福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年12月号 月報

裁判員本部だより

月報記事

会 員 髙 木 士 郎(64期)

1 はじめに

新64期の髙木士郎です。弁護士2年目にしてはじめて裁判員裁判対象事件を担当することとなりました。マスコミ対応が必要な重大事件で、被害者参加もありと、盛り沢山の事案でしたが、共同受任の先生との二人三脚のおかげで何とか無事に終えることができましたので、ご報告がてら振り返ってみたいと思います。

2 受任、公判前整理手続

朝のニュースで殺人事件発生との報道を見て、何か予感めいたものを感じていましたが、夕方、裁判所から事務所に戻ってみると、当番弁護士の出動要請に新聞記事のコピーが添えてありました。接見してみると、被告人は、憔悴しきった様子ではあるものの話はできましたので、事実関係を確認したところで腹をくくって受任することを伝えました。マスコミ関係者らしき人たちの間をこっそりすり抜け、警察署出入り口を出たところですぐに、先輩弁護士に共同受任をお願いする泣きの電話を入れたところ快諾!ようやくほっとしました。

起訴後、公判前整理手続が実施され、検察側から予定主張が示されたのですが、殺人事件であるにもかかわらず、殺人の実行行為部分の主張が抽象的にしか記載されていませんでした。争点となるべき実行行為の部分の主張が抽象的だと、被告人の防御活動も十分なものにならない可能性があると考えたため、弁護人としての予定主張は詳しめにして、積極的に争点の整理を求めていく方針で臨みました。7回の期日を経て、争点は大きく分けて2つに絞られることになりました。

3 いざ!公判

公判では、本件がどのような事件であるかを端的に裁判員に伝えるために、事件を表現したワンフレーズを冒頭陳述の最初に持ってくること、そのワンフレーズの中に争点についてのキーワードを混ぜ、そのキーワードについて語っていく中で、審理において注目してほしい点を示していく、という方針で冒頭陳述、及び冒頭陳述メモを準備することにしました。と、文字にするとわずかですが、この準備のためにかなりの時間をかけて何度も打ち合わせをすることになりました。

また、情報量を盛り込みすぎると裁判員にはかえって弁護人の意図が伝わりにくくなると考えたことから、メモはA4で1枚とし冒頭陳述に注目してもらうために後から配布する、冒頭陳述の時間は10分以内に収め、手持ち原稿なしで裁判員一人一人とアイコンタクトを行いながら行うこととしました。

尋問、特に被告人質問については、裁判員に尋問に食い付いてもらうため、あえて時系列に沿った形ではなく、最初に事件の核心部分についての事実から聞いたうえで、事件に対する被告人の想いを語ってもらい、その後事件の背景事情を聞いていく、という構成としました。

弁論についても、冒頭陳述と同様、コンパクトにまとめて伝える方針のもと、争点について、公判で明らかになった事実を対応させながら、弁護人の考えるところを伝えていくという形で行いました。論告において検察官が2つの争点のうち1つを撤回するという事態となったため、弁論の中でそれに対応させていかなければならなくなってしまいましたが、なんとか大崩れすることなく、弁護人の考えを伝えることができたのではないかと思います。

4 裁判を終えて

結局、判決はかなりの長期の懲役刑となりました。弁護人としてはもう少し短い刑となることを期待していましたので、その点では残念です。

また、本件は被害者の遺族が被害者参加をされ、代理人による被告人質問や参加人による意見陳述が行われました。意見陳述の間は、傍聴席からすすり泣きが聞こえるなど、弁護人からすれば「厳しい」雰囲気の公判廷となっていたように思います。そのような雰囲気をも乗り越える様な弁護活動ができたのかといえば、まだまだだったなと思うところです。

初めての裁判員裁判ということで感じたことは、裁判官が補充尋問をかなりの時間をかけて行うなど、裁判員にとってのわかりやすさ、を重視した訴訟進行が行われるのだ、ということでした。そのような進行となることは予想していましたが、その徹底ぶりは想定以上でした。裁判官のリードが過ぎると評議に影響が出るのではないか、と思うところもありましたが、裁判後の三者での反省会で聞くところによると、評議では活発な議論が行われた、ということでしたので、わかりやすさ重視の訴訟進行の成果が出たのだと思います。

こうして裁判を振り返ってみると、弁護人としては決して満足のいく結果であったとは言い難いところですが、裁判員に対するアンケートでは、弁護人の説明が「わかりやすかった」という意見がほとんどであったことにはほっとしています。
準備は大変でしたが、今回の裁判員裁判を通して多くのことを学ぶことができたように思います。今回学んだことを、来るべき次の機会に活かしていきたいと思います。

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