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入管法改正案の再提出に強く反対し、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める会長声明

カテゴリー:声明

当会は、2020年9月16日「「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」の内容を踏まえた法改正に反対する会長声明」(以下「前回会長声明」という。)において、上記提言の内容を踏まえた出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)等の一部を改正する法律案に強く反対した。
また、当会もその構成員である九州弁護士会連合会は、2022年10月28日、「2021年法案と同種の入管法改正に反対するとともに、憲法、国際人権条約に適合する入管法改正・運用改善を求める決議」を行った。
 しかし、報道によると、2023年1月23日召集の通常国会において、政府は、2021年に事実上の廃案となった入管法の改正法案(以下「廃止法案」という。)の骨格を維持したまま、これを再提出する方針とのことである。
 政府が再提出を予定する法案(以下「本再提出法案」という。)の概要としては、①庇護・在留を認めるべき者の適切・迅速な判別のためとして、在留特別許可・難民認定手続を一層適切かつ迅速にするための措置及び「補完的保護対象者」の創設が、②在留が認められない者の迅速な送還のためとして、送還停止効の例外規定の創設、罰則付の退去等命令制度の創設、自発的出国を促すための措置が、③長期収容の解消及び適正な処遇の実施のためとして、収容に代わる代替措置の創設、仮放免の在り方の見直し、適正な処遇の実施が内容とされているようであるが、いずれも廃止法案で指摘された重大な問題点について、根本的な見直しがなされておらず、憲法や各種国際人権条約に適合しないものであって、当会は、本再提出法案に対しても、以下の理由により、強く反対するとの立場を改めてここに表明する。
 まず、本再提出法案の上記①の内容については、前回会長声明でも指摘したとおり、我が国の難民認定率は諸外国と比べて極めて低く、本来難民として保護されるべき人々を多数とりこぼしている現状にあり、この点は、2022年11月の国連自由権規約委員会総括所見でも、懸念が示され、国際基準に則った包括的な難民保護法制の早期導入が勧告された状況にある。それにもかかわらず、本再提出法案の上記②の内容として、送還停止効の例外規定の創設を認めることは、迫害を受ける人々を、時に命の危険すらある本国に送り返す危険すらあるのであって、上記国連の勧告に逆行するものといわざるを得ない。また、罰則付の退去等命令制度の創設も、本来難民として保護すべき人々を罰則の威嚇により、迫害を受ける恐れのある祖国への帰国を迫るものであって、難民条約第33条第1項「ノン・ルフールマンの原則」(締約国は、難民を、生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない)に照らし、許容できない。
このような送還停止効に対する例外規定の創設や罰則付の退去等命令制度の創設は、著しく低い難民認定率の中において、複数回の申請や司法手続を経てようやく難民と認められるケースや人道的配慮から在留特別許可が認められるケースも決して少なくないことに照らせば、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害するものであり、許容することはできない。
また、このような罰則付の退去等命令制度の創設は、むしろ、脆弱な地位にある外国人の支援者等の人道的活動を萎縮させるおそれがあり、その点からも許容することはできない。
さらに、本再提出法案の上記③の内容についても、前回会長声明でも述べたとおり、長期収容の解消は、収容を送還に必要な最小限でしか用いないこと、司法審査を導入すること、収容期間の上限を設けること等(これらの点も前述の国連の勧告において示されている)によってこそ解決されるのであって、本再提出法案によっては、これまで繰り返されてきた入管収容施設における被収容者の死亡事案の発生や適切な医療が受けられず困難な状況におかれるといった重大な人権侵害を防ぐことはできない。
当会は、九州最大の福岡出入国在留管理局が設置された地域の弁護士会であり、大村入国管理センターに収容されている外国人を含む外国人を支援してきた弁護士会としての責務がある。
以上から、当会としては、本再提出法案に対しても断固として反対するとともに、前述の国連から勧告された包括的な難民保護法制の早期導入、全件収容主義や実質無期限収容主義を採る日本の収容政策の根本的な見直しなど、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める。

2023年(令和5年)3月2日

福岡県弁護士会

会 長  野 田 部 哲 也

日野町事件第2次再審請求事件即時抗告棄却決定に対し、検察官に特別抗告をしないよう求める会長声明

カテゴリー:声明

1 大阪高等裁判所(石川恭司裁判長)は、2023年(令和5年)2月27日、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求事件の即時抗告審において、検察官の即時抗告を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「日野町事件」は、確定判決によれば、1984年(昭和59年)12月、故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)が滋賀県蒲生郡日野町において酒店を営んでいた当時69歳の被害女性の店舗兼住宅ないしその周辺で被害女性の頚部を手で締め付けて殺害し、店舗兼住宅にあった手提げ金庫を奪ったとされた強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月になって、酒店の常連客であった阪原氏が、任意同行の名のもとに連日、長時間の取調べを受けることになり、当初はアリバイを主張するなどして事件への関与を否認していたものの、結局、被害者を殺害して金庫を奪ったことを認める供述をするに至り、捜査官に対してはこの自白を維持した。こうして阪原氏は、強盗殺人罪で起訴されたが、第1回公判期日においては、否認に転じ、以降一貫して犯行への関与を否認した。
ところが、一審の大津地方裁判所は、1995年(平成7年)6月、阪原氏の自白について任意性は認められるものの、信用性が高いとは言えないとしつつ、阪原氏が犯行時刻ころ店舗兼住宅付近にいたことが認められること、阪原氏の指紋が被害者宅の小机にあった丸型両面鏡に残されていたこと、阪原氏が破壊されて棄てられていた手提げ金庫の発見場所等を知っていたことなどの間接事実を認定した上で、阪原氏の犯人性を肯定し、無期懲役の有罪判決をした。その後、阪原氏の控訴・上告がいずれも棄却され、2000年(平成12年)9月、一審判決が確定した。阪原氏は、2001年(平成13年)11月、再審請求をしたものの、2006年(平成18年)3月、大津地方裁判所が再審請求を棄却したことから、即時抗告していたところ、その係属中に亡くなった。今般、阪原氏の遺族が、阪原氏の雪冤のため、2012年(平成24年)3月に再審請求を申し立てていたところ、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月に再審開始を決定したのに対し、検察官が即時抗告をしていたものである。
3 そもそも「日野町事件」は、阪原氏が犯人であることを示す直接の物的証拠がなく、いわゆる状況証拠も阪原氏と犯人を結びつけるものではなく、任意性と信用性に疑問がある自白調書によってかろうじて阪原氏の犯人性が支えられていた。阪原氏が自ら申し立てた第1次再審請求や今般の再審請求において、多数の新証拠が提出され、自白の重要部分が客観的な証拠と矛盾していることが明らかとなっていた。原決定も、そして、本決定も、再審請求における新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に即した実に当然の判断である。
4 当会は本決定を高く評価するものであり、本決定について検察官が特別抗告をすることなく、早期に再審公判を開始し、阪原氏の無罪を確定させることを強く求める。同時に、2022年(令和4年)8月24日付け「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明で述べているとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める。

2023年(令和5年)2月27日

福岡県弁護士会

会 長  野 田 部 哲 也

東京地裁判決を受け、改めて、早急にすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 2022(令和4)年11月30日、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、東京地方裁判所は、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する旨の判決(以下「東京地裁判決」という。)を言い渡した。
2 東京地裁判決は、「婚姻により得ることができる、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益」であることを前提に、「同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重大な人格的利益に当たるということができる。」と認定する。
  そして同判決は、「現在、同性愛者には、パートナーと家族になることを可能にする法制度がなく、同性愛者は、その生涯を通じて、家族を持ち、家庭を築くことが法律上極めて困難な状況に置かれている。家族を持たないという選択をすることも当該個人の自由であることは当然であるが、特定のパートナーと家族になるという希望を有していても同性愛者というだけでこれが生涯を通じて不可能になることは、その人格的生存に対する重要な脅威、障害であるということができる。」と述べ、同性カップルの置かれている苦境を的確に認定した上で、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断した。
3 2021(令和3)年3月17日、札幌地方裁判所は同種訴訟において、本件諸規定が憲法14条1項に違反すると判断しているところ、東京地裁判決はこれに引き続き、同性カップルについて家族となるための法制度が存在しないことを違憲とするものであり、その意義は極めて重大である。
  同種訴訟における2022(令和4)年6月20日大阪地裁判決は、本件諸規定の違憲性を認めず、その点は不当であったが、同判決においても、婚姻をした当事者が享受し得る利益には、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができる「公認の利益」があり、これは人格的尊厳に関わる重要な人格的利益であって、同性カップルにとっても同様にその人格的尊厳に関わる重要な利益として尊重されるべきものとしている。
  以上からすると、同性カップルについても、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは、もはや確定したものというべきである。
4 当会は、2015(平成27)年より両性の平等に関する委員会の中にLGBT小委員会を発足させ(2018(平成30)年10月からはLGBT委員会)、行政と連携してLGBT無料電話法律相談を実施したり、毎年の「九州レインボープライド」への出展を行うなど、性的マイノリティの問題は人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題であると位置付けて活動している。
そして、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを改めて求めた。
  しかしこの間、本問題に関する政府・国会の動きは無いに等しく、上記法制度の整備に向けた具体的な準備は、全くなされていない状況である。現在の同性カップルについて法制度がない状態を「同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害である」とまで厳しく断じた今般の東京地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、速やかに、同性間の婚姻制度を整備すべきである。
  なお、東京地裁判決は、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきである。
2023年(令和5年)1月18日
福岡県弁護士会     
会 長  野田部 哲也

特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えることを求める会長声明

カテゴリー:声明

1 「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)が本年4月1日に施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について公判請求(起訴)された場合に、氏名、年齢等、その者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事などを新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が解除された。
そして、2022年(令和4年)11月28日、福岡県内で特定少年2名が起こしたとされる事件について、福岡家庭裁判所久留米支部が検察官送致決定をしたことから、今後、この事件が福岡地方裁判所に公判請求される可能性が高く、その場合、特定少年の推知報道が可能となる。
2 推知報道がなされることにより、その後のインターネット、SNSによる情報拡散などを通して、少年が長期間にわたって社会から疎外され、地域からの援助の機会を失い、ひいては少年の社会復帰が著しく制限されるおそれがある。特定少年についても、少年法が目的とする健全育成の趣旨が及ぶことは明らかであるところ、こうした結果は、健全育成の趣旨に反するものである。
3 推知報道を一部認める法改正の審議の過程では、参議院法務委員会において、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされている。
4 当会は、2015年(平成27年)6月25日に「少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明」を、2020年(令和2年)12月9日に「法制審議会答申(諮問第103号)に反対し、改めて少年法適用年齢引下げに反対する会長声明」をそれぞれ発出し、両声明において、推知報道が少年の更生において重大な支障となることを指摘してきた。
 今般、前述の検察官送致決定がなされたことを受け、当会は、検察庁に対して、特定少年に関する事件広報において、少年の健全育成及び更生に対する影響の大きさから実名等の公表を控えるように求めるとともに、報道機関に対して、仮に公判請求後に検察庁により特定少年の実名公表がなされた場合にも、推知報道を控えるように求める。

2022年(令和4年)11月29日
福岡県弁護士会会長 野 田 部 哲 也

現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードの取得を義務化することに反対する会長声明

カテゴリー:声明

1 デジタル庁による不明確な説明と事実上の義務化
  本年10月13日、河野太郎デジタル大臣は2024年秋に現在の健康保険証を廃止を目指すと発表した。記者の「マイナンバーカード所持の義務化なのか」という質問に対し、「しっかり取得していただくのが大事」「ご理解をいただけるように、しっかり広報していきたい」など、マイナンバーカードを所持しない選択肢の存在について回答しない答弁に終始した。これは、マイナンバーカード取得の事実上の義務化と考えられ、到底許されるものではない。
さらに、本年11月8日、デジタル庁は、「健康保険証との一体化に関する質問について」と題する説明をウェブサイトで公開した。マイナンバーカードは必ず作らなければいけないのでしょうか、というQ1に対する回答として、「マイナンバーカードは、国民の申請に基づき交付されるものであり、この点を変更するものではありません。また、今までと変わりなく保険診療を受けることができます。」「なお、紛失など例外的な事情により、手元にマイナンバーカードがない方々が保険診療等を受ける際の手続については、今後、関係府省と、別途検討を進めてまいります。」などとする。
しかし、紙の健康保険証を2024年秋をめどに廃止しながら、「今までと変わりなく保険診療を受ける」方法は示されておらず、マイナンバーカードを所持したくない市民の保険診療を受ける権利は全く明らかでない。現行の健康保険証のように、マイナンバーカードの取得以外の方法が保障されるのであれば、直ちに明確な説明が容易にできるはずであり、すべきである。にもかかわらず、殺到する市民の質問に対する回答がこの内容なのであれば、保険診療を受けたい市民に対しては、マイナンバーカードの取得を事実上義務化することが前提であると言わざるをえない。
2 マイナンバーカード取得の義務化の問題点
 (1) 権利が義務になる問題点
健康保険証は、医療サービスを受けようとする者の全員が持たざるを得ないものであり、現行のものを廃止されれば、本来利便性を求めるものが任意で取得する「権利」であったはずのマイナンバーカードの取得は、国民の「義務」に逆転する。
当会は、マイナンバー制度に対して、病気や障がいなどのセンシティブな情報の収集・蓄積と名寄せの手段となり、プライバシー権を侵害するとして反対してきた(2013年(平成25年)5月10日「共通番号法」制定に反対する声明等)。マイナンバーカードの取得が任意の制度とされている趣旨は、プライバシー権を重視する市民に「カードを持たない自由」を保障するというプライバシー保護が根幹にある。マイナンバーカード取得の事実上の義務化は、このプライバシー保護の根幹を侵すものとして許されない。
健康保険証との一体化のメリットとして挙げられている資格過誤の割合はわずかに0.27%にすぎない。しかも、過誤の防止のためには目視でもよいことからすると、患者の指紋を逐一チェックするに等しい顔認証チェックはいわゆる比例原則に反しており、過剰なプライバシー侵害として、民法上違法である。
さらに、法律で厳重な管理を要するとされるマイナンバーが記載されたカードを、日常生活で頻繁に利用され、携帯されることも多い健康保険証と一体化することは、制度的に矛盾しており、紛失や漏洩の機会が飛躍的に増大する。
(2) 顔認証チェックの既成事実化について
  また、マイナンバーカードのICチップには顔画像データが登載されているところ、医療機関の窓口では、カードリーダーによってこの顔画像データから顔認証データ(目・耳・鼻などの位置関係等の特徴点を瞬時に数値化したもの)を生成し、顔認証チェックによる本人確認を行うことになる。
しかしながら、顔認証データは、指紋の1000倍の本人確認の精度があるため、我が国でもこれを用いた本人確認が実用化されているが、その収集・利用が強制である場合、必要性・相当性が欠ければ違法なプライバシー侵害となりうる。
この点、当会は、2014年(平成26年)5月27日に、警察が法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明を発した。罪もない市民の行動を監視することが容易になり、プライバシー侵害ばかりでなく、市民の表現の自由を萎縮させる危険が大きいからである。
EU(欧州連合)では、GDPR(一般データ保護規則)9条1項で顔認証データの原則収集禁止を掲げ、空港やコンサート会場での顔認証システムの使用に際しても、同意していない客の顔認証データを取得しないようにしなければならない。
我が国でも、顔認証チェックによる本人確認について、民間における顔認証データの利用場面においても、利用できる条件等についてのルールを法律で作成しないまま運用されるべきではない。
また、2021年8月の当会の調査によると、福岡市民でマイナンバーカードを取得したものの顔画像データは、福岡市の手元にはないものの、委託先であるJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)が保存しており、「論理的には、福岡市が福岡市民の顔画像データを管理している状態」とのことであった。マイナンバーカードが事実上義務化されると、全ての市民の顔画像データがJ-LISに集積されることとなる。デジタル改革関連法により、J-LISには、国が強く関与するよう変更されたため、これらのデータは、国と自治体の共同管理下に移行した。国が全ての市民の顔画像データを収集し、顔認証カメラにより常時監視し、点数化している中国のような濫用事例すら懸念される。民主主義国家では絶対にあってはならない重大なプライバシー侵害であり、到底許容されえない。
3 結論
現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカード取得の事実上の義務化をすること、のみならず法律による限定のないままの顔認証チェックを既成事実化することは、重大なプライバシー侵害と監視社会状況を招く懸念があり、許されない。
当会は、昨年5月6日に同様の会長声明を発し、シンポジウムを繰り返し実施して社会への問題提起を続けているが、それでもプライバシー侵害が強行される事態は甚だ遺憾である。主権者である市民が、政府のデータ活用の客体におとしめられる事態を避けるため、現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードの取得を義務化することは反対である。
             2022年(令和4年)12月26日
            福岡県弁護士会会長 野 田 部  哲 也

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