福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2005年11月号 月報

当番弁護士日誌

月報記事

西村 浩二

一 はじめに

最近、当番弁護士で担当した強姦被疑事件において、起訴前に示談を成立させることができ、被害者の方に告訴を取り消していただいたケースを経験しました。

これについて月報で報告して欲しいとの依頼を受けましたので、その経過を御報告します。

二 出動当時の状況

被疑者の要請により、勾留場所に出動して接見したところ、被疑事実には争いがないようでしたので、当初から被害者との間で示談ができるかどうかが弁護活動の焦点でした。

出動翌日、被疑者の両親に状況を確認すると、被疑者の両親も独自に、被害者と示談できれば、と考えていたようでしたが、連絡先を警察に尋ねても教えてもらえなかったそうです。当初被害者の方は、示談交渉も含めて一切被疑者やその関係者とは関わりたくないと申告していらっしゃったようでした。

そこで、当職から検察官に連絡を取りましたが、検事調べが終わるまで被害者との接触は控えてほしい、勾留は延長予定、とのことでしたので、検事調べまで我慢して待つことにしました。

被疑者の両親には、示談が可能な状況になり次第、ある程度支払いができるように準備しておいてほしいと言っておきました。

三 勾留満期までの被害者との交渉経過

第一回目の勾留満期の前日に検察官から被害者の連絡先を教えてもらうことができ、早速電話しました。

しかしこのころ、被害者の方は、特に感情をぶつけるという感じではなかったものの、とにかく被疑者には少しでも長く刑務所に入っていてもらいたい、今は示談はしたくないとのご方針で、金額面の交渉にすら入ることができず、結局二回目の勾留満期までに検察官とも連絡を取りながら電話で五回、直接の面談で一回、被害者と交渉しましたが、全く進展はなく、この時点では示談はできませんでした。

四 勾留満期後の交渉

このような経過で、起訴は免れないだろうと思っていました。

ところが、勾留満期日になって検察官から、とりあえず処分保留のままで釈放することにしたとの電話がありました。

これを聞いて私も驚きましたが、再び示談の機会ができたと考えることにしました。

そこで早速被害者の方に連絡を取りましたが、被害者の方も処分保留に驚いており、考えがまとまるまで示談の話はしたくないとのことでした。

そこで数日後に再び連絡を取りましたが、被害者の方は、釈放後しばらくは、処分が軽くなるのであればやはり示談には応じたくないという感じでした。

しかし、そうして何度か交渉を重ねるうちに、当方の説明を理解していただき、次第に納得できる額であれば示談に応じるという姿勢に変化され、金額の交渉に移ることができました。

交渉が金額面に移った後は割合すんなりと話がまとまり、結局当方が被疑者の精一杯の誠意ということで提示した額に対し、「それが本当に精一杯ということであれば受け入れる」との御回答をいただきました。

終わってみれば、勾留満期の釈放後約一か月の間に七回の交渉を要しましたが、ようやく示談にこぎ着け、告訴を取り消して頂くことができました。

五 その後の経過とまとめ

示談金は一括では支払えず分割払いにしていたので、若干不安はあったのですが、結局、予定よりも繰り上げて完済することができ、ホッとしたのを覚えています(ボス弁のアドバイスにより被疑者の父親(会社員)を連帯保証人としていました)。

それにしても、やや特殊な経過を辿った事件であったと思います。処分保留となった事情までは詳しく記載できませんので消化不良気味なレポートになってしまいましたが、貴重な経験でした。

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