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カテゴリー: 宣言

男女平等及び性の多様性の尊重を実現する宣言

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私たちの住む社会は、さまざまな個性をもつ人々で構成されています。どの人もみな、個人として尊重され、自らの個性と能力を十分に発揮する機会が確保されなければならないことは、いうまでもありません。性別という枠を超えた人権尊重の必要性も指摘されはじめている現在、性の多様性を受け入れ、それぞれの個性を生かし活躍する社会という観点は非常に重要です。

かかる観点から、福岡県弁護士会は、真の男女平等の実現とともに、性別を問わず、全ての人々が、自分らしく、個性と能力を十分に発揮できる社会をめざして、みずからが総合的かつ統一的な取り組みを行うことが必要だと考えました。当会がこうした取り組みを行うことで、会内で会員が活動しやすい環境が整備されるだけでなく、社会における多様な人々の司法アクセスの確保や法的ニーズに応えることにもなり、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士・弁護士会の使命を果たすことにもつながります。

そこで、当会は、性の多様性を受け入れ尊重する「開かれた弁護士会」となるべく、下記の活動指針を実現していくことを宣言します。

  1. 男女平等及び性の多様性の尊重を実現するための「基本計画」を整備する。
  2. 弁護士のワーク・ライフ・バランスを推進するため、家事・育児・介護等の負担を担う会員も活動しやすいよう支援する施策を整備する。
  3. セクシュアル・ハラスメント及び性別による差別的な取扱いを防止するため、既存の制度の充実を図る。
  4. 男女平等の実現及び性的マイノリティの権利擁護に関し、会員の理解を深めるための施策を進め、研修・啓発活動をよりいっそう充実させる。

2016年(平成28年)5月25日
福 岡 県 弁 護 士 会

宣 言 の 理 由

1 福岡県弁護士会でのこれまでの取り組み

当会においては、性別による差別的取扱い等の防止に関する規則の制定、産前産後期間における会費等免除制度の創設、育児期間中における会費等免除制度の創設、研修時間等の配慮、女性弁護士社外役員候補者名簿の作成・提供など、さまざまな男女平等実現のための施策がとられてきたところである。

2 政府・社会の動向

2015年(平成27年)の我が国のジェンダー・ギャップ指数(GGI)は依然として145か国中101位と、男女間の格差が先進国の中で最低水準である。かかる状況を受けて、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」との政府目標が掲げられ、2015年(平成27年)には国会で「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が成立するなどしている。また、性的マイノリティの権利擁護に関する議論も活発化しており、議員連盟の発足や、文部科学省から各地方自治体等への通知がなされるなど、社会の意識と実情に急速な進展も見られる。

3 福岡県弁護士会としての今後の課題と目標

当会では、2016年(平成28年)4月1日時点での会内女性割合が約17.8%(会員数1198名 女性会員212名)であるなかで、2016(平成28)年度の役職者に占める女性会員の数と割合は、執行部(会長・副会長及び事務局長)は過去最高の2名(25%)、常議員6名(20%)であるものの、この数や割合が安定的に維持できる状況にはなく、委員長は7名(11%)と依然として低いままであり、会務活動におけるさらなる男女平等の実現が期待される。そのためには、家事・育児等を担う会員の会務活動への参加に障壁となっている事由の調査や分析などが不可欠であり、その上で、障壁事由を取り除くための施策を整備することが必要である。

男女平等の観点からは、会員の出産・育児・介護等に伴う労働時間の制約や収入の格差、女性修習生の就職難など、問題を指摘する声があるものの、その実態の把握が出来ていないため、原因の分析と問題解消のための取り組みが急がれる。と同時に、男女問わず弁護士として実力を発揮しながら自らの人生を充実させていくために、弁護士のワーク・ライフ・バランスを推進することも重要である。弁護士にワーク・ライフ・バランスの考え方が浸透することは、社会における家庭責任の適切な分担や、仕事と家庭責任との両立の促進にもつながるものである。

また、当会では、2009年(平成21年)に「セクシュアル・ハラスメントの防止に関する規則」を施行し、セクシュアル・ハラスメントや性別による差別的取扱の防止に向けて取り組んできた。このような当会が既に設置している制度についても、相談件数が僅かに留まるなど、未だ十分に活用されていない可能性がある。そのため、会員が利用しやすく、実効的な制度になるべく、制度内容の充実を図る必要もある。

加えて、2015年(平成27年)、当会(両性の平等に関する委員会内)に性的マイノリティに関するLGBT小委員会が発足した。LGBTは性の多様性の一部であって、「人権」の問題であり、人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題である。しかし、弁護士会内における同問題に関する周知は未だに不十分と言わざるをえない状況であり、LGBTが戸籍や婚姻に留まらず、日常生活全般に関わる問題であることの理解を深めるために、当会において様々な研修や啓発活動が必要である。

そこで、当会において、男女平等及び性の多様性の尊重を実現するための「基本計画」を整備し、総合的かつ統一的な取り組みをさらに進めると共に、様々な施策の整備や制度の充実を図るべきであると考え、本宣言案を提案する。

福岡県弁護士会 環境宣言

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福岡県弁護士会 環境宣言
第1 基本理念
人類は,限りある資源を大量に使用し,大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムによって,自然環境を破壊してきました。しかし,かかる反省に基づき,資源を使い果たすのではなく、現代の世代が将来の世代の利益や要求を充足する能力を損なわない範囲内で環境を利用し要求を満たしていく社会(持続可能な社会)へと方向転換をしつつあります。
現在,かけがえのない地球環境を保全し,持続可能な社会を形成しようとする市民の意識は強まり,今まさに,温室効果ガス排出量削減など環境保全活動が世界的な流れとして定着しつつあります。そのような世界的な変革がなされつつある最中に,2011年3月11日,福島第一原子力発電所事故が発生し,環境影響の低い持続可能社会を構築する重要性がより一層明らかになりました。
福岡県弁護士会では,公害問題・環境問題は人権問題であるとの視点から,これまで悲惨な公害の根絶や自然環境の保全・再生に向けて,国や自治体に対して様々な提言を行うとともに,シンポジウムの開催などを通じて市民の皆様にも環境保全の重要性を訴えて参りました。
当会は,地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであることを認識し,今後も,環境負荷の低減,環境保全のため,外部に対するこれらの活動を継続するとともに,当会会員の執務や,当会の会務,会館の運営等においても,環境保全の活動に取り組むべく,ここに以下の宣言をします。
第2 環境宣言
1 弁護士会の活動や弁護士業務による環境影響を常に認識し,地球環境への負荷を可能な限り低減するために,以下の施策に取り組む努力をします。
(1) 省エネ活動の推進
(2) 省資源活動の推進
(3) 当会の会員及び職員各人の環境保全意識の向上
2 環境問題に関する提言・啓発活動に取り組みます。
2012(平成24)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
会長  古 賀 和 孝

「自死」をなくすための行動宣言~自死を防ぐための「気づき」「つなぎ」「見守り」とは何かを考える~

カテゴリー:宣言


「自死」をなくすための行動宣言
~自死を防ぐための「気づき」「つなぎ」「見守り」とは何かを考える~
第1 宣言の趣旨
わが国の年間自死者数は、1998年(平成10年)に急増し、1998年(平成10年)から14年連続して3万人を超え、その後も高い水準が続いている。
このような現状を変えるべく、当会は、自死をなくし、生きやすい社会づくりを目指して、私たち自身がその職責・使命を果たし自死問題を解決するために、次のとおり取り組む決意であることを宣言する。
1 自死について、さらに一層理解ある弁護士を増やすため、当会所属の会員を対象とした研修を充実させ、「ゲートキーパー」として機能する弁護士を養成すること。
2 こころと法律の問題の総合的な相談窓口を整備し、弁護士会の法律相談において医療福祉専門職(医師・臨床心理士・精神保健福祉士等)と一緒に相談する体制をつくり、アウトリーチ(訪問支援)としての法律相談を実施すること。
3 弁護士会と行政・医療機関・福祉機関・民間団体等とのネットワークを構築し連携を強化すること。
4 基本的人権の擁護を使命とする弁護士会としての立場から、積極的かつ責任ある政策の提案及び立法提言を行い、提案・提言にかかる政策と立法実現のために、当会を挙げて取り組むこと。
2012(平成24)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
会長  古 賀 和 孝

第2 宣言の理由
当会がこのような宣言をする理由は、次のとおりである。
1 自死の現状
わが国の年間自死者数は、1998年(平成10年)に急増し、同年から14年連続して3万人を超え、2011年(平成23年)は警察庁の発表で30、651人(確定値)となっている。この中には、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に関連する自死者55人(同年6~12月)が含まれ、震災がなければ、また震災後の社会的支援があればもっと生きられたであろう人の命を思うと誠に痛ましいものがある。
福岡県の自死者数は、2011年(平成23年)は1、308人(確定値、前年比49人増)で全国8位、自死死亡率(10万人あたりの自死者数)は25.8人(確定値、前年比1.0人増)で全国16位と、自死者数、自死死亡率ともに全国の上位を占めている。全国の自殺者は、2009年(平成21年)に32、845人、2010年(平成22年)に31、690人、2011年(平成23年)に30、651人と減少傾向であるが、福岡県では、平成21年に1、310人、平成22年に1、259人、平成23年に1、308人と減少することはなく、深刻な状態を脱していない。
一人でも多くの自死を防ぎ、自死のない社会を作ることは、わが国の喫緊の課題であるといえるし、とりわけ自死者数等が多く、状況が改善していない福岡県においては、より積極的に解決に取り組まなければならないといえる。
2 弁護士と自死問題との関わり
自死問題の多くには、社会的要因が影響している。具体的には、失業や倒産、さらにはパワハラや長時間労働などの雇用・労働に関する要因や、多重債務や保証倒れなどの経済的な要因、親子や夫婦の不和や家族の死亡、子育て・介護の悩み、学校内でのいじめなどの家庭や学校などでの人間関係による要因など、様々な要因がある。
弁護士は、普段の業務の中で、そのような社会的要因に関連する紛争や問題に関わっており、依頼者や相談者本人、あるいはその家族に、自死を企図する人がいることも少なくない。また、心中を図って刑事事件の被疑者・被告人となる人と関わることもあれば、犯罪被害者やその遺族など精神的ショックから自死のリスクが高まっている人と関わることも多い。
また、弁護士は法律問題や紛争の解決をその職責とすることから、自死のリスクのある人が抱える社会的要因や問題を解決し、それによって自死を回避することができるという役割も担っている。
その意味では、弁護士は専門家として自死問題に必然的に関わらなければならない立場にあり、また自死問題を解決する重要な役割を果たすことができる立場にもあるといえる。
そして、現実に、これまでも弁護士は、その業務の中で、社会的要因や問題を解決するなどして、自死防止のための努力をしてきた。
3 自死問題に対する弁護士会の取り組み
2009年(平成21年)以降、日本弁護士連合会(日弁連)は、会内にチームを作って具体的に活動を開始した。また、中小零細事業者が保証人に迷惑をかけることを苦にして自殺したり生活破綻に追いやられた保証人が自殺するという事例が散見される等「個人保証」が自死の原因となっていることから、2012年(平成24年)1月20日、日弁連は、民法(債権関係)の改正作業において、個人保証の禁止や新たな保証人保護規定を設けるなど、保証制度を抜本的に改正することなどを含む「保証制度の抜本的改正を求める意見書」を採択して法務省に対し執行した。
当会では、多重債務問題・貧困問題対策等の従来の弁護士業務の中での自死問題への取り組みに加え、2010年(平成22年)に「自死問題対策関連委員会連絡会議」を発足させ、各種の取り組みを推進してきた。
具体的には、2010年(平成22年)度は、弁護士を対象として研修会(講師:弁護士、精神科医師)を複数回実施した。2011年(平成23年)度は、①福岡市と共催で、一般市民、医療福祉関係者、弁護士対象の自殺問題連続研修会を実施し、②自死リスクの高い人向けの法律相談窓口を設置し、③2012年(平成24年)3月には、福岡市主催の「こころと法律の相談会」の実施主体として精神科医師・臨床心理士・精神保健福祉士・司法書士と合同で一般市民からの相談を受ける試みを行った。さらに、④2011年(平成23年)12月発行の書籍『判例・実務からみた民法(債権法)改正への提案』(福岡県弁護士会編・民事法研究会)において、自殺の原因たる保証の問題点に着目して自然人保証の原則禁止を提言した。
そして、2012年(平成24年)度も、①昨年度に引き続いて「こころと法律の相談会」の実施や、②新たに自死遺族を対象とした法律相談の実施といった試みを行政と連携して進めているところである。
このように、当会には自死問題に対する具体的な取り組みを着実に行ってきたという実績があるが、本年4月に「自死問題対策委員会」を新たに設置し、さらに自死問題に対する取り組みを進めようと考えている。
4 取り組み①~研修の充実
その取り組みの1つ目としては、会員に対する研修のさらなる充実である。
上述したとおり、弁護士の業務において、依頼者や相談者、その家族には自死を企図する人やそのリスクの高い人が少なからず存在する。
しかしながら、全ての弁護士が相談者の自死の危険を示すサインやその対応方法を身につけているわけではない。
また、自死の背景には、これらの多岐にわたる社会問題が複合的に絡み合っていることが多いため、弁護士のみの力で自死を解決できるわけでは必ずしもなく、関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等につなぎ、あるいは協力していくことも必要であるが、問題に対する理解が必ずしも深くないために、法的な問題を解決するのみで、関係機関等に適切につなぎ、あるいは十分な協力を求めることができないことも考えられる。
そこで、自死についての理解を深め、普段の業務において自死の危険性の高い人の存在に「気づき」、医療・福祉・法律問題の解決へと「つなぎ」、安心して暮らせるよう「見守り」を行える専門家、すなわち「ゲートキーパー」の役割を担えるように、当会会員に対して研修を行っていく必要がある。
当会としてはこれまでも様々な研修を行ってきたが、今後はさらに様々な角度から充実した研修を行い、当会会員の「ゲートキーパー」としての機能を高めていく所存である。
5 取り組み②~積極的な法律相談の実施

上述したとおり弁護士が自死のリスクの高い人が抱える社会的要因や問題を解決することにより、自死を回避することができることも少なくないが、そのような自死のリスクの高い人が、必ずしも弁護士のところまでつながらず、社会的要因や問題を解決できないまま自死を選んでしまっているという実情もあると考えられる。
政府がまとめた「自殺総合対策大綱」においても、失業、倒産、多重債務などの社会的要因は自殺の危険を高める要因となるから相談・支援体制の整備・充実を図るとともに相談窓口等を周知するための取り組みを強化する必要があることが挙げられている。
当会としても、これまでに、自死リスクの高い人向けの法律相談窓口を設置したり、福岡市主催の「こころと法律の相談会」の実施主体として精神科医師・臨床心理士・精神保健福祉士・司法書士と合同で一般市民からの相談を受けるなど、相談・支援体制の整備や充実を図ってきた。
今後は、このような取り組みを継続・発展していくとともに、自死リスクの高い人への法律相談その他の相談をより周知し、さらには自ら弁護士へアクセスすることが困難な人へ弁護士が手をさしのべるため、弁護士から出向いていくアウトリーチ(訪問支援)の方策も行っていく所存である。
6 取り組み③~ネットワークの構築・連携の強化

そして、上述したように自死の背景に社会問題が複合的に絡み合っていることが多いため、弁護士のみの力で自死を解決できるわけでは必ずしもなく、関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等につなぎ、あるいは協力していくことも必要である。
したがって、自死をなくすための「気づき」「つなぎ」「見守り」を実施するには、単に相談会を一緒に開催するだけではなく、普段の弁護士業務においても、それらの関連団体につなぎ、協力を仰ぐために、関連団体とのネットワークを構築し、緊密に連携していく必要がある。
上記「大綱」においても、包括的な取り組みを実施するためには、様々な分野の人々や組織が密接に連携する必要があること等が指摘されている。
当会としても、福岡県・福岡市・北九州市の自殺対策連絡協議会に参加する等すでにそのようなネットワークの構築や連携に踏み出しているが、今後はさらにそれを進め、一般市民との接点の多い行政を中心として、弁護士会と関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等も含めたネットワークが構築され、緊密な連携を強化していく所存である。
7 取り組み④~積極的な政策提案及び立法提言
また、弁護士会は、上述したように自死問題に関わることが多い専門家団体であり、かつ法律の専門家団体であるという立場から、自死問題について積極的な政策提案や立法提言も行っていく必要があると考えている。
3項で指摘したとおり、2011年(平成23年)12月発行の書籍において、自殺の原因たる保証の問題点に着目して自然人保証の原則禁止を提言したりしてきているが、今後も具体的な自死問題への取り組みに裏打ちされた政策提案や立法提言を積極的に行っていく所存である。
8 よって、当会は、上記のとおり宣言する。
以上

「働く貧困」をなくすために~非正規労働者の働く権利を守るためのルールの確立を求める宣言~

カテゴリー:宣言

1 1990年代後半からの10年間,わが国の国内総生産はほとんど増加せず,大企業が利益を蓄積する一方で,雇用者報酬は大きく減少した。いわゆるワーキングプア(「働く貧困」)層が最近5年間だけでも120万人増加し,雇用者総数の実に4人に1人が年収200万円以下の状況となっている。
これらは,1990年代後半からのいわゆる構造改革路線のもと,労働市場にも市場原理主義が強化されて雇用が流動化されたことで,正規雇用から非正規雇用への置き換えが進んだ結果,雇用者報酬は大きく減少したが,大企業の経常利益は大幅に増加するという結果となってあらわれたものである。
まともに働いても最低限度の生活すら維持できない「働く貧困」はあってはならないものである。とりわけ非正規労働者は,不安定雇用と低賃金という状況下におかれており,これらの状況を是正していくことは急務である。
2 これら「働く貧困」状況を打開していくためには,正規雇用が原則であることを確認するとともに,不安定雇用と低賃金の労働条件下におかれている非正規労働者の働く権利を確立し,まともに働けば最低基準以上の生活を維持できるだけの賃金と,安心して働き続けることのできる雇用の安定が求められる。
 具体的には以下のとおりの非正規労働者の働く権利を守るためのルールの確立が必要である。
① すでに2010年4月に国会に上程され,いまだに審議が進んでいない労働者派遣法改正案を,登録型派遣が許容されている政令指定26業務の見直し,製造業派遣の「常用型」派遣の乱用防止,派遣先の団体交渉応諾義務の確認など,より労働者保護に資するような修正を加えたうえ,速やかに成立させること。
②  有期労働契約に関しては、「正当事由」のない有期労働契約の締結を禁止する入口規制や,正規労働者との間の均等待遇原則を導入する等の適切な法的規制をすること。
③  生活保護基準以下の額に据え置かれ,「働く貧困」の大きな原因となっている最低賃金を,少なくとも時給1000円程度にまで引上げること。
④  実質的には労働者であると認められるにも関わらず,請負や委託等の契約類型のもと,「個人事業主」とされ,劣悪な労働条件下に置かれている人々に対する労働実態に応じた法的規制及び保護を行うこと。
3  もっとも,これらのルールを実現していくためには,雇用者総数の70%近くを抱える中小企業の経営の安定が不可欠である。したがって,過当競争にさらされている中小企業の経営の安定のため,中小企業に対する政策的な手当が必要であることが指摘されなければならない。
4 「働く貧困」解消の問題は,憲法25条に定める生存権の侵害をいかに解消するかという極めて憲法的かつ実践的な課題である。
とくに,現在,東日本大震災の影響で,全国各地で雇い止めが急増しており,権利が保障されていない非正規労働者は失業と貧困にあえぎ苦しんでいる。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする当会は,これら「働く貧困」が蔓延する状況を看過することはできない。
当会は,国および地方自治体に対して,上記に掲げた,非正規労働者の権利を守るためのルールの確立を訴えるとともに,自らも,生存権の擁護と支援のための緊急対策本部を中心に,現に苦境の中にいる非正規労働者をはじめとする労働者のための相談活動や,これを担う会員に対する研修などを強化するなど,「働く貧困」をなくすため最大限の努力を行うことを宣言する。

以上
平成23年5月25日 福岡県弁護士会

宣言の理由
1 近年わが国は,経済成長が低迷を続けるなか,大企業は利益をあげているのに,労働者はますます貧しくなっている状況にある。
(1) 1997年から2007年までの10年間,主要7カ国(G7)中,わが国以外の6カ国がGDP(国内総生産)を30%~70%増加させているのに対し,わが国のGDPの伸び率はわずか1%にも達していない(名目GDP,総務省「国民経済計算」,OECD「Labour Force Statistics」。なお,実質GDPの伸び率も一桁の%にとどまっている。)。このような中,同じ10年間で,わが国大企業(資本金10億円以上,約5500社)の経常利益は15兆円から32兆円へと大幅に倍加し,内部留保の額は142兆円から229兆円という空前の規模に膨れあがっている(財務省「法人企業統計調査」)。ところが,一方で雇用者報酬では,他の6カ国が20%~70%増加しているのに対し,わが国だけが5.2%逆に減少しているのである(前記OECDデータ)。とりわけ,年収200万円以下のいわゆるワーキングプア層はこの5年間(2005年~2010年)だけでも120万人増加し,雇用労働者総数の実に4人にひとりが年収200万円以下(約1100万人,24.5%)の状況となっており(国税庁「民間給与実態調査結果」),わが国政府が2009年に初めて発表した,相対的貧困率は15.7%(2007年現在)と,OECD諸国の中でも最悪の部類に属している。
(2) これらの背景事情としては,1990年代後半からのいわゆる構造改革路線のもと,労働法制,とくに労働者派遣法が改正されるなど(1999年~2004年の一連の改正),総じて労働市場が流動化されたことが指摘されなければならない。その結果,正規労働者から非正規労働者への置き換えが進み,1996年から2011年までの15年間で,正規労働者は約400万人減少し(-10.6%),非正規労働者は約720万人増加(+71.9%)した(総務省「労働力調査」)。他方で,人件費を抑え,競争力を強化した大企業は経常利益を大幅に増加させるという相反する結果が生じているのである。
(3)  まともに働いても最低限度の生活すら維持できない「働く貧困」はあってはならない。派遣労働者,パートタイマー,期限付きの契約社員などといった非正規労働者の多くは,いつ解雇や雇止めをされるか分からない不安をかかえながら低賃金で働いている。現に,厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査によると,非正規労働者の賃金水準は,正規労働者を大きく下回っており,平均現金給与月額で20万9800円と正規労働者の6割で,特別給与を考慮すると5割の水準にとどまることが報告されている。また,雇用契約でない業務委託や請負という契約形式の増加により,労働基準法などによる保護の対象外と扱われ,その結果,不安定かつ劣悪な条件下におかれた労働者が多数生み出された。
2 このように「働く貧困」が拡大する中,日弁連は,2006年人権擁護大会「貧困の連鎖を断ち切り,すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」,2008年人権擁護大会「貧困の連鎖を断ち切り,すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」,2010年人権擁護大会「貧困の連鎖を断ち切り,すべての子どもの生きる権利,成長し発達する権利の実現を求める決議」,2009年第60回定期総会「人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築を目指す宣言」と相次いでこうした状況に警告を発してきた。当会も,2009年6月「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」,2010年9月「子どもの貧困をなくし,希望を持てる社会にすることを求めるアピール」を発し,また,2009年4月「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げて,この間,様々なとりくみを行ってきた。
しかしながら,こうした努力にもかかわらず,事態は一向に改善されていない。「働く貧困」の原因の一つと指摘される労働者派遣法の改正案についても,2010年4月に国会に上程されているが,いまだ継続審議のまま成立の目処も立っていない。
3 これら「働く貧困」状況を抜本的に打開していくためには,わが国における労働法制のあり方として,正規雇用が原則であることを確認し,非正規雇用に対する適切な法的規制が確立されなければならない。すなわち,不安定雇用と低賃金の労働条件下におかれている非正規労働者の権利を確立し,まともに働けば,最低基準以上の生活を維持できるだけの賃金と,安心して働き続けることのできる雇用の安定が求められるものである。
具体的には,以下のとおりの非正規労働者の権利を守るためのルールの確立が必要である。
①  労働者派遣法改正案の修正及び速やかな成立
労働者派遣法は1986年に制定されたが,上述したとおり,1990年代後半からの構造改革路線のもと,労働者派遣の許容範囲を広げる方向での改正が1999年~2004年にかけて行われた。その結果,労働市場において正規労働者から非正規労働者への切り替えが促進された。
 ところが,2008年秋のリーマンショック以後,いわゆる「派遣切り」が多発して,多くの派遣労働者が雇用と住居を失い社会問題化したことは記憶に新しいところである。
 このような状況を受けて,日弁連は,2008年12月に「労働者派遣法の抜本改正を求める意見書」を公表し,派遣対象業務の限定,登録型派遣の禁止,日雇い派遣の禁止等の8項目を求めた。その後,2009年3月に,日弁連の要求項目の多くを取り上げた野党3党(民主・社民・国民新)の改正案が国会に提出されたが衆院解散により廃案になり,政権交代後に再度法案が議論され,2010年3月に現改正案が閣議決定され,同年4月に国会に上程された。
現改正案は,登録型派遣,日雇い派遣,製造業派遣の原則禁止や,違法派遣についての直接雇用みなし規定の創設等を盛り込んでおり,非正規労働者の現状を改善するための一定の効果が期待されるが,現在に至るも継続審議のまま成立の目処すら立っていない状況にある。そのため,派遣労働者のおかれた状況は変わらず,依然として様々な違法派遣が後を絶たず,日雇い派遣等も規制されないままとなっている。したがって,一刻も早い改正派遣法の成立が求められる。
 もっとも,上記改正案にも,必ずしも専門職とは言いがたい職種も含む政令指定26業種について依然として登録型派遣を認めていること,本来全面禁止されるべき製造業派遣につき「常用型」は許容しており濫用の危険があること,派遣先の団体交渉応諾義務が定められていないことなどの不十分な点がある。
したがって,国会での充実した審理を通じてこれらを修正したうえで,よりよい派遣法改正が実現されるべきである。
 ② 有期労働契約に対する規制立法
2010年9月,厚生労働省の有期労働契約研究会が報告書を発表した。
報告書は,有期雇用の現状を「雇用の不安定さ,待遇の低さ等に不安,不満を有し,これらの点について正社員との格差が顕著な有期労働者らの課題に対して政策的に対応することが,今,求められている」として,「いかにして有期労働契約の不合理・不適正な利用を防止するかとの視点が重要」と強調している。
報告書は,有期労働契約締結にあたっての入口規制(有期労働契約締結のためには正当事由が必要とすること)に消極であるなど,必ずしも十分ではない側面もあるが,更新回数や利用可能期間の限定,正規労働者と非正規労働者の間の均等待遇原則の導入等を謳っている。性急な更新回数の限定等は,非正規労働者の雇い止めを促進するなど,弊害も予想されることから,十分な検討が必要であるが,ヨーロッパでは当たり前となっている入口規制を中心に,早急かつ実効的な法整備が求められるものである。
③ 最低賃金の引き上げ
最低賃金は,労働者の生計費等を考慮して定めなければならないとされている(最低賃金法3条)。しかし,従来の日本型雇用のもとで,世帯に正規労働者が存在し,その収入が家計を支えるとみられていたため,最低賃金の算定も家計補助的パートタイム労働者の低賃金をもとに計算されていた。しかし,上述のとおり正規雇用から非正規雇用への置き換えがすすんだ現在においては,非正規雇用の収入のみで家計を支える世帯が増大している。このような前提のもとで最低賃金額が見直されなければならない。
 この点,2010年10月~11月にかけて各都道府県の最低賃金が改定され,全国で一定額が引き上げられたものの,その水準は全国平均で時給730円(福岡県は692円)と未だ低い数字に据え置かれている。
 最低賃金法9条3項は,考慮事項として「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護にかかる施策との整合性に配慮する」ことを挙げているところ,生活保護基準ですら(福岡市一等地,18歳単身世帯),時給に換算すれば1070円である(毎月勤労統計調査による所定内実労働時間の実態をふまえた月150時間労働を前提。なお,厚労省の採用する月173.8時間労働を前提としても,時給換算923.5円となる)。
フルタイムで働いてもワーキングプアから脱却できないような最低賃金は早急に改められるべきであって,最低でも時給1000円程度にまで引き上げられなければならないものである。
 現に欧米諸国の最低賃金は購買力平価で換算しても軒並み時給1000円を優に超えており,わが国においても実現できないことはない課題であるし,この要求は,連合をはじめ,わが国の多くの労働団体も求め続けている課題である。
 ④ 「個人事業主」の形態をとる実質労働者の労働条件の改善
建設請負労働者や出版請負等各種フリーランス,委託を受けて配送等を行う配送業者など,実質的にみて労働者でありながら,契約形式は委託契約等のまま劣悪な労働条件で働かされている「個人事業主」が数多く存在する。こうした実質労働者については,その法的性格に見合った労働行政の適正な指導とあわせ,法律レベルでの規制が求められるところである。
この点,つい先日最高裁が,大手住宅設備機器会社と業務委託契約を締結して修理補修に従事していた者について,「(業務委託契約を締結して業務に従事していた者らは会社の)指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていた」として,「労働組合法上の労働者に当たる」ものであると判示し,同人の加入した労働組合からの団交申し入れを拒否した会社の行為は不当労働行為を構成するという判断を示した(平成23年4月22日最高裁第三小法廷判決)。この判決を契機に,委託契約等を締結して「個人事業主」とされている労働者に対しても,その労働実態に応じて労働関係法規による保護がなされるような法整備へ向けた議論が開始されるべきである。
4 このような非正規労働者の権利の確立は,ヨーロッパでは当たり前となっており,韓国では一時期非正規雇用の割合が50%を超えるところまで進んだが,近年,非正規保護法が成立するなど,打開が図られているところである。我が国も遅れをとるべきではない。
もっとも,非正規雇用に対する法的規制を強化し,労働条件の改善を図る(例えば,最低賃金を全国一律に時給1000円程度にまで引き上げる)とした場合,利益を蓄えている大企業にとってはまだしも,体力のない中小企業にとっては現実的に対応することが困難であろう。実際,中小企業に対しても労働法制と同様に,市場原理主義が強化され(1999年 中小企業基本法改正),過当競争にさらされて中小企業が生き残りのために,正規労働者から非正規労働者への置き換えや低賃金化を進めざるを得なかったという側面も否定できない。
したがって,非正規労働者の働く権利を守るためのルールの確立と同時に,雇用者総数の70%近くを抱えるといわれる中小企業が,その従業員の労働条件の向上を図ることができるように,国や地方自治体において,中小企業の経営を安定させるための積極的な政策を展開することが求められることを忘れてはならない。
5 「働く貧困」の解消は単なる経済政策ではなく,その置かれた実態に鑑みた時,憲法25条の生存権侵害をいかに解消するかという極めて憲法的かつ実践的な人権課題である。
とくに,現在,東日本大震災の影響で,全国各地で雇い止めが急増しており,権利が十分に保障されていない非正規労働者は失業と貧困にあえぎ苦しんでいる。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする当会は,これら「働く貧困」が蔓延する状況を看過することはできない。
 当会は,国および地方自治体に対して,上記に掲げた,非正規労働者の働く権利を守るためのルールの確立を訴えるとともに,自らも,2009年4月に立ち上げた,生存権の擁護と支援のための緊急対策本部の諸活動を強化し,現に苦境の中にいる非正規労働者をはじめとする労働者のための「雇用と生活問題ホットライン」等の相談活動や,会員向け労働事件研修をこれまで以上に実施するなどして,「働く貧困」をこの社会からなくすために,最大限の努力を行うことを決意し,冒頭のとおり宣言するものである。

以上

中小企業への積極的な法的支援を行う宣言

カテゴリー:宣言

 福岡県弁護士会は、司法改革の真の目的が、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち法化社会の実現にあるところ、企業数、雇用に占める割合、技術力等において、わが国の経済や雇用の主要な担い手である中小企業に対して、必要な法的情報やサービスの提供が行き渡り、わが国全体が等しく法化社会となることを目指し、福岡県弁護士会中小企業法律支援センターを中心として、中小企業への積極的な法的支援を実施すべく、以下のとおり宣言する。
1 諸団体等との協力関係の構築
 中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する。また、福岡県弁護士会と関連する専門士業団体等との間のネットワークを有効に構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努める。
2 研修制度・紹介制度の充実
 中小企業の法的問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成するため、専門研修制度を充実させる。また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築しつつ、中小企業が抱える法的問題に応じて適切な弁護士を紹介等できる態勢を作る。
3 広報・啓発及び継続的な調査・研究と提言
 中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすため、上記の取り組みや中小企業を巡る独占禁止法をはじめとする諸法令の徹底について広報や普及・啓発に努める。また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を求める等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行う。
                2010(平成22)年5月25日
                 福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 司法改革(法化社会の実現)と中小企業
 司法改革の真の目的は、社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会、すなわち「法化社会」の実現にある。その目的を達成するために、国民がプロフェッションたる弁護士と豊かなコミュニケーションを図る場が設けられること、弁護士が「国民の社会生活上の医師」として、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに「信頼しうる正義の担い手」として、高い質の法的サービスを提供することが求められている。これは言うまでもなく、福岡県弁護士会(以下「当会」という。)が、日本弁護士連合会及び各地の弁護士会とともに掲げて取り組んできた「市民のための司法改革」に通じる。
 中小企業は、全国で420万社、福岡県内だけでも15万社以上ある。中小企業が我が国の企業全体に占める割合は90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上であり、日本の経済は中小企業で支えられていると言っても過言ではない。「市民のための司法改革」が社会の隅々まで法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスの提供が受けられることを目指すものである以上、法律専門家である弁護士が、個人のみならず、中小企業を含む企業の諸活動全般において、相談・助言を含む適切な法的サービスを提供すること、企業の活動が公正な法的ルールに従って行われるよう助力すること、紛争の発生を未然に防止すること、紛争が発生した場合には、法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済が図られることが必然の理である。
2 中小企業への法的援助の必要
 ところが、未だ中小企業の現場では、「弁護士の敷居の高さ」、「弁護士に相談するのは最後の最後」という感覚が払拭されていない実情がある。この点は、先に日本弁護士連合会が全国の中小企業を対象として行ったアンケート調査において、回答した中小企業のほぼ半数が弁護士利用経験がなく、その理由のほとんどが「特に弁護士に相談すべき事項がない」という理由であったこと、しかしながら、一方で80パーセントの中小企業が法的問題を抱えておりながら、相談相手がないか、もしくは相談する相手先としても多くは弁護士以外に相談しているという結果が出ていることにも表れている。
 実際、我々弁護士が日常の相談業務で接していると、中小企業の多くに未だ法的援助が行き渡っていない実情を実感する。取引契約書の不存在・不備、大企業や親企業などからの優越的地位を背景とした不利な取引条件の甘受、経営危機に遭遇しての専門的援助の欠如、事業承継に関しての不理解や法的援助の不足等々の事態が往々にして見られる。まして、昨今の深刻な世界的不況や国内市場の収縮傾向のもと、中小企業の経営は困難を窮めており、中小企業の疲弊がすなわち我が国経済の沈滞を招いているといっても過言ではない。
 もちろん、これまでの個々の弁護士の業務活動によって、中小企業を含む企業活動に弁護士が関与する意義の認知度が向上してきた経緯はある。
 しかし、弁護士の中小企業への関与は、個々の弁護士による個別の中小企業へのアクセスに委ねるだけでは不十分であり、弁護士会が組織的・積極的に中小企業にアクセスし、弁護士側の中小企業問題に関する精通度を高めつつ必要とする企業に適切な弁護士を紹介できるシステムを構築すること、そのための基盤を整備すること、そして中小企業から司法制度や弁護士に対するアクセス障害を取り除くことが重要である。
 我が国の企業全体に占める割合が90パーセント以上、雇用でも70パーセント以上を占める中小企業の経営安定に寄与することは、新たな産業の創出に与し、就業の機会を増大させ、市場における公正な競争を促進し、地域経済の活性化を促進することとなる。また、下請法はじめ独占禁止法その他中小企業関連法規の徹底が促進されることにもなる。中小企業支援は、市民の立場に立つ法曹たる弁護士の社会的使命ともいうべきである。
 中小企業支援に関して、弁護士が果たすべき役割については、日本弁護士連合会が経済産業省中小企業庁と発表した「中小企業の法的課題解決支援のための中小企業庁と日本弁護士連合会の連携について」(2007(平成19)年2月)、「中小企業の法的課題解決支援のための経済産業省中小企業庁と日本弁護士連合会の連携強化について」(2010(平成22)年3月18日)の各共同コミュニケにも指摘されているところである。
3 中小企業からのアクセス障害の克服のために
 当会は、「市民とともに」を合言葉に、県内20か所という全国の弁護士会の中でも有数の法律相談センターを開設し、市民の司法へのアクセス障害を解消するべく努力を続けてきた。1991(平成3)年には、隣接専門士業団体との間で福岡専門職団体連絡協議会を設立し、以降、相互理解に努め、相互に専門職を紹介する制度を備え、また共同研究会、定例の共同相談会など着実な協力関係を構築して地域社会に貢献する努力を重ねてきた。
 さらに、当会は、日本弁護士連合会と共催で、中小企業向けシンポジウム・セミナー、無料法律相談会を開催するほか、当会独自に、中小企業支援機関・団体(九州経済産業局、各地の商工会議所、福岡県商工会連合会、中小企業基盤整備機構九州支部、中小企業診断協会福岡県支部、福岡県中小企業再生支援協議会等々)と意見交換会、勉強会を開催するなど、地道に活動してきた。
 そのような活動の中で、中小企業のあらゆる場面において弁護士が担うべき役割について、未だ十分な理解が得られておらず、弁護士が「身近な相談相手」として意識されていない現実にも直面した。とりわけ、県下の中小企業が今次の深刻な経済不況下、ひどく疲弊して呻吟しているなか、当会としては、中小企業からの支援の要請に応えるべく、さらなる取り組みの強化に努めることが必要であることを痛感するに至った。
 そこで、当会は、中小企業支援を積極的に推進する組織として、本年4月1日、当会に「中小企業法律支援センター」を設置した次第である。
4 積極的な支援活動への取り組みの決意
 当会は、今後「中小企業法律支援センター」を中心として、中小企業に対して次のとおりの法的支援活動に精力的に取り組む決意である。
(1)関係諸団体等との協力関係の構築
 中小企業が、その抱える法的問題に関して容易に弁護士にアクセスし、弁護士による法的助言や支援、ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し、法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため、これまでにも増して、行政官庁及び自治体並びに中小企業諸団体等との間で適切な協力関係を構築する努力を払う。
 また、1991(平成3)年に福岡専門職団体連絡協議会を設立して以降、当会が進めてきた隣接専門士業団体との協力関係を、今後は、中小企業支援の観点から、さらに有効なネットワークとして構築・増強し、そのネットワークが円滑に機能するための基盤の整備に努めることとする。
(2)研修制度・紹介制度の充実
 中小企業の法的問題が広汎で専門的であることに鑑み、中小企業の法律問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成することを目指すこととして、そのための専門研修制度を充実させることとする。
 また、弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築・活用して、中小企業が抱える法的問題に即応して適切な弁護士を紹介する等の態勢を作ることとする。
(3)広報・啓発等及び継続的な調査・研究と提言
 中小企業が抱える法的問題について、中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすためには、独占禁止法関係法規その他中小企業関係法制に関して中小企業やこれに関連する企業・団体等に周知することが重要であることにかんがみ、これらの広報や普及・啓発に努めるものとする。
 また、総合法律支援(2004(平成16)年,総合法律支援法)や権利保護保険の中小企業への拡大適用の可能性を探ることを含め、中小企業に対する法的支援制度のあり方について継続的な調査・研究を開始するとともに、その成果をふまえて日本弁護士連合会や法務省、経済産業省等の関係機関に対してその導入や改善を提言する等、適時に、中小企業を支援する立法上・行政上の措置を求める提言等の活動を行うこととする。
5 よって、上記のとおり宣言する次第である。

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