福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2017年6月 1日

憲法リレーエッセイ 5月3日の過ごし方

憲法リレーエッセイ

会員 原田 直子(34期)

毎年春の大型連休の前半は憲法イベント。1989年に始まった憲法劇団ひまわり一座の憲法劇は、当初真面目に5月3日、どんたくと張り合ってやっていた。最近は、連休の最初の休みに行うことが多くなり、今年は4月30日。創立当初からのメンバーが少なくなって寂しいが、毎年どこからともなく50人ほどが集まってくる。子役で登場していた2世たちも成人し、第2世代メンバーの子ども達が子役で登場して舞台の注目を集めている。

素人の社会人集団が、自前の脚本で30回も芝居を続けるエネルギーは、やはり憲法9条。世界に誇る平和憲法が、年毎に愛おしくなる。憲法9条というと自然と憲法9条の歌になって、節を付けないと空んじることができないほどだ。

私は初めからおばあさん役が多かったが、憎まれ役、老け役は重要な脇役として舞台の質を左右すると自負して楽しんできた。これからも楽しい劇を通して舞台と客席の参加者みんなが憲法の素晴らしさを共感する舞台に参加したい。

これに対して、5月3日に行われた高遠菜穂子さんの「イラクから見る日本~暴力の連鎖の中で考える平和憲法」は、深刻な世界の情勢とその中で日本国憲法から離れていく日本の姿を浮き彫りにした講演会だった。高遠さんは、ご承知のとおり2004年にイラクで人質となり生還するも、心ないバッシングを受けた人。しかし、日本人が人質になった契機はイラクへの自衛隊派遣であり、高遠さんが生還できたのは、人道支援活動によるものだった。彼女はその後も一人でイラクでの人道支援活動を行なっている。

その彼女が語るイラク、モスル。今も毎日処刑が行われ、逃げるのが分かると手足を切断され公開処刑される。その状況を生み出したもの、アルカイーダ、その後のISの台頭は、いづれも米軍の大義なき戦争が産んだものであり、そのいづれにも、日本の自衛隊が無批判に追随して、「人道支援」の名の下に米軍支援を行なってきた実態が明らかにされた。

2003年に大量破壊兵器疑惑でイラク戦争が始められたが、現在では、アメリカもイギリスもオランダもこれは誤りだと認めており、国連の査察報告も大量破壊兵器はなかったと報告している。これに反して、日本はあくまで「イラク悪者論」に固執している。

イラクの人たちは、当初日本に軍隊はないはずだと思っていた。ファルージャに民間企業が来て雇用を創出すると期待していた。しかし、やってきたのは自衛隊だった。そして、ようやく戦闘が落ち着き始めたころ、シーア派イラク政府はスンニ派を弾圧し、このイラク政府に日本は警察車両を提供している。この弾圧に対するスンニ派による抗議デモの高揚に対し、さらなる弾圧と空爆が行われ、イラクはさらに深い混迷と民間人の犠牲が増加している・・・。

印象的だったのは「ISは極悪非道のモンスターだから殺されても当然」という考え方が、正規軍のモラルを低下させ、国際社会全体にも「コラテラル・ダメージ(巻き添え被害)も仕方ない」「対テロだから仕方ない」という考えが広がって、民間人被害の増加にもつながっているとの指摘。そして、イラク復興を掲げたアメリカの占領政策が失敗の連続で、イスラム国を産み出した原因がアメリカ自身にあることが日本では語られていないという日本のメディアの状況。

世界中で113人に1人が難民・国内避難民という状況の中で、目に見える人道支援は軍隊ではなく、文民・民間人でなければその国の人々に信頼されないと改めて強く思った。

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