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観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議

カテゴリー:決議


観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議
弁護士付添人は、少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、事案に応じて非行事実を争い、少年の反省を促し、さらには少年を取り巻く環境を調整するなどの活動を行う。こうした弁護士付添人の活動は、少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえで不可欠である。
しかし、2010年(平成22年)における弁護士付添人の選任率は、観護措置決定を受け身体拘束されている全少年の約62%に止まっている。これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
このように弁護士付添人の選任率が低い背景には、2007年(平成19年)に導入された国選付添人制度の対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めることが選任の条件とされているという事情がある。
しかも、2009年(平成21年)5月以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたにも拘わらず、未だ国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、被疑者段階では国選弁護人が選任されていた少年に、家庭裁判所送致後は弁護士が選任されなくなるといった極めて理不尽な事態も生じている。かかる事態は法の不備以外の何物でもない。
これまで日弁連は、少年に対する法的援助の不足を補うべく、弁護士自らが費用を出し合う付添援助制度によって、一人でも多くの少年に弁護士付添人が選任されるよう努力してきた。
しかしながら、少年を含む全ての子どもが将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すことによって少年の更生を支援することは、国の責務である。
また、子どもの権利条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)は「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っているところ、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
そこで、当会は、少年が家庭裁判所に送致され、観護措置決定を受けて身体拘束を受けている事案については、すべて国選付添人が選任される制度、すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを強く求めるものである。
以上のとおり決議する。
2012(平成24)年5月23日

福 岡 県 弁 護 士 会
会長  古 賀 和 孝

決議の理由
1 当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。
本年、あらためて決議を行うものであるが、以下で、決議の趣旨についての理由と共に、この時期に再度決議する理由を述べる。
2 弁護士は、非行をおこした少年に対する少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるため、少年の立場から手続に関与し、少年の権利を守り、かつ、少年の更生を支援する付添人活動を行ってきた。
具体的には、少年を冤罪から守るべく非行事実を争ったり、被害者と面談するなどして、被害回復のための措置を講じたり、被害実態を少年に伝える等して少年の反省を促したり、さらには家庭や学校、職場等に働きかけて少年を取り巻く環境を調整するなどの付添人活動を行ってきた。
少年審判を受ける少年の多くは、成育歴や家庭環境に大きな問題を抱え、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。そうした背景事情に目を向けながら少年を受容し、理解した上で、少年との間に信頼関係を築きつつ、どこまでも少年のパートナーという立場で、少年の更生を支援するという活動は、弁護士付添人にしか出来ない活動である。
3 そうした付添人活動を通じて、弁護士は、実際に多くの少年が成長し、更生していく姿を目にしてきた。そして、この活動は、地域から非行を減らし、確実に地域・社会の安全につながっていくものである。
そして、少年事件の背景事情に目を向ければ、重大事件に限らず、窃盗事件や傷害事件、さらにはぐ犯事件を含む全ての事件について、少なくとも観護措置決定を受け、身体拘束を受けている少年に対しては、弁護士付添人の支援が不可欠であることを実感してきた。
そうであるからこそ、当会は、2001年(平成13年)2月に、少年が希望する限り、対象事件を問わず、観護措置決定を受け、少年鑑別所に送致されたすべての少年に弁護士付添人を選任するという「全件付添人制度」を発足させ、今日までその制度を発展・存続させてきた。
そして、この全件付添人制度は、全国に広がり、すべての弁護士会において「当番弁護士制度」として定着してきた。
4 こうした弁護士の活動もあって、2007年(平成19年)には、国選付添人制度が発足した。
しかしながら、この国選付添人制度は、対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めた場合にしか付されないという制度に止まっている。
前述のように、弁護士付添人が少年の権利を守り、少年の更生を図るうえで不可欠であることは、重大事件に限ってのことではない。とりわけ観護措置決定を受け、重大な処分が予想される事件においては、弁護士付添人の支援が不可欠である。
そうであるにも拘わらず、国選付添人制度における対象事件が限定されているため、2010年(平成22年)における国選付添人の選任率は、観護措置決定を受けた全少年のわずか4.7%に止まり、国選付添人以外の付添人を含めた弁護士付添人選任率も、観護措置決定を受けた全少年の約62%に止まっている。
これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
5 一方、2009年(平成21年)5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたため、窃盗や傷害等を犯した少年も、被疑者段階では国選弁護人を選任することができるようになった。
しかし、国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、家庭裁判所に送致されると同時に、その少年には弁護士が関与しなくなるといった事態が生じている。
そもそも、被疑者段階での弁護活動は、起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動のみならず、起訴後の将来の裁判(審判)を見据えた活動をも含むものであって、起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分である。
特に、少年事件の場合には、家庭裁判所送致後、原則4週間以内に審判が行われるため、弁護士は、成人の刑事事件に比してより短期間のうちに、将来の審判を見据えて、少年の反省を促したり、被害者と示談に向けた話し合いをしたり、環境調整に取り組む等の活動を行う。
そうであるにも拘わらず、被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され、家庭裁判所送致後は弁護士が関与しなくなるという現在の法制度は、あまりにも不合理である。
こうした不合理な事態は早急に解消されるべきである以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
この点、日本弁護士連合会(日弁連)は、こうした不合理な事態を回避するため、被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては、家裁送致後も、付添援助制度を利用することによって弁護士付添人が選任されるよう尽力してきた。しかし、こうした付添援助制度は、公的資金によって運用されているものではなく、弁護士自らが拠出した資金によって運用されているというのが実情である。
そもそも少年を含む全ての子どもは将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すべく、弁護士付添人を選任することは、国の責務のはずである。
6 さらに言えば、被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても、国選付添人制度の拡大は必然である。
すなわち、被疑者国選弁護制度も、当初は、その対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていたが、冤罪を防止し被疑者の権利を守る必要性は、重大事件に限らず、窃盗や傷害等のいわゆる必要的弁護事件においても同様であることから、最終的には必要的弁護事件すべてが被疑者国選弁護制度の対象になった。
こうした趣旨は少年事件においても妥当する以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
7 加えて、国際法的観点からみても、国選付添人制度の拡大は当然である。
すなわち、日本が批准した子どもの権利条約は、その第37条(d)において、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)において「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っている。
そうであるとすれば、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
8 以上のとおり、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断を適正に行い、少年の更生を期すためには、国選付添人制度の対象を、少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
9 このような考えに基づき、冒頭述べたとおり、当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。同様の決議は、ほとんどの弁護士会でも行われている。しかし、未だ、国選付添人制度拡充の実現には至っていない。
そこで、当会は、決議後も、引き続き国選付添人選任対象の拡大に向けて活動を行ってきた。
すなわち、日弁連は、この2年間に、全国各地でキャラバンやシンポジウムを開催し、国選付添人制度の必要性を市民に訴え続け、その理解は急速に広がっている。当会でも、2010年(平成22年)9月、2012年(平成24年)2月及び3月と広く市民を参加対象としたシンポジウムを開催し、その場に参加された国会議員から賛同の発言を頂いたほか、多数の賛同のメッセージを頂いた。また、全国の弁護士も、国会議員に対する要請行動を行い、2011年(平成23年)10月、2012年(平成24年)3月には院内集会を実施する等してきたところ、その甲斐もあって、国選付添人制度の拡充の必要性は国会議員にも広く認識されるところとなった。
そして、新聞報道等によれば、現在、法務省も、国選付添人制度の対象事件拡大の方向で検討を始めているとのことである。
こうして、当会が2001年(平成13年)2月から取り組んできた全件付添人制度が、ようやく全面的国選付添人制度として実を結ぶ可能性が出てきた。
しかしながら、情勢は決して予断を許す状況でもない。非行に対する社会の目は厳しく、非行少年に弁護士の援助を行うことへの批判的な見方も根深く存在する。今後も、弁護士が少年の権利を守り、少年の更生に寄与する活動をさらに発展・深化させ、そうした実践の成果を広く市民に伝え続けなければ、制度の実現には結びつかない。そして、その活動によって、遅くとも本年度中には国会において国選付添人制度の対象を観護措置決定を受けた少年全員とする少年法改正案を成立させる必要がある。
弁護士は、これまで主として付添援助制度を利用して付添人活動を行ってきた。しかし、この付添援助制度については、将来的な財源確保の見通しが立っていないため、今、国選付添人制度を拡充できなければ、現在の付添人選任率を維持することすら危ういという現状がある。
そこで、当会は、改めて、政府、国会、最高裁判所、及び、法務省に対し、速やかに、全面的国選付添人制度実現のための法改正を行うことを求めるものである。
以上

刑の一部執行猶予制度に対する意見書

カテゴリー:意見

                         
                         2012(平成24)年5月18日
                                 福岡県弁護士会     
                                 会長 古賀和孝
  
 
第179回臨時国会に提出された「刑法等の一部を改正する法律案」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律案」(以下「本法案」という。)に関する福岡県弁護士会(以下「当会」という。)の意見は以下のとおりである。
意見の趣旨
 当会は、本法案を廃案とし、現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整備したうえで、改めて制度導入の可否を審議することを求める。
意見の理由
1 はじめに
 本法案の提案理由は、「近年、犯罪者の再犯防止が重要な課題となっていることに鑑み、犯罪者が再び犯罪をすることを防ぐため」に、刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度を導入することにあるとされる。
 そして、実刑と全部執行猶予との中間的な刑事責任に応じた刑罰や、施設内処遇後に相応の社会内処遇の期間を確保し、施設内処遇と社会内処遇の有機的な連携をはかる制度が求められ、それが刑の一部執行猶予制度であるとされる(以下、本法案に定める刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度のことを、単に「一部執行猶予制度」という。)。
 しかし、一部執行猶予制度は、第2項及び第3項に述べる理論的問題点及び運用上の問題点を抱えているため、第4項に述べる本来的な制度改革の在り方を踏まえた慎重な審議がなされるべきである。
2 刑の実質的重罰化・処遇の長期化に対する懸念
  本法案における「一部執行猶予」の要件は、「3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合」である。実刑と全部執行猶予との中間的な制度としての一部執行猶予制度の位置づけからすれば、その適用範囲としては、これまで実刑となっていた事例の一部のみならず、これまで全部執行猶予となっていた事例にも適用されうることになる。
そして、全部執行猶予になっていた事例に適用された場合には、これが被告人にとって重罰化を意味することはいうまでもない。
一方、これまで実刑となっていた事例に適用された場合であっても、一部実刑に処せられた上、その後執行猶予に付せられることにより、実質的に被告人に対する監視期間が長期化することとなるのであって、被告人の負担は軽視できないものであり、特に保護観察に付せられた場合はなおさらである。
そして、本法案は、遵守事項違反の場合の執行猶予取消に関する条項において、従来の保護観察付執行猶予違反の場合に規定されている「その情状が重いとき」(刑法62条の2)という文言を削除しており、一部執行猶予制度において遵守事項違反が即収容につながる危険性が高いことに照らせば、かかる被告人の負担は決して軽いものではなく、実質的な重罰化となることが懸念される。
3 刑事罰の保安処分化に対する懸念
本法案において、刑の一部執行猶予は「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に言渡すものとされている。
この要件自体が、被告人の一般社会に対する将来の危険性に着目して被告人の自由を制限することを許容しているともいえ、一部執行猶予制度がいわば保安処分的に運用される危険がある。
この点、一部執行猶予の導入は、刑事責任の評価を変えるものではないとの見解が立案担当者から示されている。
被告人を実刑に処した上で、言い渡された刑期を超える執行猶予期間を付すことが、責任主義との関係上、正当化しうるか疑問である。また、執行猶予を付する場合、宣告刑の量刑が重くなるという従来の実務の実情に照らせば、一部執行猶予の場合の収容期間と執行猶予期間を合算した期間は相当長期にわたることになり、責任主義に照らし、かかる重罰化を正当化することは困難であると考えられる。
このように、一部執行猶予制度については、刑事罰が保安処分化するのではないかという懸念を拭うことが出来ず、また、責任主義との関係で法理論上の問題も孕んでいる。
4 本来的な制度改革の在り方 
(1) 仮釈放の運用改善等
仮釈放とは、懲役・禁錮刑の受刑者を、刑期の満了に先立ち一定の条件のもとに、一定期間仮に釈放して、一般社会において更生させることをはかり、その期間を無事に経過したときには施設に収容することを免除する制度である。仮釈放は、受刑者の改善更生を目的とした刑の執行の一形態であり、仮釈放期間は刑期の残りの期間である(残刑期間主義)。仮釈放の期間がこのように定められたのは、行為責任主義を根拠とするものである。
施設内処遇と社会内処遇との有機的連携をはかるのであれば、行為責任主義との整合性に照らしても、まずは仮釈放制度の運用の改善や、必要的仮釈放の制度の導入が検討されるべきである。
(2) 社会内サポート体制の構築
現行制度上の執行猶予は、全く施設収容を行わず、社会内での処遇がなされる制度である。現行制度の趣旨は、短期間自由刑を科すことによって、かえって対象者の社会復帰が困難となる実情に照らし、施設収容を回避すること、そして、判決の感銘力を背景にした心理的強制を担保として罪を犯した者の自発的更生をはかることである。さらに、取り消されることなく猶予期間を満了した場合には、「刑の言渡しは、効力を失う。」(刑法27条)。現行制度では刑期より長い執行猶予期間が定められるが、これは、全く収容されることがないこと等によって、正当化されうるといわれる。
これに対し、一部執行猶予制度は、実刑にほかならない。
かえって、執行猶予が回避しようとした短期自由刑の弊害は、そのまま生じる可能性がある上、拘禁され、また、全部執行猶予の持つ刑の言い渡しが効力を失うという法的効果もない。
このため、「施設内処遇と社会内処遇の有機的連携」が整備されていない状況で一部執行猶予制度が運用されることになれば、いったん社会から完全に隔絶された被告人を、十分に社会内でサポートできないまま、刑罰を執行されるかもしれないという威嚇力だけで被告人の再犯等を防止するだけの制度となるおそれがある。
社会内サポート体制を整備しないまま一部執行猶予制度を導入することは、制度の目的が実現される可能性が低い中で、いわば見切り発車をするものといわざるをえない。まず、保護観察や更生緊急保護の拡充をし、その実績を踏まえ、改めて、制度導入の可否について審議するというのが、慎重な審議の在り方というべきである。
(3) 小括
被告人の再犯防止という点からみれば、被告人が社会復帰を果たす上で実効性のある「個別化」がされるべきであり、それは、むしろ福祉や医療による社会的援助の方策の充実させる方向である場合も多いと考えられ、より広い視野で社会内処遇の充実を図ることが本筋である。
安易に「中間的」な制度をとりいれることによって、「本来的」な制度(現行制度や将来の制度も含め)の在り方が見失われないよう、現行制度の運用改善や、本来あるべき方向性での新しい施策も並行して検討されるべきである。
  
5 結語
本法案には、第2項及び第3項に述べた問題が内在しているため、当会は、本法案をいったん廃案することを求める。その上で、第4項で述べた現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整えることを先行させ、その実績を踏まえたうえで、改めて制度導入の可否を慎重に審議すべきである。
以 上

会長談話

カテゴリー:会長談話


                会長談話
 本日、当会会員が詐欺の容疑で逮捕されましたことは誠に遺憾です。
 当会は、同会員について預かり金の返還遅滞を理由として、平成24年3月22日、会立件の形で懲戒手続に付し、翌23日、これを公表しました。上記懲戒手続につきましては、4月19日、綱紀委員会の議決を経て、懲戒委員会による審査手続に入っております。
 同会員の行為が返還遅滞に止まらず今回の逮捕容疑事実に及んでいたとすれば、その行為は弁護士に対する信頼を根底から覆すものであることが明白です。
 昨年、当会の別の元会員が業務上横領で有罪判決を受けております。このような問題の続発により、当会のみならず弁護士全体に対する国民の信頼を失いかねない状況に至っていることを深く自覚し、重く受け止めております。
 当会は、国民の皆さまからの信頼を回復するため、不正を行った弁護士に対しては、常に除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
 こうした制度上の措置に加え、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人に更なる自覚を求めるとともに、こうした事件の再発防止策についての検討を急ぐ所存です。
                        2012(平成24)年5月10日
                              福岡県弁護士会
                                会長 古賀 和孝

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)

1.今年度最後の日記になります。ちょうど3月下旬のこの時期は、会館東口の沈丁花が甘い香りを放って陽春をたたえています。

執行部に入ると、たくさんの会員の方々が献身的に弁護士会のために粉骨砕身努力しておられることに驚きます。皆様に感謝申し上げます。

また、今年度実現できなかった各委員会の課題は、次年度の課題と引き継いでいかざるを得なかったことをお詫び申し上げます。

2.好きな本のこと

3月に入り、弁護士会の全県職員と現・新執行部との懇親会が開かれ、その折に女性職員から会長日記の本の話を読んでいること、とりわけ上橋奈緒子の「守り人」シリーズが好きで嬉しかったとのお話を伺うことができました。プライベートと会務メッセージとの調整に若干気を遣いながら日記を書いています。

子どもの絵本で気づくのは、大人が求めるのは人生に役立ちそうな、教育的・教養的なものになりがちですが、子どもが好きになるのは単純にかわいらしい、楽しい、面白い(驚きのあるもの)、絵がきれいなものです。

自分は子どものころ、動物ものがすきで、椋鳩十やシートンの動物記を好んで読んだ記憶がありました。ときどき読み返してみたいなと思っていたのですが、本の文庫棚には見当たらないので忘れていました。ところが、娘が小3になり、いろいろな本を漁っているうちに、児童書コーナーにはたくさんの椋鳩十とシートンシリーズがあることに気づきました。狼王ロボ、キザ耳坊や(うさぎ)、熊野犬、愛犬カヤなどの短編です。自分で読み返すつもりでも、心は親子の会話を求めているので、動物ものを好きになってほしくて読んであげます。動物ものは生きるために他の生きている動物を襲い、食らう行為の連続ですから残酷です。ここに人間の行為(狩り)が関わりあいます。生き延びるためには動物の生存本能、智恵が発揮され、相手の裏をかき、九死に一生を得ます。ギザ耳坊や(うさぎ)は前進した足跡をそのまま後進して戻り、途中で横道にステップして枯れ木の上に飛び乗り、あるいはイバラの茂みに隠れて逃げます。熊野犬の物語は、戦時中の食糧難を理由としてすべての飼い犬を殺した話で、犬は頭部を棒で殴打されて頭から血を流しながらも自宅にたどり着いて息絶えたという、涙なくしては読めない物語でした。

このような話を読むと、子どもはやはりギザ耳坊やのようなかわいらしい話は好きなようですが、凄惨・残酷な殺戮場面は苦手です。しかし、共通の話題ができて、一時の幸せを得ました。

3.この月報が出るころには、私たち執行部はすでに退任し、古賀和孝新会長の執行部がスタートしています。平成23年1月から3月、市丸前会長と引き継ぎ作業で併走しながらの助走期間を経て、早1年間が過ぎました。怒涛のような1年間でした。

記憶に残るのは、日弁連レベルでは給費制存続および少年事件全件国選付添人実現のための国会議員あての要請行動、法曹人口政策会議の取りまとめにあたっての議論の経過、死刑廃止についての意見書の採択、ひまわりホットダイヤル無料期間延長の可否の議論、裁判員裁判3年目検証の意見書採択、脱原発へ向けた意見書、などです。このように書いてくると、そのほかにも布川事件の弁護人の活動についての批判意見書や、公訴時効廃止に関しての捜査終結宣言なども含めて、たくさん思い出されてきます。

県弁レベルとしては、新会館建設へ向けての土地取得の総会議決と、北九州部会所属の会員の刑事事件と福岡部会所属会員に対する会立件を行なったことです。しかし、非違行為を疑わせる事例はほかにもあり、私たちとしては重大な関心をもって一般市民、依頼者の信頼を損ねたり、損害を与えたりすることのないように会員を監督し、指導していかなければなりません。しかしながら、弁護士会は強制捜査権を有していませんので、現実に非違行為の存否確定は困難です。弁護士会および日弁連に対する信頼と信用は、個々の弁護士に対する一般市民の信頼と信用を源泉としているものと理解しています。したがって、会員は依頼者の信頼を損ねることのないように、一層、密な経過報告と連絡、および(方針策定にあたっての)相談(打ち合わせ)を励行していただくようお願いします。/

4.3月19日の朝刊に、民主党は秘密保全法の今通常国会への提出を断念したとの記事が掲載されていました。

「新聞等マスコミ、日弁連などの反対が強く、党内にも反対論が強いため、消費税乗り切り策としての決断」との報道です。当会は既に平成24年1月の常議員会において、もしも秘密保全法案が国会に上呈された場合に備えて反対決議の承認をいただいていましたが、平成24年3月8日の常議員会に於いては、法案上呈前に反対決議をなすべきとの判断に基づいて承認をいただき、直ちに会長声明を出していました。この法案の問題点は、秘密の内容そのものが不明確であり、構成要件が特定できないことであり、共謀・共犯として一般市民も犯罪主体となりうる恐れがあることです。新聞報道によると、今通常国会への提出は断念されたとのことであっても、その以後に提出される恐れがあることから、当会としても反対運動は継続する必要があると思います。当会は、平成24年4月28日に秘密保全法反対の市民集会を開催する予定ですので、多くの会員のご参集をお願いします。

5.破産事件の減少

金融法務事情(1941号2012.3.10号91頁)によると、福岡地方裁判所における破産事件の運用状況が紹介されています。「新受事件数は平成17年から減少を続け、平成21年、22年とわずかに増加したが、平成23年は大幅に減少した。法人の件数は、この間大きな変動はないが、自然人の減少が大きい。平成23年自然人件数は平成22年の84%」とのことです。

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この意味は、結局、貸金業法の総量規制の効果が表れて来たものと前向きに評価することができると思います。現在、法人破産には大きな変動はないということですが、これは中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)のもとで、元金支払の繰り延べ猶予がなされている状況もあり、あと1年後にソフトランディングの政策がとられない場合は、一挙に事業者の支払困難事例が表面化してくる恐れもあり、貸し渋りや貸しはがし等、重大な懸念を抱いています。

6.タスキをつないで

私たち執行部の活動は駅伝がタスキをつないでいくのと同じような継続的運動です。

今年度の重点課題であった取調べの全過程可視化と少年の全件国選付添人制度は、いずれも実現には至りませんでした。しかし、まさにタスキをつないで次年度に託します。取調べ可視化の検察事案については、たとえば特捜事件、障害者事件等については、全過程の可視化へ向けた取組みが相当に進んでおり、すべての事件、全過程可視化へ向けての活動がさらに必要とされます。

これに対して、少年事件のほうは、年間約10億円の予算規模にて実現との国会議員の理解も相当に進んでおり、2~3年後には実現しそうな勢いであるとの感触です。給費制は一層運動を盛り上げる必要があります。

これらについてもさらに全会員のご支援をお願いします。

子ども・子育て新システムに関する意見書

カテゴリー:意見


                      
2012(平成24)年3月30日
                              福岡県弁護士会
                              会長 吉村敏幸
少子化対策基本法によって設置された少子化対策会議は,平成22年6月29日,「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下「要綱」という。)を決定し,政府は平成23年通常国会に法案を提出する予定とされていたものの,同国会における法案提出は見送られた。
少子化対策会議は,平成23年7月29日,それまでの議論の到達点であるとして,「子ども・子育て新システムに関する中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)を決定したが,関係各者から様々な反対意見や慎重意見が出され,政府は更なる議論を余儀なくされた。
その後,少子化対策会議は,平成24年3月2日付で「子ども・子育て新システムの基本制度について」を決議し,そこでは「子ども・子育て新システムに関する基本制度」(以下,「基本制度」という。),「子ども・子育て新システム法案骨子」(以下,「法案骨子」という。)を定め,これに基づいて「子ども・子育て支援法案(仮称)」,「総合子ども園法案(仮称)」並びに「子ども・子育て支援法及び総合子ども園法の施行に伴う関係法律案(仮称)」の三法案の作成作業を急ぎ,税制抜本改革とともに今国会への提出を行うとしている。
しかしながら,基本制度の内容は,中間とりまとめ後の議論を踏まえてもなお,様々な問題点を内包しており,これが法案として提出されて新システムが実施されることになれば,我が国の保育及び幼児教育制度は根底から覆され,子ども,ひいては我が国の未来に取り返しのつかない大きな打撃を与えかねない。
この問題は,国の根幹,未来に影響する重要な問題であるため,実質的な意味での国民的議論が必須なはずであるが,それがほとんどなされないまま,形式的に開かれた形での議論を重ねただけで,まさに来年度から新システムが始まろうとしている。
福岡県弁護士会は人権擁護と社会正義の実現という使命を果たすべく,新システム導入により大きな影響を受けるにも拘わらず自ら声を上げることができない子どもたちや,議論の蚊帳の外に置かれた市民に代わり,同法案の今国会への提出,議決,来年度からの導入に反対し,あるべき保育制度改革につき提言を行うものである。
第1 意見の趣旨
   新システムの導入によって大きな影響を受ける一人ひとりの子どもの権利に照らせば,新システムには,以下の通り多くの問題点がある。
①新システム導入によって,実際にはどのような効果と弊害が生じるかが明らかにしないまま,幼保一体化の看板が全面に掲げられていること
②指定基準の厳格化,明確化が図られていないこと
③児童福祉法24条1項の改悪につながりかねないこと
④財源が不明確なままであること
以上のような問題点があるので,当会は,基本制度及び法案骨子を基礎とした法案の提出,議決,来年度からの新システム導入に反対し,子どもの権利を中心に据え,上記問題点に十分配慮したうえでのシステムの構築と導入がなされるべきであることを提言する。
第2 意見の理由
 1 新システムの骨子及び問題点の概観
   新システムは,幼児期の学校教育・保育について,子どもにとって生涯にわたる人格形成の基礎を培う極めて重要なものであることと捉え,また,非正規労働者の増加などの雇用基盤の変化,核家族化や地域のつながりの希薄化等による親達の苦労を懸念し,子どもと子育て家庭を応援する社会の実現に向けての制度構築を図ると謳い,幼保一体化を主たる柱として具体的仕組みを以下のように示している。
(1) 幼保一体化の目的
   質の高い学校教育・保育の一体的提供,保育の量的拡大による待機児童問題の解消,家庭における養育支援の充実を目的とする。
(2) 具体的な仕組みの骨子
  ① 指定制度の導入
 保育事業拡大のため,多様な事業主体の保育事業への参入を促進する。
  ② 総合こども園の創設
    学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供するため,施設の一体化を図る。
   これらは,一見すると,幼保一体化施設による保育・幼児教育の量的拡大が図られ,一人一人の子どもへの保育・幼児教育の実施がより保障されるようになるかのように思える。
   しかし,以下に述べるとおり,新システムの仕組みとその効果を具体的に検討すると,待機児童問題の実質的解消にどれだけ効果があるのか不明である上,保育の質が低下していくおそれをはらんでいることが明らかである。
  そもそも幼保一体化は,本来的に制度設立の経緯及び目的の異なった幼稚園と保育園を一体化しようとするものであり,そのことの効果と弊害を十分に検討したうえで,これを導入するのであればその効果を最大限発揮しうるような制度でなければならないはずである。
  また,新システムにより,株式会社等のさまざまな団体が保育業界に参入できることになるが,そもそも福祉領域の保育には市場原理になじみにくいものであるところ,指定制度の導入により保育が単なる産業になってしまうことがないように十分配慮される必要があるのに,それが十分なされているとは言い難い。
  さらには,市町村と保護者の費用負担の問題や,新システムの財源についても未だ不透明な部分が多く,今後の日本の未来に大きく影響する保育システムの改革が,財源も不明確なまま導入されることは極めて危険である。この点に関しては,財源が明確になるまでの期間,システム導入による効果と弊害について十分に議論を尽くし,子どもの権利に照らして修正するべきところは修正し,その上で導入するべきである。
2 予定されている新システムの具体的な問題点について
①新システム導入によって,実際にはどのような効果と弊害が生じるかが明確にされないまま,幼保一体化の看板が全面に掲げられていること
  政府は,「質の高い学校教育・保育の一体的提供」を幼保一体化の目的の一つとして掲げているが,そもそもなぜ一体化させる必要があるのかその議論が尽くされたとは言い難い。
  確かに,現代においては、保育園及び幼稚園が、それぞれの本来的なサービスに加えて、保育園が教育的な機能を担い,他方で幼稚園が預かり保育等のサービスを行うようになってきており,そうであれば一体化してしまえばよいのではないかとの意見や要望があることは明らかである。
  もっとも,保育園と幼稚園は,その設立経緯,制度趣旨・目的が元来的に異なっており,既存の幼稚園の空き教室を有効活用して待機児童の解消が図られれば万事解決ということにはならず,幼保一体化の効果と弊害についてはより慎重な議論が必要なはずである。
幼保を一体化すると,そこに通う子どもたちは,それぞれ親の就業の有無によって,園で過ごす時間を異にし,一体的な保育や幼児教育ができなくなるなどの弊害が現在の認定子ども園の現場からも上がっている。
そもそも,保育や幼児教育は,そこで家族以外の人間関係を学ぶ場であるにも関わらず,そこでの保育や幼児教育が,子どもごとに,しかも親の都合によって分断されてしまえば,質の高い保育や幼児教育を実施することはできないのである。
社会的な要望と言った効能面のみを強調するのではなく,その弊害についても慎重に議論がなされるべきであることは明らかである。
  また,一体化についての議論が十分になされ,これを推進するとの立場をとるとしても,基本制度及び法案骨子によれば,国の基準をクリアした施設の総称を「こども園」とし,①幼稚園と保育園の機能を併せ持つ,幼保一体の「総合こども園」(ここでは待機児童のほとんどを占める0歳~2歳の子どもの受け入れは義務付けられていない。)②幼稚園,③0歳~2歳対象の「保育所」,④一部の無認可保育所やNPO,株式会社が設立した「その他の施設」の4種類に分かれ,設置基準,対象年齢,内容,開所時間が異なる施設が,すべて「こども園」を名乗ることになっている。
  なお,現在の認可保育所と認定こども園は自動的に総合施設に移行するが,幼稚園は,幼稚園のままか,総合施設になるかを選択することになる。
  さらには,幼稚園団体の意見を踏まえ,私学助成を併存させるなど,維持されるべき理念は後退していると言わざるを得ない。
  このように,今回の新システムの看板に掲げられていたはずの「幼保一体化」は,根本的な部分の議論が不十分であるばかりか,「こども園」を名乗る様々な施設の中に,幼保が一体化した「総合子ども園」が含まれるという,非常に分かりづらい構造となるにも拘わらず,「こども園」全体が「幼保一体化」となるかのようなイメージを先行させているのであり,その実体が国民に十分に理解されているとは到底言い難い。
  このような状況の中で,基本制度及び法案骨子によりつつ,待機児童問題を解消しようとすれば上記④「その他の施設」の指定基準を下げ,そこに「こども園給付」を交付し,企業の参入を促すことにならざるを得ないことが大いに予測される。
  そうすると,質の維持が伴わない,例えばビルの一室にある「こども園」に子どもが押し込められるような事態も予測され,子どもの保育環境が低下する恐れが大きいのである。
  待機児童問題が先鋭化している都市部において,基準を緩めた④「その他の施設」が増えたとしても,それは実質的に見て待機児童問題の解消にはつながらないのである。
  幼保一体化の効能を認め,これを推進していくのであれば,そこに通うことを望むすべての子どもが,総合子ども園に入所できるようにしなければならないはずである。
  新システムが導入されても,都市部における現在の待機児童が,幼保一体化の施設に通うことにはならないであろうことを,政府は前もって国民に説明をするべきである。
②指定基準の厳格化,明確化が図られていないこと
現行制度における保育施設の最低基準は,子どもが健康で安心して生活ができ保育を受けられる最低限を保障するものである。すなわち,現行制度における基準は,これ自体最低限を保障したものであって,これ以下の基準であれば,子どもの健康で安心した生活を保障することが出来なくなる。
   これに対し,基本制度及び法案骨子よれば,こども園として都道府県(予定)から指定されるには,「質の確保のための客観的な基準を満たすことを要件に,①認可外施設を含めて参入を認め,②株式会社,NPO等,多様な事業主体の参入を認める(指定制)。これにより,保育の量的拡大を図るとともに,利用者がニーズに応じて多様な施設や事業を選択できる仕組みとする。」とされる。そして,「指定基準の各々の水準については,今後,要検討」「指定要件については,現行の基準を基礎として,人員配置基準・面積基準等,客観的な基準を定め,適合すれば原則指定を行うことで透明性を確保する」とされている。
   すなわち,新システムが導入された場合の指定基準については,未だ具体化されておらず,新システムが種々の主体の広い参入を認める以上,その指定基準が,現状よりも厳格化されることは期待できず,むしろ緩和されることが大いに予測される。そして,利益の追求を本来的な目的とする株式会社の参入を認めている以上,新制度での指定基準が,緩和されることは明白である。
   仮に,指定基準が緩和されなくても,新制度下では,採算性が重視されることになるため,結局,運営が続けられない事業主体が生じることが予想される。
   また,新システムでは,需給調整を行うと予定されているが,どれほど実効性があるか極めて疑問であるし,その需給調整の中で,既にサービスを受けている子どもの幼児教育や保育の一貫性が保たれず,質が維持されないことが危惧されるのである。
   以上のように,仮に指定制度を導入するとしても,その指定基準は厳格化,明確化すべきであり,それが十分なされないまま新システム導入がされるべきではない。
 ③児童福祉法24条1項の改悪につながりかねないこと
   現行制度においては,児童福祉法24条1項に基づき,保護者が認可保育所に入所を希望する場合,保護者が市町村に認可保育所の利用を申し込み,市町村が保育の必要性を判断した上で入所の可否を決定している。この場合,契約は市町村と保護者の間で締結され,市町村が各保育所に保育を委託することになっている。
   これに対し,新システムでは,保護者は市町村から子どもの「要保育度」の「認定」を受け,その認定に基づいて希望の園に直接利用を申し込み,直接契約を締結することになり,園側は,契約締結の際に採算性を考慮せざるを得ないことになる。この点で,堅持されるべきはずの現行の児童福祉法24条1項は改悪を余儀なくされるのである。
   また,新しく予定されている「こども園給付」は,園が代理受領することとされているが,保護者の自己負担分に関しては,滞納リスクを園が負担することになる。
   例えば,貧困層の家庭に生まれた障害を持った子どもなど,受け入れ施設側にとって,経済的な採算性の面では必ずしも利益をもたらさない場合に,「子ども・子育て新システム」では,その保育が保障される制度となっていない。たとえ障害を持つ子どもが「優先的な選定」を受けられたとしても,施設の側において,「正当な理由」を口実とした受け入れ拒否が可能であり,その「正当な理由」の内容をどのように限定するかの議論も十分にされておらず,また具体化もしていないのである。
   このような制度では,最も保護を必要とする子どもたちに質の維持された保育が保証されず,保護者の資力や障害の有無によって,就学前から子どもが差別を受けるような状況が予測されるのに,この問題に関する十分な議論がされていないのである。
   このように,新システム導入により,市町村の保育実施責任がなくなることで形式的には待機児童問題は緩和される可能性があるものの,「要保育認定」を受け,施設に入所する権利はあるものの,入所出来ない子どもたちが発生することが大いに予測され,新たに,いわゆる「保育難民」の問題が生じる可能性が高いのである。
   以上のとおり,新システムは,待機児童問題を解消し,すべての子どもに質が確保された保育・幼児教育の機会を与えるというあるべき制度とは相当にかけ離れたものとなるおそれがあり,弱者に光が当たらない,非常に暗い未来を創りだす制度となりかねないものなのである。  
   また,現在の保育料算定は,市町村の保育実施責任に基づき,保護者の所得に応じた,いわゆる「応能負担」となっている。
そして,基本制度及び法案骨子においても,形式的には,応能負担となることがうたわれている。
  しかし,新システムにおいては,「利用者負担については,所得 階層区分ごと,保育の必要性の認定の有無,認定時間(利用時間)の長短の区分ごとに定額の負担を設定することを基本とする。」と明記されており,利用料は,公定価格を基準にするものとされ,また,利用者の利用料の負担を定めるに当たって,所得階層も考慮するかのようであるが,その算定に当たって,どれだけの時間利用したかという利用時間を踏まえるものであり,その時間による価格に加えて,施設,サービスによる上乗せ徴収を可能としたことにより,その実態は「応益負担」の保育料算定になるのである。
  そして,全国基準額を踏まえ,市町村が費用徴収基準額を定めることとする。なお,実費徴収や実費徴収以外の上乗せ徴収については一定の要件の下で「施設が定める」とされる。
  こうなると,「公定価格」というのは形だけで,保護者が支払うべき保育料は,施設やサービスによって区々になることが大いに予測される。しかも上乗せ徴収名目で,保護者の経済力に応じた,サービスの差別化が図られることが危惧される。経済状況が厳しい保護者はなるべく上乗せされないように利用を控えたり,施設側はなるべく上乗せ徴収が可能と思われる子どもを優先したりするなど,保護者の経済力が,こどもの保育環境に直結してしまうことになるのである。
  このような弊害まで予測されるのであるから,現行の市町村の責任は維持されるべきであり,児童福祉法24条1項を改悪するような制度導入はするべきでない。
④財源が不明確なままであること
  基本制度及び法案骨子では,新システムの実施に当たって,「『社会保障・税一体改革成案』(平成23年6月30日政府・与党社会保障改革検討本部決定)においては,税制抜本改革によって財源を措置することを前提に,2015年における子ども・子育て分野の追加所要額(公費)は0.7兆円程度(税制抜本改革以外の財源も含めて1兆円超程度の措置を今後検討)とされた。」と記載されており,これを前提としている。
  前提となっている「税制抜本改革」とは,昨今議論になっている消費税増税を主要な内容としたものである。すなわち,新システムは,消費税が増税され,かつ,これが予定通りの税収を得られることが前提である。そして,この増税自体の是非も,税率自体も,未だ国民的コンセンサスが得られていないことは明白である。
  このように財源的な手当もままならない状況下で,不十分な内容のシステムを見切り発車するような事が,断じてあってはならないことは,これまで述べてきたところから明らかである。第3 結語
 以上のように,政府が導入を急いでいる新システムは,なお多くの問題点をはらんでいるのであるから,当会は,拙速なシステム導入に反対し,それらの問題点を十分に議論解消し,確実な財源が確保されたうえでの制度導入を求めるものである。
 
以 上

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