会長日記

2013年8月 給費制の復活を

会 長 橋 本 千 尋(36期)

■法曹養成問題

裁判官、検察官、弁護士という法律家をどのように育成していくかという問題が政府で議論されています。

この原稿を書いている段階では、法曹養成制度検討会議の最終の「取りまとめ」という文書が出されたという状況です。

この「取りまとめ」は、法科大学院の在り方、司法試験の合格者数、司法修習の在り方など多くの論点について語られていますが、かなりの部分が「今後の検討」という形で終わっており、法曹養成の仕組みの様々な部分が今後の議論に委ねられたという状況になっています。

この「取りまとめ」を受けて、法曹養成制度関係閣僚会議が、今後の議論の場や方向性を決めることになっています。

■議論の出発点

法曹養成制度の問題が語られ出したのは、「二割司法」(日本の司法制度は現実に起こっている法律問題の二割程度しか対処できていない)という言葉もあったほど我が国の司法サービスが不十分だという問題意識からでした。これに加えて、規制緩和が声高に語られ、自由競争を重視しその中での生じた紛争は司法が事後的に解決するという社会の在り方にシフトする方向性が示され、司法の拡充が求められたという点もありました。

このように、もっと豊かな司法サービスを創造するという議論の中の一つの重要なテーマとして法曹養成問題が俎上にのぼったのです。

■司法修習生の生活費

論点が多岐にわたるため、法曹養成問題全体を語るには紙幅が足りません。そこで、司法修習の在り方をめぐる問題の中での重要論点である給費制の問題に絞ってお話しします。

私が司法修習生だったころはもとより、つい最近まで国から給料が支給されていました(給費制)。ところが、司法試験の合格者を増やすということになって、給料を払わず生活費を貸し付けるという仕組みに変えられてしまいました(貸与制)。

貸付けですから返済しなければなりません。司法修習を終了して弁護士の仕事を始めた段階で数百万円の借金を負うことになるのです。

■貸与制の影響

現行の制度では、司法試験を受けるためには法科大学院で学ぶ必要があり、司法試験の合格率は現状では20%台。これに加えて司法試験合格後の司法修習で借金を負わなければならない。

このような仕組みを前に、法科大学院の入学希望者は激減しています。更に、大学の法学部の志望者すら減り始めたのです。

豊かな司法サービスを創造するために、様々な社会経験を持った有為の人材を法律家として育てていく、そのための法曹養成制度の改革だったはずが、法律家全体が若者の就業希望先からはずされつつあるのです。

■給費制の復活を

私事で恐縮ですが、私も奨学金をもらいながらアルバイトで生活費を稼ぎつつ大学で学び、司法試験に合格して弁護士の仕事に就きました。

司法修習生になっても貸与制で借金を負わなくてはならないという仕組みであれば、この道に進まなかった、否、進めなかったと思います。極論の誹りを恐れずにいうと、貧しい者は法律家になれないということです。

福岡県弁護士会は、法曹養成検討会議が募ったパブリックコメントに対し、給費制の復活を訴えました。 その実現を希求してやみません。