福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2021年5月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

井口法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

福岡に戻ってきました

私は、2016年12月から弁護士法人あさかぜ基金法律事務所(あさかぜ事務所)に入所し、2年間の養成期間を経て、2019年1月に壱岐ひまわり基金法律事務所に赴任しました。その後、2年の任期を終え、この4月に再び福岡県弁護士会へ登録替えして戻ってきました。

元あさかぜ事務所の所員弁護士として、壱岐でどんなことをしていたのか、報告させていただきます。

多くの人を魅了する「壱岐」

壱岐は、福岡市博多港から郷ノ浦港まで西北に76キロメートル、佐賀県唐津東港から印通寺港まで北に41キロメートルの位置にある離島で、南北約17キロメートル、東西約15キロメートルのやや南北に長い亀状の島で、総面積は139.42平方キロメートル、壱岐本島と23の属島(有人島4、無人島19)からなる全国で20番目(沖縄を除く)に大きな島です。

現在、人口は26000人弱であり、人口減少、少子高齢化も進行しているなか、積極的に島外移住者を受け入れようと様々な施策を行っています。壱岐は、風光明媚な景色があり、肉・魚などの食も豊かであるため、多くの人を魅了し、毎年多くの観光客が壱岐を訪れ、また、移住者も増えているところです。

私も、壱岐に住んでいるとき、毎日外に食べに出歩いて、地元のお魚や、壱岐牛などを食べて回ったり、温泉に入ったりしていました。また、休日には、猿岩や筒城浜海水浴場などにも足を運び、きれいな景色を眺め、リラックスしました。

あさかぜ基金だより
平和な島のイメージですが・・・

私は、壱岐に赴任する前(赴任前の見学等の際)、平和で豊かな壱岐の島の様子を見て、人と人との争いごと、法的紛争とはほど遠い印象をもっていました。

しかし、実際に赴任してみると、様々な相談が事務所に舞い込んできました。ときには非常にシビアな案件もあり、暴力・DV等が絡む事件も少なからずありました。

実際に壱岐で関わった事件は・・・

この2年間を振り返ると、事件としては、夫婦関係(離婚など)が多く、次いで個人の債務整理案件、そして相続の事件が多かったように思います。しかし、これら事件類型に限られるものではなく、交通事故や労働事件、囲繞地通行権や境界等にかかる事件、根抵当権抹消登記請求などの不動産登記関係の事件、発信者情報開示請求・削除請求事件、法人破産などもありました。

また、裁判所選任案件も多く担当し、破産管財人、個人再生委員、特別代理人、不在者相続財産管理人などを経験することができました。また、成年後見人も5、6件ほど担当しました。

刑事事件は少なく、昨年度は1件しか担当せず、2年間で5、6件しか担当しませんでしたが、私の在任中、3名の共犯事件が対馬で発生し、対馬ひまわり・法テラス対馬の弁護士だけでは対応できないとのことで、3人目の国選弁護人として対馬の事件を担当することになり、週末に対馬を南北横断しつづけ、いささか大変でした。

2年という限られた期間でしたが、事務所での相談件数は247件(毎月1回で開催される社協での「心配ごと相談」を含めると、さらに増えます。)担当させていただきました。また、事件数単位で数えると195件の事件を担当することができました。

弁護士の敷居を下げる努力

このように、いろいろな相談等を担当しましたが、なかには、もう少し早めに事務所に来ていただければ、と思うことが少なからずありました。私の先代の中田昌夫弁護士も、相談のタイミングが遅いケースを担当したとき、壱岐の人々にとって、「弁護士」はまだまだ敷居が高い存在として認識されているのではないか、と気にしており、気軽に相談できるような雰囲気を作ることが大事ではないか、と言っていましたが、そのとおりだと思いました。

そこで、私は、壱岐の皆様が気軽に相談できるよう、法律的な専門用語をかみ砕いて解説し、初めて触れる法律のお話をできる限り分かりやすいように説明するよう努めてきました。また、相談者の不安をできる限り解消できるよう、単に法律の知識等を提供するだけでなく、相談者の気持ちに寄り添って話をするよう心掛けました。

また、相談者のなかには、他に頼るべき人がおらず、親しい人に相談しようとしても、密接な人間関係であるため、どこかで誰かの噂になるのではないか、という不安を抱えている方もいましたので、弁護士には守秘義務が課せられていること、相談で伺ったお話はすべて秘密であることをきちんと説明し、相談することそれ自体の不安も解消するよう努力しました。

さらに、相談者・依頼者が、事務所の弁護士の顔と人となりを知ってもらえるよう、ホームページを開設し、自分の顔写真等を掲載し、相談前に弁護士の顔を知ってもらえるよう工夫しました。

こうした一つ一つの努力がどれくらい功を奏したかは分かりませんが、在任中、常に新規相談の予約が絶えることはなく、後任の西原宗佑弁護士(71期)に引き継いでからも、相談の電話が止むことはありませんでした。

壱岐に常駐型法律事務所が必要な理由

2年間の感想ですが、やはり、壱岐には常駐型の法律事務所が必要だと実感しました。

人が社会で生きていくなかで、法律に関する争いごと、お悩みごと、トラブルは避けては通れません。そうしたなか、法律的なトラブルを解決するため、いつでも、だれでも弁護士に相談できる環境が必要です。

現在、壱岐には26000人弱の人々が暮らしていますが、数万人単位の人間がコミュニティを形成して社会で共同生活をしていれば、確実に法的トラブルは発生します。壱岐島内での法的トラブルを適切に解決するには、弁護士の力が必要です。

また、壱岐は、福岡との交流も盛んであり、島外に住む方とのトラブルも少なからず発生します。そうしたなか、島外在住の人が、近隣都市部の弁護士に依頼して内容証明郵便を送付してきたり、訴訟提起をしてきたとき、壱岐在住の方が武器対等で事件に対応するとすれば、気軽に弁護士に相談できる環境がなければなりません。

もし、壱岐島内に事務所がなければ、福岡・佐賀・長崎の弁護士に相談せざるをえないことになりますが、島民にとって継続的に島外に足を運ぶのは、経済的負担が大きく、また、移動にかかる時間的コストもあるため、弁護士へアクセスできる方々は非常に限定されることになります。そうなると、的確な法的アドバイスを受ける機会を得ることができないまま、何も知らないが故になすがままにされるという不正義が発生することになりかねません。

こうした状況を踏まえると、「壱岐ひまわり基金法律事務所」は、まさしく「市民の駆け込み寺」であり、壱岐にとって必要不可欠な公共インフラとしての側面を有しているといえるのではないでしょうか。

西原弁護士・安河内弁護士をよろしくお願いします

私の後任の西原弁護士は、私と同じくあさかぜ事務所出身の弁護士です。

西原弁護士は、私が壱岐に赴任する直前に、私とほぼ入れ違いであさかぜ事務所に入所したので、私の記憶のなかでは、新人弁護士という印象でした。しかし、この2年間、あさかぜ事務所でいろんなことを経験してきたのでしょう、西原弁護士は、弁護士として技術・力量を培うだけでなく、心構えもできあがっているようで、安心して事務所を引き継ぐことができました。西原弁護士は、きっと、自身の持ち味を生かし、壱岐の皆様に対してよりよいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

また、私が福岡県弁護士会に登録替えするのと入れ替わりに、あさかぜ事務所の安河内涼介弁護士(72期)が、対馬ひまわり基金法律事務所に赴任していきました。安河内弁護士もまた、若林毅弁護士(68期)より、同地での業務と所長弁護士の志を引き継ぎ、対馬の人々に対し、素晴らしいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

ただ、西原弁護士、安河内弁護士がこれから負うべき責務は非常に重く、いろいろな苦労があるかと思います。福岡県弁護士会の弁護士の皆様には、引き続き、両名に対するご支援等をよろしくお願い申し上げます。

あさかぜ事務所の弁護士をよろしくお願いします

あさかぜ事務所には、田中秀憲弁護士、佐古井啓太弁護士、石井智裕弁護士、宇佐美竜介弁護士の4名が所属し、それぞれ、これから弁護士過疎偏在地域へ赴任をすべく、日々、研鑽を積んでいます。どの弁護士も、その志は高く、非常に熱意をもっていますが、彼らの熱意や努力は、弁護士過疎偏在問題、全国津々浦々にあまねく法の支配を貫徹し、広くリーガル・サービスを提供する上で、必要不可欠なものといえます。

皆様には、引き続き、あさかぜ所員弁護士に対し、たゆまぬご支援をお願いしたいと思います。

また、所員弁護士には、その情熱を絶やすことなく、日々、研鑽を積んでいただきたいと思います。私ができることには限りがありますが、皆様の熱意を後押しすべく、できる限りのお手伝いをしたいと思います。

重ねてお礼を申し上げます

最後に、あさかぜ事務所での養成期間において、厳しくも熱心にご指導・ご鞭撻いただきまして、誠にありがとうございます。また、壱岐での2年間も、大変ご支援をいただきまして、まことにありがとうございます。

この壱岐での2年間で得られた様々な経験は、私の「原点」だと思います。壱岐での経験を、いつまでも、大切にしていきたいと思います。

引き続き、ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

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