福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2008年5月号 月報

中小企業のためのシンポジウム報告

月報記事

会員 石井 謙一(59期)

1 本年3月8日、日本弁護士連合会との共催で、NTT夢天神ホール及びエルガーラホールにて、中小企業のためのシンポジウム及び無料法律相談会を実施しました。
シンポジウムは基調講演とパネルディスカッションという2部構成とし、基調講演は、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で企業再建弁護士として取り上げられた東京弁護士会の村松謙一先生にお願いしました。

2 村松先生のご講演は、まさに目からウロコのすばらしいお話でした。
また、法律の専門家でなくても十分に理解できるような分かりやすいお話で、かつ、中小企業経営者の方々にとっては、たいへん勇気づけられる内容のご講演だったと思います。
まさに「中小企業のための」シンポジウムにふさわしいご講演でした。
このすばらしいご講演を、たった30名の方にしかお聞かせできなかったことは、残念で仕方ありません(この点は担当委員である私の初動が遅く、広報が不十分だったことによるもので、反省しきりです。)。
私がご紹介するとそのすばらしさが十分にお伝えできないかもしれませんが、以下簡単にご紹介させていただきます。

3 皆さんは、「絶対に企業をつぶしてはいけない」と考えたことがおありでしょうか。
私はありません。多くの方も考えられたことはないのではないかと想像します。
しかし、村松先生は、「絶対に企業をつぶしてはいけない」、という信念をもっておられます。
こう書くと、「そんな無茶な。」と思われる方も多くおられるでしょう。
しかし、村松先生のお話を聞いておられれば、同じ気持ちになられたと思います。
村松先生は、もともと東京で勤務弁護士として倒産関係の仕事をしておられましたが、その際、相談を受けていた中小企業経営者が企業の存続が難しいと知り、取引先に対する罪悪感から自ら命を断ってしまうという事件が起こりました。
この事件から、村松先生は、企業を守ることは人の命を守ることであると思い至られました。
当然、企業の倒産のたびに経営者が自殺するわけではありません。
しかし、我々は、このような視点を忘れているのではないでしょうか。村松先生のお話を聞いて、私は、企業の倒産事件を処理するとき、経営者にとって企業がどれほど大切なものか考えたことがほとんどないことに気づきました。安易に、事業の継続は無理だと決めつけ、破産することを勧めてきたように思います。
私は、これからは、村松先生の言葉を思い出しながら相談に臨もうと思っています。「弁護士の仕事は人を護る仕事です。だから絶対に見捨てない。」

4 では、その信念をもってどうやって企業を守るのか。
企業再建の手法についてのお話は我々弁護士にとってはとても参考になるものでした。
詳しくはここでは触れませんが、一部ご紹介させていただきますと、法的手続を利用しない場合の考え方として、銀行と取引先を分けて考えるというお話が印象的でした。取引先は従来どおり支払を続け、銀行からの借入についてのみ、延長の申し入れや減額の申し入れをするのです。
村松先生のご経験では、銀行は銀行間での平等な取り扱いさえ徹底すれば、銀行のみを対象とする債務整理にも協力してくれるとのことで、今後の実務の参考にしようと思いました。

5 中小企業経営者の方々にとっても、様々な企業再建の手法があり、危機に陥っても心配することはないという村松先生のお話は、とても勇気づけられるものだったのではないでしょうか。

6 後半のパネルディスカッションは、村松先生、福岡商工会議所の経営支援部長の三角薫さん、中小企業基盤整備機構の事業承継コーディネーターをされている中小企業診断士の薗田恭久さん、当会の柳沢賢二先生にパネリストとしてご参加いただき、「中小企業の課題と未来」と題して行いました。
ここでは、主に福岡商工会議所と中小企業基盤整備機構が中小企業支援のためにどのような取り組みをされているのか、ということが紹介されました。
中小企業経営者の方々がこれら支援の取り組みにアクセスされるきっかけとなったのではないかと思います。

7 終了後のアンケートでは、ほとんどの方から「大変役に立った」とのご回答をいただくことができました。今後も今回のような企画を実施してほしいという声も寄せられています。
担当者の打ち上げのときも、とてもいいものになった、参加者が少ないのが残念だったという話になりました。
担当委員は、もう一度村松先生に来ていただきたいという希望を強く持っていますので、もしかしたら、また福岡で講演が実施されるかもしれません。
その際は、是非ご参加されることをお勧めします。

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