福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年11月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆なぜ、今「国防軍」なのか?

憲法リレーエッセイ

会 員 永 尾 廣 久(26期)

広島での人権擁護大会

私は弁護士になって以来、毎年の人権擁護大会にほとんど参加している(ひょっとしたら欠かしたことがないかもしれない)。

これは大会前日のシンポジウムが大変ためになる内容だということ、そして大会当日は付近の散策やちょっとした観光ができる楽しみがあるのも大きな理由となっている。

昨年は佐賀市内で、今年は広島で開かれた。場所は原爆資料館の隣にある国際会議場である。今回は、ほとんど観光気分はなかった。なにしろ、久しぶりにシンポ実行委員長になったから、責任重大。しかも、テーマは「国防軍」。これは難しい。政治的に重大焦点になっているテーマについて、さまざまな思想・信条をもつ弁護士の強制加入団体としての日弁連がどのような切り口でアプローチするのか、毎回の実行委員会は議論百出だった。

実行委員会の課題は三つある。一つは、シンポジウムの翌日に開かれる人権擁護大会で審議の対象となる宣言・決議の案文をつくって日弁連理事会に提起すること、二つにはシンポジウムの討議資料としての基調報告書を作成すること、三つにはシンポジウム当日のパネリストの選定と討議テーマの確定である。

これら三つを、実は12月に発足して翌年4月までにはほぼ確定させる必要がある。実行委員会そのものは毎月1回のペースでしか開かれないので、3回か4回の討議で、すぐに方向を出して起案にとりかかる必要がある。そのうえ、必要なら現地調査や関係者へのヒアリングも実施する必要がある。これは、なかなか大変な作業になる。

今回も、先の三つがなんとか確定したのは4月ころだった。


異色のパネリストの発掘・組み合せ

パネリストの選定にあたっては、それなりに知名度があって、ごくフツーの弁護士が、この人の話なら聞いてみたいなという人であることが望ましいことは言うまでもない。ただ、日弁連は薄謝しか出せないという内部の申し合わせがあり、高額ギャラのタレントはほとんど招くことができない。

今回の目玉となったパネリストは経済学者の浜矩子教授。マスコミで辛口コメントをするので著名だ。浜教授は日本企業が海外進出するために日本軍が必要だという考えは間違っていると断言する。言われてみれば、なるほどと思う。企業は人間の生活を豊かにするためにこそ存在意義があるものであって、平和な生活を脅かす企業の存在を許してならないことは自明の理ある。

シンポジウム当日、浜教授は今日の世界は「グローバル・ジャングル」化していると指摘した。ジャングルというと、真っ先にライオンをイメージする。弱いものは強いものに食われてしまうという弱肉強食の世界だ。しかし、果たして、本当にそうなのか。ライオンが弱いものを食い尽くしてしまえば、ライオン自体の存在がありえなくなる。実は、ジャングルというのは、弱いものも強いものとともに生きている、共生の社会なのだ。弱い者を大切にしない社会は強い者も生きていけなくなることを私たちは自覚すべきである。このような浜教授の指摘には、はっとさせられた。

また、浜教授は「メイド・イン・ジャパン」といっても、実は、素材や部品あるいは組み立てが外国でなされているというのが当たり前になった。つまり、ボーダーレス、国境がなくなってしまった世界にいま私たちは生活している。他国を「鬼」として排除する論理では生きていけない現実がある。となると、このように相互依存関係にあることを自覚するしかない、このように強調した。これまた、目が洗われた思いがした。


「日の丸」で守られている自衛隊

日本の自衛隊は世界6位の軍事費を使い、装備・能力・人員ともに世界有数の軍隊になっている。そして、イラクやアフリカなどへ強力な武器・装甲車をもって海外展開している。かつてなら考えられない事態だ。

といっても、自衛隊が海外でしているのは戦闘行為ではない。病院の再建などの人道支援活動である。

また、自衛隊はイラク(サマワ)では、オランダ軍に守ってもらっていた。砂漠でも目立つカーキ色の服装であり、胸など身体の4ヶ所に日の丸をつけ、装甲車にも大きく日の丸をつけたうえ、漢字まで車体に描いて、日本の自衛隊であることを誇示している。これは、武力の行使を禁止している憲法9条の縛りがあるからである。そのおかげで、日本の自衛隊は戦場で人を殺すことがないし、殺されることもない。そして、人道支援活動によって世界から高く評価されている。

自民党の改憲草案のように武力行使ができるようになった「国防軍」は、いまの自衛隊とは根本的に違った「戦う軍隊」になってしまう。軍事秘密保護法、軍事審判所(軍法会議)、緊急事態条項(基本的人権の制約)など、軍事優先の社会に日本が大きく変わってしまうだろう。このような改憲は許されない。

日本を中国や北朝鮮の「脅威」からどうやって守るのかという声に対しては、日本の自衛隊の実力をふまえて、冷静に考えることをすすめたい。「脅威」をあおる人がいて、マスコミの一部が騒いでいるのは間違いない。しかし、今や国家間の戦争は考えられない。局所的紛争の解決、そのようなことが起きないような地道な平和的外交努力こそが求められている。


映像と爆音の再現

今回のシンポジウムで圧巻だったのは、厚木基地近くの民家のある地域における爆音を再現したこと。これはアメリカ軍の艦載機の爆音であるが、その耳をつんざくような大爆音に会場内は圧倒された。この爆音を聞きながら、日本は本当に独立国家なのかと私は根本的な疑問を感じた。

シンポジウムでは映像も活用した。伊藤真弁護士作成によるパワーポイントは、いつものことながら、すっきり改憲論の問題点を理解できるものだった。

そして、ビデオレター。各界の人々が5分程度で、自分の体験をもとに自民党改憲草案の問題点を熱く語ってくれた。そして特筆すべきは冒頭に流れた「憲法って何だろう」という映像。これは可愛らしい絵で、本当に子ども目線で憲法の意味を語りかけてくれるもので、ソフトな声に魅了された。


終わりに・・・

そんなわけで、昼12時半から夕方6時まで、6時間近いシンポジウムであったが、とても充実していて、居眠りする人もほとんどなく、終わってしまえば、あっという間だった。
とはいうものの、6時間近いシンポジウムのまとめを6分でやれという私の使命をこなすのは大変ではあった。幸い、それも好評のうちに終わることができた。

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