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秘密保全法案に関する会長声明

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1 政府は,平成24年1月24日に招集された第180回通常国会において秘密保全に関する法制の整備のための法案(以下「秘密保全法案」という)の提出を意図し,同法の制定に向けて審議を始めようとしている。
  しかし,同法案は,「国益」の名の下に,以下に述べるとおり多くの憲法上の諸権利を侵害するものであって,到底容認できるものではない。
2 「知る権利」に対する不当な制約
  同法案は,行政機関が①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持の分野で「特別秘密」に指定した情報の公開制限を定めるが,かかる「特別秘密」の指定権者は,「特別秘密」を作成・取得する各行政機関とされており,当該行政機関にとって都合の悪い情報を「特別秘密」に指定するなどの恣意的な運用がなされるおそれがある。国政上いかに重要な情報であっても,一旦「特別秘密」に指定された情報は不開示となり,国民の知る機会は奪われ,その結果,憲法上の権利であり,国民主権原理の要請でもある「知る権利」が不当に制約されることとなる。
3 「取材の自由,「報道の自由」,「学問の自由」等に対する不当な制約
  「特別秘密」の定義は不明確且つ広範である上,処罰対象となる「特定取得行為」の概念も不明確であることから,報道機関は,取材活動や報道活動が処罰対象となるか否かを予測できない。さらに共犯処罰規定も設けられているところ,これでは記者が「特別秘密」を保有する取材対象者に秘密を尋ねる行為すら「教唆」や「扇動」として処罰されかねず,報道機関の取材の自由への規制の程度及び萎縮効果は計り知れない。
  また,「特別秘密」の対象には,民間事業者や大学等が作成・取得するものについても含まれているところ,これらの有する情報でも「特別秘密」の指定権者は各行政機関であるから,行政の管理の名の下に学問の自由が侵害されるという危険性もある。
4 罪刑法定主義等の理念に反する
  同法案は,「特別秘密」の概念自体が極めて不明確なままに,その漏えい行為等を処罰対象とするが,これは罪刑法定主義の理念とは到底相容れない。
  また,独立教唆行為についての罰則規定は,基本たる本犯の実行行為がないにもかかわらず処罰するものであり,刑法の基本原則である行為責任主義に明らかに反するものである。
  さらに,共謀行為についての罰則規定は,現行法では例外的に処罰されることとなっている予備・準備行為のさらなる前段階で処罰するものであり,過度の萎縮的効果をもたらすものである。
  その上,罰則についても懲役刑の上限を10年に引き上げることが検討されているが,このような重罰化は,前記の萎縮効果をさらに強めるものである。
5 プライバシー権,思想信条の自由を侵害する適性評価制度
  同法案は,特別秘密を取り扱う者を管理するためとして,住所歴・国籍などの人定事項のみならず,信用状態や外国への渡航歴,懲戒処分歴,犯罪歴などの事項を,本人の同意を得た上で調査し,評価するという適性評価制度の導入を図っている。その調査対象は,取扱者の周辺の者,医療機関,金融機関と広範に及んでいる。
  しかし,このようなセンシティブ情報を行政機関・警察によって収集利用されること自体,重大なプライバシー侵害である。
  さらに,評価基準は非公開とされ,適性評価の判断も実施権者たる各行政機関の長の裁量に委ねられるなど,恣意的な評価がなされる危険性は否定できず,特定の思想信条を持つ者を排除,差別する運用がなされるおそれがある。
6 未だに情報公開制度が十分に機能しているとは言い難い我が国の現状からは,国民の知る権利の十分な保障こそ急務である。
  それに逆行するどころか,憲法上保障されている諸権利を不当且つ多大に制約する秘密保全法案の制定に対し,当会としては,断固として反対する次第である。
                  2012年(平成24年)3月12日
                   福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸

監視カメラを法律なしに設置・運用しないよう求める声明

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 警察庁は、福岡市の中洲地区に犯罪防止効果の検証を目的に42台の監視カメラを設置し、本年1月から福岡県警が常時録画する運用を開始した。
 しかしながら、警察の捜査活動でさえ、具体的な嫌疑を前提として許されるものであり、その場合にも、人権保障を図る観点から、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし(強制処分法定主義)、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
現在では、監視カメラで撮影された膨大な集積画像の中から、顔認識システム(被写体から人の顔の部分を抽出し、目・耳・鼻などの位置関係等を瞬時に数値化し、あらかじめデータベースに登録された特定人物の顔データベースと自動的に照合するもの)を使って、特定人物の検索・照合することも可能となっている。具体的な法益侵害の行われていないはるか前段階で、警察が市民全体を対象とする監視を行い、地引き網のように市民の行動履歴を収集することは、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会における市民の自由を萎縮させる危険が大きい。
 警察自身による監視カメラの設置は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視カメラ判決(東京高判昭63.4.1)などによれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
 西成監視カメラ判決(大阪地判平6.4.27)では、「特段の事情がない限り、犯罪予防目的での録画は許されないというべきである。」として、犯罪予防目的での監視カメラの設置を明示的に禁止している。
 中洲地区は必ずしも犯罪多発地帯ということが証明されているわけではく、県警は、想定される犯罪として客引きを挙げつつも、当会の聴き取りに対し、「その実態はよく分からない」と回答するなど、監視カメラ設置の必要性に乏しく、他方で、歓楽街におけるプライバシー権制約の程度は大きいことからすれば、犯罪予防目的での撮影や録画が許容されるべき特段の事情はない。
 そもそも、プライバシー権を保障するために監視カメラの設置・運用を規制する法律の制定が必要不可欠である。
 当会は2007年以降、同様の意見を述べているが、なんら法律が制定されないまま警察主導で街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、適切な法律が制定されるまでの間は、中洲地区における監視カメラの設置・運用を中止するよう強く求める。
         
               2012年(平成24年)2月9日
                 福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸

当会会員に対する有罪判決に関する会長声明

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 本日当会会員である渡邉和也弁護士に対する業務上横領事件における判決がなされました。裁判所の認定した事実は、概略以下の内容です。
 「裁判所から相続財産管理人として選任されていた渡邊会員が、平成18年から同21年にかけて、自ら管理していた被相続人名義の預金口座から合計13回にわたり現金を引き出し、他事件において自らその支払義務を負担していた清算金の支払原資や事務所経費、生活費等に費消するなどし、合計金1945万円を横領した。」
上記事実に対する判決内容は5年間の執行猶予付きの懲役3年(未決算入30日)の有罪判決でした。
このように有罪判決が言い渡され、量刑理由において金銭管理の杜撰さや行為の悪質性が指摘されたたことについて、当会といたしましては、弁護士に寄せられた社会の信頼を損ねたことに対する裁判所の厳しい判断として重く受け止めております。また、関係者及び市民の皆さまにご迷惑やご心配をおかけしたことについて、同会員の所属弁護士会として、深くお詫び申し上げます。
 なお、渡邉会員については、当会においても平成23年3月4日に弁護士会として懲戒申立を行い、本年8月18日、綱紀委員会で懲戒相当との議決を経て、同会員は現在懲戒手続中であります。
当会としては、各会員において本件事件の重みを肝に命じてもらう一方、倫理研修のより一層の充実を図りつつ、会として与えられた権限の適切な行使を通じて、今後こうした事犯の再発を防ぎ、市民の方々の信頼・信用を保持することができるよう努めてまいりたいと思います。
                                         以上
              平成23年10月18日
               福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸

「君が代」斉唱時に起立斉唱を強制しないよう求める会長声明

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1 本年7月14日,最高裁判所第一小法廷は,北九州市立学校の教職員らが,卒業式又は入学式における「君が代」斉唱の際に起立して歌うよう命じた校長の職務命令に反したとして課せられた懲戒処分をめぐる訴訟及び東京都における同種の訴訟の判決において,校長の職務命令は憲法19条に違反しないと判示した。
  これらは,本年5月30日以降,最高裁判所の各小法廷が言い渡してきた同種訴訟の判決における判断を踏襲したものである。
  一連の最高裁判決は,自らの歴史観や世界観との関係で,国旗及び国歌に対する敬意表明に応じ難いと考える者に対して起立・斉唱行為を求めることは,その者の思想及び良心の自由に対する「間接的な制約」となる面があるとしつつ,起立・斉唱行為は,「慣例上の儀礼的な所作」であり,かかる行為を命ずる職務命令は,その目的及び内容,制約の態様等に照らすと許容できるとしている。
2 しかしながら,「君が代」斉唱時の起立・斉唱行為は,「君が代」に対する敬意の表明と不可分であるから,単なる「慣例上の儀礼的所作」とは言えない。「君が代」を是とするか否かは,各個人にとって自己の信条や信仰に深くかかわる問題である。卒業式・入学式における「君が代」斉唱指導が教職員の職務上の義務であるとしても,教職員が自己の信条や信仰を理由として単に起立斉唱しないという行為に対して,懲戒処分という重大な制裁をもって臨むことは,憲法上保障された当該教職員の思想良心の自由ないし内面的信仰の自由の核心部分を直接的に侵害するのであり,憲法19条に違反すると言うべきである。
かかる観点から,当会は,今回の最高裁判決の当事者である北九州市立学校の教職員らの一部による人権救済申立てを受けて,2000年6月28日,北九州市教育委員会に対し,懲戒処分を再考し,以後,同様の懲戒処分をもって教職員に対して「君が代」斉唱時の起立を強制するという運用を改めるよう,警告を発している。
また,国旗及び国歌に関する法律が,国会審議の過程で,同法の制定によって国旗国歌を強制し,義務づけるものではないとの政府答弁がなされた上で可決成立したものであったことをも踏まえれば,上記最高裁判決の結論は容認できるものではない。
3 上記最高裁の各判決を通じては,宮川光治裁判官(第一小法廷),田原睦夫裁判官(第三小法廷)が反対意見を述べ,補足意見も7の多数に上った。このことは,最高裁内部の判断が,決して一様ではなかったことを示している。
殊に,宮川光治裁判官の反対意見が,「憲法は少数者の思想及び良心を多数者のそれと等しく尊重し,その思想及び良心の核心に反する行為を強制することは許容していないと考えられる」とし,厳格な違憲審査基準によって判断すべき旨を述べたことは重要である。
反対意見の外にも,多くの補足意見が,「君が代」の起立斉唱の強制について,慎重な配慮を求めている。
4 本年6月3日,「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」が制定されたことにみられるように,今後教育行政が教職員に対し学校行事等での「君が代」斉唱時における起立・斉唱を強制する動きが強まることが懸念されている。
  教育現場においては,「能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自立の精神を養う」(教育基本法2条)ことが肝要であり,そのためには教職員の自主性及び自由はきわめて尊重されなければならないものである。
  当会は,思想及び良心の自由の重要性をふまえ,教育行政に対し,教職員に対する「君が代」斉唱時の起立・斉唱を強制することがないよう,また,起立・斉唱をしない者への懲戒処分等の不利益取扱いを行うことがないよう,ここに改めて強く要請する。
                        2011年(平成23年)8月4日     
     
                         福岡県弁護士会            
                         会長  吉 村 敏 幸   

福岡県弁護士会会長声明~秘密交通権侵害に関する福岡高裁国賠判決について~

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 福岡高等裁判所は,本年7月1日,秘密交通権の侵害を理由とする国家賠償請求事件において,検察官が被疑者と弁護人の接見内容を聴取し,その供述調書を証拠として公判で請求したことが,弁護人の秘密交通権を侵害する違法な行為であること認め,佐賀地方裁判所の請求棄却判決を変更し,国に55万円の支払を命ずる判決を言い渡した。
 原審である佐賀地方裁判所は,秘密交通権の権利性を一応は認めたものの,それは捜査機関の捜査権に優越するものではないとし,検察官が接見内容を聴取することが違法かどうかは,「聴取の目的の正当性,聴取の必要性,聴取した接見内容の範囲,聴取態様等諸般の事情を考慮して」判断すべきであると判示した上で,結論において検察官の行為は違法ではない,という結論を導いた。
 これに対し,本判決は,秘密交通権は被疑者の権利であるだけではなく,弁護人の固有権でもあり,そのことは,身体を拘束され取調べを受ける被疑者の防御にとって不可欠な弁護人の援助を実質的に確保する目的によるものだと指摘した。さらに本判決は,取調べで被疑者が接見内容を話し始めたときは,捜査機関は、これを漫然と聴取してはならず,接見内容を話す必要がないことを被疑者に告知するなどして秘密交通権に配慮すべき法的義務も認めた。このように、本判決は,秘密交通権の優先的固有権性を認めた志布志事件の鹿児島地裁判決の延長線上にあるものであり,捜査機関による接見内容の聴取を違法とした高裁レベルの初めての判断として重要な意義がある。
 他方で,本判決は,弁護人が報道機関に対して被疑者の供述の一部を公表したからといって,供述過程を含む秘密交通権が放棄されたとは認められないとしつつも,そのような供述を被疑者がした事実自体の秘密性は消失したとして,検察官が被疑者に対し,報道された供述を弁護人にした事実の有無やそのような供述を弁護人にした理由を尋ねた行為に限っては違法ではないと判示した。
 しかし,被疑者の供述に関する報道機関の情報源が捜査機関の発表に限られており,捜査機関が報道内容を事実上コントロールしている現状のもと,これに対抗して正しい事実を報道機関に公表することは、事件に対する誤った認識を是正するために必要な弁護活動であるところ,本判決の「秘密性の消失」論によれば,報道機関への公表が捜査機関の秘密交通権への介入の口実を与えてしまうことになるため、今後このような弁護活動の委縮を招く事態が懸念されるという問題が残った。
 とはいえ、本件は,佐賀県弁護士会の弁護士が刑事事件の弁護人となり,その弁護活動の過程で秘密交通権を侵害されたことを理由として国家賠償請求訴訟を起こしたものであって,当会を含む九州弁護士会連合会が支援してきた事件であり,ここに、優先的固有権としての接見交通権の重要性を高裁に認めさせるという大きな成果を得た。
 当会は,被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権については,「いつでも自由になされ,かつ秘密が絶対的に保障される」ことが必要不可欠であり,この保障があってはじめて被疑者・被告人は安心して弁護人に相談できるものとして,これまでも秘密交通権の確立を訴えてきた。そして,この判決を契機として,検察庁その他の捜査機関に対し,この判決を真摯に受け止め,被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権が憲法の保障に由来する最も重要な権利の一つであることを十分に認識し,秘密交通権の侵害が再び繰り返されることのないように強く求めるものである。
2011年(平成23年)7月7日
                        福岡県弁護士会
                        会長 吉 村 敏 幸

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