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カテゴリー: 宣言

子どもの最善の利益を確保し子どもの権利保障を推進する宣言

カテゴリー:宣言

すべての子どもは、かけがえのない個人として尊重され、健やかに成長する権利を有している。子どもは保護の対象にとどまらず、固有の権利主体であり、その最善の利益はあらゆる場面において最優先に考慮されなければならない。

 当会は、子ども一人ひとりの尊厳が守られ、その最善の利益が具体的に実現され、すべての子どもが安心して健やかに成長できる社会の構築を目指し、次のとおり宣言する。

1 弁護士による相談業務や代理人活動を通じ、子どもにかかわるあらゆる場面において子どもの意見を聴取し、これを尊重するとともに、子ども一人ひとりの最善の利益を確保する。

2 家庭や地域において、すべての子どもが孤立することなく、安全な環境の下で安心して過ごすことができるように、保護者及び地域の支援者に子どもの権利を基盤とした法的サービスを提供する。

3 学校現場における子どもの権利保障を推進するため、いじめ、不登校、体罰、不適切な指導その他の問題に対応する法的支援体制の維持・拡充を行うとともに、調査委員会への参画等を通じた子どもの権利侵害の防止及び侵害された権利の回復に取り組む。

4 相談業務、代理人活動、研修・講演活動その他あらゆる活動を通じて、子どもの権利の社会的理解を強力に促進するとともに、子どもの権利条約の趣旨を各地域で実現するため、子どもの権利を総合的に保障する条例の制定及び条例に基づく権利救済機関の設置を促進するための活動を行う。

2026年(令和8年)5月27日

福岡県弁護士会

提 案 理 由

第1 子どもの権利擁護についての日本の現状

1 子どもの権利条約の批准及び法整備

 日本は、1994年(平成6年)4月22日に子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child)を批准した。同条約は、子どもを権利の主体として位置づけ、差別の禁止、最善の利益の確保、生命、生存及び発達に対する権利、意見を聴かれる権利をはじめとした子どもの基本的権利を定めるとともに、締約国とすべての人が遵守すべき義務と責任を定めている。

 2022年(令和4年)6月には、「子どもの権利条約」の精神にのっとって、すべての子どもが、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども施策を総合的に推進することを目的として、「こども基本法」が成立し、同法は、2023年(令和5年)4月に施行された。同法では、年齢や発達の程度に応じた子どもの意見表明機会の確保・子どもの意見の尊重が基本理念として掲げられるとともに(同法第3条第3号、同条第4号)、こども施策の策定等にあたって子どもの意見の反映に係る措置を講じることを国や地方公共団体に対し義務づける規定が設けられている(同法第11条)。同年12月には、同法に基づき「こども大綱」が策定され、子ども支援のための方向性が明確化された。そして、具体的なこども施策を示すものとして毎年「こどもまんなか実行計画」が策定されている。

 しかしながら、様々な施策が行われているにもかかわらず、現実の社会においては、子どもの自殺、いじめ、虐待、貧困問題など、子どもの尊厳と権利が脅かされる深刻な状況が続いている。また、このような深刻な状況に限らず、家庭や学校等における日常的な場面において、子どもの声が聴かれず、一人の権利主体としての意思が十分に尊重されていない状況も広く見受けられる。

 こども基本法附則第2条は、同法施行後5年を目途として、こども施策が基本理念にのっとって実施されているかどうか等の観点からその実態を把握し、公正かつ適切に評価する仕組みの整備その他の基本理念にのっとったこども施策の一層の推進のために必要な方策について検討を加え、その結果に基づき、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとされている。今年度は、上記のような子どもたちを取り巻く状況を踏まえて、こども施策の見直しに向けた検討を始めなければならない時期である。

2 子どもをめぐる現実

⑴ 児童相談所における児童虐待相談対応件数の高止まり

 全国236か所の児童相談所における2024年度(令和6年度)の児童虐待相談対応件数(児童相談所が相談を受け、援助方針会議等の結果、児童虐待と判断して指導や措置等を行った件数)は22万3691件であり、2020年度(令和2年度)以降毎年20万件を超える件数で高止まりしている。

 本来、最も安心して過ごせる場所であるはずの家庭において、安全が脅かされ、心身の成長、発達、ひいては生命までも脅かされかねない子どもたちが多数いる。

⑵ 若年の自殺者数の増加

 厚生労働省自殺対策推進室及び警視庁生活安全局生活安全企画課が公表した「令和7年中における自殺の状況」によれば、全体の自殺者数は減少し、統計開始以降初めて2万人を下回り最少となった。その一方で、10代以下の自殺者数は上昇しており年間829人が自ら命を絶っている。そして、そのうち小中高生の自殺者数は538人と、統計のある1980年(昭和55年)以降、最多の数値となっている。

 家庭、学校、地域などにおいて居場所を失い、生きることに希望を持てない多くの子どもたちがいる深刻な状況にある。

⑶ ヤングケアラーとして支援が必要な子どもたち

 家族のケアなどに時間を割かれ、子どもにとって必要な、休息、遊び、学習などの時間が十分に取れず、支援の手が届かないまま、その権利が十分に保障されていない子どもたちがいる。家族の介護、その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者をヤングケアラーという(子ども・若者育成支援推進法第2条第7号)。

 「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」(令和2年度子ども・子育て支援推進研究事業)によれば、ヤングケアラーに該当する子どもがいると回答した中学校は46.6%、全日制高校は49.8%、定時制高校は70.4%、通信制高校は60.0%であった。また、世話をしている家族がいると回答した中学生が5.7%、全日制高校2年生が4.1%、定時制高校2年生相当が8.5%、通信制高校生が11.0%であった。

 ヤングケアラーは、家庭内のプライベートな問題であることや、本人や家族に自覚がないといった理由から表面化しにくいため、正確な実態把握は困難であると言われている。そうした中でも、上記調査では、ヤングケアラーに該当し、支援が必要と思われる子どもが一定数いることが明らかとなった。

⑷ 不登校児童生徒等の増加

 文部科学省の2024年度(令和6年度)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、小・中学校の不登校児童生徒数は約35万4000人と過去最多となり12年連続で増加した。また、高等学校における不登校児童数も6万7782人、中途退学者数は4万4571人と増加傾向にある。

 不登校の要因は様々であり、当事者である子どもの声に耳を傾け、改善すべき問題は何かを知り細やかな対応をしていくことが求められている。2024年(令和6年)3月に公表された「文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究報告書」によれば、不登校として報告された児童生徒が回答した「きっかけ要因」には、いじめ被害(26.2%)、教職員への反抗・反発(35.9%)、教職員とのトラブル、叱責等(16.7%)、学業の不振(47.0%)、宿題ができていない(50.0%)等があり、学校の環境や教育の在り方に課題があると思われるケースも認められる。学校が子どもたちにとって行きたい場所ではなくなっていることが懸念され、学校での様々な経験を通して学び、成長する機会が失われている子どもたちが多くいる。学校現場における取り組みとともに、学校外の支援を広げる必要性が高い。

⑸ いじめ認知件数・いじめ重大事態件数の増加

 2024年度(令和6年度)における小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は76万9022件であり過去最多となった。また、いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する「重大事態」の発生件数も、いじめによって児童生徒の生命、心身又は財産への重大な被害が生じた疑いのある事案(1号重大事態)が768件、いじめによって児童生徒が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある事案(2号重大事態)が896件、合計1404件[1]と過去最多となった。

 いじめ認知件数等の増加の背景として、いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義やいじめの積極的な認知に対する理解が広がったこと等も考えられるが、多くの子どもたちが、学校内を中心とする人間関係の中で傷つきを抱え、中には重大な被害を受けて苦しんでいる子どもたちもいるという憂慮すべき状況にある。

⑹ 日常生活において子どもの権利に関する理解が浸透していないこと

 2024年(令和6年)3月に作成された「児童の権利に関する条約の認知度等調査及び同条約の普及啓発方法の検討のための調査研究報告書」によれば、子どもの権利条約の内容をよく知っていると答えた大人はわずか4.3%しかおらず、聞いたことがないと答えた大人は46.8%もいた。

 子どもたちがおかれた深刻な状況の背景には、子どもの権利条約の趣旨が社会に浸透しておらず、子どもの権利を保障し、義務の担い手である大人の多くが子どもの権利について理解をしていないという現状がある。

第2 当会におけるこれまでの活動と今後の課題

1 子どもの声を聴く相談業務

 当会では、弁護士が子どもや保護者等から悩みや心配ごとを聞いて解決策をともに考える電話相談窓口「子どもの人権110番」を開設している(毎週土曜日12時30分~15時30分)。この電話相談窓口は、1994年(平成6年)に愛知県西尾市で起きた中学生いじめ自殺事件を契機に学校現場での「いじめ」に対する関心が高まる中でスタートしたものであるが、いじめだけではなく、家庭のこと、教職員との関係、非行等子どもに関係するあらゆる相談に対応している。電話で相談を受けた上で、必要に応じて面談での相談も実施している。相談担当弁護士名簿に登載される弁護士は、相談に適切に対応するため、研修や対応した事案の経験交流等を通じて研鑽し、必要な知識やスキルを高めている。

 2023年(令和5年)5月からは、子どもたちがSNSに親和性があることから、より相談しやすいツールとして「べんごしLINE相談」を開始した(毎月第2月曜日16時~19時)。より広く子どもたちに認知してもらうため、親しみやすいキャラクターをデザインしたカードを制作するなど工夫を重ねている。周知活動が実を結び多くの相談を受けている。

 今後も、効果的な広報を行い、子どもたちが気軽に相談できる窓口として活用してもらうように努め、子どもをめぐる実情の変化やニーズに応じて相談体制の充実を図るよう検討を進めていく。

2 子どもの福祉に関する諸活動

⑴ 児童相談所等への法的支援

 当会は、子どもの福祉を図るための中心的な機関である児童相談所(福岡県6か所、福岡市、北九州市に各1か所)と連携し、特に児童虐待の通告件数の増加に伴って生じる法的問題について、専門的な立場から法的なアドバイスを行ったり、司法手続の際の代理人として関与したりしている。

 2011年(平成23年)4月に、全国で初めて、福岡市の児童相談所に当会所属の弁護士が常勤職員として配置された。現在は常勤弁護士に加え、複数の弁護士が法的手続の代理人として活動している。

 2017年(平成29年)には、福岡県の児童相談所にも常勤弁護士1名が配置され、2021年(令和3年)には、さらに常勤弁護士1名が配置された。これに加え、福岡県の児童相談所では、常勤弁護士をフォローする形で複数の弁護士が、各児童相談所で週1回行われる受理会議に出席し、個別ケースに対する助言等を行っている。

 北九州市の児童相談所でも、2017年(平成29年)から非常勤弁護士が配置されている。

 また、虐待を受けた子どもや支援が必要な家庭の早期発見・支援を目的として市町村に設置されたネットワーク機関である要保護児童対策地域協議会の委員として会員が参画し、児童虐待の防止や対応の助言等を行っている。

 今後も、児童福祉の最新の動向、児童福祉法の改正などに対応するための研鑽を積み、市町村や児童相談所への法的支援をより一層充実させていく必要がある。

⑵ 子どもの代理人活動

 児童虐待、いじめ、体罰などの権利侵害を受けている子どもが親の協力を得られない場合に、日弁連が実施する「子どもに対する法律援助事業」を利用して、弁護士が子ども本人から相談を受け、裁判手続や関係者との交渉を行う代理人活動が活発に展開されている。子どもの法律相談については、福岡市児童相談所からの要請に応じ、弁護士が同所に赴き、一時保護中の子どもからの相談にも対応している。

 虐待が刑事事件化された場合に被害者である子どもの代理人として刑事手続に関与し、児童相談所とともに子どもを支える役割も果たしている。示談対応、証人尋問対応、意見陳述、加害親弁護人や捜査機関とのやり取りなど、子どもの手続参加と被害回復にとって不可欠の活動となっている。

 また、父母が裁判所で子どもの親権や監護の方法に関して争っている際に、子どもの意見を手続に反映させるために、裁判手続に参加する子どもの手続代理人として、子どもの意見形成と表明を支援する活動も行っている。共同親権の導入等の民法改正に伴い、子どもの利益を確保するための手段として子どもの手続代理人の役割がますます重要となっている。児童福祉法第28条に基づく審判や親権停止の審判において、子どもの意向によって手続代理人として関わる事例もあり、この分野での拡充も検討されるべきである。

 今後も、社会や法の変化に対応し、子どもの最善の利益を実現する代理人活動を実践していく必要がある。

⑶ ヤングケアラーの支援

 ヤングケアラーを支援する視点として、ヤングケアラーとその家族を孤立させないことが大切であり、子どもの最善の利益が守られるよう子どもが子どもらしく暮らし、育ち、学べる環境づくりを促進することが目指されるべきである。そのためには、広く市民がヤングケアラーについて知ること、社会全体の問題と認識すること、子どもが信頼できる大人がそばにいて話を聴く機会を増やすことが重要である。

 弁護士は、子どもからの相談や少年事件、民事事件や家事事件等に関わる中で、ヤングケアラーの存在を認識し得る立場にあり、そのような場面に遭遇したときにどのような支援が考えられるか、どのような関係機関につなぐべきかといった基本的な情報を備える必要がある。

 そこで、当会では、支援機関の方を講師に招いて研修会を開催し、ヤングケアラーの支援の現場、各機関・団体の支援活動の状況を知る取り組みを進めている。また、若者支援のための協議会に当会子どもの権利委員会の委員が出席し、各機関・団体との意見交換を通じて、情報を得るとともに、ヤングケアラー支援における弁護士の役割を認識理解していただけるよう活動している。

 今後は、こうした活動を踏まえて、ヤングケアラーに対する具体的な支援ができるよう体制を整えていかなければならない。

⑷ 他団体・弁護士会との連携を通じた知見の共有・研鑽

 当会では、児童虐待問題に関して市町村や児童相談所と連携する他、福岡市医師会とのパートナーシップ協議会を設置し、児童虐待に関する研究や講演会を継続して開催している。

 また、子どもの福祉に関する活動を充実させるために、他地域における実践例の共有とそれをふまえた運用改善を行うことを目的として、毎年、神奈川県弁護士会、大阪弁護士会など他の地域の弁護士と共同で合同福祉勉強会を開催し、児童虐待等に関する現状や実務面での問題について認識を共有するとともに、各テーマについて意見交換し、そこで得た知見・情報を日常の活動に還元している。

 今後も、知見・情報の共有を目指して、他機関・他団体や他の弁護士会との交流や連携を拡充し、継続する所存である。

3 学校現場における子どもの権利の実現に向けた諸活動

⑴ 学校現場の実態に対応する活動

 2020年度(令和2年度)、当会は、中学校の校則の実態について調査・検討を行い、これに基づいて、シンポジウム「これからの校則」を実施し、校則の見直しに向けて意見書を発表した。その結果、2021年(令和3年)7月の福岡市立中学校校長会の「よりよい校則(生活のきまり)を目指して」の策定につながった。2023年(令和5年)5月にも、「いらんっちゃない?校則」と題するシンポジウムを開催し、学校現場における校則改訂の動きや議論状況を確認した。今後も、校則問題についての取り組みを引き続き行っていく予定である。

 2010年(平成22年)に実施したシンポジウム「体罰について考える」を契機に福岡市教育委員会との勉強会を開始し、現在も継続している。勉強会では、学校現場において解決に困難を伴う事例の検討、いじめ重大事態の第三者委員会の調査報告書の分析、いじめや体罰に関する判例をもとにした意見交換等を行っている。子どもの最善の利益の確保という共通項のもと、弁護士にとっては、学校問題に関して説得力のある助言をする上で、学校現場の実情を知る重要な機会となっており、教育委員会側にとっても学校が対応する上での法的視点を理解する機会となっている。

 2023年(令和5年)11月1日より福岡県が学校外の立場からいじめ等に悩む子どもや保護者を支援する相談窓口として設置した「福岡県いじめレスキュー」に弁護士を専門員として派遣し、法的視点からの助言を行っている。

 また、学校の要請に応じてゲストティーチャーとして弁護士を派遣して「いじめ予防授業」を実施し、いじめを未然に防止し、いじめが起こった時に重大化しないよう子どもたちに考えてもらう取り組みもしている。

 さらに、学校現場における法的問題に弁護士が対応する実例として、2023年(令和5年)7月からは、福岡市教育委員会に当会所属の弁護士が常勤職員として配置されている。また、北九州市では、2019年度(平成31年度)より、当会北九州部会の弁護士がスクールロイヤー業務委託契約を締結し活動している。その他、福岡県内での複数の自治体で弁護士が法的問題に対する助言等をしている。

 学校問題については、日頃から子ども保護者等の相談を受け当事者がどのような意識を持っているのかを理解していること、学校現場でどのような問題が発生しそれについて現場の教職員あるいは教育委員会がどのような点に苦慮しどのように対応しているかを理解していることなど、学校現場のことを熟知している必要があり、そのような前提があるからこそ信頼性ある助言ができると考える。今後も、学校問題に関して弁護士の派遣を求められた場合に備えて、子どもや保護者等を対象とした相談体制の維持・充実、教育委員会との勉強会その他意見交換を通じて理解を深めていく。

⑵ いじめの重大事態調査における活動

 2013年(平成25年)6月、いじめ防止対策推進法が公布された。同法は、いじめ防止に関する措置及び重大事態への対処を柱としている。同法公布後、各自治体の調査委員会や専門委員会の委員に弁護士を推薦し活動してきた。

 同法施行から10年が経過し、2024年(令和6年)8月に「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が改訂された。同ガイドラインでは、調査にあたって公平性・中立性を確保するため、調査組織に第三者を加えることが推奨され、その第三者として弁護士の役割が期待されている。

 当会では、学校現場の実情に精通した適切な人材をより多く確保するために、いじめ防止対策推進法及びガイドラインに関する研修、調査委員経験者の報告を中心とした研修などを実施している。その上で、研修を受けた者や経験者を登載した調査委員候補者名簿を導入し、学校設置者等からの推薦依頼に迅速かつ的確に対応する体制を整えている。もっとも、調査委員の業務負担やそれに見合う報酬が確保されていないなどの課題もある。

 今後も、重大事態への対処及び同種事態の再発防止に関し専門的知識に基づく対応が可能となるよう役割を果たしていくとともに、調査委員が十分にその役割を果たしていけるように条件や環境の整備に努める。

4 子どもの権利条約の内容を具体化するための活動

⑴ 子どもの権利条約に関する周知活動

 日本が子どもの権利条約を批准してすでに30年が経過した。

 しかし、子どもを「権利の主体」と位置付ける条約の趣旨は、日本ではいまだ普遍的に実現されたということはできない。子どもの最善の利益を確保し、子どもの権利保障を当たり前とする社会体制の構築は道半ばである。

 当会は、2024年(令和6年)7月28日に、子どもの権利条約批准30周年記念イベントを開催した。また、権利の享有主体である子どもたちに、広く子どもの権利について知ってもらうため、2024年(令和6年)9月2日付けで子どもたちに宛てた会長談話「子どもの権利条約に参加して30年」を発出し、福岡県内の学校等に送付して子どもたちに届けた。同会長談話は、子どもたちに向けた平易な表現で「子どもの最善の利益」「子どもの意見表明権」といった条約の趣旨を説明するとともに、弁護士会として、国、自治体、地域に対して、子どもの権利条約が遵守される社会の実現を求めていくことを約束する内容であった。

⑵ 自治体における条例の制定及び救済機関創設の重要性

 福岡県内で10の自治体[2]が、子どもの権利条約に基づき子どもの権利保障をはかる総合的な条例を制定している(2026年(令和8年)4月現在)。さらに、このうち8つの自治体が、子どもの権利を救済する機関を設置し、子どもからの相談を受け、意見を聴きながら一緒に解決策を考えたり、子どもからの申立てを受けて調査を行い、調整を図ったりするなどの救済活動をしている。これらの条例の制定過程には、条例案を検討する委員会の委員として弁護士が関与し、また条例制定後も、救済機関の委員などの立場で、多くの弁護士が活動している。

 子どもの権利を保障するために、条例を制定し、子どもの権利の普及・啓発を行い、子どもの権利に基づく施策を実施することは重要であるが、それだけでは十分ではない。子どもの権利保障を実効的に行うためには、子どもの権利が侵害された時に、子どもの声を聴き、侵害された権利を回復し、救済する仕組みが必要である。国連子どもの権利委員会も、「人権の促進及び擁護のための国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」に則った、国から独立した子どものための人権機関の創設の必要性を指摘している。条約が求める国の機関設置に加えて、子どもの生活圏にあり、具体的なこども施策を実施している自治体においても、条例が制定され、個別救済ができる独立した救済機関の設置が重要である。

 子どもの権利の保障の必要性が一層高まっている現状をふまえ、条例が制定されていない各自治体に対し、条例の制定と権利救済機関の設置を求める活動を展開する。

第3 本年度中の運動加速が極めて重要であること

 前述のとおり、2028年(令和10年)には「こども基本法」及びこれに基づく「こども大綱」の5年見直しが行われる見込みである。また、このような定期点検の作業は、改定の前年度に大きく動き出す。したがって、改定を2年後に控える本年こそ、「こども大綱」に基づく各種施策について実施状況を把握して検証し、存在する課題をあぶりだすとともに、その対策の第一歩を踏み出すことが非常に重要である。

 当会が子どもの権利保障のための様々な取組みを進めてきたのは、子どもが、子ども時代を自分らしく幸せに過ごせるようにするとともに、子どもの権利を保障することが社会の持続的な発展成長のために必要不可欠であり、子どもの権利が保障されている社会こそ真にすべての人が生きやすい社会だと信じて疑わないからである。

 もっとも、これらの活動は一定の成果を上げてきたものの、子どもを取り巻く問題の複雑化・深刻化に鑑みれば、なお十分とは言えない。

 弁護士は、具体的な事件を通して、子どもたちの声を聴き、子どもたちの権利を救済できる立場にある。そして、具体的活動から見出した課題を社会に発信し、制度改善を行うことで、さらなる権利侵害を防止することができる立場にある。弁護士及び弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする存在として、子どもの権利の実現に向け、より積極的かつ組織的な役割を果たさなければならないと自覚する。

 こども施策の5年後見直しに向けて、今こそ、その役割を果たすために、子どもを取り巻く状況を踏まえた活動をさらに発展させていかなければならない。

第4 結語

 すべての子どもは、かけがえのない個人として尊重され、健やかに成長する権利を有している。子どもは保護の対象にとどまらず、固有の権利主体であり、その最善の利益はあらゆる場面において最優先に考慮されなければならない。

 当会は、子ども一人ひとりの尊厳が守られ、その最善の利益が具体的に実現され、すべての子どもが安心して健やかに成長できる社会の構築を目指し、本宣言を採択する。


[1] 1号重大事態と2号重大事態の両方に該当する場合はそれぞれの項目に計上されている。

[2] 志免町(2006年)、筑前町(2008年)、筑紫野市(2010年)、宗像市(2012年)、川崎町(2017年)、那珂川市(2021年)、田川市(2022年)、糸島市(2024年)、北九州市(2024年)、小郡市(2026年)の10自治体(括弧内は公布年)。

外国にルーツを持つ人々に対する人権保障の強化及び多民族・多文化が共生する社会の確立に取り組む宣言

カテゴリー:宣言

【宣言の趣旨】
当会は、外国にルーツを持つ人々に対する人権保障をより一層強化し、多民族・多文化が共生する社会を確立するため、以下のとおり、取り組むことを宣言する。
1 ヘイトスピーチ及びヘイトクライム根絶のため、福岡県及び福岡県内の地方自治体に対し、ヘイトスピーチ及びヘイトクライムの被害実態の把握を求めていくとともに、実効的な対策として、ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例の制定を働きかけていくこと
2 外国にルーツを持つ子どもが、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持するための教育を受ける権利を享受することができるよう、これを妨げている、国または地方自治体の差別的な制度を廃止するため、より一層取り組むこと
3 司法の分野における調停委員、司法委員、参与委員に外国籍者を任命しないという、法令に根拠のない運用を改めさせるため、最高裁判所及び福岡県内の裁判所に対し、積極的に働きかけていくこと

2025年(令和7年)5月28日

福岡県弁護士会
【宣言の理由】
第1 外国にルーツを持つ人々の人権と多民族・多文化が共生する社会の確立の必要性
1 外国にルーツを持つ人々の状況
(1) 日本全国における状況
日本においては、外国人留学生や技能実習生、特定技能等の就労外国人の増加により、2024年(令和6年)末の在留外国人数は、過去最高の約377万人に達し、2023年(令和5年)末から約36万人の増加となった。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、2070年に日本の総人口は8700万人まで減り、そのうち1割は外国人が占めると推計しており、外国人は年間16万5000人ほど増える想定を示していたが、実際はその2倍以上のペースで急増している。在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域の数は195(無国籍を除く。)に達する。
また、出生後に日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれ日本国籍を有する人等も日本で生活している。今や日本は、様々な形で外国にルーツを持つ人々が多く暮らす社会となっている。
(2) 福岡県内における状況
このような日本全国の傾向は福岡県内においても顕著であり、2024年(令和6年)6月末時点で、福岡県の在留外国人数は過去最高の約10万5000人に達する。
その在留資格別の内訳としては、2023年(令和5年)12月末時点での統計で、留学が約20%、永住者が約16%、技能実習が約15%、特別永住者が約10%の上位を占め、特定技能も約8%を占めている。
2 外国にルーツを持つ人々の権利擁護に関するこれまでの当会の取り組み
当会では、外国にルーツを持つ人々の司法アクセス改善のため、1991年(平成3年)4月から、財団法人福岡国際交流協会(現公益財団法人福岡よかトピア国際交流財団)が実施する外国人無料法律相談に弁護士を派遣し、2000年(平成12年)3月からは、独自に外国人無料法律相談を開始するなど、外国にルーツを持つ人々の権利擁護に継続的に取り組んできた。
近時も、特定技能の在留資格を導入した出入国管理及び難民認定法の改正に伴って、2019年(令和1年)7月、福岡県がワンストップセンターとしての「福岡県外国人相談センター(MAIC)」を開所したのに伴い、当会も、2021年(令和3年)7月30日、同センターを運営する公益財団法人福岡県国際交流センターと協定を締結して、弁護士の派遣を始めた。
2019年(令和1年)10月からは、福岡県からの委託を受けて、「ふくおか人権ホットライン」を開始し、この電話相談では、外国にルーツを持つ人々が受けた誹謗中傷や差別的取り扱いに関する相談も受け付けている。
また、2024年(令和6年)10月17日、福岡市中央区天神のアクロス福岡に、県内で暮らす外国人向けのワンストップ相談窓口「FUKUOKA IS OPENセンター」が開所された際にも、専門機関として他団体と連携して参画している。
さらに、当会では、後述するとおり、国による外国にルーツを持つ人々を差別する施策や社会内での差別に対しても、会長声明等を発するなどして、その是正を求めてきた。
特に、先駆的な取り組みとしては、2000年度(平成12年度)に、福岡県内の市町村の職員採用試験における国籍条項撤廃のため、当会会員が、当時、既に国籍条項を撤廃している10自治体を除く福岡全県88の自治体を直接訪問し、撤廃を求める要望書を渡し、その理解を求める活動を展開した。
加えて、2016年(平成28年)5月に成立した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下、「ヘイトスピーチ解消法」という。)の施行後もヘイトスピーチの実態に改善が見られないこと、当会として本問題への取り組みが不十分であったとの反省を踏まえ、2022年(令和4年)5月27日、「ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言」を発出している(以下、「2022年宣言」という。)。
3 更なる取り組みの必要性
しかしながら、出入国在留管理庁が実施している「在留外国人に対する基礎調査」によると、未だ日常生活の多くの場面で外国にルーツを持つ人々が深刻な差別に直面している実態が浮き彫りとなっている。
すなわち、2024年(令和6年)度調査によれば、差別を受けた場面は2021年(令和3年)度から上位3項目は変わらず、「家を探すとき」(17.4%)、「仕事をしているとき」(14.2%)、「仕事を探すとき」(12.4%)であった。また、差別を受けた相手については、2022年度(令和4年度)から上位3項目は変わらず、「見知らぬ人」(43.6%)、「職場関係者」(31.4%)、「住宅不動産関係者」(25.1%)が占めている。
さらに、ヘイトスピーチを受けたことがあると回答した割合は12.7%、受けたことはないが見聞きしたことがあると回答した割合は31.6%にのぼる。ヘイトスピーチを受けたり見聞きした場所としては、「インターネット」(65.5%)、「街宣活動」(19.0%)、「デモ」(18.7%)が多い。
人口減少が進む日本において、外国にルーツを持つ人々は年々増しており、アジアの玄関口を標榜する福岡市を抱える福岡県においても、外国人の受け入れの拡大を進める上で、憲法、国際人権基準に沿った人権保障を強化し、多民族・多文化が共生する社会を構築することの重要性はより一層高まっているといえる。
第2 ヘイトスピーチ及びヘイトクライム根絶のための取り組みについて
1 2022年宣言後の活動状況について
当会は、前述の2022年宣言を受け、同年10月5日、関連する人権擁護委員会、国際委員会、憲法委員会、法教育委員会の4委員会の委員及び会員から組織する「ヘイトスピーチ問題対策ワーキンググループ」を設置し、同年12月から、同ワーキンググループの活動を開始した。
現在までの間に、①「福岡県ヘイトスピーチ対策連絡会議」の構成団体である福岡法務局、福岡県、福岡市、北九州市との意見交換、②学校法人福岡朝鮮学園が設置・運営する北九州市八幡西区折尾の九州朝鮮幼初中高級学校、福岡市東区和白の福岡朝鮮幼初級学校への訪問、③駐福岡大韓民国総領事館の訪問、④福岡県内の60のすべての地方自治体に対する文書照会などの方法により、福岡県内のヘイトスピーチ等の被害の実態や実効的な対策のあり方についての調査等を進めている。
また、2024年(令和6年)6月13日には、ヘイトスピーチ被害の救済活動で先駆的な実績を有する神原元弁護士を講師に招いて、会員向けの研修会「研修 ヘイトスピーチ被害救済の実務」を開催し、被害救済の実務に関する理解を深める機会を設けた。
さらに、同年12月14日には、ノンフィクション作家の加藤直樹氏を招いて「市民とともに考える憲法講座 第十四弾『101年前、いま、みらい~朝鮮人虐殺からヘイト問題を考える』」を開催した。
2 福岡県内のヘイトスピーチ被害の状況
とりわけ、当会の現在までの福岡県内の実態調査を通じては、ヘイトスピーチ解消法の施行後も、以下のとおり、ヘイトスピーチに該当する被害の実例が存在することが明らかになった。
例えば、朝鮮学校では、2022年(令和4年)5月24日、同年6月6日には、「在日朝鮮人は日本から出て行け!!」、「韓国は世界中に迷惑をかけています。消えろ」、「竹島返せ!!」という文言が記載された張り紙が学校入口の坂道付近に貼られるという事件が発生している。
また、篠栗町の城戸南蔵院前駅では、2020年2月15日、駅ホームのゴミ箱上に設置された案内板に、「チョンは死ね」という落書きがあったことが発見されたという事案もあった。
さらに、駐福岡大韓民国総領事館によると、領事館前でのデモ・街頭宣伝(ただし、一人によるものを除く。)は、ヘイトスピーチ解消法の施行前である2012年(平成24年)4月から2015年(平成27年)9月まで(42か月)の期間(2022年宣言で引用した「平成27年度法務省委託調査研究事業によるヘイトスピーチに関する実態調査報告書」による調査期間)が15件であったのに対し、同年11月から2021年(令和3年)7月まで(69か月)の期間が64件、同年8月から2023年(令和5年)12月まで(30か月)の期間が23件確認されている。主な発言内容には、「国に帰れ」、「さっさと出て行け」、「日本は韓国と断交せよ」、「反日韓国は竹島を返還せよ」、「日本政府は韓国人を追い出せ」、「朝鮮人」、「ゴキブリ」等の、著しく差別的・排外的な言葉が含まれている。領事館では、デモ・街宣活動について、情報が事前に把握できた場合、ウェブサイトに案内を掲載して、日本を訪れる人に対して注意喚起をしているところ、2015年(平成27年)から2023年(令和5年)までの掲示件数は144件にものぼっている。
加えて、法務省も、「ヘイトスピーチ解消法施行7年」との特設サイトにおいて、「近時、ヘイトスピーチは、街頭デモなどの示威行動からインターネットにその舞台を移しつつあり、インターネットを含めると依然として多くのヘイトスピーチが行われています。」とするとおり、ヘイトスピーチ解消法の施行後も、SNS等のソーシャルメディアを通じたヘイトスピーチは後を絶たず、当会の実態調査においても、福岡県内で発生した犯罪に乗じたSNS上でのヘイトスピーチも確認されている。
3 ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例制定の必要性
当会の現在までの調査等を通じても、ヘイトスピーチ解消法の施行後もなお、福岡県内においてヘイトスピーチの被害が継続して発生している実態が明らかになった。
それにもかかわらず、前述の福岡県内の地方自治体に対する文書照会(回答数は60自治体のうち46自治体)によれば、何らかの形でヘイトスピーチの状況把握を行っている自治体は11自治体で、これを行っていない自治体が28自治体を占めており、福岡県内のヘイトスピーチの被害実態を把握する体制自体が採られていないことが浮き彫りとなっている。
また、ヘイトスピーチ解消に向けた取り組みについても、これを行っている各自治体の施策としてはもっぱら啓発活動にとどまっている。
さらに、ヘイトスピーチを規制するための条例制定については、これに積極的な自治体は11自治体にとどまっており、これに消極的な自治体が32自治体と過半数を占める状況となっている。
他方、全国的には、ヘイトスピーチ解消法の施行から9年が経過し、ヘイトスピーチの拡散防止措置を定め若しくはヘイトスピーチの禁止を明記する条例又は本邦外出身者や外国人に対する不当な差別の解消や禁止を定めている条例を定める自治体としては、2022年宣言以降、新たに、沖縄県(2023年)、東京都渋谷区(2024年)、相模原市(2024年)、群馬県太田市(2024年)が加わり、13箇所を数える。必ずしもその自治体の規模の大小や特定の地域に偏ることなく条例制定を行う自治体が徐々に増加しているところであって、当会の調査に対し、福岡県による条例制定を希望する自治体もあった。
ヘイトスピーチ規制については、罰することよりも、教育的意味、つまり、ヘイトスピーチが行ってはいけないことであることを知らせ、予防することが主目的としており、人種差別撤廃委員会の一般的勧告35(2013)においても「人種主義的ヘイトスピーチは、人権原則の核心である人間の尊厳と平等を否定し、個人や特定の集団の社会的評価を貶めるべく、他者に向けられる形態のスピーチとして、国際社会が非難しているのだということを強調する機能」(para.10)として紹介されているところであって、この点は重要であるといえる。
そして、ヘイトスピーチ解消法が理念法に留まり、ヘイトスピーチの禁止規定すらないことからすれば、条例において、これを明確に禁止することが必要であり、さらには、過料などの罰則や氏名公表制度など、その禁止を実効的に実現する規制についても、その基準や手続保障等について配慮しつつ、検討されなければならない。
そこで、当会においても、福岡県及び福岡県内の自治体に対し、改めてヘイトスピーチ及びヘイトクライムの被害実態の把握を求めていくとともに、実効的な対策として、ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例の制定を働きかけていくことが必要であるといえる。
具体的には、条例制定を求める要請活動、地方議会議員を対象とした学習会や意見交換会などの企画・実施、条例制定の機運を高めるための市民向けシンポジウム等の開催などに取り組む。
第3 外国にルーツを持つ子どもに対する差別の是正に向けた取り組みについて
1 憲法、子どもの権利条約、自由権規約等の国際人権諸条約の諸権利
憲法は、人が自己の人格を形成、実現するために必要な学習をする固有の権利である学習権を保障するとともに、教育を受ける権利における法の下の平等を定めている(憲法第13条、第14条、第26条1項)。
また、社会権規約第13条は、すべての人に教育を受ける権利を保障し、初等教育を無償かつ義務的なものと規定している。中等、高等教育においても機会の均等を保障し、すべての人がアクセス可能であることを求めている。さらに、保護者には、自らの信条に従って、子どものために公立・私立学校(外国人学校を含む。)を選択する自由を保障している。
この教育を受ける権利は、差別なく平等に保障されなければならず(社会権規約第2条2項、自由権規約第26条、子どもの権利条約第2条、第28条1項)、民族的・言語的・宗教的少数者に対しては、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持し、それに基づく教育を行い、あるいはそのような教育を受ける権利が保障されている(自由権規約第27条、子どもの権利条約第29条1項)。
2 外国人学校やその幼児教育・保育施設に対する差別とその是正の必要性
上記の憲法、国際人権諸条約における諸権利にもかかわらず、日本における外国にルーツを持つ子どもの学習権、教育を受ける権利の保障は十分でない。
国は、外国人学校やその幼児教育・保育施設が、外国にルーツを持つ子どもの教育に重要な役割を果たしているにもかかわらず、学校教育法1条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)に該当しない、各種学校においては幼児教育を含む個別の教育内容に関する基準がなく、多種多様な教育を行っている、などの理由で、国庫助成や給付金等の対象から排除するなどしている。
とりわけ、朝鮮学校については、朝鮮民主主義人民共和国による弾道ミサイル発射という時の情勢を契機として、いわゆる高校無償化制度から全国の朝鮮高級学校だけがその対象から除外されただけでなく、国が地方自治体に対し、補助金支出停止を促したこともあった(2016年(平成28年)3月29日文部科学大臣「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」)。こうした国の動きを受けて、地方自治体においても、朝鮮学校への助成や給付金等の停止や削減が進んだ。
この点については、国連の子どもの権利委員会も、2019年(平成31年)3月に出した総括所見において「日本人以外の出自の子ども(コリアンなど)・・・に対して現実に行なわれている差別を減少させかつ防止するための措置(意識啓発プログラム、キャンペーンおよび人権教育を含む)を強化すること。」(para.18)を促しているところである。
このような国または地方自治体による外国人学校やその幼児教育・保育施設に対する差別が繰り返される現状は、教育を受ける権利の保障の観点から改められなければならないが、ヘイトスピーチとの関係でも、これを温存・助長しかねないものであって、ヘイトスピーチ規制の強化を図るにあたっても、その前提として改められなければならない。
3 外国にルーツを持つ子どもに向けられた差別に対する当会における取り組みの必要性
国または地方自治体による外国にルーツを持つ子どもに対する差別に対して、当会は、これまで、2010年(平成22年)3月25日、「平等な高校無償化制度の実施を求める会長声明」を、2016年(平成28年)5月13日、「朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明」を、2020年(令和2年)7月2日、「外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明」を、2020(令和2)年12月9日「学生支援緊急給付金に関し困窮学生への平等な給付を求める会長声明」を、2022年(令和4年)4月27日、「外国人留学生や朝鮮大学校に通う困窮学生に対する学生支援緊急給付金の平等な給付を再度求める会長声明」をそれぞれ発出し、その是正を繰り返し求めてきた。
しかしながら、国または地方自治体による差別は繰り返されており、上記のとおり、教育を受ける権利の侵害であって、また、このような動きが外国にルーツを持つ子どもに対するヘイトスピーチを温存・助長しかねない。
そこで、当会としては、外国にルーツを持つ子ども、とりわけ特別永住者の子孫である在日韓国・朝鮮人、朝鮮半島にルーツを持つ子どもが、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持するための教育を受ける権利を享受することを妨げている、これらの差別の是正に向けて、より一層取り組みを強化していく必要がある。
具体的には、引き続き国や地方自治体に対し、外国人学校やその幼児教育・保育施設への平等な制度の適用や財政的支援を求めるとともに、在日韓国・朝鮮人に対する歴史的な偏見や差別の歴史について、学習会開催などを通じた啓発活動にも取り組む。
第4 司法の分野における差別解消の取り組みについて
1 外国籍の調停委員等の就任拒否の問題
司法の分野においても、国が外国にルーツを持つ人々に対する差別を合理的理由なく継続している現状が未だ存在する。
すなわち、最高裁判所は、調停委員、司法委員及び参与員の採用に当たり、規則上は国籍要件がなく、その他の要件をすべて満たしているにもかかわらず、外国籍者の就任を一律に拒否している。
家事事件手続法にも民事調停委員及び家事調停委員規則にも、調停委員の資格要件や欠格事由として日本国籍の有無に関する規定はなく、法令上、調停委員に関する国籍要件は存しない。
そのため、「弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば、国籍にかかわらず、調停委員に任命することは可能である。実際に、過去には、大阪弁護士会所属の外国籍弁護士が民事調停委員に採用された例がある。
ところが、最高裁判所は、2003年(平成15年)の兵庫県弁護士会の韓国籍会員についての調停委員の任命拒否以降、全国の弁護士会が、外国籍弁護士を推薦しても、候補者として扱わない運用を継続している。
これに対して、日本弁護士連合会及び各地の弁護士会は、2009年(平成21年)以降、多くの決議・会長声明・意見を発表し、当会においても、2010年(平成22年)3月、「国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める声明」を発表しているが、最高裁判所は、日本弁護士連合会からの2004年(平成16年)、2008年(平成20年)の照会に対し、「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」に該当することを理由に、前記運用を一向に改めていない。
しかしながら、そもそも調停とは、紛争の当事者間において、条理にかない実情に即した適正妥当な合意の成立を目指すという紛争の自主的解決を図る制度である。調停委員はその中で、当事者と一緒に紛争の実情に即した解決策を考えるために、当事者の言い分や気持ちを十分に聴取する等して合意の形成を目指すことをその職務とするものである。また、調停は当事者が合意して初めて成立するもので、調停委員が強制的な権限を持つものではない。このような制度趣旨・運用に照らすと、調停委員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」には該当せず、最高裁判所の解釈は妥当性を欠いている。
したがって、最高裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設するものであるだけでなく、調停委員の具体的な職務、職責を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであり、国籍を理由とする不合理な差別として、憲法14条に違反する。
国際的にみても、国連人種差別撤廃委員会は、総括所見において、2010年(平成22年)3月と2014年(平成26年)8月の2度にわたり、人種差別撤廃条約第5条との関係で、資質があるにもかかわらず、外国籍者が、調停委員として調停手続に参加できないという事実に懸念を表明し、能力を有する日本国籍でない者が家庭裁判所における調停委員として行動することを認めるよう、締約国である日本の立場を見直すことを勧告している。
2 多民族、多文化共生の観点からも差別解消が急務であること
また、前述のとおり、既に日本は、外国にルーツを持つ人々が多く暮らす社会となっているのであって、調停の場に、他国の文化と日本の文化の相違等を理解している外国籍者が調停委員や司法委員として参画することは、外国籍当事者の実情に即した紛争解決という観点において、むしろ調停制度を充実させるものである。
家事調停においては、例えば国際結婚カップルの離婚調停のような場面で、外国籍の調停委員が関与することにより、外国籍配偶者の不安や孤立感を緩和し、調停手続をより円滑に進める効果が期待される。
2025年(令和7年)2月7日開催の2024年度(令和6年度)福岡法曹協議会での協議結果によると、福岡家庭裁判所においても、外国籍当事者の家事調停事件の新受件数は、2021年(令和3年)が74件、2022年(令和4年)が88件、2023年(令和5年)が108件と年々増加しており、多民族、多文化共生の観点からも差別解消が急務である。
3 当会における取組み強化の必要性
この問題について、当会では、前述の2010年(平成22年)3月の会長声明以降、2021年(令和3年)11月27日に近畿弁護士会連合会の外国籍の調停委員採用を求めるプロジェクトチームの韓雅之弁護士(大阪弁護士会)を講師に招いて、人権擁護委員会内で学習会を開催するなどの取り組みは行ってきた。もっとも、裁判所から当会に対して調停委員の推薦依頼がなかったこともあり、これまで必ずしも、具体的な取り組みを展開できていたとはいえない。
しかし、我々が属する司法の分野におけるこの差別を改めさせない限り、多民族・多文化が共生する社会の実現はあり得ない。当会としても、この差別を解消するべく、今後さらに積極的な取り組みを行う必要がある。
具体的には、最高裁判所に対し、改めて外国籍者の調停委員等への就任拒否を是正するよう求めるとともに、福岡県内の裁判所からもその要望が最高裁判所に届けられるよう、各種裁判所との協議会等において、この問題を積極的に提起していく覚悟である。
第5 結語
以上のとおり、人口減少が進む日本、そして、福岡県においては、外国にルーツを持つ人々は年々増加しているにもかかわらず、これらの人々に対するヘイトスピーチは未だ横行しており、教育分野や我々司法の分野においても差別が繰り返され、一向に是正されていない状況があるのであって、外国にルーツを持つ人々への人権保障を強化し、全ての人々が共生できる、活力のある日本の地域社会を創造するため、今こそ、具体的な行動が求められているといえる。
よって、当会は、宣言の趣旨記載のとおり、外国にルーツを持つ人々に対する人権保障をより一層強化し、多民族・多文化が共生する社会の確立に向けて、全力を挙げて取り組む所存である。

以上

自殺予防・自死問題対策のための取組及び連携を一層強化する宣言

カテゴリー:宣言
 わが国の年間自殺者数は、1998年(平成10年)に急増し、同年から2011年(平成23年)まで14年連続して3万人を超える状態が続いた。当会は、2012年(平成24年)に自死問題対策委員会を発足し、また、同年5月23日には「『自死』をなくすための行動宣言~自死を防ぐための『気づき』『つなぎ』『見守り』とは何かを考える~」を採択した。この宣言で当会は、①会員を対象とする自殺対策に関する研修を充実させること、②医療福祉専門職(医師・臨床心理士・精神保健福祉士等)の協力を得て法律相談を行う体制をつくり、アウトリーチ(訪問支援)としての法律相談を実施すること、③弁護士会と各専門機関とのネットワークを構築し連携を強化すること、④基本的人権の擁護を使命とする弁護士会としての立場から政策提案及び立法提言を行うこと掲げ、今日まで、追い込まれた末の死として自殺で亡くなることを防ぐための活動に取り組んできた。
全国でも、国をはじめとする関係者の様々な取り組みが進められた結果、年間自殺者数は3万人台から2万人台に減少し、2019年(令和元年)には2万人を下回った。ところが、新型コロナウイルス感染症流行下において、2020年(令和2年)の年間自殺者数は2万1081人となり、11年ぶりに前年を上回る人数となった。これを具体的にみると、男性の自殺者数は11年連続で減少しているのに対し、女性の自殺者数が増加し、女性の自殺者数増加が2020年(令和2年)の自殺者総数の増加に直結していることが分かっている(厚生労働省「令和3年度版自殺対策白書」)。さらに、2016年(平成28年)以降増加傾向にある学生・生徒の自殺者数も、2020年(令和2年)は前年に比して著しく増加した。2021年(令和3年)の自殺者総数は、警察庁の自殺統計(速報値)によると2万0984人であり、前年からわずかに減少したものの、前年に引き続いて子ども・若者及び女性の自殺が目立つ状況にある。
このように、わが国の自殺・自死の問題は、未だ深刻な状況にある。また、新型コロナウイルス感染症が自殺の要因となる様々な問題を悪化させている可能性がある。
令和3年度版自殺対策白書において、2020年(令和2年)の「女性の自殺の増加」を職業別に見ると、「被雇用者・勤め人」で増加し、原因・動機別では、「勤務問題」,その中でも「職場環境の変化」が過去5年平均と比して98.3%の増加となっており,新型コロナウイルスの感染拡大により労働環境が変化したこととの関連が示唆されている。また、2020年(令和2年)における児童生徒の自殺者数は499人で,前年の399人から大きく増加した。新型コロナウイルス感染症に伴う長期にわたる休校は,通常の長期休業と異なり,教育活動再開の時期が不確定であることなどから児童生徒の心が不安定になるおそれが指摘されている(文部科学省の「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」)。
このように、新型コロナウイルス感染症の拡大は、子ども・若者及び女性の自殺の深刻化に影響があると考えられる。私たちは、新型コロナウイルス感染症という新たな問題が自殺・自死問題に与えている影響を分析し、新たな課題に対応していく必要がある。
そこで、当会は、これまでの自殺・自死問題に対する取組みを踏まえて、さらなる活動の拡充を目指し、次のとおり宣言する。
1  2012年(平成24年)の宣言で述べた取組みを継続することはもとより、自殺の危険因子となりうる法的問題に関わる当会の各委員会において、それぞれの課題解決への取組に一層の力を注ぎ、それによって自殺危険因子を除去・減少させるよう努め、弁護士会として自殺予防に寄与していく。
2  弁護士が自殺の危険性が高い人の支援を行う際にも、多角的視点から同人のニーズを検討し、対応が必要と判断した際には、弁護士会内での他の専門窓口や、他の専門機関につないで各種施策との連携を図るようにするとともに、自殺予防に取り組む他の専門機関から法的支援の要請を受けた場合には適切に対応する。このようにして、自殺予防のためのネットワーク作りをさらに強めていく。

2022年(令和4年)5月27日
福岡県弁護士会

宣言の理由

1  福岡県弁護士会の自殺・自死問題へのこれまでの取り組み
自殺は、追い込まれた末の死といえる。そして、自殺が発生する背景には複数の要因が連鎖して存在していることが多い。
われわれ弁護士は、日常の業務の中で、自殺の要因(経済問題、家庭問題、労働問題、男女問題、学校問題等)となりうる法的問題に携わることが多い。
弁護士が、法的問題を通じて、相談者又は依頼者等と関わる中で、自殺の危険性があると感じた場合は、単に法的問題を解決するだけではなく、必要に応じて、適切な他の専門職につなぐ必要性が高いといえる。
弁護士が、このような自殺予防の「ゲートキーパー」としての役割を果たしていくことを目指して、当会は2012年(平成24年)の宣言にもとづき以下の活動を行ってきた。
(1) 研修の充実
弁護士が自殺予防の「ゲートキーパー」としての役割を果たしうるためには、弁護士が、自殺・自死問題に対する理解を深める必要がある。
そこで当会は、会員を対象に、自殺対策に関する知識及び自殺企図者の法律相談技術の向上を図る研修を毎年行ってきた。
最近5年間のものとしては、2021年(令和3年)9月実施の「弁護士・事務職員のメンタルヘルス」、2020年(令和2年)9月実施の「ケーススタディで学ぶ、希死念慮者や自死遺族にまつわる各種事件への対応」、2019年(令和元年)5月実施の「こころの問題を抱えた方からの法律相談のスキル(ロールプレイ実践)」、2018年(平成30年)7月実施の「こころの問題を抱えた当事者への弁護士の対応の留意点」、2017年(平成29年)9月実施の「被災者の法律相談における精神医療の観点からの留意点」が挙げられる。
(2) 法律相談による支援
ア 自殺・自死問題に対応する相談
当会は、自殺・自死問題に対応する相談窓口として、①自死遺族法律相談及び②自死問題支援者法律相談の2つの相談制度を設けている。
①自死遺族法律相談は、2012年10月に開始した制度で、現在も福岡県、福岡市、及び北九州市で開催している。福岡市では、市との共催で毎月1回、天神弁護士センターにおいて弁護士1名と心理専門職1名の合計2名による面談相談及び電話相談を実施している。福岡市の相談では2012年の開始以来、電話相談40件(うち10件が継続相談となった)、面談相談110件(うち48件が継続相談となった)の計150件の相談を受けている。北九州市では、北九州市の委託事業として、北九州市精神保健福祉センターにおいて、電話相談及び面談相談を行っている。福岡県では、福岡県精神保健福祉センターにおける法律相談に毎月1回、会員を派遣している。
②自死問題支援者法律相談は、2013年12月に開始した制度で、自殺の危険性がある本人ではなく、本人を支援する方々(家族、医療関係者、福祉関係者など)からの相談を受け付けるものである。相談申込みの受付から原則48時間以内に弁護士による電話相談を行い、必要に応じて面談相談も行うもので、支援者と共に本人の法的問題の解決を図ることを目指す制度である。筑後地域では、「かかりつけ医による精神科医紹介制度」とタイアップする形での相談にも応じている。
同相談では、2013年12月の開始以来、合計238件(➀相談者内訳:家族31件、本人78件、支援者129件、②相談結果内訳:電話相談のみ98件、面談相談のみ78件、電話相談及び面談相談57件)の相談を受けている。
イ 個別の自殺要因に対応する相談
また、個別の自殺要因に対応する様々な相談も実施している。
自殺の要因として多い経済的な問題や、雇用の問題に関する法的支援として、県内17か所の法律相談センターで無料の多重債務相談・無料労働相談を実施している。
生活困窮者への法的支援としては、➀生活保護に関する無料法律相談である生活保護支援システム(いわゆる生活保護版当番弁護士制度)を運営して相談を受けているほか、②日本司法支援センター(法テラス)及び県内の14自治体(試行中のものも含む)と連携し、生活保護利用者・自立支援事業対象者向けに、各自治体の福祉事務所(保護課)への巡回法律相談であるリーガルエイドプログラム(Legal Aid Program)を実施し、③法テラスと連携しホームレス支援のための法律相談も実施している。
⑶ ネットワークの構築・連携の強化
当会は、自殺・自死問題に対応するため、国や自治体、医師、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職団体との協議や連携を行っている。
上記の自死遺族法律相談や自死支援者法律相談は、精神保健福祉士や臨床心理士等の専門職の同席や協力を得て実施している。また、福岡市主催の自死問題対策の相談会(こころと法律の相談会)に会員を派遣し、精神科医師、臨床心理士、精神保健福祉士、司法書士と一般市民からの相談に対応している。
また、他の専門職と共同して相談に対応するだけではなく、医師や精神保健福祉士と自殺・自死問題に関する研究会及び交流会を行っている。例えば、福岡大学病院精神科とは、毎年複数回の共同研究会(テーマ研究、ケーススタディ等)を行っており、当会北九州部会の自死問題対策委員会の月例会議には毎回北九州市精神保健福祉センターのスタッフも参加している。筑後部会では、精神保健福祉士会と毎年合同でセミナーを開いている。
さらに、当会は、毎年、市民向け自殺対策シンポジウムを開催している。シンポジウムでは、自殺対策に関する専門家の講演だけでなく、他の専門職とのパネルディスカッションを行い、意見交換を行っている。
⑷ 積極的な政策提言及び立法提言
当会には、自殺危険因子に関係する分野を扱う様々な委員会があるが、制度改善によって自殺危険因子をなくしていくべく、それぞれの分野における政策・立法提言を行っている。
例えば、自殺の大きな要因の1つである貧困問題に関しては、生活保護改正法案の廃案を求める会長声明(2013年(平成25年)11月22日)、ホームレス自立支援特別措置法の期限延長を求める会長声明(2017年(平成29年)3月9日)、生活保護基準の引き下げを行わないように求める会長声明(2018年(平成30年)3月9日)、最低賃金の引上げを求める会長声明(2018年(平成30年)6月8日、2020年(令和2年)7月27日、2021年(令和3年)7月7日)等がある。
多重債務の問題に関しては、貸金業法や利息制限法の改悪の動きに強く反対する会長声明(2012年(平成24年)7月18日)があり、保証人の自殺に関しては、個人保証の原則禁止など抜本的な法改正を求める決議(2013年(平成25年)5月22日)がある。
コロナ禍のもとでは、中小企業・小規模事業者の経営を支援することにより、経営者、従業員とその家族の生活、取引先の経営を守る宣言(2021年(令和3年)5月27日)を行っている。
2 さらなる取り組みの必要性
(1) 自殺・自死の問題が未だ深刻な状況にあること
2012(平成24年)の宣言の後の全国の自殺者数の推移は、本宣言の趣旨の中に記載したとおりである。
福岡県の年間自殺者数の推移も見てみると、1998年(平成10年)から毎年1000人を超える状況であった。2014年(平成26年)には、16年ぶりに年間自殺者数が1000人を下回り、以降、減少傾向が続いていたが、2020年(令和2年)に、年間自殺者数が826人となり、国全体と同様に前年を上回る結果となった。
このように、全国的にも、福岡県においても、この10年間の様々な自殺予防の取り組みの成果もあって、自殺者数は減少していたにもかかわらず、コロナ禍のもと、再び増加の兆しをみせている。
コロナ禍により、貧困問題や孤立をはじめとする様々な自殺危険因子が生じたが、その悪影響は、新型コロナウイルス感染が落ち着いたとしても、長期的に残存する可能性がある。
我々は、自殺・自死の問題が未だ深刻な状況にあることを認識し、当会が行ってきた自殺対策の取り組みをより一層強化する必要がある。また、自殺の危険因子に関わりのある分野を取り扱う各委員会も、危険因子の解消につながるそれぞれの活動を一層充実させる必要がある。
(2) 各機関との連携による包括的な取組みの必要性
また、追い込まれた末に自殺で亡くなってしまうことを回避するためには、複雑に連鎖している問題を解決する包括的な取組みが重要である。
なぜなら、問題を部分的に解決するだけでは、支援として充分でないことが広く認識されており、調査結果にも裏付けられているといえるからである。
具体的には、NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンクが自死遺族に対して行った自殺の実態調査で、自殺者が一人あたり平均して4つの問題(例えば失業→生活苦→多重債務→鬱病等)を抱えていたこと、また、自殺者(相談の有無が明らかな者)のうち約70%が、亡くなる前に専門機関に相談していたことが明らかとなっている。相談時期としては、亡くなる前1か月以内の相談が約60%であり、自殺者は、自殺に至る直前に専門機関に相談をしたにもかかわらず、自殺に至ってしまったという深刻な現実がある。
そのため、自殺を防ぐためには、各専門機関が連携することで、自殺の危険性が高い人が抱えている問題の一部ではなく、全体を解決していく必要がある。
(3) われわれ弁護士に求められている役割
弁護士として自殺の危険性が高い人の支援を行う際にも、同観点から、他に対応が必要な問題はないか検討し、対応が必要と判断した際は、専門機関につなぎ、連携を図りながら支援を行うことが重要である。
当会は、これまで自殺予防の支援を行う関係機関とのネットワークの構築を行ってきたが、新型コロナウイルス感染症の影響下で自殺の要因となる問題が悪化している中で、このような取組みをさらに強化することが求められている。
また、社会における自殺予防のためのネットワーク構築としては、いずれかの支援窓口にたどり着けば、各関係機関の連携を活かして他の要因についても必要な支援を受けることができる体制を築くことが必要である。
このようなネットワークを構築することができれば、社会の誰もが、複雑に連鎖する問題に対して包括的な支援を受けることができる可能性が高まり、自殺・自死問題の解決だけではなく、社会の住民の命とくらしの質を守ることにつながるといえる。
われわれ弁護士も、支援につながるための窓口の一つであることを認識し、その役割を果たすことが求められている。私たちの社会は、今、これまで予期していなかった様々な問題に直面しているが、より良い社会を実現するため、法律の専門家として、積極かつ果敢に取り組む所存である。
以上から、当会は、上記のとおり宣言する。

以上

ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言

カテゴリー:宣言
1 人種ないし民族的出身などに基づく社会的少数者に対する偏見・憎悪・嫌悪の感情等を主な内容とする差別的言動(いわゆるヘイトスピーチ)は、対象とされた人々の個人の尊厳(憲法第13条)、法の下の平等(憲法第14条)等の基本的人権を著しく侵害するものであるばかりか、これを放置すると攻撃対象とされた人々に対する社会的な差別、偏見、憎悪、暴力等を助長しかねない、絶対に許されないものである。
2 しかし、我が国では、長くヘイトスピーチに対する対応がなされておらず、その対応の不十分さについて、国際的にも批判を受けていたところである。
このような国際的な動向もあって、2016年(平成28年)6月、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律」(いわゆるヘイトスピーチ解消法)が制定された。
3 同法に対しては、その性質や限界などについて種々の批判もあるものの、ともあれ、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」が我が国において許されないものであることを宣言し(前文)、これを解消すべきことが国及び地方公共団体の責務であることを明らかにした点(第1条)では大きな意義のあるものであった。
しかし、遺憾なことに、同法施行後も我が国ではヘイトスピーチが続いている。間もなく同法が施行後6年となるが、状況は変わっていないばかりか、市中での街宣行動や、インターネット上でのヘイトスピーチが横行している。
4 福岡県内においても、在福岡大韓民国総領事館前、在福岡中華人民共和国総領事館前等、また、天神等の繁華街や駅前等において、ヘイトスピーチにあたりうる表現行為が平然となされ続けている。
また、インターネットの動画サイト上に、前記の街頭におけるヘイトスピーチ等を内容とする投稿が組織的になされている。
福岡県は、歴史的な諸事情やアジア諸国と近接しているという地理的な面から、異なるルーツを持つ市民が多く共生している地域であり、県内における実状に照らしてヘイトスピーチを根絶すべき要請は大きい。
5 それにもかかわらず、当会はこれまでこの問題に正面から取り組んできたとは言えず、このことは大いに反省しなければならない。
また、目を外に転じても、福岡県内には例えばヘイトスピーチに対する実効的な施策としての条例を定めている自治体は未だなく、十分な対策がなされているとは言えない実情にある。
全国的な状況を見れば、表現の自由に配慮しつつ、公の施設を利用してヘイトスピーチがなされる場合における施設利用の規制に関する条例やガイドラインを制定し、第三者機関を置くなどの取り組みを行っている自治体も存在していることを考えれば、福岡県内の自治体の取り組みの遅れは、看過できない。
6 そこで、当会は、上記反省の上に立って、次の通り宣言する。
⑴ 異なるルーツを持つ市民が、共に安心し、平穏なる生活が営めるよう、ヘイトスピーチ問題を対象とする法律相談体制をより充実させる等、ヘイトスピーチによる被害の予防・救済のための法的支援の活動を進めていく。
⑵ 福岡県内におけるヘイトスピーチを根絶するために、いかなる方策によることが実効的であるのかについて、表現の自由に配慮しつつ、具体的検討を進めていく。
⑶ 福岡県及び福岡県内の自治体に対しても、多文化共生の理念を尊重し、ヘイトスピーチを根絶するための実効的な方策をとるよう求め、その実現のために、連携した取り組みを行っていく。

2022年(令和4年)5月27日
福岡県弁護士会

宣言の理由

1 ヘイトスピーチが絶対に許されないものであること
わが国では2009年(平成21年)12月、京都朝鮮第一初級学校に隣接する児童公園を利用して上記学校に対し、「朝鮮学校を日本から叩き出せ」等の怒号をもって誹謗中傷する内容の抗議・街宣をするいわゆる「京都朝鮮第一初級学校事件」が発生した。
また、2010年(平成22年)頃以降、東京都の新大久保や大阪市の鶴橋等で頻繁に反韓デモが実施された。そこでは「韓国人は日本から出ていけ」「ゴキブリ朝鮮人を追い出せ」「韓国人を殺せ」「鶴橋大虐殺を実行しますよ」「実行される前に自国に戻ってください!」等、在日韓国人、在日朝鮮人を誹謗中傷し、嫌悪、排撃することを扇動するが如き表現が用いられた。
このように、人種ないし民族的出身などに基づく社会的少数者に対する偏見・憎悪・嫌悪の感情等を主な内容とする差別的言動(いわゆるヘイトスピーチ)は、攻撃対象とされた人々の個人の尊厳(憲法13条)、法の下の平等(憲法14条)等の基本的人権を著しく侵害するものであり、これが横行するときは攻撃対象者に対する社会的な差別、偏見、憎悪、暴力等を助長するものであり、絶対に許されないものである。
しかし、我が国では、長くヘイトスピーチに対する対応がなされてこなかった。その対応の不十分さについて、2014年(平成26年)7月に国連自由権規約委員会から、同年8月には国連人種差別撤廃委員会から勧告を受けていたところであった。
2 ヘイトスピーチ解消法(2016年)の制定
(1)制定経緯について
ヘイトスピーチが社会問題化する中で、2013年(平成25年)以降、国会においても度々議論がなされ、法制化の検討がなされていたが、2016年(平成28年)5月24日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)が成立し、同年6月3日の公布日から施行された。
同法制定の背景としては、①当時、ヘイトスピーチを伴う街頭宣伝活動が各地で公然と行われ、またその様子がインターネットで広められていたこと、②2014年(平成26年)8月に、人種差別撤廃委員会が、日本政府に対し、人種差別的ヘイトスピーチやヘイトクライムから保護する必要のある社会的弱者の権利を擁護する重要性を喚起し、増悪及び人種差別の表明、デモ・集会における人種差別的暴力及び増悪の扇動にしっかりと対処するよう等の勧告を出したこと、③京都朝鮮第一初級学校事件の民事訴訟において、同年12月9日、最高裁判所が被告らの上告を棄却し、名誉毀損と業務妨害を認めて加害者側に損害賠償を命じた判決が確定したこと等があった。
(2)問題点
もっとも、同法については、主に①対象が、「本邦外出身者」への不当な差別的言動に限定されているため、本法内出身者が含まれない点、②対象となる「本邦外出身者」も「適法に居住するもの」に限定されている点に問題があると指摘されている。
さらに、同法はいわゆる理念法であり、具体的な規制や手続について定めているものではないため、十分な対策とは言えないとの批判がなされている。
国際的にも、2018年(平成30年)8月、国連人種差別撤廃委員会は同法の施行を歓迎しつつも、同法の適用範囲が狭く、また、同法施行後も我が国でヘイトスピーチが続いていることを踏まえ、同法の改正等を内容とする勧告を行っている。
このような状況下で、全国でヘイトスピーチは続けられている。
3 福岡県内でのヘイトスピーチ問題の現状
(1)福岡県内の在留外国人数、歴史的・地理的経緯
福岡県は、アジア諸国と近接しているという地理的な面から、大陸からの文化を積極的に受け入れ、中国や朝鮮半島の人々などとの交流によって発展してきたという歴史的な経緯が存在する。
そして、2020年(令和2年)12月末の在留外国人統計によると、福岡県には8万1072人(全国の都道府県で9番目の人数)の在留外国人が暮らしており、異なるルーツを持つ市民が多く共生している。
とりわけ、同統計によると、福岡県内には1万1265人の特別永住者が暮らしており、これは大阪府、東京都、兵庫県、愛知県、京都府、神奈川県に次ぐ全国7番目の人数である。
また、同統計によると、国籍・地域別でも、福岡県内には、韓国・朝鮮の人が1万5862人暮らしており、これは、大阪府、東京都、兵庫県、愛知県、神奈川県、京都府、埼玉県、千葉県に次ぐ全国9番目の人数である。
これには、福岡県には、戦前多くの炭鉱があり、そこでは多数の朝鮮半島出身者が働いていたこと、終戦時、博多港は、在日コリアンが朝鮮半島へ引き揚げる港の一つとなっており、朝鮮半島に近いために多くの在日コリアンが集まったという経緯がある。しかも、戦後の混乱等から朝鮮半島に引き揚げず、そのまま福岡県にとどまった在日コリアンも多数存在していた。
さらに、福岡県内には、学校法人福岡朝鮮学園が設置・運営する学校として、北九州市八幡西区折尾に九州朝鮮中高級学校、北九州朝鮮初級学校、同八幡付属幼稚園が、同市小倉北区に同初級学校小倉付属幼稚園が、福岡市東区和白に朝鮮初級学校が存在し、広く九州に居住する在日コリアンの子どもに対し民族教育を実施しており、また、福岡市内には広く山口、九州(長崎を除く)、沖縄を管轄区域とする在福岡中華人民共和国総領事館、九州・沖縄を管轄区域とする在福岡大韓民国総領事館が存在している。
(2)ヘイトスピーチに関する実態調査
以上のような状況を踏まえて、2016年(平成28年)3月の平成27年度法務省委託調査研究事業によるヘイトスピーチに関する実態調査報告書を見ると、2012年(平成24年)4月から2015年(平成27年)9月までの間(42か月)に福岡県で行われたヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動は49件にのぼっていた。この件数は、東京都、大阪府、愛知県、北海道に次ぐ、広島県と同数で全国5番目に多い件数であった。
そのため、ヘイトスピーチ解消法の成立以前においても、福岡県議会では2014年(平成26年)12月18日に外国人等への差別助長いわゆるヘイトスピーチに対する取組の充実強化を求める意見書が、福岡市議会では2015年(平成27年)3月16日にヘイトスピーチの根絶のための早急な対策を求める意見書が、北九州市議会では同年3月11日にヘイトスピーチ対策を求める意見書がそれぞれ採択されている。
しかし、福岡県内においてヘイトスピーチに対しカウンター等の抗議活動を行っている団体によると、その後の2015年(平成27年)11月から2021年(令和3年)7月までの間(69か月)に福岡県で行われたヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動は78件(近隣県における件数を加えると91件)発生しており、ヘイトスピーチ解消法の施行後も福岡県内におけるヘイトスピーチが決して解消されていない状況が存在する。
2021年(令和3年)8月26日、福岡法務局は、2019年(平成31年)3月11日の九州朝鮮中高級学校近くで行われた、特定の政党の選挙演説における「おまえらは日本から出て行けと言われて当たり前」、「朝鮮人は危険です」などという発言を「ヘイトスピーチ」と認定している(但し、人権侵犯の有無は不明確とされている)。
(3)総領事館前等での抗議活動
さらに、在福岡大韓民国総領事館前はもとより、福岡市内の在福岡中華人民共和国総領事館前等においても、街宣車での大音量での抗議活動なども行われており、その言動の中にはヘイトスピーチと見られるものが含まれている。
前述のヘイトスピーチに関する実態調査報告書を見ても、2012年(平成24年)に、九州・沖縄地区において「支那人移民を一人残らず日本からたたきだせ」というテーマを掲げたデモ・街宣活動が行われたとされているところであって、中国出身者に対するヘイトスピーチも問題となっている。
全国的には、特に2020年(令和2年)、新型コロナウィルス感染症の感染拡大で社会不安が広がる中で、沖縄県では「今入国しているチャイニーズは歩く生物兵器かもしれない」などという街頭宣伝が行われたり、東京都では同年6月にデモ行進内で行われた「新型コロナウィルス、武漢菌をまき散らす支那人、今すぐ出ていけ」などの発言をヘイトスピーチと認定したりしている。
4 地方自治体における取組みの状況
(1)大阪市における取組みの状況
大阪市では、2016年(平成28年)1月18日、「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が施行された。
同条例は、ヘイトスピーチ解消法に先だって制定された、ヘイトスピーチに関する全国初の条例である。同条例におけるヘイトスピーチ解消法との比較による特徴は、対象が、本邦外出身者に対する言動に限定されないこと、実効性確保の措置として、拡散防止措置、氏名等の公表がなされることがあるということである。
2019年(令和元年)12月27日には、同条例に基づいてヘイトスピーチの実行者2名の氏名が全国で初めて公表された。同条例については、憲法21条1項などへの適合性が争われて住民訴訟が提起されたが、2022年(令和4年)2月15日、最高裁判所第三小法廷において、憲法21条1項に違反しない旨の判断がなされた。
(2)川崎市における取組みの状況
神奈川県川崎市では、2017年(平成29年)11月9日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく『公の施設』利用許可に関するガイドライン」が策定・公表された。
2018年(平成30年)5月30日、公園内行為許可申請に対し「不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守る」という観点から、全国初の不許可処分が行われた。その後、2019年(令和元年)12月16日、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が施行された。ヘイトスピーチに対する禁止規定を設けるとともに、刑事罰を科しうるとした全国初の条例である。
(3)その他の自治体における取組みの状況
上記のほか、東京都世田谷区(2018年)、東京都(2019年)、大阪府(2019年)東京都国立市(2019年)、神戸市(2020年)、宮崎県木城町(2021年)、愛知県(2022年)においてヘイトスピーチに関する条例が制定されている。なお、香川県観音寺市では、2017年6月29日、観音寺市公園条例の改正によりヘイトスピーチが禁止行為として規定され、違反した場合に5万円以下の過料を科すこととされている。
(4)福岡県内の自治体における取組みの状況
一方、福岡県内では、ヘイトスピーチ解消法施行後、啓発ポスターの作成等の活動のほか、福岡法務局による人権救済活動の一環としてのヘイトスピーチ認定等が行われたことはあるものの、条例制定等を含む実効的取り組みには未だ至っていない。
5 当会におけるヘイトスピーチ問題への取り組み状況
(1)いくつかの取り組み
翻って当会の活動を顧みると、遺憾ながらヘイトスピーチ問題に正面から取り組んできたとはいえないが、それでも、この問題に関する取り組みを全くしてこなかったというわけではない。人権擁護委員会への人権救済申立事件としてヘイトスピーチに関する問題提起がなされ、個別的に検討を行ったことは幾度かあった。また、2015年(平成27年)には当会の人権擁護委員会委員が多く参加する九州弁護士会連合会人権擁護委員会において、西南学院大学の奈須祐治教授(憲法学)、京都第一初級朝鮮学校襲撃の代理人を務めた具良鈺弁護士(大阪弁護士会)を招き、ヘイトスピーチ問題の学習会を開催したことがあった。2019年度(令和元年度)から福岡県からの委託を受けて実施している人権侵害に関する無料電話法律相談、「ふくおか人権ホットライン」においてヘイトスピーチを含む人権問題全般の相談に対応してきた。日弁連のヘイトスピーチ問題に関する全国会議にも当会からも毎年人権擁護委員会の委員が参加している。
(2)取り組みの不十分さと反省
しかし、これまで当会内にヘイトスピーチ問題の専門的検討を行う組織はなく、会としての声明等の意見を発出したことはなかったし、自治体に実効的なヘイトスピーチ対策を求める前提としての、実効的なヘイトスピーチ解消のための方策の検討もできていない。前記のふくおか人権ホットラインのほかに、ヘイトスピーチ問題に的を絞った法律相談会等を実施したこともなかった。
このように当会のヘイトスピーチ問題に対する取り組みは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体としては不十分であったと言わざるをえない。
そして、県下において前記のようなヘイトスピーチの横行を招いている現状を前に、私たちはこれまでの自らのヘイトスピーチ問題に対する対応の不十分さを反省し、真摯にその事実と向き合う必要がある。
6 反省の上に立ち、これからとるべき対応
以上の反省を踏まえ、今後はヘイトスピーチ問題の解消のため、当会は、法律家の団体として、以下述べるような具体的な取り組みを行っていく必要があることを自覚し、本宣言を行うものである。
(1)ヘイトスピーチによる被害の予防・救済のための法的支援の活動
前記のとおりヘイトスピーチは許されざる人権侵害である。
当会は、ヘイトスピーチによる被害者を救済するため、単に一般的な人権侵害に対する法律相談体制を整えるというにとどまることなく、ヘイトスピーチ問題に対する法律相談体制を整えていく必要がある。
また、人権救済申立制度におけるヘイトスピーチ被害の救済にも尽力していく必要がある。
(2)ヘイトスピーチ解消のための実効的方策の具体的検討
県内の各自治体にヘイトスピーチ解消のための実効的な方策をとるよう呼びかけて連携を図る前提として、まず、私たち自身が、行政による表現活動の過度な規制とならないよう、また、健全な表現活動に対する萎縮効果を生じさせることのないよう表現の自由に十分に配慮した上で、ヘイトスピーチ解消のための実効的方策とはどのようなものであるのかにつき、調査・研究を行い、具体的な検討を行っていく必要がある。
(3)実効的な方策実施に向けた自治体との連携した活動
そして、ヘイトスピーチ解消のための実効的な方策の具体的検討を行うだけでなく、検討結果を踏まえ、県内の各自治体と連携し、実効的な方策の実現に向けた活動を行っていくことが必要である。

以上

罪に問われた障がい者に対する支援の拡大を図り,その個人の尊厳の回復に向けて活動する宣言

カテゴリー:宣言
 障がい者が罪に問われた事案の中には,福祉的な支援が届いていなかったがゆえに,また根深い差別ゆえに社会から疎外され,生活に困窮し,その結果,犯罪を繰り返している事案が少なからず存在する。
さらに,罪に問われた障がい者は,その障がいの特性から,捜査機関に供述を誘導されるおそれがある。また,私たち弁護士もその障がいの特性を理解していなかったために適切な弁護ができず,重要な事実が見逃されてきた可能性がある。そして,障がいゆえに差別され,他者に受け入れられた経験に乏しいことから,自らに有利な事実を主張することを放棄する者がいることも経験的に知られている。
このような罪に問われた障がい者が早期に福祉的支援を受けることは,まさに「個人の尊厳」を回復させる意義を有すると気づき,すでに各弁護人や当会を含む各弁護士会において,福祉専門職や福祉的専門団体との協働が実現し,大きな成果を挙げてきた。
かかる動きを受け,国は,2021年度(令和3年度),地域生活定着支援センターの事業に,被疑者・被告人に対する福祉的支援を行い,早期に被疑者・被告人を地域生活に移行させる,「被疑者等支援事業」を加えた。これによって,全国で一律に,被疑者・被告人への福祉的支援が実施される計画となっている。
しかし,かかる「被疑者等支援事業」だけでは罪に問われた障がい者の個人の尊厳を回復させるには十分ではなく,この事業の開始を契機として,当会としても,さらなる活動の拡充が必要である。
そこで,当会は,罪に問われた障がい者の個人の尊厳の回復を図るために,以下の事項に取り組むことを宣言する。
1 個々の弁護士が刑事弁護活動において主体的・積極的に福祉との連携に取り組むよう促進し,より充実した研修実施,情報提供を行うこと
2 福祉機関・団体とのより一層の協力関係を構築すること
3 障がい者への福祉的支援の意義及び差別解消の必要性についてさらなる社会の理解を求めること

2021年(令和3年)5月27日
福岡県弁護士会

宣言の理由

1 罪に問われた障がい者の存在と福祉的支援の必要性
2019年(令和元年)の矯正統計年報によれば,同年の新規受刑者のうち,20%が,知的障がいがあるとされるIQ69以下である。また,このIQを測定するに当たって「テスト不能」とされた人を含めると23%に上る。
この数字によらずとも,私たち弁護士は,刑事弁護を通じ,少なくない被疑者・被告人に,コミュニケーションの取り難さを感じることがあった。そして,私たちは,これが障がいによるものであると気付かなくとも,その被疑者・被告人の歩んだ人生に触れるとき,その生きづらさがあったことを知り,また,その生きづらさが刑事事件につながったこと,この生きづらさを解消する福祉的な支援が得られれば,罪に問われなかった可能性があったことも,経験的に感じていた。さらに,その生きづらさの根底には,障がい者に対する差別があり,その差別ゆえに,自ら社会との関りを持てず,また,その関りを持つことを諦めざるを得なかった人々に接することもあった。
このような状況は従来から続いていた中で,2006年(平成18年)1月には,いわゆる下関駅放火事件が発生した。これは,通算して40年を超える刑務所での受刑歴があり,知的障がいのあった被告人が,出所後,福祉的支援の途を探ったが,これを得られず,出所して8日後に,自ら刑務所に戻ることを目的として,下関駅に放火して全焼させた事件であった。この事件を契機として,このように罪に問われた障がい者に対する福祉的支援の必要性が社会的にも認知されるようになった。
これを受けて,2009年度(平成21年度)から国の「地域生活定着支援事業(現在は地域生活定着促進事業)」が開始され,地域生活定着支援センターが主体となって,矯正施設収容中から,矯正施設や保護観察所,既存の福祉関係者と連携して,支援の対象となる人が釈放後から福祉の支援を受けられるような取り組みがはじまり,2012年(平成24年)にはこれが全国に広がった。これによって,障がい者が,矯正施設に収容されたならば,福祉の支援を受けられる機会が設けられた。
しかし,そもそも,罪に問われた障がい者が,社会内において福祉の支援を得られていたならば,罪を犯さなかった可能性がある。加えて,刑事施設で受刑することになれば,それまでの社会資源が失われ,社会との関係が希薄化し,社会復帰と自立が困難になって,ひいては個人の尊厳の回復が困難になる。
そのため,矯正施設に収容される前段階である捜査あるいは公判段階における福祉的支援を充実化することは極めて重要であるし,その根源を正すという意味で障がい者の差別を解消することも必要である。
2 福岡県弁護士会の取り組み
このような罪に問われた障がい者が少なからずいる中で,障がいについての知識があり,あるいは福祉関係者との人脈のある弁護士は,捜査あるいは公判段階において,その知見や人脈を用いて,障がいに気づき,福祉関係者らと連携して,その福祉的支援を得てきた。
しかしながら,このような個別の弁護人の属人的な知見や人脈に依存しては,弁護人次第で,罪に問われた障がい者の権利を守る機会が失われていることから,制度として福祉的な支援を得られるようにすることが求められていた。
そこで,当会は,2014年(平成26年)に,罪に問われた障がい者の特性に即応した権利擁護活動を行うことを目的として,刑事弁護等委員会及び高齢者・障害者等委員会の委員からなる触法障害者支援ワーキンググループを組織した。
また,当会会員に対する研修や啓発を通じて,各弁護人の障がいへの気づきを促したり,各会員の障がいや福祉に関する知識を深めたりしてきた。
そして,各福祉関係者とも連携し,福祉の側における罪に問われた障がい者に対する偏見を除去することに努めてきた。
さらに,当会は,2014年(平成26年)から北九州市の,2015年(平成27年)から福岡市の,各障がい者基幹相談支援センターと連携し,罪に問われた障がい者の刑事弁護を行う会員が福祉的支援を得られる枠組み作りに取り組んできた。これらの制度によって,前記両市への帰住を希望する被疑者・被告人に関しては,個別の弁護人が,福祉関係者との人脈等がなくても,福祉的支援を一部でも得られるようになった。
併せて,当会からの働きかけも契機として,県内の裁判所では,勾留質問に際して,障がいの有無を確認し,その結果を国選弁護人に通知する取り組みが広がりつつある。
3 さらなる福祉的支援を促進することの必要性及びそれに伴う制度の整備並びに差別解消のための取り組みの必要性
(1) しかしながら,捜査あるいは公判段階における福祉的支援のための制度,ないし個々の会員の活動は未だ十分であるとは言えない。
刑事手続において被疑者・被告人への福祉的支援を実現するためには,弁護人が障がいの特性に精通し,福祉制度に精通した福祉の専門家との連携を図ることが必要である。そのためには,弁護人が主体的に活動してこそ,罪に問われた障がい者の福祉的支援を実現することができ,その個人の尊厳の回復を図ることができることを,私たちは改めて自覚する必要がある。
(2) 2021年(令和3年)においては,前記地域生活定着支援センターの業務が拡大され,捜査又は公判段階から,障がい者を含む罪に問われた福祉的支援の必要な人の福祉的支援に向けた取り組みがはじまった。
しかしながら,公が主導する支援にも限界があり,本来支援対象とされるべき被疑者・被告人が適切に選別されない,あるいは,被疑者・被告人の意思を十分に尊重せず,意に反した支援が進んでいく可能性を否定できない。何より,現段階での制度では,「不起訴相当事件および起訴されたとして執行猶予がほぼ確実に予測される事件」のみが,その支援対象となる危険があり,弁護人により積極的な活動がなければ,救われるべき被疑者・被告人の福祉的支援が置き去りにされてしまう。そのため,罪に問われた障がい者に対する支援を充実化し,個人の尊厳の回復につなげるためには,公が主導する支援だけでは不十分であり,被疑者・被告人に接する弁護人こそが主体的に取り組む必要がある。
一方,当会と北九州市及び福岡市の障がい者基幹相談支援センターとの連携事業の利用件数が,統計上想定される件数から考えて低調であることから明らかなように,個別の弁護人の意欲に依存するだけでは罪に問われた障がい者に対する支援を広く充実させることは困難である。
そこで,当会は,個々の弁護人が福祉と連携し,罪に問われた障がい者のための福祉的支援を実現できるよう,個々の弁護人の活動を促進しなければならない。
(3) また,個々の弁護人が,罪に問われた障がい者の障がいに気づかなければ,刑事手続を通した福祉的支援を実現することもできない。そして,弁護人に福祉についての正しい知見がなければ,罪に問われた障がい者のために適切な福祉的支援を図ることは困難である。
そのためには,私たちが,障がいや福祉について,さらに研鑽しなければならず,当会としても,その研鑽の機会を設けなければならない。
(4) また,弁護人が罪に問われた障がい者の個人の尊厳を回復させるためには,その障がい者の特性に合った,適切な福祉的支援を実現する必要がある。
そのためには,より多様な福祉の支援を得る機会を保障する必要があることに鑑み,当会が,より多くの福祉との協力関係をより一層強化しなければならない。
(5) さらに,先に述べた通り,障がい者が罪に問われた事件の中には,その差別を受けた経験から,自ら社会との関りを閉ざしたことが原因となったものもあった。前記下関駅放火事件で罪に問われた障がい者のように,社会に受け入れられることを諦め,刑務所に行くために,罪を犯した事件もあった。このような,いわば負の連鎖を断ち切るためにも,より根源的な問題として障がい者に対する差別を解消する必要がある。
そして,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が制定され,施行された今日においても,罪に問われた障がい者が直面する現実においては,障がい者に対する差別が解消されたというには未だ道半ばである。障がい者が,差別されず,社会から受け入れられていれば,その犯罪に至らなかった可能性があることにも鑑み,障がい者の差別の解消に取り組む必要がある。
4 そこで,罪に問われた障がい者の個人の尊厳を回復するために,弁護人が主体  的に福祉と連携することを当会が促進することのほか,当会が前記事項に取り組むことを決意し,ここに宣言するものである。

以上

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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