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観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議

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観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議
弁護士付添人は、少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、事案に応じて非行事実を争い、少年の反省を促し、さらには少年を取り巻く環境を調整するなどの活動を行う。こうした弁護士付添人の活動は、少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえで不可欠である。
しかし、2010年(平成22年)における弁護士付添人の選任率は、観護措置決定を受け身体拘束されている全少年の約62%に止まっている。これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
このように弁護士付添人の選任率が低い背景には、2007年(平成19年)に導入された国選付添人制度の対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めることが選任の条件とされているという事情がある。
しかも、2009年(平成21年)5月以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたにも拘わらず、未だ国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、被疑者段階では国選弁護人が選任されていた少年に、家庭裁判所送致後は弁護士が選任されなくなるといった極めて理不尽な事態も生じている。かかる事態は法の不備以外の何物でもない。
これまで日弁連は、少年に対する法的援助の不足を補うべく、弁護士自らが費用を出し合う付添援助制度によって、一人でも多くの少年に弁護士付添人が選任されるよう努力してきた。
しかしながら、少年を含む全ての子どもが将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すことによって少年の更生を支援することは、国の責務である。
また、子どもの権利条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)は「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っているところ、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
そこで、当会は、少年が家庭裁判所に送致され、観護措置決定を受けて身体拘束を受けている事案については、すべて国選付添人が選任される制度、すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを強く求めるものである。
以上のとおり決議する。
2012(平成24)年5月23日

福 岡 県 弁 護 士 会
会長  古 賀 和 孝

決議の理由
1 当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。
本年、あらためて決議を行うものであるが、以下で、決議の趣旨についての理由と共に、この時期に再度決議する理由を述べる。
2 弁護士は、非行をおこした少年に対する少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるため、少年の立場から手続に関与し、少年の権利を守り、かつ、少年の更生を支援する付添人活動を行ってきた。
具体的には、少年を冤罪から守るべく非行事実を争ったり、被害者と面談するなどして、被害回復のための措置を講じたり、被害実態を少年に伝える等して少年の反省を促したり、さらには家庭や学校、職場等に働きかけて少年を取り巻く環境を調整するなどの付添人活動を行ってきた。
少年審判を受ける少年の多くは、成育歴や家庭環境に大きな問題を抱え、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。そうした背景事情に目を向けながら少年を受容し、理解した上で、少年との間に信頼関係を築きつつ、どこまでも少年のパートナーという立場で、少年の更生を支援するという活動は、弁護士付添人にしか出来ない活動である。
3 そうした付添人活動を通じて、弁護士は、実際に多くの少年が成長し、更生していく姿を目にしてきた。そして、この活動は、地域から非行を減らし、確実に地域・社会の安全につながっていくものである。
そして、少年事件の背景事情に目を向ければ、重大事件に限らず、窃盗事件や傷害事件、さらにはぐ犯事件を含む全ての事件について、少なくとも観護措置決定を受け、身体拘束を受けている少年に対しては、弁護士付添人の支援が不可欠であることを実感してきた。
そうであるからこそ、当会は、2001年(平成13年)2月に、少年が希望する限り、対象事件を問わず、観護措置決定を受け、少年鑑別所に送致されたすべての少年に弁護士付添人を選任するという「全件付添人制度」を発足させ、今日までその制度を発展・存続させてきた。
そして、この全件付添人制度は、全国に広がり、すべての弁護士会において「当番弁護士制度」として定着してきた。
4 こうした弁護士の活動もあって、2007年(平成19年)には、国選付添人制度が発足した。
しかしながら、この国選付添人制度は、対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めた場合にしか付されないという制度に止まっている。
前述のように、弁護士付添人が少年の権利を守り、少年の更生を図るうえで不可欠であることは、重大事件に限ってのことではない。とりわけ観護措置決定を受け、重大な処分が予想される事件においては、弁護士付添人の支援が不可欠である。
そうであるにも拘わらず、国選付添人制度における対象事件が限定されているため、2010年(平成22年)における国選付添人の選任率は、観護措置決定を受けた全少年のわずか4.7%に止まり、国選付添人以外の付添人を含めた弁護士付添人選任率も、観護措置決定を受けた全少年の約62%に止まっている。
これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
5 一方、2009年(平成21年)5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたため、窃盗や傷害等を犯した少年も、被疑者段階では国選弁護人を選任することができるようになった。
しかし、国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、家庭裁判所に送致されると同時に、その少年には弁護士が関与しなくなるといった事態が生じている。
そもそも、被疑者段階での弁護活動は、起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動のみならず、起訴後の将来の裁判(審判)を見据えた活動をも含むものであって、起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分である。
特に、少年事件の場合には、家庭裁判所送致後、原則4週間以内に審判が行われるため、弁護士は、成人の刑事事件に比してより短期間のうちに、将来の審判を見据えて、少年の反省を促したり、被害者と示談に向けた話し合いをしたり、環境調整に取り組む等の活動を行う。
そうであるにも拘わらず、被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され、家庭裁判所送致後は弁護士が関与しなくなるという現在の法制度は、あまりにも不合理である。
こうした不合理な事態は早急に解消されるべきである以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
この点、日本弁護士連合会(日弁連)は、こうした不合理な事態を回避するため、被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては、家裁送致後も、付添援助制度を利用することによって弁護士付添人が選任されるよう尽力してきた。しかし、こうした付添援助制度は、公的資金によって運用されているものではなく、弁護士自らが拠出した資金によって運用されているというのが実情である。
そもそも少年を含む全ての子どもは将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すべく、弁護士付添人を選任することは、国の責務のはずである。
6 さらに言えば、被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても、国選付添人制度の拡大は必然である。
すなわち、被疑者国選弁護制度も、当初は、その対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていたが、冤罪を防止し被疑者の権利を守る必要性は、重大事件に限らず、窃盗や傷害等のいわゆる必要的弁護事件においても同様であることから、最終的には必要的弁護事件すべてが被疑者国選弁護制度の対象になった。
こうした趣旨は少年事件においても妥当する以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
7 加えて、国際法的観点からみても、国選付添人制度の拡大は当然である。
すなわち、日本が批准した子どもの権利条約は、その第37条(d)において、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)において「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っている。
そうであるとすれば、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
8 以上のとおり、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断を適正に行い、少年の更生を期すためには、国選付添人制度の対象を、少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
9 このような考えに基づき、冒頭述べたとおり、当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。同様の決議は、ほとんどの弁護士会でも行われている。しかし、未だ、国選付添人制度拡充の実現には至っていない。
そこで、当会は、決議後も、引き続き国選付添人選任対象の拡大に向けて活動を行ってきた。
すなわち、日弁連は、この2年間に、全国各地でキャラバンやシンポジウムを開催し、国選付添人制度の必要性を市民に訴え続け、その理解は急速に広がっている。当会でも、2010年(平成22年)9月、2012年(平成24年)2月及び3月と広く市民を参加対象としたシンポジウムを開催し、その場に参加された国会議員から賛同の発言を頂いたほか、多数の賛同のメッセージを頂いた。また、全国の弁護士も、国会議員に対する要請行動を行い、2011年(平成23年)10月、2012年(平成24年)3月には院内集会を実施する等してきたところ、その甲斐もあって、国選付添人制度の拡充の必要性は国会議員にも広く認識されるところとなった。
そして、新聞報道等によれば、現在、法務省も、国選付添人制度の対象事件拡大の方向で検討を始めているとのことである。
こうして、当会が2001年(平成13年)2月から取り組んできた全件付添人制度が、ようやく全面的国選付添人制度として実を結ぶ可能性が出てきた。
しかしながら、情勢は決して予断を許す状況でもない。非行に対する社会の目は厳しく、非行少年に弁護士の援助を行うことへの批判的な見方も根深く存在する。今後も、弁護士が少年の権利を守り、少年の更生に寄与する活動をさらに発展・深化させ、そうした実践の成果を広く市民に伝え続けなければ、制度の実現には結びつかない。そして、その活動によって、遅くとも本年度中には国会において国選付添人制度の対象を観護措置決定を受けた少年全員とする少年法改正案を成立させる必要がある。
弁護士は、これまで主として付添援助制度を利用して付添人活動を行ってきた。しかし、この付添援助制度については、将来的な財源確保の見通しが立っていないため、今、国選付添人制度を拡充できなければ、現在の付添人選任率を維持することすら危ういという現状がある。
そこで、当会は、改めて、政府、国会、最高裁判所、及び、法務省に対し、速やかに、全面的国選付添人制度実現のための法改正を行うことを求めるものである。
以上

東日本大震災による被災者の救済と復興支援に関する決議

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 当会は、2011年(平成23年)3月11日東北地方を襲った東日本大震災(以下「本件震災」という)に関して、以下のとおり決議する。
1 当会は、本件震災に関して、当会会員に災害対策に関する研修等を行う ことで災害関連法及び今後なされるであろう法整備等の情報を会員に提供 しつつ、当地への被災移住者及び本件震災を契機として発生する取引被害 等の間接被害者らに対し、無料法律相談を継続して行く。
2 当会は、被災地弁護士会及び被災地住民に対して、義捐金支援を行うと ともに当該被災地弁護士会や日本弁護士連合会からその支援要請を受けた 際には、被災地内での法律相談等の法的支援に協力可能な弁護士の派遣を 行う。
3 当会は、国に対して、新たな立法や法改正などの立法措置、財政出動や 人的支援など被災者の救済と被災地の復興のために、全力を尽くすことを 求める。
4 当会は、国および東京電力株式会社に対して、住民の健康安全を確保す るため福島第一原子力発電所に関する情報を正確、迅速に公表すること、 また放射線量管理を行い、住民に対して適切な避難措置を講じること、さ らに放射性物質の影響により避難措置を受けた住民の被る損害、放射性物 質による農業被害、漁業被害等に対し、速やかな賠償及び補償を行うこと を求める。
以上のとおり決議する。
                2011年(平成23年)5月25日
                 福岡県弁護士会
 
(提案理由)
1 本年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災(以下「本件震 災」という)は,マグニチュード9.0、最大震度7という国内観測史上 最大の地震であった。地震にともなって発生した大津波は、東北地方の太 平洋沿岸地域に家屋の全壊8万8873戸、半壊3万5495戸をはじ  め、農地の流失、海水による塩害、漁港の消失、車や船の損壊など、壊滅 的な被害を与え、死者1万5019名,行方不明9506名(警察庁まと め、5月13日現在)という未曾有の災害となった。いまなお11万人を 超える多数の被災者が不自由な避難生活を余儀なくされている。
2 また、本件震災に伴って発生した、福島第一原子力発電所の事故は、国 際原子力・放射線事象評価尺度の暫定評価レベル7という最悪の事態であ り、大量の放射性物質が大気や海へ放出されている。このため、近隣住民 は避難を余儀なくされたばかりか、原子炉の冷却機能不全の状況の下、避 難生活は長期化が予想されている。また、農作物に対する出荷制限、海洋 汚染の広がりによる漁業への影響等、放射性物質による被害の複合被害が 深刻なものとなっている。さらに,目に見えない放射線に対する風評被害 による地域経済への影響も甚大である。
3 本件震災により、多くの被災者は、住居を奪われ、職を失い、明日の生 活の見通しも立て難い状態にある。住宅ローンや事業資金等の借入金の返 済がどうなるのか、仕事に戻れるのか、原子力災害のもと、いつ、自宅に 戻れるか、学校に戻れるか等不安な日々を過ごしている。また不安定生活 の継続による被災者の心のケアの問題も重要な懸念として認識されてい  る。
4 日本弁護士連合会は、震災当日に災害対策本部を立ち上げ、義捐金の募 集、無料法律相談活動を開始した。また、全国の弁護士会も同様の活動を はじめている。特に、被災地である東北、関東の弁護士会は、地震直後か ら電話やや避難所に出向いての無料法律相談を行うなど、困難な中で献身 的な活動を行ってきている。
5 当会も、4月2日に東日本大震災復興支援対策本部を立ち上げ、義捐金 の募集や無料法律相談などの活動を始めた。現在の法律においては到底対 応できないと思われる状況が相応期間継続するものと思料される中、当会 においては災害対策に関する研修会を実施するなどし、現行法秩序内にお ける対応可能領域を認識するとともに、今後の国からの新たな立法過程や 政治対応などにつき情報整理を行うことで的確な法律相談を継続的に行っ ていくことが重要であると認識している。
  確かに、今回のような決して法整備が充足しているとは言えない事態の 中での法律相談には一定の限界があることも承知しているし、一対一の個 別的な相談対応が、即座に相談者の抱える問題を解消するものとは考える ことはできない。
  しかし、法的問題の専門家たる弁護士が直接被災者の方と対話すること はたとえ解決に直結するものではないにせよ、必ずや被災者を苦しめる無 限定な不安感や焦燥感を幾ばくかでも解消することになると思われ、相談 業務の重要性は、決して軽視することはできないものと信じる。
  既に当地に被災移住してきた方々がおられ、原発問題の収束も不確実な 中で今後も多数の被災移住者が当地に来られる可能性がある。また直接被 害者でなくとも被災地における企業等の事業活動の停止ないし停滞によ  り、当該企業等と関連する当地の事業者の方々も相当の被害を受けている ものと思われる。以上の点に留意しつつ、当会は、本件震災における直  接、間接の被害者の方々に対して、無料法律相談を継続して行く。
6 また、直接対話を伴う法律相談の要請は、被災地における住民の方々ら にこそ特に必要なものであり、当会は日弁連との連携のもと、被災地弁護 士会からの要請に応え、現地への当会会員の派遣に積極的に取り組む決意 である。
  我が国において地震災害はどこにでも起こりうるものである。今回被災 地となった地域における法的ニーズ等を当会からの派遣弁護士が実地に見 聞することは、被害状況に関する情報を当会内部で共有することにもな  り、さらには当会のみならず全国的な支援活動や今後の災害対策にも結び ついて行くものである。
7 今回の震災で家を失ったり、避難を余儀なくされたり、職を失ったり、 農地や漁場を失ったりなどの直接被害、また交通途絶による商品の流通阻 害による取引の支障などの間接被害などの財産的損害、さらには災害遭遇 それ体はもちろん、近親者の死亡や行方不明などによる喪失感や長引く避 難生活における精神的な疲弊など、今回の震災による被害は枚挙に暇がな い。
  こうした大規模かつ多種多様な被害を救済し、被災者の被害回復や被災 地の復興をある程度包括的に実現するには、国における早急かつ実効性の ある立法作業や政策決定が強く求められるところである。
 具体的な施策については随時表明されつつあるが、当会は、国に対して、  新たな立法や法改正などの立法措置、財政出動や人的支援など被災者の 救済と被災地の復興のために、全力を尽くすことを求める。
8 今回震災による福島第一原子力発電所の炉心溶融を含む大事故による被 害は国を超えた世界的な関心事となる大規模なものであり、国や関係自治 体、東京電力は、被災者の救済と復興支援のために全力を傾けるべき責務 があるのは当然のことである。
  この点につき当会は、国及び東京電力に対して、福島第一原発事故の現 状及び今後想定される事態や各地の放射能汚染の実情と被曝による長期的 なリスクに関する情報、被曝防護に関する情報を正確かつ迅速に国民に提 供すること、また適切な範囲の住民を速やかに避難させることを求める。
  さらに放射性物質により避難措置を余儀なくされた住民の受ける被害や 失われた農地や漁場に対する農・漁業被害、また風評被害等に対し、速や かな賠償及び補償を行うことを求める。
9 当会は、本件震災によって亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表し、 ご冥福をお祈りするとともに、本件震災や原子力発電所の事故で被災され たすべての方々に対して心からお見舞い申し上げる。
  また今回事態に対し、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする 弁護士や弁護士会の果たすべき役割の大きさを正面から受け止め、その役 割を果たすべく全力で活動する決意である。

今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議

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当会は、平成15年5月27日に取調べの全過程の録画・録音による取調べの可視化を求める決議をし、その後も取調べの可視化に関しては会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
そして、平成21年に取調べの可視化をマニフェストに掲げた民主党が与党となり、さらには平成22年には足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という2つの大きなえん罪事件の判決によって取調べの可視化が不可欠であることが明白となった。
しかし、現在に至るも、取調べの全過程の録画制度は実現せず、検察や警察も取調べの一部を録画するに留まっている。しかも、現在行われている取調べの一部録画のほとんどは、実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。
これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
今般、最高検は特捜部が被疑者を逮捕した事件においても取調べの可視化を試行すると発表したが、これも検察官の裁量で取調べの一部を録画するに留まるものであり、問題は全く解決していない。
あくまで、取調べの全過程が録画されなければ、違法な取調べを防止することも、取調べの状況を客観的に証拠化することもできないのであり、取調べの一部だけが録画されることは、かえって裁判官や裁判員の判断を誤せる結果となりかねない。
そこで、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を具体的に実現していくために、当会は
1 国に対し、すみやかに全ての被疑者の取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備すること、仮に段階的実施をとらざるを得ない場合には、対象事件を絞ることはあっても、対象事件については全ての取調べの全過程を録画するようにし、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないこと
2 検事総長及び警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、裁判員裁判対象事件及び特捜部が被疑者を逮捕する事件に関しては、取調べの一部録画・録音にとどまることなく、即時に取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を実施するとともに、取調べの可視化の対象事件を被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件にも拡大すること
3 各裁判官に対し、供述調書の任意性に争いがある場合は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすること
を求めるとともに、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現のため、当会として全力を挙げて取り組んでいくことを決議する。
2011(平成23)年3月9日
福岡県弁護士会
決議理由
1 日本の刑事裁判は「自白調書」に過度に偏重し、取調べを行う警察官や検察官は自白獲得に躍起となって、取調室という「密室」の中で強引な取調べが行われてきた。そして、捜査官の考えるストーリーを押し付け、捜査官の作文した「自白調書」に署名押印を無理強いし、そのために暴行や脅迫などを用いるなどの違法な取調べによる人権侵害が起こり、さらに虚偽の自白調書が作成され、えん罪という最大の人権侵害が生じてきた。これらは昔の話ではなく、足利事件や氷見事件などの再審無罪判決に見られるように、現在も生じている問題である。
これらの再審無罪事件では、検察官に押し付けられた虚偽の「自白調書」について、裁判官がその任意性や信用性の判断を誤ったことが、無実の人々に多大なる人権侵害をもたらした原因の1つである。そして、その背景には、密室の取調べの状況を後から客観的に検証することが不可能な一方、「無実の人が虚偽の自白をするはずがない」「虚偽の自白調書に署名したりするはずがない」という安易な考えから、多くの裁判官が、公判での被告人の訴えよりも、警察や検察が作成した調書を重視するという傾向を持っているという問題があると考えられる。
2 我々弁護士も、密室の取調室で真実何が起こっているのかを知る立場にはない。
しかし、当会が全国に先駆けて始めた当番弁護士制度により、被疑者段階に多くの弁護士が関わっていく中で、供述調書の作成と同じ時期に被疑者と接見を繰り返していく中で、上述したような問題のある取調べが頻繁に行われ、虚偽の供述を強いられたり、あるいは被疑者が供述してもいない内容の供述調書が作成されたりしていることを、少なくない弁護士が実感を持って確信するに至っている。
そして、ここ数年大々的に取り組みを始めた被疑者ノートに被疑者が書き込む内容からも、その実感を強めてきている。
違法な取調べによる虚偽の自白調書の問題は、ごくわずかな例外的な問題ではなく、頻繁に生じている問題であり、現在の捜査機関の取調べや供述調書についての考え方そのものに根ざした問題なのである。
3 一方で、裁判官の中にも、これまでにも自白調書の任意性や信用性を慎重に判断する裁判官もおり、志布志事件では自白調書の信用性を否定して12名の被告人全員に無罪判決を出し、さらには厚労省局長事件では関係者の自白調書について証拠能力がないとして証拠から排除した上で、無罪判決を出し、いずれも検察は控訴を断念し、1審判決が確定した。
そして、そのような裁判官の供述調書に関する厳しい姿勢が、検察官による証拠隠滅という検察の信頼を揺るがす問題を炙り出す大きな要因となったといえる。
4 しかし、裁判官にとっても、現在のような密室での取調べが続く状態であれば、取調べの際に何があったのかを正確に把握・判断することは難しく、特に裁判員裁判において裁判員にその判断を強いるのは酷である。
かかる問題を解決する唯一の手段は、取調べの可視化であり、取調べの全過程を録画するか、あるいは取調べに弁護人の立会いを認めることで、違法な取調べを防ぐとともに、取調べで何があったのかを裁判官や裁判員が正確に把握・判断することができ、正しい結論を導くとともに、えん罪という最大の人権侵害を避けることができるのである。
そのため、当会では、平成15年5月27日に取調べの可視化を求める決議を行ったのを始め、会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
5 これに対して警察や検察は、裁判員対象事件については取調べの一部を録画し、その録画物をもって取調べの任意性を立証しようとしている。
しかし、そもそも検察官が現在行っている一部録画は、そのほとんどが実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
このような録画では、結局、取調べの状況についての客観的な証拠にすらならず、違法な取調べを防ぐこともできなければ、裁判官や裁判員が正しい結論を導くためには役に立たず、かえって取調べの実体を隠す結果となりかねず、判断を誤らせる結果になりかねない。
最も重要なのは、実質的な取調べそのものを録画することであり、当該事件についての全ての取調べについて、最初から最後まで全過程が録画されることである。これによって初めて、違法な取調べを防ぐことができるし、取調べの客観的な状況を正確に把握・判断することが可能になるのである。
6 このことは、取調べの一部が録音された事件でも、たびたびえん罪事件が起こってきたことや、足利事件においても検察官取調べの一部が録音されていたことからも明らかであり、昨年、足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という大きな2つの判決により、取調べの可視化が不可欠であることは明白となったはずである。
しかし、現在に至るも、取調べの可視化は実現しておらず、最高検は録画対象事件として特捜部が被疑者を逮捕した事件についても広げる方針は発表したものの、結局取調べの一部録画に留まるようであり、法務省内のワーキンググループの検討状況の発表などからは、取調べの可視化についての実現困難性や弊害などが指摘され、取調べの可視化実現に向けた明確な道筋が見えない状況が続いている。
そこで、当会として取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決議するとともに、下記の内容を国・捜査機関・裁判官に求めることを決議する。
7 まず国に対しては、取調べの可視化実現のための早急な法整備を求める。
これに対して、法務省内のワーキンググループからは、検察官送致事件の事件数などを理由に、実現不可能などという反論が出ているところ、たしかに一斉に全ての事件について取調べの全過程の録画を義務付けることが困難を伴うことは理解できるが、そのために取調べの可視化に向けて一歩も踏み出すことができないという障害とすべきではない。
かかる観点からは、段階的な取調べの録画制度の導入は容認できるとしても、上述したように取調べの一部だけが録画されても意味はなく、逆に弊害を生み出しかねないことから、対象事件を絞ることはあっても、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないことを求める。
8 次に、捜査機関を統率する検事総長及び警察庁長官に対し、取調べの可視化が法制化がなされるまでの間も、裁判員裁判対象事件に関しては、現在の取調べの一部録画・録音ではなく、取調べの全過程の録画を実施することを求めるとともに、その対象事件を、取調べの可視化の必要性が高い事件であって、録画による弊害が少ないはずである被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件に拡大することを求める。
9 最後に、各裁判官に対して、任意性の立証のハードルを高くすることを求める。
検察や警察が取調べの一部録画で任意性の立証を済ませてしまおうと考えているのは、そのような立証であっても裁判官は任意性を認めてくれると考えているからに他ならない。
逆に言えば、供述調書の任意性が争われた際の、これまでの多くの裁判官の姿勢こそが、取調べの可視化の実現の障害となっているとさえ言えるのである。
韓国において、取調べの録画制度が導入されたのは、2004年に大法院(日本での最高裁)判決において、供述調書の証拠能力について大胆な判例変更がなされたからである。
そして、ここ数年、立て続けに起こったえん罪事件の判決や大阪特捜部による証拠隠滅事件などは、供述調書の任意性を判断に影響を与えてしかるべきである。
そこで、各裁判官に対して、供述調書の任意性が争われた場合には、任意性を認めるのに慎重な姿勢をとり、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすることを求める。
以 上

個人通報制度の導入及び国内人権機関の設置を求める総会決議

カテゴリー:決議

当会は,政府及び国会に対し,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などにおける個人通報制度をわが国に速やかに導入すること及び政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを求めるとともに,当会もその実現に向けた運動を展開することを表明する。
以上決議する。

2010(平成22)年12月8日   福岡県弁護士会

(決議理由)
第1 個人通報制度について
 1 個人通報制度とは,人権条約に保障された人権が侵害され,国内での救済手段(裁判)を尽くしてもなお救済されない場合,被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報しその委員会の意(Views)を得て,締約国政府や国会がこれを受けて国内での立法,行政措置などを実施することにより,個人の権利の救済を図ろうとする制度である。 
国際人権(自由権)規約などの各人権条約では,締約国における国際人権基準実施のため,条約機関による締約国政府報告書審査制度とともに個人通報制度を採用している。
   国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約は,本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め,人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約は,本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって,個人通報制度を導入するためには,選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることによって実現することができる。
   しかし,わが国は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などの人権条約を批准しているが,これらが有する個人通報制度をこれまで導入して来なかった。
 2 2010年9月現在,自由権規約を批准している国は164か国, うち選択議定書を批准している国は111か国にのぼり,自由権規約を批准した国のうち67%を超える国が選択議定書を批准している。
   OECD加盟30か国のうち,選択議定書を批准していない国は, 日本,アメリカ,英国及びスイスであるが,アメリカに関しては,米州憲章に基づき設置された米州人権委員会に対して,米州人権宣言違反についての救済の請願(すなわち個人通報制度)を利用することができる。また,英国をはじめとするヨーロッパの国々には欧州人権裁判所があり,同裁判所に対する申立てが可能となっている。すなわち,OECD加盟国の中で,いずれの個人通報制度も利用できない国は日本だけとなっている。
このような事態を踏まえ,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめとして,各条約機関から,わが国は個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けてきたが,未だに実現にはいたっていない。
 わが国は,人権理事会において初代人権理事国となり,さらに岩沢
雄司東京大学教授が国際人権(自由権)規約委員会委員長を務めているなど,人権の分野でも大きな役割が期待され,またそれを果たそうとしている。これら状況に鑑みても,わが国の管轄内にいる個人が国際的な人権保障制度である個人通報制度を利用できないことは,その国際的地位からしてもまことにふさわしくないと言わざるを得ない。
 3 個人通報制度が導入された場合,第一に,国内の裁判で救済されなかったケースについて,個別の救済が可能となる。わが国の裁判所は,人権条約の適用について消極的であるため,個別事件に関する救済の意義は大きくなる。救済は,条約上の委員会の意見を経たのち,行政的な措置あるいは新たな立法などでなされることが予想されるため,当該ケースのみならずその後の同種事例においても国内での救済が前進することとなる。
   第二に,裁判所は国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として判決を下すこととなるため,条約機関の見解を念頭において裁判せざるを得ないこととなる。このことは,国内の裁判において,結果的にわが国の人権水準を国際標準に近づけることとなる。
 4 日弁連は,かねてから個人通報制度導入を強く求め,2007年5月,自由権規約個人通報制度等実現委員会を立ち上げ,その実現に努力してきた。
  2010年5月の定期総会においては,取調べの可視化,国内人権機関の設置等とともに個人通報制度の実現をするための決議を採択した。
民主党は,2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ,政権与党となった。その後,法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが,現時点においても実現に至っていない。公明党,社民党,共産党もその実現を目指しているが,与野党が現時点で実現のための具体的な道筋について合意し,推し進めるまでには至っていない。
 そこで,当会は,政府及び国会に対し個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるとともに,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
第2 国内人権機関について
 1 国連決議及び人権諸条約機関により,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合に,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができるよう国内人権機関を設置することが求められており,世界では多数の国が既にこれを設けている。
 2 国内人権機関は,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置され,権限行使の独立性のみならず,委員及び職員の人事及び財政等においても独立性を保障する仕組みを有し,調査権限及び政策提言機能を持つものでなくてはならない。
 人権諸条約機関からも,特に日本に対して,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が強まっているところである。
 3 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,同制度が,パリ原則の求める国内人権機関の要件を充たさないことは明白となっている。
 このような状況の下,日弁連は,2008年11月18日,パリ原
則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
 さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を公表するなど,国内人権機関設立への機は熟している。
 4 そこで,当会は,政府及び国会に対し国内人権機関の速やかな設置
を求めると共に,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
                       
以上

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

カテゴリー:決議

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議
2007年の少年法改正により,一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)については,家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるときという条件があるものの,国選付添人が選任されることになった。
こうして,国選付添人制度が発足したことは,大きな前進とはいえるものの,その他の事件により観護措置決定を受けている多くの少年は,付添人が選任されないまま少年院送致などの重大な審判を受けるという事態が続いている。
とりわけ,被疑者国選対象事件が拡大され,いわゆる必要的弁護事件については,すべて被疑者の段階で国選弁護人を選任することができるようになった。そのため,少年についても,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。これは,法の不備といわざるを得ない。
少年事件に弁護士付添人を選任することは,冤罪を防ぐという観点から不可欠であるだけでなく,適正な手続きの下で,適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何よりも少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
これまで,日弁連は,弁護士自らが費用を出し合い,法律援助という方法で多くの少年が弁護士付添人を選任できるように努力してきた。しかしながら,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。
そこで,福岡県弁護士会は,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを求めるものである。
以上のとおり決議する。
2010(平成22)年5月25日           
福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 福岡県弁護士会は,2001年2月,全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させた。この制度は,観護措置を受けた少年については,その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任するという制度である。
  少年事件においても,検察官送致(少年法20条)や少年院送致,児童自立支援施設等への送致など長期間に渡る身体拘束を伴う重大な処分がなされる可能性がある。特に,観護措置決定を受けた少年については,その期間中身体拘束を受けるだけでなく,上記の重大な処分を受ける可能性が高くなる。
しかしながら,それまで多くの少年が,弁護士の関与のないまま,少年院送致等の重大な処分を受けていた。
そのため,福岡県弁護士会は,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をするため,上記全件付添人制度を発足させたのである。
2 我々弁護士は,家庭裁判所の理解と協力を得て,多くの観護措置を受けた少年の付添人に選任されてきた。
そして,少年の人権を守り,少年の更生を期すための付添人活動を実践してきた。その活動の中で,多くの少年が自立・更生する姿を見ることができた。そうした付添人活動によって,少なくとも観護措置決定を受け,身体拘束されている少年については,重大事件だけではなく,窃盗事件や傷害事件,さらには少年法特有のぐ犯事件などすべての事件について弁護士付添人が不可欠であることを実感している。
3 確かに,少年法は,「少年の健全な育成を期す」という保護処分を課すものである。しかし,「保護処分」といっても,相当期間少年院に収容するなどして,少年の自由を大きく制限する処分も含まれており,その処分は適正な手続きの下での,適正なものでなければならない。
また,家庭裁判所には調査官がいて,調査官が少年の資質,生育歴,家庭環境などを調査し,適正な処分を図るシステムがある。しかしながら,弁護士付添人は,少年の立場に立って,真相を解明するとともに,時には被害者と直接接触し,被害回復のための措置を講じたり,その被害実態を少年や保護者に説明して少年やその保護者に反省を促し,さらに,社会環境の調整を試みるなどして少年の早期更生を図る活動を実践している。こうした活動は,弁護士付添人にしかできないものであり,かつ,少年の更生にも極めて有益である。
4 そして,こうした地道な活動が一つの契機となって,2007年には,ようやく国選付添人制度が発足した。
 しかしながら,この国選付添人制度は,その対象が① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,② 死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪,という重大事件に限定されており,しかも,「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」という条件が付されている。
弁護士付添人が少年事件において不可欠であることは,先に述べたとおりである。つまり,少年の人権を守り,少年の早期更生を図る必要は,重大事件に限られるものではないし,少年法特有のぐ犯事件においても,とりわけ観護措置が必要なほどぐ犯性が進んでいる少年については弁護士付添人の存在が不可欠である。
5 また,2009年5月21日から,いわゆる必要的弁護事件については,被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度に改められた。そのため,少年も,窃盗,傷害などの必要的弁護事件について,被疑者段階においては,国選弁護人を選任することができるようになった。
成人であれば,起訴されると同時に,被告人国選弁護人が選任されることになる。しかし,少年の場合は,上記のとおり国選付添人制度の対象が極めて重大な事件に限定されているため,多くの少年については,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという結果になる。
  日弁連は,こうした状況を回避するため,被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては,少年が家庭裁判所に送致されてからも,法律援助を利用して,できる限り弁護士が付添人に選任されるように努力している。
もっとも,この法律援助は,我々弁護士の拠出した資金によって運用されている。したがって,国選付添人制度が拡大されない限り,我々弁護士の拠出は永遠に継続されることになる。しかし,上記のとおり,観護措置決定を受けた少年には,弁護士付添人は不可欠であり,弁護士付添人を選任することは国の責務である。
6 被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても,国選付添人制度の拡大は必然である。
被疑者国選弁護制度も,当初はその対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていた。
しかし,冤罪を防止するために被疑者国選弁護人が不可欠であることは,こうした重大事件に限られるものではなく,窃盗事件や傷害事件など他の多くのいわゆる必要的弁護事件においても同じである。弁護士の対応能力などの問題から,当初は重大事件に限定されていたが,最終的には必要的弁護事件すべてを被疑者国選弁護制度の対象に拡大した。同様に,少年事件についても,国選付添人制度の対象を拡大しなければならないことは当然である。
そもそも,被疑者段階での弁護活動は,起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動は当然のこととして,起訴されたのちを想定して活動する。すなわち,無実の被疑者が将来有罪判決を受けることがないように,被疑者に虚偽の自白をさせないように,また,被疑者に有利な証拠を収集する活動を行なう。被疑者が当該犯罪を実行している場合であっても,必要以上に重い刑が言渡されることがないように,適正な判決がなされるように活動する。特に,少年事件の場合は,家庭裁判所に送致されてから原則4週間以内に審判が行なわれるため,被疑者段階から,少年や保護者と信頼関係を築き,反省を深めたり,被害弁償をしたり,環境調整に取り組む。
つまり,被疑者弁護は,それ自体が目的ではなく,将来の裁判(審判)を見据えて,最終的に当該被疑者の権利が侵されることがないように活動をするのであって,起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分一体のものである。ましてや,少年事件の場合には,家庭裁判所送致後時間的猶予がないため,被疑者段階から,少年の更生を目指した活動を実践しているのである。
そうであるにもかかわらず,被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという現在の法制度はあまりにも不合理で,早急に是正されなければならない。
7 以上のとおり,非行を犯していない少年を冤罪から守り,非行を犯した少年であっても,適正な処分が課せられるべきであり,かつ,その更生のために可能な限りの援助がなされるべきである。そのためには,国選付添人選任の対象を,少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
福岡県弁護士会は,この間,全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ、この制度を全国に広げるために先頭に立って努力してきたが、国選付添人制度の対象が拡大されたのちは,マンパワーを一層充実させて,その対象となるすべての少年の権利を守り,その更生を期すために最大限の努力を惜しまないことをここに誓うものである。
よって,政府,国会,最高裁判所及び法務省に対し,すみやかに全面的国選付添人制度の実現のための法改正を行なうことを求めるものである。
以上

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