福岡県弁護士会コラム(弁護士会blog)

2017年3月号 月報

「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」研修会のご報告

月報記事

両性の平等に関する委員会 糸瀬 真理(65期)

1 はじめに

平成29年2月4日、大手門パインビル2階会議室に於いて、日弁連両性の平等に関する委員会副委員長である竹下博將先生(以下、「竹下先生」といいます。)をお招きし、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」についての研修会が開催されましたので、ご報告させていただきます。

2 日弁連による提言の経緯

実務においては、平成15年3月に東京・大阪養育費等研究会により提案された算定方式(以下、「現算定方式」といいます。)及び算定表(以下、「現算定表」といいます。)が定着している状況です。しかし、現算定方式・現算定表は、その利便性ゆえに、定着過程において、詳細な検証もなく、無批判に受け入れられてきたという問題があります。また、統計資料の更新もされていません。竹下先生によれば、現算定方式・現算定表は、算定のモデルが示されていないため、そもそも検証不可能とのことです。日弁連は、平成24年3月15日付の「『養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表』に対する意見書」において、現算定方式・現算定表の問題点を指摘しています。そして、この意見書を具体化したものが、平成28年11月15日付で日弁連が取りまとめた「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」です。

3 新しい簡易な算定方式による現算定方式の修正

新しい簡易な算定方式(以下、「新算定方式」といいます。)による現算定方式の修正点の概要は以下のとおりです。

(1) 基礎収入算定のために総収入から控除される経費等

ア 公租公課

現算定方式は理論値を用いていますが、新算定方式においては、実額又は最新の理論値を用いることとしています。

イ 職業費

現算定方式では、家計調査年報の数値(更新されていない数値)が用いられていますが、家計調査年報に記載されているのは世帯の支出額であるため、職業費に含まれる項目は、有業人員のための支出額ではなく世帯の支出額で算出されているものがほとんどです。新算定方式では、最新の家計調査年報の数値を用いるとともに、全項目について有業人員のための支出額のみを職業費としています。

ウ 特別経費

現算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について、特別経費として総収入から控除されていますが、新算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について特別経費として控除することはしていません。

(2) 生活費指数

現算定方式では、生活費指数について生活保護基準を用いていますが、生活扶助居宅第2類(光熱費や家具什器購入費など)の世帯全体で算出される項目について、親1人世帯の場合と親子1人ずつの世帯の場合との差額をもって子の生活費の金額を算定しています。また、子どもの生活指数区分は、0~14歳と15~19歳の2区分しかありません。新算定方式では、居宅第2類については、世帯員数で頭割りして各世帯員の金額を算出し、子どもの生活指数区分も、0~5歳、6~11歳、12~14歳、15~19歳の4区分としました。

4 新たな算定表

新算定方式に基づき、新たな算定表(以下、「新算定表」といいます。)も作成されました。子どもの人数については、現算定表と同様に0~3人です。また、子どもの生活指数区分は、頁数の関係で新算定方式とは異なり、0~5歳、6~14歳、15~19歳の3区分です。

竹下先生からは、新算定表の見方等についてもご説明いただきました。新算定表の枠外には、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額が記載されています。今後は、調停や審判の場において、新算定方式・新算定表を用いることを裁判所に対して明示していく必要がありますが、それが採用されるまでには難航も予想されるところです。これに対して、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額については、現算定表のデータを新しくしただけの数値なので、裁判所の理解も比較的得やすいと思われることから、こちらについても積極的に活用したほうが良いとのことです。

また、新算定方式・新算定表を実務において定着させるには、まずは世間一般に広く普及させることが有効であるとのことで、関係各所に新算定表を備え置くほか、ブログやSNSなどを利用して広報していって欲しいとのことでした。

5 所感

私は今回の研修を受けるまで、現算定方式・現算定表について深く考えてみたことがありませんでした。しかし、今回の研修で、現算定方式・現算定表には、総収入から控除される職業費の中に、有業人員のための支出ではなく世帯のための支出額が多く含まれていることや、職業費の中に含まれている「こづかい」という項目は、家計調査年報における定義が不明であることなどを知って大変驚きました。その結果、収入に占める職業費の割合が、不必要に大きくなっていました。その他にも現算定方式・現算定表には様々な問題点が含まれていることを知り、これまで特に疑問を持つこともなく利用していたことを反省しました。

6 最後に

新算定方式・新算定表は、単に権利者が得られる養育費や婚姻費用を増額させるためのものではなく、生活保持義務に基づいた適正妥当な金額を算定するためのものです。実際、権利者の生活費指数については、現算定方式・現算定表では常に100であったのに対し、新算定方式・新算定表では、養育する子の数に応じ、69、57、47、41と変動することになり、必ずしも権利者に有利になるように算定されているわけではありません。

提言には別紙がついており、別紙に新算定方式の概要や現算定方式との比較が分かり易くまとめてあります。また、新算定方式・新算定表を用いた場合の算出具体例も記載されています。今回の研修に参加されていない会員の皆さまも、提言をご一読いただき、今後は新算定方式・新算定表を積極的に活用していただくことをお勧めいたします。

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