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カテゴリー: 声明

死刑執行に抗議する会長声明

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本日,福岡拘置所において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計91人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。
当会は,最近では,今年8月2日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。
たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
人権意識の国際的高まりとともに,世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し,法律上及び事実上の死刑廃止国は,2018年12月31日現在世界の7割を超えた。同年8月2日にはローマ・カトリック教会が,今後死刑制度に全面的に反対する方針を明らかにし,同年12月17日には,国連総会本会議において,史上最多の支持(121か国)を得て死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が可決された。また,死刑制度を残し,現実に死刑を執行している国は,過去10年で18~25か国にすぎず(2018年度は20か国),死刑廃止は世界的な潮流という状況にある。
当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2019年(令和元年)12月26日
福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司

中村哲医師を追悼する会長声明

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長年にわたり,アフガニスタンやパキスタンで人道支援活動に従事された中村哲医師が今月4日,現地で護衛者らとともに銃撃を受け,逝去されました。
中村医師は,戦争で荒廃したアフガニスタンやパキスタンにおいて,多くの現地住民,難民の医療救援活動に従事されたばかりか,病気の根本的解決を図るには農業振興が不可欠であるとの考えのもと,農業用水確保のために,土木工学を独学され,日本の伝統工法を取り入れて,井戸の掘削事業や,大規模なかんがい・水利事業に,自ら現地で重機を操り従事されました。まさに,日本の技術を現地で活かすことで,多くの命を救われたのです。
中村医師は,2008年及び2015年に,当会主催の憲法市民集会で講演をして下さいました。その際,こうした活動の紹介とともに,日本が憲法9条を持ち,問題解決に武力を使わないという信頼があったからこそ,日本人である自分が,紛争地である現地で,命の危険にさらされることなく活動できたのだと語って下さいました。
70歳を超えてなお,現地活動の継続・発展,そして継承に意欲を燃やされていたというご本人の無念さを思うとき,当会にとっても痛恨の極みであり,謹んで哀悼の意を表します。
また,突然の銃撃・殺害という卑劣な暴挙に対して,断固として抗議するものです。
中村医師が体現し続けられたのは,人々が欠乏に苦しむことなく生活できる社会を実現するという理念の具体化でした。まさに,欠乏からの自由が平和的生存権を実現するという,日本国憲法前文と9条の価値・理念を自らの行動で体現されたのです。それはまた,日本がもつ技術・知識を提供することで他国からの信頼を得るという,真の意味での国際貢献の実践活動でもありました。さらに,そうした活動の地道な継続によって,武力に頼ることなく,自国の防衛とともに国際社会の平和を実現するという,恒久平和主義の理念を具体化する実践活動であったというべきです。
当会は,活動場所や方法は違っても,中村医師の功績・理念を心にとどめ,それを生かし,実現するための活動に,今後とも全力を挙げて取り組んでいく所存です。

2019年(令和元年)12月18日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明

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現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会において,割賦販売法の過剰与信規制について,以下の規制緩和が検討されている(経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会,令和元年5月29日付け「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」)。
① クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行っている場合には,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることができ,さらにその場合には,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)(同法第30条の2第3項)を⼀律の義務としては課さないこととする。
② 少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合には,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56)を課さないこととする。
 しかしそもそも,2008年の割賦販売法改正において,クレジット会社に指定信用情報機関への信用情報の照会義務,基礎特定信用情報の登録義務及び支払可能見込額調査義務が課されたのは,従前,過剰与信の防止をクレジット会社の努力義務(同法38条)に留めていたため,クレジットの過剰与信を含む多重債務被害が広がったことから,クレジット業界全体に対して,過剰与信を法的に規制するということが背景にあった。
 しかるに,上記①は,与信判断を各クレジットカード会社の独自の審査基準に委ねようとするものであり,クレジット業界全体として統⼀的な基準により過剰与信を防止しようとした前記2008年改正の趣旨を没却することになりかねない。仮に,独自の基準による与信審査をすることを認めるのであれば,その与信審査基準が現行の支払可能見込額調査に代替し得るだけの客観的かつ合理的なものであることが担保されなければならないが,この点への手当は明確ではない。
 また,指定信用情報機関の信用情報の使用義務を免除することになると,既に他社からの与信等で多重債務状態に陥っている者にもクレジットカードの利用が認められうることになり,過剰与信防止の観点から問題が大きいと言わざるを得ない。
 次に,上記②について,少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)に関して指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務を課さないということになると,クレジット業界全体のクレジット債務額を集約して相互に利用することによって過剰与信を防止するという指定信用情報機関の役割が大きく損なわれる。言うまでもなく,一つ一つは少額であっても,多数のクレジットカード会社を利用すれば,返済不能状態に陥ることはありうるのであって,少額だからといって基礎特定信用情報の登録義務を課さないとすることには,過剰与信防止の観点から問題がある。また,多種多様なキャッシュレス決済手段が普及していくことが予想される中,少額の決済手段は,これまでクレジットカードを利用してこなかった層にとっても,比較的抵抗感なく利用できるものと受け取られる可能性が高い。特に,民法の成年年齢の引下げに伴い,クレジットカードを初めて手にするような若年者層にとっては,少額のものは心理的に利用しやすいものとして捉えられる可能性が高く,適正な与信審査がなされなければ,再び多数の多重債務者を生み出すことになりかねない。
 よって,①クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行う場合に,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることを認めて,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)を義務としないことには反対であり,仮にクレジットカード会社独自の審査を認めるのであれば,少なくとも,事前の措置として,当該与信審査方法の合理性を審査する手続を設けることと,事後的措置として,貸倒率又は延滞率等の客観的検証手続を設けることの両方の措置を講ずるべきである。また,②少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合であっても,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務は維持すべきである。

2019年(令和元年)11月14日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

再審制度の制度趣旨を没却する最高裁判所の大崎事件第三次再審請求棄却決定に対し抗議する会長声明

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最高裁判所第一小法廷は,2019年(令和元年)6月25日,いわゆる大崎事件第三次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)の特別抗告審において,検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取消し,再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。
大崎事件は,1979年(昭和54年)10月,原口アヤ子氏が,その元夫(10人兄弟の長男),義弟(二男)との計3名で共謀して被害者(四男)を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。原口アヤ子氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張し続けたが,確定審では,「共犯者」とされた元夫,義弟,義弟の息子の3名の「自白」,「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しないとする法医学鑑定及び義弟の妻の目撃供述等を主な証拠として,原口アヤ子氏に対し,懲役10年の有罪判決が下された。
原口アヤ子氏は,受刑後,第一次再審請求において,2002年(平成14年)3月26日,再審開始決定を得たが,検察官の即時抗告により同決定が取り消され,その後再審請求棄却決定が確定した。そして第二次再審請求においても,再審の扉は閉ざされていた。
今般の第三次再審請求審においては,弁護側は,被害者の死因について事件前に発生した「転落事故による出血性ショックの可能性が高い」という法医学鑑定書を新証拠として提出した。また,義弟の妻の目撃供述についても,供述心理学の専門家による鑑定によって信用性に疑問が呈された。 そして,鹿児島地方裁判所は,2017(平成29)年6月28日,「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論づけて,本件について2度目となる再審開始決定をした。これに対して検察官抗告がなされたが,2018年(平成30年)3月12日,福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始の結論を維持し,検察官の即時抗告を棄却して,再審開始を認めた。
ところが,本決定は,検察官の特別抗告には刑訴法433条の理由がないとしたにもかかわらず,特別抗告を棄却せずに,原々決定及び原決定に同法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,「取り消さなければ著しく正義に反する」と述べてこれらを取消し,同法434条,426条2項によって自判し,再審請求を棄却するという過去に前例のない,異例の決定を行った。
そもそも,再審制度は,えん罪の被害者を救済するための制度であり,この点を踏まえて,最高裁も,1975年(昭和50年)5月20日最高裁第1小法廷決定(いわゆる白鳥決定)及びそれに続く1976年(昭和51年)10月12日最高裁第1小法廷決定(いわゆる財田川決定)において,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の大原則が再審請求審においても適用されることを明らかにし,以後,この原則を踏襲してきた。とりわけ,大崎事件においては,第一次から第三次の再審請求を通じて3回の再審開始決定が出され,地裁及び高裁において,少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑問を呈したのであるから,原口アヤ子氏を有罪とした確定判決に合理的な疑いが生じている可能性が高まっていた。
しかし,本決定は,事実調べを行なった原々決定及び確定審の事実認定を詳細に分析した原決定に対し,書面審理のみで結論を覆し,再審の扉を再び閉ざしてしまった。しかも,検察官が特別抗告の理由として制度上主張できない事由について,刑訴法411条1号を準用して職権で判断して再審決定を取り消したものであり,このような最高裁の判断は,再審制度の制度趣旨を没却するものであり,これこそが「著しく正義に反する」ものといわざるを得ない。
また,白鳥決定では,刑訴法435条6号の新証拠の明白性の判断手法について,新証拠と他の全証拠を「総合的に評価して…確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りる」とされ,財田川決定においても,「確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく,確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし,かつ,これをもつて足りると解すべき」とされてきた。
しかし,本決定においては,新証拠として提出された法医学鑑定に対し,「科学的推論に基づく一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべきである」と一定の評価を与えつつも,新たな法医学鑑定それ自体に確実な裏付け,確実な根拠,遺体から現れたすべての事象に対する合理的説明を要求し,それらを満たさないことを理由に証明力を低く評価し「決定的な証明力は有しない」と断じた。その一方で,共犯者とされた親族らの「自白」及び目撃供述については,その知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを認めながらも,その信用性は「相応に強固だ」と評価し,新証拠によって「合理的な疑い」は生じないとした。このような判断は,明白性の判断基準のハードルを著しく引き上げるものであり,再審制度の制度趣旨に反するのみならず,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法制度全体の基本理念をも揺るがしかねない危険な判断である。
当会は,このような再審制度の制度趣旨を没却し,刑事司法制度の基本理念をも揺るがしかねない本決定に強く抗議するとともに,当会としても,このような不当な判断が二度と繰り返されないためにも,再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする,えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現に尽力する決意を表明する。
                

2019年(令和元年)8月8日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

死刑執行に抗議する会長声明

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去る8月2日,福岡拘置所において1名,東京拘置所において1名,合計2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計90人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。
当会は,最近では,昨年12月27日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。
たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。
世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言している。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
国連総会は過去7度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。
当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2019年(令和元年)8月6日
                福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司

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