福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2003年2月号 月報

動き出した「福岡県弁護士会紛争解決センター」

月報記事

芦塚増美

平成14年12月20日に福岡県弁護士会紛争解決センターが発足しましたが、私が平成14年(福仲)第1号仲裁申立事件の仲裁人となりました。平成15年1月16日に第1回仲裁期日が開かれました。

さて本稿では紛争解決センター立ち上げに至る経緯を報告します。

私は犯罪被害者支援に関する委員会に所属しており、紛争解決センターの立ち上げにも末端ではありますがご助力させていただきました。昨年5月17日には、岡山弁護士会の岡山仲裁センターを見学させていただき岡山弁護士会の先生方からのご意見を拝聴いたしました。岡山では建築紛争等における仲裁が多いとのことでした。岡山では犯罪被害者と加害者との対話に臨床心理士が専門家として仲裁に参加している事例も報告されました。

昨年6月5日には、犯罪被害者支援に関する委員会とADR委員会の合同委員会が開催され紛争解決センターの立ち上げについて協議しました。

昨年7月15日には裁判外紛争解決についての専門家であります九州大学のレビン小林久子先生をお迎えしての講演会が開催され私も参加しました。先生のお講演では、海外の仲裁の事例が報告されています。また、先生の講演で日本では当事者に裁判官選択の自由がないとのお話が印象に残りました。民事裁判の第1回期日で初めて裁判官と会いますが、その裁判官を選択できる自由は当事者にはないです。海外では、紛争解決の担当者と当事者に選択できる場合もあるとのお話でした。

昨年11月7日に会長から仲裁人候補者が委嘱されましたが、私も含まれていました。仲裁人候補者の中から、事件ごとに仲裁人が選任されます。

昨年11月13日には名古屋弁護士会の渡邉一平先生を講師としてお招きしての研修会が開催され私も参加しました。名古屋では刑事手続での利用が多いとのことでした。

昨年12月12日には、実務面からの研修会が開催されています。

そして、昨年12月20日から正式に福岡県弁護士会紛争解決センターが開催されました。最初の事件である平成14年(福仲)第1号事件は、昨年12月24日に申し立てられています。

さて、最初の事件の仲裁人となったわけですが、仲裁人とての感想を述べます。

  1. 仲裁といっても法律上の「仲裁」ではなく、あくまで和解契約を前提として手続を始めるのが前提です。
  2. 仲裁人といっても弁護士ですので様々な配慮が必要です。当事者が入室する場合にも仲裁人が座っているより立って迎えるほうが印象がいいかもしれません。また、事務手続でも控室に仲裁人から足を運び説明するほうが妥当でしょう。「少しの親切」で、当事者が当紛争解決センターに与える印象が違います。
  3. 仲裁申立には、申\立手数料1万円が必要です。裁判所の調停において印紙額が1万円を超える場合には、仲裁が好ましいかもしれません。しかし仲裁から民事裁判へ移行した場合、印紙代の控除はないです。
  4. 仲裁が成立した場合に成立手数料を申立人と相手方の双方が支払います。解決額が100万円ですと申\立人が4万円、相手方が4万円の合計8万円を支払います。この相手方負担というのが、あまり、知られていない様子です。裁判所の調停とは異なります。
  5. 仲裁申立には時効中断効がないです。時効完成直前には仲裁は適さないです。
  6. 仲裁において、合意が成立した場合、和解契約書を作成しますが債務名義とはなりません。そこで、仲裁においては、現実の金銭受取後に和解契約書を作成することが好ましいと思います。

ともあれ、形式にこだわらない仲裁は、これから広く浸透していくことと思います。

建築紛争では、現地視察などが円滑に行われると予想されています。仲裁人と専門委員(建築士等)、そして当事者の都合で、土曜にも現場視察が可能\となり早期の紛争解決が期待されています。

刑事手続においても、刑事弁護人からの仲裁申立も予\想されます。刑事弁護人が被害者と示談をする際に、示談が進行しない場合には、仲裁申立もひとつの選択として考慮することも考えられます。他方、被害者側の場合、被害者側から仲裁を申\し立て示談を円滑に行う場合もあると思います。被害者から相談を受けた弁護士が自分で依頼を受けない場合、仲裁手続を被害者に知らせることも解決手段です。

ともあれ、裁判所の調停と弁護士会の仲裁との違いをよく認識しておくと、円満な紛争解決が期待できると思います。今後、岡山と名古屋の双方の仲裁手続を参考に、当会独自の仲裁手続が発展していくように努力します。

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