福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2002年9月号 月報

第二東京弁護士会 仲裁センター合宿参加記

月報記事

大神昌憲

1 標記の合宿が、平成14年7月13,14日の両日、箱根湯本の「ホテルおくゆもと」にて開催され、当会からは、ADR委員会に所属する筆者と永田一志委員並びに犯罪被害者支援に関する委員会に所属する北村哲委員が参加しました。

2  初日は、弁護士以外の専門家が事件解決に関与した事例が2例紹介されました。

初めは第二東京弁護士会仲裁センターの事例で、夫婦間調整の事案にカウンセラーが関与したものでした。

この事案の家族構成は、50代の夫婦に、高3の長男、高1の長女、中1の二女というもので、専業主婦である妻が娘2人を連れて別居を強行し、会社人間である夫が復縁を希望して第二東京弁護士会仲裁センターに夫婦間調整の仲裁を申\し立てたというものでした。

妻が別居を強行した背景としては、妻が子どもを細かく管理していたため、長男が妻に反抗し、家庭内暴力を振るうに至った(不登校と成績悪化も)。ところが、夫は建築関係の会社に勤務する仕事一遍道の会社人間であったため、家庭内の問題にうまく対処できず、妻の悩みにうまく対応できなかったことにあるようでした。

夫から相談を受けた申立代理人の弁護士は、夫婦間のみならず、親子間の調整も必要だと考え、カウンセラーの役割に期待して、第二東京弁護士会仲裁センターに対する仲裁申\立を選択されたとのことでした。

この仲裁は、12回もの期日を重ねた甲斐なく取り下げで終了していますが(カウンセリングは13回)、申立人に対するカウンセリングを中心に、相手方や長男に対してもカウンセリングが実施され(取り下げ後も申\立人が4回カウンセリングを受けています)、親子間の調整は無事に図られた、また夫婦間についても関係修復のきざしを得ることができたとの報告を受けました。

なお、この事案でカウンセリングを行ったカウンセラーは、FPIC(社団法人家庭問題情報センター)という元家庭裁判所調査官の方々で構成されている団体に所属している方で、FPICは福岡市内にも相談室を展開しているとのことでした。

3 次は、名古屋弁護士会仲裁センターの事例で、建築紛争の事案に1級建築士が関与したものでした。

この事案の内容は、申立人が相手方工務店に既存建物の解体工事と移転先の新居の新築工事を発注したところ、申\立人は、相手方工務店の工事着手、進行の遅れ、工事代金の先行支払い、工事出来高の説明不足等の事情により相手方工務店に不信を抱くに至り、相手方工務店も申立人からの度々の仕様変更要求、解体材の使用を理由とする請負代金減額要求等から態度を硬化させ、双方は工事中止を合意、その結果、工事代金の精算問題と相手方工務店が保管中の旧建物解体材の処理問題が生じ、申\立人個人が名古屋弁護士会仲裁センターに仲裁の申立をしたというものでした(申\立日平成13年4月13日)。

仲裁センターは、まずは弁護士の仲裁人を選任しましたが、工事出来高の調査依頼が申立内容に含まれていたため、1級建築士を仲裁人に追加選任したとのことでした。

第1回の期日は、平成13年5月16日に実施されましたが、その翌日には1級建築士の仲裁人が現地調査に赴き、調査を実施した結果、新築工事の出来高は既払代金にまでは達していないこと、既存建物の解体状況は基礎部分が残存し完了とは評価できないとの判断が下されました。

相手方工務店は、申立人に対し、不足代金381万円及び解体材処理費用50万円合計431万円の請求をしていましたが、上記見解を基に説得を受け、申\立人が相手方工務店に200万円を支払うことで解決したとのことでした(解決は平成13年6月25日に実施された第5回期日)。

1級建築士の見解によると、申立人が相手方工務店に対し金員を支払う必要はないのですが、申\立人は早期に解決して新築中の建物を完成させたいという意向が強く、代理人弁護士が就いた後もその意向は変わらなかったとのことでした。

第1回期日から1か月余り、申立日からも2か月余りで解決というスピード解決の事例紹介でした。

4 2日目は、仲裁法やADR基本法の立法作業状況についての報告、討議、並びに各地の仲裁センターの取り組みについての報告を受けました。

ADR基本法について言えば、時効中断効と執行力を付与することに賛成の議論と反対の議論がなされていました。

賛成の根拠としては、ADRで審理中に時効が完成してしまうのは不都合であること、執行力が認められないと執行力を取得するために結局裁判所等を利用せざるを得ず簡易迅速な解決とは言えないこと等が挙げられていました。

反対の根拠としては、法的効果を付与するとなるとADRへ国家が規制を施すことになり私的で自律的な紛争解決というADRの理念、特徴を害することになること、ADRでは早期に執行の問題を残さず解決することが多いので時効中断効や執行力を付与する必要に乏しく、その必要があれば裁判所を利用すればよいこと等が挙げられていました。

5 1日目、2日目を通じて、特に第二東京弁護士会の萩原、波多野、原後の各先生方(失礼ながらかなりのご年輩です)が実に活発でユニークな議論を展開されていましたが、懇親会の席上、「二弁にはブラジルの3Rならぬ3Hがいる」との発言も出、一同爆笑した次第でした。

各地の参加者からは、「あの福岡県弁護士会にまだ仲裁センターがないとは知らなかった。何故ないの?」と聞かれる始末で、お尻を叩かれて帰ってきました。

各地先達のお話は、要は、我々弁護士が利用しやすい紛争解決機関を自ら持つことのすばらしさということに尽きると思います。

当会でも、年内に紛争解決センターを立ち上げるべく、当委員会で検討中ですが、会員の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

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