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カテゴリー: 決議

すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議

カテゴリー:決議
決議の趣旨

当会は,政府及び国会に対し,同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求める。

即ち,戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,戸籍上の性別が同じ者の間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」 ,及び,憲法14条に抵触する性的指向ない し性自認に基づく不合理な差別であるとの点から看過できない問題である。

実際にも,同性者間の婚姻が認められていないために,婚姻関係にあれば当然受けられるはずの法的保障が受けられず,また,相続や子どもの養育において不利益を強いられ,さらに,病院で立会ができなかったり,公営住宅への入居を拒否され たりするなどの問題も生じている。

国際的に見ても,先進国首脳会議参加国であるG7の中でみると,国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけである。日本は,国連人権理事会におけるLGBT(レズビアン(女性の同性愛者),ゲイ(男性の同性愛者),バイセクシャル(男性・女性,両方を性愛の対象とする者) ,トランスジェンダー(戸籍上の性別と心の性別が一致しない者)を始めとするいわゆる性的少数者)の人々の権利に対する決議に賛成したにもかか わらず,同性婚についての法整備は全く行っていない。

近年,世論調査によれば,日本国内でも同性婚に対する理解は深まり同性婚の法制化について賛成が多数を占めており,自治体においても公に婚姻に準ずる関係として証明する「パートナーシップ制度」を導入するなど,同性カップルを社会的に承認するという流れができており,国民の間にも同性婚を認める素地はできている と言える。

同性者間の婚姻に関する問題は,人権という観点からは無視できない状況にあり, 早期の法制度整備を求めるものである。

2019年(令和元年)5月29日
福 岡 県 弁 護 士 会

決議の理由
1 「同性間の婚姻の自由」の保障

現在の日本において,同性者間の婚姻は,戸籍上の制度として認められていない。そのため,LGBTをはじめとする同性カップルは,自身が愛するパートナーと婚姻し,戸籍上の夫婦となりたくとも,当該パートナーが戸籍上同性であるがゆえに,それが叶わない。このような制度的不備は,憲法や条約に抵触する不合理な差別にあたる。

(1) 「婚姻の自由」が同性間でも保障されるべきこと

憲法13条は,幸福追求権を保障しており,その内容として,個々人の幸福追求のあり方を個々人の決定に委ねるという意味で,自己決定権を保障している。そもそも婚姻するかどうか,誰と婚姻するかという「婚姻の自由」もまた,この自己決定権という憲法により定められた権利として保障されている。婚姻というものが,人生をともに歩み,支え合うパートナーを選択した上で,そのパートナーと継続的に親密かつ人格的な関係を築いていくものであることからすれば,人格的生存に不可欠なものであって,婚姻の自由は異性であろうと同性であろうと同じく自己決定権として保障されるべきものである。

また,憲法24条1項について,最高裁は「婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。」とし,憲法24条1項からも婚姻の自由が導かれるものと解している。

(2) 平等原則への抵触

憲法14条1項は,法の下の平等を保障している。そのため,正当な理由なく,本人の意思によって左右することができないような事由をもって,国が国民に対し,差別的取扱いを行うことを禁止している。

性自認(自身の性をどう認識しているか) ,性的指向(どの性別を恋愛・性愛の対象とするか)は本人の意思で変えられるものではない。そのため,自身と戸籍上の性が同じ者との間で継続的に親密かつ人格的な関係を築きたいと考えることも,本人の意思で変えられるものではない。
しかし,国は同性者間の婚姻を認めていないため,同性者との婚姻を希望する者に対する差別的な取扱いを行っている。
そしてこのような差別的な取扱いによって,後述するように異性間の婚姻であれば当然に得ることのできる利益を同性カップルは得られない状態にある。

このように,同性婚制度がないことは,同性カップルをその性的指向,性自認を理由に差別していることに他ならず,憲法14条1項に抵触している。

加えて,国際人権自由権規約は,日本政府が批准し,国内法的効力を有するが,同26条もまた憲法14条と同じく,法の前の平等を保障し,あらゆる差別を禁止している。しかし,同性カップルは同性と婚姻できないことによって差別を受けているのだから,現行の日本の婚姻制度は上記条約にも抵触している。

(3) 小括

以上のとおり,憲法や条約といった上位規範により,同性カップルには婚姻の自由が保障され,また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから,国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく,人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務がある。しかしながら,現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず,平等原則に抵触する不合理な差別が継続しているのである。

2 同性カップルが直面する不利益

同性間に婚姻が認められていないことにより,同性カップルは,様々な分野において,法律上・事実上の不利益を受けている。また,このような人々の中には幼少期にその性的指向などを理由に親から虐待を受けた経験を持つ者や差別的対応を恐れて親や親族に公言できない者も多くいるため,親や親族の協力を得る ことができず,不利益はより深刻なものとなっている。

(1) 同性パートナーの死に伴う問題

まず,民法上,同性パートナーは相続人になれない。そのため,共同生活で築いた財産があっても,同性パートナーは遺言がなければ財産を承継することができない。仮に,遺言があったとしても,親族から遺留分減殺請求を受けるおそれがあり,同性パートナーの存在を知らない親族とトラブルになる可能性も高い。上記以外にも,相続税の配偶者税額軽減措置が適用されない,遺族基礎年金・遺族厚生年金が受給できない,生命保険の受取人になれない,慶弔休暇を取得できない,同性パートナーの建墓にあたり墓園の申込みを拒否されることがあるなど同性カップルは同性パートナーの死に伴い 様々な法律上・事実上の不利益を受けている。

(2) 子の養育についての問題

現在,自らもうけた未成年の子を同性パートナーとともに養育しているケースは多く存在する。この場合,異性間であれば,婚姻して養子縁組をすることにより法律上の親子関係を築くことができるが,同性間では,同性パートナーがその子と養子縁組をすると,民法818条2項により実親であるパートナーの親権が失われてしまうため,同性パートナーは事実上養子縁組を結ぶことができない。結果,同性パートナーは,親としてその子を養育しようと思っても活動が制約される。また,実親が先に死亡したときには,養育する者がいるにもかかわらず,未成年後見人が選任されることとなる。これらは同性パートナーが不利益を受けるにとどまらず,子の養育にも影響を与えかねないものである。

(3) 一方が外国人である場合の問題

同性カップルの一方が外国人の場合にも問題は顕在化する。日本人と婚姻した外国人には,「日本人の配偶者等」として在留資格が与えられるが,同性パートナーは,「配偶者等」に該当しないため,その他の長期在留資格を得られなければ,短期滞在の在留資格で日本に滞在するほかなく,オーバーステイのリスクと隣り合わせの生活を余儀なくされる。そして,在留特別許可の審査においても,同性パートナーの存在は特に考慮する要素となっていない。

(4) その他の不利益

上記以外にも,公営住宅への入居が認められない,民間住宅であってもルームシェアが可能な住宅にしか入居できないなどの住居に関する問題,病院でパートナーの病状について説明を受けたり,意識不明状態にあるパートナーの治療方針の決定に関与することが認められないことがあるなどの医療現場での問題の他,パートナーが逮捕された際に留置場所を教えてもらえない,自動車保険の運転者家族限定特約の申込みを拒否されることがあるなど,同性カップルが直面する法律上・事実上の不利益は極めて広範な分野に及ん でいる。

(5) 小括

これらの不利益は,事実上の不利益にとどまるものもあるが,その制度の多くは,法律上の婚姻という強固なつながりを基礎として運用されているものであり,個々の制度の運用を変更することで容易に解消できるものではない。現在においても,厳然として性的少数者に対する社会的差別は存在し,それゆえに当事者は様々な不利益を被っており,同性婚を認めない法制度がこのような差別を温存し助長している面も否定できない。このような同性カップルが直面する不利益を解消するために,同性カップルに婚姻を認める法 制度を構築することが求められる。

3 国際的な状況

同性婚の保障を含む性的少数者の権利保護は,世界的にも共通意識として醸成 されている。

2011年6月,国連人権理事会はLGBTの人々の権利に対する決議を採択し,性的指向や性同一性を理由とする差別や暴力行為等への懸念を表明した。記憶に新しい2014年ソチオリンピックの開幕式では,ロシアが反同性愛を内容とする法案を成立させたことに対して,その批判の意味でアメリカ,フランス,ドイツなど,欧米の首脳が開幕式を欠席する事態となった。そしてこれを受けて,2015年に,オリンピック憲章に性的指向による差別の禁止が明文化された。

2018年12月21日時点において,同性婚を保障する制度を持つ国・地域は人権意識の高い欧米諸国を中心に,中南米や南アフリカ等世界の25か国・地域に及んでおり,同性婚が認められている国・地域は,世界の国・地域の20パーセントを占めることとなった。G7で見ると国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけで ある。

アジアにおいては,台湾で今年5月までに同性婚を認める法が施行される見通 しである。

このように,世界では同性婚の法的保障が次々に進んでおり,今後も同性婚の国レベルでの導入の潮流は続くと予測される中,日本はこのような潮流から立ち 遅れている。

4 国内の状況

2018年10月下旬に,インターネットを通じ,全国の20~59歳の6万人を対象として実施された株式会社電通の調査によると,欧米を中心に広がる同性婚の法制化について,78.4パーセントが「賛成」または「どちらかというと賛成」と答えている。

2015年の国立社会保障・人口問題研究所による調査において「賛成」,「やや賛成」の割合が51.1パーセントであったことや,2017年のNHKによる世論調査において「男性同士,女性同士が結婚することを認めるべき」との問いに「そう思う」と答えた人の割合が51パーセントであったことと比べて,現在は同性婚の法制化への理解が大幅に進んでいることが分かる。

このような世論を背景として,2019年4月17日現在,パートナーシップ制度を導入している自治体は20にのぼり,今後導入を予定・検討している自治体も多数存在する。

更に,2019年2月14日には,各地で13組の同性カップルが,同性間の法律婚の不備という問題点を問うため,同性同士の婚姻届不受理が憲法13条1項,同14条,同24条1項に反することを理由とする損害賠償請求という形で, 国に対して訴訟を提起している。

この訴訟は各種報道機関によって大々的に報道されており,同性婚について国民が改めて考える機会を得たことで,今後更に同性婚の法制化を支持する流れが 加速することも考えられる。

このように,現在同性婚の法制化に対しては,世論の後押しがある。

5 当会の取り組み

当会では,2015年より両性の平等委員会の中にLGBT小委員会が発足(2018年19月より委員会化)し,2016年5月25日には「男女平等及び性の多様性の尊重を実現する宣言」を出し,その中で「LGBTは性の多様性の一部であって,『人権』の問題であり,人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題である。」と宣言したうえ,その宣言に基づき,2017年3月22日に「男女共同参画基本計画」において,LGBTの現状と 課題を分析し,具体的施策を行っていくことを決議したものである。

そして,当会はその基本計画も踏まえ,同小委員会が中心となり,当事者団体の集まりであるアライアンス会議への出席,九州レインボープライドへの毎年の出展などを行っており,2017年9月14日には,支援策の一つとしてLGBT無料電話相談を開始した。

その後,当会は,2018年4月,パートナーシップ宣誓制度の開始を始めとして性的少数者の支援策を進めている福岡市と「性的マイノリティに関する支援事業に関する協定」を結び,前述LGBT無料電話法律相談を福岡市との共同事業とし,2018年の九州レインボープライドへの共同出展なども行ってきて おり,今後も福岡市と提携しての当事者支援を行っていく予定である。

当会は,2016年の宣言を踏まえ,各自治体や関係団体と連携しながら,性自認・性的指向にかかわらず,そしてマイノリティ・マジョリティの区別を超えて,誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指した活動を継続していく所存 である。

6 結論

戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,同性カップルの間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」の侵害に該当する上,性的指向ないし性自認に基づく不合理な差別として憲法14条に抵触する。

したがって,同性者間においても,戸籍上の性別が異なる者と同様の平等な婚 姻制度を早急に整備する必要がある。

またそれは,現実に様々な困難に直面している同性カップルの権利保護のため にも不可欠なことである。

よって当会は,上記のとおり決議する。

以 上

少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議

カテゴリー:決議
【決議の趣旨】

当会は,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する。

2017年(平成29年)5月24日
福岡県弁護士会

【決議の理由】
1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非が議論されている。当会は,すでに2015年6月25日,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出しているところであるが,法制審議会において審議が開始されるに当たって,改めて本決議をする。

2 現行少年法の理念と少年のおかれている状況

少年法は,非行のある少年に対し,刑罰を科すのではなく,保護処分によって少年の立ち直りや再犯の防止を期すことを目的とする。1948年に制定された現行少年法は,それまで適用対象年齢を18歳未満としていたのを,20歳未満に引き上げたが,その審議過程において説明された理由は,「20歳ぐらいまでの者は,心身の発達が十分でなく,環境その他外部的条件の影響を受けやすいため,その犯罪も深い悪性に根差したものでないので,刑罰よりは保護処分によってその教化をはかるほうが適切である」というものであった。

実際,私たち弁護士が付添人として接する少年の多くは,現在においても,家庭で十分な愛情を享受しておらず,むしろ虐待を受けて育っている少年も珍しくない。

学校や社会においても,十分な指導,教育を受けることができないまま育っている少年も多く,例えば,家庭の事情で中学校卒業後に就労したり,高等学校に進学したとしても早期に退学するなどして社会から取り残された子どもたちが多数存在する。このような子どもたちは,就労関係が不安定な場合も多く,経済的にも恵まれていない。

他方で,大学や専門学校への進学率そのものは上がっている。大学や専門学校へ進学することを選択した子どもたちについては,長期間教育を受けられるようになっているが,その結果,以前と比較して,就労して社会に出る時期が遅くなっている。そのため,子どもたちの自立は,経済的にも,あるいは社会的・精神的にも,遅れていると評価されうる状況にある。

このように,現代の子どもたちは,現行少年法制定当時の子どもたちと比較して,精神的,経済的,社会的自立が進んでいるわけではなく,大人,社会からの支援の必要性はむしろ増している。

したがって,国は,少年法の理念に則り,子どもの成長発達を手助けする義務と責任を負っていることを,まずもって正しく認識する必要がある。

3 少年審判の機能と適用対象年齢引下げによる影響

(1) 刑事事件においては,行った犯罪そのものに着目し,犯行の動機や犯行態様,結果の重大性などのいわゆる『犯情』をベースにして刑の重さが決められるのに対して,少年審判においては,少年法が非行(犯罪)の処罰ではなく,少年の更生や立ち直りを目的とするため,非行そのものよりも,非行の原因となる少年の資質や家族関係や友人関係等を含む環境面の問題性に着目して,保護処分の有無やその種類が決められる。

このように,少年審判における保護処分の判断のベースとなる少年の資質や環境面の問題性のことを,「要保護性」と呼んでいるが,捜査機関による非行事実そのものの捜査では,要保護性について十分な調査ができないため,現行少年法の下では,20歳未満の非行を犯した少年は,すべて家庭裁判所に送致され,少年の要保護性に応じた処分を決めるため,家庭裁判所調査官が心理学,社会学,教育学などの専門的知見を活かして少年の資質や生活環境などを調査する。また,少年鑑別所において専門的知見に基づき心身鑑別を行う場合もある。さらに,弁護士も,付添人として,少年の権利を擁護しつつ,少年が再非行を行うことがないように,少年の反省を深めたり,親や学校などとの関係を調整したり,時には就職先をあっせんするなどの環境調整活動を行う。

そのうえで,裁判官は,少年の立ち直り,再非行の防止のために必要な保護処分を決定する。少年院に送致されたり,保護観察処分を受けた少年たちは,それぞれの機関で,更生に向けて,家庭裁判所における審理段階で明らかとなった少年の要保護性に応じた教育を受けることになる。

私たち弁護士は,このように,少年審判手続の中で関係機関が少年法の理念に基づいた努力をし,個々の少年の要保護性を判断した上で少年の立ち直りのために必要な処分が決められることにより,多くの少年が立ち直ることができていることや,その結果として,犯罪の少ない安全な社会を維持することに寄与していることを,その職務において最もよく知っているものである。

(2) 仮に少年法の適用対象年齢が18歳未満に引き下げられた場合,18歳,19歳の少年に対しては要保護性に沿った適切な再非行防止のための措置がなされないこととなる。具体的には,特に非行自体が軽微なものである場合,その背景にある少年の資質や能力,家庭環境等の問題が見落とされ,何ら問題点が解消されないまま起訴猶予や罰金で事件が終了してしまいかねない。こうした事態を,私たちは強く危惧する。

さらに,軽微とは言えない非行でも,相当数の事件においては執行猶予の判決となる可能性が高いが,そうなれば,こうした少年たちは更生のための教育を受けないままとなってしまう。事案によっては,最初から実刑判決により刑務所に収容される場合も想定されるが,その場合も,少年院で行なわれているような,きめ細かい,個々の少年の問題の解消に向けた指導・教育は行われることなく,場合によっては高齢者と同じ処遇を受けることになる。

こうした処遇が,当該18歳,19歳の少年の立ち直りに有益とは到底思われない。その結果,犯罪者を増加させ,社会の安全に危険を招来させることになりかねない。

4 若年者に対する処遇充実との関係

上記法制審議会では,少年法の適用対象年齢引下げにより,現在少年の改善更生のために機能している現行法制下における少年の処遇が受けられなくなることの懸念に対応するために,18歳,19歳の者を含む若年者などを対象として,有効なアセスメントを行い,教育的な配慮を重視した処遇の充実を図ることについて議論される見込みであるという。

しかしながら,更生可能性が高い若年成人に対する処遇を充実させることと少年法の適用対象年齢を引き下げることは別の問題として議論すべきである。つまり,少年法の適用対象年齢は現行法のまま20歳未満とし,20歳以上の若年成人に対しては必要があれば法を整備し,若年成人の立ち直りと再犯防止のための処遇を実施すればよいだけのことである(ただし,それが保安処分につながるものであってはならないことは当然である)。

また,若年者の処遇を充実させるといっても,現行少年法の下で有効に機能している調査官制度や鑑別制度を全面的に流用したり,類似の制度を整備することはおよそ考え難い。

したがって,若年者の処遇が充実されることを前提としても,それによって適用対象年齢を引き下げてよいことにはならない。

5 その他の適用対象年齢引下げの根拠について

(1) 世論調査などでは,少年法の適用対象年齢の引下げに賛成する回答が多い。しかし,この背景には,少年犯罪が増加・凶悪化しているという誤った認識があると考えられる。

まず,統計上,20歳未満の者の減少を考慮しても,少年が犯罪に及ぶ率は著しく減少しており,例えば,少年人口当たりの一般刑法犯の発生数は,1983年から2014年までの間に3分の1程度に減少している。また,少年人口当たりの殺人件数(未遂を含む)については,1961年から2014年までの間に約4分の1に減少している。

こうした実情に照らせば,「少年犯罪の増加や凶悪化」を理由として少年法の適用対象年齢を引き下げるべきであるとの見解は誤りであるというべきである。

(2) 「大人」として扱われることとなる年齢は各法律で一致するほうが国民にとってわかりやすいとして,適用対象年齢引下げに賛成する考えもある。

しかし,各法律において「大人」と「子ども」を区別して扱う目的は異なっているのであるから,何歳から「大人」として扱うのかは,法律ごとに,その立法趣旨や目的に照らして個別具体的に検討すべきであって,少年法の適用対象年齢を選挙権年齢や民法の成人年齢と連動させなければならないわけではない。

むしろ「分かりやすさ」のために,少年に対する立ち直りの機会を奪い,社会の安全を蔑ろにすることの方が社会にとってマイナスである。

次に,罪を犯した18歳,19歳の者につき,保護処分に付するなど他の成人と異なる取り扱いをすることについては,国民の寛容を期待できず,国民の健全な法意識に反するとの意見もある。

しかし,18歳以上の少年が重大事件を犯せば,現行制度の下でも死刑を含む重い刑に処せられる場合がある。また,前述のとおり,保護処分は少年の要保護性に基づいて決定されるため,例えば,成人であれば起訴猶予で終わったり,罰金で済むような事案であったとしても,少年の場合には,要保護性が高ければ,約1年に及ぶ身体拘束を伴う少年院送致決定がなされることも少なくはなく,少年法の適用を受けることで,むしろ身柄拘束を伴う処分を受けるという面では,少年に厳しいという側面もある。少年法が再犯予防のために有効に機能していることも合わせて考えれば,18歳,19歳の者を少年法の適用対象として維持することが国民の健全な法意識に反するとは言えない。

6 結語~理由のまとめと今後の当会の取り組み

以上のとおり,少年法の適用対象年齢を引き下げる合理的な理由はなく,むしろ,引下げにより,少年の更生の機会が奪われる結果として,非行や犯罪が増加することが懸念される。

当会は,2001年,全国に先駆け,観護措置決定を受けたすべての少年が弁護士付添人の援助を受けられる制度(全件付添人制度)を開始し,少年の更生のために力を注いできた。そして,現行の少年法の下で,18歳,19歳の少年であっても十分な可塑性を有しており,保護者を含め,関係者の働きかけにより十分更生できることを実践の中で経験している。

したがって,当会は,今後も18歳,19歳の少年を含む少年たちの立ち直りのための付添人活動に全力で取り組むとともに,18歳,19歳の少年の立ち直りの機会が奪われることがないように,シンポジウムを開催するなどして,少年犯罪の現状,少年法に基づく手続とその効果などを広く社会に知らせる活動を行い,断固として少年法適用対象年齢の引下げに反対し,これを阻止する活動に全力を尽くしていく所存である。

以上のとおり,決議する。

以 上

        

憲法違反の安保法制の廃止ならびに運用停止を求める決議

カテゴリー:決議

当会は,憲法違反の安保法制を国会において直ちに廃止し,それまで同法制の運用を行わないことを求める。

2016年(平成28年)5月25日
福岡県弁護士会

決議の理由

1 安保法制の施行

「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平和安全法制整備法)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)(以下併せて「安保法制」という。)は,2015年7月16日に衆議院本会議で,また同年9月19日に参議院本会議でそれぞれ可決され,本年3月29日施行された。

当会は,安保法制が憲法違反であること,立憲主義に違背していることについて,これまでも繰り返し指摘してきたところである(「集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定およびこれを具体化する法改正等に反対する決議」(2015年5月27日),「憲法違反の安保法制法案等の衆議院強行採決に抗議する会長声明」(同年7月16日),「憲法違反の安保法制法案の参議院における採決強行に抗議する会長声明」(同年9月19日)。)。

そして,当会のみならず,日本弁護士連合会,全国全ての単位弁護士会,九州弁護士会連合会ほか全国全てのブロック弁護士会連合会が同様に憲法違反の指摘をして安保法制の成立に反対してきた。

こうした反対の声は,国民の各界各層からも出され,とりわけ多数の憲法学者(2015年6月4日の衆議院憲法審査会では,与党推薦含む3名の憲法学者全員が安保法制につき憲法違反であると明言した。),歴代の内閣法制局長官,元長官を含む元最高裁判所判事らも憲法違反であるとの見解を表明してきた。

しかし,政府はこうした多くの国民世論や憲法専門家らの指摘を顧みることなく,安保法制を強行的に成立させ施行させたが,以下に述べるとおり,安保法制は憲法違反であり,立憲主義に違背することは明らかである。

したがって,安保法制は国会において直ちに廃止されるべきであり,また,廃止される以前においても,その運用が行われてはならない。

2 憲法違反である

わが国憲法は,かつての侵略戦争によって国の内外におびただしい数の犠牲者と深刻な人権侵害をもたらしたことに対する痛切な反省の下,前文で「われらは,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」として平和的生存権を規定し,第9条1項で「日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」として戦争の放棄を規定し,同条2項で「前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認をそれぞれ規定した。

また,前文では,日本国民は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した」として,非軍事の徹底した恒久平和主義を基本原理として定めた。

一方,冷戦構造の下,1954年に発足した自衛隊は,歴代内閣において,「自衛のための必要最小限度の実力」であって,「戦力(第9条2項)」にはあたらないから憲法9条2項に違反するものではないとされてきた。

仮に,自衛隊について,歴代内閣と同じ解釈に立つとしても,歴代内閣がこれまでも表明してきたとおり,自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」にすぎないから,①武力行使を目的として他国領土への派遣(海外派兵)はできず,②自衛隊が武力行使を目的としていなくとも,他国軍の武力行使と一体化した活動はできず,③当然,自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利である集団的自衛権の行使も許されない(1981年5月29日政府答弁書)。

しかしながら,安保法制は,かような制約を超えて,①現に戦闘が行われている地域でなければ,戦闘地域であっても自衛隊が当該地域に赴いて他国軍の後方支援を行うことができるとして,自衛隊派遣の地理的場所的制約を外し,②当該後方支援の内容も,他国軍に対する弾薬の提供や発進準備中の爆撃機の給油等,いわゆる兵站活動にまで及ぶことを想定している。③さらには,国連PKOはもとより,いわゆる多国籍軍が行う治安維持活動(ISAF等)などにも,武器を携行した自衛隊を派遣し,自己防衛でなく任務遂行のための武器使用も許されるとした。そして,④一定の要件の下に,歴代内閣が戦後一貫して禁じてきた集団的自衛権の行使にまで踏み込んで自衛隊の活動範囲を拡げたのである。

こうした自衛隊の活動は,もはや「戦力」にあたらない「自衛のための必要最小限度の実力」行使をはるかに超え,他国軍の武力行使と一体化する危険を伴う活動であることは明らかであって,憲法第9条に明白に違反するといわなければならない。

3 立憲主義違背である

立憲主義は,すべての国家権力の行使は,憲法に基づき,憲法に拘束されて,憲法の枠内で行われなければならないとする。

したがって,国家権力が勝手に憲法を変えたり,憲法を恣意的に解釈して憲法の本来もつ意味を変えることは許されず,憲法の変更は,憲法所定の改正手続き(憲法96条)によらなければならない。これは,憲法によって個人の自由・権利(個人の尊重)を確保するために,国家権力を制約することを目的とする,近代憲法の基本理念であり,日本国憲法の根本理念である。

すなわち,わが国憲法は,「すべて国民は,個人として尊重される」(13条)という最大の目標を実現するために,「最高法規」の章(第10章)で,憲法の最高法規性を定め(98条),その目的である基本的人権の永久・不可侵性を再確認するとともに(97条),その実現のために,国家権力の行使を担う公務員に国民の基本的人権を侵害しないよう,ことさら憲法尊重擁護義務を課した(99条)。

とりわけ,法律の制定・改廃や閣議決定の主体である国会議員ならびに国務大臣は,憲法を尊重擁護すべき義務を負っており,ましてや憲法の内容を,正規の改正手続に拠らず,法律の制定や,閣議決定による憲法解釈の変更によって改変するがごときは,かかる義務に正面から反するものであって許されないものである。

ところが,歴代内閣が戦後長きにわたって憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使はもとより,他国の武力行使との一体化が避けられない戦闘地域における後方支援等,明らかに憲法違反の内容を含む安保法制を,憲法改正の手続もとらずに,強行的に成立させ,憲法第9条を実質的に改変するという暴挙に及ぶことは,立憲主義に真っ向から違背するものであって許されるものではない。

4 安保法制は廃止以前においても運用が行われてはならない

以上のとおり,憲法違反の安保法制は国会において直ちに廃止されなければならないものであるが,廃止以前においても運用が行われてはならないことは立憲主義の要請から当然のことである。

とりわけ,2011年11月以降,陸上自衛隊が南スーダンに派遣されているところ,政府は今後,安保法制に基づいて「駆け付け警護」任務を発令することを検討している。ところが2013年末以降,南スーダンは内戦状態に陥っているとされ,南スーダン政府軍と国連軍が紛争当事者となって戦闘行為が行われている状態にある。そうした中で,自衛隊に「駆け付け警護」任務が発令されれば,自衛隊が武力紛争に巻き込まれ,任務遂行を目的とした武器使用を行うことになれば,それ自体,他国軍の武力行使と一体化した活動に陥ることは必至である。

また,安保法制は自衛隊法95条の2を新設し,自衛隊の「防護」対象として,米軍を加えたが,これによって自衛隊が日常不断から米軍空母や戦闘機なども含めて防護することが任務とされた。このことは米軍に対する偶発的な攻撃を機に,自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性を高め,ひいては米軍の武力行使と一体化した活動に陥ることは必至であり,それがひいては集団的自衛権の発動に繋がる危険もあるといわなければならない。

このように,安保法制そのものの違憲性もさることながら,集団的自衛権の発動等の違憲状態が即座に引き起こされる切迫した状況にあることに鑑みれば,安保法制は直ちにその運用が停止されなければならないものである。

5 結論

以上のとおりであるから,当会は,憲法違反の安保法制について,国会に対し,同法制を直ちに廃止すること,内閣に対し,同法制の廃止に至るまで,その運用を行わないことを強く求める。

司法修習費用の給費制復活を強く求める決議

カテゴリー:決議

福岡県弁護士会は、政府、国会及び最高裁判所に対し、司法修習費用の貸与制を即時廃止し、給費制を復活させることと、新第65期、第66期、第67期の各司法修習生に対して遡及的に適切な救済措置をとることを強く求める。
当会は、日本弁護士連合会、全国の弁護士会並びに市民及び各種団体と連携し、今後とも給費制を復活させる活動を強力に推進していく。
                  2014年(平成26年)5月28日
                  福岡県弁護士会
提 案 理 由
1 貸与制の問題点
(1)司法修習生の経済的苦境
  2012年(平成24年)に日本弁護士連合会が第65期司法修習生(以下、司法修習生を「修習生」という。)を対象として実施したアンケートでは、28.2%の修習生が司法修習を辞退することを考えたと回答し、その理由に貸与制をあげた者が86.1%にも上った。翌年実施の第66期修習生に対する修習実態アンケートにおいても18.9%もの修習生が司法修習を辞退しようと考えたことがあると回答しており、その理由としては、貸与制に移行したことによる経済的な不安が最も多かった(68.9%)。
 (2)法科大学院志願者及び法学部進学者の激減
法科大学院で学ぶにも学費・生活費等の負担があり、司法試験を突破してからも、経済的な不安がつきまとうような状況では、もはや有為な人材は法曹を目指さないということになりかねず、また法曹を目指す者としても富裕層に偏るのではないかとも危惧される。
実際、2004年度(平成16年度)に7万人を超えていた法科大学院の志願者数は、2013年(平成25年)には13,924人にまで激減した(なお、同年度の法科大学院適性試験志願者数は、わずか5,377人に過ぎない)。入学定員を割った法科大学院は9割を超え、学生の法科大学院離れの傾向は顕著である。さらには、この数年、法学部への進学者自体も大幅に減少している実情がある。
2013年(平成25年)12月の一括登録時点における弁護士未登録者数は584人と過去最多を記録した。かかる深刻な就職難とあいまって、過重な経済的負担が実務法曹としての将来、そして進路を考える若者らに大きな影を落としている。
このままでは、有為な人材の確保を困難にし、将来の司法ひいては法の支配を著しく弱体化させることになりかねない。
(3)「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
  終戦直後の国家財政が破たんした状況下で、昭和22年、統一修習制度・給費制がスタートし、今また国家の財政状況が逼迫する中、後述のように多くの市民が法曹養成を国の責務と考え給費の実現を求めている。それは、市民が法曹、なかんずく弁護士に「社会生活上の医師」としての役割を期待しているからに他ならない。
 当番弁護士制度の構築、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実させたものである。また、個々の弁護士は、使命感をもって、人権救済、虐待防止、消費者保護、犯罪被害者支援等の活動に無償で取り組んでいる。
法曹志望者の激減は、これら役割を担う人材の確保を困難にし、市民の権利擁護を弱体化させることにつながっていく。
2 法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定の問題
  このような状況の中、2013年(平成25年)6月の法曹養成制度検討会議の取りまとめを受けた「法曹養成制度改革の推進について」(同年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)を踏まえ、同年9月17日、法曹養成制度の改革を担うため、法曹養成制度改革推進会議(以下「推進会議」という。)が設置され、新たな検討体制がスタートした。
  ところが、修習生に対する経済的支援のあり方に関する法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定は、あくまでも貸与制を前提としており、かつ、「必要があれば」修習生の地位及びこれに関連する措置の在り方や兼業許可基準のさらなる緩和の要否について検討することが考えられるとするにとどまっている。
  法的知識のみならず、倫理観や高度の職業意識を1年間の修習期間で涵養するためには、修習に専念しなければならず、修習生には修習専念義務が課されている。しかしながら、「給費が出せないから休日等のアルバイトで補うように」との兼業許可の緩和は、修習の充実に逆行するものであり、本末転倒というべきである。
  なお、司法試験合格者の数を3,000人に到達するまで増やすとする閣議決定は撤廃され、今後合格者数は抑制される状況にあり、給費制を復活しても、修習生の手当予算は、合格者を3,000人とした場合に比して大幅に少ない額で済むことが容易に予測される。
給費制廃止の最大の根拠であった大幅な予算増大という立法事実も既に消滅に向かっている。
3 給費復活を求める市民の声
  貸与制の下での修習が3期目に入った現在、給費制廃止による弊害の深刻さが次第に明らかとなり、弊害を憂慮する声もあがるようになってきた。2013年(平成25年)4月から5月にかけて募集された、給費制の復活を含めた修習生に対する経済的支援の必要性に関するパブリックコメントでは、全3,119通のうち法曹養成課程における経済的支援に関するものが2,421通にのぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきというものであった。さらには、2014年(平成26年)2月28日時点で、日本医師会、日本公認会計士協会、日本青年会議所など1,442の各種団体から、修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める旨の署名が寄せられた。このように、多くの市民が、国が責任をもって社会のインフラたる法曹を養成することを求めている。国はこの要請に真摯に応えなければならない。
4 福岡県弁護士会の取り組みと使命
  福岡県弁護士会(以下「当会」という。)は、司法修習における給費制の役割の重要性とその廃止に伴う弊害の大きさに鑑み、2010年(平成22年)5月25日付「司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議」をはじめとして、給費制の維持・復活を強く求め続けてきた。
  また、当会では、給費制の維持・復活についてのシンポジウムや市民集会の開催、請願署名活動などを実施し、多くの市民の方々に給費制廃止のもたらす影響、弊害について考えていただくべく精力的な活動を行ってきた。特に2010年(平成22年)の請願署名は、当会集約分だけで8万筆を遙かに超え、給費制廃止一年延期の原動力となったと確信している。さらには、修習生との座談会やアンケートなどを通じて修習生の生の声を拾うとともに、議員要請等を通じてその声を伝えてきた。これらの甲斐あって、立法関係者の理解と支援の輪は確実に広がっている。
  給費制復活の声を、改めて政府、国会及び最高裁判所に届けることは、当会の使命である。
  よって、冒頭のとおり決議する。

集団的自衛権の行使を可能とする 内閣の憲法解釈変更に反対する決議

カテゴリー:決議

 福岡県弁護士会は、日本国憲法の拠って立つ恒久平和主義と立憲主義を堅持する立場から、内閣が従来積み重ねてきた集団的自衛権に関する憲法解釈を変更し、その行使を可能とすることに反対する。
                  2014年(平成26年)5月28日
                  福岡県弁護士会

【決議の理由】
第1 集団的自衛権を行使可能としようとする最近の動き
 近時、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能としようとする動きが強まっている。
 集団的自衛権とは、政府解釈によれば、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である。
 安倍晋三内閣総理大臣は、2014年(平成26年)1月24日、国会での施政方針演説で「集団的自衛権や集団安全保障などについては、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』の報告を踏まえ、対応を検討してまいります。」と述べ、集団的自衛権の行使を可能とすべく憲法解釈を変更する姿勢を打ち出した。
 また、安倍首相は、2月12日の衆議院予算委員会で、「最高の責任者は私です。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で国民から審判を受けるんです。」と答弁し、事後に国政選挙で審判を受けることから一内閣の責任で憲法解釈を変更することができるとの認識を示した。
 さらに、安倍首相は、2月20日の衆議院予算委員会で、「基本的には閣議決定していくことになる。」、「閣議決定した内容を国会に示し、議論してもらう。」と答弁し、この答弁後に論調を変えはしたが、国会での議論を待たずに閣議決定で憲法解釈変更を行う考えを示した。
 自由民主党の高村正彦副総裁は、1959年(昭和34年)12月16日の砂川事件最高裁大法廷判決を根拠に、「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定すれば、集団的自衛権の行使が憲法上許されるとの見解を示し、報道によれば、同党内でこの見解に対する支持が広がっている。
 そして、安倍首相は、本年5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書提出を受けた記者会見で、「限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方」につきさらに研究を進める旨、「与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、この点を含めて改正すべき法制の基本的方向を」「閣議決定」する旨を述べ、集団的自衛権を行使可能とすべく閣議決定により憲法解釈を変更しようとする方針を鮮明にした。
第2 日本国憲法第9条の規定
 日本国憲法は前文で「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」として平和的生存権を認め、第9条第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と、同条第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認を定めている。
 これは、第2次世界大戦において国内外に甚大な人権侵害を惹き起こしたことから、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」との「決意」(憲法前文)に基づき、非軍事の徹底した恒久平和主義を掲げたものである。 憲法第9条は、制定以来、内外の政治状況との緊張関係にさらされつつも、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)我が国が平和な国際関係を築くべき指針を示す憲法規範として、有効に機能してきた。自衛隊の諸活動に対する制約となり、海外における武力行使を禁止してきたのは、その機能、あるいはこれによる具体的成果である。
 このような日本国憲法の平和主義は、世界平和のための先駆的意義を有するものとして、近時あらためて高く評価されており、例えば1999年(平成11年)のハーグ平和アピール世界市民会議で採択された「公正な世界秩序のための基本10原則」の第1には日本国憲法第9条が掲げられ、本年には第9条がノーベル平和賞の候補ともされている。
 自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国への武力攻撃を実力をもって阻止する集団的自衛権は、憲法第9条が禁ずる武力の行使にあたり、非軍事の徹底した恒久平和主義に反するものであって、許されない。
第3 集団的自衛権に関する政府解釈
 政府も、従来から一貫して、集団的自衛権の行使は憲法第9条により禁じられていると解釈している。
 すなわち、まず、憲法第9条の下で自衛権の発動が許容されるのは、次の要件に該当する場合に限定されると解釈している(1969年(昭和44年)3月10日参議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁、1972年(昭和47年)10月14日参議院決算委員会提出資料、1985年(昭和60年)9月27日政府答弁書)。
 すなわち、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、②この攻撃を排除するため他の適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が必要最小限度の実力行使にとどまること、である。
 そして、これを前提として、政府は、1981年(昭和56年)5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義したうえで、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるものであつて、憲法上許されない」旨の見解を表明した。同答弁書では併せて、「なお、我が国は、自衛権の行使に当たっては我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することを旨としているのであるから、集団的自衛権の行使が憲法上許されないことによって不利益が生じるというようなものではない。」とも述べられている。
 したがって、外国が他国から武力攻撃を受けた場合に、自衛隊が集団的自衛権を行使してその武力攻撃を阻止することは、たとえ被攻撃国が日本と密接な関係にあっても、憲法に違反して許されない。これが政府の一貫した憲法解釈であり、これはその後長きにわたって維持されてきた。
 加えて政府は、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の可否について、「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」(1983年(昭和58年)2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)、「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、そのうえで「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」(1996年(平成8年)2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、「憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年(平成13年)5月8日の政府答弁書)と答弁するなど、一貫して否定的な姿勢を保っている。
第4 憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使可能とすることに反対する
 上記のとおり、集団的自衛権の行使は憲法第9条によって禁止されているのであり、政府解釈もそのとおりに堅持されてきた。
 この行使を可能とすることは、憲法第9条に違反する。
 それにもかかわらず集団的自衛権の行使を可能とすることは、政府解釈の変更によって実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得ようとするものである。
 憲法は、多数の民意によって成立した政府であっても権力を濫用して人権を侵害する危険があるという歴史的教訓に鑑み、権力を縛るために立憲主義の原理を採用しており、かかる考慮から憲法改正にも厳格な手続を定めている(憲法第96条、第97条、第98条等)。時の政府が自らの都合のよいように解釈を変更して憲法の規範内容を変更することは、このような立憲主義に反するものであり、決して許されない。このように、解釈変更により実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得るのが解釈改憲であるが、解釈改憲という手法自体が立憲主義に反し許されないのである。
 さらにまた、このような解釈の変更は、国務大臣の憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも違反する。
 憲法前文と第9条が規定している恒久平和主義は、基本的人権の尊重、三権分立と並ぶ憲法の基本原理である。基本原理についての解釈変更によりその規範内容を変更しようとするのは、立憲主義を踏みにじる暴挙であり、断じて許されない。
 砂川事件最高裁大法廷判決についてみれば、同判決は、日米安保条約による駐留米軍の「戦力」(憲法第9条第2項)適合性と米軍駐留の司法審査適合性について判示したものであって集団的自衛権の許否が判断対象とされたものではなく、集団的自衛権を行使可能と解釈するために同判決を論拠となしうるとする見解には明らかに無理がある。「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定するとの論も、そもそも「国の存立を全うするために必要最小限」でなければ自衛権とは呼べないのであるから、何らの限定ともならない。集団的自衛権の行使は、従来の政府解釈のとおり、「我が国を防衛するため必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されない」のであり、「必要最小限に限定」するのであれば、自ずと集団的自衛権の行使は許されないこととなるのである。
 よって、当会は、憲法の基本原理としての恒久平和主義を尊重し、立憲主義を堅持する立場から、憲法第9条によって禁じられている集団的自衛権の行使を内閣が従来の解釈を変更して可能とすることに断固として反対するものである。
                                  以上

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