福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2011年7月号 月報

災害地の現場から

月報記事

会 員 佐 藤 力(60期)

1 未曾有の大災害
平成23年3月11日、我が国を未曾有の大災害が襲いました。報道によると平成23年6月5日現在の死者は1万5365人、行方不明者は8206人で、約9万8500人の方が避難所生活を強いられています。
私の出身地である茨城県の(現在は潮来市)は、もともと干拓地のため今回の震災で、両親の住む実家の敷地も含め町全体が液状化、地盤沈下の被害を受けました。しかも、かつてゼロワン地域と呼ばれる司法過疎地域でもあったため、地元の先生方と連絡をとり、Jリーグチームになぞらえて「アントラーズ・ホームタウン・協力弁護士ネット」を立ち上げ、弁護士として地元をサポートすることを開始しました。
2 被災地へ
震災から二ヶ月近くが経過し、ライフラインが復旧しはじめたことから、福岡に避難していた両親も帰宅することになり、併せて私も地元に出向くことになりました。事前に避難所を担当している部署に確認したところ「法律相談の案内はしましたが、どなたも相談はない、とのことでした」という回答でした。とはいえ、たとえゼロであっても話をするだけでも意味がある、と思い、5月5日、6日に避難所や自治体に出向くことにしました。避難所は、当初300名から10数名に避難者が減少していましたが、せっかくなので避難者の女性に話しかけてみました。
私が、「こんにちは。私はこの地域出身の弁護士です。今日は九州から来ました。」と、挨拶すると、女性は「弁護士さんに頼むようなことはないけどね。ははは」ということでした。そこで、世間話のつもりで「お住まいはどのような状況ですか」と質問すると、避難者の方は「アパートに住んでんだけどさ。ドアが壊れて入れないから住めないのよ。それでも大家は家賃を下げてくれなくて、毎月払わされてるのよ。」という話をされたのです。私は驚きました。避難者の方は法律的な被害を受けているにもかかわらず、そのことに気づいてさえもいないのです。ただでさえ弁護士のいない地域ですから、これでは相談など来るはずもありません。そこで私の方から、「お仕事は」「お住まいは」「ご家族の状況は」と質問すると、不動産トラブル、雇用問題(便乗解雇、派遣切り)、消費者トラブル、保険など、次から次へと法律問題が山のように出てきたのです。
私は近隣自治体(潮来市、、神栖市、、鹿嶋市)をすぐに訪問し、市民への法教育、情報提供の必要性を訴え、各地の広報誌などに「震災における法律問題Q&A」を連載すること、今後地域フェスタなどで法律に関する講演会をボランティアで行うことで合意することになりました。 3 弁護士が手を差し伸べることの意味
久しぶりの故郷を歩いて見ると、さながらパニック映画のように変わり果てた街の姿に驚いて言葉を失いました。これだけの被害を受けていながら、まだ多くの人々が弁護士のサポートを受けられることに気づいてさえもいないのです。
私は法テラスのスタッフ弁護士として高齢者、障がい者、ホームレス、外国人の方の事件を常時50~60件ほど抱えていますが、この仕事を通して「本当に困っている人は、無料法律相談にさえもたどりつくことができない。」ということを何度も痛感させられました。私たちが手を差し伸べなければ救われない人たちは、まだまだたくさんいるのです。そして、実際に被災地に出向くことで、この思いが一層強くなった気がします。
被災地での経験を生かして、福岡市に対して「私たちが避難者に手を差し伸べてはどうでしょうか」と申し入れたところ、早速避難者を対象に避難者の集いが始まることになり、弁護士もアドバイザー参加が認められました。 被災地の現場で学んだこと、それは弁護士が手を差し伸べることの重要性ではないかと思います。今後も出来る限り地域の人々の支援に取り組んでいきたいと思います。
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