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会 務 報 告

カテゴリー:副会長日記

副会長 三 浦 邦 俊
 県弁総会も終わって六月になり、今年は、薫風香るかのようなさわやかな季節が続いていたが、早々に梅雨入りとなってしまいました。会務の方は、快調ですよと申し上げたいところではありますが、二ヶ月経過して、担当委員会や、弁護士会全体の動きが漸くつかめてきました。特に司法改革の実行段階と言われ、日弁総会でも、司法改革実行宣言なるものが、決議されるゆえんが理解出来たところで、自ら担当する委員会の役割を考えると、多少のめまいを覚えながらも、これから秋にかけて、具体的な企画を考えなければならないと身を引締めるところと、半分ボヤキも出るような六月であります。\n 全体の状況から申し上げれば、今年の目玉といわれる日本司法支援センターと裁判員制度問題に関して、前者は、関連する委員会を集合させた支援センターの委員会で活発な議論が行われた結果、単位会の意見集約としては、相当なものが出来あがりそうで、やれやれという雰囲気ではありますが、他方、司法支援センターにどのような内容のものを盛り込んでいくかという点は、これから、何年にも渡って議論を戦わせなければならず、その中で、弁護士及び弁護士会が、どのような役割を果たせるのかという点が、絶えず検証されなければならないと思われ、七月には、扶助協会の担当者研究会も控えています。\n 他方で、平成二一年五月から実施予定の裁判員制度に関しては、国民に開かれた司法をという点を標榜した弁護士会は、刑事裁判に対する国民参加の意義を広く国民に広報していく責務を担っています。この点で、弁護士会は、残念ながら立ち遅れているといわざるを得ない面がありますので、第一に、県弁護士会のホームページに裁判員制度を広報する記事の掲載を計画しています。第二に、企業や、公民館の集まり、学校等の団体に対して、裁判員制度の説明をする制度を作り、実際に出前の講演等を実施することを企画する予\定です。第三に、国民向けには、刑事弁護は何故必要であるのか、何故、刑事手続に国民の参加が必要なのかなどという点を判りやすく説明する必要もあります。第四に、具体的に裁判員となる人には、無罪の推定、伝聞証拠の排除など、刑事司法に関する原則の説明も必要となってきます。さらに国民向けの広報を広く捉えると、これも法教育という概念に入れようという動きもあり、学校等にも、積極的に働きかける必要もあるのではないかという議論も出てきています。現在の限られた会員数と各会員が会務に割ける時間に照らすと、国民から期待されている役割を果たしていけるのかという点が、そもそも、問題とされるような状態であるのかもしれませんが、これから、相当精力を注いで、創意工夫をしていかなければならないと思っています。具体的には、裁判員制度実現本部、刑事弁護委員会などが議論の中心になるかと思われますが、今秋には、手始めにシンポの企画をすることを検討しています。弁護士、弁護士会の力量が問われる場面ですので、各会員には、関心を持ってもらいたいと思います。
 他方、本年九月一六日には、アクロス天神で、「高齢者障害者権利擁護の集い」のシンポジウムが開催される予定ですが、この関係で、福岡県、福岡市、北九州市等の福祉関係の方々も参加されての関係諸団体連絡会が、毎月、弁護士会で開催されています。一〇年ほど前から、北九州市から始まった高齢者、障害者関係の委員会活動ですが、今では、委員会活動の成果で、弁護士推薦委員会にかかる推薦案件中で、福祉関係の委員の推薦が相当数を占めるなど、この方面における弁護士会の活動実績は高く評価されており、シンポには、福祉関係の行政の職員の方が多数参加されると思われます。実行委員会は、アクロスを満席にすることを目標に準備を進めてありますが、シンポには、県知事、福岡市長も来賓として挨拶されることが予\定されております。
 執行部としては、裁判員制度の関係でも、着実な成果をあげたいと考えております。
 以上とは全く関係ない話ですが、四月に挨拶廻りをおこなって感じたことは、「弁護士」というのは、やはり結構使える業種であることでした。この点は、二つの意味があります。一つは、弁護士業務として、まだまだ未開拓の分野がありはしないかという点です。例えば、領事館関係を廻っても、貿易関係の相談があるなどの話を聞いたりしましたが、弁護士業務の拡大に向けて検討すべき点があるのではないかと感じました。この点は、業務委員会と連携を取って、何らかの成果に結び付けられないかと考えている次第ですが、本年度に、形に出来なくても、継続して検討されるべき点であると思われます。二つ目は、「行列のできる法律相談所」というテレビ番組の影響でしょうか、マスコミ的には、弁護士に、番組に出演してもらいたいというニーズが結構\あるという点でした。この点は、既に、若手の会員の方に、声をかけたりしていますが、尻込みをせず、チャレンジして欲しいと思っています。昨年の担当副会長よりは、押しが強いと思いますので、声がかかったら、宜しくお願いしたいと存じます。
 勝手に自らの担当分野のみの雑感を記したようになりましたが、本年度執行部の二ヶ月を振り返ると、川副執行部は、会長の強力なリーダーシップのもとに、順調に滑り出しております。既に、会務全般に関する議論をするため、五月二九日には、一日の合宿をこなして、各役員が、担当すべき分野の課題の確認をしました。果たして、この調子で、一年を乗り切ることが出来るかという点については、各役員それぞれの努力にもかかるものですが、山積する課題にめげないだけのチームワークは、既に、確立されているものと思われます。検討結果を、会務に反映させるために、七月頃には、委員長会議等を開催することを予定しています。

会 長 日 記

カテゴリー:会長日記

会 長  川 副 正 敏
一 各種団体の総会行事
 例年五、六月は、当会や日弁連だけでなく、各種団体の年次総会の季節。業際ネットワーク参加組織(司法書士会、土地家屋調査士会、公認会計士協会、税理士会、行政書士会、社会保険労務士会、弁理士会)のほか、調停協会、人権擁護委員会連合会、宅地建物取引業協会、福岡BBS会(付保護観察少年の支援団体)等々、多くの団体から来賓出席の案内が来ます。主催者の役員や他の来賓諸氏など、各界の指導的立場の方々との面談を通じて、弁護士会を大いに宣伝する機会と考え、最優先で出席するようにしています。
 これらの会合では、祝辞などの公式挨拶だけでなく、司法制度改革をめぐる諸問題の中から、それぞれの団体に関連する話題を取り上げ、懇談かたがた意見交換をすることに努めてきました。
二 日弁連定期総会での討論
 五月二七日、日弁連の第五六回定期総会が開催されました。この総会での重要議題は「司法改革実行宣言」(全文は日弁連総会資料として配付済)であり、圧倒的多数で可決されました。
 私は、以下のような賛成討論をしました。
 一七世紀のフランスのモラリスト、ラ・フォンテーヌの言葉に、「議論するだけなら議員は大勢いる。実行が問題となるとだれもいなくなる」というのがあるそうです。
 それは、今私たちがとるべき態度ではないと思います。
 私たちは、「市民と手を携え、分かりやすく、利用しやすい、頼りになる司法を実現する」という旗を掲げ、一九九〇年の第一次司法改革宣言から数えると一五年の歳月をかけ、内外の厳しい議論や様々の勢力との確執を繰り返しながら、戦後改革に次ぐ困難な司法改革運動を展開してきました。
 その結果、昨年末までにほぼその骨格ができあがった制度の多くは、国民の参加による透明で公正な、隅々まで法の支配が貫かれる社会を築くという私たちの理念を実現する上で、もとより完全なものではないにせよ、少なくとも大きな橋頭堡を築いたものだと考えます。
 他方で、今次改革の目玉ともいうべき裁判員制度や被疑者国選弁護制度を始めとする刑事司法改革分野においては、いわゆる人質司法や調書裁判の打破、捜査過程の可視化等々、積み残された大きな課題が山積しています。
 司法支援センターについても同様です。法に掲げられた事業は、私たちが法律扶助協会とともに、これまで実践してきた様々な権利擁護活動の延長線上のものであって、長年にわたる運動の成果と評価できると思います。しかし、犯罪被害者救済制度や過疎地対策などに見られるように、対象事業の種類や内容の点で、なお十分でないところがあるといわざるをえず、その組織と財政の規模を含めて、解決すべき難しい問題も少なくありません。\n また、センターの運営面では、弁護士会の主導性や個々の弁護活動の自主性・独立性を確保するための制度的担保をどうするのか、いわゆる自主事業の委託化の是非とその場合の展望をどう考え、いかに対処すべきかなど、焦眉の急を要する重要な課題が横たわっています。
 しかし、そのことのゆえに、私たちが刑事弁護や法律扶助の公益的活動から離れ、あるいは、司法支援センターへの参加を回避するなど、制度の実行・実践に少しでも手を緩めるようなことがあれば、それこそ、一六年前にわが九州・福岡から始めた当番弁護士活動など、これまでに私たちが営々と積み重ねてきた努力は水泡に帰するだけではなく、かえって市民の信頼を根底から失うことになりかねないと思います。
 私たちは、この司法改革運動の出発点がそうであったように、今こそ、現場での地道な実践活動を積み重ねることを通じ、広範な市民の信頼を勝ち得て、実践の中から改革を発想し、市民とともに運動を作り上げてきたという原点に立ち返ることが必要です。新たな制度を私たちの血肉とした上で、さらなる改革に向け、ここに指摘されている諸課題に全力で取り組んでいかなければなりません。
 そのようなときに当たり、この宣言を発することは、司法改革の実行に向けた日弁連の結集力と不退転の決意を会の内外に表明し、その存在感と主導性を一層大きなものにすることに資するものだと考えます。\n 以上の理由により、私は本宣言案に賛成いたします。

諫早湾干拓事業差止仮処分事件の許可抗告決定に関する会長声明

カテゴリー:声明

平成17年(2005年)7月13日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
 当会は,諫早湾干拓事業の問題につき,有明海沿岸の属する4県のうちの1つの地元単位会として,日本弁護士連合会や九州弁護士会連合会が行う調査やシンポジウムにつき重要な役割を果たすとともに,福岡県有明海漁業協同組合連合会をはじめ,個別の漁業者や周辺業者に対して被害調査を行い,有明海の漁業者の全体が,今や廃業の危機に陥っていることを明らかにした。
 しかしながら,去る5月16日,福岡高等裁判所は,事業と漁業被害との法的関連性を否定して,佐賀地方裁判所の仮処分決定を取り消し,工事差止めを求めた有明海沿岸の漁業者らの申立てを却下した。\n 日本弁護士連合会は,6月9日付けの会長声明において,この高裁決定が事業と漁業被害との法的因果関係の認定につき,自然科学的な証明まで要求する判断手法をとったことについて,遺憾の意を表明するとともに,国に対して中・長期開門調査の実施を要求した。\nこの決定につき,漁業者らが申し立てた許可抗告に対して,6月27日,福岡高裁は上記因果関係の論点について,これを許可する決定を行った。\n 当会がこれまで行った被害に関する調査からは,ノリ養殖の被害には地域差があること,ノリ養殖には漁業者の努力という要素が入るためノリの販売枚数だけでは被害の程度が推し測れないこと,大牟田地区の被害が深刻で共販組合を維持できなくなったことなどが明らかとなっている。これらの調査結果を踏まえると,福岡高裁が「昭和54年から平成16年までの有明海沿岸4県のノリ養殖の生産量の推移からは,現在のところ,ノリ養殖の生産量自体の減少を認めることはできない」としてノリ養殖の被害をノリ養殖の生産枚数だけの検討で否定した判断には強い違和感を覚えるものである。
 そして,農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会が提言し,さらに前記日弁連会長声明でも提言されている,中・長期開門調査は,漁業被害を改善するための方策を検討するうえで,現時点で採りうる唯一の手段であると考えられることから,国に対し,早急に中・長期開門調査を実施するよう求めるものである。

「日本司法支援センターについて」

カテゴリー:副会長日記

副会長 古 賀 和 孝
 昨年度、当会に日本司法支援センター対策本部が設置され、本年度は私が担当しております。そこで、今回はこのセンター業務に関する当会の取り組み状況についてお知らせいたします。
 司法支援センターは総合法律支援法に根拠を有し、来年四月に独立行政法人として設立され一〇月から業務開始となります。司法支援センターの業務は、司法的解決のための情報提供、扶助相談・援助などの扶助事業、国選弁護、犯罪被害者救済のための情報提供、司法過疎地域対策となっています(法第三〇条)。実際には、司法支援センターの地方事務所を中心に業務が実施されます。この地方事務所の設置については、地域の実情などを考慮し設置するものとされておりますところ、当会では福岡部会と北九州部会に地方事務所を、筑後部会、筑豊部会に支所をおくことを法務省、日弁連に申し入れています。地方事務所、支所は地域での中心的な活動をおこなう拠点となることから、今後もねばり強く働きかけを続けていく方針です。\n 対策本部では、地方事務所、支所を具体的にどのように作り上げていくのかが最大の問題であることから、今年度、対策本部を地方事務所の設置等のあり方に関する部会、刑事弁護活動に関する部会、少年付添人活動に関する部会、民事扶助に関する部会、犯罪被害者救済など自主事業に関する部会に分け、予算獲得のための具体的な申\し入れをすべく諸費用の算出を当面の課題と位置づけ協議を進めております。日本司法支援センターが法務省の所管であることから予算の措置は法務省から財務省への予\算要求という経路を辿ります。法務省から財務省への概算要求が八月におこなわれますので、法務省が予算の作成に入る六月をめどに当会より法務省に対し、福岡県で司法支援センターを立ち上げ運営を開始するには、一体いくらの費用がかかるのかの具体的な要求をすることにしております。\n 現在、当会本部委員の英知を結集して、詳細な予算要求書を作成しているところです。\n 具体的な作業を照会しますと、まず、地方事務所、支所の設置、扶助事業については、地域の実情を考慮し、業務をおこなう場所の選定、取得費用(賃貸を含む)、職員の人数、相談ブースなど内装費用、それに最も関心が集まる弁護士報酬といった費用の積算を行う作業に入っています。各部会の関係委員、法律扶助協会で活躍されている委員の全面的な協力を得て作業をおこなっているところです。
 国選弁護活動については、業務開始後、予想される国選弁護士の必要数の検討や、国選弁護報酬についての要望、国選弁護事件の運営と弁護活動の独立など実務的、理念的な問題の検討をしております。平成二一年までに実現する必要的被疑者国選弁護制度を見越し、当番弁護士活動との連携や、被疑者国選弁護制度の対象とならない被疑者弁護をいかにするかなど困難な問題が山積しております。\n会員の協力なくしてこの制度の運営は難しく、担当委員が腐心されているところです。
 少年付添事件については、重要案件につき国選付添人制度が本来業務として実現される見込みです。この問題については、扶助事業との関連で司法支援センターに移管されない空白部分が自主事業として残ります。全件付添という当会の画期的取り組みをどのようにして維持発展させるか、子どもの権利委員会の委員に検討してもらっています。
 犯罪被害者救済については、本来業務が情報の提供にとどまることから、救済のための弁護活動を如何に運営していくのか、扶助事業の一環として本来業務とすることはできないのかなど、難しい論点の検討をしていただいております。
 執行部では、今後順次、日本支援センターに関する情報提供をおこなっていく予定です。

「ゲートキーパー問題を考える」

カテゴリー:会長日記

会長 川 副 正 敏
一 はじめに
 四月と五月の日弁連理事会では、ゲートキーパー問題に対する新たな行動指針をめぐって熱く厳しい議論が交わされた。六月中にはその採否を決定する予定である。\n この件は、弁護士業務に不可欠な依頼者との信頼関係の基盤である守秘義務(職務上の秘密保持は弁護士の権利でもある。弁護士法二三条)のあり方を大きく左右するとともに、弁護士会自治の根幹にも関わる深刻な問題である。そこで、会員各位のご意見をお寄せいただきたく、問題の所在と議論の要点を報告する。
二 ゲートキーパー問題とは
 この問題については、これまで日弁連から多数の資料が配付されており、昨年七月に発行された『ゲートキーパー問題Q&A』にも解説があるので、ここでは確認の意味でポイントだけを述べる。
 一九八九年のアルシュ・サミット経済宣言に基づき、OECD諸国などによる政府間会議として「金融活動作業部会」(略称「FATF」)が設置された。FATFは一九九〇年にマネー・ロンダリング(資金洗浄)対策のための四〇項目の提言(略称「四〇の勧告」)を採択した。その中では「疑わしい取引」についての金融機関の届出義務などが定められ、一九九六年の改訂で前提犯罪の拡大などが盛り込まれた。これを受けて、日本は組織的犯罪対策法の中に金融機関の義務を法制化した。
 さらに、アメリカの九・一一同時多発テロで盛り上がったテロ防止対策強化の国際世論を背景に、二〇〇三年六月、四〇の勧告は大改訂された(新勧告)。
 新勧告は、資金洗浄防止のための各種義務をテロ資金供与防止目的にも拡げる一方で、規制対象先を金融機関だけではなく、弁護士等の専門職(金融取引の門番=ゲートキーパー)にも拡大し、各国に対して速やかな国内法整備を求めるに至った。
 新勧告によれば、弁護士が依頼者のために次の各取引を準備または実施する場合(特定業務)、公的資料に基づく本人確認及び記録の保存義務が課せられる。また、その際に取引の資金が犯罪収益またはテロ関連であると疑ったか疑うべき合理的な根拠があるときは、これを金融監督機関に報告する義務を負うことになる。
(特定業務)
 (1)不動産の売買、(2)依頼者の金銭・有価証券・その他の資産の管理、(3)銀行預金口座・貯蓄預金口座・証券口座の管理、(4)会社の設立・運転または経営のための出資金のとりまとめ、(5)法人または法的機構の設立・運転または経営・並びに事業組織の売買\n その一方で、新勧告は「守秘義務の対象となる状況に関連する情報」を報告義務の対象外としているが、具体的場面での判断は、「疑わしい取引」に当たるかどうかとともに、必ずしも容易なことではない。
三 日弁連の従来の対応方針
 新勧告について、日弁連は、顧客の「疑わしい取引」の報告義務を弁護士に導入する動きが始まった当初の段階から、一貫して反対の方針を掲げて活動してきたが奏功せず、新勧告が出された後の二〇〇三年一二月二〇日、理事会で次の方針を承認した。
 本人確認と記録保存の各義務については、会規制定等に向けた検討を進める。他方、依頼者の「疑わしい取引」の報告義務制度は、従来どおり反対の方針を堅持するものの、仮に法制度化が不可避な状況となった場合に備えて、以下の努力を行うとの会内合意の形成に努める(旧方針)。
(1) 「疑わしい取引」の要件は、弁護士が当該取引に関与し、かつ依頼者がその取引の違法性を認識していた場合に限定するよう努める。
(2) 守秘義務の範囲は、この制度によって新たに制約されないことを明確化し、とりわけ訴訟手続を前提としない法的なアドバイスの提供についても守秘義務の範囲内であることを法制度上明確にするよう努める。
(3) 報告制度の報告先を弁護士会とすることの是非につき全会的な討議を行う。
四 新たな行動指針の提案
 日弁連は、ゲートキーパー問題対策本部事務局を中心にして、旧方針に基づき国内外での取組みを展開してきた。しかし、昨年一二月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は「テロの未然防止に関する行動計画」を策定した。
 この行動計画では、FATFの新勧告を完全実施するため、弁護士等に対し顧客の本人確認、取引記録の保存及び「疑わしい取引」の届出の義務を課すことなどについて、今年七月までにその実施方法を検討して結論を得ることとし、法整備を必要とするものは二〇〇六年の通常国会に法律案を提出し、それ以外のものは同年上半期までに制度の整備を行うとしている。
 このような情勢を踏まえ、五月七日の日弁連理事会で、執行部は新たな行動指針を提案した。
 これは、本人確認と記録保存義務の会則改正・会規化をするだけで報告義務の法制度化を回避するのはほぼ不可能であり、報告義務に関して、何らかの自主的措置を講じなければ、金融監督機関に対する個々の会員の直接的な報告義務を定めた法案が上程されて成立するのは避けられないとの状況認識に基づくものである。\n 新指針の要点は以下のとおりである。
 「疑わしい取引」の報告義務の弁護士への導入に反対との立場は変えないが、政府の行動計画に基づく法制度化の動向を踏まえ、会規制定を行うことも視野に入れ、次の行動指針について会内合意の形成に努めるとともに、関係機関との協議を進める。
(1) 「疑わしい取引」の要件は、単なる疑いのレベルではなく、客観的に疑わしいと認められる類型に限定する。
(2) 守秘義務の範囲は旧方針の(2)と同旨。
(3) 報告制度の報告先は日弁連とするが、いかなる形でも関係省庁の監督を受けないものとする。
 旧方針との基本的な違いは、同じく報告義務反対の旗は掲げつつも、その法制度化自体は避けがたいとして、報告先を日弁連とする自主的報告制度の会規制定に向けて舵を切ろうというものである。
五 新行動指針についての議論状況
 四月と五月の理事会で交わされた討議や質疑応答の中からいくつかを紹介する。
(1) 日弁連宛報告義務の会規化をめぐる利害得失・問題点
a 会規化しなければ、個々の会員は金融庁等に直接報告義務を負う制度の立法化がなされ、違反に対しては、過失による報告懈怠を含めて刑罰が科せられる。
  「疑わしい取引」か否か、守秘義務の範囲内かどうかについて、個々の会員の責任で判断する制度になると、金融庁等による判断と食い違った場合には、会員は直接その攻撃にさらされる。
  日弁連を報告先とする報告制度の会規制定をすれば、これらの該当性判断について、日弁連に第一次的判断権を留保することで、会員のリスクを回避できる。
b 報告義務の会規化を前提として、法案策定作業の段階から交渉をすることを通じ、「疑わしい取引」の限定や守秘義務の範囲の明確化を図れる。
c FATFの新勧告でも、自治組織がその専門職の特性に応じて、報告義務等を独自に定めるのを容認しており、その中でよりましな制度を追求すべきだ。
d 「疑わしい取引」や守秘義務該当性に関する日弁連の判断と金融庁等との判断が食い違った場合、制度的には日弁連執行部の責任が問われる形になり、弁護士会自治侵害への懸念は払拭できない。
e 法律に基づく義務であれば、依頼者に通報やむなしの説明がつくが、日弁連会規を根拠に報告するというのでは理解を得られない。
f 日弁連が会員に対して、懲戒の制裁を背景に、その業務内容についての報告義務を課すのは、弁護士業務の自主性・独立性を日弁連自ら侵すものだ。
g 守秘義務・権利は弁護士業務の根幹であり、これを損なう会規を日弁連自身が作るべきではない。将来、会員が報告義務を違法として争う訴訟を提起した場合、日弁連も容認しているということで、適法の根拠にされかねない。
(2) 欧米の実情
a イギリスは弁護士個々人が金融当局に直接報告している。その数は極めて膨大で、当局による実質的審査は事実上不可能な実情にある。\nb フランス・ドイツ・ポルトガルなどは弁護士会に報告する制度になっている。
  フランス等では弁護士会長が審査権を持っている。ドイツは審査権を持たず、理由を付して当局に報告する。本当に「疑わしい取引」のみが報告されており、弁護士会を報告先とすることによって、弁護士会自治が侵害されるような事態や依頼者との紛争は生じていない。
c アメリカとカナダでは、直ちに法制度化するような動きは見られない。
(3) 個人情報保護法などとの関係
a 日弁連の会規に基づく「疑わしい取引」の報告は、個人情報の目的外使用であって、かつ法令に基づかない場合ということにならないか。また、弁護士法二三条ただし書きとの関係も疑問がある。
b (aに対し)日弁連を報告先とする報告制度を包含した立法となるであろう。
六 むすび
 他にも幾多の論点があるが、紙数の都合上割愛せざるをえない。
 マネー・ロンダリングへの弁護士の関与などというのは、グリシャムの小説の世界のことであって、私たちの仕事とは無縁のことのようにも思える。しかし、特定業務には、成年後見や企業再生、M&Aなどが広く含まれている。不動産取引は一五〇万円以上という広範なものが対象になる。
 さらに、組織的犯罪対策法の改正作業では、日弁連の反対にもかかわらず、その前提犯罪を約五〇〇件へと著しく拡大せんとしている。脱税もその対象に挙げられており、税務事件の民刑事事件の弁護費用すら犯罪収益にされかねない。これがゲートキーパー規制と連動すれば、日常業務にも深く関わる問題とならざるをえない。
 報告義務を含む弁護士へのゲートキーパー規制自体は、何らかの形での法制度化を止められないというのが日弁連執行部の情勢判断である。
 これを前提としつつ、刑罰の背景の下に「疑わしい取引」や守秘義務該当性如何の判断のリスクを会員個々人に負わせるような法制度の導入を黙過するのか。それとも、これを避けるために、次善の策として、日弁連の第一次的審査権が確保され尊重される制度の樹立を追求すべきか。それは可能なのか。その場合でも、日弁連の判断を否定する当局の権力的介入を招き、弁護士会自治が危殆に瀕する\n事態にならないのか。
 ジレンマの中での決断が迫られている。

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