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日本学術会議の独立性・自律性を尊重すること等を求める会長声明

カテゴリー:声明

内閣は2025年(令和7年)3月7日、日本学術会議法(以下、「法」という。)の改正案(以下、「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。しかし、後述のとおり、改正案には、日本学術会議(以下、「学術会議」という。)に対して政府のコントロールを及ぼそうとする仕組みを法制化する内容が盛り込まれており、これらは学術会議が本来有するべき政治権力からの独立性・自律性を損なうもので、学問の自由を保障した憲法23条に照らして問題である。
そもそも学術会議は、「学者の国会」とも呼ばれ、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、」「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命と」する国家機関である(法前文、2条)。
法の規定上、学術会議は、「独立して」、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」等の職務を行い(法3条)、政府から「諮問」を受ける(法4条)ほか、諮問が無くとも「政府に勧告する」(法5条)権限を有しており、政府からの強い独立性と自律性を有している。
210名の会員の選定は、元来、各学術分野の研究者によって構成される学会の選挙によっていたが、1983年(昭和58年)の法改正により、学術会議の「推薦」「に基づいて、」「内閣総理大臣が任命する」(法7条2項、17条2項)現行方式に改められた。この改正が、内閣総理大臣による政治介入を招くのではないかとして問題となったが、中曽根康弘首相(当時)が「政府が行うのは形式的任命にすぎません。」と答弁し(同年5月12日、参議院文教委員会)、「推薦をしていただいた者は拒否はしない。そのとおりの形だけの任命をしていく」(同年11月24日、同院同委員会における総理府総務長官答弁)という運用がなされることにより、人事面での政府からの独立性が引き続き確保されてきた。
このように学術会議という学術組織にとって政治権力からの独立性・自律性が尊重されるべきことは、憲法23条が学問の自由を保障することに基づく。
本来、学問研究の真髄は真理の探究にあるが、その際には、時々の社会において支配的な価値観や政治思想、さらには時の政府の政治方針を批判的検討の対象とすることもしばしば起こり得る。
そうした場合に政府が自らに批判的な学術的営みに干渉することが可能であるならば、真摯な批判的検討による真理探究という科学の営みはゆがめられてしまい、「科学の発達向上」(法2条)等の法の目的もおよそ達し得るところではない。したがって、科学の発達のためには、学問研究の自由の保障が必要不可欠である。
先の大戦に至る経過において、学問研究の自由が圧迫され、これが全体主義の伸長をもたらす一因をなした。滝川幸辰教授がその学説を理由に政府から休職を命じられた京大滝川事件(1933年(昭和8年))や、「国体」に反する異説を唱えたとして美濃部達吉貴族院議員が全ての公職から追放された天皇機関説事件(1935年(昭和10年))は、その代表例である。憲法は、その反省のもと、学問の自由(憲法23条)を保障したのであり、自由な学問研究に対し政治的な干渉をしてこれを萎縮させることは、学問の自由を保障する憲法とは相容れないものである。
こうして確保された独立性・自律性のもと、学術会議は、年平均10を超える提言・勧告等の意見表明を発出したり(省庁等からの諮問に応えたものを含む。)、わが国の学術団体を代表して国際科学会議(現・国際学術会議)に加盟しその一員として活動したりする、等の活動を行ってきた。その活動は、政府からの財政支援が脆弱で活動の一部が会員の手弁当によらざるを得ないという点はともかく、特に問題とされるようなことはなかったものである。
学術会議に関して政治問題が浮上したのは、2020年(令和2年)、菅義偉首相(当時)が、新会員の任命にあたり、具体的理由を明らかにすることもなく、学術会議が推薦した候補者105名のうち6名の任命を拒否した際であった。この任命拒否に対しては、当会や(2020年(令和2年)10月28日「日本学術会議の推薦に基づく会員の任命を求める会長声明」)日本弁護士連合会を含む多くの学会や諸団体、世論から、抗議、反対が寄せられたが、その後に至るも政府は任命拒否した6名を任命することなく、任命拒否の理由を明らかにすることもないまま、法7条1項が定める210名の会員のうち6名が欠員という違法状態が継続している。
政府は、このような違法状態を放置し、かつその理由の説明も欠いたまま、「日本学術会議の在り方についての方針」(2012年(令和4年)12月6日、内閣府)、「日本学術会議の法人化に向けて」(2023年(令和5年)12月22日、内閣府特命担当大臣決定)、「学術会議の在り方に関する有識者懇談会」の設置(2023年(令和5年)8月29日第1回開催、2024年(令和6年)12月20日に最終報告書を公表)、と、一方的に学術会議の在り方を問題視してその法人化を図る方針を打ち出しており、このような経過からは、問題の焦点をずらそうとする政府の意図が窺われる。
改正案では、学術会議の設置形態を独立した法人とするほか、
(1) 内閣総理大臣が委員を任命する日本学術会議評価委員会を内閣府に置き、学術会議の活動計画や業務実績についての評価に関する報告を受け、学術会議に対して意見を述べることができるとすること、
(2) 内閣総理大臣が任命する監事が、学術会議会員等について、「不正の行為」「があると認めるとき」に限らず、「当該行為をするおそれのある事実があると認めるとき」や「著しく不当な事実があると認めるとき」にも、内閣総理大臣等に報告するものとすること、
が盛り込まれているが、これらの活動次第では、任命権を通じて内閣総理大臣が学術会議の活動にコントロールを及ぼすことが可能となる。
そもそも、学術会議が「国の特別の機関」として活動してきたがために問題が生じたという事態はなかったのであるから、学術会議を法人化すべきであるとか、最終報告書が提言する評価委員会や監事を設置すべきことを示す立法事実はない。
仮に、学術会議の組織形態等を改変するのであれば、学術会議が一貫して主張しているように(直近では2025年(令和7年)2月27日の学術会議会長談話「日本学術会議の法人化に関する法案の検討状況について」及び同年3月7日の同会長談話「日本学術会議法案について」)、(1)学術的に国を代表するための地位、(2)そのための公的資格の付与、(3)国家財政支出による安定した財政基盤、(4)活動面での政府からの独立、(5)会員選考における自主性・独立性、という5要件が満たされるべきである。改正案の内容は、到底これを満たすものではない。
以上より、当会は、学術会議の独立性・自律性を脅かす改正案に反対し、学術会議の独立性・自律性を尊重すること、また、会員任命を拒否されたままの6名を任命して違法状態を速やかに解消することを改めて求める。

2025年(令和7年)3月24日
福岡県弁護士会
会長 德永 響

能登半島地震に関し、法テラス支援特例法の制定等による法的支援の継続を求める会長声明

カテゴリー:声明

第1 声明の趣旨

1 国は、令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)について、東日本大震災における対応と同様、被災地に住所、居所、営業所又は事務所(以下「住所等」という。)を有していた者であれば資力を問わず日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)における法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどについても代理援助・書類作成援助の対象とすること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されること、などを含む法テラスの業務に関する特例法を制定すべきである。
2 国は、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正をし、令和7年1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。

第2 声明の理由

1 能登半島地震の発災から約10か月が経過した。内閣府の非常災害対策本部の発表によれば、令和6年10月1日時点での被害状況は、死者・行方不明者が404名(うち災害関連死が174名)、負傷者が1336名、半壊以上の住家被害が2万9244件となっており、平成23年に発生した東日本大震災以降最大の被害が発生している。また、10月1日時点において、石川県内では、依然として348名の被災者が避難所での避難生活を余儀なくされている状況である。
被災地では、復旧に向けた関係各位の懸命な活動が続いており、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者のリソース不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じている。
2 能登半島地震は、令和6年1月11日に、政令により、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定されており、法テラスにおける「大規模災害の被害者に対する法律相談援助制度」(以下「被災者法律相談援助制度」という。)の適用対象となっている。この制度は、政令で非常災害と指定された災害について、発災後最長で1年間、被災地域に住所等を有する者に対し、資力を問わずに法テラスにおける無料相談を実施する制度であり、過去には、平成28年の熊本地震、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨にも適用された。
能登半島地震の被災地では、法テラスの事務所における相談に加えて、事務所へのアクセスが困難な地域には移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応がとられており、被災者法律相談援助制度は、能登半島地震の被災者の法律相談ニーズに応えるうえで重要な役割を果たしている。
3 上記のとおり、被災者法律相談援助制度は、発災後最長1年間という期間が定められており、能登半島地震についても、令和6年12月31日までの期間が定められている。
その一方で、上記1でも述べたとおり、発災後約10か月が経過した現時点においても、依然として多くの被災者が避難を余儀なくされており、公費解体も十分には進んでいないなど、生活再建の入り口にすら立っていない被災者も多数存在する。被災者支援制度の基礎となる罹災証明書についても、判定そのものやその基礎となる資料の情報公開等について問題が指摘されており、被災者からの相談も継続すると考えられる。また、被災地では、災害関連死の認定数も増加しており、災害関連死の申請に関する相談や対応も継続する可能性が高い。これらに加えて、各種の支援金の申請、地震に起因する紛争の解決、自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、さらに多数の相談ニーズや紛争処理のニーズが生じることが容易に予想される。
さらに、能登半島においては、令和6年9月20日からの大雨によって、激甚災害(本激)に指定される規模の災害が発生し、能登半島地震の被災者が復興途上で再び被災するという事態も生じている。
特定非常災害に指定される規模の大地震と、激甚災害に指定される規模の大雨との複合災害という、極めて稀かつ酷な事態に直面した被災者に対する法的支援の必要性は、同大雨の前よりも一層高まっている。
このような状況であるにもかかわらず、被災者法律相談援助制度が1年間で終了するとすれば、被災者に対する法的支援としては十分とは言えないものと考えられる。
4 平成23年に発生した東日本大震災の際には、上記の総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後の平成24年3月23日に、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定され、同年4月1日から施行された。この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどの特色があり、当初は3年間の時限立法であったが、令和3年3月31日まで期間が延長された。
能登半島地震については、東日本大震災以降最大規模の被害が生じていることに加え、上記のとおり、災害からの復旧や生活再建が様々な事情から停滞していることからすれば、同地震に関しても同様の特例法を制定し、法テラスによる支援を継続すべきである。
5 また、今後も確実に生じる被災地における法律相談ニーズに十分に応えるため、総合法律支援法の改正により、現在1年以内とされている同法第30条第1項第4号における政令による指定期間をより柔軟に延長することを可能とし、令和7年1月1日以降も法テラスにおいて能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
この改正は、能登半島地震のみならず、今後発生する可能性がある大規模な自然災害への対応を考えても、必要な法改正であると考えられる。

2024年(令和6年)10月25日
福岡県弁護士会
会長 德永 響

当会元会員に対する有罪判決についての会長談話

カテゴリー:会長談話

当会の会員であった堀孝之(ほり たかゆき)元弁護士(2024年4月30日に弁護士登録を取り消した。)は、成年後見人として管理していた預り金570万円余りを業務上横領したとして、2024年5月28日、福岡地方裁判所において、懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を受けました。
未だ確定していないとはいえ、被害全額の弁償をしてもなお、起訴されて判決で認定された事実は大変に重く、判決内容も当会が業務停止処分を下した事実とほぼ同じであって、弁護士に対する信頼を著しく損なうものであり、極めて遺憾です。
当会は、新たな不祥事の発生防止に向けてすでに対策を講じているものの、これにとどまらず、本談話の発出によって弁護士の意識向上を促し、弁護士職務の適正の確保並びに弁護士及び弁護士会に対する市民の皆さまからの信頼回復に努める所存です。

2024年5月28日
福岡県弁護士会
会長 德永 響

憲法記念日にあたっての会長談話

カテゴリー:会長談話

本日、日本国憲法は施行から77年を迎えます。
世界では悲惨な紛争やテロが起こっています。
2022年2月から始まったロシア連邦によるウクライナへの軍事侵攻は今なお停戦、休戦の兆しはなく、ウクライナの民間人だけでも1万人以上もの人々が亡くなったと報道されています。
また、昨年10月から、ハマス等のパレスチナ武装勢力によるイスラエル攻撃を発端としたイスラエルによるパレスチナへの空爆が始まりました。ハマスを壊滅するとの名目の下、乳幼児を含む市民3万3000人以上が死傷し、街は破壊され、人々は絶望的な状況の中にいます。
この暗澹たる惨状を目にしたとき、暴力や武力によって要求を押し通そうとすることの悲惨さを痛感するとともに、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認した日本国憲法前文の理想を思い起こさずにはいられません。日本国憲法は、武力ではなく対話と協調による外交努力によって平和を維持することを目指しています。今こそ日本国憲法の力を活かすときであり、日本政府が国際社会に対して平和の実現を真摯に働きかけることが望まれます。当会は昨年12月6日に、ハマス等パレスチナ武装勢力及びイスラエル双方に対して直ちに停戦を求め、日本政府に対して停戦の実現に向けて働き掛けることを求める会長声明を発出しました。
一方で、国内に目を転じれば、憲法の三原則のうちの一つ、基本的人権を尊重する取組みや裁判例が出ています。
例えば、同性間での婚姻を認めない現在の法制度が憲法違反であるとの裁判が各地で起こされていますが、既に4つの地方裁判所で、同性婚を認めないことは違憲または違憲状態であるとの判決が出されています。これに加え、本年3月14日には札幌高等裁判所が、高裁として初めて、同性カップルにも憲法上の婚姻の自由の保障が及ぶとし、現行の法制度は違憲であると判断しました。札幌高裁は同性婚について「根源的には個人の尊厳に関わる事柄であり、個人を尊重するということ」であると指摘し、同性婚について早急に真摯な議論と対応をすることが望まれると付言しました。司法が、多様な性のありかたを前提として、個人を尊重する動きを強く後押しするものといえるでしょう。当会もこの札幌高裁の判決を受け、本年4月9日に、直ちにすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明を発出しています。
他にも、2023年4月に子ども基本法が施行され、「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり」子ども施策を推進していくことが定められました。また、ここ1、2年の間で、中学校の校則見直しを行う動きが全国的に広まっていますが、これも子どもを「個人として尊重する」という憲法の理念を実現する動きの表れであるといえます。
人を個人として尊重し、基本的人権を尊重するという憲法の理念を実現するために、
今後もさらに憲法を活かしていくことが求められています。
世界各地で多発する紛争、地球規模で進行する気候変動、AI等これまでにないレベルで発展する技術、多様化する価値観があり、世界も日本も情勢は目まぐるしく変化しています。その中で日本国憲法が基本原理とする基本的人権の尊重、国民主権、平和主義は今後日本がどのように振る舞うべきかの指針であり、その実現のために不断の努力が求められています。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義を使命とする法律家団体として、憲法の理念を踏まえ、平和と人権擁護のために全力をあげて活動してまいります。

2024年(令和6年)5月3日
福岡県弁護士会
会長  徳永 響

離婚後共同親権の導入について、十分に国会審議を尽くすことを求める会長声明

カテゴリー:声明

 離婚後共同親権の導入を含む「民法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が、2024年3月8日に閣議決定され、国会へ提出された。
 改正法案は、「家族法制の見直しに関する要綱」の素案を審議してきた法制審議会家事法制部会での審議過程において、部会内の採決で複数の部会委員が反対・棄権したという異例の経過を経て答申され、閣議決定を経たものである。
 改正法案は、広く国民生活、特に、子の利益に関わる基本的な事項に関するものであり、かつ、その審議過程は、立法者意思を示す資料として繰り返し参照される重要なものであるから、離婚後共同親権の導入をめぐって指摘されている以下の懸念もふまえて、十分に審議を尽くすべきである。
 まず、第一の懸念は、改正法案で「親の責務」と題する節が新設されて、親は子に対する責務を果たすべきことが定められたにも関わらず、「親権」という言葉が残され、その関係が明確にされていないことである。
 本来、親の権限は親の責務を果たすために必要な限りにおいての権限であるにも関わらず、「親権」という言葉が残ったために包括的な親の権利というものがあるという誤解を生じかねない。親権の共同行使のあり方や、共同親権であっても単独で行使できる場合とは何かということについての紛争の解決において、子に対する親の責務の履行という観点がなおざりにされれば、専ら親の権利の行使の問題としての解決に傾きかねず、子の利益の実現に困難を伴う可能性が高い。
 第二の懸念は、DV・虐待等の支配・被支配関係にある場合の危険性である。
 改正法案では、DV・虐待があるような、共同親権が不適切なケースに万が一にも共同親権が定められることにならないよう、裁判所における判断基準を定めてはいる。しかし、協議離婚においては、届出時点では裁判所が関与せず、何らの限定もない。DV・虐待によって形成された支配・被支配関係のもとで被害者が共同親権への合意を事実上強制されてしまうと、その後も加害者との関わりが継続し、同居親と子の生活の平穏が脅かされ、結局は、改正法案が目指す「子の利益」に反するおそれがある。
 第三の懸念は、単独での親権行使ができる事由が不明確な点にある。
 改正法案では、共同親権となった場合(婚姻中も含む。)でも、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や、「監護及び教育に関する日常の行為」は、父母の一方が単独で親権行使が可能とされている。しかし、「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が明確ではない。特に、婚姻中にDVや虐待があったことを理由に子を連れて別居するケースが「子の利益のため急迫の事情があるとき」に該当するかどうかについては、DV・虐待等被害者支援の観点から非常に重要であるが、この点も文言上不明確であると指摘せざるを得ない。
 また、実際の子育てにおいては、子の入院や手術、歯科矯正、保育園や幼稚園への入園、高校や大学の受験及び入学、塾や習い事、同居親の転勤等に伴う転居など、子のための意思決定を行わなければならない場面がさまざまにあるところ、どこまで単独で決定できるのかが明確でなければ、後に親権行使の適法性が争われる等の心配により適時適切な意思決定ができず、かえって子の利益を害するおそれがある。
 以上のような改正法案に対する懸念に加えて、家庭裁判所の人的・物的体制の問題がある。共同親権となった後に生じる親権行使をめぐる紛争に関し、改正法案では、当事者間で協議が調わなかった場合には、家庭裁判所が判断するとされているが、これらの紛争に家庭裁判所が迅速かつ適正な判断を行うにあたって、家庭裁判所の人的・物的体制の充実が不可欠であり、その手当てなくして成り立たない制度であるといえる。
 これまでの親権制度に大きな変更を加える重大な改正について、上記の種々の懸念事項に対して、充実した議論や十分な手当がなされないままに採決されるようなことになれば、結局は、改正法案が目指す「子の利益」を大きく損なうことになりかねず、改正の趣旨を没却するおそれがある。
 上記のような異例な経過を経て国会に上程された改正法案に対しては、国会において多くの国民の意見を踏まえた十分な議論を尽くすことを求める。

2024年(令和6年)3月21日
福岡県弁護士会
会長 大 神 昌 憲

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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