福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年8月号 月報

日弁連刑弁センターだより

月報記事

会 員 丸 山 和 大(56期)

6月7日、8日の二日間にわたり日弁連刑弁センター全体会議が開催されました。同会議の議題のうち、実務上重要と思われる二点についてご報告します。

1 取調べDVDの実質証拠化について

捜査機関の取調べについて、その全過程を録画・録音して可視化しようとする動きが、法制審特別部会「新時代の刑事司法制度特別部会」でようやく実現する機運が高まっていることは周知のことと思われます(もっとも、捜査機関側の委員は未だに「捜査官の裁量」論を唱えており、予断を許しません。)。

そのような中、可視化の成果物である「取調べDVD」について、これを自白調書に代えて請求するなどして積極的に罪体立証に使用しようとする動きが検察庁にあります。

かかる「取調べDVDの実質証拠化」の動きについては、「法廷のビデオ上映会化」を招くなどとして裁判所は否定的な立場に立っていると解されていましたが、最近になって、裁判所が取調べDVDを実質証拠として採用した事例が複数報告されるようになりました。

取調べDVDの実質証拠としての証拠能力については、これを認めるのが現在の多数説(伝聞証拠にあたらず刑訴法322条の要件を要しないとする説。ちなみに、個人的には、取調べDVDに実質証拠としての証拠能力を認めない説が妥当であると考えています。)と思われ、現行法上、法廷顕出を妨げることは困難な状況です。

従って、実務にあたる弁護人としては、将来の公判において、取調べDVDが実質証拠として請求されることを見越して捜査弁護にあたる必要があります。

なお、取調べDVDの実質証拠化に対応する弁護手法については、10月22日に予定されている日弁連ライブ研修において検討が行われる予定ですので、ぜひご聴講ください。

2 拘置所弁護士待合室における携帯電話の預け入れについて

拘置所による、接見室における写真撮影に対する接見妨害についての全国的状況については、本誌2月号の田邉国賠訴訟の紹介記事においても触れたところです。

拘置所による接見妨害に関して、もう一つ全国的に顕在化している問題が、拘置所による、弁護人の接見室内への携帯電話の持込みに対する妨害です。

福岡拘置所においても、接見室に携帯電話を持ち込むことは出来ません、ロッカーに預けて下さい、という趣旨の張り紙が掲示してあり、これ見よがしにロッカーが備え付けられていることはご存知のことと思います。

そして、実際に、拘置所職員から「携帯電話はロッカーの中に入れて下さい」と声を掛けられ、預け入れている弁護人の方々も散見されます。

しかし、拘置所が、弁護人に対し、ロッカーに携帯電話を預け入れることを強制する法的根拠はありません(もっとも、拘置所側は、「刑事収容施設・処遇法は拘置所の「施設管理権」の存在を前提としており、かかる施設管理権に基づいて持込を禁止することができる」、と主張するようです。あるいは、「被疑者の外部交通の規制のために弁護人の携帯電話の持込を禁止することができる」、とも主張するようです。)。

従って、携帯電話をロッカーに預け入れるか否かの判断は弁護人に委ねられており、携帯電話をロッカーに預け入れるにせよ、それは弁護人の自発的意思に基づいてなされなければならない、という点に留意する必要があります。

些細なことかもしれませんが、このような些細な点から国による接見妨害が始まり、そこから接見妨害の範囲が拡大されていく危険性があることに注意を払う必要があります。 なお、接見における電子通信機器の使用に関しては、接見の補助手段として使用することは許され、秘密交通権の保障が及ぶ、とする研究者の論文も発表されているところですのでご参照ください(葛野尋之「弁護人接見の電子的記録と接見時の電子通信機器の使用」季刊刑事弁護72号)。

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