福岡県においては、2025年11月、福岡県最低賃金を前年比65円増額の1時間1,057円とする改定が行われた。しかし、時給1,057円は、正社員を含むフルタイムの労働者(一般労働者)の1か月の所定内労働時間である147.3時間(「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報」)で計算すると月額15万5696円程度と、未だいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
総務省の消費者物価指数は、2020年を100とすると、2025年12月には113.0と13.0%も上昇しており、この数年のインフレ基調は収まる気配がないのに対し、厚生労働省の「毎月勤労統計調査令和7年分結果確報」によると、現金給与総額(事業所規模5人以上)での実質賃金指数は前年比1.3%減となり、4年連続での前年比マイナスとなった。このように、この数年のインフレ基調に労働者の賃金上昇が追いついていない状況を踏まえるならば、更なる大幅な最低賃金額の引上げは必要不可欠である。
また、2025年の最低賃金額は、最も高い東京都で1,226円であるのに対し、最も低い高知県、宮崎県、沖縄県では1,023円と、依然として203円という大きな格差が生じている。地域の最低賃金の高低と人口の増減には相関関係があるとされており、地方と都市部との間で最低賃金額の大幅な地域間格差が生じていることは、地方から都市部へ若者が流出する要因の一つでもあり、最低賃金が低い地域の人口減を生じさせる地方の地域経済のマイナス要因となっている。そのため、最低賃金額を大幅に引き上げると同時に、最低賃金法第9条以下の地域別最低賃金制度を抜本的に見直し、地域間格差の解消に向けて全国一律最低賃金制度の導入についても検討されるべきである。
一方で、最低賃金額の大幅な引上げは、特に経営基盤が決して盤石とはいえない地方における中小企業の経営に影響を与える可能性が大きいことから、抜本的な中小企業支援策を併せて実行することが必要である。今後、中小企業も含めた更なる最低賃金額の引き上げを実現するに当たっては、独占禁止法や中小受託取引適正化法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との取引の公正が確保されることにより、人件費等の経費の増加が適正に取引価格に転嫁されるようにすべきであるとともに、従来の業務改善助成金に加え、社会保険料の事業主負担分の減免などの支援策も実施すべきである。
政府は、2025年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)において「2020年代に全国平均1,500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続ける」という目標を掲げたが、新たに発足した内閣では、この目標を継承することに慎重な姿勢を示している。しかしながら、上述のとおり大幅な最低賃金額の引上げは不可欠であり、抜本的な中小企業支援策を実行すれば実現可能であるのだから、政府はこの目標を堅持すべきである。
なお、2025年度改定最低賃金の発効日には、都道府県によって差異があり、最も遅い秋田県では、約半年間も最低賃金の引上げが先延ばしにされている。このような事態は望ましいものではなく、発効日に関する一定の規制を施すべきである。
当会は、引き続き、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、また、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し福岡県最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求めるとともに、国に対し、中小企業への十分な支援策を求める。
2026年(令和8年) 6月10日
福岡県弁護士会
会長 池田 耕一郎


