会長日記

2017年7月1日 弁護士会は異端か?

会長 作間 功(40期)

1 友人の呟き

友人と喋っていると、ときどき、「弁護士会は、偏っとうね」とか、「また弁護士会が変なことを言いようね」などと呟かれることがあります。親族からも言われたりすることもあります。どういうときに言われるのでしょうか。弁護士会が「決議」や「会長声明」を出したり、集会やデモ行進をおこなって、新聞記事になったときやテレビで放映されたときに、報道に接した友人・親族から言われるのです(残念ながら、いまだ、ホームページで「決議」を読んだ、と言われたことはありません)。今年4月、弁護士会会長として様々な諸団体に挨拶回りに行った折、ある市議会の議長からも同様のことを言われました。

2 決議・宣言

弁護士会は、総会で「決議」や「宣言」をあげたり、「会長声明」を出したりします。福岡県弁護士会も日弁連も、九弁連も出します。

例えば、当会は、今年5月の定期総会で3本の決議をしました。(1)共謀罪関連、(2)少年法関連、(3)憲法70年関連ですⅰ。また、いわゆる共謀罪法が成立した6月15日には、「共謀罪法成立に対する抗議の会長声明」を出しました。日弁連はといえば、今年6月、(1)憲法70周年関連と(2)中小企業支援関連の決議をしⅱ、昨年11月には人権大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰全体の改革を求める宣言」を出しました(いずれも、ホームページに掲載されていますので、簡単に入手できます)。

どのくらいの数の決議・宣言・会長声明を出しているかといえば、昨年度1年間で、当会は15本、日弁連は65本に及びます。かなりの数、と言えるでしょう。

3 「偏っとうね」と言われる理由はどこに?

では、その内容は、友人が呟くように、「偏っている」でしょうか。

確かに、先に紹介した当会や日弁連の決議・声明をみると、中小企業の支援決議を除き、全て、「おかみに対する異議」です。「おかみ」つまり、国の立法や政策に異議を唱えているのですから、「おかみ」=国会あるいは政府の意思=国民の多数意見という整理の中では、弁護士会の意見は、少なくとも多数意見ではない、ということになるかもしれません。その意味で、友人は、偏っている、と表現したと思われます。

4 弁護士会の役割

しかし、友人の意見は、弁護士会に対する理解が十分でない、と言わざるを得ません。

第1は、国会で成立した法律といえども、人権を侵害してしまうもの、憲法違反であることが強く疑われるものがあり、そうである以上、弁護士会は、異を唱える必要があるからです。そこで、弁護士会として、あるいは廃案を、あるいは憲法の精神に沿うよう限定的な解釈・運用を求める声を出すことが、法律家集団としての職責である、と考えているのです。国会は数の原理で動きます。そこでは、多数者の意思は通りますが、少数者の意思は必ずしも反映されません。対立が激しいものほどそうです。多数決でことが決せられる限り、少数者の権利利益・意見が無視されがちとなることは必然です。民主主義とは、決して多数決のみで成り立つものではありません。多数決による結論=絶対的に正しいもの、ではない筈です。もし、多数者の意思が間違っていれば、それを否定する仕組みが必要ですし、侵害される利益が憲法上保障された人権・制度であれば、救済・回復される必要があります。それが司法の作用なのですが、裁判の前の段階で、多数決の世界ではかえりみられなかった人権侵害・憲法違反の事実・重大性を訴える必要性があるのです。

第2は、弁護士会は、権力に対するチェック機関としての役割が求められているからです。その面で、言論機関であるメディアと近いものがあります。一見、もっともな理由で法律が制定されようとするとき、法の専門家であり、実際に裁判にたずさわる者ならではの知見をもとに、当該法律(案)の問題点を指摘して、より深い理解を国民にしていただく必要がある。このことは社会にとって有益なことだと確信しています。

皆さまには、弁護士会の意見に、是非注目していただきたいと思います。

次回は、「今、取り組んでいる課題」についてお話しします。

  • 正確には、(1)「共謀罪法案の廃案を求める決議」、(2)「少年法適用年齢引き下げに反対する決議」、(3)「憲法施行70年にあたってその意義を確認し、改めて安保法制関連法の廃止を求める決議」です。
  • 正確には、(1)「日本国憲法施行70年を迎え、改めて憲法の意義を確認し、立憲主義を堅持する宣言」と(2)「中小企業・小規模事業者に対する法的支援を更に積極的に推進する宣言」です。