福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2015年5月号 月報

あなたの会社も女性弁護士を社外役員にしませんか? ~女性社外役員候補者名簿をご活用ください~

月報記事

両性の平等委員会 委員長 松 尾 佳 子(55期)

1 はじめに

企業統治(コーポレート・ガバナンス)の観点から、会社法や株式市場の指針で、独立性の高い社外取締役を置くことが企業に要請されています。また、政府は女性の活躍推進を、成長戦略の中核としており、民間企業における役員への登用促進を期待しています。

この「社外役員の選任」と「女性役員の登用」の要請を一気に解決する「女性社外役員選任」へ向け、内閣府は、女性役員登用促進事業「はばたく女性人材バンク」として女性社外役員候補者のデータベースを構築しています。内閣府は日弁連等へ、かかるデータベース作成事業について協力を要請し、福岡県弁護士会でも、これに応えるべく、女性社外役員候補者名簿を作成し、平成27年1月1日より、名簿の提供を希望する企業への名簿提供を始めました。当会の他、東京三会、大阪、横浜の各単位会が女性社外役員候補者名簿制度を策定しています(日弁連HP~社外役員をお探しの企業の方へ~女性弁護士の候補者名簿ご案内参照)。

2 福岡県弁護士会における女性社外役員候補者名簿提供事業の特色

当会では、金融商品取引所において株式を公開している会社だけでなく、福岡県及びその周辺の地域に所在する株式会社へも、名簿提供の申込みがあった場合には、弁護士会担当者の面会を経た上で、名簿を提供します。前述の内閣府のデータベースは、上場会社における女性社外役員の候補者を念頭に置いたものですが、当会は、女性社外役員の登用を考える企業であれば、上場、非上場を区別することなく、また、県外の企業へも、個別に提供することを予定しています。

3 女性社外役員候補者名簿の登録要件

当会の名簿登録要件は、次のとおりです(女性社外役員候補者名簿の作成及び提供に関する規則3条2項参照)。

  1. 弁護士登録の期間が通算して3年を超えていること。
  2. 履修義務のある倫理研修及び本会が指定する研修を受講していること。
  3. 弁護士業務を行っている会員については、弁護士賠償責任保険の被保険者であり、かつ、保険金額が1億円以上であること。
  4. 過去に懲戒処分を受けていないこと(業務停止の期間が満了した日又は戒告の効力が生じた日から3年を経過している場合を除く。)。
  5. 会務活動、懲戒処分歴、会費の納入状況その他の事情を考慮して、候補者名簿に登載することが不適当と認める事由がないこと。
4 女性社外役員候補者名簿への登録手続

当会では、毎年、女性会員へ、女性社外役員候補者名簿の登録を募ります。名簿は毎年9月末日に更新していくことを予定しています。

また、「本会が指定する研修」を受講することが登録要件となっています。どのような研修を受ける必要があるのか、についても随時お知らせしていく予定です。なお、本年度の名簿登録のための研修としては、日弁連eラーニング、「コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座~社外役員・企業内弁護士等が押さえておくべき基礎知識~」(第1回~第3回)を指定しています。

登録要件を満たし、名簿への登録を希望される女性会員は、所定の様式の申請書にて申込み下さい。

5 シンポジウム「あなたの会社の『女性活躍推進』弁護士が手伝います」開催報告

当会の女性社外役員候補者名簿提供事業を、広く企業の皆様へ知って頂きたいと考え、去る3月4日(水)14:00、天神センタービル8Fにおいて、シンポジウム「あなたの会社の『女性活躍推進』弁護士が手伝います」を開催しました。企業13社、弁護士22名の参加がありました。

シンポジウムでは、内閣府男女共同参画局推進課課長補佐木山悠様から、内閣府の「はばたく女性人材バンク事業について」の基調報告がありました。

また、三菱UFJ信託銀行株式会社証券代行部副部長牧野達也様から、「女性活躍推進への期待」と題して、「女性役員の登用を促進する施策の概要」、「コーポレートガバナンス・コードと女性役員登用」、「女性社外役員登用に際しての検討事項」について講演がなされました。

さらに、当会会員の大神朋子弁護士より、社外監査役(コカ・コーラウエスト株式会社)として、女性弁護士が企業内で果たす役割について、実務に基づく貴重な体験談をお話しいただきました。

6 積極的なチャレンジを!

シンポジウムでは、アンケートを実施しましたが、当会の女性社外役員候補者名簿制度に対する意見として、「名簿登録者を増やして欲しい」、「候補者探しの手段が増えることは良い」等の積極的な意見・要望を頂きました。かかる要望に応えるためにも、当会では、多くの女性会員に名簿に登録して頂き、希望する企業へ名簿を提供していきたいと考えています。

女性弁護士が社外役員になることで、企業のダイバーシティを推進させるだけでなく、より高度化、複雑化している企業コンプライアンスを強化することが期待できます。

弁護士は、男女問わず、修羅場を何度も経験しているので度胸が身についていますし、論理的に問題点を整理しそれを伝える能力に長けていると思います。
社外役員という新たな分野への積極的なチャレンジをお願いします。

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あさかぜ基金だより ~対馬ひまわり基金法律事務所引継式−2人の弁護士の熱い想い~

月報記事

あさかぜ基金法律事務所 弁護士 西 村 幸太郎(66期)

はじめに

平成27年3月30日、対馬グランドホテルにて。

記者会見の席上、懸命に涙をこらえながら、それでいてしっかりと、自らの熱い想いを語る弁護士の姿がありました。

「敷居が高い」弁護士と島民の間の距離を、少しでも縮めたい。想いを託して命名した「あんしん相談」。島民の1人1人に、安心して生活を送って欲しいという願いを込めて、日々の業務に取り組んできたと語ったのは、対馬ひまわり基金法律事務所で尽力されてきた伊藤拓弁護士です。

同じく、同事務所に赴任する青木一愛弁護士も、負けじと想いを語ります。

「悩みを抱えている島民に安心していただくためには、弁護士自らが手をさしのべていくべきだ。積極的に『アウトリーチ』活動に取り組んでいきたい。」「女性弁護士である妻とともに、活動の幅を拡大していきたい。」

対馬ひまわり基金法律事務所引継式のワンシーン。学ぶところが多く、大変有意義なセレモニーでした。その内容を、ご紹介させていただきます。

退任のご挨拶(伊藤拓弁護士)

伊藤弁護士を一言であらわすと、とにかく「熱い」の一言に尽きると思います。当時の長崎県弁護士会会長梅本國和弁護士のお墨付きです。

特に印象的なエピソードは、冒頭で紹介した「あんしん相談」についてです。

弁護士にとっては当たり前のことであっても、その当たり前のことを説明し、「あなたは大丈夫ですよ、安心して生活してください」とアドバイスしてあげるだけで、島民の不安を取り除くこともできるのではないか。法律問題の助言に限らず、より広く、「あんしん」を与える助言を行うことも必要だ。そのためには、「法律相談」という堅苦しいネーミングではなく、「あんしん相談」という形で、島民と弁護士の距離を縮めてはどうだろうか。

現場の弁護士が、如何に悩み、創意工夫を凝らしてきたかが直に伝わり、感銘を受けました。

伊藤弁護士は、「対馬では法律相談業務に追われる日々であった。相談には、自分なりに十分な予習をして臨み、1度たりとも手を抜いたことはないと自負している」とも語ります。私は、あそこまで自信をもって語れるだろうか。そのような自問自答をしながらも、私も負けずに、日々の業務に全力で取り組んでいきたいと、決意を新たにしたものでした。

赴任のご挨拶(青木一愛弁護士)

青木弁護士も、新天地における今後のビジョンを、やはり「熱く」語りました。

法の支配を徹底させるために、島民に「手をさしのべる」活動を行いたい。冒頭で述べたアウトリーチ活動について、自らの展望を語ります。アウトリーチとは、相談者が事務所に訪問する従前のスタイルを打ち破り、自ら相談者のもとに出掛け、島民の相談をすくいあげる活動のことです。

青木弁護士は、福岡県弁護士会・高齢者障害者委員会にて、アウトリーチPTメンバーとして精力的に活動をしていた実績があり、益々の活躍が期待されるところです。

更に、愛妻家である青木弁護士は、妻の青木敦子弁護士とともに、弁護士2人体勢で事務所運営を行っていくという、これまでにないスタイルの運営に挑戦します。

女性弁護士の存在は、特に女性の相談者には心強いものでしょう。アウトリーチ活動においても、1人は事務所に在駐でき、効果的な運営ができると期待されるところです。

青木弁護士も、奥様と協力し、伊藤弁護士に勝るとも劣らない、創意工夫にあふれた活動を展開することと思います。

おわりに

引継式終了後、対馬ひまわり基金法律事務所を訪問しました。

現地にて拝聴するお話は、格別のものです。過疎地への赴任を目指す弁護士として、大変貴重で、刺激のある1日を過ごすことができました。
本稿でご紹介いたしました伊藤弁護士、青木弁護士の両名は、私が所属するあさかぜ基金法律事務所の先輩弁護士にあたります。後輩である私も、本日の経験を胸に刻み込んだ上で、高い志とスキルを身につけ、過疎地における司法サービスを充実できるよう、日々の業務に邁進していく所存です。

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◆憲法リレーエッセイ◆ 「9条なし崩しを食い止める」

憲法リレーエッセイ

会 員 津 田 聰 夫(28期)

憲法の改正抜きで集団的自衛権行使を容認する新安全保障体制を法制化しようという動きが進んでいる。前のめりの安倍首相が推し進めているこの動きに対し、与党の中でこれに明確に異を唱える者は見当たらず、野党の一部はむしろこれに同調する姿勢のようである。

憲法の枠内であると称して進めている行政主導で立法を巻込んだこの動きだが、これが憲法の大原則に反するものであることは言うまでもない。すなわち、内容的には、憲法第9条や同99条に対する明白な違反である。憲法を変えることなくそれを実施しようというのだから、紛れもなく立憲主義違反の行為である。

この動きを見ると、過って反対する者を許さず全国民を巻込んでわが国を戦争の惨禍に陥れた歴史や、ナチスがクーデター的に全ドイツを戦争国家に変えていった悪夢の繰返しが新たな一歩を踏み出そうとしていることを感じて慄然とする。

もとより、世界の状況は、先の大戦前のとは大きく異なっており、他国に対する侵略は、公式的には、許されないとされている。だから、大日本帝国の過っての対外侵略が単純に再現されるといったことはなかろう。新安保体制は憲法の柱である恒久平和主義と紛らわしい「積極的平和主義」を目指すとされている。

しかし、ベトナム戦争で敗退し、さらに、イラクやアフガニスタンに軍事介入してきて、現在の中東における混乱の遠因を作ったアメリカが集団的自衛権行使の主要な「お友達」というのだから、これは正しくは積極的戦争主義と言い直すべきであろう。

憲法抜きの法制化という欺瞞的なやり方により出来た体制のもとでは、それに関わる具体的紛争事件が生じない限り、その違憲性を司法の場で問うことは出来ないとされている。しかも、その司法が毅然として国民の負託に応える姿勢を示すかどうか、はなはだ心もとない。

もしこの法制が出来れば、それを覆すには、主権者国民の多数を基礎に国会でも議員多数の賛同を得て、この法制を廃止するしかない。しかし、いったん出来た法制を変えることはなかなか困難な課題であろう。可能であれば、立憲主義が民主主義の基本であることを国民多数の共通認識にして、その圧力で法制化を食い止めたい。

集団的自衛権の法制化を止めさせ得るほどの国民多数の意思の結集が出来るか、容易ではないだろう。言えることは、心ある者全て、周りの人々に戦争への道に反対することを訴えて、訴えた人を訴える人に変え、ねずみ算式に訴える人を増やしていき、国民の大多数を立憲派にすることを目指す、それしかないのではないか。
変える相手は1人でも2人でもよい。出来る人は、もちろん、いくら多くともよい。日本の将来を憂う者、全て、本気になって周りに働きかける人になる、その意味で「活動家」になる、それしかない、と思う。

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「転ばぬ先の杖」(第14回) 「相続放棄という制度もあります。」

転ばぬ先の杖

会 員 吉 武 みゆき(59期)

1 はじめに

この「転ばぬ先の杖」シリーズは、月報をご覧になられた一般市民の方向けに弁護士相談の必要性を紹介するコーナーです。

今回は、日頃法律相談を受けていて意外に知られていないと感じる、相続放棄の制度についてご説明します。なお、条文や判例を示しての説明を好まれる方もおられますので、簡単に触れています。

2 相続放棄とは

相続では、通常+の財産だけではなく−の財産も相続します。+の財産も−の財産もひっくるめて相続自体がなかったようにする方法が相続放棄です。

3 手続

相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことを知り、かつ自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります(民法938条、民法915条1項本文)。

家庭裁判所に行けば相続放棄のための所定の用紙をもらえますし(最高裁判所のHPからダウンロードすることもできます。)、戸籍等必要な添付書類も教えてくれます。遠方の役所から多数の戸籍の取り寄せが必要になって間に合わなければとりあえず事情を説明の上申述書を先に3ヶ月以内に提出し、後日添付書類を提出することもできます。

家庭裁判所は調査の上、要件を欠くことが明白でなければ相続放棄の申述を受理します。

4 申述期間の伸長

+の財産が多いのか−の財産が多いのか、遺産があるのかないのかさえ不明で、相続放棄するべきかどうかわからず、遺産調査が必要なこともあります。また、事故や過労死の場合など相続人が亡くなった責任を第三者に追求できる可能性があり相続放棄するかどうか慎重に検討すべき場合もあります。

このような場合には家庭裁判所に申立てをして、原則3ヶ月とされる熟慮期間を伸長することができます(民法915条1項但書)。調査に時間を要することが判明した場合にはその旨家庭裁判所に申立てをして再度期間を伸長してもらえることもあります。

5 熟慮期間の起算点の繰り下げ

遺産はないと思っていて何も手続をせず熟慮期間である3ヶ月を経過した後に、督促状が届いて多額の借金(多額の遅延損害金がついていることもあります。)を抱えていたことがわかったという場合、相続放棄ができないと諦めてしまうのは早計です。

最高裁判所は、熟慮期間の起算点について「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時またはこれを通常認識しうべき時から起算するべきである。」と述べています(最高裁判所昭和59年4月27日判決)。

先の事例でも、熟慮期間の起算点を遅らせて督促状が届いた時とみることができれば、まだ熟慮期間である3ヶ月以内の要件を満たすとして相続放棄が認められる可能性があります。

起算点の繰り下げは個別事情が考慮されますので、見通しについて事前に弁護士と相談してみてもよいでしょう。

6 弁護士への相談

相続人になった場合ひとまず弁護士に相談に行き、一緒に問題点を整理してみられてはいかがでしょうか。

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