会長日記

2018年6月1日

会長 上田 英友(40期)

みなさま、こんにちは。

今月は、先日の福岡県弁護士会の定期総会で採択された宣言について、お話させていただきます。それから、今年度の当会の重点課題の一つに掲げている「弁護士が先を見据えた活動として何をすべきか」について、お話しします。

◆法律相談センターにおける相談体制の充実をめざす宣言

5月29日(火)に開催された定期総会において、法律相談についての宣言が採択されました。

当会は、今から35年前の1983年(昭和58年)、当時、社会問題化していたサラ金による多重債務問題に対応するため「サラ金相談センター」を当会の会館内に設置しましたが、その2年後の1985年(昭和60年)11月、「弁護士会自らが街中に出て行って相談を受けるべき」をスローガンに掲げて、相談の範囲をサラ金問題から一般法律相談に拡充したうえで、「天神法律相談センター」を開設しました。これが、今の「天神弁護士センター」の創設期の姿です。それ以降、当会は、法律相談センターの積極的展開を図り、各部会に基幹センターとサテライトセンターの設置を進め、現在、福岡県内に17の法律相談センターを運営しています。

これだけの数の法律相談センターを運営している弁護士会は他にはありません。

しかし、RKBラジオ祭りや天神地下街での無料法律相談会における市民アンケートによれば、「法律問題に直面したときに弁護士に相談しなかった」との回答も少なくありません。その理由の一つとして、どこに相談に行けばよいか分からなかったということがあげられています。

この結果からは、困ったときに、そもそも弁護士に相談しようと思いつかなかった、弁護士に相談しようとしてもどの弁護士に相談すればよいかわからなかった、あるいは、どこに行けば弁護士に相談できるのかわからなかったという状況にあることを示しています。これでは、まだまだ弁護士が市民からの法律相談需要に十分に応じているとは言えません。

本年度は、「サラ金相談センター」開設35周年と飯塚法律相談センター開設25周年を同時に迎え、さらに、年度末には、六本松の新弁護士会館において、新たな法律相談センターを開設するという、法律相談事業の節目の年度にあたります。そこで、法律相談センターを広く市民に知っていただき、市民のニーズに合致するきめ細やかな相談体制を築いて、当会のキャッチフレーズである「不安を、安心に。」変えていただくように努力を重ねたいと考えて、定期総会にて、法律相談センターにおける相談体制の充実をめざす宣言を採択いたしました。

本年度も3月下旬から、執行部就任の挨拶回りを行い、自治体を含めて様々な関係先を訪問しましたが、そこで伺った話から、当会の相談事業に対する信頼の高まりを肌で感じつつ,さらに多くの市民に法律相談センターの存在を認知してもらう必要性も感じました。

今年度は、法律相談センターの活動を充実させ、法律相談件数の増加も図りたいと思います。法律相談センターの活性化が、弁護士の認知度を高め、市民の皆さまへのサービス向上に資するものと考えています。

◆先を見通した活動を推奨します(本年度の重点課題)

弁護士は、目の前の事件処理や問題への対処に追われて毎日を過ごしており、数年先を予測して対策を立てることは、あまり得意ではないと感じています。しかし、以下の3点は、3年後から5年後に重要な問題としてクローズアップされてきます。それに対しては、本年度だけで解決できる訳ではありませんが、これから準備を進めて、将来に向けての対策を講じておく必要があると思っています。3年後になってあわてても間に合いません。

(1) まず、高齢者の問題です。

昨年9月の総務省データによれば、65歳以上が総人口の27.7%を占めていますが、今後、さらに高齢化が進み、2022年度以降、いわゆる団塊の世代の後期高齢者時代を迎えることになります。現在でも、高齢者の財産管理の問題は重要な課題ですが、その需要がますます増えて行くことが予測されます。

これらの問題に対する当会の現在の体制が十分かどうか、しっかりと検討し、さらなる充実した体制を目指す必要があると思います。需要を受け止める体制をつくることが、弁護士や弁護士会の存在意義を高め、市民の皆さまのニーズにこたえることになると思います。

(2) つぎに、中小企業の事業承継も大きな問題です。

現在でも、後継者不足のため、いわゆる黒字廃業の危機が迫っている中小企業や個人事業者が少なくありません。そのため、事業承継を円滑に進めることが必要とされています。国も,本年度,事業承継支援を重点施策として掲げ,各地で,事業承継支援ネットワーク事業がスタートしました。

当会は,これまでも中小企業・小規模事業者の事業承継支援に取り組んで参りましたが,その活動を評価していただき,本年度設立された『福岡県事業承継支援ネットワーク』において,士業団体として唯一ネットワーク運営会議の構成メンバーに選定されました。

事業承継のスキームづくりには,相続・遺言,株式譲渡や事業譲渡などすべての場面で法律問題が関係します。円滑な事業承継のために弁護士の関わりは必須です。当会は、弁護士の必要性や役割を十分にアピールするための対外広報活動に努め、事業承継支援施策の具体的な実践に寄与していきます。

(3) さらに、スタートアップ企業への支援も重要な課題となります。

現在、諸外国だけでなく日本国内においても、個人の起業が進んでおり、スタートアップ企業がこれからの日本経済の発展に不可欠な存在となってくると予想されています。福岡県は,全国有数の起業者数を誇るスタートアップ先進地域です。スタートアップ企業に必要不可欠なものは、投資元であったり、事業提携先であったりしますが、いずれの場面においても、法律問題は避けて通ることができません。

起業後のトラブルをよく知っている弁護士だからこそ,スタートアップ企業に創業のときから寄り添い、十分な法的支援を行うことで、トラブルを未然に防ぎ,円滑な企業運営に資することになります。弁護士が,日本経済発展に貢献するとともに、自らも成長することができると思います。

今年度は、このような3年後から5年後の社会情勢を見据えて、社会からの需要に応えることができる体制を整えておくべきだと考えております。

皆さまのご理解とご協力をどうぞよろしくお願いいたします。