福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年2月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第2回)

月報記事

会 員 八 尋 光 良(54期)

1 月報平成26年1月号より、この弁護士会の月報が弁護士である会員のみならず、市民の方の目に触れる機会が増加してきたことから、対外広報という側面を強化すべく、「弁護士が付いていれば、大事に至らなかった」「当初、弁護士に相談していなかったので、大変なことになった」という事案をご紹介することで、弁護士の必要性を考えていただくコラムを掲載することになりました。

田邊俊先生(53期)にご執筆いただきました第1回に続き、広報委員会副委員長である私が執筆させていただきます。

本コラムでは「事案」をご紹介するということですが、私は弁護士登録して10年と少しの間バタバタ走ってばかりなので、ご依頼いただいたそれぞれの事件の取っ掛かりがどんなものだったかしっかりと記憶できているものの数が少なく、田邊先生のように1つの事案について具体的かつ詳細にご紹介することができません。

そこで、ごく一般的なことをご紹介することとせざるを得ませんことをご容赦ください。

2 さて、最近もご相談を受けて、「1つ大きな問題があります。」と回答差し上げたのが、売掛金の時効の問題でした。

「うちは請求書をずっと送り続けているので、売掛債権は時効にかかっていませんよね。」と相談してこられる方が私の経験上多くおられます。たしかに、請求書の送付(「催告」)は、6か月以内に裁判上の請求等の手続を行えば、債権の消滅時効の進行がストップする、時効中断の効力を生じさせるのですが、逆に言えば、6か月以内にそのような手続を行わなければ時効中断の効力は発生せず、何回請求書を送付しようとも時効が完成してしまいます。

そして、債権の消滅時効期間については民法や商法で規定されていますが、例えば、工事の設計、施工又は管理を業とする者の工事に関する債権は3年間、卸売や小売商人が売却した商品の代金は2年間、運送賃に係る債権は1年間など、債権の発生原因ないし種類に応じて極めて短い消滅時効期間が定められているものもあります。1年や2年という期間は、債権の存否に関して相手方と争っているような場合にはすぐに過ぎ去ってしまう短い期間であると言えると思います。

もしも、もっと早く弁護士にご相談いただいていたら、債権の消滅時効期間が経過する前に確定的に時効中断の効果が発生するよう、裁判上の請求(平たく言えば、裁判所に訴えを提起することです。)を行ったり、売掛の相手方の承認を得るなどの手段を取ることができたはずです。時効は、時間の経過により、0か100かの効果の違いをもたらすものですので、日常的に弁護士に相談いただき、適切な手段を取れるようにしておくことが債権回収の大きな落とし穴に落ちることのないようにするための「転ばぬ先の杖」になると思われます。そして弁護士に日常的に気軽に相談できる状況を作り出すには、弁護士と顧問契約をしていただくのが最適です。お客様の状況に応じて柔軟な対応ができるはずですので、遠慮なくお知り合いの弁護士にご相談いただきたいと思います。

3 なお、売掛金の請求権が消滅時効にかかってしまったと思われる場合でも、相手方が時効を援用(主張)する前に、時効の利益を放棄した場合には、以降時効を援用することはできなくなるなど、債権回収の途が完全に消滅することにはなりません。そこで、このような場合にも躊躇せず弁護士に相談されますようお願い致します。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー