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「『弁護士報酬敗訴者負担の取扱い』に対する当会の意見

カテゴリー:意見

司法制度改革推進本部 本部長小泉純一郎殿へ
 2003年8月27日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊
 1. 一般的(両面的)敗訴者負担制度について
 (結論) 一般的(両面的)敗訴者負担制度の導入には反対である。
 (理由) 当会は本年2月12日、「弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度を導入することには強く反対する」との決議をあげ、これを司法改革推進本部に提出していた。ところがこの問題の具体化を推進している司法改革推進本部司法アクセス検討会では、次のような意見によって具体化が推進されている傾向にある。例えば、
 ・ 「訴訟が起こしやすくなればなるほどいいかどうか。司法制度に過剰に期待するのは考え直したほうがいい。」
 ・ 「現在の裁判は概ね勝つべき者が勝っており、勝敗の見通しが立てにくいことはない。」
 ・ 「敗訴者負担制度導入の根拠は公平である。」
 ・ 「負担させる額は弁護士報酬の一部であるから萎縮効果は小さい」
 ・ 「弁護士報酬は訴訟に必要な費用であるから、他の訴訟費用と同様に当然に敗訴者負担としてよい。」
等々の意見である。
 しかし、これらの意見は、司法制度改革推進法、即ち、司法制度審議会の意見の趣旨に則って行われるべき制度改革作りの目的に反した方向の意見であると言わざるを得ない。当会はこの点にまず反対を表明するものである。\n 司法制度審議会意見書は「21世紀の我が国社会にあっては司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。国民が容易に自らの権利・利益を確保実現できるよう、そして、事前規制の廃止・緩和等に伴って、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きる様々な紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない」として、21世紀のあるべき司法制度の姿は「国民にとって、より利用しやすく分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充する」と明記しているのである。
 ところで、弁護士報酬を訴訟費用ないし訴訟費用と同等に敗訴者に負担させるかどうかは、正に司法制度全体のあり方と密接に関連する問題である。即ち、法律扶助制度が充実していること、証拠の偏在を訴訟において解消する証拠開示の問題、団体訴権が認められていること、権利保護保険が広く市民の間に一般的に普及していることが必要不可欠であり、これら司法アクセスを促進する諸制度が拡充ないし整備されないまま、一般的(両面的)敗訴者負担制度だけを導入するとすれば、市民の裁判利用は著しく阻害されることになる。
 現在、わが国では、弁護士報酬は訴訟当事者の各自負担となっている。即ち、昭和46年に民事訴訟費用等に関する法律が制定され、訴訟費用について列挙主義がとられるようになり、弁護士報酬はそこから除外された。これは、敗訴した場合に負担する金額があまりに過大になると訴訟に伴う費用負担のリスクが著しくなり、その結果、訴訟の利用を阻害することになることを懸念して除外されているのである。昭和51年発行の裁判所書記官研修所編「民事訴訟における訴訟費用の研究」7頁にはこのような説明がなされている。
 これまで司法アクセス検討会でも、行政訴訟、労働訴訟、公害・薬害等訴訟、不法行為訴訟、消費者と事業者間の訴訟等について大枠の議論がなされ、これらの訴訟については一般的(両面的)敗訴者負担制度を導入するのは適当でないとの方向性が出ているものの、力の格差のない市民間の訴訟や事業者間の訴訟には導入すべきであるとの意見も強い。力の格差のない市民間や事業者間といった一般的な範疇で導入するならば、訴訟手続の大部分に原則導入することになってしまう。しかし、改めて強調するが、弁護士報酬を一般的に敗訴者に負担させる両面的敗訴者負担制度は、力の格差のない市民間の訴訟であっても、敗訴の場合に相手方の弁護士報酬を負担することを考慮することになり、訴訟アクセスを容易にするものではなく、かえって市民の訴訟利用を遠ざけ、阻害する結果になるのである。その結果、両面的敗訴者負担は、新たな事件屋や違法な解決手段を生み出す危険がある。
 2. 片面的敗訴者負担制度の導入について
 (結論) 片面的敗訴者負担制度の導入について具体的に検討すべきである。
 (理由) 市民にとって有利に作用する片面的敗訴者負担制度は、市民が勝訴した場合には自分の弁護士報酬を相手方から回収することができ、敗訴した場合には相手方の弁護士報酬を負担しないというものである。このような片面的敗訴者負担制度は、司法アクセスの促進に資するものであり、両面的敗訴者負担制度とは全く別の機能を持つ制度であり、むしろ市民の裁判利用を促進するものである。\n 片面的敗訴者負担制度は、市民の訴訟利用の促進に資し、審議会意見等の趣旨に合致するものである。当会は、2月12日の決議でもこの点を明らかにしていたが、改めて行政事件や公害・環境に関する差し止め訴訟、消費者契約法10条の取引約款の無効を主張する訴訟、労働訴訟、独禁法24条の不正取引の侵害防止又は予防訴訟等、重要な公益に係る訴訟類型について、片面的敗訴者負担制度を導入し、市民の司法アクセスの促進を\n図るべきであると要求するものである。
 これまでのアクセス検討会では、片面的敗訴者負担制度について十分な検討がなされていない。当会は、訴訟結果が公共的利益をもたらす訴訟には片面的敗訴者負担制度を導入すべきことを求め、導入すべき訴訟について、早急に具体的検討がなされるよう求めるものである。\n

北九州市小倉北区の飲食店に対する暴力団関係者による殺人未遂・資料業務妨害事件に関する会長声明

カテゴリー:声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊
平成15年(2003年)8月26日
 去る8月18日午後8時頃、北九州市小倉北区において飲食店に対し、暴力団関係者による爆発物を用いた殺人未遂、威力業務妨害事件が発生した。\n この事件は、北九州市内における民事介入暴力排除運動に携わる市民をターゲットにした悪質な犯罪行為であり、暴\力の力によって市民の生命・身体や営業に圧力をかけ、広く暴力、暴\力団に対する恐怖感を植え付けようとしいてる点で、「暴力による支配」を狙った市民社会に対する挑戦である。\n 今回の事件は、基本的人権と社会正義の実現を目的とする弁護士会としても到底看過することのできない重大な犯罪である。
 北九州地区においては、これまでも地道な暴力排除運動が積み重ねられてきたところであるが、今回の犯行によって、これまでの暴\力排除運動を些かも後退させてはならないと考える。
 当弁護士会としては、今回の卑劣な犯行を強く非難するとともに、広範な市民とともに、より大きな民事介入暴力排除の運動を積極的に推し進めていく決意である。\n

住基ネットの稼働停止等を求める会長声明

カテゴリー:声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊
 平成15年(2003年)8月25日 
1.本日、住民基本台帳ネットワークシステム、いわゆる住基ネットが本格稼働(第2次稼働)を始めた。
 当会は、2002年8月5日の第一次稼働以前より、住民の個人情報が漏洩する可能性があり、また行政機関による個人情報の恣意的収集、濫用の危険があるので、個人情報保護のための所要の措置が講じられるまでの間の住基ネットの稼働延期を要請してきた。\n 第一次稼働後、個人情報保護法及び行政機関等個人情報保護法が一応成立したものの、繰り返し指摘してきたように、個人情報の漏洩及び行政機関による個人情報の恣意的収集、濫用という危険性を払拭するものではなく、個人情報保護のためには不十分なものである。\n さらに、福岡県下の複数の自治体において、住基システムとインターネットを物理的に接続しており、その運用面での情報漏洩の危険性もある。地方自治情報センターが本年1月、2月、7月に実施した全国調査の結果も、市町村等の自治体における住基ネットのセキュリティが万全でない現実を示している。
2.また、住基ネットへの接続を拒否している自治体や住基ネットへの接続を住民個人の選択に委ねている自治体があり、相当数の住民の情報が住基ネット上に流通していない状態が続いているが、これによって住民基本台帳に関する事務が混乱したという事情は認められない。また、住基カードを独自に利用する条例をつくった自治体は、全国の市区町村3,207のうち45市区町村にとどまっている。これらは、この住基ネットの必要性に大きな疑問を投げかけるものである。
 他方で、本日からの本格稼働は、これまでの市町村−県(地方自治情報センター)−国の行政機関という縦の情報の流れに加え、市町村から市町村へという横の情報の流れを作るものであるが、市町村等における住基ネットのセキュリティが万全でない状態で稼働をこのまま進めることは危険である。しかも、相当数の住民情報が住基ネット上に流通していない状態で本格稼働を行えば、一部もしくは全部の住民の情報を流さない自治体と全住民の情報を流す自治体との間で大きな混乱を招くのではないかとの指摘もなされている。
3.更に、今回の本格稼働において、住基カードが発行されることになるが、この住基カードは膨大な量の個人情報の蓄積とこのカードによる個人情報へのアクセスを可能にし、個人情報の漏洩の危険性を格段に大きくするものである。ところが、国は、住基カードのセキュリティ対策の検討を本年5月25日に始めたばかりであり、現時点における住基カードのセキュリティー対策は不十\分なものといわざるを得ない。
 のみならず、この住基カードに多数の個人情報を載せ又はアクセスを可能にすることは、カードを媒体とした個人情報の集約を可能\にし、国民総背番号制の機能を与える危険性がある。\n このため、当会では,つとに福岡県内の各自治体に住基カードの発行を停止すること、もしも発行する場合にはそこに載せる個人情報を基本情報のみに限ることを要請してきた。
4.当会は、住基ネットの本格稼働が始められたことに遺憾の意を表すとともに、あらためて住民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するための十\分に実効性のある措置が取られるまでの間、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまでの間、住基ネットの稼働を一時停止するよう求めるものである。また、各自治体に対しては、住基カードへ載せる個人情報を住民基本情報のみに限るほか、住民の個人情報を保護するために可能な限りの措置を取るよう求めるものである。\n

司法修習生の給費制維持を求める声明

カテゴリー:声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊
 平成15年(2003年)8月1日
 司法は、法の支配の理念に基づき、政治部門と並んで社会を支える重要な柱であり、この司法の運営に直接携わるプロフェッションである法曹に対しては、国民が個人の尊厳・基本的人権を享有する主体として自律的な社会生活関係を維持・形成し、発展させていくために必要な法的サービスを提供するという役割を果たしていくことが期待されている。制度を活かすものは人であり、そして21世紀における司法の役割の増大に応じて、その担い手である法曹(弁護士・検察官・裁判官)の果たすべき役割も、より多様で広くかつ重くなっていく。そのため、法曹の質と量を大幅に拡充する事が不可欠とされている。
 かくして、新たな法曹養成制度は、21世紀の司法を担うにふさわしい質を有した法曹を確保するため、従前の司法試験による選抜ではなく、法科大学院を中核とする法曹養成制度に改め、法科大学院での履修に続いて、新司法試験を経て実務修習を中心とする司法修習を実施することになった。その際、司法修習制度は、これまでの実務修習制度の有用性に鑑み,この新制度のもとにおいても引き続いて実施することとされたものである。
  ところで現在、従来から司法修習生に対して給与を支払っていた制度(給費制)を維持するかどうかが検討されている。
 しかし、上記のとおり、法曹養成制度は単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションたる法曹を養成するものであり、したがって、法曹の養成は、国及び社会にとって極めて公共性・公益性の高い重要事項である。
 そして、弁護士は、基本的人権の擁護と社会的正義実現の担い手であるのに加えて、各種公益活動、公的弁護、公設事務所、法律相談センターなど公益性の高い分野を担い、実行する人的資源であり、その公共性、公益性が高い点においては、裁判官あるいは検察官と全く同様である。
 従って、法曹養成とりわけ司法修習に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが国と社会に活力を与え、透明で公正なルールに従って適正かつ迅速に紛争解決をはかり、法の支配を貫徹することを可能\とするものである。
 司法修習生には、給費制の反面、修習専念義務が課されており、他の職業に就いて収入を得る方法を閉ざされている。従って、修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理的均衡を欠き、また当然、司法修習生の生計の維持を困難とする。
 加えて、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院に在学することから,その間に多額の学資や生活資金が必要となる。この経済的負担はそれ自体極めて重大な問題であるが、その上司法修習生に対し給与を支給しないことは、負担を一層増大させるものであり、経済的打撃はさらに大きくなる。そして、この経済的負担の大きさゆえに、多くの有用な人材が法曹を目指すことを諦めることも懸念される。
 そこで、法科大学院における学生の経済的負担を軽減するべきことはもとより、司法修習生に対する給費制を維持して、修習に専念できる態勢を整備すべきである。
 これに対し、給費制に代えて貸与制を採用するとの意見があるが、多額の負債を抱えて新人法曹としての生活をスタートさせることは、その後の返済を考えると、到底好ましいものとは思われない。
 法曹には多種多様な人材が求められるものであるが,経済的負担の大きさから一定の富裕層のみからの偏った人材しか輩出されなくなるとすれば、それは極めて憂慮すべき事態を招来するものであり,司法制度改革審議会意見書の趣旨にも反することとなる。
 よって、司法修習生への給費制度は今後とも堅持されるよう強く求めるものである。

「住基カードの導入見送り等に関する要請」

カテゴリー:宣言

福岡県の各市町村長・福岡県の各市町村議会議長殿へ陳情書
2003年6月12日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊
 陳情の趣旨
 住民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するための十分に実効性のある「所要の措置」(住民基本台帳法附則1条2項)が採られるまでの間、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまでの間、住基ネットの稼働を一時停止し、併せて住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。\n 仮に、やむを得ず住基カードを導入される場合にも、住民基本情報以外の個人情報を盛り込まれないよう陳情いたします。
 陳情の理由
1 個人情報保護法制度の成立は、「所要の措置」とは言えず、住基ネット管理の安全性は確認されていない 2002年8月5日に、住民基本台帳ネットワークシステムが稼働しました。その結果、全国民の個人情報が、全市町村、都道府県及び地方自治情報センターのコンピューターの下に管理され、国の行政機関が全国民の個人情報にアクセスすることが可能になりました。\n しかしながら、このような情報の集約及びネットワークによる結合は、技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に増大させ、個人の尊厳を大きく傷つけるおそれがあります。そのため、住基ネットの施行の前提として、技術的な情報漏えいを防ぐための万全なセキュリティー体制の確保とともに、人為的な情報漏えい、情報の乱用を防ぐための万全な法整備が不可欠です。それによって初めて国民のプライバシー権・自己情報コントロール権が保障されます。
 住民基本台帳法附則1条2項にも、「この法の施行にあたっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに所要の措置を講ずるものとする」と規定されています。
 このような観点から、当会は、住基ネット稼動に伴うセキュリティー基本法の制定を求めるとともに、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する個人情報保護法制の整備、各市町村における個人情報保護条例の整備を求めてきました。
 しかるに、本年5月23日に成立した行政機関個人情報保護法及び個人情報保護法については、以下の通りの根本的な欠陥が存在し、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する法律とはとうてい評価できません。
 行政機関個人情報保護法には、(1)思想、信条等の差別につながるセンシティブ情報に関する収集禁止規定が存在せず、(2)行政機関の判断による利用目的の変更(3条3項)、目的外利用、外部提供(8条2項)を広く認めており、行政機関が「相当な理由」があると判断すれば、個人情報の目的外利用や他の機関への提供ができるなど、個人情報の流用を広く認めており、「保護」法というよりも個人情報「利用」法とでも呼ぶべき内容となっています。
 昨年、個人の身元・思想信条等を含む個人情報リストを違法に作成し利用した防衛庁が、先般、住基情報ばかりか、親族情報や健康情報まで網羅的に収集し、それを管理していたことが報道されましたが、これらの法律は、このような個人情報の名寄せを正当化する根拠となりかねません。
 また、個人情報保護法は、名簿業者や、信用情報取扱業者に対する規制が不十分であり、国民の個人情報のデータベース化や商業利用を十\分に防止できません。現に、本年2月15日には、全国銀行協会に加盟する一部の金融機関が、住民基本台帳法で禁止されているにもかかわらず、住基コードを本人確認に利用していたことが判明しています。
 しかも、セキュリティー基本法が存在しないために、個々の地方自治体がセキュリティーに努めても、住民の個人情報が他の自治体や国の行政機関等予期せぬ機関から漏えいしたり、き損される危険が今なお存在しています。\n 総務省は、本年5月12日に「住民基本台帳ネットワークシステム及びそれに接続している既設ネットワークに関する調査票(全国の市町村を対象に本年1,2月実施)による点検結果」を公表しましたが、セキュリティ対策の体制・規定の整備や必要な管理について、「1割程度の市町村においては、必ずしも十\分な対応がなされていない」としています。また、長野県本人確認情報保護審議会は、本年5月28日、第1次報告をとりまとめていますが、長野県下120自治体の調査結果として、27自治体で住基ネットとインターネットが物理的に接続されており、長野県下の自治体に内外からインターネット経由でアクセスが殺到し、情報が流出する恐れがある、と報告しています。さらに、「長野県の実情は、決して長野県に特異なものではない」とも指摘していますが、この点は総務省の前記調査結果からも推認できるところです。コンピュータネットワークで繋がっている全ての自治体において、万全のセキュリティ対策を講じなければ、住民の個人情報は容易に流出することになりますが、現状は住基ネット管理の安全性に深刻な危惧が存在していると言わざるを得ません。
 国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を十分保障しないまま、また住基ネット管理の安全性が確認されないまま、住基ネットを稼働させることは、憲法13条が保障するこれらの基本的人権を侵害する不測の事態を生じさせる虞れがあります。\n 住民基本台帳法36条の2第1項には、「市町村長は、…住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の漏えい、滅失及びき損の防止その他…適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定されています。
 住民の個人情報を保護すべき責務を負う市町村にあっては、このような不測の事態が生ずることを避けるためにも、「適切な管理のために必要な措置」、「所要の措置」としてのセキュリティー基本法の制定、セキュリティー対策の整備及び個人情報保護法制の見直しまで、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまで、住基ネットの稼働を一時停止されるよう陳情いたします。
2 住基カードの問題点
 本年8月からは、住基カードの交付による住基ネットの2次稼働が予定されています。\n 住基カードは、住民票の広域交付等の前提となるものであり、その交付は、全市町村から県を通して国の行政機関に住民情報が集約されるという縦の情報集約から、各市町村相互の住民情報の融通という横の情報流通をさせる機能を有しており、住基ネットを完成させ技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に高めるものです。\n 総務省は、住基カードの利便性を高めるため、その中に図書館の利用情報や、商店街での購買情報等の生活情報等を例示して各自治体に情報の集積を勧めています。しかしながら、例えば、その導入時には使用目的が限定されていたアメリカの社会保障番号が、今や買い物の際にもそれが記載されたカードの提示が不可欠となるなど、事実上携行を余儀なくされる事態となっているように、住基カードも、無限定に使途を拡大すれば、将来、希望しないものもその利用を余儀なくされる危険があります。
 しかも、総務省及び経済産業省は、住基カードに集積された個人情報が第三者によって不正に読みとられないようにする防護策の検討を、本年5月25日に始めたばかりであり、現時点における住基カードのセキュリティー対策はまだ不十分なものといわざるを得ません。\n また、行政機関における個人情報の不当な収集や名寄せが行われ、それを防止するための「所要の措置」が存在しない現状において、住基カードの交付が行われることは、住基ネットに対し、国民総背番号制の機能を与える危険性が極めて高いものです。\n 従って、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するため十分に実効性のあると住民基本台帳法附則1条2項の「所要の措置」が採られるまでの間、住民基本台帳法36条の2第1項の「適切な管理のために必要な措置」として住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。また、仮にやむを得ずこれを導入される場合にも、市町村の管理する個人情報が不当な収集や名寄せ、あるいは情報漏えいにあうことのないよう、住民基本情報以外の個人情報を集積されないよう陳情いたします。\n

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