会長日記

2017年11月20日

会長 作間 功(40期)

※以下の記事は、福岡県弁護士会月報12月号に掲載予定のものです。

もう、師走です。今月号は、今年、日弁連理事会で議論された問題のうち、特に議論の対立のあった法曹養成問題、特に法曹人口問題について、お話ししたいと思います。

1 今年9月15日司法試験の合格者が発表されました。合格者数は1543名。昨年は1583名でしたので、2年続けて1500人台となりました。

 日弁執行部は毎回の理事会で、法曹養成問題を議題にあげています。この議題が上程されると、それまで和やかだった理事会の雰囲気が一変します。

2 少しおさらいをします。2017年時の弁護士数は38000人(以下数字は概数)。2000年時は17000人でしたから、2倍以上となりました。司法試験合格者数は2007年(新旧61期)から2013年(66期)までの間、毎年2000人台で推移する、という状況が続きました。こうした状況の下、一斉登録時に登録しない(できない)者が400人を超えるという事態が4年間続きました。他方、裁判所新受件数はむしろ漸減。若手のみならず中堅、ベテランまで経済的に苦しい状況となりました。こうした事態を背景にしてか、司法試験受験者数も、2004年には4万3000人であったものが、2015年は8000人に、2016年には6900人まで落ち込みました。多様で有為な人材が法曹で確保できなくなっているのではないか、という意見が強く主張されるようになりました。(本年4月の裁判所法改正により、いわゆる給費制が71期から事実上復活しましたが、その理由は、司法修習生に対する給費制の廃止が司法離れのひとつの原因になっているとの認識からでした。)

3 こうした状況の元、日弁連は今後、法曹人口についてどのようなスタンスをとるか。日弁連の対内・対外活動の内容に直結するものです。

 ある論者は、2016年3月の日弁連臨時総会で、日弁連は、まず司法試験合格者数を1500人とすることを緊急の課題であるとの決議をした、2016年、2017年と連続して合格者数は1500人台となった、であれば、1500人という当面の目標は達したのだから、次に行うべきことは、合格者数を1000人とする要求である、全国の弁護士は経済問題で喘いでいる、司法試験の受験者数が減っていっているのは、弁護士が食えない状況になっているからだ、法曹になりたいと思う人を増やし、質を高めるためにも合格者数の減員が必要だ、と主張します。こうした意見を支持する単位会や連合会も少なからずあります。

 確かに、合格者数が減少すれば、毎年誕生する弁護士数が減少することに繋がるので、パイを分けあっているという事実認識からすると、いち弁護士としてはウェルカムかもしれません。

4 これに対し、今の状況で日弁連が更なる弁護士数の減員を求める態度をとるべきでない、という立場があります。日弁連の現執行部の立場です。

 その理由とするところは、第1に、1000人が相当だという説得的根拠を提示することは難しいことです。説得材料が乏しい中、弁護士会が要請したからといって、それがすぐに実現することはないということです。第2に、省庁、法曹、学者、有識者からなる法曹養成制度改革推進会議は、2016年6月、当面1500人程度輩出する取り組みを進め、質の確保にも留意するという政府決定を行ったばかりであることです。この決定を得るまでの日弁連の運動の道のりは、大変でした。1500人台になったとたん、直ちにさらなる縮小を求めるならば、日弁連の信用の失墜は必定です。第3に、そもそも法曹人口について要求をすること自体、「弁護士会のエゴ」だと批判されるだけだからです。法曹人口を決めるのは国民であって、弁護士会ではありません。

5 今は日弁連が合格者数について発言をすべきでない、今、日弁連が行うべきことは、新人弁護士の登録・就業者数、登録・就業時期、弁護士募集事務所数、給与水準、等のデータ・情報の収集や分析を行うことである、というのが中本会長の方針ですが、そちらの方が説得力があるように思われました。

 思うに、私たちは歴史に学ぶ必要があります。1994年の臨時総会のとき、当時の土屋日弁連会長は執行部内で1000人を受け入れる方向で意見をまとめていましたが、「今後5年間800人を限度とする」という関連決議をしてしまい、この決議のため、マスコミや各界から叩かれ、以後日弁連は発言力を失ってしまった、という歴史があります。今、「合格者数を1000人にせよ」という方針を日弁連がとったとき、同じ過ちを繰り返すことになるように思います。加えて、福岡でも、昨年から事務所が弁護士を募集しても、応募する新人弁護士がいない、という例がすでに発生しています。合格者数の減少のあおりが当地でも生じていることも考えなくてはなりません。

 もちろん、新人弁護士の就職はこの2年落ち着いてきたとはいえ、引き続き、例えば、弁護士を受け入れる自治体・企業を増やすため努力を継続すべきです。

 経済上の問題は、諸問題の根源でもありますが、LACの拡張・充実、民事裁判改革にさらに力を入れるべきでしょう。

 法学部・司法試験人気の急落の事態は由々しき問題ですが、この点についての対応策として、例えば、小中学生向けマンガの学研の「仕事の秘密編・弁護士のひみつ」を出版したり(本年2月発刊)、法科大学院協会と連携して「列島縦断・ロースクール説明会・懇談会」を開催したり(直近では、10月に大阪市立大学と京都大学で開催)している、との報告がありました。

 結論として、法曹人口の問題は、言うべき時期まで待つ、今は備えるとき、というのが私の結論です。