福岡家庭裁判所は、2026年(令和8年)7月14日、当会に所属する外国籍会員(以下「当会外国籍会員」という。)が2025年(令和7年)12月25日付けで応募した2026年(令和8年)10月1日付け任命の家事調停委員について、福岡家庭裁判所の家事調停委員候補者選考委員会における選考の結果、その候補者として選定しなかった(以下「不採用」という。)。
当会外国籍会員に届いた同年7月14日付の福岡家庭裁判所からの通知書には、その「不採用」の理由が記載されていなかった。
そこで、当会は、同年8月10日付けで、不採用の理由及び不採用の理由が日本国籍を有しないことと関係する場合には国籍が調停委員の選考にあたりどのような影響があるかについて、福岡家庭裁判所に文書による説明を求めた。
しかし、福岡家庭裁判所からの回答はなかった。
もっとも、最高裁判所は、日本弁護士連合会からの2004年(平成16年)、2008年(平成20年)の照会に対し、「公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員」に当たることを理由に調停委員には日本国籍が必要である(いわゆる「当然の法理」)と回答していることからすれば、上記「不採用」の理由も、日本国籍がないことを理由としていることが推測される。
しかしながら、民事調停法、家事事件手続法並びに民事調停委員及び家事調停委員規則には、調停委員の資格要件や欠格事由として日本国籍の有無に関する規定はなく、法令上、調停委員に関する国籍要件は存しない。外国籍であることを理由に調停委員の候補者としない裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設するもので法治主義に反する。また、調停委員の職務内容は、説得調整活動が中心で、自ら公権的判断を行うことはない。かような調停委員の職務内容の実態を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであり、国籍を理由とする不合理な差別であって、憲法第14条に違反する。
しかも、当会外国籍会員は、弁護士登録歴が15年を超え、その間家事手続を含め多くの事件処理にあたっている実務経験の豊富な会員であり、調停委員候補として十分な資質・経験を有する会員である。それにもかかわらず、日本国籍がないことをもって「不採用」としたとすれば、看過できない。なお、同会員は、過去に当会の副会長、日本弁護士連合会の理事に就任するなど、公益的役職も務めている。
また、2025年(令和7年)9月、福岡家庭裁判所から当会に対して家事調停委員の募集に関する周知要請がなされ、2026年(令和8年)7月にも同様の周知要請がなされていることからすれば、調停委員の人材確保が急務となっているはずである。それにもかかわらず、外国籍者を差別し、排除することは、充実した司法、調停制度の実現との関係においても矛盾した対応といわざるを得ない。
これまで、当会は、2010年(平成22年)3月、「国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める声明」を発し、また、2025年(令和7年)5月28日、「外国にルーツを持つ人々に対する人権保障の強化及び多民族・多文化が共生する社会の確立に取り組む宣言」を採択し、その中で、「司法の分野における調停委員、司法委員、参与委員に外国籍者を任命しないという、法令に根拠のない運用を改めさせるため、最高裁判所及び福岡県内の裁判所に対し、積極的に働きかけていくこと」を表明している。
そこで、当会は、当会外国籍会員の家事調停委員の不採用に強く抗議するとともに、福岡家庭裁判所に対して、当会外国籍会員を家事調停委員候補者として最高裁判所に上申することを求める。そして、最高裁判所に対しては、従来の運用を改め、「弁護士となる資格を有する者、民事もしくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識を有する者または社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば、日本国籍の有無にかかわらず、等しく民事調停委員及び家事調停委員に任命するよう求める。
2026年(令和8年)9月9日
福岡県弁護士会
会 長 池 田 耕一郎


