福岡県弁護士会コラム(弁護士会blog)

2017年9月号 月報

18歳は大人ですか? ~少年法適用年齢引下げ問題シンポジウム~

月報記事

子どもの権利委員会 委員 古賀 祥多(69期)

去る平成29年8月5日、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会共催のもと、「18歳は大人ですか?~子どもたちのいま、少年法のこれから~」と題しまして、少年法適用年齢引下げ問題に関するシンポジウムが開催されました。当日は130名もの方々にご参加いただきました。

少年法適用年齢引下げ問題とは

現在、法制審議会では少年法の適用対象年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げることが検討されています。もし適用対象年齢が引き下げられると、これまで18歳・19歳に対して行われた家庭裁判所の手厚い調査が行われなくなり、教育の機会が奪われてしまう等の問題が生じてしまいます(この点につき、シンポジウムの中では、楠田瑛介会員、吉田幹生会員から、Q&A形式での掛け合いでわかりやすく解説していただきました)。福岡県弁護士会は、平成29年5月24日の定期総会において、「少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議」をしております

http://www.fben.jp/suggest/archives/2017/05/post_340.html)。

なお、法制審議会では、適用対象年齢引下げとともに成人を含めた犯罪者処遇一般を見直すことが検討されており、そうすることによって少年法適用年齢が引き下げられた場合の弊害が解消できるといった意見も出されていますが、犯罪者の処遇の決定を裁判所の判断を経ずに検察官が行う案などが主張されており、問題を孕んでいると言えます。

基調講演

まず、児童精神科医の高岡健さんから基調講演があり、高岡さんからは、戦後の法改革により、少年法の適用年齢が18歳未満から20歳まで引き上げられたという歴史、18歳、19歳の少年事件における家庭裁判所の調査の実績、25歳までは可塑性が認められているという脳科学の知見等、様々な観点から少年法適用年齢引下げ問題について解説していただきました。

元少年の声

続いて、元少年の方から、「自分が19歳で少年院送致になったとき、当初は素直に受け入れられなかったけれども、担当の法務教官の言葉に影響されて日々を大切に生活するようになり、少年院での教育を経て、達成感・やりがいを覚え、成長できた。これからは、今までお世話になった方を裏切るようなことは絶対にしたくない。」というお話をいただきました。

パネルディスカッション
・はじめに

パネルディスカッションでは、基調講演をしていただいた高岡さん、福岡市立福岡女子高等学校教諭の岩元優さん、特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネット専務理事・統括所長の矢野茂生さん、家庭裁判所調査官の太田直道さん(全司法労働組合からの参加)がパネリストとして参加され(なお、太田さんは、裁判所の見解を示すものではなく、個人の考えを話すと前置きされて発言しました。)、大谷辰雄会員がコーディネーターとして参加されました。

・現在の子ども達の現状・実情について

(岩元さん)自尊感情がものすごく低い。また、経済格差が大きく、低所得の親を持つ家庭が1クラスに6、7人くらいおり、教育どころか日々の生活に困難を来している家庭もある。

(矢野さん)現在の少年達には、かつての少年のようなエネルギーを感じられない。被虐待や発達特性の問題を抱えたケースが含まれ、アセスメントが難しい少年が多い。

(太田さん)暴走族でやんちゃする少年が少なく、周りに流されて非行に走る少年が多い。ライン等で知り合った人とつるんで非行に走るケースもある。被虐待・貧困などの問題を抱える少年が多く、根深い問題を抱えている。

・18歳・19歳とはどういう世代で、大人はどのように接するべきか。

(岩元さん)一人親の場合、子どもが十分な教育を受けていないケースがあり、教育の機会を必要とする18歳・19歳が多い。また、子どもの声を聞いて心を開いてもらう必要もある。

(矢野さん)自分が知っている19歳の非行少年は、事件の中で、私を含めた様々な大人と接する中で、事件と向き合い成長した。私は、少年にとって人のつながりがとても重要であり、18歳・19歳でもその重要性は変わりない。

(太田さん)「刑事裁判所に送致された少年は、少年裁判員に送致された場合よりもより高い再犯リスクがある」というアメリカ司法省の機関の紀要があるとおり、少年に対しては刑罰ではなく教育が必要である。

・公職選挙法・民法などでの「未成年者」の概念と統一すべきとの意見について

(高岡さん)昨今の複雑な社会の実態を的確に捉え切れておらず、適切ではない。「わかりやすさ」を重視する見解は誤りであり、複雑な現代社会のあり方を踏まえれば、むしろ「わかりづらい」くらいがちょうどいい。

・少年法適用対象年齢を18歳・19歳にした場合の実名報道に関する影響

(岩元さん)実名報道がなされれば、18歳の高校生は必ず退学処分になり、かつ、他の高校はその子どもを引き受けなくなる。そうなれば、その子どもの最終学歴は中卒となってしまい、立ち直りの機会を奪ってしまう。

・18歳・19歳を「大人」とすることにより「大人としての自覚」が生まれるか

(矢野さん)少年は、自分自身で克服できないような問題が積み重なった結果非行に至ったのであり、法律が「大人」と決めたからといって少年が変わるというものではない。

・今回のシンポジウムの感想

(太田さん)少年法は被害者の気持ちに配慮した制度にすべきとの意見もあるようだが、現行制度においても、重大事件などでは逆送されて刑罰を受ける場合があることを知ってもらう必要がある。

(矢野さん)児童福祉の現場では、慈善活動だけで運用していくことには限界がある。少年が抱える問題は、その少年が成長して親となったときに次世代へと連鎖するため、少年の問題を長期的な目線で取り組むべきである。

(岩元さん)高校生は、「子ども」であり、社会に出て、社会の実態を知ることで、少しずつ大人になる。少年法適用年齢引下げには反対である、むしろ引き上げるべきである。

(高岡さん)非行少年を取り巻く問題は、被虐待・発達障害・貧困といった問題だけでなく、昨今の社会コミュニティーの解体が背景とした、いわば「関係の貧困」にある。「関係の貧困」が、現在の少年の特徴である自尊感情の低下を招き、非行の原因となっているのではないか。

感想

今回のシンポジウムでは、福祉関係・教育関係・司法関係に携わっている方々や、学生の方が参加され、「具体的なエピソードを聞けて大変勉強になった」、「多様な角度から考えることができた」、「18歳・19歳の非行少年に対して教育の機会が必要だと思った」というご意見をいただきました。

私も、最近、少年事件を初めて担当し、少年が、手続の中で自分の非行と向き合い、家族の大切さ、自分を支える大人の存在に改めて気づき、成長していった様子を目の当たりにしました。今回、シンポジウムに参加して、あのときの少年のように、事件を含めた自分や家族等について見つめ直し、成長する機会を奪うことはしてはならないと思いました。少年法適用年齢引き下げについては今後国会で審議されるところですが、今回のシンポをきっかけに、市民の方々でもさらなる議論が広がればと思います。

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