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司法修習給費制に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明

カテゴリー:声明

 本年11月26日、司法修習生に対する給費制に代わり修習資金を国が貸与する制度を平成23年10月31日まで停止し、その間、暫定的に司法修習生に対して給与を支給するとする裁判所法の一部を改正する法律が国会で可決され、即日公布・施行された。これにより、本年11月27日から司法修習が開始された新第64期司法修習生に対しても、従前と同様の修習費用が支給されることとなった。
 今回の法改正においては、給費制の完全な復活は実現されなかったものの、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、給費制が継続される一年間の間に、法曹養成制度に対する財政支援の在り方について政府及び最高裁判所の責務として見直しを行うことがその趣旨とされ、また、附帯決議においては、政府及び最高裁判所は法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずることも求められている。
 平成16年に給費制の廃止が決定されて以降、司法試験の合格者数は増加されているにも関わらず、法科大学院の志願者数は著しい減少傾向にあり、司法制度改革審議会の意見書において「国民の社会生活上の医師」としての法曹を養成するため、「多様な人材を確保する」という司法改革の趣旨に逆行する現状となっていた。そして、その一因として、法曹養成過程における加重な経済的負担が指摘されていたところ、給費制の廃止はこれに追い打ちをかけることなどを強く案じて、日本弁護士連合会や当会が、給費制維持を求める運動を続けてきた。今回の法改正に至った経過においては、こうした運動に一定の理解が得られたものと評価している。
 まずは、この法改正のための活動に御協力いただき全国で67万筆の署名(当会で8万7000筆)をお寄せ頂くなどした沢山の市民や市民団体、消費者団体、労働団体、これらの団体による「司法修習生の給与の支給継続を求める市民連絡会」、「ビギナーズネット」、困難な国会状況のなかで改正法の成立に並々ならぬ御尽力をいただいた各政党・国会議員の方々に厚く感謝申し上げる次第である。
 また、最高裁判所、法務省等の関係各機関においては、今回の法改正や附帯決議において求められた「法曹養成制度に対する財政支援のあり方についての見直し」や「必要な措置」について、日本弁護士連合会をはじめ広く意見を徴しつつ、鋭意、協議や検討をいただくよう求めたい。
なお、今回の法改正に至る運動の過程では、「すべての法曹が公共的な職務を遂行しているといえるのか」「経済的に困難な者に対する支援はもっともだが、経済的に裕福な者に対してまで給費する必要性があるのか」といった問いかけも受けた。
 しかし、法曹は司法を支える公共財であり、弁護士はそれぞれ「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命を担っており(弁護士法1条)、弁護士会としても、これらの公共的使命を自覚し、広範な人権擁護活動や、法律扶助制度の拡充、過疎偏在対策などに取り組んできた。給費制は、このような公共財としての質の高い、志を持った法曹を養成するうえで極めて重要な機能を果たしてきたものであり、かかる法曹を養成することは民主国家の責務である。もちろん、給費制は、修習専念義務(兼職の禁止)を担保するとの意味もある。
 当会は、今後とも、会を挙げて、弁護士としての使命を果たすべく、なお一層の努力を傾注していく覚悟であることはもちろんであるが、今回の法改正を受けて、引き続き、上記の通りの重要な意義を持つ給費制の維持を求めてさらに広く理解を得る努力を払うとともに、法曹志望者に対する経済的支援の在り方の検討を続け、市民のための司法を実現するという司法改革の理念をふまえて、法曹養成制度全体の見直しについて積極的に取り組んでいき、国に対しては、検討機関の早急な立ち上げを求め、今後もこれらの問題に対する真摯な提言を重ねていく所存である。
2010年(平成22年)12月8日
福岡県弁護士会
 会長  市 丸 信 敏

個人通報制度の導入及び国内人権機関の設置を求める総会決議

カテゴリー:決議

当会は,政府及び国会に対し,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などにおける個人通報制度をわが国に速やかに導入すること及び政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを求めるとともに,当会もその実現に向けた運動を展開することを表明する。
以上決議する。

2010(平成22)年12月8日   福岡県弁護士会

(決議理由)
第1 個人通報制度について
 1 個人通報制度とは,人権条約に保障された人権が侵害され,国内での救済手段(裁判)を尽くしてもなお救済されない場合,被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報しその委員会の意(Views)を得て,締約国政府や国会がこれを受けて国内での立法,行政措置などを実施することにより,個人の権利の救済を図ろうとする制度である。 
国際人権(自由権)規約などの各人権条約では,締約国における国際人権基準実施のため,条約機関による締約国政府報告書審査制度とともに個人通報制度を採用している。
   国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約は,本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め,人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約は,本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって,個人通報制度を導入するためには,選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることによって実現することができる。
   しかし,わが国は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などの人権条約を批准しているが,これらが有する個人通報制度をこれまで導入して来なかった。
 2 2010年9月現在,自由権規約を批准している国は164か国, うち選択議定書を批准している国は111か国にのぼり,自由権規約を批准した国のうち67%を超える国が選択議定書を批准している。
   OECD加盟30か国のうち,選択議定書を批准していない国は, 日本,アメリカ,英国及びスイスであるが,アメリカに関しては,米州憲章に基づき設置された米州人権委員会に対して,米州人権宣言違反についての救済の請願(すなわち個人通報制度)を利用することができる。また,英国をはじめとするヨーロッパの国々には欧州人権裁判所があり,同裁判所に対する申立てが可能となっている。すなわち,OECD加盟国の中で,いずれの個人通報制度も利用できない国は日本だけとなっている。
このような事態を踏まえ,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめとして,各条約機関から,わが国は個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けてきたが,未だに実現にはいたっていない。
 わが国は,人権理事会において初代人権理事国となり,さらに岩沢
雄司東京大学教授が国際人権(自由権)規約委員会委員長を務めているなど,人権の分野でも大きな役割が期待され,またそれを果たそうとしている。これら状況に鑑みても,わが国の管轄内にいる個人が国際的な人権保障制度である個人通報制度を利用できないことは,その国際的地位からしてもまことにふさわしくないと言わざるを得ない。
 3 個人通報制度が導入された場合,第一に,国内の裁判で救済されなかったケースについて,個別の救済が可能となる。わが国の裁判所は,人権条約の適用について消極的であるため,個別事件に関する救済の意義は大きくなる。救済は,条約上の委員会の意見を経たのち,行政的な措置あるいは新たな立法などでなされることが予想されるため,当該ケースのみならずその後の同種事例においても国内での救済が前進することとなる。
   第二に,裁判所は国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として判決を下すこととなるため,条約機関の見解を念頭において裁判せざるを得ないこととなる。このことは,国内の裁判において,結果的にわが国の人権水準を国際標準に近づけることとなる。
 4 日弁連は,かねてから個人通報制度導入を強く求め,2007年5月,自由権規約個人通報制度等実現委員会を立ち上げ,その実現に努力してきた。
  2010年5月の定期総会においては,取調べの可視化,国内人権機関の設置等とともに個人通報制度の実現をするための決議を採択した。
民主党は,2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ,政権与党となった。その後,法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが,現時点においても実現に至っていない。公明党,社民党,共産党もその実現を目指しているが,与野党が現時点で実現のための具体的な道筋について合意し,推し進めるまでには至っていない。
 そこで,当会は,政府及び国会に対し個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるとともに,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
第2 国内人権機関について
 1 国連決議及び人権諸条約機関により,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合に,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができるよう国内人権機関を設置することが求められており,世界では多数の国が既にこれを設けている。
 2 国内人権機関は,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置され,権限行使の独立性のみならず,委員及び職員の人事及び財政等においても独立性を保障する仕組みを有し,調査権限及び政策提言機能を持つものでなくてはならない。
 人権諸条約機関からも,特に日本に対して,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が強まっているところである。
 3 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,同制度が,パリ原則の求める国内人権機関の要件を充たさないことは明白となっている。
 このような状況の下,日弁連は,2008年11月18日,パリ原
則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
 さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を公表するなど,国内人権機関設立への機は熟している。
 4 そこで,当会は,政府及び国会に対し国内人権機関の速やかな設置
を求めると共に,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
                       
以上

犯罪被害者給付金不支給裁定違法控訴審判決に対する会長声明

カテゴリー:声明

1 福岡高等裁判所は,平成22年11月30日,小倉監禁殺人事件の犯罪被害者遺族である被害女性が犯罪被害者給付金不支給の裁定の取り消しを求めた裁判において,同裁定の違法性を認めた一審の判決を支持し,福岡県の控訴を棄却する判決を言い渡した。
2 小倉監禁殺人事件は,平成14年に被害女性が監禁状態を脱して,その父親に対する監禁殺人事件の被害などを申告することによって発覚した事件であり,現在も刑事事件は最高裁判所に係属中である。
  平成17年,福岡地方裁判所小倉支部において刑事事件の一審判決が出され,その後,被害女性は代理人を通じて犯罪被害者給付金の申請を行ったが,福岡県公安委員会,国家公安委員会はいずれも被害女性の父親の死から7年が経過していることを理由として給付金を支給しない旨を裁定した。
3 一審の福岡地方裁判所は,被害女性において,処分行政庁に対する裁定の申請を事実上可能な状況のもとに,その期待しうる程度に犯罪行為による死亡の発生を知ったのは,被告人らに対する刑事事件の第一審判決書が作成された平成17年10月5日の時点と認められるとした。よって,被害女性はこの時点から2年以内である平成18年2月21日ころに給付金の申請をしているので,申請権は時効により消滅したということはできないとした。
  また,死亡から7年という除斥期間についても,判決は,除斥期間の経過前の時点において,当該権利の行使が客観的に不可能であるといえるか,又はこれと同視すべき申請権を行使しなかったことが真にやむを得ないといえる特別な事情がある場合には,当該特別な事情がやむまでの間,及び民法の時効の停止に関する規定に照らし,同事情がやんだ後から6ヶ月の間は除斥期間の経過による効果は生じないものと解するのが相当とした。本件においては,被害女性は,平成17年10月5日の刑事事件の判決書が作成されたときから6ヶ月以内に申請をしていることから,申請権は除斥期間により消滅したということはできないと判断されたのである。
4 福岡高等裁判所は,一審判決の理由をそのまま支持したうえで,本件は被害者の遺体が存在せず,かつ,被告人の一人は捜査段階から一審判決言渡しに至るまで一貫して犯罪行為を否認していたという極めて特異な事案であることを理由に福岡県の控訴を棄却したものである。
5 当会は,平成12年3月に犯罪被害者支援センターを設置して犯罪被害者のための電話相談,面接相談に応じると共に,同年11月には犯罪被害者支援基金を創設して,刑事贖罪寄付を受け入れ,そこから犯罪被害者支援に関する活動を行う団体に対する援助や犯罪被害者の被害回復に関する訴訟等への費用の援助を行っており,本件被害女性の平成18年2月以降の申請及び本件提訴に関しても,同基金より援助金を交付して支援を行ってきた。本件提訴後,法律の規定そのものの不備が周知となり,平成20年には本件で問題となった犯罪被害者等給付金支給法の第10条(時効及び除斥期間に関する規定)に3項が加えられ,申請期間の制限に関する例外規定が設けられた。当会は,本件被害女性の救済に向けた支援を通じて,犯罪被害者に対する途切れのない支援の必要性や,制度が周知されることの重要性が浸透していくことを目的としてきたものであるところ,本件において,その提訴を契機として法改正がなされ,その後,福岡地方裁判所が犯罪被害者の救済を重視した適切な判断をしたこと及び福岡高等裁判所もその判断を維持したことは,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出すという犯罪被害者等基本法の精神に則るものであり,高く評価するものである。
6 そこで,当会は,福岡県に対し,上告することなく本判決を確定させることを要請する。また,福岡県公安委員会に対し,判決確定の後,本件被害者への給付金の支給に向けた手続を進め,犯罪被害者の救済が速やかに実現されることを求める。
              2010年(平成22年)12月8日
              福岡県弁護士会 会長 市丸信敏

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成22年度会 長市 丸 信 敏(35期)
弁護士会の公益活動に関する広報について思う◆9月9日、今年度の新司法試験の合格発表が行われました。合格者総数は2074名、福岡県内のロースクール4校からも、まずまずの合格者数でした。修習生の厳しい就職状況、苦戦する法律相談センターなど弁護士人口がすでに飽和状態にあるようにも感じられる昨今の実情下、今年の司法試験で果たして何人の合格者がでるのか気がかりでしたが、結果的には、直近の3年間と概ね同水準でした。ただし、司法改革の結果、本来は、政府目標(閣議決定)では、合格者3000人が本年度での達成予定でしたので、マスコミは、「目標下回る」、「法曹人口5万人遠のく」、「合格率25%、過去最低」等々、一様に厳しい論調でした。◆8月号の会長日記でも簡単にご報告しましたが、日弁連は、今年度、あらたに「法曹人口政策会議」を発足させました。日弁連の宇都宮健児会長は司法試験合格者数を1500人程度にすべきであるとの公約を掲げて当選した経緯があります。これまで2回の会議(8月の第1回政策会議全体会議、9月の理事会内意見交換)では、昨今の弁護士を取り巻く苦境を訴え、また、司法改革の失敗を指弾して大幅減員を主張する強硬な意見や、他方、まだまだ弁護士が対応できていない分野があるのではないか、人権救済のニーズに十全に対応できているのか、初めに数字ありきの議論は正しいのか、等々の意見が相次ぎました。 適正な法曹人口や如何に。本当に難しい問題です。どうすれば、現在の、あるいは将来のあるべき法曹人口を把握できるのでしょうか。また、それを我々自身が声高に唱えるだけで、それが実現できるものでしょうか。しかし、まずは我々自身が問題提起をしなければ、だれも代わりに訴えてくれる人もいないであろうことも確かです。市民を、マスコミを納得させることのできる、客観性をもった議論や論証に努めることが大事です。これからの時代にあって、あるべき弁護士像、あるべき法化社会の姿をどう描くか、つまりは、これまでの司法改革の検証とこれからの課題や達成目標等々と、総体的に絡む問題であり、答えを見いだすのは簡単ではありません。日弁連は、今年度末には一定の中間答申を出す、との目標を掲げています。 因みに、日弁連の将来予測では、仮に2011年以降、司法試験合格者を毎年3000人で継続した場合、法曹三者の合計人口(以下、法曹人口といいます)は2017年には5万人を突破し、その後、2048年頃には法曹人口は12万人前後で安定人口に達するとしています。また、仮に、2011年以降、司法試験合格者が毎年2000人で推移した場合は、2021~2年頃に法曹人口は5万人に到達し、その後、2050年頃以降は8万4、5000人程度で安定人口に達する、としています。(弁護士白書2009年版)。◆そもそも、司法改革では、司法予算(現状は国家予算の0.4%)を大幅に増大させ、弁護士だけでなく、裁判官、検察官も大幅に増員させることが目指されていました。しかし、現実には、増大した法曹人口のほとんどは弁護士会に押し寄せています。司法予算の拡大、それによる裁判官・検察官の大幅増員、支部機能の充実、弁護士偏在の解消、法律扶助予算の抜本的拡大、刑事被疑事件の国選対象外事件に対する援助活動や少年保護付添人活動はじめ、弁護士会が特別会費で支えている各種法律援助事業の早期公費化、企業・官庁内のインハウス弁護士の大幅増員等々、掲げられていた各種の司法基盤の整備課題は、弁護士会の懸命の努力にも拘わらず、なかなか思うようにははかどっていません。しかし、たとえば、裁判所も、労働審判は大成功であったと自賛しているのですから(これにならって迅速トラックという民事訴訟の審理方式が提案されています)、それほど優れたものであれば、国民が平等にこれを利用できるように、裁判所の各支部においてもこれを実施できるよう、早急に裁判所の人的・物的施設を拡充すべきことを、裁判所自ら最高裁・財務省に強く要請すべきではないのでしょうか。◆司法改革は、「市民のための司法」を実現するという理念のもとに、裁判員裁判制度を初めとする諸改革を実施し、また、司法の容量を大きく拡大することを目指しました。私たちは、希望に燃えつつ、歯を食いしばって、市民のために、と司法改革に立ち向かって、これを実践すべく努力を払ってきたのです。 当会の、法律相談センターを県内くまなく設置するという活動も、どこでも、だれでも、いつでも、司法へのアクセスを容易にしよう、と目指して、25年がかりでコツコツと充実を図ってきたものです。この法律相談センターを足がかりとして多種多様なリーガルサービスを供給することができています。当番弁護士活動も、20年前、手あかにまみれた携帯電話を弁護士から弁護士へとハンド・ツウ・ハンドでバトンタッチしつつ、決して一日たりとて途切れることなく活動を続け、そしてこれを全国に拡大させてきたものです。その努力が、ついには被疑者国選弁護人制度というおおきな成果に結実したことはご承知の通りです。昨今では、派遣切り、貧困等の問題状況を踏まえて生活保護申請の援助活動という地道ながらも命を守る活動にも取り組んでいます。当会は、目下56個の委員会を有していますが、そのほとんどは、直接・間接に、市民のための司法を実現するための活動をしています。当会では、会員の総掛かりで市民のための司法を担う活動をしているのです。◆私たち弁護士は、本当に困っている市民のために十分に必要とされる権利擁護活動・人権救済活動に取り組んできたのか、一部の小金持ちの市民だけを市民として自己満足してきていたのではないか、という痛烈な自省の指摘も胸を打ちます。このような指摘を踏まえるならば、確かにもっともっと増員を図ってゆかなければならない、と思えてきます。 しかし、他方、誰からの財政的援助もない弁護士、弁護士会は、まずは自立できるだけの経済的基盤を確立・維持できていることが不可欠です。その基盤があってこその人権救済活動であり、公益的活動であるはずです。 そういった意味で、今後も増員は必要であるとしても急激すぎる弁護士人口の増大は、弁護士全体をいたずらに競争原理に陥れ、多くの弁護士をビジネス優先の心理に追い込む危険があります。司法改革の際の法曹人口のあり方の参考とされたフランスでは、昨今、弁護士の破産が増大している問題を抱えているとの報告もあります。司法基盤の整備状況とのバランスを保ちながらの増員(ペースダウン)の方向性自体では、おおかたの意見の一致を見られると考えてもよいのではないかと感じます。◆しかし、それでもマスコミは、人口増員のペースダウンをいうと、す
ぐに「司法改革の後退」であるとか、「後ろ向き」である等と批判します。そこに、我々の認識とマスコミの見方とのギャップを感じます。我々は、実は大変な努力や犠牲を払って司法基盤の整備、弁護士偏在解消、法律援助活動への取り組み等々をしてきていることが、実は、マスコミにほとんど理解されていないようにさえ思えるのです。 例えば、日弁連では、毎年15、6億円も払って(その主たる原資は、全国の会員が支払っている特別会費です)、当番弁護士、被疑者弁護人援助活動、少年付添人援助活動、犯罪被害者、高齢者・障害者・ホームレス、外国人等々に対する援助活動等を、要するに手弁当で実施しています。しかし、マスコミにはこれら実情はあまり知られていないかのようです。(しかも、日弁連は、これら援助事業費を法テラスに委託して法テラスの窓口を通じて行っているため、弁護士であっても法テラスの事業であると誤解している人が少なくありません。)弁護士偏在を解消するために、日弁連は、公設事務所(ひまわり基金事務所)を全国に100カ所ほども開設し、また過疎地域での弁護士開業を経済的に支援する等してきています。これらにもこれまで莫大な費用が投入されていますが、すべて全国の会員の人的・経済的負担で担ってきているものです。 ちなみに、当会では独自に、8年前から、全会員から毎月5,000円の臨時負担金や管財人報酬から負担金を支払って頂き、「新リーガルサービス特別会計」を維持してきています。これをもって、公益的な相談活動の日当や、当番弁護士、少年保護事件付添人、精神障害者援助などの各種の法律援助活動に関する当会からの活動費の支払い、その他多くのリーガルサービス活動の原資にしております。法律援助活動の多くは、本来的には公費で賄われなければならないものです。それを一日も早く実現させるために、苦しい中、手弁当ながら実践活動を維持し、これを全国的な取り組みにまで昇華させることによって公的制度に持ってゆくことを目指しているのです。なお、当会は、NPO法人福岡犯罪被害者支援センターに対して、長らく財政支援を続けています(過去10年間で3,600万円)。◆私たちは、こうやって頑張って地道に公益活動に邁進していることを、もっともっと上手にPRしておかなければならなかったと、今、痛切に感じています。 この度の、司法修習生の給費制存続に向けての運動に関しても、弁護士会としてのこれまでのPR不足を痛感しました。給費制の維持を訴えていることが、あたかも法曹がエゴによって法曹だけの経済的支援を求めているかのように誤解している、また、給費制の維持を訴えることは司法改革の後退であると断ずるがごとき一部の大手新聞の論調が見られることは誠に残念です。 給費制は、司法を担う法律家は公共財(社会のインフラ)であること、また、戦後民主主義が、戦前の全体主義を反省して、ときに国家を敵に回す弁護士をも国費で養成することによって司法を、ひいては民主主義を健全に保とうとした制度的担保なのです。 私たちは、これまで当たり前と思ってきた給費制を失い掛けて、改めて給費制にトコトン思いを馳せてみて、なぜ、これまで私たちは国民の税金で育てて貰ってきたのか、私たちは何を国民に対して返してゆくべきなのか、大いに考え直してみる契機を得ました。 なにがあっても、その思いはこれからも維持し続けてゆかなければなりません。◆とまれ、会員の皆さまから連日次々とお寄せ頂いた、合計8万1369筆もの署名の数々(もちろん、圧倒的な全国第1位)、誠にありがとうございました。会員の皆さまの深いご理解と熱烈なるご支援、ご協力に、心から感謝申し上げます。 また、給費制に関してのカンパのご協力もありがとうございました。短期間でのお願いでしたが、73口、金額合計118万1,000円ものカンパをお寄せ頂きました。お陰様で、9月16日の東京での全国決起集会・国会パレード・院内集会・議員会館での議員要請行動には、当会から30名を超える会員を派遣して有意義な活動をすることができました。◆先の市民集会の大成功(今回の全国で開かれた数々の集会ではダントツの500名の動員)といい、驚異的な署名数といい、一体どこからそんなエネルギーが湧いてきたのでしょうか。もちろん、給費制対策本部のメンバーはじめ沢山の会員の皆さまによる熱心な取り組みの成果であることは言うまでもありません。しかし、熱心に取り組むだけではこのような大きな手応を感じることはできなかったはずです。修習生の給費制という、ある意味マイナーな問題についてどれほど市民の理解と共感が得られるだろうかと、不安がいっぱいでのスタートでした。しかし、嬉しいことにそれは杞憂でした。この運動を通じて強く実感したことですが、福岡県弁護士会では、これまで、多くの先輩たちや仲間たちが、長い年月をかけて、市民のために、市民とともにとして、熱い思いをもって地道に、また果敢に司法改革を実践してきていたのです。そして、それがしっかりと市民に、地域社会に浸透してきていた、だからこそ、この給費制の問題についても想像もできないほどに多くの市民の理解と協力が得られたのだと、強く実感しています。 市民集会500人、署名8万という数字を、私たちは大いなる誇りとしましょう。この会員一体の運動の熱い思いをベースに、これからも司法改革の残る課題への取り組み、問題点・課題として浮かび上がったこと等についてしっかりと向き合って取り組み、克服して参りましょう。 当会の、会員一丸の精神や伝統をもってすれば、どんな難問もかならずや克服できるものと信じます。◆給費制の問題は、ついに国会を主舞台にした最後の運動の段階にこぎ着けました。ここに来て、覚悟のうえながら、全国紙の論説や最高裁、法務省、財務省などからの強烈な抵抗にも遭っておりますが、それだけ実現可能性が出てきたことの証です。あと一歩の所まで来ております。 どうか、会員の皆さまにおかれては、最後までご支援を賜りますようお願い致します。

司法修習給費制の存続を求める会長声明

カテゴリー:声明

 司法修習生に対し給与を支給する制度(以下、「給費制」という)に代えて、必要な者に修習資金を国が貸与する制度(以下「貸与制」という)を定めた「裁判所法の一部を改正する法律」(以下、「改正裁判所法」という)が、本年11月1日に施行された。
 改正裁判所法は、2004年12月10日に成立したが、その附帯決議において、「統一・公正・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと」と決議されていた。
 しかるに、法曹を目指す法科大学院の適性試験受験者数は顕著に減少しており、大学入試センター実施の適性試験受験者は、2003年に39,350人であったものが2010年には8,650人にまで減少している。  
 その背景として、司法試験合格率の低下や急激な法曹人口増による就職難などの問題に加えて、法科大学院の学費や生活費などの経済的負担が大きいことが指摘されている。当会が本年8月に実施した司法修習生やロースクール生を対象とした調査では、負債がある人の平均負債額は435万円余にも及んだ。かかる状況の下で貸与制を強行すれば、さらに300万円前後の負担増となり、法曹志願者減少傾向に拍車をかけることは明らかであり、まさしく、上記附帯決議が危惧していた事態に直面することとなる。
 当会は、司法修習生に対する給費制の存続を最重要課題に掲げて、市民団体、労働団体、消費者団体などと連携・協力し、法改正の実現を求めて、請願署名活動、市民集会の開催、国会議員要請等の活動を行ってきた。請願署名は、わずか半年で、全国で67万余筆、当会集約分だけでも 8万数千筆が寄せられ、市民の中でも給費制の存続を求める声が強いことを実感することができた。また、国会においても、与野党を通じて多くの議員がこの問題に理解を示している。
 もとより当会としても、わが国が財政難であること十分に理解するものである。しかし、基本的人権の擁護、市民の諸権利の実現、社会的正義の実現を使命とする法曹は、これまでも、そしてこれからも、司法を担う公共財であり、国民のための存在であり続けるべきものである。国家が責任を持ってかかる法曹を養成すべしとの理念、そしてこれを担保するための給費制は、わが国が健全であり続けるために、今後も守り続けられるべき根幹的制度である。
 残念ながら、本年11月1日までに、与野党間の調整がつかなかったことから、改正裁判所法が施行されることになったが、その後も国会において合意点を得るための折衝が継続されている。
 当会は、法曹養成制度全体の見直が必要と考え、そのための検討もはじめているが、貸与制の実施については今一度これを見直し、給費制を復活させて、その上でひろく根源的な論議を尽くすべきであると考える。貸与制を実施した上で弊害があれば見直せばよいとの声も聞かれるが、法曹志願者の激減という深刻な弊害が発生することは確実であり、このままでは取り返しのつかない事態となることは必至である。
 ここに改めて、今臨時国会において、施行された改正裁判所法を再度改正し、給費制を存続させることを強く求めるものである。
 
                2010年(平成22年)11月10日
                福岡県弁護士会 会長 市丸信敏

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