福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年8月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第7回)「いきなり解雇はまずいでしょ」~企業の経営者・人事担当者の方へ~

月報記事

会 員 杉 原 知 佳(51期)

「転ばぬ先の杖」シリーズは、一般市民の方に、「もっと早く弁護士に相談すれば良かったのに」と思って頂く事例をご紹介するシリーズだそうです。

今回は、一般市民の方、特に企業の経営者や人事のご担当者にお読み頂くことを念頭において執筆させて頂きます。弁護士の皆様は、どうぞ、読み飛ばして下さい。

1 働かない課長を解雇

A社には、ほとんど働かず、会社内をいつもウロウロしているB課長(55才)がいました。B課長は、就業時間中、携帯電話で長時間ゲームをしたり、時には、無断で外出することもありました。

2年前に父親から社長業を引き継いだ若社長は、先代社長の時代から長年勤務しているB課長をどう扱ってよいか分からず、社長も、B課長の上司である部長も、B課長に対し、あまり仕事を与えることもせず、注意や指導をすることもありませんでした。

B課長は、勤続年数は長かったので、真面目に働いている若手社員よりも給料は多く受け取っていました。社内では、ほとんど働かないB課長に対する不満が囁かれ、社内の雰囲気も悪化していました。

あるとき、B課長は、いつものように、上司である部長に断ることなく外出し、2時間後に戻ってきました。堪忍袋の緒が切れた社長は、B課長を呼び出し、「お前なんか、クビだ。解雇だ」と解雇を言い渡しました。

その1ヶ月後、A社は、B課長の代理人である弁護士から、「解雇は無効です。これまで通り、毎月の給料を支払って下さい」という内容証明郵便を受け取りました。

2 返事をしなかったら、労働審判を起こされた

A社の社長は、弁護士ではない専門家に相談した上、B課長の代理人である弁護士に返事はしませんでした。

そうしているうちに、A社は、B課長から、「従業員の地位にあることを確認する。毎月の給料を支払え」という内容の労働審判を起こされました。

3 裁判官から「いきなり解雇はまずいでしょ」

A社は、労働審判が起こされたので、ようやく弁護士を探して相談に行き、労働審判の代理人になってもらいました。

労働審判において、A社長は、裁判官から「確かに、B課長が働かないことで社内の人たちが苦労していたことはよくわかりました。でも、いきなり解雇はまずいでしょ」と言われ、解雇は無効であることを前提に、それなりの解決金を支払わなければなりませんでした。

そうなんです。いきなり解雇はまずいのです。横領をしたり、悪質なセクハラをした場合などはともかく、「ほとんど働かない」、「就業時間中にゲームをする」、「無断で外出する」といった状況だけでは、注意・指導することなく、いきなり解雇した場合、裁判所においては、その解雇は無効と判断されることが多いのです。

4 問題社員に対する対応の仕方

会社内に「問題社員」がいる会社は多いと思います。問題社員に対しては、いきなり解雇するのではなく、慎重に対応しなければなりません。

会社としては、問題社員に対して、例えば次のような対応をすることが考えられます。

(1)まずは、問題社員に対しても、他の従業員と同様、仕事を与えましょう。仕事を与えないことが「パワハラ」と言われる可能性もありますし、仕事を与えないと、注意・指導をして改善の機会を与えることも出来ません。(2)問題社員が問題行為をしたら、上司がその都度、注意・指導しましょう。但し、大勢の前で上司が怒鳴ると、後に「パワハラ」と言われる可能性がありますので、注意・指導は余り人目に付かない場所で、冷静にする必要があります。(3)問題社員の問題行為やそれに対する注意・指導については、きちんと記録しておきましょう。(4)場合によっては、問題社員自身に問題行為についての報告書等を提出してもらいましょう。(5)問題行為が繰り返される場合には、「指導書」等の文書で注意・指導しましょう。(6)それでも問題行為が繰り返される場合には、軽い懲戒処分(譴責等)をしましょう。(7)その後も、問題行為が繰り返されて初めて、退職勧奨、解雇を検討することになります。

(以上の手順のうち、状況によって、省略できるものもあります)

5 弁護士の活用

上記のとおり、問題社員に対しては、注意・指導を重ね、改善の機会を与える等、慎重に手順を踏むことが必要です。

弁護士は、訴訟や労働審判になってから代理人として活動することはもちろんですが、それ以前の段階から問題社員の対応等のご相談もお受けしています。
訴訟や労働審判等の紛争にならないように、予防的な観点からも弁護士をご活用いただければと思います。お近くの弁護士又は福岡県弁護士会の各地の法律相談センターにご相談下さい。

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