福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2008年2月28日

憲法リレーエッセイ 第8回民主主義の学校−市民オンブズマンの活動をとおして

憲法リレーエッセイ

弁護士 我那覇東子(50期)

憲法リレーエッセイの原稿依頼の際、正直困りました。そんな!「憲法」なんて難しいことは書けないし、しかも、エッセイにしなきゃならないなんて・・とても私の能力を超えている・・弁護士でさえこんな発想に陥ってしまうのが「憲法」という崇高な存在です。でも、よくよく考えてみれば、憲法は私達の生活に意外と密着しているわけでして、平和問題だけでなく、福祉や貧困、両性平等、労働問題、教育問題、刑事事件・・そっか!と初心に返って苦〜い司法試験時代を思い出し・・思い出に浸ってはや数日が経過(あぁ時が流れるのは早いなぁ〜)。これではいつまでたっても原稿はできないし・・汗

私は平成10年から市民オンブズマンのメンバーの1人として活動をしてきました。

ご存知のとおりオンブズマン制度の由来は北欧スエーデンから火のついたものです。従来の行政救済制度では十分に確保できない処置を行うことで公正・適正な行政を実施し国民の行政に対する信頼性を確保することを任務とする制度です。日本でもその名称はともあれ、オンブズマンは全国に多数存在しています。全国市民オンブズマン連絡会議が全国の活動を取りまとめてランキングし、毎年各地持ち回りで大会を開催して報告と勉強をかねています。しかも毎年のランキングはマスコミでも大きく報道されています。

やはりどこのオンブズマンでもその活動の根幹となっているのは、情報公開とそれを前提にした税金の無駄遣い監視活動、そして、行政訴訟の3本柱ということになります。平成8年ころからは行政の「食糧費」=本来は行政の会議などで支出される弁当・茶菓代、という支出名目で全国的に官官接待の横行が暴露され始めた時期で、連日マスコミをにぎわせていました。明らかに法目的外の桁外れた飲食接待がおこなわれていたことに憤慨した市民らが各地で監査請求と行政裁判を起こし始めたのです。例にもれず、私もその監査請求と行政裁判を手がけました(最高裁で確定)。市民の批判を受け、行政の支出基準が明確化され、情報公開も進んだため、驚くほど無駄遣いは減りました(ちなみに北九州でもかつて億単位で支出されていた食糧費が、数百万単位にまで減少しました)。全国的にもかなり正常化された経過をたどり、市民の素朴な疑問と執念と運動のたまものだと実感します。

いつも活動してて圧倒されるのは、市民の方々の常識感覚とそのパワーです。「高級料亭で何の会議すると?」「なんで守秘義務ある会議をクラブやパブでするわけ?」「大量に酒を飲んで真面目な議論ができるのかい?」「私達が納めた税金がどう使われているかなんで説明しないの?」至極ごもっともでございます・・弁護士は市民のパワーに圧倒されて行政裁判まで起こすことになるのですが、言うは安しでこれまた何年も費やすわけです。最高裁までいく事件も多く、10年以上かかって未決着の訴訟もあります。

地方自治はよく民主主義の学校といわれていますが、住民自治を貫くためには、そもそも行政がどのような活動をしているのかの情報を開示して市民に説明しなければなりません。しかし、その実態は非開示で不明瞭な点があまりにも多いのです。情報がなければ、税金の使途をチェックすることが難しくなってきますが、そうなると市民と行政・議会との信頼関係は揺らいでいくことになります。最近マスコミをにぎわせている議員の政務調査費。議員が市政活動に資するための費用として税金から支出される金員です(ちなみに北九州市では年間約3億円、議員1人あたり月38万円)。

全国的にその使途が問題として挙がっているのをみると、個人の旅行代、屋形船、スナック、カラオケ、焼肉、ハウスクリーニング、DVD、ホットプレート、ipod、デジカメ、カーローン・・(これ以上は割愛)う〜ん・・これではまるでお小遣いではないですか!当然ながら市民は納得しません。使途を明らかにしてその領収書を添付する声が高くなってきました。奇しくも国政では政治資金規正法との絡みで同じような事態となっていますが、よくよく考えてみれば、私達の税金を預かる以上、至極ごもっともなわけでして、これも市民の常識とパワーのたまものです。

弁護士稼業は法律と実態の狭間で悩むことが多いですが、さらにこのての活動は市民パワーに後押しされつつ世論形成(運動)する楽しみと苦しみ!?があるわけです。何年もかけて最高裁まで行くことも、市民の方が一緒ならなんだかそれまでの長〜い道のりも楽しいものになるわけです♪

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