福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年4月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ 講演会に参加して~集団的自衛権って何?~

憲法リレーエッセイ

会 員 栃 木 史 郎(65期)

1 福岡県弁護士会は、2014年(平成26年)2月24日、伊藤塾塾長・日弁連憲法委員会副会長の伊藤真弁護士(東京弁護士会所属)を講師として、「集団的自衛権って何?」との表題での市民向けの講演会を開催しました。

2 伊藤弁護士は、まず民主主義や立憲主義、個人の尊重、平和主義といった憲法の基本原理を解説されました。その上で、国連憲章における集団的自衛権に関する規定の創設過程や、集団的自衛権の法的根拠、集団的自衛権についての政府側見解等について、丁寧に説明されました。
講演会を通して、伊藤弁護士は、自動車のアクセルにあたるのが民主主義であるなら、ブレーキにあたるのが立憲主義であるといった分かりやすいたとえを用いたうえで、濫用の危険性のある権力に縛りをかける立憲主義の重要性を、繰り返し、述べておられました。
講演会の様子を網羅的にご報告したいところではありますが、紙面に限りのあるリレーエッセイでは全てをお伝えすることが叶いませんので、そのごく一部についてのご報告に限らせていただきたいと思います。

3 集団的自衛権は、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利とされます(1981年5月29日政府答弁)。
集団的自衛権の法的性質については、個人の正当防衛と同様に考える立場や、個別的自衛権の共同行使と考える立場等がありますが、そのいずれに対しても法的な見地からの批判がなされています。

4 集団的自衛権に関する従来の政府解釈は一貫しており、憲法9条は、個別的自衛権の行使のみを認めており、集団的自衛権の行使を容認しないとする立場を取っています。
しかし、2014年2月12日衆議院予算委員会での、解釈改憲によって集団的自衛権の行使が可能となるかとの内閣法制局庁長官への質問に対する、「最高の責任者は私だ。」等との安倍内閣総理大臣による発言に代表されるように、昨今、憲法の解釈を変更することにより、集団的自衛権を容認すべきとの見解が見られます。
しかし、伊藤弁護士は、国民の多数の指示があっても、政治家が従わなければならないのが憲法であり、解釈変更による集団的自衛権の行使を容認する立場は、いずれも、国民の多数も過ちを犯すことを前提に国家に縛りをかける立憲主義の発想に反しているとして、批判されました。

5 そもそも、集団的自衛権は、その濫用により平和への脅威となりうる、近隣諸国との緊張を高めるべきではない、行使を認めると敵国やテロの標的となり、かえって、国民が危険にさらされる等の懸念があります。
伊藤弁護士は、解釈変更、憲法改悪を阻止する上で、権力の危険性へのイマジネーション、戦争の悲惨さへのイマジネーション、自分の生活がどう変わるのかのイマジネーションが重要であるという自身の見解を、最後に市民の方々に示されました。

6 講演会でのお話の中で、特に印象に残ったお話があります。それは、ナチス党政権下のドイツにおける国家元帥であった、ヘルマン・ゲーリングの言葉です。「国民を戦争に参加させるのは、常に簡単なことだ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張するだけでいい」。
現在の日本の情勢において、ヘルマン・ゲーリングの言葉は、特別な意味を持っていると感じました。

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