福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2019年10月号 月報

大連律師会訪問と交流会の報告

月報記事

会員 中原 幸治(64期)

8月1日から3日まで、中国大連律師協会への定期交流訪問について、本会より山口会長をはじめ総勢16名の会員で実施しましたので、報告いたします。

本会と大連律師協会の交流は1992年から開始され、2010年に正式の交流提携を締結し、以来隔年で相手方を訪問しており、今年は本会が大連を訪問しました。

1 一行は8月1日16時に大連国際空港に到着し、本会との交流に長年あたられている大連律師協会の劉挪弁護士と、同協会宣伝交流工作委員会の劉艶弁護士が花束で歓迎してくださいました。
大連律師会訪問と交流会の報告
2 法律事務所訪問および企業見学
(1) 遼寧恒信法律事務所

翌日午前は1時間の市内観光(旧日本人街、旧ロシア人街、満鉄本社など)を行ったのち、遼寧恒信法律事務所を訪問しました。

大連律師会訪問と交流会の報告

同事務所は中国国内に3拠点、70人の登録弁護士、会社法務、海事など6つの業務セクションを有し、顧問先としては主に重工業企業、金融機関、大連市政府などがあるとのことでした。

本会から、中国の輸入促進策等について質問したのに対し、大連市は、北京上海等と比較すると経済的地位が低下しているとの認識のもと、特に日本企業への優遇政策をとって投資を誘致する施策をとっているとの説明がありました。また、中国政府としても関税の引き下げ、食品輸入規制を緩和するなど輸入を増加させバランスを取りながら、輸出入の拡大を図っているとの説明がありました。

青果物の具体例としてはJAとの連携による日本米の輸入、青森県産ナマコの輸入、ワサビの日本への輸出などの例が挙げられていました。

(2) 大連華信

2件目の訪問先として午後、市内から1時間程度の郊外にある大連華信計算機技術股分有限公司というソフトウェア開発企業を訪問しました。冒頭の劉挪弁護士が社外取締役を務められていることから訪問先となったものです。

同社は売上のうち64%が海外向け、うち9割が日本向けであり、特に日本の地方自治体の8割が行政情報システムの運用において同社のサービスを利用している状況とのことです。そのため、同社はデータセンターにおいて常時、日本の行政情報システムの運用状況をモニターしているとのことでした。アクセスには限界はあるはずとはいえ、日本の基幹情報システムが中国と常時接続されているという実態に驚きました。

このような事業に関して同社は日本の地方行政に関わる法改正の最新情報を常にフォローしていると、同社総裁自身が極めて堪能な日本語で説明されました。

8000人の従業員を収容できる広大な敷地建物の様子にIT分野での中国企業の隆盛を強く印象付けられました。

(3) 遼寧君連法律事務所

さらに2件目の法律事務所として、遼寧君連法律事務所を訪問しました。同事務所は、大連市の南部の星海湾地域(福岡の百道浜か)の高層ビルに所在しています。

同事務所内には中国国旗と中国共産党旗が掲揚されるスペースが設けられており、中国政府の「一帯一路」政策に関連する業務を行っているという説明にもなるほどと思いました。

約15分程度の短時間の訪問になったため、一帯一路政策に関わる業務の詳細に聞くことができなかったことは残念でした。

3 交流セミナーおよび懇親会

(1) その後、遼寧君連法律事務所階下のグランドハイアット大連の会議室において両会の共同セミナーが開催され、大連側からは輸出入および投資規制の法体系、知的財産権保護法制についての発表があり、福岡側から多数の質問が出されました。

(2) 福岡側からは尾畠弘典国際委員会事務局長が、「日本における株式取得及びその制限等について」の表題で発表されました。

これは、日本進出の法律相談を受けることが多いという大連律師協会側の要請に応えるものでした。

また、同発表の内容は中村亮介国際委員会委員が中国語への通訳をされました。

(3) 懇親会では、山口会長と大連律師協会楊家君会長との間で記念品贈呈が行われた後、中国語・日本語のできる弁護士間では直接に、または通訳を介しての交流となりました。

4 今後の交流に向けて

(1) 今回の訪問日程は実質2日でしたが、中国の法律事務所を見学できるともに、共同セミナーでは中国の輸出入・投資規制の法体系、知的財産権保護法制の概要を学ぶことができました。

また、企業訪問では、中国のIT分野の日本への影響力の大きさを肌で感じることとなりました。

このような事務所訪問、企業訪問は今後もさらに内容を充実深化させて実施すべきだと考えます。

(2) 今回の訪問団のうち、意外にも多くの先生方が中国を訪問すること自体が初めてとのことでした。隣国である中国の実情を、長い友好関係にある大連律師会の方々から直接聞くことができるというのは本会会員にとって極めて貴重な機会と思われます。

過去の大連訪問に参加された先生方にも、中国を定点観測する機会と考えていただき継続的に参加していただき、大連とのパイプを当会として太く築くことが必要なのではないでしょうか。

(3) また、交流会のセミナーについても、国際委員会以外の委員会からも参加していただき、より幅広い分野での意見交換ができればさらに内容を充実できると思います。

この点については、2016年釜山弁護士会訪問の際の、交流会のテーマ(面会交流、家庭内暴力被害者保護制度)と現地施設3か所の視察の例が参考になると思われます。

中国法制や比較法的な関心をお持ちの先生方にはぜひ、大連律師協会との交流会に参加していただきたいと存じます。

(4) 交流を発展的なものとしていくため、例えば、毎月大連律師会と電話会議を行い、相互に法制度や実情について質疑応答を行い、交流を定期的に続けるといった新たな方策が必要かもしれません。

(5) 来年は本会と大連律師協会との友好協定締結から10周年の節目にあたり、大連律師会が福岡を訪問する回となりますので、ぜひ多くの先生方に交流会に参加していただきたいと存じます。

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