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刑事身体拘束手続に関する裁判所の運用改善を求める決議

カテゴリー:決議

(決議の趣旨)
  当会は、「人質司法」という言葉に代表される日本の刑事身体拘束を巡る問題を改革するために、以下のような裁判所及び裁判官の運用改善を求める。
(1)各裁判官に対して
  ア 勾留質問において勾留理由に関する具体的な質問をするなどして実質的な勾留質問を行い、これを適切に勾留質問調書に記載する運用とすること。
  イ 勾留質問への弁護人の立会いを認める運用とすること。
  ウ 勾留の判断にあたっては、防犯カメラの普及や科学技術・IT技術の進展、各人がスマートフォン等の電子機器によって容易に録画録音が可能となる等、勾留理由が認められにくくなった社会変化を前提に、身体不拘束の原則や比例原則も踏まえて勾留理由を厳格に判断する運用とすること。
(2)最高裁判所に対して
  ア 勾留質問調書の参考書式について罪証隠滅や逃亡のおそれなどの勾留理由に関する具体的な質問を促すものに変更すること。
  イ 勾留質問に際しては、被疑事実に関する陳述の聴取に留まらず、必要な範囲で勾留理由の有無を判断するのに必要な事情を聴取すべきであることを各裁判所に通達又は通知すること。

2024(令和6)年5月24日

福岡県弁護士会
(決議理由)
1 日本における刑事身体拘束手続の問題
(1)憲法34条は「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と規定している。
   これを受けて刑事訴訟法では、逮捕要件や勾留要件を定めた上で、逮捕や勾留について裁判所による令状審査を要求した上で、特に勾留に当たっては、裁判官が直接被疑者・被告人に面談する勾留質問の手続を経なければならないと定めている。
   また、日本も批准する国際人権(自由権)規約9条3項は、逮捕・抑留された者は、司法機関の面前に速やかに引致され、引致後「妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される」権利を有することを保障し、「裁判に付される者を抑留することが原則であってはなら」ないと定め、身体不拘束の原則を明らかにしている。
(2)ところが、このような憲法や刑事訴訟法、そして国際人権(自由権)規約の定めがあるにも関わらず、実際には刑事訴訟法が歪曲された形で運用され、憲法が「正当な理由」を求め、刑事訴訟法が「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を求める被疑者の勾留の要件について、実務においては、抽象的な「証拠隠滅のおそれ(=可能性)」として解釈し、安易に勾留が認められる傾向にある。
   そして、いったん勾留されれば、起訴前保釈制度がない中で最長23日間の長期にわたって身体拘束を余儀なくされ、起訴後も保釈が認められなければ判決まで身体拘束が続くことになる。
   特に、被疑者が否認するなど事実関係を争ったり、あるいは黙秘権を行使したりしている場合には、安易に「罪証隠滅のおそれ」を認めて勾留し、判決まで、あるいは証人の証拠調べ等が終わるまでは保釈も認められないことから、被疑者自身の身体の自由を人質として自白を強要する「人質司法」と呼ばれてきた。
   また、被疑者が罪を認めている事件で、罰金刑や執行猶予判決が見込まれ、実際には刑務所に収監されないようなケースでも、起訴前・起訴後の勾留が認められるケースは非常に多い。令和4年の司法統計年報を見ても、起訴後に勾留された人員総数(起訴後に保釈等で釈放された被告人も含む。)が32,308人であるのに対して、死刑及び実刑判決を受けた総数は14,184人に過ぎない。
   裁判で有罪になっても処罰としては身体拘束を受けないにも関わらず、捜査段階では身体拘束が認められるというのは、裁判を目的として捜査が行われるという制度上の関係から考えれば、明らかに異常なことである。
   しかし、検察官も裁判官も何ら疑問を持たずに安易に勾留が認められ、弁護人ですらその異常さに慣れてしまっている現状にある。
2 当会や日弁連の取り組み
(1)かかる日本の刑事身体拘束手続の問題に関しては、古くから当会も日本弁護士連合会も問題を指摘するともに、様々な宣言や決議をしたり、意見書をまとめたりしてきた。
   その後の刑事司法改革の中で、被疑者国選弁護制度の導入や拡大、裁判員裁判制度の誕生、公判前整理手続の導入、一部事件についての取調べの録画録音の義務付けといった法改正を伴う制度改革は行われてきた。
   しかし、刑事身体拘束に関する制度改革は特になされず、逆に2023(令和5)年には公判期日等への出頭及び裁判の執行の確保を目的とした刑事訴訟法改正がなされるような状況にある。
(2)このような状況の中で、埼玉弁護士会が全国に先駆けて2010(平成22)年から「被疑者の不必要な身体拘束に対する全件不服申立運動」を実施し、これが全国に広がっていった。
   九州弁護士会連合会においても各地でこの運動を開始し、当会では2017(平成29)年に北九州部会で先行して運動を始め、全県的にも当会の刑事弁護等委員会が呼びかける形で2018(平成30)年以降、本年に至るまで運動を実施してきており、勾留請求や勾留決定そのものを阻止したり、不服申立によって勾留決定が取り消されたりするなど、個々の弁護実践の中でも一定の成果を上げてきた。そして、2020(令和2)年9月には、当会の臨時総会において「刑事身体拘束手続に関する法改正と運用改善を求める決議」がなされ、勾留質問時の弁護人立会権の保障や勾留判断における比例原則適用を明記する刑事訴訟法の改正、勾留質問・勾留理由開示手続・勾留判断における運用改善を求めた。
   このうち、勾留質問の運用改善に関しては、勾留質問において罪証隠滅や逃亡のおそれなどの勾留理由に関する具体的な質問をするなどして実質的な勾留質問を行う運用や、勾留質問への弁護人の立会いを認める運用改善を求めた。
   そして、決議後には個々の事件において勾留質問の実質化や弁護人立会いを求める申入書を裁判官に提出するよう会員に呼びかけ、実際に少なくない事件で勾留質問の実質化や弁護人立会いを求める申入書が提出されてきている。
(3)このような取り組みの影響もあってか、2009(平成21)年までは1%を切っていた勾留請求却下率が急激に増加し、2014(平成26)年には2%を超え、2019(令和元)年には5%を上回るに至った。
   このような勾留請求却下率の動きは、一見すると裁判官が勾留判断を厳格に行うようになったようにも受け止められる。
   しかし、勾留請求却下率はその後減少に転じ、2022(令和4)年には4%を割り込んでいる。
   一方で、検察統計年報における在宅・身柄付を問わずに送検された被疑者(検察官逮捕を含み、自動車による過失致死傷等や道路交通法違反被疑事件は除く)に対して勾留が許可された件数の割合を見ると、1980(昭和55)年は約16%だったのに対して、年々割合が増えて行って2000(平成12)年から2003(平成15)年に30%を超えて倍近くになり、その後若干減ったものの、2011年(平成23)に再び増加に転じ、2012年(平成24)から2022(令和4)年まではずっと30%を超える状況が維持されている。
  送検された事件数全体に対する勾留許可件数の割合が倍近く増えているというのは、全く同じ基準で判断しているとすれば起こり得ない異常な増え方であって、勾留を許可するハードルが下がり、1980年頃であれば勾留が認められなかったようなケースでも勾留が認められるようになってしまっていると考えざるを得ない。
  この間、勾留の要件に関する法改正はないのであり、そうである以上、勾留判断に関する裁判官の運用が変わってきたとしか評価できない。
  そして、上述したとおり2014年(平成26)以降は勾留請求却下率が増えているものの、送検された事件数全体に対する勾留許可件数の割合は30%以上のままであることからすれば、検察官が以前よりも広く勾留請求するようになったため勾留請求却下率が増えていたとも捉えられ、勾留判断に関する裁判官の運用改悪の状況に変わりはないといえる。
  こうした状況の中、2020(令和2)年3月11日に、そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、検察官による公訴提起が行われ、約11か月もの間身体拘束された後、公訴提起から約1年4か月経過し第1回公判の直前であった2021(令和3)年7月30日に検察官が公訴取消しをするという、えん罪事件が発生した(大川原化工機事件)。勾留中に被告人のうち1名に重篤な病気が判明するも、保釈が認められず、後に勾留執行停止になるが、死亡するなどの重大な結果も生じており、2023(令和5)年12月27日、東京地裁は、警視庁公安部の警察官による逮捕および取調べ、ならびに検察官による勾留請求および公訴提起が違法であると認定し、被告国と東京都に対して約1億6200万円の支払いを命じる判決を出した。
   人質司法の問題が現在も続いていることを示している事案であって、人質司法が人の命まで奪うような重大な問題であることを表している。
3 勾留判断や勾留質問に関する運用改善の必要性
(1)以上述べてきたとおりであって、刑事身体拘束の問題の本質は改善されておらず、法改正による抜本的な改革が必要であって、当会としても刑事身体拘束に関する法改正を求めていくことに変わりはない。
  しかしながら、法改正には相当の時間がかかる一方で、被疑者・被告人の身体拘束による不利益は日々刻々と生み出されており、上記大川原化工機事件のような悲劇を繰り返さないためにも、このような事態は運用面において直ちに解消されなければならない。
   そこで、法改正を目指した粘り強い運動については継続していきつつも、勾留判断や勾留判断に直結する勾留質問に関しては、運用の改善を求めていくことが早急に必要であることから、下記のような運用改善を求めることとした。
(2)必要な運用の改善
  ア 勾留質問の実質化
    刑事訴訟法61条は、勾留の判断にあたって勾留質問することを裁判官に義務付けている。
    そして、勾留判断の前提としてなされる以上、勾留質問においては、単に犯罪事実に関する意見、陳述を聞くだけではなく勾留理由(勾留要件)に関する意見、陳述も聞くことが当然の前提となっている(最高裁判所判例解説刑事篇昭和41年度193頁(最高裁判所昭和41年10月19日第三小法廷決定)、注解刑事訴訟法上巻[全訂新版]214頁以下)。
    したがって、本来勾留質問においては、勾留理由に関する陳述を聞くために、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由の判断要素(被害者、目撃者、共犯者との関係性や逮捕までの接触の有無)や逃亡を疑うに足りる相当な理由の判断要素(家族、仕事、住居関係や任意聴取の求めが事前にあったか否か)などについての具体的質問が必要なはずである。
    ところが、現在の勾留質問は、もっぱら被疑事実そのものに関する弁解について質問されているだけで、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する具体的な質問はほとんどなされておらず、勾留の判断のための手続として刑事訴訟法が予定している勾留質問手続が単なる形式的な手続となり、形骸化してしまっている。
    このような形骸化した勾留質問が行われている背景事情として考えられるのは、刑事訴訟法61条が「被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。」と規定し、勾留理由に関する質問について明記されてないことに加え、最高裁判所が作成して各裁判所に配布している勾留質問調書の参考書式が、もっぱら被疑事実そのものに関する弁解についての回答だけを記載すれば足りるかのような書式になっていることも大きな影響を与えていると考えられる。
    すなわち、勾留質問調書の参考書式では、調書作成の効率化のためか、裁判官からの説明部分や質問部分は最初から印字されており、空欄となって回答が予定されているのは、①被疑者の氏名・年齢・生年月日・住居・本籍・職業、②被疑事実そのものに対する弁解内容、③勾留通知先だけとなっている。
したがって、この参考書式のとおりに説明や質問を行えば、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する質問をすることはないし、あえてこれらの事情について質問をして回答を得た場合、この書式自体にはその内容を記載するスペースはなく、わざわざ別紙を用意して別紙の方に自由記載の形で勾留理由に関する質問や回答内容を記載しなければならない。
このような参考書式が準備され、これを用いた勾留質問が一般化してしまえば、勾留質問においてもっぱら被疑事実そのものに関する弁解しか質問されず、逃亡や罪証隠滅のおそれに関する具体的な質問はほとんどなされない運用が定着してしまうのも無理からぬところがあると言える。
    かかる勾留質問手続の形骸化は、勾留要件に関して具体的な事情に踏み込んで判断する姿勢を失わせ、抽象的な理由でしか判断できず、安易に勾留を認めるという結果に結びついてしまいかねない。
    勾留理由に関する具体的な質問なしに、勾留理由について適切な判断をすることができるはずがないのだから、本来の憲法及び刑事訴訟法の趣旨に則って、裁判官が勾留理由に関する具体的質問をするなどして実質的な勾留質問をするよう運用が改善されるべきである。
    そして、それを促すためにも、最高裁判所は、現在作成・送付している勾留質問調書の参考書式について、「同居者の有無やその扶養の状況」「住居の所有・賃貸の別や居住年数」「勤続歴や就労状況、職場での立場」「被害者との面識の有無、住所や連絡先についての認識」「目撃者等の関係者との面識の有無、住所や連絡先についての認識」などの項目を列挙するなどして改訂し、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する具体的な質問が必要であることを示すとともに、質問に漏れが生じにくいような工夫を行うべきである。
    そして、最高裁判所は各裁判所に対して、勾留質問に際しては、被疑事実に関する陳述の聴取に留まらず、必要な範囲で勾留理由の有無を判断するのに必要な事情を聴取すべきであることを通達し、あるいは通知するべきである。
  イ 勾留質問への弁護人の立会いの許可
    現在の刑事訴訟法では、勾留質問への弁護人の立会いに関する規定は存在せず、勾留質問への弁護人の立会いを申し入れても、立会いが認められないケースがほとんどである。
    しかし、憲法34条が被疑者の勾留に関して、「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」としていることからすれば、非公開の場とはいえ、勾留質問の段階で勾留の理由を説明することは憲法34条の趣旨に適う制度・運用であると言えるし、これに対する被疑者や弁護人の意見をその場で聴取することができれば、より慎重に勾留の判断をすることができ、無用な被疑者の身体拘束を避けることができる。
    この点、当番弁護士制度や被疑者国選弁護制度が普及するまでは、被疑者段階で弁護人が選任されること自体が少なく、まして勾留質問段階で弁護人が選任されていることは期待できない面があった。しかし、当番弁護士制度が普及した上に、被疑者国選弁護の対象が勾留された全事件に拡大され、逮捕段階から弁護人が関与するケースが大幅に増加した現在、勾留質問に弁護人が立ち会うことが可能なケースは大幅に増えている。
    このような弁護人を巡る状況の変化に加え、勾留質問手続の形骸化を防ぎ、憲法34条の趣旨に沿って無用な被疑者の身体拘束を避けるためには、本来、勾留質問時の弁護人の立会権を保障するよう刑事訴訟法を改正すべきであるが、現行の刑事訴訟法においても弁護人の勾留質問への立会いを禁止する規定はなく、改正を待たずとも、裁判官において弁護人の勾留質問への立会いを認めることは可能である。
    実際に、過去には勾留質問への弁護人の立ち会いを認めた例もある。
    一方で、弁護人は、勾留質問の時点ですでに被疑者のみならず家族や関係者から一定の事情を聞いており、勾留要件に関する事情も把握しており、勾留質問への弁護人の立会いが認められれば、裁判官による勾留質問に付随して勾留要件に関する事情を補足したり、勾留理由開示や準抗告を待たずに勾留理由に関する弁護人の意見を述べたりすることができ、裁判官はそれらの補足事情や弁護人意見も踏まえて、より適正に勾留の判断を行うことが可能となる。
    したがって、勾留質問への弁護人立会いを許可するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
ウ 社会変化を前提とした比例原則等を踏まえた勾留に関する厳格な判断
上述したとおり、送検された事件総数に対する勾留許可件数の割合は、1980年頃に比べて倍近くとなっている。
この間の社会変化が犯罪捜査や刑事裁判に与えた影響は大きく、防犯カメラが普及して様々な場所に設置され、また防犯カメラそのものやデータ保存方法や保存媒体が発展したこともあり、防犯カメラ映像は犯人検挙や公判立証に欠かせないものとなっている。
また、スマートフォンの普及により、GPS機能や基地局情報などから特定日時にどの場所にいたかの特定が容易になり、スマートフォン自体の機能を用いて誰でもいつでも容易に録画録音が可能になり、これらの情報や映像・音声も犯人検挙や公判立証に役立っている。
その他、従来の指紋や足跡痕等に頼った科学的な犯人特定方法についても、DNA鑑定や顔貌を含む画像鑑定等の発展により、様々な形での情報取得ができるようになっている。
それに加えて情報化社会の進展により、銀行取引を含む様々な取引が電子化・オンライン化される一方、口座開設や携帯電話の契約など様々な場面で本人確認が必要となり、身分を隠したまま生活を送ることの困難さはより増しているといえる。
このような現代社会では、逃亡を試みたとしても防犯カメラやスマートフォン、銀行取引その他の取引情報などから、居場所は特定され、仮に逃亡自体に成功したとしても長期間の逃亡生活を送ることは極めて困難で、それまでの利便性の高い生活の多くを犠牲にせざるを得ない。
    かかる社会変化を踏まえれば、普通の社会生活を送っている人であれば、パニック状態となって一時的に逃げ出すことはあっても、逃亡して訴追を逃れ続けようとする可能性が1980年頃と比べて大きく低下していることは明らかである。
    また、罪証隠滅のおそれという観点から考えても、被害者や目撃者等の関係者への働きかけをしようとしても、誰もが常にスマートフォンを保有している現代では、その働きかけの行為自体が相手や周囲に録画録音され、かえって罪を重くする結果となるリスクが高いのであり、そのようなリスクを負って証拠隠滅を図るとは考え難く、少なくとも1980年頃と比較すれば罪証隠滅のおそれは相対的に低くなっているはずである。
    つまり、この間の社会変化を前提とすれば、1980年頃と比べて勾留理由は認められにくく、勾留されにくくなってきているはずである。
    にもかかわらず、実際には送検事件総数に対する勾留許可の割合が逆に倍近く増加しているというのは、上記のような社会変化を考慮せず、逆に勾留判断のハードルを下げてしまっているからとしか考えられない。
    いずれにせよ、勾留理由を判断するに当たっては、上記のような社会変化を踏まえて具体的に判断する必要がある。
    また、日本も批准する国際人権(自由権)規約9条3項は、身体不拘束の原則を明らかにしているが、日本での起訴時点での身体拘束率は7割を超えているのであって、身体不拘束の原則から外れてしまっていると言わざるを得ない。
    この点、1990(平成2)年の「犯罪防止と犯罪者処遇に関する第8回国際連合会議」での「未決拘禁に関する決議」では、「未決拘禁は、自由の剥奪が、容疑犯罪及び予想される刑罰に比して不均衡となる場合には、命じられないものとする。」として、未決拘禁において比例原則が適用されることを明らかにしている。
    比例原則自体は、日本の行政法や刑事訴訟法でも認められている基準であり、憲法において勾留に「正当な理由」が要求されていることからしても、日本における勾留の判断においても比例原則が適用されるはずである。
    しかし、上述したとおり、比例原則の観点からすれば原則として勾留が許されないはずである罰金刑や執行猶予刑が見込まれるような被疑者や被告人について勾留が認められるケースが多いのが実情であり、現在の裁判実務では勾留判断において比例原則を極めて軽視した判断がなされていると言わざるを得ない。
    したがって、勾留の判断において、社会変化によって逃亡や罪証隠滅のおそれが相対的に低くなっているという現状認識を前提として、身体不拘束の原則や比例原則が適用されることを踏まえて、勾留理由について厳格に判断するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
4 結語
  そこで、当会としては、上述したような運用改善を、各裁判官と最高裁判所に求める。
  また、当会としては、今後もシンポジウム等を通じて刑事身体拘束に関する法制度の改革や運用改善の必要性を広く市民と共有していくとともに、個別の弁護活動における勾留質問の実質化や勾留質問への弁護人の立会い、準抗告等の勾留に対する不服申立を積極的に行っていく運動や取り組みを通じて、法改正や運用改善を引き続き目指していく所存である。

以上

札幌高裁・東京地裁(二次)判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う一連の裁判において、2024年3月14日、札幌高等裁判所及び東京地方裁判所において、判決が出された。
  一連の訴訟は、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁で提訴され、東京二次訴訟を除き、地裁レベルの判決が出され、いずれも原告側が控訴していたところ、今回の札幌高裁の判決は、高裁における初の判断である。また東京地裁は、二次訴訟についての判決であり、これをもって全ての地裁の判断が出そろったこととなる。
2 札幌高裁判決は、これまでの一連の判決からさらに踏み込んだ、極めて画期的なものであった。
  札幌高裁判決は、本件諸規定は、憲法24条及び14条1項に違反するとした。
  同判決は、本件諸規定が憲法13条に違反すると認めることはできないとしつつ、性的指向及び同性間の婚姻の自由は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容を構成し得る重要な法的利益として、本件諸規定が同性婚を許していないことが憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討にあたって考慮すべきと述べる。
  そして、性的指向及び同性間の婚姻の自由は、個人の尊重及びこれに係る重要な法的利益であるのだから、憲法24条1項は、人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障しているとした。そして、本件諸規定は、異性間の婚姻のみを定め、同性間の婚姻を許さず、これに代わる措置についても一切規定していないことから、個人の尊厳に立脚し、性的指向と同性間の婚姻の自由を保障するものと解される憲法24条の規定に照らして合理性を欠く制度であり、少なくとも現時点においては、国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っていると指摘した。
  憲法14条1項に関しても、国会が立法裁量を有することを考慮するとしても、本件諸規定が、異性愛者に対しては婚姻を定めているにもかかわらず、同性愛者に対して婚姻を許していないことは、現時点においては合理的な根拠を欠くものであって、本件諸規定が定める本件区別取扱いは、差別的取扱いに当たるとして、同項にも違反するとした。
  当会は、後記のとおり、2019年の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障されていると論じたが、この判決は、それとほぼ同趣旨と評価でき、全く正当なものである。特に、憲法24条1項が、同性間の婚姻についても異性間の場合と同程度に保障しているとの判断は、一連の訴訟における判決の中でも初めてのものであり、初の高裁判断という点も含め、その意義は極めて重大である。
3 また、東京地裁(二次)判決では、本件諸規定が、同性カップル等の婚姻を認めず、また、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に交渉を受ける利益を享受したりするための制度も何ら設けられていないのは、同性カップル等が、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送るという重要な人格的利益を、同性カップル等から剥奪するものにほかならないのであるから、本件諸規定及び、上記のような立法がされていない状況は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理的な理由があるとは認められず、憲法24条2項に違反する状態にある、との憲法判断が示された。
  これは、類似の判断を示した、東京地裁(一次)、名古屋地裁及び福岡地裁の一連の判決の流れを踏襲した判断といえる。
4 前記のとおり、この東京地裁(二次)判決をもって、一連の訴訟の地裁レベルの判決が出そろった。その結論は、違憲2件(札幌地裁・名古屋地裁)、違憲状態3件(東京地裁(一次・二次)・福岡地裁)、合憲1件(大阪地裁)であり、合憲判断である大阪地裁判決でも、将来的に違憲となる可能性を指摘していて、同性カップルについて、異性カップルと同様、婚姻(家族として法的に保護するための制度)が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたい。
  そして、札幌高裁においては、憲法24条1項が、同性間の婚姻についても異性間の場合と同程度に保障しているとの判断が示されており、今後の高裁判決においても、この流れはさらに加速していくものと思われる。
  これらの判決を踏まえれば、国は、さらなる高裁判決、ないしその先の最高裁判決を待つことなく、速やかに立法をもってこの違憲の状況を解消すべきであることは、明らかである。
5 しかし、本問題に関する政府・与党の姿勢は、従前と全く変わらず、極めて後ろ向きである。
  政府は、従前から、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要する」との紋切り型の答弁を繰り返すばかりであったが、上記判決を受けても、確定前の判決であり、同種訴訟の判断を注視していくとか、判断の中身を注視していく、国民的なコンセンサスと理解が求められる、などの発言がなされ、事態を動かそうという気配は全く見受けられない。小泉龍司法務大臣は、「自治体のパートナーシップ制度の導入・運用状況などを見て、国民に議論してもらいたい。」と述べたが、いずれの判決中でも指摘されているとおり、各種世論調査の結果や自治体におけるパートナーシップ制度の広がりなど、同性婚に関する国民の認識が高まってきていることは明らかである。しかるに、国会での議論は、令和元年には野党から同性婚を法制化する法律案が提出されるも、審議されないまま廃案となるなど、極めて低調である。これだけ憲法違反を示す判断が積み重なっている中で、積極的に議論を行い、解決策を検討しなければならないのは、抽象的な「国民」ではなく、立法府たる「国会」であり、人権を尊重した施策を検討・実施すべき「政府」である。これら一連の政府関係者の発言からは、その自覚は、全くうかがわれない。
6 当会は、2019年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国会に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁(一次)判決、名古屋・福岡地裁判決に際しても、それぞれ2021年4月28日、2022年8月10日、2023年1月18日、2023年6月15日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めてきた。
今回、札幌高裁判決は、「根源的には個人の尊厳に関わる事柄であり、個人を尊重するということであって、同性愛者は、日々の社会生活において不利益を受け、自身の存在の喪失感に直面しているのだから、その対策を急いで講じる必要がある。したがって、喫緊の課題として、同性婚につき異性婚と同じ婚姻制度を適用することを含め、早急に真摯な議論と対応をすることが望まれる」と付言した。
  東京地裁(二次)判決も、「国会において、日本社会及び日本国民の理解に根ざした、適切な同性カップル等の婚姻に係る法制度化がされるよう、強く期待される」と述べている。
  もはや、これ以上の立法・施策の懈怠は許されない。政府・国会は、直ちに、同性間の婚姻制度を整備すべきである。
  当会は今後も、性的少数者を含めたすべての人にとって平等な婚姻制度の実現に向け、努力していく所存である。

以   上

2024年(令和6年)4月9日

福岡県弁護士会     

会 長  德 永  響

性被害者への誹謗中傷に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

 日本社会のさまざまな分野で性暴力が放置されてきたことが、被害者の勇気ある告発により近年さらに明らかになってきた。しかし一方で、これまでも性加害による被害者への誹謗中傷がなされ、特にインターネット上のソーシャルメディアにおける誹謗中傷が大きな問題になっている。
 例えば、実名で性被害を公表した被害者の中には、想像を遥かに超える誹謗中傷により、外に出ることも怖くなり、平穏な私生活を送れない状態になったことや、今も心ない言葉が届くことに言及している人もいる。
 2023年、ジャニー喜多川氏による性加害について多くの被害者が勇気をもって名乗り出たことを契機として調査が行われた結果、少年たちに対する極めて多数の性加害があったことが明らかになった。しかし、この件においても、ジャニー喜多川氏による被害を告発した人々に対する誹謗中傷行為が繰り返され、中には自殺に追い込まれた被害者もいると報道されている。
 性加害を受けたことによる精神的苦痛は、被害者のその後の人生全体に大きな悪影響を及ぼし、被害者に対する誹謗中傷行為は、被害者をさらに苦しめ、死に追いやりかねない非道な行為であり、民事上のみならず刑事上も違法とされうるものである。
 また、被害を受けた時から時間が経って告発したことを理由として被害者の行動を疑問視する発信なども少なからずあるが、これもまた、誹謗中傷と同様に被害者を苦しめる面がある。2023年の刑事訴訟法改正において性犯罪についての公訴時効期間が延長されたのは、被害者が自らの性被害を認識し、申告するまでには心理的な混乱、恐怖心、強い自責の念などから長期間を要することが多いからである。
 このような過酷な状況下にある性被害者に対する誹謗中傷及びそれに準じた言動に対して何らの声も上げずにいることは、性加害を事実上黙認し二次加害に加担し、被害者の苦しみを看過することと同じであり許されない。
 そこで、当会は、基本的人権の擁護、社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として誹謗中傷を行っている人々に対して強く抗議するとともに、ただちに誹謗中傷行為を止めるように強く求める。
 また、当会は、性被害にあったすべての人に寄り添い、関係機関・団体と連携協力のもと、性被害や誹謗中傷についての法律相談事業および権利擁護のための活動を引き続き行っていく所存である。

2024(令和6)年2月21日

福岡県弁護士会     

会 長  大 神 昌 憲

「袴田事件」の再審公判において検察官が再審請求審と同じ争点について有罪立証を行う方針を示したことに対し強く抗議するとともに、改めて速やかな再審法改正を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 検察官は、本年(令和5年)7月10日、いわゆる「袴田事件」について、東京高等裁判所の同年3月13日の即時抗告棄却決定(以下「本決定」という。)に対し、特別抗告を断念し、再審開始決定が確定していたにもかかわらず、再審公判において、有罪立証を行う方針を明らかにした。
2 「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造・販売会社の専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人とされ死刑判決を受けた元プロボクサーの袴田巖氏(以下「袴田氏」という。)が無実であることを訴えて再審を求めている事件である。 
2020年(令和2年)2月22日の最高裁判所による差戻決定後、第2次再審請求審の争点は、事件の1年2カ月後に犯行現場近くの工場内味噌タンクから「発見された」「5点の衣類」に付着した血痕の色調(赤み)に影響を及ぼす要因という点に絞られていたが、本決定は、この「5点の衣類」が「犯行着衣」であり袴田氏のものであるという認定に合理的疑いが生じたとする2014年(平成26年)3月27日の静岡地方裁判所の再審開始決定を支持したものである。
本決定に至る過程では、検察官は、上記「5点の衣類」について実験などを繰り返し、最高裁による差戻後も、東京高等検察庁が1年2カ月にわたりいわゆる「みそ漬け実験」を行うなどしていたが、これについては、2022年(令和4年)11月1日に東京高裁の裁判官による視察が行われ、血痕の赤みが消えていることが明らかになっていた。
当会は、本決定を受けて、本年3月13日、検察官に対し、不服申立て(特別抗告)を行うことなく、速やかに再審公判に移行させることを求めるとともに、再審公判において、一刻も早く、袴田氏に対し無罪判決が下され、その救済が実現されることを期待する旨の声明を発出したところである。
3 ところが、今般、検察官は、今後開かれる再審公判において、有罪立証の方針を表明した。
しかし、報道によると、検察官が再審公判に提出予定としている245点の証拠のうち、大半は既に再審請求審で提出された証拠であって、新証拠とされる16点についても、再審請求審における争点であった「5点の衣類」の血痕の赤みに関する法医学者による共同の鑑定書等とのことであるから、検察官の有罪立証は、既に決着のついた争点について、蒸し返しをするものに他ならない。
そもそも、本件は、事件発生から57年が経過し、第2次再審請求だけでも約15年間経過している。静岡地裁の再審開始決定がされた後も、検察官の不服申立手続において約9年間もの長期間に渡り審理が行われた。袴田氏が87歳(同氏を支えてきた実姉の秀子氏も90歳)と高齢であることに鑑みれば、検察官が再審請求審と同じ争点について再審公判で有罪立証をするなどということは、袴田氏の迅速な裁判を受ける権利ひいては個人の尊厳を侵害する不当な対応であるといわざるを得ない。
したがって、当会としては、検察官のこのような方針に強く抗議するものである。
4 当会は、本年9月13日に再審法の改正を求める総会決議を行った。この決議でも指摘したとおり、再審請求審が長期にわたることが多いこと、再審開始決定が出されること自体が極めて稀であることの大きな原因は、再審請求手続における手続規定の不備、証拠開示制度の未整備、再審開始決定に対する検察官不服申立てが認められている点にある。
  検察官が確定判決の結果が妥当だと主張するのであれば、本来は、再審請求審ではなく、その立証の機会が保障されている再審公判においてその旨を主張するべきであり、不服申立てを認めるべきではないのである。
袴田事件においても、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを許容することにより、約9年間、非公開の再審開始の判断のための審理に長期間を費やすことになったのであるが(手続規定の不備や証拠開示制度の未整備も長期化の原因となっていたことは論を俟たない)、さらに再審公判において検察官が同じ争点を蒸し返してこれ以上長期の主張立証を尽くすことを認める必要はない。
当会は、えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、また、第2の袴田事件を生まないためにも、国に対し、①再審請求手続における手続規定の整備、②再審請求手続における証拠開示の制度化、③再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を中心とする再審法の改正を速やかに行うよう求める次第である。

2023年(令和5年)10月25日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

再審法の改正を求める決議

カテゴリー:決議

 当会は、国に対し、えん罪被害者の迅速な救済のため、再審に関する諸規定(刑事訴訟法第4編)の改正を速やかに行うよう求めるとともに、改正にあたっては少なくとも以下の事項を盛り込むよう強く求める。
1 再審請求手続における手続規定の整備
2 再審請求手続における証拠開示の制度化
3 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止

2023年(令和5年)9月13日

福岡県弁護士会 
 
決議の理由
第1 はじめに
 えん罪、すなわち誤った有罪判決によって人を処罰することが、国家による最大の人権侵害の一つであることは論を俟たない。刑事裁判も人が行う営みの一つである以上、誤判の危険性は常にある。このような誤判によって有罪の確定判決を受けた者(えん罪被害者)を救済する最終、そして唯一の手段が再審制度なのである。
 それにもかかわらず、日本においては、再審請求審が長期にわたることが多いことに加え、そもそも、再審開始決定が出されること自体が極めて稀なこととなっている。
 その原因は複数考えられるが、大きな原因となっているのが、再審請求手続における手続規定の不備、証拠開示制度の未整備、そして、再審開始決定に対する検察官不服申立てが認められている点である。
第2 再審請求手続における手続規定について
 現行刑事訴訟法上、再審に関する規定(第4編再審)は僅かしか存在しない。
 特に、再審請求審に関しては、刑事訴訟法445条及び刑事訴訟規則286条しか存在しないため、証拠開示、三者協議の実施及び新規証拠の明白性を判断するための事実の取調べ等の具体的な審理のあり方については、裁判所の広範な裁量に委ねられており、手続のあらゆる面で統一的な運用がなされていない。
 そのことが、裁判所によって、手続自体そのものの進め方や、証拠開示に対する対応に甚だしい相違が生じるなど、いわゆる「再審格差」といわれる事態を招いている。
 再審請求手続における再審請求人の手続保障を図るとともに、裁判所の公正かつ適正な判断を担保するためには、後述する証拠開示の制度化に加え、進行協議期日(再審請求手続期日)開催の義務化、事実取調べ請求権の保障等をはじめとする、明確で充実した手続規定を早急に整備することが必要不可欠である。
第3 再審請求手続における証拠開示の制度化について
 通常審においては、2004年改正刑事訴訟法において公判前整理手続及び期日間整理手続に付された事件での類型証拠開示や主張関連証拠開示の制度が新設され、2016年改正刑事訴訟法において証拠の一覧表の交付制度が新設されるなどしており、決して十分とは言えないものの、証拠開示制度は着実に前進している状況がみられる。
 これに対し、現行の刑事訴訟法第4編の再審に関する規定には、証拠開示に関する規定は何ら設けられていない。そのため、再審請求手続において、弁護人の証拠開示請求に応じた証拠開示がなされるか否かは、裁判所の裁量に基づく個別の訴訟指揮及び検察官の対応に委ねられている。しかし、えん罪被害者が救済される唯一の制度である再審請求手続において、裁判所の証拠開示の判断、あるいは検察官の対応によって結論が変わるなどということは、絶対にあってはならないことである。
 この点、布川事件、袴田事件及び大崎事件等多くの再審請求審において、捜査機関の手元にある重要な証拠が開示され、それらが突破口となって再審の扉を開いたものも少なくない。
 また、証拠開示が実現した事件であっても、開示までに不当に長い年月を要したもの、捜査機関が長きにわたり証拠を隠蔽していたと疑われるものなど、迅速かつ適切に証拠開示が行われていたわけではない。
 当会においても、現在、再審請求手続が行われているいわゆる「マルヨ無線事件」において、裁判所からの証拠開示勧告に対し、検察官が「不存在」と回答した証拠が、後になって開示されるといったことがあり、全国的にも大きく報道された。また、いわゆる「飯塚事件」においては、裁判所が、検察官に対し、証拠品のリストを開示するよう勧告したにもかかわらず、検察官が勧告に応じないという事態が生じているとの報告もある。この両事件での問題は、再審請求手続における証拠開示制度の不備に起因する点で共通している。
 このように、適時適切な証拠開示がなされないことが再審請求手続の長期化の一因となっており、ひいては、えん罪被害者の迅速な救済を阻害しているのであるから、充実した証拠開示制度の創設は急務である。
 さらに、2016年改正刑事訴訟法においては法制化には至らなかったものの、附則9条3項では、政府は改正法公布後、必要に応じて速やかに再審請求手続における証拠の開示について検討するものと規定された。しかし、未だに再審請求手続における証拠開示の制度化は実現していないばかりか、新たな証拠が発見された例なども生じ、証拠開示の重要性、必要性が強く認識されたにもかかわらず、検討の緒にすらついていない。
第4 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止について
 これまで多くの再審事件において、検察官が、再審開始決定に対して不服申立てを行い、再審開始決定の確定まで長期間を要する事態がみられ、再審請求審が長期化し、えん罪救済が遅れる大きな原因となっている。
 そもそも、再審制度が利益再審のみしか認めていないことに鑑みれば、再審請求手続における検察官の役割は「公益の代表者」として裁判所が行う審理に協力する立場に過ぎず、一度、再審開始の判断が出されたにもかかわらず、検察官に再審開始決定に対する不服申立権を認める理由はないはずである。
 また、再審開始の判断が出された以上、有罪か無罪かの判断は再審公判において行われるべきであり、検察官が改めて有罪の主張を行うのであれば、再審公判においてその旨主張すれば足りる。すなわち、検察官の再審開始決定に対する不服申立てを禁止したとしても、何らの不都合は生じない。
 したがって、えん罪被害者の迅速な救済のためには、法改正によって、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが禁止されなければならない。
第5 結語
 以上のとおりであるから、当会は、えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、国に対し、①再審請求手続における手続規定の整備、②再審請求手続における証拠開示の制度化、③再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を中心とする再審法の改正を速やかに行うよう求める。

以上

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