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刑の一部執行猶予制度に対する意見書

カテゴリー:意見

                         
                         2012(平成24)年5月18日
                                 福岡県弁護士会     
                                 会長 古賀和孝
  
 
第179回臨時国会に提出された「刑法等の一部を改正する法律案」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律案」(以下「本法案」という。)に関する福岡県弁護士会(以下「当会」という。)の意見は以下のとおりである。
意見の趣旨
 当会は、本法案を廃案とし、現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整備したうえで、改めて制度導入の可否を審議することを求める。
意見の理由
1 はじめに
 本法案の提案理由は、「近年、犯罪者の再犯防止が重要な課題となっていることに鑑み、犯罪者が再び犯罪をすることを防ぐため」に、刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度を導入することにあるとされる。
 そして、実刑と全部執行猶予との中間的な刑事責任に応じた刑罰や、施設内処遇後に相応の社会内処遇の期間を確保し、施設内処遇と社会内処遇の有機的な連携をはかる制度が求められ、それが刑の一部執行猶予制度であるとされる(以下、本法案に定める刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度のことを、単に「一部執行猶予制度」という。)。
 しかし、一部執行猶予制度は、第2項及び第3項に述べる理論的問題点及び運用上の問題点を抱えているため、第4項に述べる本来的な制度改革の在り方を踏まえた慎重な審議がなされるべきである。
2 刑の実質的重罰化・処遇の長期化に対する懸念
  本法案における「一部執行猶予」の要件は、「3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合」である。実刑と全部執行猶予との中間的な制度としての一部執行猶予制度の位置づけからすれば、その適用範囲としては、これまで実刑となっていた事例の一部のみならず、これまで全部執行猶予となっていた事例にも適用されうることになる。
そして、全部執行猶予になっていた事例に適用された場合には、これが被告人にとって重罰化を意味することはいうまでもない。
一方、これまで実刑となっていた事例に適用された場合であっても、一部実刑に処せられた上、その後執行猶予に付せられることにより、実質的に被告人に対する監視期間が長期化することとなるのであって、被告人の負担は軽視できないものであり、特に保護観察に付せられた場合はなおさらである。
そして、本法案は、遵守事項違反の場合の執行猶予取消に関する条項において、従来の保護観察付執行猶予違反の場合に規定されている「その情状が重いとき」(刑法62条の2)という文言を削除しており、一部執行猶予制度において遵守事項違反が即収容につながる危険性が高いことに照らせば、かかる被告人の負担は決して軽いものではなく、実質的な重罰化となることが懸念される。
3 刑事罰の保安処分化に対する懸念
本法案において、刑の一部執行猶予は「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に言渡すものとされている。
この要件自体が、被告人の一般社会に対する将来の危険性に着目して被告人の自由を制限することを許容しているともいえ、一部執行猶予制度がいわば保安処分的に運用される危険がある。
この点、一部執行猶予の導入は、刑事責任の評価を変えるものではないとの見解が立案担当者から示されている。
被告人を実刑に処した上で、言い渡された刑期を超える執行猶予期間を付すことが、責任主義との関係上、正当化しうるか疑問である。また、執行猶予を付する場合、宣告刑の量刑が重くなるという従来の実務の実情に照らせば、一部執行猶予の場合の収容期間と執行猶予期間を合算した期間は相当長期にわたることになり、責任主義に照らし、かかる重罰化を正当化することは困難であると考えられる。
このように、一部執行猶予制度については、刑事罰が保安処分化するのではないかという懸念を拭うことが出来ず、また、責任主義との関係で法理論上の問題も孕んでいる。
4 本来的な制度改革の在り方 
(1) 仮釈放の運用改善等
仮釈放とは、懲役・禁錮刑の受刑者を、刑期の満了に先立ち一定の条件のもとに、一定期間仮に釈放して、一般社会において更生させることをはかり、その期間を無事に経過したときには施設に収容することを免除する制度である。仮釈放は、受刑者の改善更生を目的とした刑の執行の一形態であり、仮釈放期間は刑期の残りの期間である(残刑期間主義)。仮釈放の期間がこのように定められたのは、行為責任主義を根拠とするものである。
施設内処遇と社会内処遇との有機的連携をはかるのであれば、行為責任主義との整合性に照らしても、まずは仮釈放制度の運用の改善や、必要的仮釈放の制度の導入が検討されるべきである。
(2) 社会内サポート体制の構築
現行制度上の執行猶予は、全く施設収容を行わず、社会内での処遇がなされる制度である。現行制度の趣旨は、短期間自由刑を科すことによって、かえって対象者の社会復帰が困難となる実情に照らし、施設収容を回避すること、そして、判決の感銘力を背景にした心理的強制を担保として罪を犯した者の自発的更生をはかることである。さらに、取り消されることなく猶予期間を満了した場合には、「刑の言渡しは、効力を失う。」(刑法27条)。現行制度では刑期より長い執行猶予期間が定められるが、これは、全く収容されることがないこと等によって、正当化されうるといわれる。
これに対し、一部執行猶予制度は、実刑にほかならない。
かえって、執行猶予が回避しようとした短期自由刑の弊害は、そのまま生じる可能性がある上、拘禁され、また、全部執行猶予の持つ刑の言い渡しが効力を失うという法的効果もない。
このため、「施設内処遇と社会内処遇の有機的連携」が整備されていない状況で一部執行猶予制度が運用されることになれば、いったん社会から完全に隔絶された被告人を、十分に社会内でサポートできないまま、刑罰を執行されるかもしれないという威嚇力だけで被告人の再犯等を防止するだけの制度となるおそれがある。
社会内サポート体制を整備しないまま一部執行猶予制度を導入することは、制度の目的が実現される可能性が低い中で、いわば見切り発車をするものといわざるをえない。まず、保護観察や更生緊急保護の拡充をし、その実績を踏まえ、改めて、制度導入の可否について審議するというのが、慎重な審議の在り方というべきである。
(3) 小括
被告人の再犯防止という点からみれば、被告人が社会復帰を果たす上で実効性のある「個別化」がされるべきであり、それは、むしろ福祉や医療による社会的援助の方策の充実させる方向である場合も多いと考えられ、より広い視野で社会内処遇の充実を図ることが本筋である。
安易に「中間的」な制度をとりいれることによって、「本来的」な制度(現行制度や将来の制度も含め)の在り方が見失われないよう、現行制度の運用改善や、本来あるべき方向性での新しい施策も並行して検討されるべきである。
  
5 結語
本法案には、第2項及び第3項に述べた問題が内在しているため、当会は、本法案をいったん廃案することを求める。その上で、第4項で述べた現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整えることを先行させ、その実績を踏まえたうえで、改めて制度導入の可否を慎重に審議すべきである。
以 上

会長談話

カテゴリー:会長談話


                会長談話
 本日、当会会員が詐欺の容疑で逮捕されましたことは誠に遺憾です。
 当会は、同会員について預かり金の返還遅滞を理由として、平成24年3月22日、会立件の形で懲戒手続に付し、翌23日、これを公表しました。上記懲戒手続につきましては、4月19日、綱紀委員会の議決を経て、懲戒委員会による審査手続に入っております。
 同会員の行為が返還遅滞に止まらず今回の逮捕容疑事実に及んでいたとすれば、その行為は弁護士に対する信頼を根底から覆すものであることが明白です。
 昨年、当会の別の元会員が業務上横領で有罪判決を受けております。このような問題の続発により、当会のみならず弁護士全体に対する国民の信頼を失いかねない状況に至っていることを深く自覚し、重く受け止めております。
 当会は、国民の皆さまからの信頼を回復するため、不正を行った弁護士に対しては、常に除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
 こうした制度上の措置に加え、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人に更なる自覚を求めるとともに、こうした事件の再発防止策についての検討を急ぐ所存です。
                        2012(平成24)年5月10日
                              福岡県弁護士会
                                会長 古賀 和孝

子ども・子育て新システムに関する意見書

カテゴリー:意見


                      
2012(平成24)年3月30日
                              福岡県弁護士会
                              会長 吉村敏幸
少子化対策基本法によって設置された少子化対策会議は,平成22年6月29日,「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下「要綱」という。)を決定し,政府は平成23年通常国会に法案を提出する予定とされていたものの,同国会における法案提出は見送られた。
少子化対策会議は,平成23年7月29日,それまでの議論の到達点であるとして,「子ども・子育て新システムに関する中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)を決定したが,関係各者から様々な反対意見や慎重意見が出され,政府は更なる議論を余儀なくされた。
その後,少子化対策会議は,平成24年3月2日付で「子ども・子育て新システムの基本制度について」を決議し,そこでは「子ども・子育て新システムに関する基本制度」(以下,「基本制度」という。),「子ども・子育て新システム法案骨子」(以下,「法案骨子」という。)を定め,これに基づいて「子ども・子育て支援法案(仮称)」,「総合子ども園法案(仮称)」並びに「子ども・子育て支援法及び総合子ども園法の施行に伴う関係法律案(仮称)」の三法案の作成作業を急ぎ,税制抜本改革とともに今国会への提出を行うとしている。
しかしながら,基本制度の内容は,中間とりまとめ後の議論を踏まえてもなお,様々な問題点を内包しており,これが法案として提出されて新システムが実施されることになれば,我が国の保育及び幼児教育制度は根底から覆され,子ども,ひいては我が国の未来に取り返しのつかない大きな打撃を与えかねない。
この問題は,国の根幹,未来に影響する重要な問題であるため,実質的な意味での国民的議論が必須なはずであるが,それがほとんどなされないまま,形式的に開かれた形での議論を重ねただけで,まさに来年度から新システムが始まろうとしている。
福岡県弁護士会は人権擁護と社会正義の実現という使命を果たすべく,新システム導入により大きな影響を受けるにも拘わらず自ら声を上げることができない子どもたちや,議論の蚊帳の外に置かれた市民に代わり,同法案の今国会への提出,議決,来年度からの導入に反対し,あるべき保育制度改革につき提言を行うものである。
第1 意見の趣旨
   新システムの導入によって大きな影響を受ける一人ひとりの子どもの権利に照らせば,新システムには,以下の通り多くの問題点がある。
①新システム導入によって,実際にはどのような効果と弊害が生じるかが明らかにしないまま,幼保一体化の看板が全面に掲げられていること
②指定基準の厳格化,明確化が図られていないこと
③児童福祉法24条1項の改悪につながりかねないこと
④財源が不明確なままであること
以上のような問題点があるので,当会は,基本制度及び法案骨子を基礎とした法案の提出,議決,来年度からの新システム導入に反対し,子どもの権利を中心に据え,上記問題点に十分配慮したうえでのシステムの構築と導入がなされるべきであることを提言する。
第2 意見の理由
 1 新システムの骨子及び問題点の概観
   新システムは,幼児期の学校教育・保育について,子どもにとって生涯にわたる人格形成の基礎を培う極めて重要なものであることと捉え,また,非正規労働者の増加などの雇用基盤の変化,核家族化や地域のつながりの希薄化等による親達の苦労を懸念し,子どもと子育て家庭を応援する社会の実現に向けての制度構築を図ると謳い,幼保一体化を主たる柱として具体的仕組みを以下のように示している。
(1) 幼保一体化の目的
   質の高い学校教育・保育の一体的提供,保育の量的拡大による待機児童問題の解消,家庭における養育支援の充実を目的とする。
(2) 具体的な仕組みの骨子
  ① 指定制度の導入
 保育事業拡大のため,多様な事業主体の保育事業への参入を促進する。
  ② 総合こども園の創設
    学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供するため,施設の一体化を図る。
   これらは,一見すると,幼保一体化施設による保育・幼児教育の量的拡大が図られ,一人一人の子どもへの保育・幼児教育の実施がより保障されるようになるかのように思える。
   しかし,以下に述べるとおり,新システムの仕組みとその効果を具体的に検討すると,待機児童問題の実質的解消にどれだけ効果があるのか不明である上,保育の質が低下していくおそれをはらんでいることが明らかである。
  そもそも幼保一体化は,本来的に制度設立の経緯及び目的の異なった幼稚園と保育園を一体化しようとするものであり,そのことの効果と弊害を十分に検討したうえで,これを導入するのであればその効果を最大限発揮しうるような制度でなければならないはずである。
  また,新システムにより,株式会社等のさまざまな団体が保育業界に参入できることになるが,そもそも福祉領域の保育には市場原理になじみにくいものであるところ,指定制度の導入により保育が単なる産業になってしまうことがないように十分配慮される必要があるのに,それが十分なされているとは言い難い。
  さらには,市町村と保護者の費用負担の問題や,新システムの財源についても未だ不透明な部分が多く,今後の日本の未来に大きく影響する保育システムの改革が,財源も不明確なまま導入されることは極めて危険である。この点に関しては,財源が明確になるまでの期間,システム導入による効果と弊害について十分に議論を尽くし,子どもの権利に照らして修正するべきところは修正し,その上で導入するべきである。
2 予定されている新システムの具体的な問題点について
①新システム導入によって,実際にはどのような効果と弊害が生じるかが明確にされないまま,幼保一体化の看板が全面に掲げられていること
  政府は,「質の高い学校教育・保育の一体的提供」を幼保一体化の目的の一つとして掲げているが,そもそもなぜ一体化させる必要があるのかその議論が尽くされたとは言い難い。
  確かに,現代においては、保育園及び幼稚園が、それぞれの本来的なサービスに加えて、保育園が教育的な機能を担い,他方で幼稚園が預かり保育等のサービスを行うようになってきており,そうであれば一体化してしまえばよいのではないかとの意見や要望があることは明らかである。
  もっとも,保育園と幼稚園は,その設立経緯,制度趣旨・目的が元来的に異なっており,既存の幼稚園の空き教室を有効活用して待機児童の解消が図られれば万事解決ということにはならず,幼保一体化の効果と弊害についてはより慎重な議論が必要なはずである。
幼保を一体化すると,そこに通う子どもたちは,それぞれ親の就業の有無によって,園で過ごす時間を異にし,一体的な保育や幼児教育ができなくなるなどの弊害が現在の認定子ども園の現場からも上がっている。
そもそも,保育や幼児教育は,そこで家族以外の人間関係を学ぶ場であるにも関わらず,そこでの保育や幼児教育が,子どもごとに,しかも親の都合によって分断されてしまえば,質の高い保育や幼児教育を実施することはできないのである。
社会的な要望と言った効能面のみを強調するのではなく,その弊害についても慎重に議論がなされるべきであることは明らかである。
  また,一体化についての議論が十分になされ,これを推進するとの立場をとるとしても,基本制度及び法案骨子によれば,国の基準をクリアした施設の総称を「こども園」とし,①幼稚園と保育園の機能を併せ持つ,幼保一体の「総合こども園」(ここでは待機児童のほとんどを占める0歳~2歳の子どもの受け入れは義務付けられていない。)②幼稚園,③0歳~2歳対象の「保育所」,④一部の無認可保育所やNPO,株式会社が設立した「その他の施設」の4種類に分かれ,設置基準,対象年齢,内容,開所時間が異なる施設が,すべて「こども園」を名乗ることになっている。
  なお,現在の認可保育所と認定こども園は自動的に総合施設に移行するが,幼稚園は,幼稚園のままか,総合施設になるかを選択することになる。
  さらには,幼稚園団体の意見を踏まえ,私学助成を併存させるなど,維持されるべき理念は後退していると言わざるを得ない。
  このように,今回の新システムの看板に掲げられていたはずの「幼保一体化」は,根本的な部分の議論が不十分であるばかりか,「こども園」を名乗る様々な施設の中に,幼保が一体化した「総合子ども園」が含まれるという,非常に分かりづらい構造となるにも拘わらず,「こども園」全体が「幼保一体化」となるかのようなイメージを先行させているのであり,その実体が国民に十分に理解されているとは到底言い難い。
  このような状況の中で,基本制度及び法案骨子によりつつ,待機児童問題を解消しようとすれば上記④「その他の施設」の指定基準を下げ,そこに「こども園給付」を交付し,企業の参入を促すことにならざるを得ないことが大いに予測される。
  そうすると,質の維持が伴わない,例えばビルの一室にある「こども園」に子どもが押し込められるような事態も予測され,子どもの保育環境が低下する恐れが大きいのである。
  待機児童問題が先鋭化している都市部において,基準を緩めた④「その他の施設」が増えたとしても,それは実質的に見て待機児童問題の解消にはつながらないのである。
  幼保一体化の効能を認め,これを推進していくのであれば,そこに通うことを望むすべての子どもが,総合子ども園に入所できるようにしなければならないはずである。
  新システムが導入されても,都市部における現在の待機児童が,幼保一体化の施設に通うことにはならないであろうことを,政府は前もって国民に説明をするべきである。
②指定基準の厳格化,明確化が図られていないこと
現行制度における保育施設の最低基準は,子どもが健康で安心して生活ができ保育を受けられる最低限を保障するものである。すなわち,現行制度における基準は,これ自体最低限を保障したものであって,これ以下の基準であれば,子どもの健康で安心した生活を保障することが出来なくなる。
   これに対し,基本制度及び法案骨子よれば,こども園として都道府県(予定)から指定されるには,「質の確保のための客観的な基準を満たすことを要件に,①認可外施設を含めて参入を認め,②株式会社,NPO等,多様な事業主体の参入を認める(指定制)。これにより,保育の量的拡大を図るとともに,利用者がニーズに応じて多様な施設や事業を選択できる仕組みとする。」とされる。そして,「指定基準の各々の水準については,今後,要検討」「指定要件については,現行の基準を基礎として,人員配置基準・面積基準等,客観的な基準を定め,適合すれば原則指定を行うことで透明性を確保する」とされている。
   すなわち,新システムが導入された場合の指定基準については,未だ具体化されておらず,新システムが種々の主体の広い参入を認める以上,その指定基準が,現状よりも厳格化されることは期待できず,むしろ緩和されることが大いに予測される。そして,利益の追求を本来的な目的とする株式会社の参入を認めている以上,新制度での指定基準が,緩和されることは明白である。
   仮に,指定基準が緩和されなくても,新制度下では,採算性が重視されることになるため,結局,運営が続けられない事業主体が生じることが予想される。
   また,新システムでは,需給調整を行うと予定されているが,どれほど実効性があるか極めて疑問であるし,その需給調整の中で,既にサービスを受けている子どもの幼児教育や保育の一貫性が保たれず,質が維持されないことが危惧されるのである。
   以上のように,仮に指定制度を導入するとしても,その指定基準は厳格化,明確化すべきであり,それが十分なされないまま新システム導入がされるべきではない。
 ③児童福祉法24条1項の改悪につながりかねないこと
   現行制度においては,児童福祉法24条1項に基づき,保護者が認可保育所に入所を希望する場合,保護者が市町村に認可保育所の利用を申し込み,市町村が保育の必要性を判断した上で入所の可否を決定している。この場合,契約は市町村と保護者の間で締結され,市町村が各保育所に保育を委託することになっている。
   これに対し,新システムでは,保護者は市町村から子どもの「要保育度」の「認定」を受け,その認定に基づいて希望の園に直接利用を申し込み,直接契約を締結することになり,園側は,契約締結の際に採算性を考慮せざるを得ないことになる。この点で,堅持されるべきはずの現行の児童福祉法24条1項は改悪を余儀なくされるのである。
   また,新しく予定されている「こども園給付」は,園が代理受領することとされているが,保護者の自己負担分に関しては,滞納リスクを園が負担することになる。
   例えば,貧困層の家庭に生まれた障害を持った子どもなど,受け入れ施設側にとって,経済的な採算性の面では必ずしも利益をもたらさない場合に,「子ども・子育て新システム」では,その保育が保障される制度となっていない。たとえ障害を持つ子どもが「優先的な選定」を受けられたとしても,施設の側において,「正当な理由」を口実とした受け入れ拒否が可能であり,その「正当な理由」の内容をどのように限定するかの議論も十分にされておらず,また具体化もしていないのである。
   このような制度では,最も保護を必要とする子どもたちに質の維持された保育が保証されず,保護者の資力や障害の有無によって,就学前から子どもが差別を受けるような状況が予測されるのに,この問題に関する十分な議論がされていないのである。
   このように,新システム導入により,市町村の保育実施責任がなくなることで形式的には待機児童問題は緩和される可能性があるものの,「要保育認定」を受け,施設に入所する権利はあるものの,入所出来ない子どもたちが発生することが大いに予測され,新たに,いわゆる「保育難民」の問題が生じる可能性が高いのである。
   以上のとおり,新システムは,待機児童問題を解消し,すべての子どもに質が確保された保育・幼児教育の機会を与えるというあるべき制度とは相当にかけ離れたものとなるおそれがあり,弱者に光が当たらない,非常に暗い未来を創りだす制度となりかねないものなのである。  
   また,現在の保育料算定は,市町村の保育実施責任に基づき,保護者の所得に応じた,いわゆる「応能負担」となっている。
そして,基本制度及び法案骨子においても,形式的には,応能負担となることがうたわれている。
  しかし,新システムにおいては,「利用者負担については,所得 階層区分ごと,保育の必要性の認定の有無,認定時間(利用時間)の長短の区分ごとに定額の負担を設定することを基本とする。」と明記されており,利用料は,公定価格を基準にするものとされ,また,利用者の利用料の負担を定めるに当たって,所得階層も考慮するかのようであるが,その算定に当たって,どれだけの時間利用したかという利用時間を踏まえるものであり,その時間による価格に加えて,施設,サービスによる上乗せ徴収を可能としたことにより,その実態は「応益負担」の保育料算定になるのである。
  そして,全国基準額を踏まえ,市町村が費用徴収基準額を定めることとする。なお,実費徴収や実費徴収以外の上乗せ徴収については一定の要件の下で「施設が定める」とされる。
  こうなると,「公定価格」というのは形だけで,保護者が支払うべき保育料は,施設やサービスによって区々になることが大いに予測される。しかも上乗せ徴収名目で,保護者の経済力に応じた,サービスの差別化が図られることが危惧される。経済状況が厳しい保護者はなるべく上乗せされないように利用を控えたり,施設側はなるべく上乗せ徴収が可能と思われる子どもを優先したりするなど,保護者の経済力が,こどもの保育環境に直結してしまうことになるのである。
  このような弊害まで予測されるのであるから,現行の市町村の責任は維持されるべきであり,児童福祉法24条1項を改悪するような制度導入はするべきでない。
④財源が不明確なままであること
  基本制度及び法案骨子では,新システムの実施に当たって,「『社会保障・税一体改革成案』(平成23年6月30日政府・与党社会保障改革検討本部決定)においては,税制抜本改革によって財源を措置することを前提に,2015年における子ども・子育て分野の追加所要額(公費)は0.7兆円程度(税制抜本改革以外の財源も含めて1兆円超程度の措置を今後検討)とされた。」と記載されており,これを前提としている。
  前提となっている「税制抜本改革」とは,昨今議論になっている消費税増税を主要な内容としたものである。すなわち,新システムは,消費税が増税され,かつ,これが予定通りの税収を得られることが前提である。そして,この増税自体の是非も,税率自体も,未だ国民的コンセンサスが得られていないことは明白である。
  このように財源的な手当もままならない状況下で,不十分な内容のシステムを見切り発車するような事が,断じてあってはならないことは,これまで述べてきたところから明らかである。第3 結語
 以上のように,政府が導入を急いでいる新システムは,なお多くの問題点をはらんでいるのであるから,当会は,拙速なシステム導入に反対し,それらの問題点を十分に議論解消し,確実な財源が確保されたうえでの制度導入を求めるものである。
 
以 上

死刑執行に関する会長声明

カテゴリー:声明

1 本日,福岡,東京,広島の各拘置所において合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年(平成2年)当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,2012年(平成24年)3月現在では,死刑存置国は57か国で死刑廃止国及び死刑停止国は141か国となっている(アムネスティインターナショナル)。さらに,2008年(平成20年)12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,2008年(平成20年)10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 日本弁護士連合会は,2011年(平成23年)10月7日に「罪を犯した人の社会復帰のための施設の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を,人権擁護大会において採択し,その中で,「罪を犯した人の社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について,直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し,その議論の間,死刑の執行を停止すること。議論のため死刑執行の基準,手続,方法等死刑制度に関する情報を広く公開すること。特に犯罪時20歳未満の少年に対する死刑の適用は速やかに廃止すること」や,「死刑廃止についての全社会的議論がなされる間,死刑判決の全員一致制,死刑判決に対する自動上訴制,死刑判決を求める検察官上訴の禁止等に直ちに着手し,死刑に直面している者に対し,被疑者・被告人段階,再審請求段階,執行段階のいずれにおいても十分な弁護権,防御権を保障し,かつ死刑確定者の処遇を改善すること」を求めていた。
当会も,同年9月5日にシンポジウム「死刑を考える」を開催して,死刑廃止についての社会的議論を呼びかけたところであった。
6 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                      2012年(平成24年)3月29日
                             福岡県弁護士会
                             会長 吉 村 敏 幸

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)
1.冠雪の富士山と人口政策会議の議論の応酬
福岡では、2月中旬からずっと雨天続きでした。2月15日の夜から上京したところ、東京でも曇天が続いたのですが、やっと18日の土曜日から快晴になりました。
いよいよ、土曜日は法曹人口政策会議の第8回全体会議(今年度最終日)が四谷の主婦会館で開催されました。日弁連の正副会長、各地単位会会長や委員ら、110名ほどの人員の会議です。
冒頭、議長代行が「窓の外には富士山が見えますので、カーテンを開けました。議論疲れの折は富士山をご覧ください」と発言されました。昼食の後、冠雪の富士山をくっきりとみることができました。なぜかしら、心が浮き立ちます。
ところが、その後の会議は激しい議論のやりとりが続きます。当会は司法試験合格者数について「段階的1500人説」を採択していましたので、日弁連案の「まず1500人説」に大筋賛成であり、34会は日弁連案に賛成でした。しかし、12ないし16会は「1000人説」の意見を提言していましたので、これをどのように日弁連案に取り入れてまとめるのかが議論になりました。しかし、現状2000人合格者に対して1500人へと減員することすら困難が予想されるのに、一挙に1000人へと減員を提言することは到底現実的な対応とは考えられず、私は「1000人説は単なる量的減員ではなく、質が異なる。よって1000人説は提言の趣旨の中に入れるべきではない。せめて、入れるならば理由中である」と述べました。この見解は、静岡、和歌山、京都、沖縄、一弁等の会長も同旨であり、激しい議論の応酬があり、結局最終的には多数決をとって、日弁連の原案賛成多数(賛成76・反対28・棄権5)により採択されました。これが、人口政策会議の最終とりまとめとして3月の日弁理事会に正式提案されることになりました。
2.未成年後見人の責任軽減の提言
2月16日の日弁理事会において、子どもの権利委員会から「未成年後見人の業務は身上監護と財産管理があるが、身上監護については被後見人の不法行為に基づく損害賠償責任が過大であるために、受け皿となる弁護士人員が準備できないでいる。よって、未成年後見制度を改正して、この責任の軽減を求める」という趣旨の意見書の提案が出され、採択されました。
昨年の東日本大震災により、両親のうちどちらか一方の親を亡くした子ども(ただし18歳未満)は、岩手、宮城、福島の被災三県で1,295人(2011年7月29日現在)、両親を亡くした子ども、あるいは一人親を亡くした子ども(いわゆる震災孤児)は229人(同日現在)といわれているところ、弁護士も未成年後見人になっているとのことでした。
岩手県弁護士会の会長は「自分も未成年後見人になっている。子どもは施設に入っているが、ときどき会って身上監護をしている」との発言をされました。
3.「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」に対する意見書(案)について
2003年3月、東京・大阪養育費等研究会が、判例タイムズ1111号で発表した「簡易迅速な養育費の算定をめざして―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(以下「研究会提案」といいます)は、弁護士ならば皆様ご存知のことでしょう。
この算定表は、その目標どおりに迅速な算定という結果をもたらし、実務に定着しました。しかし、その表の根拠となった計算方法は多々問題点が指摘されていました。つまり、算定される養育費額が、最低生活水準にすら満たない事案を多数生み出し、母子家庭の貧困を固定又は押し進め、特に子どもの教育環境を両親家庭に比して著しく低い水準に固定化し、事案によっては離婚を契機に就学を断念するなど教育の機会を失わせる酷な結果をもたらす一因となっていたのです。この意見書(案)が提案され、3月理事会で審議されることになりました。以下、意見書(案)を抜粋します。
「1年間の間に両親の離婚を経験する未成年子は、252,617人(2010年人口動態統計)であり、この10年、この数字は横ばいの状況にある。2011年の年間出産数は、約106万人であり減少の一途をたどっているから、すべての子の4分の1近くが両親の離婚にさらされる傾向にあるといっても過言ではない。成人化に20年を要することから、単純に20年を乗ずると、両親が離婚している未成年子が約500万人存在することとなる。
一方、その約8割は母が親権者となっており、この点もここ10年変化がない(同人口動態統計)。しかし、その母子家庭の平均就労収入は、171万円であり、全世帯の平均年収564万円の3割にすぎない(2006年度全国母子世帯調査)。未成年子を監護する母子世帯の2010年の貧困率は48%にも及んでおり(国立社会保障・人口問題研究所)、養育費額の公正な算定は、多くの子の成長発達の保障、子の福祉の増進に不可欠であるだけでなく、教育力は国の力の基本となるものであることを考慮すると日本の将来を決するほど重要なものといえる。そこで、当連合会は、次のとおり提言する。
1 当連合会を含め、裁判所及び厚生労働省等の養育費実務関係機関は、子どもの成長発達を保障する視点を盛り込んだ、研究会提案に変わる新たな算定方式・算定表を作成すること。
2 養育費等に関わる実務関係者は、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の仕組みと問題点を認識し、新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定表を慎重に使用するものとし、同簡易算定方式の考え方(双方の総収入について、標準化した公租公課・職業費・特別経費を控除して、各基礎収入を算出しその合計額について、指数化した生活費指数を用いて按分する考え方)を流用する場合には、子どもの福祉の視点を踏まえ、少なくとも公租公課を可能な限り実額認定し、特別経費を控除しないなどの修正を加えて算定すること。
3 新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の問題点について、裁判所及び養育費相談支援センター等厚生労働省の事業等での周知を図ること。」
私も上記提言の趣旨は実感として抱いていたために、早急に当会の両性の平等委員会において算定表の修正点についての検討をお願いし、会員に使い勝手のよい提案をしていただきたいと願っています。
4.帰途の日本アルプス
2月19日日曜日の午後から、県弁会館で新旧執行部の引継会があるため、早朝、帰福しました。飛行機から見る富士山は頭を雲の上に出し、あたりを睥睨しています。
意外にも中央アルプスの峻険な稜線にはわずかな雪しか残っておらず、太陽の光に照らされて美しいです。ところが、中国地方、九州は厚い雲に覆われていました。前日まで大雪が降ったとのことでした。
あと1か月余で会長職も終わりとなります。

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