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憲法改正国民投票法案に反対する会長声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
1 2005年9月22日、衆議院に憲法調査特別委員会を設置することが決議された。その設置趣旨は、憲法改正手続きについての国民投票法案を審議することにあるとされている。
与党自由民主党と公明党は、すでに2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えた法案骨子に合意しており、これをもとにした法案が提案されると考えられる。\n  憲法は国家体制の基本秩序を定める最高法規であると共に、国家権力から国民の権利・自由を保障することをその本質としている。同時に、憲法改正手続きは国民の主権行使の最も重要な場面である。従って、改正手続きにおいては十分な議論を保証しさらに国民の意思が適正に反映されなければならないことは言うまでもない。\n2 しかるに、法案骨子には以下の問題がある。
(1)第1に、憲法の複数の条項について改正案が発議される場合、各発議毎に投票方法を定めることとされており、各条項毎に投票する制度が保証されていない。仮に異なる条項について一括して賛否を投票する場合、一部賛成や一部反対の有権者は投票が困難となり、有権者の意思を正確に反映させることができない。従って、投票においては、改正点について個別に賛否の表明ができる方法にするよう、法で定めるべきである。\n(2)第2に、法案骨子は国民投票運動について、公務員・教育者の運動制限、外国人の運動の全面禁止、予想投票公表\禁止、メディアに対する報道制限など広範な禁止規定を定めこれを罰則によって担保している。
本来憲法改正にあたっては、できる限り有権者に情報が提供され活発な議論がなされるべきであり、そのためには表現の自由が最大限尊重されなければならない。従って、その規制には十\分な必要性と合理性が求められるべきであるが、上記規制は公選法の制限規定を無批判に取り入れたに等しい。当選人と職務の関係で利害関係が生じかねない選挙と憲法改正の是非を問う国民投票では全く異なる性格のものであることを考えると、公選法の規制が国民投票にも妥当するとはとうていいえないのである。
国民投票運動においては、公務員の政治活動の制限の適用除外等こそ検討され規制緩和をはかるべきであるにもかかわらず、定住者を含めた外国人の運動をすべて禁止するなど、公選法より厳しい規制も含まれており、重大な問題である。
(3)第3に投票の効果については、有効投票総数の二分の一を超える賛成があれば当該憲法改正について国民の承認があったものとするとされている。
しかし、無効票となったものは、少なくとも賛成票とは見なされなかったものであるし、憲法改正について何らかの意思を表示したものであるから、投票しなかったものと同様には考えられない。また、無効票が多い場合は少数の賛成で憲法改正が承認されたと見なされる可能\性もある。
国民投票は国の最高法規たる憲法を改正するか否かを問うものであるから、少なくとも有効投票総数ではなく、投票総数の過半数が賛成を投じたと判断されなければ国民の承認があったと見なされるべきではない。
また、投票率に関する規程がなく低い投票率で憲法改正が実現する可能性があることも問題である。\n(4)第4に、法案骨子では、発議から投票までの期間を30日から90日としているが、これは余りにも短く憲法改正を国民が議論する期間としては不十分と言わざるを得ない。憲法改正の発議について国会で議論される期間があるとしても、最終的な改正案は国会の議決によって確定するのであり、国民はこれについて十\分な議論を行う必要がある。議連案ではこの期間は60日から90日とされており、それでも短すぎるとの意見が出されていたところ、法案骨子ではさらに30日に短縮されており、十分な議論がないまま投票を余儀なくされる可能\性がある。
(5)第5に、国民投票無効訴訟について、投票結果の告示から30日以内に東京高等裁判所にのみ提起できるとすることも問題である。
憲法改正という重要な事項についての提訴期間としては短すぎるし、管轄を東京高裁に限るという点も、広く国民が司法審査を受ける権利を阻害するもので、慎重な検討を要する。
3 以上のとおり、与党の国民投票法案骨子には重大な問題を多く含んでいる。
そもそも憲法改正そのものについても、その最高法規制から憲法の基本原則について改正の対象になりうるかの議論すらあるところ、今回の法案骨子ではその点には全く触れない上、手続き上の規定に含まれる問題点は、国民投票により国民の真摯に国民の意思を問う姿勢で提案されているのか疑念を持たざるを得ないような内容である。
このような重大な欠陥を有する法案骨子をもとにした憲法改正国民投票法案の国会上程には強く反対するものである。
以上

取調べの録音・録画実現とその試験的な導入を求める声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
当会は、さる9月17日、福岡市において、一般市民の参加を得て「密室での取調べをあばく ― 取調べの録音・録画実現に向けて ―\」と題するシンポジウムを開催しました。そこでの内容は、国税還付金詐取事件で無罪判決を勝ち取った前杷木町長による警察や検察庁での自白強要のための取調べの実体験報告、取調べの可視化を試験的に開始している韓国の視察報告、取調べの可視化をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。
これらを通して、密室における取調べは、自白獲得のための長時間にわたる過酷な追及とそこでの暴行・脅迫・人格誹謗などといったさまざまな人権侵害の温床となり、虚偽の自白を生む危険性が極めて大きく、現にそのような実例が後を絶たないこと、諸外国では取調べの可視化が大きな流れとなって進められていることが改めて浮き彫りになりました。\n そして、これを踏まえて、シンポジウムの最後に、集会参加者一同で下記のとおりの提言を全員一致で採択しました。
よって、当会は、関係各機関が一刻も早く、取調べの全過程の録音・録画実施に向けて行動をとられるよう要望し、当面、その試験的な導入を求めるとともに、当会としてもその実現を図るため最大限の努力を尽くす所存です。
以上のとおり声明いたします。

〔提   言〕
弁護士会は、えん罪や不当な取調べによる人権侵害を防止するため、被疑者の取調べ過程の可視化(録音・録画)を強く求めてきました。
そして、今回のシンポジウムで?かかる弊害に対して取調べには人権侵害やえん罪を生み出すなどの様々な弊害があること、?かかる弊害に対して取調べの可視化が有効な対処法であること、?隣国韓国をはじめ諸外国では、被疑者取調べの可視化が広く実施されていること、が確認されました。
また、2009年5月までに導入される裁判員制度のもとでは、これまでの刑事裁判のように被告人の自白の任意性・信用性をめぐって証人尋問がくり返され長期化することは裁判員の負担を加重するばかりか、裁判員の判断を困難にし、裁判そのものの存続を危ぶまれるような事態が憂慮されます。
そのような事態を避けるためにも、取調べの全過程の可視化によって自白の任意性・信用性を判断できるようにしておかなければなりませんが、いますぐに取調べの可視化を試験的に導入しておかなければ4年足らずで始まる制度開始には間に合いません。
現在までに法務省や警察・検察の現場からは取調べの録音・録画が捜査過程に悪影響を及ぼすと、さまざまな理由を述べていますが、そのような反対論が果たして合理的といえるのかは想像の域をでていません。
すでに取調べの可視化について抽象的な功罪を論ずる段階は終わり、試験的に取調べの可視化を導入したうえで、弊害の有無を検証し、よりよい制度設計を目指すべき段階に至っています。
そこで、私たちは、
取調べのすべての過程を録音・録画する制度の実現に向けて、すみやかに試験的な録音録画を導入し、順次運用を開始することを提言いたします。

以上

有明海における干拓事業漁業被害原因裁定申請事件の裁定に関する声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年9月28日
福岡県弁護士会会長  川 副 正 敏
諫早湾干拓事業による有明海の漁業被害問題につき、当会は本年7月13日、ノリ養殖の被害実態を生産量だけの検討で否定して原審仮処分決定を取り消した福岡高等裁判所決定を批判し、国に対して速やかに中・長期開門調査を実施するよう求める旨の声明を発表したところである。\n この問題に関して、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県の有明海沿岸4県の漁民は2003年4月16日、福岡県有明海漁業協同組合連合会は同年5月30日、いずれも「有明海の異変による漁業被害の原因は諫早湾干拓事業にある」として、公害等調整委員会に被害原因の裁定申請を行った。これについて、同裁定委員会は本年8月30日、「有明海におけるノリ養殖、タイラギ漁等について、申\請人らの被害(不漁、不作)は部分的には認め得るものの、それらと諫早湾干拓事業との因果関係は、高度の蓋然性をもって認めるには足りない」として、諫早湾干拓事業と漁業被害との法的因果関係を認めず、これらの申請を棄却した(以下「本裁定」という)。\n 本裁定は、その理由中で、因果関係の判断基準に関し、「経験則に照らし全証拠を総合的に検討し、高度の蓋然性を証明すればよい」との一般論を示している。ところが、本件への具体的な適用では一転して、「成層度の強化等の環境変化の可能性は否めないものの、これを裏付ける客観的データがなく、赤潮の発生・増殖機構\等の科学的解明が十分に行われていないなど、本件の因果関係に関わる重要な論点について、客観的な証拠資料や科学的知見が乏しいという状況下で認定判断を行わざるを得ず、漁業被害と諫早湾干拓事業の因果関係を高度の蓋然性をもって肯定するに至らなかった」と結論付けている。\n しかし、干拓事業と漁業被害の法的因果関係の認定のあり方として、本裁定のように客観的なデータの蓄積や自然現象の発生機構の科学的解明を要求することは、言葉の上で「高度の蓋然性の証明」という表\現を用いながらも、実質的には、自然科学的因果関係の厳格な「証明」まで要求するのに等しいものであって、前段に述べている一般論とは明らかに齟齬している。これは、公害紛争の迅速・適正な解決を図る目的で設けられた専門的裁判外紛争処理機関としての公害等調整委員会のあるべき役割を自ら著しく減殺する態度と言わざるを得ない。
他方で、公害等調整委員会は本裁定を出すに際し、「事業が漁業環境に影響を及ぼした可能性を否定するものではない」、「今後、有明海を巡る環境問題について、国を始めとして、更なる調査・研究が進められて、的確な対策が実現され、かつてのような豊かな有明海の再生が図られることを念願するものである」との異例の委員長談話を発表\した。その趣旨からすれば、公害等調整委員会として、国に対し正面から「客観的証拠資料」の提示ないしそのために必要かつ十分な調査を求めてしかるべきであった。\nいずれにしても、かかる資料不足の原因が国による事前調査の不十分さにあることは、本裁定によって一層明白になったのであり、諫早湾干拓事業が有明海の漁業環境に影響を与えたかどうかについては、国において積極的に調査する責務があると言うべきである。\n 具体的には、周辺漁民らを代表する福岡・佐賀・熊本の三県漁連が要求し続け、当会もかねてより指摘してきたように、中・長期の開門調査以外にデータ集積のための適切な方法はない。\nよって、当会は、今回の公害等調整委員会の裁定に遺憾の意を表明するとともに、国に対し、原因探究のための中・長期開門調査を早急に実施するよう重ねて求めるものである。
以 上

北九州矯正センター構想に反対し、少年鑑別所の適地への移転を求める声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年9月22日
福岡県弁護士会 会 長  川 副 正 敏

当会は、2004(平成16)年5月26日開催の定期総会において、小倉刑務所跡地に医療刑務所・小倉少年鑑別所・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想に反対し、少年鑑別所の適地への移転を求める決議」を採択し、対策本部を設置して、その実現のための活動を展開してきた。\n 他方、本年度の国の予算において、小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転するための費用が計上され、法務省は同跡地の付近住民にこの移転計画の説明を行ったが、住民が強く反対したことから、当初の予\定は変更を余儀なくされたものの、法務省はあくまでもこれを実施するとの前提のもとに、当会を含め、引き続き関係各方面への働きかけを行っている状況にある。
 確かに、現在の少年鑑別所施設が老朽化しているうえ、近隣高層住宅から俯瞰されるなど、少年の人権上も問題があることから、移転・建替の必要があること自体は理解できる。しかし、そのことのゆえに少年鑑別所を刑務所と同一敷地内等に移転させることは到底容認できないとの当会の立場に何ら変わりはない。その理由は以下のとおりである。
 第1に、少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨からすれば、少年鑑別所は刑務所などの成人に関する施設とは隔絶して設置されるべきものである。
 第2に、同じ少年に対する施設であっても、少年鑑別所は少年に対する処遇決定のためにその資質等を調査鑑別する施設であり、教育的な更生を目的とする少年院とも明らかにその性格を異にするものである。もとより刑に処せられた者を拘禁する施設である刑務所とは全く別個の目的を持つ施設である。したがって、これらの施設とは画然と区別すべきものである。
 第3に、少年鑑別所を刑務所と同一敷地内に隣接設置させることは、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を与え、あるいはそのような偏見を助長する事態が生じる可能性が大きい。\nしたがって、法務省は少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転計画を撤回し、それ以外の適切な移転先を早急に確保すべきである。
 当会としては、今後とも、小倉少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転に強く反対し、引き続き適地への移転を求める運動を行う決意である。

事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対する意見書

カテゴリー:意見

金融庁監督局総務課金融会社室 御中
2005年9月1日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
金融庁が本年8月12日付けで公表し、意見募集を行っている「貸金業関係の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正について、当会は次のとおり意見を述べる。\n
(1)貸金業者の取引履歴開示義務の明確化
事務ガイドライン3-2-2において、貸金業の規制等に関する法律第13条第2項で禁止されている「偽りその他不正又は著しく不当な手段」に該当するおそれが大きい行為の事例を列挙しているところであるが、これに、顧客等の弁済計画の策定、債務整理その他の正当な理由に基づく取引履歴の開示請求に対してこれを拒否すること、を加える。

〔意見の趣旨〕
「貸金業者に取引履歴の開示義務があり、正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には行政処分の対象となり得ることを明確化する」との改正の趣旨には賛成する。
〔理由〕
本年7月19日、最高裁判所は、貸金業者が「貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う」、との判断を示した(最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決)。
このたび速やかにガイドラインを改正して貸金業者の取引履歴開示義務を明確化することは、まことに時宜に適った措置である。
ただし、上記の最高裁判決は、債務者が債務内容を正確に把握出来ない場合には、「弁済計画を立てることが困難になったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る」ことなどに鑑みて、取引履歴開示義務が存在するとの結論を導いている。
そうである以上、一部改正(案)のうち、事務ガイドライン3−2−2にいう取引履歴開示請求の「正当な理由」として「弁済計画の策定、債務整理」だけを例示し、「過払金の返還請求」について殊更に言及を避けているのは、不適切である。「過払金の返還請求」は,上記最高裁判所判決からも、取引履歴開示請求の正当理由のうちに含まれることは明かであり,これを明記すべきである。
(2)取引履歴開示請求の際の本人確認手続きの明確化
取引履歴の開示を求められた際の本人確認の方法として十分かつ適切であると考えられるものとして以下を例示する。\n1、顧客等自身が開示請求をする場合であって、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)に規定する方法による場合
2、顧客等の代理人が開示請求をする場合であって、以下イ〜ハの書類の全てを提示する場合
(イ)顧客等の本人確認のための書類(本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含む。)であれば十分かつ適切である。)\n(ロ)顧客等の署名・捺印により代理人との間の委任関係を示す書類(債務整理についての委任関係が示されていること等により取引履歴開示請求についての委任関係が推認し得るものを含む。捺印は、イの書類が本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含まない。)であれば、必ずしも印鑑登録された印鑑又は契約書に捺印された印鑑によらなくてもよい。)
(ハ)代理人の身分を証明する書類(弁護士、司法書士等が代理人である場合は、ロの書面において事務所の住所、電話番号等の連絡先が示されていればよい

〔意見の趣旨〕
「取引履歴の開示が求められた際の本人確認の手続」に関し、金融機関等による顧客等の本人確認及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)が規定する確認方法を要求することには反対する。
上記最高裁判所判決の趣旨に従い,取引履歴の開示を求めることは顧客等の権利であって、本人確認の手続に伴う負担が顧客等(超過利息を元本充当すれば過払いになっている状態の者も含む)による開示請求権の行使を妨げることのないよう、貸金業者に対して注意を喚起すべきである。
〔理由〕
1 顧客等自身が開示請求をする場合
(1)本人確認法は、テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために金融機関等の預金口座が不正利用されることを防止する(同法1条)目的で、厳格な本人確認の手続を定めた。
しかし、取引履歴開示請求や過払金返還請求が「テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために」悪用されているという社会的事実は、およそ存在していない。
従って、規制の目的・対象がまったく異なる「本人確認法」の定める確認方法を,顧客自身からの開示請求につき必要とする理由は全く存在しない。
(2)他方、貸金業者が本人確認を十分に行わず取引履歴を第三者に開示し,これにより顧客や第三者等以外の権利が侵害されているというような弊害が生じているとの事実はない(現在の顧客情報が大量に盗まれているというトラブルとは別問題である)。従って、現在必要なのは、取引履歴開示に応じる際の本人確認手続の「厳格化」ではない。\n 現在起きているトラブルは、ごく一部の貸金業者が、「個人情報保護法に基づく本人確認手続」を藉口し、自らが一方的に定めた確認手続に応じなければ取引履歴開示ができないとして開示を事実上拒否しようと画策するという問題である。
(3)個人情報保護法は、個人情報取扱事業者が本人からの保有個人データの開示の求めに応ずる手続を定めることができる(同法25条1項、29条1項・3項・4項)とするが、「他の法令の規定により開示することとされている場合」(同法25条3項)を除外している。しかるに前掲最高裁判決は、取引履歴開示義務の法的根拠が信義則(民法1条2項)にあることを明らかにした。従って、個人情報保護法25条3項により、貸金業者が定めた本人確認の手続によって顧客等を一方的に拘束することはできず、この手続に応じないことをもって取引履歴開示請求を拒む正当理由とすることはできないこと明かである。
(4)なお個人情報保護法は、同法に基づき個人情報取扱事業者が開示等の求めに応じる手続を定め得る場合についても、「本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮しなければならない」(同法29条4項)と定めている。個人情報保護法の存在が、自己に関する情報にアクセスする個人の権利を阻害する結果を招いてしまうのでは、本末転倒だからである。
(5)従って、現在必要なのは、取引履歴の開示請求権は顧客等の権利であって、本人確認手続を取引履歴開示を回避するための口実として利用してはならないことを「明確化」することである。そこで、顧客等からの取引履歴開示請求に応じる場合の本人確認の手続については、「顧客等に過重な負担を課することのないよう留意すべきこと」を明記すべきである。
2 顧客等の代理人が開示請求をする場合
(1)債務整理の実務においては、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知」(貸金業規制法21条1項6号参照。以下、「受任通知書」という)が、債務者の代理人であることの十分かつ適切な確認資料である、とされてきた。実際、多くの貸金業者は、個人情報保護法が施行された現在においても、弁護士が作成名義人である「受任通知書」の送付をもって代理権確認の方法とすることを、従前通り異議なく認めている。\n 弁護士名の「受任通知書」を信頼したために貸金業者が不正な開示請求に応じてしまったというトラブルが発生しているとの事実はまったくない。したがって、あたかも弁護士と顧客等との委任関係の存在が疑われる状況が広く存在していることを前提とするかのように、厳格な手続を課するのは正当ではない。
また上記最高裁判所の判決の場合にも,弁護士が受任通知以上の,「本人確認手続」を行ったわけでもない。とすれば,本ガイドラインの改正は,最高裁判所判決に規定されていない,新たな除外事由を行政ガイドラインにより策定しようとするかのような意図を感じざるをえないものである。
(2)そもそも弁護士は、受任通知書で自らの氏名を明らかにした上で自ら不正な開示請求などを行ったりすれば、懲戒処分を受けるという重大なリスクを背負っているのである。
受任通知書に記名のある弁護士が本物の弁護士であるかどうかは、日本弁護士連合会のホームページの「弁護士情報検索」によって確認することができる。架空のニセ「弁護士」であれば、「該当情報が検索できない」として、直ちに明らかになる。実在の弁護士名を騙る第三者による不正請求の場合であっても、その者が表示する虚偽の事務所名や所在地を入力して検索すると、同様に「該当情報が検索できない」結果となる。\n(3)もしも顧客等が、代理人弁護士に対し、原本提示のため印鑑証明書・戸籍謄本・住民票の記載事項証明書等の原本を預けるか、または委任状に捺印する印鑑についての印鑑証明書を渡しておかなければならないとすれば、当然それらの申請費用が必要になる。債務整理を必要とする多重債務者はそもそも経済的に困窮している状態にあるから、それらの費用負担が履歴開示請求の意思を挫くことにもなりかねない。また債権者数に応じて何枚もの委任状に署名を求めるのは、迅速な事務処理が必要とされる債務整理の実情に合わない。また、開示請求のたびに業者に委任状を提出することは、業者のもとに、新たに大量の個人情報を蓄積させることになり、個人情報の保護に関して、新たな問題を発生させることにもなりかねない。\n しかも,業者は,本来当初の貸付の際に,顧客の本人確認に必要な書面を徴収して貸付業務を行っているのであり,更に取引履歴を開示する場合に再度かかる書面を要求する必要もない。
(4)以上により、弁護士が代理人として開示請求する場合については、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知(FAXを含む)により十分かつ適切である」と例示すべきである。
以  上

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