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外国にルーツを持つ人々に対する人権保障の強化及び多民族・多文化が共生する社会の確立に取り組む宣言

カテゴリー:宣言

【宣言の趣旨】
当会は、外国にルーツを持つ人々に対する人権保障をより一層強化し、多民族・多文化が共生する社会を確立するため、以下のとおり、取り組むことを宣言する。
1 ヘイトスピーチ及びヘイトクライム根絶のため、福岡県及び福岡県内の地方自治体に対し、ヘイトスピーチ及びヘイトクライムの被害実態の把握を求めていくとともに、実効的な対策として、ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例の制定を働きかけていくこと
2 外国にルーツを持つ子どもが、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持するための教育を受ける権利を享受することができるよう、これを妨げている、国または地方自治体の差別的な制度を廃止するため、より一層取り組むこと
3 司法の分野における調停委員、司法委員、参与委員に外国籍者を任命しないという、法令に根拠のない運用を改めさせるため、最高裁判所及び福岡県内の裁判所に対し、積極的に働きかけていくこと

2025年(令和7年)5月28日

福岡県弁護士会
【宣言の理由】
第1 外国にルーツを持つ人々の人権と多民族・多文化が共生する社会の確立の必要性
1 外国にルーツを持つ人々の状況
(1) 日本全国における状況
日本においては、外国人留学生や技能実習生、特定技能等の就労外国人の増加により、2024年(令和6年)末の在留外国人数は、過去最高の約377万人に達し、2023年(令和5年)末から約36万人の増加となった。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、2070年に日本の総人口は8700万人まで減り、そのうち1割は外国人が占めると推計しており、外国人は年間16万5000人ほど増える想定を示していたが、実際はその2倍以上のペースで急増している。在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域の数は195(無国籍を除く。)に達する。
また、出生後に日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれ日本国籍を有する人等も日本で生活している。今や日本は、様々な形で外国にルーツを持つ人々が多く暮らす社会となっている。
(2) 福岡県内における状況
このような日本全国の傾向は福岡県内においても顕著であり、2024年(令和6年)6月末時点で、福岡県の在留外国人数は過去最高の約10万5000人に達する。
その在留資格別の内訳としては、2023年(令和5年)12月末時点での統計で、留学が約20%、永住者が約16%、技能実習が約15%、特別永住者が約10%の上位を占め、特定技能も約8%を占めている。
2 外国にルーツを持つ人々の権利擁護に関するこれまでの当会の取り組み
当会では、外国にルーツを持つ人々の司法アクセス改善のため、1991年(平成3年)4月から、財団法人福岡国際交流協会(現公益財団法人福岡よかトピア国際交流財団)が実施する外国人無料法律相談に弁護士を派遣し、2000年(平成12年)3月からは、独自に外国人無料法律相談を開始するなど、外国にルーツを持つ人々の権利擁護に継続的に取り組んできた。
近時も、特定技能の在留資格を導入した出入国管理及び難民認定法の改正に伴って、2019年(令和1年)7月、福岡県がワンストップセンターとしての「福岡県外国人相談センター(MAIC)」を開所したのに伴い、当会も、2021年(令和3年)7月30日、同センターを運営する公益財団法人福岡県国際交流センターと協定を締結して、弁護士の派遣を始めた。
2019年(令和1年)10月からは、福岡県からの委託を受けて、「ふくおか人権ホットライン」を開始し、この電話相談では、外国にルーツを持つ人々が受けた誹謗中傷や差別的取り扱いに関する相談も受け付けている。
また、2024年(令和6年)10月17日、福岡市中央区天神のアクロス福岡に、県内で暮らす外国人向けのワンストップ相談窓口「FUKUOKA IS OPENセンター」が開所された際にも、専門機関として他団体と連携して参画している。
さらに、当会では、後述するとおり、国による外国にルーツを持つ人々を差別する施策や社会内での差別に対しても、会長声明等を発するなどして、その是正を求めてきた。
特に、先駆的な取り組みとしては、2000年度(平成12年度)に、福岡県内の市町村の職員採用試験における国籍条項撤廃のため、当会会員が、当時、既に国籍条項を撤廃している10自治体を除く福岡全県88の自治体を直接訪問し、撤廃を求める要望書を渡し、その理解を求める活動を展開した。
加えて、2016年(平成28年)5月に成立した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下、「ヘイトスピーチ解消法」という。)の施行後もヘイトスピーチの実態に改善が見られないこと、当会として本問題への取り組みが不十分であったとの反省を踏まえ、2022年(令和4年)5月27日、「ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言」を発出している(以下、「2022年宣言」という。)。
3 更なる取り組みの必要性
しかしながら、出入国在留管理庁が実施している「在留外国人に対する基礎調査」によると、未だ日常生活の多くの場面で外国にルーツを持つ人々が深刻な差別に直面している実態が浮き彫りとなっている。
すなわち、2024年(令和6年)度調査によれば、差別を受けた場面は2021年(令和3年)度から上位3項目は変わらず、「家を探すとき」(17.4%)、「仕事をしているとき」(14.2%)、「仕事を探すとき」(12.4%)であった。また、差別を受けた相手については、2022年度(令和4年度)から上位3項目は変わらず、「見知らぬ人」(43.6%)、「職場関係者」(31.4%)、「住宅不動産関係者」(25.1%)が占めている。
さらに、ヘイトスピーチを受けたことがあると回答した割合は12.7%、受けたことはないが見聞きしたことがあると回答した割合は31.6%にのぼる。ヘイトスピーチを受けたり見聞きした場所としては、「インターネット」(65.5%)、「街宣活動」(19.0%)、「デモ」(18.7%)が多い。
人口減少が進む日本において、外国にルーツを持つ人々は年々増しており、アジアの玄関口を標榜する福岡市を抱える福岡県においても、外国人の受け入れの拡大を進める上で、憲法、国際人権基準に沿った人権保障を強化し、多民族・多文化が共生する社会を構築することの重要性はより一層高まっているといえる。
第2 ヘイトスピーチ及びヘイトクライム根絶のための取り組みについて
1 2022年宣言後の活動状況について
当会は、前述の2022年宣言を受け、同年10月5日、関連する人権擁護委員会、国際委員会、憲法委員会、法教育委員会の4委員会の委員及び会員から組織する「ヘイトスピーチ問題対策ワーキンググループ」を設置し、同年12月から、同ワーキンググループの活動を開始した。
現在までの間に、①「福岡県ヘイトスピーチ対策連絡会議」の構成団体である福岡法務局、福岡県、福岡市、北九州市との意見交換、②学校法人福岡朝鮮学園が設置・運営する北九州市八幡西区折尾の九州朝鮮幼初中高級学校、福岡市東区和白の福岡朝鮮幼初級学校への訪問、③駐福岡大韓民国総領事館の訪問、④福岡県内の60のすべての地方自治体に対する文書照会などの方法により、福岡県内のヘイトスピーチ等の被害の実態や実効的な対策のあり方についての調査等を進めている。
また、2024年(令和6年)6月13日には、ヘイトスピーチ被害の救済活動で先駆的な実績を有する神原元弁護士を講師に招いて、会員向けの研修会「研修 ヘイトスピーチ被害救済の実務」を開催し、被害救済の実務に関する理解を深める機会を設けた。
さらに、同年12月14日には、ノンフィクション作家の加藤直樹氏を招いて「市民とともに考える憲法講座 第十四弾『101年前、いま、みらい~朝鮮人虐殺からヘイト問題を考える』」を開催した。
2 福岡県内のヘイトスピーチ被害の状況
とりわけ、当会の現在までの福岡県内の実態調査を通じては、ヘイトスピーチ解消法の施行後も、以下のとおり、ヘイトスピーチに該当する被害の実例が存在することが明らかになった。
例えば、朝鮮学校では、2022年(令和4年)5月24日、同年6月6日には、「在日朝鮮人は日本から出て行け!!」、「韓国は世界中に迷惑をかけています。消えろ」、「竹島返せ!!」という文言が記載された張り紙が学校入口の坂道付近に貼られるという事件が発生している。
また、篠栗町の城戸南蔵院前駅では、2020年2月15日、駅ホームのゴミ箱上に設置された案内板に、「チョンは死ね」という落書きがあったことが発見されたという事案もあった。
さらに、駐福岡大韓民国総領事館によると、領事館前でのデモ・街頭宣伝(ただし、一人によるものを除く。)は、ヘイトスピーチ解消法の施行前である2012年(平成24年)4月から2015年(平成27年)9月まで(42か月)の期間(2022年宣言で引用した「平成27年度法務省委託調査研究事業によるヘイトスピーチに関する実態調査報告書」による調査期間)が15件であったのに対し、同年11月から2021年(令和3年)7月まで(69か月)の期間が64件、同年8月から2023年(令和5年)12月まで(30か月)の期間が23件確認されている。主な発言内容には、「国に帰れ」、「さっさと出て行け」、「日本は韓国と断交せよ」、「反日韓国は竹島を返還せよ」、「日本政府は韓国人を追い出せ」、「朝鮮人」、「ゴキブリ」等の、著しく差別的・排外的な言葉が含まれている。領事館では、デモ・街宣活動について、情報が事前に把握できた場合、ウェブサイトに案内を掲載して、日本を訪れる人に対して注意喚起をしているところ、2015年(平成27年)から2023年(令和5年)までの掲示件数は144件にものぼっている。
加えて、法務省も、「ヘイトスピーチ解消法施行7年」との特設サイトにおいて、「近時、ヘイトスピーチは、街頭デモなどの示威行動からインターネットにその舞台を移しつつあり、インターネットを含めると依然として多くのヘイトスピーチが行われています。」とするとおり、ヘイトスピーチ解消法の施行後も、SNS等のソーシャルメディアを通じたヘイトスピーチは後を絶たず、当会の実態調査においても、福岡県内で発生した犯罪に乗じたSNS上でのヘイトスピーチも確認されている。
3 ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例制定の必要性
当会の現在までの調査等を通じても、ヘイトスピーチ解消法の施行後もなお、福岡県内においてヘイトスピーチの被害が継続して発生している実態が明らかになった。
それにもかかわらず、前述の福岡県内の地方自治体に対する文書照会(回答数は60自治体のうち46自治体)によれば、何らかの形でヘイトスピーチの状況把握を行っている自治体は11自治体で、これを行っていない自治体が28自治体を占めており、福岡県内のヘイトスピーチの被害実態を把握する体制自体が採られていないことが浮き彫りとなっている。
また、ヘイトスピーチ解消に向けた取り組みについても、これを行っている各自治体の施策としてはもっぱら啓発活動にとどまっている。
さらに、ヘイトスピーチを規制するための条例制定については、これに積極的な自治体は11自治体にとどまっており、これに消極的な自治体が32自治体と過半数を占める状況となっている。
他方、全国的には、ヘイトスピーチ解消法の施行から9年が経過し、ヘイトスピーチの拡散防止措置を定め若しくはヘイトスピーチの禁止を明記する条例又は本邦外出身者や外国人に対する不当な差別の解消や禁止を定めている条例を定める自治体としては、2022年宣言以降、新たに、沖縄県(2023年)、東京都渋谷区(2024年)、相模原市(2024年)、群馬県太田市(2024年)が加わり、13箇所を数える。必ずしもその自治体の規模の大小や特定の地域に偏ることなく条例制定を行う自治体が徐々に増加しているところであって、当会の調査に対し、福岡県による条例制定を希望する自治体もあった。
ヘイトスピーチ規制については、罰することよりも、教育的意味、つまり、ヘイトスピーチが行ってはいけないことであることを知らせ、予防することが主目的としており、人種差別撤廃委員会の一般的勧告35(2013)においても「人種主義的ヘイトスピーチは、人権原則の核心である人間の尊厳と平等を否定し、個人や特定の集団の社会的評価を貶めるべく、他者に向けられる形態のスピーチとして、国際社会が非難しているのだということを強調する機能」(para.10)として紹介されているところであって、この点は重要であるといえる。
そして、ヘイトスピーチ解消法が理念法に留まり、ヘイトスピーチの禁止規定すらないことからすれば、条例において、これを明確に禁止することが必要であり、さらには、過料などの罰則や氏名公表制度など、その禁止を実効的に実現する規制についても、その基準や手続保障等について配慮しつつ、検討されなければならない。
そこで、当会においても、福岡県及び福岡県内の自治体に対し、改めてヘイトスピーチ及びヘイトクライムの被害実態の把握を求めていくとともに、実効的な対策として、ヘイトスピーチを明確に禁止し、これを規制する条例の制定を働きかけていくことが必要であるといえる。
具体的には、条例制定を求める要請活動、地方議会議員を対象とした学習会や意見交換会などの企画・実施、条例制定の機運を高めるための市民向けシンポジウム等の開催などに取り組む。
第3 外国にルーツを持つ子どもに対する差別の是正に向けた取り組みについて
1 憲法、子どもの権利条約、自由権規約等の国際人権諸条約の諸権利
憲法は、人が自己の人格を形成、実現するために必要な学習をする固有の権利である学習権を保障するとともに、教育を受ける権利における法の下の平等を定めている(憲法第13条、第14条、第26条1項)。
また、社会権規約第13条は、すべての人に教育を受ける権利を保障し、初等教育を無償かつ義務的なものと規定している。中等、高等教育においても機会の均等を保障し、すべての人がアクセス可能であることを求めている。さらに、保護者には、自らの信条に従って、子どものために公立・私立学校(外国人学校を含む。)を選択する自由を保障している。
この教育を受ける権利は、差別なく平等に保障されなければならず(社会権規約第2条2項、自由権規約第26条、子どもの権利条約第2条、第28条1項)、民族的・言語的・宗教的少数者に対しては、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持し、それに基づく教育を行い、あるいはそのような教育を受ける権利が保障されている(自由権規約第27条、子どもの権利条約第29条1項)。
2 外国人学校やその幼児教育・保育施設に対する差別とその是正の必要性
上記の憲法、国際人権諸条約における諸権利にもかかわらず、日本における外国にルーツを持つ子どもの学習権、教育を受ける権利の保障は十分でない。
国は、外国人学校やその幼児教育・保育施設が、外国にルーツを持つ子どもの教育に重要な役割を果たしているにもかかわらず、学校教育法1条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)に該当しない、各種学校においては幼児教育を含む個別の教育内容に関する基準がなく、多種多様な教育を行っている、などの理由で、国庫助成や給付金等の対象から排除するなどしている。
とりわけ、朝鮮学校については、朝鮮民主主義人民共和国による弾道ミサイル発射という時の情勢を契機として、いわゆる高校無償化制度から全国の朝鮮高級学校だけがその対象から除外されただけでなく、国が地方自治体に対し、補助金支出停止を促したこともあった(2016年(平成28年)3月29日文部科学大臣「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」)。こうした国の動きを受けて、地方自治体においても、朝鮮学校への助成や給付金等の停止や削減が進んだ。
この点については、国連の子どもの権利委員会も、2019年(平成31年)3月に出した総括所見において「日本人以外の出自の子ども(コリアンなど)・・・に対して現実に行なわれている差別を減少させかつ防止するための措置(意識啓発プログラム、キャンペーンおよび人権教育を含む)を強化すること。」(para.18)を促しているところである。
このような国または地方自治体による外国人学校やその幼児教育・保育施設に対する差別が繰り返される現状は、教育を受ける権利の保障の観点から改められなければならないが、ヘイトスピーチとの関係でも、これを温存・助長しかねないものであって、ヘイトスピーチ規制の強化を図るにあたっても、その前提として改められなければならない。
3 外国にルーツを持つ子どもに向けられた差別に対する当会における取り組みの必要性
国または地方自治体による外国にルーツを持つ子どもに対する差別に対して、当会は、これまで、2010年(平成22年)3月25日、「平等な高校無償化制度の実施を求める会長声明」を、2016年(平成28年)5月13日、「朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明」を、2020年(令和2年)7月2日、「外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明」を、2020(令和2)年12月9日「学生支援緊急給付金に関し困窮学生への平等な給付を求める会長声明」を、2022年(令和4年)4月27日、「外国人留学生や朝鮮大学校に通う困窮学生に対する学生支援緊急給付金の平等な給付を再度求める会長声明」をそれぞれ発出し、その是正を繰り返し求めてきた。
しかしながら、国または地方自治体による差別は繰り返されており、上記のとおり、教育を受ける権利の侵害であって、また、このような動きが外国にルーツを持つ子どもに対するヘイトスピーチを温存・助長しかねない。
そこで、当会としては、外国にルーツを持つ子ども、とりわけ特別永住者の子孫である在日韓国・朝鮮人、朝鮮半島にルーツを持つ子どもが、その言語、宗教、文化的伝統、アイデンティティを保持するための教育を受ける権利を享受することを妨げている、これらの差別の是正に向けて、より一層取り組みを強化していく必要がある。
具体的には、引き続き国や地方自治体に対し、外国人学校やその幼児教育・保育施設への平等な制度の適用や財政的支援を求めるとともに、在日韓国・朝鮮人に対する歴史的な偏見や差別の歴史について、学習会開催などを通じた啓発活動にも取り組む。
第4 司法の分野における差別解消の取り組みについて
1 外国籍の調停委員等の就任拒否の問題
司法の分野においても、国が外国にルーツを持つ人々に対する差別を合理的理由なく継続している現状が未だ存在する。
すなわち、最高裁判所は、調停委員、司法委員及び参与員の採用に当たり、規則上は国籍要件がなく、その他の要件をすべて満たしているにもかかわらず、外国籍者の就任を一律に拒否している。
家事事件手続法にも民事調停委員及び家事調停委員規則にも、調停委員の資格要件や欠格事由として日本国籍の有無に関する規定はなく、法令上、調停委員に関する国籍要件は存しない。
そのため、「弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)であれば、国籍にかかわらず、調停委員に任命することは可能である。実際に、過去には、大阪弁護士会所属の外国籍弁護士が民事調停委員に採用された例がある。
ところが、最高裁判所は、2003年(平成15年)の兵庫県弁護士会の韓国籍会員についての調停委員の任命拒否以降、全国の弁護士会が、外国籍弁護士を推薦しても、候補者として扱わない運用を継続している。
これに対して、日本弁護士連合会及び各地の弁護士会は、2009年(平成21年)以降、多くの決議・会長声明・意見を発表し、当会においても、2010年(平成22年)3月、「国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める声明」を発表しているが、最高裁判所は、日本弁護士連合会からの2004年(平成16年)、2008年(平成20年)の照会に対し、「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」に該当することを理由に、前記運用を一向に改めていない。
しかしながら、そもそも調停とは、紛争の当事者間において、条理にかない実情に即した適正妥当な合意の成立を目指すという紛争の自主的解決を図る制度である。調停委員はその中で、当事者と一緒に紛争の実情に即した解決策を考えるために、当事者の言い分や気持ちを十分に聴取する等して合意の形成を目指すことをその職務とするものである。また、調停は当事者が合意して初めて成立するもので、調停委員が強制的な権限を持つものではない。このような制度趣旨・運用に照らすと、調停委員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」には該当せず、最高裁判所の解釈は妥当性を欠いている。
したがって、最高裁判所の対応は、法令に根拠のない基準を新たに創設するものであるだけでなく、調停委員の具体的な職務、職責を勘案することなく、日本国籍の有無で異なる取り扱いをするものであり、国籍を理由とする不合理な差別として、憲法14条に違反する。
国際的にみても、国連人種差別撤廃委員会は、総括所見において、2010年(平成22年)3月と2014年(平成26年)8月の2度にわたり、人種差別撤廃条約第5条との関係で、資質があるにもかかわらず、外国籍者が、調停委員として調停手続に参加できないという事実に懸念を表明し、能力を有する日本国籍でない者が家庭裁判所における調停委員として行動することを認めるよう、締約国である日本の立場を見直すことを勧告している。
2 多民族、多文化共生の観点からも差別解消が急務であること
また、前述のとおり、既に日本は、外国にルーツを持つ人々が多く暮らす社会となっているのであって、調停の場に、他国の文化と日本の文化の相違等を理解している外国籍者が調停委員や司法委員として参画することは、外国籍当事者の実情に即した紛争解決という観点において、むしろ調停制度を充実させるものである。
家事調停においては、例えば国際結婚カップルの離婚調停のような場面で、外国籍の調停委員が関与することにより、外国籍配偶者の不安や孤立感を緩和し、調停手続をより円滑に進める効果が期待される。
2025年(令和7年)2月7日開催の2024年度(令和6年度)福岡法曹協議会での協議結果によると、福岡家庭裁判所においても、外国籍当事者の家事調停事件の新受件数は、2021年(令和3年)が74件、2022年(令和4年)が88件、2023年(令和5年)が108件と年々増加しており、多民族、多文化共生の観点からも差別解消が急務である。
3 当会における取組み強化の必要性
この問題について、当会では、前述の2010年(平成22年)3月の会長声明以降、2021年(令和3年)11月27日に近畿弁護士会連合会の外国籍の調停委員採用を求めるプロジェクトチームの韓雅之弁護士(大阪弁護士会)を講師に招いて、人権擁護委員会内で学習会を開催するなどの取り組みは行ってきた。もっとも、裁判所から当会に対して調停委員の推薦依頼がなかったこともあり、これまで必ずしも、具体的な取り組みを展開できていたとはいえない。
しかし、我々が属する司法の分野におけるこの差別を改めさせない限り、多民族・多文化が共生する社会の実現はあり得ない。当会としても、この差別を解消するべく、今後さらに積極的な取り組みを行う必要がある。
具体的には、最高裁判所に対し、改めて外国籍者の調停委員等への就任拒否を是正するよう求めるとともに、福岡県内の裁判所からもその要望が最高裁判所に届けられるよう、各種裁判所との協議会等において、この問題を積極的に提起していく覚悟である。
第5 結語
以上のとおり、人口減少が進む日本、そして、福岡県においては、外国にルーツを持つ人々は年々増加しているにもかかわらず、これらの人々に対するヘイトスピーチは未だ横行しており、教育分野や我々司法の分野においても差別が繰り返され、一向に是正されていない状況があるのであって、外国にルーツを持つ人々への人権保障を強化し、全ての人々が共生できる、活力のある日本の地域社会を創造するため、今こそ、具体的な行動が求められているといえる。
よって、当会は、宣言の趣旨記載のとおり、外国にルーツを持つ人々に対する人権保障をより一層強化し、多民族・多文化が共生する社会の確立に向けて、全力を挙げて取り組む所存である。

以上

5高裁での違憲判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う一連の訴訟において、2025年(令和7年)3月7日に名古屋高等裁判所は、憲法14条1項及び同24条2項に違反する旨の判決(以下「名古屋高裁判決」という。)を言い渡し、同月25日大阪高等裁判所も同様に、憲法14条1項および同24条2項に違反する旨の判決(以下「大阪高裁判決」という。)を言い渡した。
 一連の訴訟は、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁の判決が出され、いずれも原告側が控訴していたところ、上記各高裁判決は、2024年(令和6年)3月14日の札幌高裁、同年10月30日の東京高裁、同年12月13日の福岡高裁に続く、高裁における4件目、5件目の判断であり、これで、控訴審が係属していた全ての高裁判決が出されたことになる(東京高裁には二次訴訟が係属中である。)。
2 名古屋高裁判決は、性的指向は自らの意思で選択や変更はできないことを認め、婚姻により両当事者が人的結合関係を形成することは、法律婚制度ができる以前から行われてきた人間の本質的営みであり、個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であると指摘した。そして、人間が社会的存在であり、人格的生存には社会的に承認が不可欠であることからして、そのような人的結合関係を社会的に承認されること自体も個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であるとした。
  それを踏まえ、本件諸規定が、異性間の人的結合関係についてのみ法律婚制度を定め、同性カップルが法律婚制度を利用する規定を全く設けていないことは、少なくとも現時点において、婚姻制度の制定については国会の裁量であることを踏まえても、なお、合理的な根拠を欠く差別的取り扱いであり、立法裁量の範囲を超えているとし、本件諸規定は憲法14条1項及び同24条2項に違反すると判断した。
  また同判決は、パートナーシップ制度等、法律婚制度以外の制度では解消できない様々な不利益があることや、同性婚制度を法制化しても弊害は想定し難いことなどを具体的かつ詳細に判示しており、国会に対し、早急な同性婚制度の法制化を強く促す内容となっている。
3 大阪高裁判決は、婚姻は性愛を基礎とする親族身分的人的結合関係を規定しているところ、異性カップルは婚姻をし、親族的身分関係を形成し、互いに権利と責任を負い、各種の法的効果を享受して安定した共同生活を営むことができる一方、同性カップルはこのような法的利益を享受することができず、このような区別取扱いは合理的根拠に基づくものとはいえず、法の下の平等に反する、として本件諸規定は憲法14条1項に違反すると判断した。
  また、相互に求め合う者同士が自ら選択した配偶者と婚姻関係に入ることができる利益は、 現代社会を生きる上での個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益に当たるものといえ、同性カップルがこれを享受することができないのは、性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なものであるといわざるを得ない、として本件諸規定は憲法24条2項に違反すると判断した。
  なお、同判決は、同性婚の法制化に困惑し心理的抵抗を覚える国民に、冷静かつ寛容な態度を期待することは、かけがえのない個人を尊厳ある主体として重んじることを旨として家族制度を構築することを命ずる憲法24条の理念に沿うものである、同性婚に対する国民感情が一様でないことは、同性婚を法制化しないことの合理的理由にはならない、とも指摘した。前記名古屋高裁判決も同旨の指摘をしている。
4 一連の訴訟では、地裁レベルとしては、大阪地裁を除く4地裁5判決において、本件諸規定を違憲ないし違憲状態とする判断が出ていた。
  そして高裁レベルにおいては、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡高裁と、控訴審が係属していた5つの高裁において、違憲判決が言い渡されるに至った。一連の訴訟で唯一、合憲判決であった大阪地裁判決も、大阪高裁判決によって覆された。
  当会は、これまでの会長声明において、本件諸規定を違憲とする判決が相次いでいることから、このような司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたい、と指摘したが、今回の高裁判決により、司法判断の流れがさらに明確になったというべきである。  これ以上、法制化を遅らせてよい事情は何一つない。
  しかし、大阪高裁判決を受けて、林芳正官房長官は、「最高裁の判断を注視したい」とコメントしており、政府において、投げかけられている問題を自ら解決しようという姿勢は、残念ながら、全く見受けられない。
  同性婚制度が存在しないことによって、多数の人々が多大な苦難を被り、人権を侵害され続けている。これまでに示された違憲判決を見るとき、この状況を放置し、最高裁の判断が出るまで待つことは、政府や国会の責務の放棄であると言わざるを得ない。直ちに、同性婚制度を実現させなければならない。
5 当会は、2019年(令和元年)5月29日の定期総会において採択した「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国会に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記一連の判決に対しても、それぞれ会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めてきた。
  当会は、ここに改めて、政府・国会に対し、直ちに、同性間の婚姻制度を整備し、 すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を図るように求める。
                     2025年(令和7年)5月14日
                       福岡県弁護士会      
                        会 長   上 田 英 友

憲法記念日にあたっての会長談話

カテゴリー:会長談話

今年は、第2次世界大戦が終わって80年の節目を迎えます。本日、施行から78年を迎える日本国憲法は、人権侵害の最たる戦争による悲惨な歴史を二度と繰り返してはならないという誓いのもとに生まれました。日本国憲法前文は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認しています。
しかしながら、ロシア連邦によるウクライナへの軍事侵攻や、イスラエルによるパレスチナへの一方的攻撃など、世界の情勢は、日本国憲法が理想とする平和の実現には程遠い状況と言わざるを得ません。
国内でも、憲法9条のもとでGDP比1%の5兆円余に抑えられてきた防衛関係費予算が、今年度予算では8.7兆円にまで激増しています。安保法制や解釈改憲による集団的自衛権により、防衛関係費の増大は軍備拡大に結び付く危険が高いといえ、日本国憲法の理念を無視して進められる軍備拡大は、私たちの市民生活に多大な影響を及ぼします。
そうしたなか、裁判所では、日本国憲法の力が改めて見直されています。
生活保護基準引き下げが生存権を保障した憲法25条に違反するとして基準額の減額処分取り消しを求めた訴訟において、本年1月29日、福岡高裁は、憲法25条の趣旨、目的を踏まえ、厚生労働大臣による基準額の引き下げを違法と判断しました。
また、同性間での婚姻を認めない現在の法制度が憲法に違反するとして、国を訴えた「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、全国5か所の高等裁判所で「憲法違反」の判断が示されました。昨年12月13日には、福岡高裁においても、法の下の平等を定めた憲法14条、婚姻や家族に関する法律の制定について個人の尊厳と両性の平等を基本とすることを定めた憲法24条2項のみならず、幸福追求権を定めた憲法13条にも反し違憲と判断されました。
当会は、今後も、個人の尊重を最高価値とする日本国憲法の理念に則り、基本的人権を擁護し、社会正義を実現しつつ、法的助力の必要な市民の皆様に寄り添う法律家団体として、全力をあげて活動してまいります。

2025年(令和7年)5月3日
福岡県弁護士会
会長 上田英友

日本学術会議の独立性・自律性を尊重すること等を求める会長声明

カテゴリー:声明

内閣は2025年(令和7年)3月7日、日本学術会議法(以下、「法」という。)の改正案(以下、「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。しかし、後述のとおり、改正案には、日本学術会議(以下、「学術会議」という。)に対して政府のコントロールを及ぼそうとする仕組みを法制化する内容が盛り込まれており、これらは学術会議が本来有するべき政治権力からの独立性・自律性を損なうもので、学問の自由を保障した憲法23条に照らして問題である。
そもそも学術会議は、「学者の国会」とも呼ばれ、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、」「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命と」する国家機関である(法前文、2条)。
法の規定上、学術会議は、「独立して」、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」等の職務を行い(法3条)、政府から「諮問」を受ける(法4条)ほか、諮問が無くとも「政府に勧告する」(法5条)権限を有しており、政府からの強い独立性と自律性を有している。
210名の会員の選定は、元来、各学術分野の研究者によって構成される学会の選挙によっていたが、1983年(昭和58年)の法改正により、学術会議の「推薦」「に基づいて、」「内閣総理大臣が任命する」(法7条2項、17条2項)現行方式に改められた。この改正が、内閣総理大臣による政治介入を招くのではないかとして問題となったが、中曽根康弘首相(当時)が「政府が行うのは形式的任命にすぎません。」と答弁し(同年5月12日、参議院文教委員会)、「推薦をしていただいた者は拒否はしない。そのとおりの形だけの任命をしていく」(同年11月24日、同院同委員会における総理府総務長官答弁)という運用がなされることにより、人事面での政府からの独立性が引き続き確保されてきた。
このように学術会議という学術組織にとって政治権力からの独立性・自律性が尊重されるべきことは、憲法23条が学問の自由を保障することに基づく。
本来、学問研究の真髄は真理の探究にあるが、その際には、時々の社会において支配的な価値観や政治思想、さらには時の政府の政治方針を批判的検討の対象とすることもしばしば起こり得る。
そうした場合に政府が自らに批判的な学術的営みに干渉することが可能であるならば、真摯な批判的検討による真理探究という科学の営みはゆがめられてしまい、「科学の発達向上」(法2条)等の法の目的もおよそ達し得るところではない。したがって、科学の発達のためには、学問研究の自由の保障が必要不可欠である。
先の大戦に至る経過において、学問研究の自由が圧迫され、これが全体主義の伸長をもたらす一因をなした。滝川幸辰教授がその学説を理由に政府から休職を命じられた京大滝川事件(1933年(昭和8年))や、「国体」に反する異説を唱えたとして美濃部達吉貴族院議員が全ての公職から追放された天皇機関説事件(1935年(昭和10年))は、その代表例である。憲法は、その反省のもと、学問の自由(憲法23条)を保障したのであり、自由な学問研究に対し政治的な干渉をしてこれを萎縮させることは、学問の自由を保障する憲法とは相容れないものである。
こうして確保された独立性・自律性のもと、学術会議は、年平均10を超える提言・勧告等の意見表明を発出したり(省庁等からの諮問に応えたものを含む。)、わが国の学術団体を代表して国際科学会議(現・国際学術会議)に加盟しその一員として活動したりする、等の活動を行ってきた。その活動は、政府からの財政支援が脆弱で活動の一部が会員の手弁当によらざるを得ないという点はともかく、特に問題とされるようなことはなかったものである。
学術会議に関して政治問題が浮上したのは、2020年(令和2年)、菅義偉首相(当時)が、新会員の任命にあたり、具体的理由を明らかにすることもなく、学術会議が推薦した候補者105名のうち6名の任命を拒否した際であった。この任命拒否に対しては、当会や(2020年(令和2年)10月28日「日本学術会議の推薦に基づく会員の任命を求める会長声明」)日本弁護士連合会を含む多くの学会や諸団体、世論から、抗議、反対が寄せられたが、その後に至るも政府は任命拒否した6名を任命することなく、任命拒否の理由を明らかにすることもないまま、法7条1項が定める210名の会員のうち6名が欠員という違法状態が継続している。
政府は、このような違法状態を放置し、かつその理由の説明も欠いたまま、「日本学術会議の在り方についての方針」(2012年(令和4年)12月6日、内閣府)、「日本学術会議の法人化に向けて」(2023年(令和5年)12月22日、内閣府特命担当大臣決定)、「学術会議の在り方に関する有識者懇談会」の設置(2023年(令和5年)8月29日第1回開催、2024年(令和6年)12月20日に最終報告書を公表)、と、一方的に学術会議の在り方を問題視してその法人化を図る方針を打ち出しており、このような経過からは、問題の焦点をずらそうとする政府の意図が窺われる。
改正案では、学術会議の設置形態を独立した法人とするほか、
(1) 内閣総理大臣が委員を任命する日本学術会議評価委員会を内閣府に置き、学術会議の活動計画や業務実績についての評価に関する報告を受け、学術会議に対して意見を述べることができるとすること、
(2) 内閣総理大臣が任命する監事が、学術会議会員等について、「不正の行為」「があると認めるとき」に限らず、「当該行為をするおそれのある事実があると認めるとき」や「著しく不当な事実があると認めるとき」にも、内閣総理大臣等に報告するものとすること、
が盛り込まれているが、これらの活動次第では、任命権を通じて内閣総理大臣が学術会議の活動にコントロールを及ぼすことが可能となる。
そもそも、学術会議が「国の特別の機関」として活動してきたがために問題が生じたという事態はなかったのであるから、学術会議を法人化すべきであるとか、最終報告書が提言する評価委員会や監事を設置すべきことを示す立法事実はない。
仮に、学術会議の組織形態等を改変するのであれば、学術会議が一貫して主張しているように(直近では2025年(令和7年)2月27日の学術会議会長談話「日本学術会議の法人化に関する法案の検討状況について」及び同年3月7日の同会長談話「日本学術会議法案について」)、(1)学術的に国を代表するための地位、(2)そのための公的資格の付与、(3)国家財政支出による安定した財政基盤、(4)活動面での政府からの独立、(5)会員選考における自主性・独立性、という5要件が満たされるべきである。改正案の内容は、到底これを満たすものではない。
以上より、当会は、学術会議の独立性・自律性を脅かす改正案に反対し、学術会議の独立性・自律性を尊重すること、また、会員任命を拒否されたままの6名を任命して違法状態を速やかに解消することを改めて求める。

2025年(令和7年)3月24日
福岡県弁護士会
会長 德永 響

「大崎事件」の再審請求棄却決定についての特別抗告棄却決定に強く抗議する会長声明

カテゴリー:声明

1 いわゆる「大崎事件」の第4次再審請求事件において、最高裁判所第三小法廷(石兼公博裁判長)は、2025年(令和7年)2月25日付けで、再審請求を棄却した鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)の原々決定を支持して即時抗告を棄却した福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)の原決定を是認し、請求人の特別抗告を棄却した(以下「本決定」という。)。なお、本決定は、4名の裁判官による多数意見であり、原決定及び原々決定を取り消して再審開始を決定すべきとする宇賀克也裁判官による反対意見(以下「宇賀反対意見」という。)が付されている。
2 「大崎事件」は、1979年(昭和54年)10月12日に、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が、元夫(長男)及び義弟(次男)と共謀して、義弟(四男)の頚部に西洋タオルを巻き、そのまま締め付けて窒息死させ、その遺体を、義弟(次男)の息子をも加えた4名で義弟(四男)方の牛小屋堆肥内に埋没させて遺棄したとされる事件であり、アヤ子氏に対する懲役10年の有罪判決が確定している(以下「確定判決」という。)。アヤ子氏は、一貫して無実を主張しており、満期出所後、3度にわたって再審請求を申し立てていた。第1次再審請求においては、請求審である鹿児島地方裁判所(笹野明義裁判長)が再審開始決定をしたものの、その即時抗告審である福岡高等裁判所宮崎支部(岡村稔裁判長)がこれを取り消し、特別抗告審である最高裁判所第一小法廷(金築誠志裁判長)も再審開始を認めなかった。第3次再審請求においても請求審である鹿児島地方裁判所(冨田敦史裁判長)が再審開始を認め、その即時抗告審である福岡高等裁判所宮崎支部(根本渉裁判長)もこれを支持したことから、再審開始の道筋がつけられたものと思われたが、結局、再審開始に至らなかった。
第3次再審請求においては、2019年(令和元年)6月25日に特別抗告審である最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)が、再審開始を認めた請求審の決定やこれを支持した即時抗告審の決定を取り消さなければ著しく正義に反するとまで断じた上で、各決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の不当な決定をなした。当該決定は、義弟(四男)の死因が出血性ショックによるものである可能性が高いことを指摘した法医学者の鑑定について、当該法医学者が遺体を直接検分しておらず、解剖時に撮影された12枚の写真からしか遺体の情報を得ることができなかったことなどを指摘して、証明力に限界があると説示し、死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとまではいえないとしていた。
3 今次の第4次再審請求は、高齢になり寝たきりになったアヤ子氏の強い願いを受け止めた親族により申し立てられたものである。
当会では、これまでにも「大崎事件」の再審請求事件についての決定に対して会長声明を発しており、確定判決の問題点を度々指摘してきたところである。
第4次再審請求においては、確定判決が認定した殺害行為時よりも早い時点で既に義弟(四男)が死亡していたことを明らかにする死亡時期に関する新証拠として救急救命医の鑑定書が提出されていたが、本決定は、これを死因に関するものと過小評価した上で、救急救命医が遺体を直接検分しておらず、解剖時に撮影された写真から得られる情報が限定的であり、証明力に限界があると説示している。新証拠の証明力を不当に低く評価している点で、上記の第3次再審請求における最高裁決定を無批判に追従したものとしかいえない。
そもそも、再審請求に際して提出される証拠については、いわゆる新規性を求められるのであるから、鑑定を行う者が遺体を直接検分していないことは当然に予定されている。それにもかかわらず、第3次再審請求における最高裁決定や本決定が新証拠である鑑定の証明力を攻撃する材料としていることは、再審制度の否定につながりかねないものであり、不当である。この点については、宇賀反対意見が、現在の医学の飛躍的発展により限られた情報から驚くほど多くの医学的知見が得られるようになったといえることから、鑑定を行う者が遺体を直接見分していないことなど依拠した情報が限定的であることをもって新証拠の証明力を低くする根拠とすることには賛同し難いと述べているところである。
本決定は、解剖をした法医学者の意見を所与の前提として、新証拠である救命救急医の鑑定書の核心につき、これが義弟(四男)の死因ではなく死亡時期を考察するものであるとの適切な評価を誤り、科学的・専門的知見に基づいた判断を行わず、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に反し、再審請求を棄却すべきものとした各決定を是認しており、断じて容認できるものではない。
4 アヤ子氏が繰り返し汚された名誉の回復を速やかに図るべく、一刻も早く再審公判を行わなければならないことは言うまでもない。
当会としては、本決定に対しての強く抗議するとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める次第である。

2025年(令和7年)3月21日

福岡県弁護士会

会 長  德永 響

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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