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会長日記

カテゴリー:会長日記

福岡県弁護士会会長日記
その2 疾風怒濤(?)の1ヶ月4月10日〜5月9日
平成21年度 会 長
池 永  満(29期)
はじめに
4月の前半は朝から夕刻まで就任挨拶回りに出かけ、夕刻からは60に及ぶ県弁委員会の第1回委員会に出席して挨拶や重点課題に関する説明やお願いをする日々が続きました。後半の半月も夕刻以降の時間は第1回委員会出席を続けましたが、その余は5月の定期総会提出予定議案の事前承認を求める5月常議員会にむけて議案の頭出しを行う必要があった4月22日常議員会、21日から28日にかけて開催された各部会集会、30日の午前・午後に開催した第1回委員長会議や夜小倉で開催した北九州部会執行部との協議会等への出席や準備が続きました。
歴代執行部経験者が語る「一番忙しい仕込みの時期」を過ごしたことになりますが、ピンチヒッター的な気分が残っていた私にとって、この1ヶ月は会長として過ごす向う1年間の心構えや立ち位置を確立せざるを得ない日々ともなりました。
とりわけ飯塚、北九州、筑後と続いた各部会集会では夜の部も含め多くの会員から心温まる歓待を受けました。また今年度執行部の初めての試みだと思いますが会全体の重点課題のうちテーマを絞って意見交換を行う場として年度当初に設定された委員長会議や北九州部会執行部との協議会でも、従前の実践をふまえて極めて具体的で建設的な意見をいただきました。
個人的にもどうせ貴重な時間を費やすのであれば、せっかくの機会でもあり、多くの会員の協力をいただきながら、当面の課題に対応するに止まらず、弁護士会の懸案事項の一つか二つくらいは解決の目途をつけておきたい〜そんな思いも強まったのです。
画期を刻む刑事弁護体制の強化を
この日記が掲載される頃には既に裁判員裁判対象事件の起訴も始まっています。対象事件数は福岡で年間120件前後、北九州で年間4〜50件くらいと推計されていますから、既にそれぞれ数件程度が公判前整理手続に入っているかも知れません。弁護士会としては審理が始まる8月頃までには新たに発足した「裁判員本部」を中心として検証の体制を整える予定です。検証作業により得られるデータは、運用改善や3年後の制度見直しに役立てるだけでなく、全ての会員にとって初めての経験となる裁判員裁判の弁護人活動を改善するためにも役立てる必要があります。そのために当該弁護人から得られるデータのみならず、傍聴席の視点からもデータを得るために、モニター・システムを創設する準備を進めていますので、ご協力をお願いします。
同時に被疑者国選弁護人制度の抜本的拡大も始まっています。先日の法曹合同歓迎会での挨拶で、対象事件数が福岡県全体では4,000件を超える見通しであり相当の力仕事だと話したところ、裁判官や弁護士から数字が大きすぎるのではないかと問われました。私の言い方はむしろ控えめであり2006年と2007年のデータをもとにした日弁連推計では、福岡本庁2,047、小倉・行橋小計1,289、筑後小計532、筑豊小計507、県合計4,375件とされています。選任率も被疑者援助の時より相当高まることが予測されます。これを福岡1名、北九州2名の法テラス・スタッフ弁護士の助勢があるとしても基本的には4月1日現在県弁合計で516名の被疑者国選登録弁護士が対応することになります。限られた期間において集中的な活動が要請される被疑者段階の弁護人活動の質が、その後の事件の行方を左右することを考えれば、複数弁護人がついて集中審理を行う裁判員裁判が全開状態になる今秋以降においても、365日、逮捕勾留直後から被疑者の国選弁護人選任権の保障に万遺漏なく対応できる体制を確立するために、あらゆる方策を尽くすことが弁護士会の責務であり、当番弁護士制度を発足させて今日の被疑者国選制度確立を主導した当会の矜持でもあると思います。
「貧困は国家の大病」
未曾有の社会・経済情勢の中で、生存権を擁護し支援する緊急対策を実行することが、当会はもとより日弁連全体の課題となっています。
河上肇は『貧乏物語』において、「貧困は国家の大病」と喝破していますが、衝撃的なのは20世紀当初における英米独仏における貧富の格差に関するデータです。人口の65%を占める最貧民層が保有する冨の分量は全体の2%前後にすぎず、人口の2%にすぎない最富者が保有する冨は国全体の6〜70%に及んでいたのです。なんと言う格差でしょうか。
そうした中で英国では学校児童に対する食事供給条例を制定し(1906年)、貧乏な老人の保護のために養老年金条例が制定される(1908年)など、大きな政策転換も始まっていますが、養老年金の財源として富者に重い増税案を提案した時の大蔵大臣ロイドジョージ氏は4時間半におよぶ議会演説をこう結んだと紹介されています。「諸君、これは一つの戦争予算である。貧乏というものに対して許しておくべからざる戦いを起こすに必要な資金を調達せんがための予算である。私はわれわれが生きているうちに、社会が一大進歩を遂げて、貧乏と不幸、及び、これを伴うて生ずるところの人間の堕落ということが、かって森に住んでいた狼のごとく、全くかの国の人民から追い去られてしまうというがごとき、喜ばしき時節を迎うるに至らんことを、望みかつ信ぜざらんとするもあたわざるものである。」
貧困は国家の病気であり、貧困との闘いを「国家の戦争」としてとらえる思想は最近の日本ではほとんどかき消されてきたように思います。ところで現実はどうなのでしょうか。OECD(2004年レポート)が、21世紀に入ったOECD諸国における「貧困率」を発表しています。ここでは国民の可処分所得の中位数の50%以下の所得しか稼いでいない人を貧困者としてその人口比率を出していますが、先進国中貧困率の第1位はアメリカ(17.1%)で、第2位が日本(15.3%)とされています。OECD諸国の貧困率の平均は10.3%ですが、貧富の格差のない経済大国と言われてきた日本がいつの間にか「貧困大国」になっていたというのも驚きです。(以上のデータは橘木・浦川『日本の貧困研究』東京大学出版会)
私たちは日本国憲法の保障する基本的人権の思想にたって、現在の社会構造を抜本的に立て直すための取り組みを始める必要があると思います。もとより弁護士・弁護士会にやれることには限りがありますし、社会福祉的な対応に関する第一義的な責任を有しているのは行政であることはいうまでもありません。また弁護士が業務的に対応できる範囲は一層限られています。
しかしリーガルサービスに対するアクセス障害を取り除きながら、行政に対する給付請求権の行使を支援することを始めとして、様々な支援活動を組織し、セーフティネットの再構築を促進するコーディネーターの役割を果たすことはできると思います。この点では司法制度改革の柱の一つであった民事法律扶助の抜本的拡充をになう組織として誕生した日本司法支援センター(法テラス)やスタッフ弁護士の活動と、弁護士会における緊急対策本部等の活動との連携を抜本的に強化することも必要になっていると思います。今年度執行部は以上のような問題意識にもとづき、法テラス福岡事務所との協議を始めています。
陣地を整えて2ヶ月目に歩を進めます。
この1ヶ月、会務に関する書類に目を通し決済する作業にもだいぶ慣れてきましたが、率直に言ってその量の多さには辟易します。日弁連理事会等のために数日会館に出ないと私の机上は書類の山になります。ですから福岡にいる日は毎日弁護士会館に足を運びます。そのため弁護士会から離れている私の法律事務所との車での往復が煩わしくなりましたので、裁判所裏手にあるマンションの一室を確保しました。この原稿も赤坂オフィスで夜を徹して(?)書いてます。明後日(5月11日)には司法記者クラブの皆さんとの定例懇親会(月1回)も開きます。
ところで5月の連休に、昨年末以来できなかった登山を妻とともに決行しました。好天気に恵まれ清々しい気持ちになりました。これから向かう5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大の開始、25日定期総会という山行でもアクシデントに見舞われないで登頂し、皆さんと一緒に清々しく新たなスタートを切れれば良いがと願っています。     (5月9日記)

法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明

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法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
 警察庁は、7億円の補正予算を用いて、全国15地域で、街頭監視カメラを設置するモデル事業を実施する。福岡県警は、その1事業として、2009年度中に、子どもの登下校中の防犯のためとして、福岡市中央区大名校区に25台の監視カメラを自ら設置し、地元民間団体に管理を委託するという。
 しかしながら、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきである。
 そして、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由を萎縮させる危険がある。
犯罪検挙のための警察の捜査手段は、具体的な嫌疑を前提とし、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
 警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視ビデオ判決(東京高判昭63.4.1)、西成監視ビデオ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
 ところが、全国的にも、福岡県下においても、犯罪は減少しており、大名校区で、特に通学路において犯罪が頻発しているとの事実は認められない。従って、その設置は、違法であるといわなければならない。
 そもそも、監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に市民の行動が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する法律や条例の制定が必要不可欠である。
 当会は2007年7月21日、2008年4月1日にも同様の意見を述べているが、なんら法律や条例が制定されないまま警察主導による街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、当該事業を撤回するよう強く求めるものである。
                    2009年(平成21年)7月31日
                  福岡県弁護士会会長 池 永   満

死刑執行に関する会長声明

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死刑執行に関する会長声明
1 本年7月28日,大阪拘置所において2名,東京拘置所において1名の合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
これは昨年の15名,本年1月の4名に対する執行に引き続き,森英介法務大臣の就任後3度目の死刑執行である。このように短期間に,連続して多数の死刑執行がなされていることに対し,当会は,厳しく抗議するものである。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,本年6月にも,無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされ(足利事件),これを契機に精度の低いDNA鑑定に依拠した裁判の問題点が指摘されるという事態も生じている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,昨年(2008年)現在では,死刑存置国は59か国で死刑廃止国及び死刑停止国は138か国となっている。さらに,昨年12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,昨年10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
20009年(平成21年)7月30日
福岡県弁護士会
会長 池永 満

生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明

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      生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明
 生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3,260円、支給要件は15歳以下の児童を養育していること)は、厚生労働省告示により、段階的削減を経て本年4月1日に完全に廃止され、約10万世帯のひとり親世帯、約18万人の子どもが影響を受けることとなった。母子加算の廃止による収入減のために、十分な医療を受けることができなかったり、高等学校の入学に際しての費用や学費が支払えず、進学や通学を断念したり、また、修学旅行や部活動への参加が不可能となったりする子どもたちが続出することが懸念される。かかる事態は子どもの生存権・成長発達権・教育を受ける権利の保障の観点から看過することができない。
 母子加算廃止の論拠として、「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」、すなわち、母子加算を受給している世帯の消費生活水準が生活保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。
しかしながら、一般母子世帯の8割以上は働いているにもかかわらず、その年間の就労収入は、平均171万円に過ぎず、本来、生活保護の受給が可能でありながら受給できていないのがその実態である。生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは、母子加算を廃止する根拠とはなりえず、母子加算は廃止すべきではなかったと言わざるを得ない。
 当会会員が多数訴訟代理人を務めたいわゆる生活保護学資保険裁判の最高裁判決は、2004年3月16日、高校修学が生活保護制度で保障されていない当時の状況下で、「近時においては、ほとんどの者が高等学校に進学する状況であり、高等学校に進学することが自立のために有用であるとも考えられるところであって、生活保護の実務においても、前記のとおり、世帯内修学を認める運用がされるようになってきているというのであるから、被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである」と判示し、高校修学の有用性を宣言した。これを受け、2005年度から、生活保護制度において生業扶助として高校修学費用の一部が支給されることともなった。ただ、この支給の基本額は月額5,300円程度であり、修学旅行積立金・課外活動費等を含む毎月の修学費を賄える金額ではない。そのために、これまで、ほとんどの母子世帯は、支給される加算の一部をきりつめ子どもの高校修学費用に充てたり、そのために蓄えたりしてきた。母子加算が無くなると、それが著しく困難になる。母子加算の廃止は、保護世帯の高校修学の有用性を宣言した先の最高裁判決の趣旨を踏みにじるものである。
 当会は、わが国の社会において、貧困と失業が拡大し続け、国民の生存権が重大な危機に瀕している現状の中で、本年度、「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置し、2009年5月25日の定期総会において、「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を行った。弁護士会として、生活保護受給を求める申請代理人の活動等による法的緊急支援サービスに取組み、社会的セーフティ・ネットを再構築するために、できうる限りの活動を推進することを宣言するとともに、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また、ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り、セーフティネットを強化すべきという呼びかけを行った。
 また、以前から、当会は、2007年10月29日には「生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明」、同年12月5日には「生活保護基準の引き下げに反対する声明」を発出し、生活保護基準に関する議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取して十分に時間をかけて慎重になされるべきである旨の意見をその都度表明してきたところである。
 当会は、母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長し、貧困が次世代へ再生産されることのないよう、国会において、母子加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く要請するものである。
  2009年(平成21)7月9日
  
                      福岡県弁護士会
                      会 長  池  永   満

海賊対処法に反対する会長声明

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海賊対処法に反対する会長声明
1 今国会に上程されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は,6月19日,参議院で否決されたにもかかわらず,同日,衆議院の特別多数決で再可決するという形で成立した。しかし,同法は,以下に述べるとおり,日本国憲法に違反するおそれが極めて強いものである。したがって,当会はこの法律の制定に強い遺憾の意を表明するものである。
                       記
① 自衛隊の海外活動に関する憲法上の制約への違反
同法は,海上保安庁が海賊行為へ対処することに加えて,自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定する一方,その活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定も加えていない。しかも,同法は緊急な事態に対処する特別措置法ではなく,恒久的な対応法として位置づけられている。しがたって,同法によれば,自衛隊が,領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた全世界の公海上で,全ての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し,一定の場合には武器使用まで行うことを可能にすることになる。
しかしながら,日本国憲法は,恒久平和主義の精神に立ち,その第9条は武力による威嚇又は武力の行使を放棄し一切の戦力不保持,戦争放棄を宣言しているのであるから,本来,自衛隊の海外活動については,憲法上大きな制約が課されていると解されるところであり,同法はこの憲法上の重大な制約に違反するおそれが極めて大きい。
② 恣意的な武器使用につながる危険が大きいこと
しかも,同法では,自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行う要件が,「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など,きわめて曖昧な規定内容となっているため,恣意的な判断の下に安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。このような権限を自衛官に与えることは,一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが極めて大きい。
③ 民主的統制の観点からも重大な問題が存すること
さらに,同法は,自衛隊の海賊対処行動の判断は,内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとし,内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りると規定しており,国会は承認機関ですらない。そして,海賊対処行動が急を要する場合には,内閣総理大臣の承認すら不要としている。このように同法は,海賊対処行動の権限を防衛大臣に集中させた内容となっており,民主的統制の観点からも重大な問題を有すると言わざるを得ない。
2 結論
現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために我国を含めた国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら,武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有する我が国がとるべき国際協力の方法は,自衛隊の海外派遣という手段ではなく,無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など非軍事的国際協力によるべきである。したがって,海賊対処法は執行することなく,速やかにその廃止の手続きが執られるべきである。
以上
2009年6月25日
福岡県弁護士会 会長 池 永  満

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