福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年2月号 月報

給費制本部だより 給費制が問いかけるもの ~法曹は誰のものか~

月報記事

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 本部長代行
市 丸 信 敏(35期)

司法修習第66期生ほか新入会員の皆さん、ようこそ福岡県弁護士会にご入会を頂きました。本稿では、皆さんに司法修習生の給費制の復活のための運動についてご理解と今後のご協力を頂きたく筆を執りました。(なお、最近の運動や動きの詳細については、昨年5月以降の毎月の月報「給費制本部だより」をご参照下さい。)

1 給費制運動の系譜

福岡県弁護士会では、とりわけこの4年来、司法修習生の給費制の存続・復活のための運動に大変な力を注いで来ています。もちろん、日弁連や全国の弁護士会とも連携した運動としてです。

今次の司法改革の結果、司法試験合格者の大幅増員、多額の司法改革関連予算の支出などの理由によって、日弁連の反対にも拘わらず、平成16年に給費制廃止・貸与制への移行が決められました。本来は平成22年11月(新64期生)から貸与制となるはずでしたが、平成22年度における日弁連や全国弁護士会の熱烈な存続運動の結果、暫定的に貸与制実施を1年先送りし、その間に修習生の経済的支援問題を再検討すべしとする成果(議員立法による裁判所法一部改正)を得ました。

しかし、その翌春に発生した東日本大震災という特殊事情もたぶんに影響したと考えられますが、平成23年8月には、「法曹の養成に関するフォーラム」(H23.5~H24.5)において、給費制の存続を主張する日弁連はほとんど孤立したに等しい状況で貸与制を是認する意見が圧倒し、ついに同年11月(新65期生)から貸与制が実施されてしまった次第です。すでに貸与制のもとでの修習生は3期目を迎えています。

しかし、日弁連や全国の弁護士会はなお諦めず、フォーラム後継組織としての「法曹養成制度検討会議」(H24.8~H25.6)では、経済的理由によって法曹への道を断念する人が少なからず生じるなどの不都合が現に露わになってきていること、貸与制の下で修習生は過酷な経済生活を余儀なくされていること等々を、修習生アンケート結果その他のデータで訴えるなど懸命の巻き返しを図りました。その結果、給費制を支持する数名の有識者意見を引き出すほか、従前の貸与制是認の有識者委員からも、この(貸与制)ままではいけない、修習生に対するさらなる経済的支援が検討されるべき、との多くの声を引き出すことができました。ただ、残念ながら、検討会議のとりまとめにおける具体的方策としては、67期生から、移転料の支給、集合修習時の入寮の保障、修習専念義務の緩和(アルバイトの部分的容認)が実施されることになったなど、期待はずれに止まっていることもご承知の通りです(アルバイトの容認は本末転倒であると、日弁連は安易な専念義務の緩和に反対しています)。

2 給費制運動の展望

給費制については、あれほど力を入れて全国運動を展開し、その後2度にわたる政府審議会での検討の機会がありながら、やっぱり給費制の存続(復活)は無理だったか、とすでに諦めておられる会員も少なくないように感じます。しかし、まだまだ簡単に諦める訳には参りません。なぜなら、

(1) 検討会議では、佐々木毅座長自ら、後継の新たな検討体制で経済的支援問題を引き続き検討するように要望するとの発言を特別に残されたことからも伺えますが、上記の微々たる3点の措置も、法改正の手当をせずとも可能な応急的措置として講じるものであると理解されているのです。つまり、経済的支援の問題は後継の新たな検討組織での引き続きの検討課題であることが検討会議委員の共通認識とされ、その取りまとめでも、司法修習の充実方策を検討する上で必要に応じて修習生の地位のあり方やその関連措置を検討すべきことが明記されています。

(2) 確かに、国家財政の危機的状況の下で依然として財務省の壁は厚く高く、新たな検討組織である内閣官房の「法曹養成制度改革推進室」(H25.9~)でも官僚側の抵抗は根強く、また法曹養成制度の改革について解決が先送りされ推進室で取り組む課題も多く、修習生の経済的支援問題を俎上に載せること自体が簡単ではない現状です。しかし、推進室に対して意見を述べる立場の「法曹養成制度改革顧問会議」では、給費制復活の意見が出るほか、修習生の経済的支援問題を引き続き検討するという点では意見が一致しています。この問題は、司法修習の充実方策、法曹人口(司法試験合格人数)の見直し問題、法科大学院制度の改革問題など、目下、具体的方策が検討されつつある法曹養成制度改革の各論点とも密接な関係を有しており、今後、それらとの相互関係で貸与制の見直しが図られる余地が残されています。

(3) もっとも、すでに若者の法曹離れは著しく、その大きな原因の一つに過重な経済的負担問題がある以上、修習生に対する経済的支援問題の解決は急がなくてはなりません。その意味で、一昨年政権与党に復帰した自民党と公明党に、それぞれこの問題について積極意見が少なくなく、かつ、ダイナミックに早期の解決を期していることは追い風とも言えます。自民党(司法制度調査会)は、昨年6月の中間提言で、給費制については賛否両論があるとしつつも、司法修習の位置づけや修習生の地位のあり方を再検討し、修習生の過度な負担の軽減、経済的支援のあり方について早急に対策を講ずべきとして、政府や最高裁に対して6ヶ月以内の検討・報告を求めました。そのうえで、昨年11月には、政府の検討が不十分であると指摘したうえ、本年3月頃にも同党司法制度調査会の最終提言をとりまとめるとしています。公明党も、少なくとも研修医に準じた経済的支援が必要で、公務員の研修日額旅費制度に準じて給付をすべきとの考え方です。これら与党の動きや考え方は、当然、推進室や顧問会議などにも少しずつ影響を及ぼしつつあるように伺えます。

(4) 以上のような次第ですから、決して、諦めないで下さい。まだまだ巻き返しのチャンスはあります。以上の情勢に鑑みると、むしろ今こそ頑張り時と言えます。国会議員にも、与野党を問わず、給費制の意義を理解し、熱心に支援してくれている人は沢山おり、また、仮に賛同的ではない議員にも繰り返し要請し意義を伝えることで徐々に理解者は増えています。肝心の私たちが諦めてしまっては、何にもなりません。情熱と気概を持って、正しいことのためには粘りに粘る、との強い気持ちで取り組みを続け、政府や推進室・顧問会議に、また、国会議員にと、声を届け続けなければなりません。

3 給費制運動の根源で問われていること

この4年間、当会の歴代執行部と給費制本部は、会員の皆さんともども、街頭に立ってマイクを持ち、ビラ配り・署名集めを続け、市民集会・パレードを繰り返す等して、この問題の重要性を訴え、市民の皆さんの理解・支持をお願いしてきました。国会議員や諸団体に対しても、幾度も要請活動を繰り返して来て、今も続けています。国(財務省)の、「もはや国民的理解が得られない」との理屈が正しくないことを、圧倒的な国民的支持の広がりをもって示さなければなりません。

ですが、実際、運動の中で、市民の皆さんからよく尋ねられることに「どうして修習生は給与を貰える(貰えていた)のですか。資格はたくさんあるのに、修習生が特別扱いを受けるのはどうしてなのですか。」との素朴な問いかけがあります。市民の方と話すとき、正直、そこの説明が一番難しく感じるところですが、さて、皆さんなら、どのようにお答えになりますか。

私自身は、嬉しいことに、この運動を通じて、当会は、多くの先達を含む会員諸氏による熱心な会務活動、幅広い公益活動の歴史と日頃の弁護士業務のあり方によって、広く市民からの理解、支持を得ることができていることを実感することができました。ただ、残念なことに、当会ではこのところ大型不祥事も相次ぎ、手厳しい批判に晒され、信頼が揺らぎました。今後、会員数はいよいよ増大して、業務のビジネス傾斜的傾向は一層顕著になることが避けられないでしょう。

私たちは、これからもずっと市民の皆さんからの信頼と支持を寄せ続けて頂き、この給費制の復活を実現させるためには、不断に、どのようにあらねばならないのでしょうか。

ともに頑張って参りましょう。

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