出証拠の開示が再審開始及び無罪判決の決定的契機となってきたところであり、真に必要とされるのは、検察官手持ち証拠の包括的な開示義務の明確化と、その履行を実効的に担保する制度であって、検察官や裁判所の裁量の余地を残すべきものではない。

本答申は、証拠開示の範囲及び方法について検察官・裁判所の統制権限を温存しており、えん罪救済の観点から不十分な内容にとどまっている。

4 さらに、本答申は、再審請求審における裁判官の除斥・忌避、再審開始事由の在り方等、多岐にわたる重要論点について、えん罪救済の実効性確保という観点から極めて不十分な内容にとどまっている。

本答申は、「再審の請求についての調査手続」を新たに設け、「審判開始決定」がなされない限り、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求が棄却されることになる上、再審の請求を受けた裁判所に対して、速やかに調査手続きを行い、審判を開始するか否かを決定することを義務づけたのである。この規定により、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が門前払いされる余地を残している点で、不十分というほかはない。

加えて、本答申は、確定審において刑の言渡し・刑の免除・無罪の言渡しに関する判決、控訴棄却の判決に関与した裁判官の除斥規定を設け、上告棄却の決定に関与した裁判官の除斥規定を設けなかった一方で、再審開始決定に関与した裁判官の除斥規定を設けている。再審請求審と再審公判は一連の手続であり、同一の裁判官が担当することは当然のことである。このような規定は、検察官に対して、再審開始が確定した事案について、再審公判において一から有罪立証を行うことを可能とするものであり、いたずらに審理を長期化させる結果につながる点で、不十分というほかはない。

5 一方で、国会においては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(超党派議連)が中心となり、えん罪被害者の迅速な救済を目的とする再審法改正案(刑事訴訟法の一部を改正する法律案)が議員立法として提出され、審議が継続されていたが、先般の衆議院解散によって廃案となった。

同改正案は、本答申と比して、再審請求手続における証拠開示の制度を大きく拡充し、再審開始決定に対する検察官による不服申立てを明文で禁止するなどの内容を含むものであり、えん罪被害者の早期救済の必要性という立法事実と真に向き合った内容である。まさに、えん罪被害者の人権救済に資する方向性を明確に示したものとして当会は高く評価する。

他方、本答申は、超党派議連による再審法改正案が示してきたえん罪救済の方向性を十分に踏まえることなく、検察官の不服申立てを維持し、証拠開示についても限定的な枠組みにとどめるなど、超党派議連の案に比して、明らかに「後退的」内容となっている。

6 当会は、えん罪の防止とその救済が刑事司法に対する国民の信頼の基盤となるべき課題であるとの観点から、本答申に対し、強く反対する。そして、検察官の不服申立てを禁止し、証拠開示についても大きく拡充した内容の超党派議連の再審法改正案が一刻も早く再度国会に提出され、その法制化を実現することを求める。

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会 会長 上 田 英 友

国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

カテゴリー:声明

当会は、日本で初めて待機制の当番弁護士制度を導入し、いつでも、誰でも、弁護人にアクセスできる社会を目指し、被疑者・被告人の権利を守るため、刑事弁護の最前線を切り拓いてきた。その精神は、今日に至るまで当会の根幹を成し、全国でも高い国選弁護登録率として結実している。

しかし今、国選弁護制度はその持続可能性が揺らぐ重大な局面に直面している。

国選弁護制度は、被疑者・被告人の権利擁護のために必要不可欠な憲法上の制度である。現在、刑事事件の約9割は国選弁護人が担っており、日本の刑事弁護は国選弁護制度により支えられているといっても過言ではない。それにもかかわらず、国選弁護人の活動を支えるべき報酬体系は、その重要な責務と実態を反映しているとは到底いえない。

このような状況を踏まえ、日本弁護士連合会では、当番弁護士制度のほか、取調べ立会いの援助制度、障害者等に対する刑事弁護費用援助制度などを独自予算で創設し、さらに当会でも独自に、身体拘束解放後の被疑者弁護援助制度を創設するなど、被疑者・被告人が費用負担の心配なく高度化する刑事弁護活動を享受できる体制の拡充に注力してきた。しかしながら、無罪推定の原則が憲法上保障される日本において、これらの諸制度は、本来、国費で賄われるべきものである。

現在の国選弁護報酬は、昨今の急激な物価高、社会全体における賃上げの要請等を反映していないだけではなく、スマートフォンの普及等に伴うデジタル証拠の激増により、メッセージアプリを用いた事件関係者間の膨大なやり取りの精査が必要になるなど、弁護活動に必要な労力が飛躍的に増大しているにもかかわらず、その実態が基礎報酬に全く反映されていない。

国選弁護にかかる各種弁護費用に関しても、謄写費用、交通費などの実費が一部しか支給されず、弁護活動に要した費用が全額補償される仕組みになっていない。

また、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定、神奈川県警による証拠の捏造等、捜査機関による不正行為は未だになくなっておらず、捜査機関側の作成した証拠の信用性を争うべき事案は少なくない。過去の多くの冤罪事件においても、弁護側が提出した科学的鑑定等が無罪主張の柱となってきた。しかしながら、日本弁護士連合会及び当会において、私的鑑定等の費用援助制度を設け、弁護活動に一定の援助費用が支払われているとはいえ、現行の国選弁護制度では、鑑定費用をはじめ、本来行われるべき多くの弁護活動に対する費用が賄われず、適切な弁護活動を行う上で重大な支障を来している。冤罪防止の観点からも、国選弁護制度における費用の整備は喫緊の課題である。

国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少であり、100兆円規模の国家予算に占める割合は年々低下している。人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れていると言わざるを得ない。

よって、当会は、被疑者・被告人の権利擁護と公正な刑事司法制度の実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を強く求めるものである。

以上

2026年(令和8年)3月17日

福岡県弁護士会 会長 上 田 英 友

旧姓の通称使用のみの法制化に反対し、改めて選択的夫婦別姓制度の速やかな導入を強く求める会長声明

カテゴリー:声明

2025年12月3日の報道で、政府は次の国会に、旧姓の通称使用を法制化するための関連法案を提出する方向で検討に入ったことが明らかとなった。さらに、同月5日、男女共同参画会議において来年度からの第6次男女共同参画基本計画の策定に向けて、「婚姻後の旧姓の通称使用について法的効力を与える制度の創設の検討」を掲げて答申をまとめた。

しかし、こうした旧姓の通称使用のみの法制化は、夫婦同姓制度の維持を前提とするものであり、正式な名称である「戸籍姓」が別に存在することに変わりはない。旧姓はあくまでも「通称」の位置付けにとどまり、根本的な問題は解消されないばかりか、国内的にも国際的にもさらなる混乱を生じさせる恐れがあるため、旧姓の通称使用のみの法制化には反対である。

そもそも、氏名は個人の識別機能を有するだけではなく、個人の人格の象徴であり、氏名の変更を強制されない自由も憲法13条の人格権として保障される。

しかし、民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、婚姻後の夫婦同氏を義務付けている(夫婦同姓制度)。

そして、同制度の下で、現実には法律婚をする夫婦の約94%において、女性が姓を変えている。すなわち、事実上、多くの女性に改姓を強制し、その姓の選択の機会を奪うという点で、婚姻に際して一方当事者に姓の変更を強制する民法750条は、憲法13条、憲法14条、憲法24条にも反するものである。

国連の女性差別撤廃委員会からも繰り返し別姓を選択できるよう勧告がなされ、日本は夫婦同姓を強制する唯一の国となっている。

当会はこれまで、民法750条が憲法に違反することを繰り返し指摘して、選択的夫婦別姓制度への改正を求めてきた(2010年4月22日会長声明、2015年5月27日総会決議、2015年12月17日会長声明、2021年7月7日会長声明、2024年12月5日会長声明)。

婚姻後も同姓か別姓のいずれかを選択できるようにする制度(選択的夫婦別姓制度)は、互いに旧姓を保持することを希望する者同士が法律上婚姻することを可能とし、かつ、双方が戸籍姓のみで社会生活を送ることができるのであり、これこそ人格的利益及び両性の本質的平等を維持することにつながる。同姓を希望する者は従前通りに選択できるのであり、これらの者の人権侵害や不利益は問題とならないことは当然である。

2025年の通常国会では、28年ぶりに選択的夫婦別姓制度の導入に向けた法案が衆議院法務委員会で審議入りし、法案は継続審議となり、一歩前進かと思われた。しかし、2026年1月23日に招集された通常国会で衆議院が解散されて廃案となった。

旧姓の通称使用の法制化は、一見すると、旧姓を法的に使用できる機会が増え、現行制度下での不便が解消されるようにも思われる。

しかし、婚姻に際して夫婦の一方が改姓を強いられるという人格権侵害や両性の本質的平等違反は残り、憲法に違反する人権侵害の解消にはならない。加えて、「戸籍姓」と「通称姓」との法的なダブルネームという社会全体のシステムを変更する新たな制度が誕生することになり、社会生活に混乱を来たす恐れがある。例えば、金融機関におけるマネーロンダリング対策のための審査に耐えられない恐れがある。また、パスポートの表面上に旧姓のみが記載されても、国際規格上ICチップには戸籍姓のみが記録されることになっており、ビザや航空券は旧姓では取得できず、海外渡航や海外生活においてパスポート上の旧姓と戸籍上の姓が異なることのリスク等がある。

このダブルネームの危険性については、従前より指摘されているところである。例えば、法務省パンフレット「選択的夫婦別氏制度について」(1996年) では「社会からみてその人が誰かということが分からなくなり、混乱を招くおそれがあります」と記載され、2015年12月16日最高裁大法廷判決の木内裁判官による「通称を法制化するとすれば、全く新たな性格の氏を誕生させることとなる」との意見 、2021年6月23日最高裁大法廷決定の宮崎裁判官・宇賀裁判官による「ダブルネームである限り人格的利益の喪失がなかったことになるわけではない」との反対意見などがある。日本経済団体連合会(経団連)も、2024年、「通称姓の使用はビジネス上のリスクとなり得る」として、選択的夫婦別姓の早期実現を提言している。

 当会は、夫婦同姓制度を維持したままで旧姓の通称使用のみの法制化を進めることには反対であり、国に対し、憲法に違反する人権侵害を解消し両性の本質的平等を追求するべく速やかに選択的夫婦別姓制度の導入を実現するよう、改めて強く求める。

以上

2026年(令和8年)2月24日

福岡県弁護士会 

 会長 上田英友

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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