福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2012年7月号 月報

「東日本大震災復興支援対策本部・災害対策委員会報告」

月報記事

会 員 福 元 温 子(64期)

1 最近の活動について

当委員会では、継続的に、東日本大震災の被災者を対象とする無料説明・相談会を開催するほか、震災関連の出張相談、勉強会等を実施するなど、被災者支援の活動を行っています。なお、無料説明・相談会には当委員会に委嘱されていない先生方も参加されており、福岡県弁護士会全体で被災者支援を行っています。

復興庁が公表している資料によれば、平成24年5月16日現在、福岡県所在の避難者の数は763人で、4月5日現在の数から19人増加しています。当然ながら、自治体や国が把握していない避難者の方もいるとみられます。

福岡県は、被災地から距離があるため、被災者の避難先となり得る一方で、県民が震災を他人事と感じるようになってしまう危険もあると、自戒を込めて思います。今後も、避難者の方の声に耳を傾け、弁護士としてできる支援を実行していきたいと思います。


2 無料説明・相談会の開催について

平成24年5月27日(日)午後1時から、天神弁護士センターにおいて、被災者のための無料説明・相談会が開催されました。

相談に来られた方の中には、政府指定の避難対象区域外からの避難者は損害賠償請求ができないと思っていた、と言われる方もいました。たしかに、対象区域内からの避難者と対象区域外からの避難者とでは、損害賠償請求の内容が異なることが多いかもしれません。しかし、対象区域外からの避難者の方も、損害賠償請求ができる可能性があります。当委員会では、対象区域外からの避難者の方にも、まずは弁護士へ相談してもらうように、広報活動を行っていきたいと考えています。

また、今回の説明・相談会は参加者が少なかったため、県内の避難者全体に対する広報活動も課題となりました。自治体が把握している避難者の方には自治体を通じてお知らせをしていますが、自治体が把握していない避難者の方に対する働きかけも強化していきたいと考えています。

なお、次回の無料説明・相談会は7月29日(日)午後1時からの開催を予定しています。


3 損害賠償請求手続について

被災者向け説明・相談会では、原則として、全体説明を行った上で個別相談を受け付けています。全体説明では、原子力損害賠償請求の手続や、これまでに発表された中間指針等の判断基準、関連する法律や制度運用の変化等について、説明しています。私自身がそうだったように、新入会員の中には、原子力損害賠償請求の手続についてよく知らないという方もいると思いますので、基本のみ簡単にご紹介したいと思います。

原子力損害賠償請求の手続は、主に、(1)東電に対する直接請求、(2)ADR利用、(3)訴訟の3つがあります。(1)は、簡易迅速ですが、金額が一律に設定されているなどの問題があります。(2)は、原子力紛争処理センターに申立てる手続で、3か月程度を目途に迅速に、また、仲介委員によって中立・公正に運用されるという利点があります。(3)は、事例の蓄積がないため、どの程度時間がかかるかなど、予測が難しい部分が多くあります。

当委員会では、このような基本的知識のみならず、放射線の影響などの専門的知識についても、勉強会・研修を実施していく予定です。興味のある方はぜひご参加ください。

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◆憲法リレーエッセイ◆ 震災が残したもの

憲法リレーエッセイ

会 員 原 田 美 紀(59期)

遊ぼうっていうと遊ぼうという

ばかっていうとばかっていう


震災後に繰り返し流れたACの広告。一時期はこどもたちまでもが口ずさめるほどだった。

この詩の作者金子みすゞは、明治36年の生まれである。西條八十にその才能を認められ、詩人としての道を歩むも、結婚した夫からは作詞活動を禁じられ、自身不治の病に罹ったなかで離婚。彼女から娘を引き離そうとする夫に抗い、26歳という短い生涯を終えた。

山口県仙崎市にある金子みすゞ記念館には、CMの影響もあってか休日ともなれば訪問客が絶えないという。


震災後、「絆」ということばをよく耳にし、人と人とのつながりの大切さが再認識されている。

あまりにも悲惨な状態を考えれば、簡単に副産物と言ってしまうにはためらいもあるが、こうした風潮が生まれたことの価値は大きい。知人である市の職員のひとりは、「震災直後、何とか力になろうと多くの職員が現地に赴いた。仕事を抜きにして、何かに突き動かされるような思いだった。わが市もまだまだ捨てたものじゃないと本当に思った」と語る。

その一方で、震災を機に突飛な理論も持ち出されている。そのひとつが憲法への国家緊急権条項導入理論である。

災害時において、適切な対応ができなかった。だから、今後このような災害が起こったときに政府の危機対処能力を高め、適切な対応を可能にするために、国家緊急権条項を憲法に盛り込むべきというのである。

「ええーっ! なんでそうなるの」

国家緊急権というのは、憲法を学んだ者であれば、誰もが知っている「超」憲法的概念である。国家緊急権の発動はそのまま憲法秩序の停止を意味する。

今回の災害時に政府による適切な対応がなされなかったのは、国家緊急権がなかったからではない。

災害対策基本法等により盛り込まれ、定められるべき組織や制度が機能しなかったにすぎない。

本当に危ぶまれる不備があるというのが理由であれば、それぞれの法律にこうした制度を入れ込めば済むだけの話ではないか。

災害の影響で苦しむ国民の救済という現実の問題を後回しにして、これを好機とばかりに、何ら議論もせずに情緒的にあおり、国民の人権保障のために最も大切である憲法の抜け穴を作ろうとする動きは信じがたい。


これからの日本のあり方を国民の一人ひとりが真剣に考えるときにきている。

「議論をしましょう」

憲法委員会がいつも市民に呼びかけていることばである。

今、現実の問題を直視し、議論を重ねるという努力をしなければ、手痛いしっぺ返しを受けるのは間違いない。それはそのまま我々に跳ね返ってくる。


こだまでしょうか いいえ誰でも

そう、立ち返ってみたい。

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純真短期大学で模擬裁判をしてきました

月報記事

会 員 梅 野 晃 平(62期)

第1 はじめに

本年の4月16日、23日に、向原栄大朗弁護士とともに、純真短期大学に赴いて模擬裁判を行いました。今回は、そのご報告です。


第2 事案の概要

事案を簡単にご説明しますと、犯人が民家に押し入って現金やCD等を強取した強盗致傷事件で、被告人が犯人性を争っているという事案です。

証拠関係としては、(1)被害品と「同じタイトルの」CDが被告人宅から発見、(2)被害者宅の鍵付きタンスにバールのようなものでつけられたと思しき傷があるところ、バールが被告人宅から発見(被告人は、内装工事のバイトをしていたため所持していたと説明)、(3)共犯者の証言あり(ただし、真の共犯者を秘匿している可能性が疑われないでもない)、(4)目撃者の証言あり(ただし、観察条件は必ずしも良くない)等々、もりだくさんの内容となっています。


第3 講義の流れ

1日目は、まず、刑事裁判の流れを説明し、その後、あらかじめ決めていた配役に従い、冒頭手続及び証拠調べ手続を行います。

2日目は、『証拠の分析をしてみよう!』というワークシートに従い、検察官グループと弁護人グループでそれぞれ証拠の証明力などについて検討を行い、その結果を発表します(論告・弁論に相当するものです。)。

これを聞いて、裁判官(裁判員)グループが議論し、犯人性の有無について結論を出すという流れです。


第4 講義の感想と、気になった点

当初、受講生の反応があまりみられなかったため、どうなることかと心配したのですが、徐々に打ち解けてきて、終わってみると、なかなか良かったという感想です。

とくに、証拠の分析については、回答例として想定していた要素はほとんど出揃い、的確な分析がなされていました。

大学で学生向けに講義をするというのは初めての経験でしたので、無事に終えることができて、心底ホッとしています。


ただ、やってみていろいろと思うところもありましたので、そのあたりについても少しご報告させていただきます。

1 弁護士という職についていると、つい忘れがちになりますが、法律や裁判というのは、一般の学生・生徒の多くにとって、たいして興味のある分野ではありません。

  今回はなんとかなりましたが、受講生の知的好奇心を刺激する切り口や、受講生を議論に積極的にコミットさせる工夫については、改善すべき余地が大いにあると思いました。

2 また、講義の「獲得目標」を明確にする必要があったように思います。

  法律家が伝えるべきことというのは、「ものごとの見え方というのは、見る人、立場、状況などによって変わるものであり、ある側面から見た見え方のみが唯一正しいと考えるのは妥当でない」というような根本的なことであったり、「逮捕されたときにどういう権利があるか」というようなお役立ち情報であったり、「刑事裁判が社会でどのような役割を果たしているのか」といった社会学的なことであったりと、それこそ山のようにあると思いますが、実際問題、90分2コマで伝えられることは限られています。

  模擬裁判をし、刑事裁判の流れを一から十まで説明し、その根底にある法の考え方を理解してもらい、ちょっとしたお役立ち情報も盛り込み......としていると、時間がいくらあっても足りませんし、無理に詰め込もうとすると、駆け足すぎて記憶に残らないということになりかねません(大学に入学したころの我が身を振り返れば、わずか3時間でこれらをすべて理解するのはまず無理です。)。

  「この講義では、このことを理解してほしい」という「獲得目標」(学校教育風にいうと、「めあて」)を絞って、それにリソースをつぎ込むようにした方がよいと思いました。

3 そのほか、根本的な話になりますが、時間的制約との関係で、「模擬裁判をやること」の意義も考えた方が良いように思いました。

  刑事裁判の流れを説明するだけであれば、教材DVDなどを使いつつ、ときおり弁護士が補足して説明するようにした方が、短時間で効果的にできるようにも思います。

  また、模擬裁判では、証人役、被告人役などのロールプレイを行うため、その役割をうまくこなす(間違えないように台本を読み上げる)ことに気を取られ、考えることが二の次になる弊害があるように思います。

  模擬裁判をすると、どうしてもそれなりの時間を要します。

  「模擬裁判をやること」自体が目的であればそれでよいのですが、模擬裁判が、それを通じて法教育的な何かを伝えようという「手段」なのであれば、模擬裁判をやることが本当に手段として適切なのかを考える必要があると思います。


第5 最後に

いろいろと出すぎた話をしてしまいましたが、私自身としては、総じていい経験になったと思っています。

皆様も、一度やってみてはいかがでしょうか。

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