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カテゴリー: 意見

校則に関する調査報告書

カテゴリー:意見

2021(令和3)年2月17日

福岡県弁護士会

第1 調査方法・対象について
当会は、2020(令和2)年7月30日、福岡市(実施機関は福岡市教育委員会)に対し、福岡市内の各中学校における、校則、生徒心得、生活心得、生活のきまり等の名目の如何を問わず学校内外における生徒の言動、生徒が身につけるもの、生徒の外見、持ち物に関する決まり事を定めたものや当該定められた決まり事が分かる文書一切の公開を求める公文書公開請求を行った。その結果、福岡市は、同年8月30日付けで福岡市内の市立中学校全69校が作成した文書を開示した。
また、同年11月25日、福岡市(実施機関は福岡市教育委員会)に対し、福岡市内の各特別支援学校中等部(他の学部と共通で定められているものを含む。)における、校則、生徒心得、生活心得、生活のきまり等の名目の如何を問わず学校内外における生徒の言動、生徒が身につけるもの、生徒の外見、持ち物に関する決まり事を定めたものや当該定められた決まり事が分かる文書一切の公開を求める公文書公開請求を行った。その結果、福岡市は、同年12月10日付けで2校(福岡中央特別支援学校と若久特別支援学校)が作成した文書を開示した。
さらに、当会は、福岡市内の生徒、保護者、教職員から直接聴き取り調査(当事者ヒアリング)を行った。当事者ヒアリングでは、①学校内での校則の運用状況、②校則等に規定がないにもかかわらず行動を制限されることの有無、③校則についての考え、④校則がなくなると学校はどうなると思うかの概ね4点を中心に聞き取りを行った。
当会は、上記情報公開請求によって開示された文書及び当事者ヒアリングにより聞き取った内容について、調査検討した。
なお、情報公開請求によって開示された文書は、中学校ごとに様々であり、標準服について規制する文書のみ開示した中学校も含まれていた。そのため、本調査は、あくまで情報公開請求によって開示された文書のみを調査検討するものであり、福岡市内の市立中学校の校則を網羅的に調査検討したものでない。
第2 校則調査の結果
1 標準服
(1) 男女区別規制
福岡市で導入された新標準服はジェンダーレスを目指したものであるが、校則上、標準服に男女区別が設けられている学校は24校、明確な男女分けではないものの、男子生徒のように見えるイラストにはスラックス・女子生徒のように見えるイラストにはスカート(キュロット)を描くなどして事実上男女分けをしている学校は26校と、69校中50校(72%)の学校で男女分けをしている校則を設けていた。また、新標準服に対応しない校則のみを継続していると見受けられる学校が3校あり、これらの中学校ではすべて男女分けがなされていた。
(2) シャツの規制
標準服のブレザー下に着用するシャツについて、学校指定カッターシャツ又はポロシャツと定める校則がある学校は69校中17校、それ以外の52校中、学校指定シャツはないもののシャツの色(白・水色・青色・ピンク等)を指定する学校は69校中49校(全体の71%)、デザイン(ボタンダウンは不可、丸襟など)を指定する学校は23校であった。
また、シャツについてこれらの校則の定めに違反した場合の対応として3校では「きちんと直せる範囲については、その場で指導して直させる。直せないものについては、その場で脱がせる。(違反の格好のままでは、教室にあげない)」「脱がせた後に保護者連絡」「再登校」といった規定が設けられていた。
(3) スカートの長さ規制
「ひざの皿が見えない」「背筋を伸ばして膝立ちをしてすそが床につく長さ 長すぎないようにすること。目安5cm」「ひざ立ちし両腕を肩の位置まであげた状態ですそが床に十分につく(うつむかず背筋を伸ばす)。立った状態でひざが見えない」といったスカート丈を定める校則を設けている学校は69校中59校(85%)であった。
(4) スラックスの規制
スラックスについても、「すそが地面につかない程度」といった長さ規制があるものが69校中20校、「幅は、ももを両手でつかんだとき、やや余裕があるくらい」といった幅の規制について設ける学校は69校中3校あった。
(5) その他標準服に関する規制
上記の(1)~(4)に含まれないものとして、「昼休みに外で遊ぶときなど、上着を脱いで活動することはよいが、違反の防寒着で行っていた場合は指導」「タートルネックやフード付きのように、極端に首回りから出たり、袖から出たりしないようにさせる」「ブレザーを脱いで、ベストを着た状態で活動することは、禁止」「袖のボタンはきちんと留めさせる。(制服袖まくりは不可)」といった校則を設けている学校、「上着の折り曲げや、腰パン等については直させる」「袖を折る場合は、2回以上ひじが見えるまで折る」と定める学校など、標準服の着用の仕方について指定を設けている学校があった。
2 ベルト
スラックスに着用するベルトについても、その色について69校中62校(90%)が「黒のみ」「黒・茶・こげ茶のみ」といった規制を設けていた。また69校中48校(70%)は「柄入り、メッシュ型、華美なものは不可」「無地」「縫い糸が白等は可」「編み込みのものは不可」「皮または合皮」「布製」といったベルトの形・素材に関する規制を設け、24校は「極端に穴の数が多いもの、2色以上は不可」「1つ穴」「ベルトの穴はシングル」「二重穴あきは禁止」「ベルト穴に金属がついたものは不可」といったベルト穴に関する規制を設け、18校では「極端に細かったり太かったりするものは不可」「幅3cm以上」といった太さの規制を設けていた。
3 標準服を着る時期(衣替えの時期指定)
また、標準服のいわゆる冬服・夏服・中間服といった着用の時期を具体的に校則で定めていたり、あるいは校則で別途学校から着用時期を指定するなどの記載をしていたりして、生徒に着用時期を規制する校則がある学校は69校中12校であった。
4 頭髪
(1) 男女区別規制
頭髪に関し、男女という性別で区別した規制を設けていた中学校は、69校中58校(約84%)であった。
(2) 髪の長さ
髪の長さに関する規制を設けていた中学校は、69校中62校(約90%)であった。
具体的な規制内容としては、前髪は眉や目にかからない(69校中59校(約86%))、横髪は耳にかからない(69校中59校(約86%))、後ろ髪は襟や肩につかない、肩にかかる場合は耳より下でゴムで結ぶ(69校中61校(約88%))というものであった。
(3) 髪型
髪型に関する規制を設けていた中学校は、69校中60校(約87%)であった。
具体的な規制内容としては、ツーブロックの禁止(69校中45校(約65%))、ソフトモヒカンの禁止(69校中27校(約39%))、剃り込み禁止(69校中16校(約23%))というものであった。
(4) 髪の結び方・髪留め(ゴムやヘアピン等)
髪の結び方・髪留め(ゴムやヘアピン等)に関する規制を設けていた中学校は69校中61校(約88%)であった。
髪の結び方についての具体的な規制内容としては、耳より下で結ぶ(69校中51校(約74%))、2つもしくは1つで結ぶ(69校中18校(約26%))、お団子・ポニーテール・編み込み禁止(69校中7校(約10%))というものであった。
また、髪留め(ゴムやヘアピン等)についての具体的な規制内容としては、ゴムの色を黒や紺や茶に指定(69校中58校(約84%))、ヘアピンの色を黒や紺や茶に指定(69校中44校(約64%))、カッチン留め、バレッタ、カチューシャ、リボン、シュシュや飾りがついたものや髪飾りは禁止(69校中14校(約20%))、ヘアピンやゴムなどを不必要にたくさん使わない(69校中10校(約14%))というものであった。
(5) 髪の加工(脱色、染色、パーマ、整髪料)
脱色を禁止していた中学校は、69校中49校(約71%)であった。
染色を禁止していた中学校は、69校中54校(約78%)であった。
パーマ(ストレートパーマ、縮毛矯正を含む。)を禁止していた中学校は、69校中55校(約80%)であった。
整髪料の使用を禁止していた中学校は、69校中52校(約75%)であった。
5 眉毛
眉毛に手を加えることを禁止する旨の規制が確認できた学校は69校中56校(81%)であり、そのうち2校が眉の間を含み、3校が額を含んで一切手を加えることを禁止していた。
 6 下着
下着(肌着、アンダーシャツ等シャツの下に着るものを含む)に関する規制を確認できた中学校は69校中57校(約83%)であった。具体的には、下着の色に関する規制を設けていた中学校が57校(約83%)あり、下着の柄(無地・ワンポイント)に関する規制を設けていた中学校が54校(約78%)あった。
これらの規制について違反した場合の指導内容を規定している中学校が3校あった。その内容は、「脱がせるよう指示する。」「脱がせた後に保護者に連絡する。」などというものであった。
7 靴下、靴、靴紐
靴の色に関する規制が確認できた学校は69校中63校(91%)であった(複数の色から選択が可能な学校は3校)。また、靴の色に関する規制を設けている学校の多くは、靴を紐靴に限定しており、紐の色まで指定していた学校が69校中54校(78%)確認できた(複数の色から選択が可能な学校は2校)。
靴下についても、色に関する規制が確認できた学校が69校中56校(81%)、長さに関する規制が確認できた学校は51校(73%)、ワンポイントすら許容しないと明示している学校が12校存在した。
8 防寒着
(1) コート類に関する規制
ア コート等の種類・色に関する規制
コート類(コート、ジャンパー、ウィンドブレーカー、ブルゾンな ども含む。以下「コート等」という。)に関する規制を確認できた中学校は69校中48校(約70%)であった。このうち、コート等の種類に関する規制を確認できた中学校は46校あり、Pコート、スクールコートに限定する中学校が多数見受けられた。また、コート等の色に関する規制を確認できた中学校は44校であった。このうち、特定の色を指定する中学校が43校、華美でないものとする中学校が2校あった。
  イ その他コート類に関する規制
コートの柄(無地、ワンポイント等)を規制する中学校が9校、フードを禁止する中学校が11校、コート等の長さを規制する中学校が2校、ボタンの色を指定する中学校が3校、ベルトや肩章などコート等の装飾に関する規制が確認できた中学校が5校あった。
(2) セーター、トレーナー、カーディガンに関する規制
セーター、トレーナーに関する規制を確認できた中学校は69校中57校(約83%)あった。具体的には、Vネックのみ、パーカー・ハイネック・タートルネック禁止などその種類に関する規制が確認できた中学校が26校、色に関する規制が確認できた中学校が56校(約81%)、柄(無地、ワンポイント等)に関する規制が確認できた中学校が42校あった。
カーディガンに関する規制を確認できた中学校は69校中45校あった。このうち、色に関する規制が確認できた中学校が43校、柄やデザイン(網目の模様、編み方、ボタンの色等)に関する規制が確認できた中学校が27校、学校指定やこれに準じるものとしてカーディガンの種類を限定する中学校が6校あった。このなかには、「学校に展示された見本のカーディガンと同色、同デザインのカーディガン」や「細糸のメリアス編みのカーディガン」など細かく規制している中学校もあった。
また、カーディガンに名札をつける旨を明記する中学校が25校あり、左胸等への縫付けを明記する中学校が16校あった。
さらに、カーディガンの着用について、女子生徒、あるいはセーラー服着用時の女子生徒のみ認める中学校は13校あった。
(3) マフラー、ネックウォーマー、手袋等の防寒具に関する規制
マフラー、ネックウォーマーに関する規制を確認できた中学校は69校中48校(約70%)あった。具体的には、「華美でないもの」「派手でないもの」と規定する中学校が22校あり、マフラーの長さに関して規定する中学校は6校あった。このうち、「長さは150センチメートル」と具体的な長さを指定する中学校も見受けられた。
手袋に関する規制を確認できた中学校は69校中47校であった。「華美でないもの」「派手でないもの」と規定する中学校が20校あり、飾りがついたものを禁止する中学校が2校あった。
(4) 防寒着・防寒具の校舎内での着脱に関する規制
校舎内でコート等の着用を禁止する中学校は35校あった。このうち 昇降口で着脱させることを明記する中学校は6校あった。マフラー、ネックウォーマー、手袋について、校舎内での着用を禁止するものが43校(約70%)、学校の昇降口で着脱させる旨を明記する中学校が8校あった。
9 持ち物
(1) 鞄に関する規制
鞄の種別について規制を定めている学校は、69校中15校あり、その全てが学校指定のスクールバッグしか使用してはいけないとの内容を定めていた。鞄に付ける装飾品に関する校則を定めている学校は、69校中23校あった。
具体的には、装飾品については、大きさの指定があるもの(例えば生徒手帳に隠れる大きさとするもの)が13校、個数の指定があるもの(例えばキーホルダーは1個までとするもの)が15校であった。
(2) 携帯電話に関する規制
携帯電話を持ち込み禁止とする学校は、69校中7校であった。
(3) その他持ち物に関する規制
ア 制汗剤、汗拭きシート、日焼け止め等
制汗剤や汗拭きシート、日焼け止め、リップクリーム、ハンドクリームに関する校則を設けている学校は、69校中12校であった。そのうち、制汗剤、汗拭きシートについては10校が規制を設けているが、許可制は1校、無臭なら可とするものが2校であった。また、日焼け止めについて校則を設ける学校は6校であり、そのうちスプレータイプはNGとするものが2校、「家で塗っていく、塗り直しは更衣室で行う」等の場所の規制があるものが2校であった。さらに、リップクリームとハンドクリームについて規制を設けているのは6校であり、その全てにおいて無色無臭のもののみ可となっている。
イ 使い捨てカイロ、金銭、飲食物
使い捨てカイロに関する校則を定める学校は69校中3校であった。その内容は、使い捨てカイロは使用して良いが見えるように使用しない、使い捨てカイロは許可するが使用後は必ず家に持ち帰って処分するというものである。金銭の所持を禁止とする学校は69校中5校あり、そのうち教師に預けるものとするのは2校であった。飲食物に関する校則を定める学校は69校中8校あった。そのうち飲料の種類を指定するもの(お茶か水なら可)は6校であり、ペットボトル飲料の持ち込みを不可とするのは1校であった。
10 学校外行動
遊戯施設(ゲームセンターやカラオケボックス、映画等)への立ち入り制限に関する校則を定める学校は69校中7校あり、そのうち保護者の許可又は同伴を必要とするものは5校あった。また、アルバイトを禁止する学校は69校中2校あった。さらに、通学に関する校則を定める学校は10校あり、登下校中の買い食いを禁止する学校が7校あった。通学については、自転車通学を禁止するものが9校、通学路の制限をするもの(例えば登下校は学校で決められている通学路を通るとするもの)が2校であった。加えて、生徒の外出や外泊に関する定めをおく学校は5校であった。そのうち外泊を禁止とするものが4校、外出の制限をおくもの(例えば、外出するときは、行先、用件、帰宅予定時刻を保護者に伝え、日没前に帰宅することとするもの)が4校であった。
第3 特別支援学校における校則調査の結果
1 開示された校則の概要
開示された文書の一つは、タイトルが「5.生活について」とされている6項目のものである。その体裁を見る限り、入学時などに保護者に配布される資料の一部ではないかと思われる。少なくとも、生徒向けに作成・配布されたルールではない。また、性別により異なる定めも見当たらない。
もう一つの文書は「学校生活のきまり」とのタイトルが付けられ、「学校での一日の生活のしかた」、「見だしなみについて」、「その他」の3項目で構成されている。すべての漢字にふりがなが振られており、生徒に示すことが想定されていることが分かる。
いずれも学校生活を送るうえで必然的に生じる決まりごとが定められていた。
 2 標準服
特別支援学校の校則においても、標準服についての規定があり、「原則は福岡市の標準服または、それに近いもの」といった定めがあった。また、1校については、これに加え、「ボタンをきちんと留め、シャツの裾を出したりしない。ズボンやスカートは腰の高さの位置ではく。」との定めが置かれている。
もっとも、「実態に応じて準備してください。」と併記されており、実際、福岡市立の特別支援学校では、中等部の生徒が標準服で通学していることはほとんどないようである。
3 頭髪・眉
開示された校則の一つには、頭髪や眉について、「パーマや髪染めはしない。」、「整髪料等は使用しない。」、「眉を剃ったり、細くしたりするなどの加工をしない。」といった定めがあり、比較的詳細な定めが置かれている。
第4 当事者ヒアリングの結果
当会では、福岡市内の中学生、保護者、教職員の合計十数名から聞き取り調査を実施した。以下、当事者ヒアリングの結果について詳述する。
1 校則で制限する理由についての説明
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・髪型やゴムの色を決める理由について先生から「統一感を出すため」と言われた。
・後髪を縛る時は耳よりも下の位置でなければならないが、その理由を尋ねると先生から「男子がうなじを見て欲情するから」と言われた。
・髪を結ぶ位置が耳よりも下なのはなぜかと尋ねると、先生から「政府がそう言っている」と言われた。
・ツーブロックがいけないのも「政府がそう言っている」と言われた。
・先生は「同じ服装をするからこそ出る個性」と言うが、それは間違っていると思う。髪型など自由にした方が個性が出ると思う。
2 書かれていない校則による制約
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・生徒手帳に載っていない校則が多い。
・校則では前髪は眉毛を超えないとあるのに、眉上でなければならないと指導された。
・校則では髪を結ぶゴムが黒・紺・茶と指定されているが、茶色のゴムをしていても「明るすぎ」と指導され買い直さなければならなかった。
・校則では靴下の色は「白」としか規定されていないのに、実際には織り目が縦に入っている靴下でなければ校則違反として指導される。
・事前の連絡なく靴下のワンポイントが禁止され、校則違反の指導を受けた。それまで使っていた靴下がダメになった。
(聞き取った中学生が目撃した事実)
・友人が、おでこの産毛を剃ったところ、生徒手帳にはおでこの産毛を剃ってはいけないという規則はないのに、教師から職員室前で1時間半、立ったまま指導された。泣いていても指導は終わらなかった。
3 制限の目的が不明な校則
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・無言清掃
・無言給食
・職員室前無言通行
・他の階には行ってはならない。
・他の教室に行ってはならない。
・多目的トイレは使ってはならない。
・暑くても袖をまくってはいけない。
4 校則に関する指導の状況
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・スカート丈の検査は全員体育館に集められ、両手を前に水平に出して、膝立ちをさせられる。体育館には男子もいる。
・体操服に着替えているときに教師が入ってきて(下着について)指導をされたことがある。
・ある教科では「校則ひとつで高校落ちるぞ」と毎回20分ほど同じ話をされる。授業をして欲しい。
・何かと「連帯責任」を取らされる。
・「連帯責任」って教師によるイジメだと思う。
・男子女子が一緒に区切りもなく体育館で一斉に生活点検をされる。その際、女の先生から下着の色をチェックされるが、男子もいるから恥ずかしい。
・生徒のことを呼び捨てにする先生が多い。下の名前を呼び捨てにする先生もいる。
・体育の後、靴下が下がっていると先生から「わざとやろう」と文句を言われる。
・靴下違反と指摘されると靴下を脱いで裸足で上靴を履かなければならない。
・名札を忘れると、名前を書いたガムテープを胸に貼られる。
・眉毛を整えたら、生えるまで毎朝職員室でチェックを受けなければならない。
・校則違反と指導を受けたら、掃除や草抜きをさせられる。
・横髪が少しでも耳にかかっていると「部活やめろ」と言われる。
・先生に気に入られている生徒はあまり指導されない。
・先生の機嫌に左右される。
・学年全員が集められて服装指導を受けるが、その間全員黙想しなければならない。
をする。
・「今自分がしている格好でいつでも高校入試に行けるようにしろ」と言われる。
【聞き取った中学生が目撃した事実】
・コロナで学校に行けず5月下旬にやっと入学できたのに、入学してすぐに、中1の女子生徒が男の先生から下着の色を指摘され、それ以来学校に行くことができなくなった。
・寝癖がついたまま登校した生徒を先生は他の生徒がいる前で大爆笑して笑い者にし、校則違反と指導した。髪の長さや色は違反していなかった。整髪料や縮毛矯正も許されていないので癖毛の生徒は大変だと思う。
・もともと髪の色が明るい生徒に対し、毎回「気をつけなさい」と指導していた。
・地毛なのに2か月以上毎日職員室に髪の色を見せにいかされた。保護者が抗議しても「親ぐるみのことがあるから」と言って続けさせられた。
・靴下が短いからと没収され、別の靴下を渡された。自分の靴下は返してもらえなかった。
【保護者から聞き取った事実】
・不登校の生徒がせっかく登校しても服装違反ということで学校に入れてもらえなかった。
・校則通り15cmと表示がある靴下を買って履いていったのに、教師から右足は合格、左足は不合格と言われ買い換えるよう指導された。たまたま左足がずり落ちていただけなのに、教師からはずり下がっても15cmになるものを買えと言われた。
・母親から教師に「靴下15cmルールやめませんか」と言うと教師から「なぜ守ろうとしないんですか」と言い返された。
・忘れ物をしても友人に借りたり、教科書を見せてもらったりしてはならず、教師から犯罪者のように扱われる。
・地毛証明書を提出させられる。
・廊下に一列に並ばされ、シャツの胸をはだけ、先生が生徒一人一人の下着をチェックする。
・靴下の長さで呼び出されて昼休みが終わるまで叱られ、帰りの会でも立たされ、他の生徒の前で説教をされた。
【教職員から聞き取った事実】
・先生が自作した靴下の長さを測る器具を使って生徒の間を歩いて検査している。
・眉毛に手を入れている生徒は、生えるまで毎日職員室で検査する。
5 校則についての生徒の意見表明の状況
【聞き取った中学生が体験した事実】
・生徒会で校則について議論をしていたところ、先生から校則の議論はしてはならないと止められた。
・校則がおかしいと声に上げることはない。言っても無理だから諦めている。
・先生から生徒総会は校則について話し合う場じゃないと釘を刺された。
・生徒総会で校則に関する質問が出たらそれを止めるように先生から言われた。
・生徒会は校則について触れてはいけないと先生に言われた。
・廊下で男子はツーブロック禁止でかわいそうねと話をしていると、それを聞いていた先生が「ツーブロックで高校受験に行ってみろ。後輩たちのために自分の人生賭けてみるか」と怒鳴られた。
・校則ついて意見をすると「内申に響くぞ」と言われる。そのため口をつぐんでしまう。
・生徒が集団になって訴えても、大人が間に入ってくれないと先生に丸め込まれる。
・理不尽な指導に不満気でいると先生から「そんな態度なら内申やらんぜ」と言われる。
・生徒が正論を言っても先生は納得しない。それどころか逆に説教される。
【聞き取った中学生が目撃した事実】
・社会の教科書の人権のページを示して先生に抗議した生徒もいる。
・生徒会に立候補する生徒がスピーチ原稿に校則のことを書いていたところ、他の生徒がいる前で、先生はその生徒が泣くまで長時間説教をした。そのため校則に関するスピーチはできなかった。
【教職員から聞き通った事実】
・生徒たちが校則について話題にできる制度はない。生徒総会でも校則について話題にしようとしても、「校則は先生たちが決めるもの」と言って話題にさせないと思う。
6 校則がなかったらどうなるか
【中学生の声】
・校則がなければ、意見も出しやすく明るい学校になると思う。
・校則がなかったら良いのにといつも思っている。
・校則がなくなっても生徒たちがグレることはないだろう。むしろストレスがなくなりちょっと元気になると思う。
・校則がなくなったら、他の子がどんな子かもっとよく知る機会になると思う。
・校則がなくなったら、学校が楽しくなると思う。
・校則がなくなったら、先生に怒られることもかなり減ると思う。
【保護者の声】
・先生は「服装の乱れは心の乱れ。心の乱れはヤンキーの第一歩」と言うが、校則がなくてもヤンキーにはならないと思う。
【教職員の声】
・校則がなくなったら、最初は少し派手になる生徒が出てくるかもしれないが、そのうち落ち着いてめちゃくちゃにはならないと思う。
・校則がなくなったら、教師と生徒の人間関係も良くなるのではないか。
7 その他
【中学生の声】
・小学校までは細かく言われることがなかったのに、中学校に入学した途端、細かな校則で規制される。本当にそんなことをする必要があるのか疑問に思う。
・一人一人個性があるのに統一する必要はないんじゃないか。
・生徒には厳しいくせに、先生は水色のピアスにピンクの口紅、髪も染めてウルフカットにしている。
・先生の言葉遣いが悪い。怒鳴り散らし、高圧的。
・部活を辞めさせてもらえない。退部届をもらわないといけないが、先生がくれない。
・学校で感じるストレスの7割が校則。
・校則のせいで学校に行くことがストレスになる。
・変な校則について、先生の方が間違っていると思うが、大人とケンカしなければいけないことにストレスを感じる。
・生徒会で校則について変えられるようにして欲しい。
・今ある校則で残した方が良いと思うものはない。

以上

(別紙)校則調査結果一覧(PDF)

検察庁法改正等による検察官の独立性の侵害等に反対する意見書

カテゴリー:意見

2020年(令和2年)5月14日

福岡県弁護士会
会長 多川 一成

【意見の趣旨】

1 2020年(令和2年)年3月13日に内閣から国会に提出された国家公務員法等改正案中の検察庁法を改正する提案のうち、全ての検察官について、内閣又は法務大臣の判断により、定年後も最長3年間、勤務を延長し得るとする内容、及び、新たに延長する65歳の定年を待たず、63歳以降、次長検事、検事長、検事正、上席検察官という一定の高位の官職にとどまれないとする原則に対する特例措置として、内閣又は法務大臣の判断によりそれらの官職にとどまることを可能とする内容は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を侵害するものであり、さらには司法権の独立及び三権分立を侵害する危険をも有するものであるので、当会はこれらの改正に反対する。

2 2020年(令和2年)2月7日に定年を迎えた黒川弘務元検察官について、定年後に東京高等検察庁検事長としての勤務を6か月延長する旨の同年1月31日の閣議による決定は、検察庁法に反し違法かつ無効であり、同年2月18日の閣議において決定された答弁書における、同人を検事総長に任命することも可能であるとの答弁は極めて不適切であるので、当会は内閣に対し、これらをいずれも撤回するとともに、検察庁法に基づいて東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

【意見の理由】

第1 はじめに

当会は、2020年(令和2年)3月27日(以下、2020年を指すときは単に月日のみ表示する。)、「検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明」(以下、「3.27会長声明」という。)を、また4月24日、「検察庁法の改正の一部に反対する会長声明」(以下、「4.24会長声明」という。)を発したところである。

上記閣議決定と検察庁法の改正とは各個独立の事象ではなく、定年後に勤務を延長する閣議決定を一度なしたうえ、法改正によってそのような措置を恒常的に可能としようとするものである。その経緯及び内容からは、法改正の意図が先行の勤務延長決定の違法性を取り繕う点にあることが窺われる。その点において両者は密接に関連していると思われるので、本意見書で改めて両者について論ずることとする。

第2 検察庁法改正案について
1 改正案の概要

内閣は、3月13日、国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した(以下、国家公務員法を「国公法」と略称する。)。

この法律案第4条は検察庁法の一部を改正する内容であり、同法案第4条は検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。

①検察官の定年を現行の63歳から65歳へ段階的に引き上げる。

②内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して」、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として」内閣等が定める事由があると認める場合には65歳の定年後も最長3年間、勤務を延長させることができる(以下、「定年後勤務延長制」という。)。

③63歳以降は、原則として次長検事、高検検事長、地検検事正、区検上席検察官という、一定の高位の官職にとどまれなくなる(以下、「役職定年制」という。)。

④役職定年制の特例措置として、前記②と同様の要件がある場合には、63歳以降も定年まで(さらに②によって最長66歳まで)これらの官職を継続できる。

しかしながら、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の導入は、以下に見るとおり、政治的思惑の下に恣意的に運用されるおそれが強い不当なものであると言わねばならない。

2 検察庁法の立法趣旨~独立性の確保が必要不可欠であること~

(1) 検察庁法の沿革
検察庁法は、1947年(昭和22年)5月3日、日本国憲法施行にあわせて、国会法、内閣法、裁判所法等とともに、新憲法の下で骨格をなす重要な国家機関を規律する法律の一つとして施行された。大日本帝国憲法下において旧裁判所構成法に規定されていた検事や検事局に関する事項を新法制定によって独立させるとともに、新憲法における司法権独立の強化に応じた内容としたのである(検察庁法を制定した1947年(昭和22年)帝国議会の貴族院検察庁法特別委員会における、同年3月28日の木村篤太郎司法大臣による同法の提案理由説明(国立国会図書館ホームページの帝国議会会議録検索システム。以下、帝国議会の議事の引用に関して同じ。))。

(2) 検察官の強大な権限と地位
検察官は、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担う。

このような強大な権限を有すること、及びその刑事司法作用に占める司法官に準ずる地位において、検察官は一般職の国家公務員ではあるが、他の一般職国家公務員とは決定的に異なっている。

また、検察官がこのような強大な権限を行使する際には、他の公的権力や社会的勢力からの独立性が確保されていなければ、公平公正な職務遂行をなし得ない。特に、憲法上の政治部門(立法権、行政権)からの独立性が確保されず、特定の政治勢力の意向に影響された権限行使がなされる結果、適正な捜査がなされなかったり、起訴不起訴の判断が左右されたりすれば、司法権の独立と、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険もある。

そこで、検察官が権限を行使するに際しては、独立性、とりわけ政治的独立性の確保が必要不可欠である。

3 検察庁法や国公法の立法及び改正の経緯

(1) 大日本帝国憲法下において、検事の定年は裁判所構成法80条の2が、検事総長65歳、その他の検事63歳という、現在と同じ定年年齢を定めていたが、併せて「但シ司法大臣ハ三年以内ノ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得」との定めがおかれ、司法大臣の判断により検察官の定年後勤務延長が可能とされていた。

しかし、日本国憲法施行にあわせて施行された検察庁法では、22条が、検察官の定年を、検事総長65歳、その他の検察官63歳と定める一方で、検察官の定年後勤務延長を認める規定は置かれなかった。裁判所構成法に置かれていた定年後勤務延長規定が検察庁法に置かれなかったということは、立法者の意思として、検察庁法にあえてこれを引き継がせなかったということを意味する。*1

(2) 1947年(昭和22年)、検察庁法に6か月後れて国公法が制定された。その際、「一般職の国家公務員の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の特例を要する場合には別に法律等によって規定できる」とする国公法附則13条が規定され、また、検察庁法22条を含む検察庁法の一部の条文は、「国公法附則13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、国公法の特例を定めたものである」とする検察庁法32条の2が検察庁法改正により追加された。これらにより、検察庁法22条は国公法の特例であることが、国公法と検察庁法の双方の条文上において、明確にされた。

検察庁法32条の2にいう検察官の職務と責任の特殊性について、同条を追加する改正がなされた際の参議院法務委員会における政府答弁(1949年(昭和24年)5月11日、参議院法務委員会における政府委員・高橋一郎法務庁検務局長の答弁。国立国会図書館ホームページの国会会議録検索システム。以下、国会議事の引用について同じ。下線部は引用者による。)では、「第32條の2は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。従って、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、従来檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、従ってその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よって、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。」と説明されている(この政府答弁を、以下、「49年検務局長答弁」という。)。

この点は、検察庁法の解釈に際し実務上最もよく参照されている『新版検察庁法逐条解説』180頁でも、同様に解説されている。*2

(3) 国公法には当初、定年制が定められておらず、当初から定年制を定めていた検察庁法と異なっていたが、1981年(昭和56年)の国公法改正により、定年制度が導入された。この改正案の国会審議における政府答弁(以下、「81年答弁」という。)では、改正国公法の定年後勤務延長規定を含む定年制は検察官に適用されないことが明言された。*3

(4) このような立法、及び法改正の経緯を通じ、検察庁法22条による検察官の定年規定は、検察官の職務と責任の特殊性による国公法の特例とされてきた。この職務と責任の特殊性とは、49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官が公訴提起の権限を独占し、職務執行の公正か否かが直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであることを指す。そのため、上記第2の2で論じたとおり、検察庁法の重要な立法趣旨としての、検察官の職権行使の独立性の確保が不可欠なのである。それゆえ、やはり49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官には一般行政官と異なり、特別職である裁判官に準ずる身分保障と待遇が与えられ、国家公務員法の施行に関わらず、他の一般職国家公務員とは異なる取扱いがなされてきたのである。

4 定年後勤務延長制と役職定年制の特例措置とを導入する立法事実を欠くこと

立法目的及びその達成手段の合理性を裏付ける社会的・経済的・文化的な事実を立法事実という。新規の立法にせよ、法改正にせよ、国会の立法にあっては当該立法をなすに足るだけの立法事実が必要である。

検察庁法改正案中の定年後勤務延長規定及び役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定の要件は、内閣又は法務大臣の判断により、定年退官すべき検察官の「職務の遂行上の特別の事情を勘案して、」当該検察官の「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由」(又は「法務大臣が定める準則」)がある、というものである。

しかし、これらの要件はいずれも、検察官の職務遂行原理としての検察官一体の原則に反するものである。

検察官一体の原則とは、検察官は、検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する統一的な組織に属する全ての検察官が一体となって職務を遂行し、職責を果たすという原則である。

この原則によって、特定の検察官によってしか担い得ない職務は観念できないとされる。従って、検察官にあっては、改正国公法81条の7第1号(現行国公法81条の3)や検察庁法改正案9条3項、同5項ただし書き、22条2項、同3項、同5項等が規定するような「職員の職務の遂行上の特別の事情」により、「当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」ような事態はそもそも観念されない。現に、従前、検察官の職務はこの原則に沿って遂行されてきている。一見すれば定年退官や転勤によって支障が生じかねない場合にあっても、引継ぎを十分に行うとか、そもそも定年時期や転勤時期を控えた検察官にはそれらの時期をまたぐような職務を担当させないとかの組織的工夫によって、支障が生じるのを回避してきたものと思われる。

今般の国公法改正案について、当初、この改正案に関する内閣法制局の審査を終え、法案を確定させた時点では、検察庁法を改正する部分に、定年後勤務延長制の導入(②)と役職定年制の特例措置規定(④)は含まれていなかった(2020年(令和2年)4月16日衆議院本会議における森法相の答弁等)。これは、検察庁や法務省が、法改正の必要はないと考えていたことを意味する。

このように、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の要件は、検察官一体の原則に反する事態を想定するものであって、そもそも、検察官の職務遂行原理にそぐわない。そのような制度を導入すべき立法事実はないということに帰する。

5 改正案による検察官の政治的独立の侵害の深刻な影響

(1) 全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)による影響
検察庁法改正により導入が図られている全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)は、勤務延長の要件がそもそも検察官の職務遂行原理に反し、かつ抽象的であるうえ、その定立及び充足性の判断を、内閣からの一定の独立性を有する人事院ですらなく内閣又は法務大臣に委ねていることから、制度に内在する欠陥として、その実際の運用が恣意的になされるおそれがある。例えば、内閣や法務大臣、その政治的存立母体としての政権与党やこれに連なる政治勢力の意向に沿う検察官のみについて定年後も勤務延長を認め、それ以外の検察官については認めないとする運用も可能だからである。そして、規定の適用が最長3年に及ぶという効果の大きさから、人事管理上の効果も大きなものがあると思われる。この点において、全検察官についての定年後勤務延長制には、制度上の重大な欠陥があると言わざるを得ない。

憲法の基本原理たる国民主権を実現する方途として、わが国は政党政治制によっており、内閣の成立や法務大臣の選任には政治的影響が及ぶことが予定されている。そうであるからこそ検察官の政治的独立性を確保する必要性があることは本意見書第2の2の(2)で論じたとおりであるが、定年後勤務延長の制度について想定され得る上記のような運用においては、そこに政治的影響が介在し、検察官の政治的独立性が侵害されるおそれがある。

検察官の強大な権限は、総理大臣をはじめとする政権与党の要職にある政治家をすら対象として行使され得るものであり、また、その必要があるのに行使されなければそれもまた司法権の公平な作用を担保し得ないという意味で重要なものである。

特に、なされるべき捜査・起訴がなされなければ、司法権を担う裁判所はこれを是正すべき方途を持たない。不当な不起訴を是正するための制度として検察審査会があるが、そもそも捜査段階において適正な捜査がなされていなければ、検察審査会においても必要な証拠収集ができず、検察審査会の審査に支障を来すこととなる。

定年後勤務延長制の制度的欠陥により、時の政治権力者やこれに連なる者の犯罪行為についてなすべき捜査・起訴がなされず、逆に、その政敵とされる者に対して捜査・起訴の権限が過大に行使される等、検察官の強大な権限が政治的に利用されるおそれがあるが、そうしたおそれが現実の事態となれば、刑事司法作用の公平が害されることとなる。それは行政権による重大な司法権の侵害である。そしてまた、国民主権の基礎が揺るがされることともなる。

あるいはまた、全国の検察官の取扱う事犯は多岐にわたる。社会的耳目を集めるような巨大犯罪から、多くの国民が知ることもないような軽微事犯にまで広範囲に及ぶ。後者についても、検察官の職務が公正に遂行され、刑事司法作用の公平が確保されなければならないことはもちろんである。しかし、定年後勤務延長の制度が恣意的に運用され、検察官の職務遂行に政治的影響が及べば、政治的影響の有無、強弱によって起訴不起訴の判断が左右されるといった公平を欠く取扱いが広範に行われないとも限らない。政治家を対象とする巨大贈収賄事件等と異なり、社会的に目立つことはないが、こうした取扱いが全国に及ぶ危険すらあることを考えると、検察官の強大な権限行使がその根幹部分において政治的独立性を害され、公平を失していくことともなりかねない。こうした点において、全検察官についての定年後勤務延長制は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

かつまた、検察官の権限行使の公平について国民が疑念を抱くこととなれば、実際には公平に権限が行使されている場合も含めて、検察官の職務遂行に対する国民の信頼を保つことも困難である。ことは検察のあり方そのものに関わる。

(2) 役職定年制の特例措置(④)による影響
また、法改正により、役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定(④)が導入されれば、やはり、その実際の運用は恣意的になされるおそれが大きい。次長検事、検事長、検事正、上席検察官は、63歳で役職を解かれるか、役職を継続できるかの判断権を内閣又は法務大臣に握られ、これを継続するためには内閣等の意向を窺うこととならざるを得ない。そこには、時の政治権力者やそれに連なる者の影響が及ぶ危険が存在すると言わねばならない。

検事長、検事正、上席検察官は当該検察庁の他の検察官及び管轄区域内の検察庁の検察官を指揮監督する。また次長検事はすべての検察官を指揮監督する検事総長を補佐し、検事総長に事故のあるときや検事総長が欠けたときは検事総長の職務を行う者としてすべての検察官を指揮監督する。

従って、検事長、検事正、次長検事の職務遂行に政治的影響が及べば、それを通じ、当該検察官の指揮監督下にある検察官の職務遂行にも政治的影響が及ぶことがあり得る。この場合、政治的影響を受けた捜査、起訴不起訴の判断がより組織的になされることとなる危険がある。こうした点において、役職定年制の特例措置は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

6 結論

以上のとおり、国公法等改正案中、検察庁法を改正する内容のうち、全検察官について内閣等の判断による定年後勤務延長制を導入するとする部分(②)、及び、役職定年制の特例措置として内閣等の判断により一部の検察官についてのみ役職定年を解除し、役職を継続し得るとする部分(④)は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を害し、行政権による司法権の侵害、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険を有するものであるので、当会は、これらの改正内容について、断固として反対する。

第3 黒川弘務元検察官の定年後の勤務を延長した閣議決定及び同元検察官の検事総長就任を可能とした閣議決定について
1 2つの閣議決定等をめぐる事実経過

1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(当時。以下、「黒川氏」という。)について、一般職の国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国公法81条の3を適用し(以下、黒川氏についての定年後勤務延長を「本件勤務延長」という。)、6か月間の定年後勤務延長をする旨を閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」という。)。

これに対し、81年答弁で示された、検察官の定年には検察庁法22条が適用され、国公法の定年制の規定は適用されない、との政府解釈に反し違法である、等の批判が向けられた。

この国会審議の過程では、森雅子法務大臣(以下、「森法相」という。)が81年答弁の存在を知らなかったことも明らかになった。

他方、81年答弁で示された政府解釈について、人事院給与局長は「現在まで同じ解釈を引き継いでいる。」と答弁した(2月12日の衆議院予算委員会)。

このような事態を受けて、安倍晋三内閣総理大臣(以下、「安倍首相」という。)は、上記人事院給与局長の答弁の翌日である2月13日の衆議院本会議において、上記のような従来の政府解釈の存在を認めたうえで、これを変更し、検察官にも同法同条が適用され、定年延長が可能であると解釈することとした旨の、それまでには行っていなかった説明を行った。

これに対応して、上記人事院給与局長は、同月20日の衆議院予算委員会において、「81年答弁で示された政府解釈を引き継いでいる。」旨の上記答弁を撤回したが、この撤回は、「つい、言い間違えた。」という、わが国の政府委員たる幹部職国家公務員としてはおよそ考え難い答弁によってなされた。

さらに、安倍首相の上記衆議院本会議答弁後には、1.31閣議決定以前になされたという、本件解釈変更をめぐる法務省と人事院の間の協議等についても説明がなされた。ところが、それは、協議結果を記載したとされる文書に日付が記載されていなかったり、必要な文書決裁を経ておらず、決済が口頭でなされたと説明されたりするなど、わが国の官公署における事務処理としてはおよそ信じ難い手法をも含む説明であった。

こうした不可解な経過によって本件勤務延長がなされたことに対して国民各層からの批判が噴出し、また、その目的が黒川氏を次期検事総長に任命することにあるのではないかという強い疑念が向けられた。

そのような中、内閣は、2月18日、黒川氏の検事総長就任も可能であるとする答弁事項を含む答弁書を閣議決定した(以下、この答弁書の一部である当該答弁事項を「2.18答弁」という。)。

本意見書第2で論じた検察庁法の改正案は、こうした経過の中、3月13日に国会提出されたものであり、当初の国公法改正案の検察庁法改正部分には定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)が含まれていなかったのに後から付加されたこととも併せ考えると、本件定年後勤務延長と関連して先に確定していた国公法改正案に加えられたものと考えられる。そのことは、今般の検察庁法改正案が、本件定年後勤務延長の違法性を取り繕う目的で提案されたものであることを窺わせる。

2 検察官に定年後勤務延長規定は適用できないこと

しかし、3.27会長声明で論じたとおり、検察庁法、国公法の条文の文理解釈、及び、検察庁法の立法趣旨(本意見書第1の2でさらに詳述したもの。)に基づく解釈によれば、検察官に定年後勤務延長規定は適用できない。

1.31閣議決定は、解釈の限界を超えて違法であるばかりか、権力者による恣意的専断的な統治を許さないために、予め定めたルール(法律)による統治をなすべきとする、法律による行政(法治主義)にすら反するものであって、違法かつ無効である。

従って、現在、適法な任命手続きを経た東京高検検事長は存在しない。故に、内閣が適法な東京高検検事長を任命する必要がある。

3 2.18答弁の不適切性

2.18答弁は、黒川氏の検事総長就任を可能としている。この点は、本件勤務延長が黒川氏を検事総長に任命する目的でなされたのではないかという国民の疑念を強め、検察に対する国民の信頼をさらに低下させるものというほかなく、極めて不適切である。

また、国公法81条の3の規定を黒川氏に適用したとする内閣の論理によるとしても、同条が認める定年後勤務延長は、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情」によるものであり(同条、下線は引用者による。)、特殊性なり特別の事情なりの判断対象はあくまで東京高検検事長の職務である。検事総長の職務ではない。黒川氏は、特例的に延長された東京高検検事長の勤務を終えれば、検察官としての定年を過ぎている以上、その定年規定に沿って速やかに退官すべき地位にある。検事総長は、すべての検察庁の職員を指揮監督する検察トップとしての性格上、現職の検察官から任命するという実務慣行による限り、その候補に黒川氏を含めるとするのは、違法な定年延長を利用するものであって、断じて許されない。

4 結論

よって、当会は、内閣に対し、違法かつ無効な1.31閣議決定、及び、極めて不適切な2.18答弁を撤回し、改めて適法な決定により、東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

以上

*1 1947(昭和22)年3月28日の帝国議会貴族院検察庁法特別委員会における質疑では、検察庁法22条の定年規定が例外を設けない一律規定とされている点について、橋本實斐委員による、例外措置を設けないのかという質問に対して、木村篤太郎司法大臣が例外を設けず一律の定年として提案した旨を答弁している。

*2 「この条は、庁法制定当初は存在しなかったが、国家公務員法の施行に伴い、昭和二四年法律第一三八号による改正で追加されたものであり、検察官の級別、任命資格、欠格事由、定年、適格審査、剰員及び身分保障の規定は、検察官の職責の特殊性に基づき、国家公務員法の施行によって影響を受けず、同法の特例として効力を存続するものとすることを明らかにしたのである」(良書普及会、1986年(昭和61年)、出版当時、検事総長の任にあった伊藤栄樹著、初版は1963年(昭和38年)の同人著『逐条解説検察庁法』。)

*3 「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」(1981年(昭和56年)4月28日、衆議院内閣委員会における、検察官や大学教官に国公法の定年制の適用があるかという質問に対する、政府委員・斧誠之助人事院事務総局任用局長の答弁)。

罹災証明書の申請期限の延長についての意見書

カテゴリー:意見

平成30年3月27日

朝倉市
朝倉市市長 森田俊介 殿

福岡県弁護士会
会長 作間 功

1 意見の趣旨

罹災証明書(二次調査及び再調査を含む。)の申請について、申請期限を6か月程度延長することが相当である。

2 意見の理由

平成29年7月の九州北部豪雨災害では、豪雨に伴う河川の氾濫により大量の土砂や流木が住宅に流入する等の被害により、多くの住民が、未だに仮設住宅暮らしを余儀なくされています。被災地の復旧・復興は、着実に進んできているとはいえ、未だ途上の段階であります。

住家の被害認定は、災害により被災した住家の「被害の程度(全壊、半壊等)」を認定されるものであり、この認定結果に基づき、被災者の方々に「罹災証明書」が交付されます(災害対策基本法第90条の2)。この証明書の被害認定区分は、被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理など様々な被災者支援策を受ける際の重要な基準となります。

しかしながら、従来の災害に係る住家の被害認定基準運用指針(以下「旧運用指針」といいます。)は、昨年の九州北部豪雨水害のような大量の土砂や流木が流入するといった水害を、必ずしも想定せずに策定されていたと思われ、住家被害認定の手法として不適当であると指摘されてきました。そのため、九州北部豪雨災害では、被災者の被害実態にそぐわない被害認定がなされていたと思われる事例が数多く散見されており、被災者の生活再建及び被災地の復旧復興が十分に行われていないように思われます。

そうした中、内閣府において、昨年11月から本年3月までの間、九州北部豪雨水害等における経験や知見等を踏まえて旧運用指針を見直すべく、四回にわたって検討会が開催され、この検討結果を受けて、今月23日、旧運用指針が改定されました(改定後の運用指針を「本運用指針」といいます。)。

本運用指針が、九州北部豪雨災害における経験や知見をも踏まえて改定されたという経緯からすれば、平成29年7月九州北部豪雨の被災者の中には、本運用指針を基準とした場合、被害認定の程度が重く認定される被災者がおられることが十分に予測されます。しかしながら、貴市は、罹災証明(二次調査及び再調査を含む。)の申請期限を平成30年3月30日(金)までと区切っておられます。運用指針が改定された以上、貴市は、本運用指針を改定された趣旨を踏まえて、住家被害の認定を行う必要が新たに生じておられます。

そこで、当会は、罹災証明書(二次調査及び再調査を含む)の申請について、申請期限を、本年3月30日ではなく、さらに少なくとも6カ月程度延長することが相当であると考えます。

以上

福岡県多重債務者生活再生事業の継続を求める意見書

カテゴリー:意見

2017年(平成29年)11月27日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

第1 意見の趣旨

福岡県は,平成20年から実施している「福岡県多重債務者生活再生事業」(以下,「本事業」という。)を平成30年度以降も継続すべきである。

第2 意見の理由

1. 福岡県人づくり・県民生活部生活安全課は,本年9月29日に受託者であるグリーンコープ生活協同組合ふくおかに本事業を平成29年度までで終了すると口頭で通知し,同年10月10日付で各市町村長(多重債務相談窓口担当課)宛に事業終了すると通知文を送付したとのことである。

多重債務問題は,貸金業法の改正(総量規制等)により,一時期より沈静化したが,近時は,銀行等が貸金業法13条の2の適用がないことを利用して,貸金業者による保証を付した貸付を行うことにより,再び深刻化しつつある。このことを背景として,本年の本事業による相談窓口の受付件数は,前年(平成28年)の1,747件を大きく越える2,300件(9月までの実績×2)と予測される。

この2,300件という数字は,新しい取組として多くの報道がなされた本事業開始時である平成20年度の3,431件や,偽装質屋による多くの消費者被害が発生した平成24年の相談件数には及ばないものの,過去の平均数を上回るものであり,本事業による相談窓口が県民にとって身近な相談窓口として定着していることを示すものである。

加えて,弁護士・司法書士による債務整理等の相談件数は9月までで149件であり,年間の推計では300件となり,前年の273件を越える実績が予想される。この実態からしても,多重債務相談は減少しておらず,本事業の終了の根拠とはならない。

このように本事業による相談窓口は,多くの福岡県民が多重債務の問題解決に向けて相談を行う窓口になっているのであるから,それを閉ざすべきでない。

2. 本事業では,県内4つの相談室(福岡,北九州,直方,久留米)で相談を受けているが,多重債務者が相談に来易いように身近な自治体との連携で出張相談会が開催されている。具体的には,昨年31の県内自治体との連携により71回の出張相談会を実施し,111件の面談を受けている。

多重債務者にとって,自ら積極的に相談窓口を探すことは負担であるから,身近な相談機会の周知はアウトリーチの取り組み・相談者の発見としても有効である。同様に出張相談会を開催している自治体の開催要望は強く,相談会の広報や会場の手配等の協力や自治体の機関との連携も図れており,無くてはならないものに定着している。本事業が終了すれば,住民の身近な相談機会が無くなるとともに,自治体にとっても継続的な支援や代替措置は容易に取れない。

従って,県民にとって身近な相談機会を奪うべきではない。

3. 本事業は,貸付事業を中核とした事業である。貸付を行う前提として,多重債務者へのカウンセリング,アセスメントを行い,相談者の家計の状況の把握とそうなった背景を相談者と共有した上で,債務の整理を前提に家計の見直しや,滞納の解消,不足する生活資金の貸付を行っている。

このように,多重債務問題を入り口として生活全体を再生していくことを目的とする機関は少なく,支援のネットワークの中での重要な位置を占めている。かつて多重債務問題が深刻な社会問題になった時期に国の多重債務問題改善プログラムがまとめられ,その対策方針の中の顔の見えるセーフティネット貸付が重要視されたが,福岡県はこれに着目して,全国で最初に,相談・貸付・金銭教育・悪徳商法被害救済の総合的な事業として,本事業を開始したものである。

本事業による貸付を受けている相談者は,既に債務不履行状態にあり信用情報が悪化しているため,どこからも借り入れができない者が全体の貸付のうち実に82%(29年上半期)に及んでいる。このように,本事業は,多重債務者に対する貴重な貸付機関として機能している。実際,多重債務者は貸付によって問題解決を図ろうとする傾向が強く,貸付がある相談窓口で,相談者との対話により,生活上の問題点を明らかにした上での貸付を契機にする本事業による生活再建活動は,多重債務問題を解決するためには極めて有効である。

加えて,近年は,銀行のカードローンによる多額の債務が多くなってきている。平成28年度における501万円から1000万円の債務を抱えている相談者は,2年前と比べて2.5ポイント増加しているし,法律家による債務整理相談の内,自己破産の割合は43%と5.2ポイント増加していることがその傾向を表している。銀行のカードローンによる多額の債務を抱えた多重債務問題として社会的な問題になりつつあり,多重債務生活再生事業はこの問題にも対応できている。

多重債務者の生活再生は,単に多重債務者が抱えている返済不可能な債務の解消を行なえば済むものではない。同時に抱えている家賃や税金,公共料金の滞納の問題や当面の生活資金の不足,学費や車検の費用の不足等,様々な問題をも解決する必要があるのである。本事業は,生活資金の貸付を行なう点で「顔の見えるセーフティネット貸付機関」として特徴あるものであり,この貸付業務を梃子にして多重債務者が抱えている様々な課題に対してカウンセリングやアセスメントを行なって各支援機関と連携して生活の再生に向かえるように伴走する事業である。このように,多重債務者の支援のネットワークの重要な位置を占める本事業を終了すべきではない。

4. 平成27年から生活困窮者自立支援法が施行され,自立相談支援事業を中核にして支援事業が始まっている。その中の家計相談支援事業は,家計管理により生活の課題を解決していくものとして多重債務者生活再生事業と類似している。しかし,この家計相談支援事業は県内の全ての自治体では実施しておらず,全県民対象の多重債務生活再生事業の代替とはならない。

加えて,家計相談支援事業は貸付を伴っておらず,その意味でも代替とはならない。

多重債務者や生活困窮者の問題は生命に関わる深刻な問題である。特に,多重債務者は生活困窮状態にあり,DVや虐待,ネグレクト等の複合的な課題を抱えている場合が多い。

県民生活の安全を所管する部署は,本事業が県民に対するいわば生命にかかわる事業であることを十分考慮して,慎重な判断をすべきである。従って,本事業の重大な変更をするためには,上述の本事業の実施状況を正確に把握した上で,本事業を仮に廃止した場合に,県民生活にどのような影響が及ぶのかを慎重に検討し,代替措置が十分可能かも含めて判断するべきである。従って,本事業の存続の可否については,手続的には,一番現場を把握している受託者や福岡県消費生活審議会で,事業の方向性について検討した後に行うことが必要不可欠である。

そのような手続的配慮も欠いたまま,本事業を廃止すべきではない。

よって,福岡県は,平成30年度以降も本事業を継続すべきである。

以  上

消費者契約法の改正にかかる意見

カテゴリー:意見

平成29年(2017年)9月13日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
衆議院議長 大島 理森 殿
参議院議長 伊達 忠一 殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 江崎 鐵磨 殿
消費者庁長官 岡村 和美 殿
内閣府消費者委員会委員長 高 巖 殿
内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会座長 山本 敬三 殿

福岡県弁護士会
会長  作間 功

消費者契約法の改正にかかる意見

2000年(平成12年)4月に制定された消費者契約法(以下「法」という。)については,法施行後の消費者契約に係る苦清相談の処理例及び裁判例等の情報の蓄積を踏まえ,情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点ら,2016年(平成28年)5月25日において法改正が行われた。

しかし,この改正にあたっては,内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」という。)および同委員会の下に設置された消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)において多岐にわたる項目についての検討がなされたものの,法改正として実現したのは僅か6項目に止まり,「勧誘」要件の在り方,不利益事実の不告知,困惑類型の追加,「平均的な損害の額」の立証責任,条項使用者不利の原則,不当条項等の追加等については,引き続き検討を行うべきものとされた。そして,その後の検討を踏まえ,2017年(平成29年)8月4日に専門調査会が報告書(以下「本報告書」という。)をとりまとめ,同月8日,消費者委員会は,さらなる意見を付したうえで,内閣総理大臣に対する答申を行うに至った。

現在,成年年齢の引下げに関する民法改正の動きが加速するなか,知識や経験の不足した若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念され,また認知症等により判断力の不十分な高齢者をめぐる消費者被害の防止及び救済が,もはや一刻の猶予もない状況にあるとともに,消費者庁において新たな法改正作業が進められていることに鑑み,当会として,下記のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

本報告書に示された消費者契約法の見直しにかかる専門調査会の提言については,消費者被害の防止及び救済の促進という観点から一定の評価をすることができるものである。しかし,その提言をもって,消費者被害の防止及び救済に対する十分な措置が講じられたものと結論づけることはできない。特に,本報告書を受けた消費者委員会の答申において敢えて付言されているとおり,「特に早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」が残されており,また本報告書の提言内容についても,より適切かつ妥当な対応をなすべきものと考えられる点が少なくない。

そこで,以下においては,本報告書にもとづいて,その検討すべき各論点についての意見を述べることにする。

第2 意見とその理由
1. 事業者の努力義務について(法3条第1項関係)

【意 見】

(1) 契約条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮すべき事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,契約条項の内容が不明確であり,解釈に疑義が生じた場合につき,消費者にとって有利な解釈をとるべきものとする旨の解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)を明確に規定すべきである。

(2) 当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨の事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者の法的義務として適合性原則を明文化し,当該契約の目的となる商品及び役務などにつき,当該消費者の知識,経験,年齢などに基づくその判断力に応じて必要かつ合理的な配慮を行わなければならない旨の適合性原則を事業者の法的義務として明確に規定すべきである。

【理 由】

(1) 契約条項の内容が不明確であり,その解釈に疑義が生じた場合につき,諸外国においては,消費者にとって有利に解釈すべきものとする解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)が確立している。消費者契約における事業者と消費者の情報や交渉力の格差などに鑑みるならば,わが国においても同様の解釈準則を明文において規定することが,公平の理念からみて妥当である。

(2) 消費者と事業者の情報に格差が存在する現状においては,事業者に積極的な情報提供を義務付けるのみならず,当該契約の目的となる商品や役務に関する当該消費者の知識や経験に応じた適切な情報の提供を義務づけることによって,質及び量における情報の格差を実質的に是正することが必要である。

〔参 考〕

本報告書12頁,13頁

契約条項の明確化の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになり,また,条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

事業者の情報提供の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

2. 不利益事実の不告知における主観要件について(法第4条第2項関係)

【意 見】

不利益事実の不告知による取消しの要件につき,「故意」のみならず「重大な過失」を追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件から削除すべきである。

【理 由】

(1) 不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件とすることは,その立証責任が消費者にあることから,消費者に困難を強いるものである。しかし,「故意」のみならず,「重大な過失」を要件に追加するならば,主観的要件にかかる消費者の立証責任を緩和するものであって,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当であるが,その主張立証の困難性は,依然として解消されていない。

(2) 現行法上,不実告知による取消しについて,不実告知者の故意過失は要件とされておらず(法4条第1項第1号),「不作為による不実告知」とも言うべき不利益事実の不告知について,不告知者の故意過失を要件とすることに合理性は認められない。

(3) したがって,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の主観的要件を削除し,不利益事実の不告知という客観的事実のみをもって,その要件とすべきである。

〔参 考〕

本報告書3頁

不利益事実の不告知(法第4条第2項)の主観的要件に「重大な過失」を追加することとする。

3. 合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

(1) ①消費者の不安を煽る告知及び②勧誘目的で新たに構築した関係の濫用につき,これらを合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

(2) 本報告書において提言された上記(1)の①及び②に加え,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)につき,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を追加すべきである。

【理 由】

(1) 本報告書の提言する合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加によって,いわゆる霊感商法,就職セミナーへの勧誘,恋人商法といった消費者被害につき,その防止及び救済の範囲を拡大することが期待される。

(2) 法第4条第3項は,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を作出又は増幅させ,その状況を不当に利用した勧誘行為(いわゆる「作出型勧誘行為」)について困惑類型として定めるものであり,本報告書の提言においても,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を利用したにすぎない勧誘行為(いわゆる「つけこみ型勧誘行為」)は対象とされていない。

特に,認知症など高齢者の判断力不足に乗じた不当な勧誘行為による消費者被害が著しく増加しているほか,政府は,2017年(平成29年)8月4日,民法における成年年齢を18歳に引き下げる民法改正法案を秋の臨時国会に提出する方針を明らかにしており,成年年齢の引下げによって,知識や経験不足などにより合理的な判断をすることができない若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念されており,これら高齢者及び若年者に対する消費者被害の防止と救済は,喫緊の課題であると言わなければならない。すなわち,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)として,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を規定することは,今回の法改正における最も重要な課題である。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者がその生命,身体,財産その他の重要な利益についての損害又は危険に関する不安を抱いていることを知りながら,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該損害又は危険を回避するために必要である旨を正当な理由がないのに強調して告げること

② 当該消費者を勧誘に応じさせることを目的として,当該消費者と当該事業者又は当該勧誘を行わせる者との間に緊密な関係を新たに築き,それによってこれらの者が当該消費者の意思決定に重要な影響を与えることができる状態となったときにおいて,当該消費者契約を締結しなければ当該関係を維持することができない旨を告げること

判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。

4. 心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

①消費者が意思表示をする前に,事業者が履行に相当する行為を実施し,契約を強引に求めること,②事業者が消費者に契約の締結を目的とする行為を実施し,当該消費者が契約締結の意思表示をしないことによって損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げることにつき,これらを心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,意思表示前における履行に相当する行為の実施にかかる取消しの対象となる事業者の行為につき,「契約における義務の全部又は一部の」履行に相当する行為」のみならず,当該契約と密接な関連を有する付随行為を含む旨を明確に規定すべきである。

【理 由】

意思表示前における履行に相当する行為の実施及び契約拒絶による損失の強調につき,心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)として追加することは,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,意思表示前の履行に相当する行為については,当該契約の前提として密接な関連を有する付随行為がなされた場合においても,消費者の心理的負担に乗じて契約を迫る点に変わるところはなく,これらの場合についても契約取消しの対象とすべきである。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に当該消費者契約における義務の全部又は一部の履行に相当する行為を実施し,当該行為を実施したことを理由として当該消費者契約の締結を強引に求めること

② 当該事業者が当該消費者と契約を締結することを目的とした行為を実施した場合において,当該行為が当該消費者のためにされたものであるために,当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしないことによって当該事業者に損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げ,当該消費者契約の締結を強引に求めること

5. 後見開始等の審判を受けたことを理由とする解除権付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

消費者が後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

後見開始等の審判を受けたことをもって契約の解除事由とすることに,何ら合理性は認めらない。したがって,後見開始等の審判を受けたことのみを契約の解除事由とする条項をもって不当条項類型として無効である旨を定める本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,後見開始等の審判を受けたこと「のみ」をもって不当条項の要件とするならば,後見開始等の審判を受けたことを解除事由の一つとして考慮することは許されることになる。

そこで,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

消費者契約が,物品,権利,役務その他の消費者契約の目的となるものの対価を消費者が支払うことを内容とする場合において,当該消費者が後見開始,保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を無効とする旨の規定を設けることとする。

6. 事業者への決定権限付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(法第8条)及び消費者の解除権を放棄させる条項の無効(法第8条の2)の潜脱を可能とするような事業者の決定権限付与条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項(「事業者への解釈権限付与条項・決定権限付与条項」)そのものにつき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

本報告書に列挙された条項は,実質的には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされるものであり,これらの条項を不当条項類型として無効であるとする本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済の範囲を拡大するものとして妥当である。

しかし,より適切には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされる条項を各別に列挙して規定するのではなく,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」そのものを不当条項類型として規定し,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項そのものにつき,不当条項類型として無効とする旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

次に掲げる消費者契約の条項は無効とする旨の規定を設けることとする。

ア 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

イ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされる当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

ウ 事業者に債務不履行がある場合に消費者の契約を解除する権利の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

7. 不当条項としての「サルベージ条項」について

【意 見】

ある条項が強行法規に反し無効となる場合に,その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する旨の条項(いわゆる「サルベージ条項」)につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

サルベージ条項は,その存在によって消費者が不当条項の無効主張を諦めることとなり,結果として不当条項を甘受しかねないものとして,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

〔参 考〕

本報告書

サルベージ条項を現時点で不当条項として規律するのではなく,サルベージ条項の使用状況や裁判例の状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

8. 不当条項としての賠償責任の一部を免除する条項について

【意 見】

事業者の軽過失による消費者の生命又は身体の侵害に対する損害賠償にかかる賠償責任の一部を免除する条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

人の生命及び身体は要保護性の高い重要な法益であり,本来,合意による処分に適するものではない。

〔参 考〕

本報告書

軽過失による人身損害の一部免責条項に関する規律については,当面は法第10 条の解釈・適用に委ねつつ,その状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

9. 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について(法第9条第1号関係)

【意 見】

「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を消費者が立証したことにより,「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」が立証されたものとする推定規定を導入する本報告の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,「平均的な損害」にかかる立証責任を事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

【理 由】

消費者において「平均的な損害の額」及びこれを「超えること」を主張立証すべきものとする判例の立場(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)においても,「平均的な損害」にかかる推定規定の導入は,消費者の立証困難性を緩和するものとして妥当である。

しかし,「事業の内容が類似する同種の事業者」にかかる類似性要件を厳格に要求するならば,この推定規定が働く余地は大きく制約されることとなり,当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を算定するのに必要な帳簿などの資料が当該事業者の元にあることを考えるならば,「平均的な損害」にかかる立証責任については,立証責任の公平な分配という観点から,これを事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関し,消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には,その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けることとする。

10. 「平均的な損害」における損害の範囲について(法第9条第1号関係)

【意 見】

契約解除後に履行期が到来する役務等の逸失利益につき,原則として「平均的な損害」に含まれない旨を規定すべきである。

【理 由】

契約解除後に履行期が到来する役務等が解除された場合において,事業者はその未履行分の履行義務を免れることから,損益相殺により,逸失利益は,原則として,生じないものというべきである。

〔参 考〕

本報告書

〔前略〕実態把握や分析を更に積み重ねた上で,「解除に伴う」要件の在り方や「平均的な損害の額」の意義など法第9条第1号に関する他の論点と併せて,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

11. 約款の事前開示について(法第3条関係)

【意 見】

約款による消費者契約について,事業者は,契約締結前において,約款を消費者に開示すべきことを原則とする旨を規定すべきである。

【理 由】

約款による消費者契約にあっても,その法的拘束力の根拠は,契約当事者間における意思の合致であり,約款に法的拘束力が認められるためには,当該約款が契約締結時までに消費者に開示され,あるいは当該約款が消費者の知ることのできる状態に置かれなければならない。

〔参 考〕

本報告書

約款の事前開示については,消費者に対する契約条項の開示の実態を更に把握することなどを経た上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

第3 おわりに

今回の法改正においては,2014年(平成26年)8月5日の消費者委員会に対する内閣総理大臣の諮問に示された「情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」とともに,2017年秋の臨時国会に民法改正法案の提出が予定されている成年年齢の引下げに伴う若年者保護の必要性という視点を踏まえなければならない。

その点において,「判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。」として,最も重要な課題を先送りした本報告書は,きわめて不十分なものであると言わざるをえない。

そして,これに対し,消費者委員会が,その答申において,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた揚合における消費者の取消権」について,「早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」であることを敢えて付言したことは,きわめて重く受け止めなければならない。

仮に,今回の法改正において,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足へのつけ込み型勧誘類型についての立法化がなされなかったとしても,本報告書は,これらに対する立法措置が不要であると判断したものではなく,政府において直ちにさらなる法改正の検討を開始すべきである。

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