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「ゲートキーパー問題を考える」

カテゴリー:会長日記

会長 川 副 正 敏
一 はじめに
 四月と五月の日弁連理事会では、ゲートキーパー問題に対する新たな行動指針をめぐって熱く厳しい議論が交わされた。六月中にはその採否を決定する予定である。\n この件は、弁護士業務に不可欠な依頼者との信頼関係の基盤である守秘義務(職務上の秘密保持は弁護士の権利でもある。弁護士法二三条)のあり方を大きく左右するとともに、弁護士会自治の根幹にも関わる深刻な問題である。そこで、会員各位のご意見をお寄せいただきたく、問題の所在と議論の要点を報告する。
二 ゲートキーパー問題とは
 この問題については、これまで日弁連から多数の資料が配付されており、昨年七月に発行された『ゲートキーパー問題Q&A』にも解説があるので、ここでは確認の意味でポイントだけを述べる。
 一九八九年のアルシュ・サミット経済宣言に基づき、OECD諸国などによる政府間会議として「金融活動作業部会」(略称「FATF」)が設置された。FATFは一九九〇年にマネー・ロンダリング(資金洗浄)対策のための四〇項目の提言(略称「四〇の勧告」)を採択した。その中では「疑わしい取引」についての金融機関の届出義務などが定められ、一九九六年の改訂で前提犯罪の拡大などが盛り込まれた。これを受けて、日本は組織的犯罪対策法の中に金融機関の義務を法制化した。
 さらに、アメリカの九・一一同時多発テロで盛り上がったテロ防止対策強化の国際世論を背景に、二〇〇三年六月、四〇の勧告は大改訂された(新勧告)。
 新勧告は、資金洗浄防止のための各種義務をテロ資金供与防止目的にも拡げる一方で、規制対象先を金融機関だけではなく、弁護士等の専門職(金融取引の門番=ゲートキーパー)にも拡大し、各国に対して速やかな国内法整備を求めるに至った。
 新勧告によれば、弁護士が依頼者のために次の各取引を準備または実施する場合(特定業務)、公的資料に基づく本人確認及び記録の保存義務が課せられる。また、その際に取引の資金が犯罪収益またはテロ関連であると疑ったか疑うべき合理的な根拠があるときは、これを金融監督機関に報告する義務を負うことになる。
(特定業務)
 (1)不動産の売買、(2)依頼者の金銭・有価証券・その他の資産の管理、(3)銀行預金口座・貯蓄預金口座・証券口座の管理、(4)会社の設立・運転または経営のための出資金のとりまとめ、(5)法人または法的機構の設立・運転または経営・並びに事業組織の売買\n その一方で、新勧告は「守秘義務の対象となる状況に関連する情報」を報告義務の対象外としているが、具体的場面での判断は、「疑わしい取引」に当たるかどうかとともに、必ずしも容易なことではない。
三 日弁連の従来の対応方針
 新勧告について、日弁連は、顧客の「疑わしい取引」の報告義務を弁護士に導入する動きが始まった当初の段階から、一貫して反対の方針を掲げて活動してきたが奏功せず、新勧告が出された後の二〇〇三年一二月二〇日、理事会で次の方針を承認した。
 本人確認と記録保存の各義務については、会規制定等に向けた検討を進める。他方、依頼者の「疑わしい取引」の報告義務制度は、従来どおり反対の方針を堅持するものの、仮に法制度化が不可避な状況となった場合に備えて、以下の努力を行うとの会内合意の形成に努める(旧方針)。
(1) 「疑わしい取引」の要件は、弁護士が当該取引に関与し、かつ依頼者がその取引の違法性を認識していた場合に限定するよう努める。
(2) 守秘義務の範囲は、この制度によって新たに制約されないことを明確化し、とりわけ訴訟手続を前提としない法的なアドバイスの提供についても守秘義務の範囲内であることを法制度上明確にするよう努める。
(3) 報告制度の報告先を弁護士会とすることの是非につき全会的な討議を行う。
四 新たな行動指針の提案
 日弁連は、ゲートキーパー問題対策本部事務局を中心にして、旧方針に基づき国内外での取組みを展開してきた。しかし、昨年一二月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は「テロの未然防止に関する行動計画」を策定した。
 この行動計画では、FATFの新勧告を完全実施するため、弁護士等に対し顧客の本人確認、取引記録の保存及び「疑わしい取引」の届出の義務を課すことなどについて、今年七月までにその実施方法を検討して結論を得ることとし、法整備を必要とするものは二〇〇六年の通常国会に法律案を提出し、それ以外のものは同年上半期までに制度の整備を行うとしている。
 このような情勢を踏まえ、五月七日の日弁連理事会で、執行部は新たな行動指針を提案した。
 これは、本人確認と記録保存義務の会則改正・会規化をするだけで報告義務の法制度化を回避するのはほぼ不可能であり、報告義務に関して、何らかの自主的措置を講じなければ、金融監督機関に対する個々の会員の直接的な報告義務を定めた法案が上程されて成立するのは避けられないとの状況認識に基づくものである。\n 新指針の要点は以下のとおりである。
 「疑わしい取引」の報告義務の弁護士への導入に反対との立場は変えないが、政府の行動計画に基づく法制度化の動向を踏まえ、会規制定を行うことも視野に入れ、次の行動指針について会内合意の形成に努めるとともに、関係機関との協議を進める。
(1) 「疑わしい取引」の要件は、単なる疑いのレベルではなく、客観的に疑わしいと認められる類型に限定する。
(2) 守秘義務の範囲は旧方針の(2)と同旨。
(3) 報告制度の報告先は日弁連とするが、いかなる形でも関係省庁の監督を受けないものとする。
 旧方針との基本的な違いは、同じく報告義務反対の旗は掲げつつも、その法制度化自体は避けがたいとして、報告先を日弁連とする自主的報告制度の会規制定に向けて舵を切ろうというものである。
五 新行動指針についての議論状況
 四月と五月の理事会で交わされた討議や質疑応答の中からいくつかを紹介する。
(1) 日弁連宛報告義務の会規化をめぐる利害得失・問題点
a 会規化しなければ、個々の会員は金融庁等に直接報告義務を負う制度の立法化がなされ、違反に対しては、過失による報告懈怠を含めて刑罰が科せられる。
  「疑わしい取引」か否か、守秘義務の範囲内かどうかについて、個々の会員の責任で判断する制度になると、金融庁等による判断と食い違った場合には、会員は直接その攻撃にさらされる。
  日弁連を報告先とする報告制度の会規制定をすれば、これらの該当性判断について、日弁連に第一次的判断権を留保することで、会員のリスクを回避できる。
b 報告義務の会規化を前提として、法案策定作業の段階から交渉をすることを通じ、「疑わしい取引」の限定や守秘義務の範囲の明確化を図れる。
c FATFの新勧告でも、自治組織がその専門職の特性に応じて、報告義務等を独自に定めるのを容認しており、その中でよりましな制度を追求すべきだ。
d 「疑わしい取引」や守秘義務該当性に関する日弁連の判断と金融庁等との判断が食い違った場合、制度的には日弁連執行部の責任が問われる形になり、弁護士会自治侵害への懸念は払拭できない。
e 法律に基づく義務であれば、依頼者に通報やむなしの説明がつくが、日弁連会規を根拠に報告するというのでは理解を得られない。
f 日弁連が会員に対して、懲戒の制裁を背景に、その業務内容についての報告義務を課すのは、弁護士業務の自主性・独立性を日弁連自ら侵すものだ。
g 守秘義務・権利は弁護士業務の根幹であり、これを損なう会規を日弁連自身が作るべきではない。将来、会員が報告義務を違法として争う訴訟を提起した場合、日弁連も容認しているということで、適法の根拠にされかねない。
(2) 欧米の実情
a イギリスは弁護士個々人が金融当局に直接報告している。その数は極めて膨大で、当局による実質的審査は事実上不可能な実情にある。\nb フランス・ドイツ・ポルトガルなどは弁護士会に報告する制度になっている。
  フランス等では弁護士会長が審査権を持っている。ドイツは審査権を持たず、理由を付して当局に報告する。本当に「疑わしい取引」のみが報告されており、弁護士会を報告先とすることによって、弁護士会自治が侵害されるような事態や依頼者との紛争は生じていない。
c アメリカとカナダでは、直ちに法制度化するような動きは見られない。
(3) 個人情報保護法などとの関係
a 日弁連の会規に基づく「疑わしい取引」の報告は、個人情報の目的外使用であって、かつ法令に基づかない場合ということにならないか。また、弁護士法二三条ただし書きとの関係も疑問がある。
b (aに対し)日弁連を報告先とする報告制度を包含した立法となるであろう。
六 むすび
 他にも幾多の論点があるが、紙数の都合上割愛せざるをえない。
 マネー・ロンダリングへの弁護士の関与などというのは、グリシャムの小説の世界のことであって、私たちの仕事とは無縁のことのようにも思える。しかし、特定業務には、成年後見や企業再生、M&Aなどが広く含まれている。不動産取引は一五〇万円以上という広範なものが対象になる。
 さらに、組織的犯罪対策法の改正作業では、日弁連の反対にもかかわらず、その前提犯罪を約五〇〇件へと著しく拡大せんとしている。脱税もその対象に挙げられており、税務事件の民刑事事件の弁護費用すら犯罪収益にされかねない。これがゲートキーパー規制と連動すれば、日常業務にも深く関わる問題とならざるをえない。
 報告義務を含む弁護士へのゲートキーパー規制自体は、何らかの形での法制度化を止められないというのが日弁連執行部の情勢判断である。
 これを前提としつつ、刑罰の背景の下に「疑わしい取引」や守秘義務該当性如何の判断のリスクを会員個々人に負わせるような法制度の導入を黙過するのか。それとも、これを避けるために、次善の策として、日弁連の第一次的審査権が確保され尊重される制度の樹立を追求すべきか。それは可能なのか。その場合でも、日弁連の判断を否定する当局の権力的介入を招き、弁護士会自治が危殆に瀕する\n事態にならないのか。
 ジレンマの中での決断が迫られている。

会長日記〜挨拶回り

カテゴリー:会長日記

会 長 川 副 正 敏
 17年3月28日から4月12日までの間、恒例の役員就任挨拶回りを行い、約120箇所を訪問しました。
 福岡市内とその周辺は、午前九時過ぎに会館を出発、筑後・筑豊・北九州地区は午前8時前後にバス・電車に乗り、ほぼ終日駆けずり回って、戻るのは夕方五時過ぎというスケジュール。気分だけは高揚しながらも、身体はヘトヘトで嵐のような日々が過ぎていきました。150箇所以上も回った会長がおられるのを聞くにつけ実際に自分で体験してみると、その超人ぶりに尊敬の念を超えてあきれる思いです。
 とはいえ、今回の訪問先も、裁判所・検察庁、警察、拘置所・刑務所、少年鑑別所、自治体、経済団体、労働団体、新聞社・放送局、福祉関係機関、総領事館等々、これまで弁護士会が関わりを持ってきたり今年度の会務活動に関係する機関・団体等をできるだけ網羅しました。先方は、高裁長官・地家裁所長、高検検事長・地検検事正、県知事、県警本部長を始め、ほとんどトップの立場にある人が鄭重に応対しました。
 当会が地震直後にいち早く着手した被害者への法律相談活動に対する賛辞には大いに勇気づけられました。
 儀礼的な挨拶にとどまらず、法律相談センター、当番弁護士、弁護士過疎地支援制度、高齢者・障害者権利擁護などの活動や司法制度改革の具体的課題に関する話題を出して意見交換をするようにしました。先方からも、それぞれの立場で関心のあるテーマについての見方や感想が率直に述べられ、相互理解を深めることができました。
 共通して取り上げられたのは裁判員制度でした。裁判所・検察庁では、模擬裁判の実施を含めた具体的な裁判のあり方に関する実務的な協議や市民への広報活動を協同して行うことの重要性について語り合いました。警察でも、裁判員裁判に耐えられる捜査仕法の見直しの必要性に言及しました。いずれも、取調の可視化等の個別的問題に関する見解の相違はあるものの、総論的な制度設計の議論に劣らず、各論ないし実行の難しさの認識では一致しました。
 法曹以外の方々からは、一般市民が重大な刑事事件を裁くことへの不安や「国民性と乖離」との見方、裁判に拘束されることでの仕事や私生活への支障に対する懸念など、消極的な意見が多く出されました。その一方で、長期的にみて日本の民主主義を深化させることへの期待感や裁判員体験願望を語る人もいましたが、総じて裁判員制度に対する市民の理解は得られておらず、あらゆる場で積極的に広報活動を展開していかなければならないと痛感しました。
 そのための方策として、マスコミに対しては、わが会員の登場の機会を多く作ってもらうよう要請し、経済・労働団体には会員を講師とする勉強会の開催を提案して、いずれも前向きな回答を得ました。
 自治体では、司法支援センターの準備状況を説明するとともに、地域司法の充実という観点から、引き続き地方自治体の役割が重要であることを訴えました。全国知事会会長に就任した麻生県知事からは、地方分権実現への熱い思いを聞き、地域経済やアジアとの経済交流活性化の観点から、知財高裁設置という形での司法の中央集中化の問題点にも話題が及びました。
 外国公館の総領事とは、いわゆる歴史認識問題などについての率直な意見交換をしましたが、いかにも外交官らしいウイットに富んだ語り口に接し、少しでも身に着けたいものだと思いました。
 こうして、当会への信頼と期待の大きさを肌で感じ、改めて責任の重さを噛みしめながら、わくわくするような緊張感で2005年度執行部丸は出帆しました。

少年法等「改正」法案に反対する声明

カテゴリー:声明

平成17年(2005年)6月23日
福岡県弁護士会 会長   川副 正敏
 少年法等改正法案が、平成17年3月1日の閣議決定を経て今国会に提出され、6月14日に衆議院での審議が始まった。
 この改正法案は、
(1) 低年齢非行少年に対する厳罰化。
(2) 触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退、警察官による強制捜査権の付与。
(3) 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分の導入。
などの点において、極めて重要な内容を含むものである。
 しかし、以下に述べるとおり、これらの施策には少年法の理念や保護観察制度の根幹に関わる重大な問題があり、当会は、4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて、本法案に強く反対するものである。
1  少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
 本法案は、昨今社会問題となっている低年齢少年による非行事件を契機として、少年に対する厳罰化を唱える一部の世論に押される形で、少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には幼稚園児であっても少年院に入院させることを可能としている。\n しかし、そもそも14歳未満の少年による事件の凶悪化ということは統計上認められず、この点を厳罰化の根拠とすることはできない。ちなみに、本法案の提案理由説明でも、「いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど」という記載にとどまっており、従前よりも凶悪化傾向が生じているという分析はなされてない。
 また、低年齢の少年に対しては、ひとりひとりの心身の発達状況や家庭環境などに配慮したきめ細やかな指導を通じて、個々の少年の健全な成長発達を促すことが求められる。とりわけ、重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど、被虐待体験を含む複雑な成育歴を有していることが少なくない。その意味で、低年齢の触法少年については、個別の福祉的、教育的対応を専門とする児童自立支援施設における処遇こそが適切であって、主として集団的矯正教育を行っている少年院での処遇にはなじまない。
 現に、児童自立支援施設においては低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われているのであって、ここになお一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。しかるに、そのための施策は著しく貧弱なものにとどまっている。にもかかわらず、その抜本的な改善に着手することもないまま、単に14歳未満の少年の少年院送致を可能とすることをもって、低年齢少年の非行に対処しようとするのは、本末転倒といわざるを得ない。\n
2  触法少年・ぐ犯少年に対する福祉的対応の後退
 本法案は、触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限を定めるとともに、さらに触法少年に対しては一定の強制処分手続を行うことができるとしている。
 そもそも、低年齢の少年やぐ犯少年に対する調査は、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。児童の福祉や心理、発達段階に応じた表\現能力等についての専門性を有していない警察官に質問権限を認めることは、少年に対して真に求められる教育的・福祉的対応を後退させるばかりか、少年を萎縮させ、かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。\n
3  保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分
 本法案は、保護観察中に遵守事項に違反した場合に、少年院送致などの措置をとることができる制度を設けている。
 しかし、現行法においても、保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度などが存在しており、それに加えて新たな制度を創設する必要性について現場の意見を徴するなどの検証は全くなされていない。
 そもそも保護観察は、少年の自ら立ち直る力を育てるため、保護観察官と保護司が少年との信頼関係(そこでは、ときには遵守事項を破ってしまったことも素直に話せる関係が存在することが必要である)を前提にして、長期的な視点から、少年に対しねばり強く働きかける制度である。ところが、本法案は、「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり、保護観察制度の実質的な変容を図るものである。また、こうした制度を設けることは、一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか、いたずらに厳罰化を図るものである。
 現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって、この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには、何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり、制度の本質を変容させてはならない。\n
4  全面的な国選付添人制度の実現を
 本法案は、ごく限定的ではあるが、従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。
 これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年、全国に波及していく中で、これらの実績に基づいて有用性が証明され、国としてもその成果に配慮したことによるものである。その意味で、国選付添人制度の導入は、我々のこれまでの活動が実を結び、将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
 しかし、その対象事件は極めて限られているなど、なお著しく不十分なものにとどまっている。\n 我々は、さらに、全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに、今後とも、少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。

憲法週間に寄せて

カテゴリー:意見

kawazoe.jpg〜実行段階の司法改革と市民の役割〜
会長 川副正敏
 正義の女神ユスティチア像は、右手で剣を頭上高く上げ、左手には秤を持ち、目隠しをしている。これは証拠の重みで秤がどちらに傾くかを見極め、正義の剣を振り下ろすという裁判の公正さの象徴とされている。一方で、この目隠しは時に硬直化し市民感覚とかけ離れた裁判のたとえにも使われてきた。
 三権の一翼を担う司法の仕事は、憲法と法律に基づき、法的紛争の迅速で的確な解決と権利の実現、行政に対するチェック、刑罰権の適正な行使にある。そのことを通じて、一人ひとりが個人として尊重され、お互いに幸せを追い求めて暮らしていけるよう、社会の隅々まで法を公平・公正に適用し、基本的人権を擁護する使命を負っている。
 しかし、憲法施行から半世紀以上を経過した今日、司法はその役割を十分に果たしておらず、国民から遊離して信頼を失いつつあるのではないか。そんな深刻な危機感から始まったのが今回の司法制度改革だ。\n こうして、昨年末までに多数の法律が制定された。
 戦後始めて国民の司法参加を実現する裁判員制度は4年後までに実施される。
 市民があまねく身近に法的サービスを受けられるようにするための日本司法支援センターや容疑者段階の国選弁護も近く発足する。
 さまざまの社会的経験を持つ人材を集めた法科大学院からは、間もなく毎年三千人の法曹が生まれる。
 裁判官の指名や裁判所の運営に市民の声を反映させる制度も動き出している。
 しかし、これらの制度に本当に魂を入れる取り組みは今始まったばかりだ。
実行段階に入った司法改革、そこでは、主権者である国民一人ひとりが「受け手」ではなく「担い手」として、主体的に参加し発言することが不可欠だ。そうすることで始めて、正義の女神から目隠しをはずし、市民の目線に立った利用しやすく信頼される司法が実現する。
 それは、日本国憲法が求める人権擁護の砦としての司法復活への道だと思う。
(5月3日読売新聞朝刊より)

イラクへの自衛隊の派遣継続に反対する会長声明

カテゴリー:声明

福岡県弁護士会 会長  松? 隆
 平成16年(2004年)12月8日
当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明した。次いで、2004年4月20日に、同様に、自衛隊のイラクからの即時撤退を求める会長声明を発表\した。
 当会が立て続けにかかる会長声明を発表したのは、(1)イラク特措法は、憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、(2)自衛隊のイラク派遣は、戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという国際社会が確立した原則に違反する疑いが極めて大きいこと、(3)イラクは未だ戦争状態にあり、その全土が戦闘地域であり、イラク特措法の要件すら満たしていないこと、(4)2004年4月20日時点において、米軍に限らず、市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じたり、サマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲弾が着弾したり、邦人を初めとする各国の民間人等が拘束されたりするなど、イラク全土が戦闘地域で、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことが明らかになったこと、等、看過しがたい憲法違反と人権侵害があると考えたからである。
 しかるに、現在に至るまで、上記声明で指摘した問題点はまったく解決しておらず、むしろ悪化している。すなわち、11月7日にイラク暫定政府により全土に非常事態宣言が出され、イラク全土が戦闘状態となっていることが明らかになった。11月17日には「イラクの反米武装勢力の幹部が自衛隊を占領軍と規定し、日本も戦いの相手の一部となったと言明した」という趣旨の報道がなされ、自衛隊を「占領軍」と考える勢力が存在することもまた明らかになった。開戦以来のイラク人犠牲者は、女性や子どもを中心に10万人を超え、アメリカ兵の死者も優に1100名を超えた。加えて、本日までに、福岡県在住の香田証生さんをはじめとして5名もの日本人の尊い命が奪われている。
 今日現在、イラク全土が戦闘地域であることは否定し得ない事実である。従って「非戦闘地域における人道支援」であることを要件とするイラク特措法による自衛隊のイラク派遣はその前提を欠き、明らかに違法である。自衛隊の宿営地内であるサマワの治安も非常に悪化しており、前記のとおり、自衛隊を「敵」と考える勢力も存在することを合わせ考えると、派遣された自衛隊員の生命・身体の安全も危険にさらされていると言わざるを得ない。
 こういった状況の中、本年12月14日にはイラク特措法による自衛隊の派遣期限が切れるが、政府は今後も派遣を1年間は継続させる方針を表明しようとしている。しかし以上の事実に照らし合わせるならば、かかる方針は日本国憲法の平和原則及び国連憲章の原則に違反した行為であり、かつ、イラク特措法にも反しており、容認することはできない。\n そこで当会は、自衛隊のイラク派遣継続に強く反対し、自衛隊がイラクから速やかに撤退することを強く求める。

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