福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2017年1月号 月報

あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所開所式に出席して~

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 服部 晴彦(68期)

豊前ひまわり基金法律事務所開所式が開催されました

福岡県の東部に位置する豊前市では、40年近くにわたって常設の法律事務所がない状態が続いてきました。

地域社会の高齢化がすすみ、法律の専門家による助力が必要とされる問題がますます増えるなかで、地元では、常駐の弁護士が待望されてきました。

そうした地元の期待を受けて、10月3日、福岡県内ではじめてのひまわり基金法律事務所である、豊前ひまわり基金法律事務所が開設されました。

豊前ひまわり基金法律事務所の初代所長は、「あさかぜ」において養成を受けてきた西村幸太郎弁護士です。

今月号では、11月22日、豊前市のホテル「築上館」で開催された豊前ひまわり基金法律事務所の開所式について報告します。

地域に根ざした親しみ深い事務所をめざして

開所式当日、鉄道の不通というアクシデントにもかかわらず、周辺地域自治体の首長をはじめとする多くの人が出席しました。会場の熱気から、地域のリーガルアクセスが改善することへの喜びと期待が感じられます。

西村弁護士は、大学時代に弁護士過疎・偏在問題に関心をもって以降、「この道しかない」という強い意気込みをもって、弁護士過疎地に赴任する道を志したとのこと。志を実現するための第一歩を踏み出し、開所式にのぞむ西村弁護士の表情は晴れ晴れとしたものでした。

西村弁護士は、豊前ひまわり基金法律事務所を地域に根ざした親しみ深い事務所としていきたい、地域社会の発展に寄与し、法の支配の国民的浸透に貢献したいと力強く宣言しました。

西村弁護士は、開所式にあたり、豊前市の特徴を解説した書面を作成し、出席者に配布しましたが、豊前市を愛し、少しでも多くの人に豊前市の良さを知ってもらいたいという西村弁護士の気持ちがひしひしと伝わってくるものでした。

そんな西村弁護士に対して、出席者は、口々に、「そのひまわりのように大きな笑顔で地域を明るく照らしてほしい」と激励していきます。西村弁護士の人柄が、早くも豊前地域において、愛されていることが見てとれました。

周辺地域からの出席者からは、地域の高齢化に伴う法的トラブルについて、西村弁護士の活躍を期待する声が次々にあがりました。西村弁護士の、福岡県弁護士会の高齢者障害者等委員会や消費者委員会の一員として精力的に活動してきたこれまでの経験が、存分に活かされることが期待されるところです。

豊前ひまわり基金法律事務所が、地域に根ざした親しみ深い事務所となるべく、着実に一歩を踏み出したことを心から実感できた開所式でした。

大きな刺激を受けて

豊前ひまわり基金法律事務所開所式では、弁護士過疎地に、新たに法律事務所が開設されることへの地域社会の期待の強さを体感しました。これから弁護士過疎地へと赴任していこうとあさかぜで研鑽を重ねている私にとって、大きな刺激となるものでした。

私も、弁護士過疎地において、地域に根ざした親しみ深い弁護士になれるよう、より一層の精進を重ねていきたいと思います。

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「実務に役立つLGBT連続講座」第4回/弁護士としての職務上の注意点

月報記事

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 緒方枝里(62期)

■はじめに

LGBT小委員会メンバーによる「実務に役立つLGBT連続講座」も今回で4回目となりました。これまで、第1回と第2回では、LGBTの基礎知識やLGBTを取り巻く現在の情勢を、第3回では「周りの人との接し方、注意点」と題して、12~13人にひとりがLGBTの特性を持っていると言われるほどありふれた「個性」の1つであり、私たちの身近に必ず当事者がいるということ、無自覚な差別的言動をしてしまわないよう日頃のふるまいが大切であること等をお話してきました。

そこで、連載4回目となる今回は「弁護士としての職務上の注意点」ということで、実際の法律相談や事件処理で気を付けるポイントについてお話します。

■法律相談の場面

LGBTの法律相談というと、トランスジェンダーの性別変更の話や同性パートナーに財産を遺すための公正証書遺言の作成というように、相談者がLGBTであることをカミングアウトしていることを前提とした特殊な相談というイメージがありますが、大半は通常の法律相談と変わりません。

例えば、交際相手や一緒に暮らしているパートナーとのトラブル、学校や職場での人間関係や雇用に関するトラブル、個人間の金銭トラブル(貸金・保証)など、弁護士であれば誰でも受けたことがあるような相談の場合、相談者がLGBTであることをカミングアウトしない場合も多くあります。なので、どんな相談であっても、相談者がLGBT当事者である可能性を念頭に、相談に臨む必要があります。

相談を受けて弁護士としてアドバイスする内容は、当事者がLGBTであるかどうかでそんなに変わらないことも多いかもしれません。しかし、LGBT当事者は、弁護士の差別・偏見をおそれて、トラブルに巻き込まれていても法律相談に行くことを躊躇することが多いそうです。勇気を出して法律相談に来てくれた当事者に、担当弁護士の不用意な言動で二次被害を与えないようにするために、最低限の基本的な知識を持っておくことが必要です。

  • 性自認と性的指向の違い
  • 性自認や性的指向は治せるものでも当事者の趣味でもなく、変えようと思って変えられるものではないことを理解する
  • トランスジェンダーであれば、みんなが性別適合手術を望んでいるものだと決めつけない
  • 「ホモ」「レズ」「おかま」などの蔑称を安易に用いない 等

同性カップル間のトラブルの場合、交際相手の性別をごまかさなければと思うだけで、相談に行くハードルがあがるという話を聞いたこともあります。本人が「彼氏」・「彼女」といった表現を用いていない場合は、性別を特定せず「交際相手」・「パートナー」といった表現を用いるような工夫も心がけましょう。

また、実は問題の根本にLGBT当事者であることが関係していることもありえます。同性パートナーとの別れ話で、周囲にばらすと脅されて暴力を受けているのに別れられないとか、LGBTであることを理由に学校や職場でいじめや嫌がらせを受けているとか、相談者が相談担当弁護士のことを信頼してLGBT当事者であることを話してくれれば、より適切なアドバイスができる場合もあります。そのためには、信頼されるような共感的な姿勢を心がける必要があります。間違っても、LGBTであることを理由に嫌がらせを受けている相談者に「あなたが男(女)らしくないからダメなんだ」「同性愛をやめればいい」といった偏見に満ちた発言をしないように気をつけましょう。

私自身、小委員会に入るまでLGBTに関する法律相談は受けたことがないと思いこんでいましたが、気づかなかっただけで、これまでの相談者の中には当然のようにLGBT当事者がいたはずです。みなさんはどうでしょうか?これまで無自覚に相談者を傷つけてしまったかもしれないことを反省しつつ、今後は気をつけて法律相談に臨みたいと思います。

■事件処理

受任後の事件処理にあたっても、心がけるポイントは基本的に相談のときと同じです。加えて気をつけなければならないのは、事件処理の過程で、依頼者本人が望まないのに性自認・性的指向を第三者にカミングアウトすることにならないように細心の注意を払う、ということです。例えば、刑事事件で被告人がLGBTの当事者であることが証拠に記載されているけれども、本人が第三者(傍聴人や情状証人等)にそのことを知られたくないと思っている場合、LGBTであることが本当に公訴事実の立証と関係があるのか等検察官と予め十分な協議をしておくと共に、証拠の該当箇所を不同意にしたり、証拠調べで読上げないよう検察官に申し入れたり、書面の提出をもって証言に代えたりする等の工夫が必要です。

また、紛争の相手方がLGBTの当事者である場合に、不用意に第三者にそのことを知られないように配慮することも忘れてはなりません。

■おわりに

私たち弁護士は、いろんな方から相談を受け、事件を受任します。相談者・依頼者それぞれに個性があり、事案ごとの特性もあります。相手の理解力に応じて話し方や説明の方法を変えたり、耳の聞こえにくい方には筆談で対応したり、日中は仕事で電話に出られない人には夜間の電話や手紙やメールなど連絡方法を工夫したり、精神的に不安定な方にはこまめに連絡をしたり、日々個別具体的な事案に応じて必要な配慮をしながら、対応されていることと思います。当事者がLGBTであるということも、変に身構えすぎるのではなく、依頼者の個性や事案の特性の一つとして、普段依頼者や事案に応じてやっている当たり前の配慮をやっていただければと思います。

    ■参考文献

    もっと深く知りたい!という方のために、今回私が参考にした文献等を挙げておきます。是非業務の合間にお読みください。

  • 『セクシュアル・マイノリティQ&A』弘文堂 2016年7月
    LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト
  • 『LGBTsの法律問題Q&A』LABO 2016年6月
    大阪弁護士会人権擁護委員会性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム
  • 『セクシュアル・マイノリティの法律相談 LGBTを含む多様な性的指向・性自認の法的問題』ぎょうせい 2916年12月 東京弁護士会 性の平等に関する委員会セクシュアル・マイノリティプロジェクトチーム
  • LIBRA vol.16 No.3(2016年3月号)特集「LGBT−セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)−」
  • 自由と正義 vol.67 No.8(2016年8月号)特集1「LGBTと弁護士業務」
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